機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
ヴィーー!! ヴィーー!!
本能的に危機を直感させる様に造られたデンジャーベルが、けたたましく鳴り響いた。
同時に、造られた訳でなくとも生存本能を刺激する破壊の振動が、船体を伝わってくる。
「対ショック防御解除! 損害を報告しろ!!」
「
バァン!! オルドーの烈しい掌打が響く。
「メインエンジン停止! MCバイパス接続カット!」
コミュニケーターが、まず最優先すべき損害報告から口走った。
その一声目で即、打たれる『実行』の意味を持ったオルドーのパームストライクを受けて、
「艦隊後方! 高熱源体発生! 敵機G型! 1機! その攻撃により、本艦並びに
艦外戦況を報告するオペレーターの声が、
「──右舷メインロケット基部損傷! 推力60%に低下!」
損害報告を続けるコミュニケーターの声に被さる。
「
それらによって発令すべき指示を行うコマンダーの声も遠慮されない。今、情報伝達の精度より、一瞬でも早い情報速度の方が優先される状況だからだ。
「艦隊前方! 展開光体はビーム撹乱膜で間違いありません!
こちらの勝利を決定付けるであろう、敵母艦に突入したゲルググ隊の被撃墜が、連鎖的に発生している様子をオペレーターが告げ出した時、
「全艦隊撤退!! 脱出ルートを計算せよ! オールリリーフ出動! ランチ全艇発艦準備!」
オルドーの撤退命令が下った。作戦の失敗、艦隊突破戦闘の敗北が決定した瞬間だった。
・・・・・・・・
・・・・
「……ビーム撹乱膜!! ……だと……」
前方に広く展開した光体の壁を細めた瞳で見つめながら、ギュオスは驚愕と落胆を吐露した。
コックピットに二重のアラームが轟いた。どちらも嫌な警報だ。
一つは新しい敵機の出現を告げるデンジャーアラーム。そして、もう一つは、最も聞きたくない、母艦或いは友軍艦艇が損傷を受けた時に発せられる、デンジャーベルだった。
「
ギュオスは機体を180度ターンさせた。艦隊より遥かに後方にライフルを向けて、視界の隅でコンソールに発生した新たな光点を確認する。まるで、G4の出現位置を、遥か後方からの奇襲を分かっているかのような行動だ。しかし、ギュオスは、自分の行動の不可思議さに思い馳せることは無かった。敵母艦、コードネーム『二頭立て』が持っている筈のない、あり得ない一手への失望に心奪われていた。
「……豪華な、部隊だな!!!」
コンソールに点滅する光点は、やはり、艦隊より遥かに後方に位置している。おそらくG型だ。そう、奴に違いない。消えた
「くびり殺してやる」
蒼白な面持ちで、しかし鬼気に満ちた殺し文句を漏らしながら、ギュオスは出現した敵機をスコープウィンドウに捉えようとした。しかし、大破した様子の
更に眉間に皺を寄せ、口元を釣り上げながら、ギュオスはチャンスを待った。
一瞬でもいい、艦の陰から姿を見せれば、即座に制圧射撃を撃ち込む事ができる。二度と陰に入れない様に射圧しながら、退路も絶って、文字通り
数秒程の時間が過ぎた時、ギュオスは強く舌打ちをして狙撃姿勢を解除した。
「
『ヤ、
ここで、敵MS一機を堕としたところで、腹いせにしかならないことはわかっている。自分のするべき事は、溜飲を下げる事ではない。ギュオスは、交信チャンネルのモードセレクターを弾いた。ALLの文字が光る。
「艦隊指令より
・・・・・・・・
・・・・
「艦隊前方! ビーム撹乱膜壁! ミノフスキーレベル計測不能域!! 連邦仕様のミサイルによる展開と推定した場合、シールドされる時間は900秒です!」
「
ベルセルク艦長=ワーデン大尉の号令だ。艦隊より離脱して、単艦での最大戦速による突撃をしていたベルセルクは、ビーム撹乱膜壁の目前に迫っていた。
「は!? 逆制動でありますか? 速力を全消失して、敵艦を逃してしまいます!」
「馬鹿者ォォ!! いいから止まれぇぇ!!! 全力逆噴射ァ!!!」
操舵手の進言を蹴飛ばすように怒鳴り潰して、ワーデンは再号令した。怯んだ操舵手が、全力逆噴射による急制動を行なった。艦に強烈な逆Gが掛かり、ブリッジに押し殺した呻きが満ちる。
「これ程の高濃度ミノフスキー粒子に突っ込んでみろ! 電子機器は機能低下では済まん!! 全電装が破壊されて、戦闘不能、いや、我々の生命維持すらままならなくなるわ!! そんんな事もォ! 知らんのか貴様ァ!!」
強烈な逆Gで前に飛ばされそうになる体をキャプテンシートに留まらせる、シートベルトの食い込みにも負けず、ワーデンは罵声を発した。
「
オペレーターが悲鳴を上げた。
「怯むなああ!! 元より!
