その日から奇妙な現象がタクミに起こった。まったく同じ一日を何度も繰り返すのだ。戦場で死んだと思ったら気がつけばベッドの上で、聞きかけのMP3、曹長に箸を取られるナイジェル、倉庫の前で筋トレ、話しかけてくるマリナ、そして戦場。
何回死んでも周りが逆戻りするばかりで、一向に明日が見えてこない。無論、何回か脱走したり自殺を試みたが、逃げた先には何故かターミネーターが出現して撃ち殺され、考えられる限りの自殺手段を用いたが、必ず出撃前日の朝を迎えた。
どうやらこの時のループから抜け出すには死なないための強さを手にするしか方法がないようだ。
実際、可能性はあった。タクミの行動しだいで他人の行動が変化すると分かったからだ。
ならばやってやる。絶対にあの地獄から生還し、明日をもぎ取ってやる。そしてループ15周目、タクミは戦場で一人の女性と再会した。
その回の戦闘はまったくの偶然だった。尽きかけたスタミナを振り絞り、運よく生き残ったときだ。
突然、頭上に何か降ってきた。爆弾かと思い、すぐに伏せたが爆発は起こらず、恐る恐る顔を上げるとそこにはREXのロゴを肩と背中に標し、優秀な戦士にのみ与えられる携行兵器、Zガンを持った黒スーツの集団が居た。
もちろんマリナも。ただ、彼女は隊の連中と比べても異質な装備をしていた。赤いラインがペイントされたスーツに同じ色の刀を手にした姿はひどく派手に見えた。
そのマリナが隊員に指示を送り、屈強な戦士たちが新たな獲物に急行する。隊員らが去った後、マリナは真っ直ぐこちらに視線を合わせてきた。
「そこのお前、生きてるか?」
どうやら一流の軍人は、死に掛けの人間でも生きているのが気配で分かるようだ。片手を上げて合図するとマリナが近づいてきた。が、歩いているだけなのにあのオーラのせいで余計恐ろしく見える。
「何だよ?」
怖さのあまり、つい強気になってしまった。年齢だけでも10は違うはずなのに、人類最強の戦士に聞いていい口ではなかったと少しの後悔がよぎる。しかし、マリナは肩に手を置いて
「北に600メートルのところで防衛線を張っている。立てるか?」
この瞬間、タクミは彼女をずっと気にしていた理由が分かった。完全な夢を思い込んでいた最初の戦闘のときだ。
ナイジェルが蜂の巣に、曹長もペチャンコにされ、限りなく灰色の世界で一人彷徨っていたあの焼け野原。
自身も腹から血を流しながら、タクミは意識が絶え絶えになりつつも、重い足を引きずって生き残ったはずの味方を探していた。ほとんど放心したままの頭に敵接近のアラームが鳴る。
1秒もしないうちに吹き飛ばされ、タクミは乾いた地面にうつ伏せになった。ノロノロと顔を動かすと7体ほどのドクロマシーンが銃をこちらに向けていた。
ここまでか。どこか他人事みたいに考え天からの迎えを待ったが、直後に頭上を一つの影が過ぎ、現れたのは血の色をした刀を持った長身の女神だった。
女神はそのまま敵陣に突っ込むが、片や銃で片や刀だ。勝ち目がないのは明らかで、タクミも逃げろ、と叫ぼうとしたが女神は飛んできた弾の軌道をすべて見切り、かわして、ほんの二振りで7体全部を切り伏せた。
わずか数秒の出来事だったが、芸術的とさえいえる無駄のない挙動に目を奪われた。
女神がこちらに歩み寄ってきて、顔を覗き込んだ。きれいな瞳だった。
「私はマリナ。お前、名は?」
「コガ…タク…ミ。」
「タクミか。安心しろ。ここから先は私が守る。立てるか?」
「何とか…」
マリナが腕を肩に回して引き起こす。動く度に痛みがこめかみまで貫いたが、助かった安心のほうが強かった。
「痛むか?」
「かなり…」
「もう少しで救援が来る。我慢しなさい。」
有無を言わさぬ口調に丸め込まれ、タクミはひたすら歩くことに集中した。しばらく後、太陽が真上に差し掛かったときだった。突然、手前の地面が吹っ飛び二人とも7、8メートルほど転がる羽目に会った。
無数のターミネーターが襲い掛かる。素早く体勢を立て直したマリナは刀で弾丸を弾く神業で対抗し、隙を見せた奴から着実に倒していった。
一方タクミは邪魔にならないように隅っこに隠れるのに精一杯だったが、そのおかげでマリナの死角から接近する敵に唯一気づくことができた。
見たこともない個体だった。通常の機種であるT-600やT-800はかなり人型に近いが、コイツは相撲取りみたく胴体が肥大化し、頭部も鍋の蓋のように平たく目はカメラレンズに置き換えられ、バックパックと思われるいかつい計器類を背負っている。脚部のキャタピラでようやく動いている有様だが、腕のチェーンガンや肩に取り付けたバズーカは当たったらただでは済まないと分かる巨大さだった。
その砲身がマリナの背中に向いた途端、タクミは走っていた。彼女の技量に対する無力感もあったかもしれない。しかし、あのときのタクミを走らせたのは助けなければと言う義務感だった。
接近に気づいたずんぐりターミネーターがシンジを見据える。その銃が火を吹く直前に一気に跳躍し、ホルスターから抜いたXガンを零距離で撃ちまくった。発射音を聞いたマリナが振り返って叫ぶ。
「待て!そいつはー」
次の瞬間、タクミの視界は真っ白に塗りつぶされた。
これが最初の死だった。あの時と同じようにマリナの肩を借りながら、漫然と思い出す。
昔と違うのは漏らしていない事くらいだ。そんな自分に内心悪態をついたとき、タクミはデジャブした。
50メートル先にあのドン亀が出現したのだ。思わず
「アイツは…!」
と呟く。するとマリナがひどく驚いた様子で
「アレを知っているのか!?」
「ああ…!」
アイツのせいで何もかも滅茶苦茶になったんだ。
眉間に力が入る。不意にマリナが正面に立ちふさがった。努めて冷静な表情だが、何かを確かめるようにタクミを見つめる。
どうした?と聞こうとした瞬間、マリナがはっきりとこう言った。
「目覚めたら私を見つけて。」
突然マリナが腕を振りかぶり、赤い閃光がタクミを両断した。