機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000   作:GhostWrider.Jp

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scene 019 魔女の胎動

 

 

 

 

 G4のスナイパー・スコープ・ウィンドウに、ムサイ級2番(キャメル2)の後姿が映っていた。

 

 G4は敵艦隊の展開するエリアを駆け抜けて、その先で180度旋回をした。後進姿勢でスナイパーポジションを取り、非常に大きな相対速度でどんどん敵艦隊との距離を開きながら狙撃に入ろうとしている。全て、シュアルの指令書の通りだ。

 クラウザーは、G4が潜航突入で交戦エリアをすり抜けた後に起動するのは、当然、敵艦隊の眼前だと思った。それが最短最速で攻撃を仕掛けられるからだ。

 しかし、そうすれば集中迎撃を受ける事は免れないし、すぐに艦隊周辺に狙撃展開している筈のゲルググ8機に駆け寄られて、切り刻まれると判断した。

 また、その状況で敵艦4隻を撃沈すべく奮闘するのだと思っていた。だから、まず無理だし、良くても2隻、最悪、1隻も沈める事は出来ないと考えたのだ。

 

 シュアルのプランは、潜航突入のままで、攻撃目標たる敵艦隊をも大きく過ぎてからの起動だった。オートによるレーザー信号照射が確実に命中して、ビーム撹乱膜ミサイルを起爆すると信頼できる精度を失わない最大距離を取る指令だ。

 敵艦隊の眼前で起動するのに比べて、飛行距離は2倍を超えることになる。それは一見、到達時間が増大して作戦が間に合わなくなりそうに思わせる。

 しかし、宇宙空間の特性、相対速度の概念で見れば、その到達できる相対速度に上限はない。2倍を超える距離であろうとも、2倍を超える相対速度まで加速すれば、タイムロスはない。

 そして計算上、G型の最大加速継続でMS交戦エリア到達前に、その必要速度が得られる事も指示されていた。

 

 この発想のメリットは大きい。G4の潜航突入にとって、最も危険なMS交戦エリアを半分の時間で駆け抜けることが出来る。

 2倍の飛翔速度は、唯一発見される可能性のある目視発見に対しても有利に働く。その速さによって、より気付きにくくなるし、敵の視界に映っている時間も短い。

 攻撃位置が敵艦隊から遥かに遠い為に、起動後の最大の障害である、周辺に展開している敵機に囲まれて格闘戦闘を強いられる事もない。スナイパーモードレンジでの狙撃交戦ならば、クラウザーの高レベル回避運動(エイムレシー)を撃ち落とすことはまず出来ないだろう。

 遠大な距離からの敵艦狙撃になることも、ビームライフルの長大な有効射程と命中精度にとっては実は何の問題もないし、クラウザーにとっても、敵艦眼前で一瞬を争って攻撃するより遥かに冷静で精密な攻撃が出来る。

 更に指令書には、敵の旗艦一隻の撃沈を()ってミッションコンプリートと指示されていた。複数の敵艦を攻撃しなければならないケースは、旗艦の撃沈に失敗し、その上で、敵艦隊の作戦継続力を失わせたと判断できない場合だけだ。

 トータルで、作戦成功率は極めて高く、生還の確保もしっかり考慮されているプランだった。

 

 敵艦隊の懐へ入った! 至近距離まで迫った! というのは、MS攻撃隊ならば勝利の喝采を叫ぶシーンだ。

 折角、戦闘中に潜航突入するという程のバクチまで打って、そこに辿り着くというのに、シュアルのプランはあっさりとそれを棄てている。勿論、何の為に何をするのかは解っている。これは極めて合理的で画期的な考え方と思う。しかし──

 

 コマンダーとはそういうものか? ……いや、違う。

 

 初めて戦闘艦配属になったわけではないのだ。コマンダーを知らないわけではない。

 

 シュアル・オファー……

 

 クラウザーは心中で彼女の名前を呟いた。きっと、自分が知る、最も優秀で、最もキレたコマンダーとして、その名を記憶に刻む事になるのだろう。と、思った。

 

