機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
「…………オペレーター。旗艦より発進の
艦の目であるオペレーターに向かって、見えているか? などと、問うたのには理由がある。スクリーンに映る6つの光点は明滅している。その明滅パターンは、彼等が発している友軍識別の為の暗号を複合化した、位置情報を投影しているだけだと告げている。こちらが熱源捕捉しているわけではないのだ。つまり、この6機は動力を停止して移動していることを表しているからだ。
「ぇ…… は! 計測します!」
オルドーはやや首を右に傾けながら、パン! と、指を鳴らした。慌てるオペレーターには情報確認の催促を伝え、キャプテンシートの斜め後方、特製の副長席に座る腹心には 『状況を読み解いて見せよ』の意味を伝えている。
「攻撃部隊の前衛に増援する様です。分かっています。何故、動力停止をして突入するのか……
リーレーンの返答は、やや爽快さに欠けている。
「……そうだな。そして、それだけのリスクを負って最速の突入を優先する以上、……減速は考えていまい。
後方に、ハッとした様子のリーレーンの気配を感じながら、オルドーは続ける。
「──そう、ゲルググ隊は敵MSに一撃離脱を仕掛けて後、そのまま二頭立てに迫るつもりであろう。それならば、潜航突入は
「
オルドーはクスリともしない。どちらかというと機嫌は麗しくない様子だ。と、リーレーンは思った。
「……指令の戦術はもっと厚いぞ、リーレーン。
二頭立てに迫るとて、正面方向にはiフィールドが照射されている。ゲルググ隊が二頭立てを撃てるのは、それを過ぎた時だ。
ゲルググの接近を二頭立てが怖れても、その撃墜の為に、万一にでも、
ゲルググ隊が二頭立てを過ぎたら、そこで勝負は決まる。そして、だからこそ、それまでの間、ゲルググ隊は二頭立てを撃つ必要がない。無駄だからな。そして、同時に、それまでは、二頭立てに撃たれる心配もない。通り過ぎたMS交戦空域に向けて射撃戦を展開しながら、後進加速で二頭立てに迫る気だろう。それならば、追い縋ってくることが予想される、敵MSからの射撃への対策も補完される。そちらを向くのだからな。
戦闘レンジが長大になることも問題はない。ビームライフルだからな。射程の制限は無い。むしろ、遠間での撃ち合いの方が、二頭立てに迫るまでの間を楽にいなせる。ゲルググ隊ならではの戦いだ──」
「確認できました! ゲルググ6機は潜航突入中です!」
バチン! オペレーターの報告に、オルドーは掌打して了解を示した。
「──敵MS隊は先行の前衛隊との
更に、艦隊戦型にも指令は気が付いているだろう。敵艦の砲撃に揺らされることなく、敵MSを狙撃できる旗艦の第一砲手が、射撃戦とは逆方向から敵MSを撃つことになる。
そして、これだけあっても、まだ、それだけではない。……見えているか? リーレーン。最速で
リーレーンは、オルドーの視線を追った。上方スクリーン、全体展開立体図示の敵MSの迎撃網が、いつの間にか
単位時間あたりの移動経歴を表している立方体も、その長さがどんどん短くなっている。確かに、敵MS隊は迎撃ラインを押し上げられていない。
「確かに。一体、何故? 敵方にとって、
「……制圧射撃だ。手元のデバイスに指令の射撃をコールさせて見ていた。指令が撃つ度に、
制圧射撃!? 射圧とは、これ程のものなのか? 何という戦場支配力! ……しかし、オルドー閣下…………何という、
リーレーンは驚嘆した。オルドーは気がついた様子もなく、話を続けている。
「──奴らは相当な足踏みを喰らった。これで、ゲルググ隊が一撃離脱して二頭立てに向かう時点で、我が方が先に母艦に届くことになるだろう。だから、連邦MS隊はターンしてゲルググ隊を追わねばならない。
我らが追い立てられていた状況を、指令はひっくり返したのだ。時間と戦わなくてはならないのは向こうに変わった。戦力的にも状況的にも劣勢な連邦の、唯一の優位性、時間という味方をも奪ったのだ」
……圧倒的だ。もう、オルドー閣下に並んで指揮を執れるだろう、などと、自惚れていた。……まだ遥か先に閣下はいる。並んだから背中が見えなくなったのではない。遥かに引き離されて、その背中を見失いかけていたのだ。
そして、ギュオス・メイ指令。……
リーレーンは、ただ、言葉を失っていた。
そして、もう……連邦の勝機は、何もないだろう。ギュオス・メイ少佐……凄まじい戦士だな。
オルドーも、いつしか黙していた。
・・・・・・・・
・・・・
ビームの閃光がメインモニターを切り裂き、コックピットが照らされた。
「ぐ……ぅおお!」
総毛が逆立つ。落雷に突っ込むような感覚に、歯が食いしばられる。スロットルを緩めようとする腕を、気力で支える。
二射目、三射目が、
「うぅ……ぉお……」
全身が狂ってしまったかの様だ。これ以上なく力んでいるみたいに硬いのに、筋弛緩剤でも打たれたのかと思う位、全く力が込められない。
最速の操縦をイメージしているのに、腕が、指が、スローモーションで動いている感じがする。……腰が抜ける、とは、こういうことか?