 ピピピピ……

 

 スナイパー・スコープ・ウィンドウのムサイ級2番(キャメル2)の後姿が、船体の大部分の質量を占めるMS運用ブロックを中心にズームされた。

 クラウザーが、左手で握るスティックを精密に3次元回転させる。船体全体輪郭をトレースしていたシューティングフレームがMS運用ブロックのみのシルエットを捉え直し、データにあるムサイ級の内部構造グラフィックがレイヤーされて、ブロック後部中央にある核融合エンジンをコントラストした。

 同時に、滑らかに動かしていた右手のスティックを止める。十字光(レティクル)が最短ルートをなぞるように移動して、核融合エンジンの中心でピタリと止まった。

 

 ──ミッションコンプリート。

 

 そう思って、クラウザーがいつもより気持ち丁寧なビームライフル射撃(クラッチングシークエンス)をタイプしようとした瞬間、信じられない光景がスコープに広がった。滑り込むように割り込んで来た、巨大な褐色の質量体がスコープの視野を埋め尽くしたのだ。

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

「危機一髪! だったねえ! 初めてだったよ! 私が……自分の勘を信じ切れなかったのは!!」

 

 スロットルを逆噴射に切り替えて、舵輪を思い切り取り舵に投げ返しながら、ソフィアは叫んだ。視線はメインスクリーンにアローでポイントされている一点を激しく睨みつけている。G4だ。

 次の瞬間、そこから鋭いビームが放たれ、ムサイ級4番艦(スクルド)を撃ち抜いた。続け様にビームが撃ち込まれてくる。スクルドは反撃しないどころかiフィールドも照射展開していない様だ。無抵抗のサンドバッグの様に、船体はズタズタに破壊されていった。

 

「オペレーター!! 2番艦ウルド(後ろ)は!? どうだ!!」

 

 誘爆の振動と、鳴り響くデンジャーベルの大音量に負けまいと、ソフィアは大声を張った。

 

「本艦を貫通した数発のビームの命中が確認されます! しかし、致命傷は全て逃れています!」

 

「よし! よくやったァ!! 総員退艦!!」

 

 言うが速いか、自ら後ろへ駆け出した。慌ててベルトを外そうとするクルーを尻目に、一等最初にブリッジを飛び出して行った。

 

 あれでオルドー()は、常勝の将だったのさ。今日、二頭立て(お前ら)に、記録は止められるだろう……しかし、(タマ)まではくれてやらないよ! アイツは殲滅部隊のカシラなんでねえ……

 …………私は最初からヤバいと思ってたから、いいが……しばらく、オルドーの奴は再起不能だな!

 

「はっはっは!」

 

 笑いながら、待たせていた1番脱出ランチに飛び乗った。

 

「出せ! 脱出ルートは入れてあるな!?」

 

了解(ヤー)! は! ウロウス様のご指示通りに!」

 

 ソフィアは開けられていた席に座ると、もそもそと煙管を取り出した。くるんと指先で回して咥えると、小窓を眺めた。

 小誘爆が続くスクルドの、小さくなっていく姿が見える。

 

 今回は、まさか過ぎたねえ……

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 Flashback(フラッシュバック)

 

〜話は少し前へ(さかのぼ)る〜

 

 

 

 

・・・・

 

「これから、スクルドを沈める」

 

 二頭立て砲撃手のミラクルなセンターブローの連撃によって追い込まれた、戦闘不能状態から立ち直ったスクルドのブリッジで、ソフィアの発した指令はブリッジを抑え切れない(どよ)めきに包ませた。ソフィアを絶対の女神と信じるスクルドのクルーにあっても、これは動揺を抑えられない神託だった。

 ソフィアは交戦開始当初から、二頭立てに感じている敗北の予感の正体が掴めずに、ずっと鬱々としていた。それが突然に形を成すように、ハッキリとした予感になったのだ。

 それは、強烈な悪寒と共に遥かな遠方から襲い来る、灼熱の閃光。それによって(もたら)されるものは絶対的な拒絶感。自らの勘に慣れているソフィアをも、震え上がらせるような、滅多にない感覚。只事ではない、絶対に回避せねばならない予感。そんな感じだった。

 見えぬ糸を手繰(たぐ)るように、思念の闇を彷徨ったソフィアに閃いた解が『スクルドの破壊』だったのだ。ソフィアはすぐさま舵を切った。

 恐らく、メガ粒子砲撃(灼熱の閃光)が艦隊を粉砕するのだ。どうしてそんな事になるのかは見当もつかない。しかし、先程、身を以って知った敵艦(二頭立て)の砲撃手。あの神技の使い手ならば、それも有り得るかもしれない。いや、一番しっくりとするし、それ以外には考えられない。そう、ソフィアは思った。

 

 しかし……それでは方向が違う……

 

 確かに、遥かな遠方からの灼熱の閃光だ。しかし、前方からになる。勘のイメージは、ハッキリと『後方』なのだ。

 

 ……後方からの、灼熱の閃光……そんな事が……

 

 ソフィアとて列記とした軍人である。後方よりビーム砲撃を受ける実際的ケースのイメージをすることは容易だ。しかし、遥かな遠方から、今、艦隊を攻撃する砲撃が発生するという事があまりにも非現実的で馬鹿げていて、受け入れられない。そんな事が起こるわけがない。

 仮に、奇跡的な偶発により、新手の連邦艦或いは艦隊、攻撃部隊等に後方より遭遇されるのだとしても、それなら、もうとっくにオペレーターがその敵の出現に悲鳴を上げているだろう。核動力する戦闘兵器の高熱源は、砲撃の有効射程よりずっと遠くから補足されるのだ。

 ソフィアはたじろいだ。絶対の筈の自分の勘を信じ切れない。時間にすれば、数秒に満たない動揺の末、ソフィアは己の存在意義に従った。勘を優先し、艦隊の後方へ舵を切ったのだ。

 自らの勘を絶対的に信じて、当然の如くに行動してはいないという事が、ソフィアを途轍(とてつ)も無く不安にしていた。艦隊後方に向けて、さらに、艦隊からどんどん離れるように推進していく事に動悸が高鳴った。

 これは、単なる敵前逃亡ではないか。自身の心に渦巻く想いに、きっと、クルーもそう思っているに違いないと、初めてに近い苦しさを感じた。その時──

 

「こ、これは!? 高熱源──!!!」

 

 オペレーターが言いかけた次の瞬間、その先の報告を寸断する強大な光量の連続爆発が、スクルドが後ろに残してきた艦隊の前方に起こった。

 

「──か、艦隊前方に発光! 多数! ……ミノフスキーレベル計測不能! こ、これは、まさか、ビーム撹乱──」

 

「オペレーター!!! 高熱源体と言ったか!? そう言ったか!!」

 

 ソフィアは叫んでいた。有無を言わさぬ問いだ。

 

「は、はい! 艦隊後方! ──本艦の前方に高熱源体発生! 距離300! 熱源レベルD! 識別信号無し! 敵機G型との一致率は99%以上!」

 

「ビンゴォォォ!!! メインスクリーンにポイントしろ! 2番艦(ウルド)と結んだラインを示せ! 秒でやれ!!」

 

 返答するよりも早く、オペレーターが反応した。文字通り、1秒かからずにソフィアのオーダーが遂行された。スクリーンに示された、ウルドと敵機を結んだシューティングライン上に、今、まさにスクルドは突入せんと航行している。ソフィアは信じ切れずに従っていた自身の勘に、詫びた。

 

「撃たせるぞォ!! 全員、祈れェ!」

 

 ソフィアはメインエンジンをカットした。核融合エンジンを落とせば、メガ粒子砲は稼働できない。同時に、iフィールド照射も機能不全に陥る。つまり、敵のビーム攻撃に対して丸裸になるのだ。