「や、野郎!!」
思わず頭に浮かんだイメージに、ジェットは怒りを口走った。
手足が……言うことを聞かねえ! 俺はどうしちまった!? わかってる! これは
制圧射撃を初体験しているわけではない。
P004のエースパイロット=G1=ジェット・イェット中尉。歴戦の勇士と言って良い経歴を持つ彼にして、これ程の射圧を受けた経験はなかった。
コンソールで明滅する僚機の光点からは、彼等も同様に動きを封じられた様子が伝わってくる。
…………適応しろ。俺なら、出来る。……慣れろ。潰せ。無効化しろ。
電子音が鳴った。音で吉報だと分かる。見ると、モニターサインが敵機の撃墜を表示している。やったのはG4だ。
「G4!!! ベスジョブ!!」
あらん限りの声を振り絞って、ジェットは叫んだ。孤高の僚機への激励と、そして、腑抜けている自分へ檄を飛ばす為だ。
……よく聞け、ジェット。当たったところで……死ぬ
意味は考えない。自らに聞かせた語感だけに集中する。気が鎮まり、少し力が戻ってくる。
この、
先程まで、必死に操縦していた
俺も
充分に力が溜まった事を確かめる様に、ジェットはスティックを強く握った。よし、いける。
「まず、
気迫を込めてスティックを押し込んだ。フルスロットルの爆光が、機体を前方に飛ばす。同時にフットバーをスウィングさせて、機体に捻りを掛ける。タイミング、スピード、パワーコントロール、全て完璧にバランシブだ。
力強い螺旋を描きながら、ビームライフルを構える。G1の双眸が輝いた。
・・・・・・・・
・・・・
『馬鹿野郎! 外すんじゃねぇ!!』
心臓が飛び出るような大音響が、ヘルメット内で暴れ回った。ラマン・ラマ大尉は、思わず握るレバーから手を離しそうになった。
「ば、バカ野郎ォ! そんな大声出すんじゃねえ!!」
逆ギレて怒鳴り返す。彼女は、P004左舷ドームより迫り出す第二メガ粒子砲を
『いいか、ラマン! 敵艦、4隻5門! 自艦、1隻2門! こっちは何倍撃たれるか、言ってみろ!』
声のボリュームは少しも下がらない。右舷ドームの第一メガ粒子砲手、プロシューター・プロスター大尉は怒鳴った。
「舐めんじゃねえ! 10倍だ!! 発射間隔、出力は計算に入れず。だ!」
『そうだ! 分かってんじゃねえか! だから、お前が1発外すのは、敵さんが10発も外したのと同じってことだ! 10発も外してくれたら、俺なら、その瞬間に
「あ、あたしだって出来らあ!!」
『そうか!! じゃあ、二度と外すんじゃねえ!! 今、MS隊が喰われたら仕舞いなんだよ! 馬鹿野郎!!』
「う、 うるせえぇ!! 二度と外すか! バカ野郎!!」
なんて! むかつく男なんだ! てめえ絶対モテねえからな! くそ、くそ! 10倍とか、ヤバ過ぎんだよ! 舌噛みそうなんだよ! 震度幾つなんだよ、今、この艦! こんだけメチャメチャに揺れてんなか、当てるだけでもエラいんだよ! あたし、エラい!! くそ、くそ!
スコープの中ではムサイ級敵艦が暴れている。それは、直ぐにフレームアウトしてしまいそうになる激しさだ。
くそ! 敵め! 上手いんだよ! ムカつく! どういう連携砲撃だ! 揺らされるパターンが定まらない! くそ、くそ! 予測が出来ないんだよ!! くそ、くそ!
────亜光速の弾速を持つビームは避けられない。放たれた瞬間に着弾しているからだ。よって、的を仕留められなかったビームは、撃つ時に既に外れている。この『狙いを外させる』為に、MSは回避運動を行う。
今、ムサイ艦が回避運動をしているわけではない。P004が、絶え間ない砲撃で揺さぶられているのだ。
この状況で、
──!
不意に、閃光が宙空に光ったような錯覚を覚えた。
瞬間、
スコープで見ていても分かる位にムサイ艦が揺れる。ビームが敵艦の照射展開するiフィールド中心、ど真ん中を叩いた事による最大衝撃化が起きた証拠だった。
「あ、あたし! エラい!!」
言って、通話していなかった事に気がついた。
・・・・・・・・
・・・・
そうだ! それでいい!!
プロシューターは心中で喝采を叫んだ。
お前は、神から特別なギフトを授かっているんだ。ラマン。早くその才を掴め。ここに座ってみせろ。……まぁ、馬鹿だからな。……まだまだ、先だろうがな。
ポインターを反射している瞳が鋭く細められ、トリガーが絞られる。スコープに捉えたムサイ艦にスパークが弾けた。
……実際、無理ゲーだ。
この圧力差でこっちが当てるには、
……だが、やはり無理ゲーか……
隣のムサイ艦をヒットしながら、プロシューターは苦渋に皺を寄せた。
もう
プロシューターは、いいペースでヒットを続けているラマンの様子を確認して、素早く、ザンジバル級を狙撃した。弾けたビームは、やはり、ザンジバル級を揺らしていない。衝撃は手前の3隻へ分散したことが分かる。
……実際、ヤベえ敵だ。
艦隊の連携砲撃の上手さもビビるもんがあるが……あの戦型構築の速度は何だ!? 奴等、最初から動いてた。最大戦速に加速しながら、あの戦型構築も同時に始めてやがった。うちの
……単純比10倍ってえ艦砲差なのに、やるか? 普通……
「ラマン! お前は
『え……い、いつもエラいんだよ! あたしは!』
プロシューターは、少し、笑った。
……実際、無理ゲーだ、と……思うがな。
崩しをかけ続けてみよう……やれる事をやり続けろ! やれる事を探し続けろ!! 諦めるのは死んでからだ!
「
プロシューターは、小さく、
scene 012 ネバーギブアップ
Fin
and... to be continued