 しかし、代わりにクルーの生存率は非常に高くなる。核動力の機動兵器が撃破された時に、全てのクルーを呑み込み焼き尽くす巨大な爆発を起こすのは、稼働中の核融合炉を破壊されるからだ。

 核融合エンジンが止まっているならば、どこを撃たれようとも小さな誘爆をする程度だ。核融合炉は、切れば即座に反応を停止する。

 次の瞬間、スクルドがシューティングラインに割り込んだ。

 

「危機一髪! だったねえ! 初めてだったよ! 私が……自分の勘を信じ切れなかったのは!!」

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 Return to the Main Story(リターン トゥ ザ メイン ストーリー)

 

〜回想は終わり、時は戻り、再び物語は続いていく〜

 

 

 

 

・・・・

 

 ぷふぅ〜〜

 

 ソフィアは、深く煙を吐き出した。

 

 ……あの時、エンジンを切らなかったら……iフィールドで防げたかねえ?

 

 スクルドを沈めてしまった。大きな損失だ。それに、致命傷を防いだとはいえ、盾になって守ったつもりの2隻の僚艦、2番艦(ウルド)と恐らく3番艦(ヴェルダンディ)も、それなりの損傷は負っただろう。大損害だ。追撃任務も失敗に終わるだろう。

 もし、あの亡霊のように現れた敵機G型の攻撃を、iフィールドで防げていたならば……全てが違ったのではないか?

 

 ……私も、まだまだ甘ちゃんだねえ。

 

 ソフィアは苦笑した。そんな都合の良い仮説を、事が終わってから、あたかも有り得たかと考えることの愚かさを知らぬわけではない。あの時、絶対に忌避したい予感を何とかする為に閃いたのが『スクルドの破壊』だったのだ。全てはこれで良かった。

 現に、後方発砲の出現など有り得ないと思いつつも、勘の導きに従った結果、やはり、それは起こったではないか。もし、敵の攻撃を防ごうなどと行動していたら、何が起こっていたか分かりはしない。これが最善だったのだ。

 

 ……あの、亡霊の狙撃手(ゴースト スナイパー)はどうやって出てきたんだい? まさか、本当に亡霊ってわけじゃないだろう。

 

 作戦参謀などという肩書きで偉そうにしてはいるが、自分は元々、一介の操舵手だ。神だか悪魔だかに魅入られて、超能力の様な勘を持ったことで、参謀の役職を命ぜられた。

 実際は戦術だとか戦略だとかには疎いほうだと思う。特にMS戦闘に関しては、知らない事が多い。ジオンで最も、いや、両軍通じて一番浅学な参謀だろうと思う。

 

「はっはっは」

 

 つい、声を出してしまった。悲壮な面持ちの面々が、どうしたのかと視線をむけてくる。

 

「なんでもない……気にするな」

 

 すぐにいつものキツい顔に戻して言い放った。

 

 亡霊の狙撃手(あの野郎)については、後でカッセルに聞いておこう。……助かったよな? あいつ。

 

 ぷはぁ〜〜

 

 大きく煙を吐くソフィアを、同乗しているクルー達が見つめていた。そういう視線にはすっかり慣れっこのソフィアは、それが今までにも増して熱っぽいことにも気が付かなかった。ヒソヒソと小さな会話の気配が、そこかしこでしている事も意に介していない。

 

 ────誰しもが、敵前での逃亡かと思ったソフィアの采配の先に、突然に出現した亡霊の如き敵のスナイパー。その、艦隊を撃滅していただろう筈の攻撃を、スクルドを盾にして凌いだ神業の操艦。核融合エンジンを切った驚きの離れ業と、その結果、なんと少ない死傷者の数か、という結末──全てを予見していた、としか思えない。

 ()という領域を凌駕した、予知(・・)の領域という実感を周りに抱かせた事を、ソフィアは知らない。

 

 ────ソフィア・ウロウス。

 

後に『魔女(ザ・ウィッチ)』の異名で語られる彼女の伝説は、正しく、この時に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

scene 019 魔女の胎動

 

Fin

 

and... to be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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