「エスケープ・ワン!! 艦隊指令発令!! エスケープ・ワン!!」
ワーデンの号令を遮って、コミュニケーターが叫んだ。
「──んよぅ……
全艦全力脱出!! 離脱進路を計算しろ! 全ランチ発艦準備! オペレーター! 敵の追撃を報告しろ! コミュニケーター! 僚艦の離脱と相乗効果、合わせ! コマンダー! 現時点の全戦力を再チェック! 総員、撤退戦闘開始!!」
ベルセルクに撤退のアラームが鳴り響いた。
・・・・・・・・
・・・・
敵艦隊はどれくらいダメージを負った?
G4のコックピット──
スコープウィンドウから視線を外し、クラウザーはコンソールの情報を確認した。ターゲットNo4のムサイ級敵艦に大破がスタンプされている。このムサイのブロックにより、G4は旗艦を撃沈できなかったのだ。No4ムサイの先、本来の標的であるNo2ムサイと、縦列に並走していたNo3ムサイには、
クラウザーは、ブロックしている敵艦越しに更なる射撃を撃ち込んではいない。もはや、盲撃ちに等しく、有効性が無いからだ。それを証明してくれるかのように、敵の、おそらくゲルググの威嚇射撃がブロック艦を撃ち抜いて飛んできていた。G4には、全く当たりそうな気配すらない。
しかし、クラウザーは、ブロック艦の陰から出て標的をターゲットし直そうともしていない。むしろ、逆に影に身を置くように動いている。もう、奇襲のタイミングは失われているからだ。今、陰から飛び出せば、集中的な狙い撃ちをされる可能性が高い。それでも、自分の
嫌な予感がしている、という程の何かがあるわけではない。だから、もしこのまま、後少しすれば、標的を再狙撃すべく、G4のスラスターを噴射していただろう。
『MSシフト!
全機ラジャーコール! よろしい? ファイナル、コマンド、オーヴァー!」
シュアルのコマンドが聴こえた。クラウザーは思わず息を吐いた。まさに、再標的の為に飛び出そうと意思を固め、気合を入れ直した時だった。
『ラジャー!! G1! やったぜ! お嬢! フィィィー!!』
『ラジャー! Gm1! ──G1! まだ終わっていないぞ!! お前が
『悪い! 少佐! 俺が一番近い! シャンパン用意しときます!』
『ラジャー! Gm2!
『ラジャー! Gm4! やった、やったぞ! クソォ!! やってやったぞ!」
『ラジャー! Gm3! お嬢のファイナル、聴けるとは! もうダメかと……』
『ラジャー! Gm12! 帰還します!』
『ラジャー! Gm11! や、やった…… き、帰還します!!』
歓喜と安堵のラジャーコールが交叉した。
後に語られる、精鋭を集った稀有なる特務部隊P004の各員の戦歴にあって、これ程の辛勝はこれまでの記憶にはなかった。
「ラジャー! G4!」
クラウザーもコールした。パーソナルコード通信での指示は必要ないと、あのコマンダーに伝えたかった。
彼女は、この後も忙しいだろう。P004コマンダー=シュアル・オファー中尉のこの部隊での重要性を、もう、クラウザーは理解していた。
『G1だ! G4!
「G4より、G1。戦闘中だ。ミッションチャンネルでお喋りはできない。まずはお前の顔が見たい。艦で話そう」
『Gm2より、G4。皆を代表して礼を言う。特務だったんだろう? ポストしていたよ。ただ俺達はG1と違ってお喋りじゃないんだ。
Gm1、
『……全くだ。
G4、お前も
リーダーより全機!
・・・・・・・・
・・・・
「キャナーシフト!
ミサイルセット!
MSチームに送信する、各敵個別の離脱予想ルートのA、Bプランを計算しながら、シュアルはコマンドを続けていた。
「
顔を上げブリッジ前方に向いて、肉声でコマンドを告げた。指先は仕上がったプランのコンシール、そしてサブミットを、ブラインドでタッピングしている。
「敵艦隊、別個に進路を変更! 戦線を離脱していきます!」
カインのオペレーションが、シュアルのコマンドをフォローした。
「中尉! 戦線離脱! MS回収に留意!」
「イエッサー! メインロケット点火! 発進G、かかります!」
アームオンの指示に、エレンが即答を返した。明らかに声が快活だ。
(わかりやすい人だなあ…… でも、気持ちはものすごく分かりますよ。俺だって叫び出したいくらいですからね。……本当に、危なかった……)
艦内に異常、損傷が発生していないか。コミュニケーターとしての撤収フェーズワークをこなしながら、アダムは心底の安堵を
・・・・・・・・
・・・・
『キャナーシフト!
ミサイルセット!
「ラマン!
シュアルのコマンドをしっかり聴き終えて、第一メガ粒子砲手=プロシューターは相棒への指示を口にした。
『おう! 任せとけ! なんかさ、あたし今、絶好調なんだよ! 気が付いてたか?』
鼻歌でも口ずさみそうな機嫌で、第二メガ粒子砲手=ラマンは応えた。
「ターゲットナンバー1のコイツが敵の最強野郎だ。Gm型トップ4の包囲をモノともしていやがらなかった! 実際、コイツさえ止めればいい!
ラマン! 二人でやるぞ! 帰還のMSチームを撃たせるな! もう一機、残ってる
スコープを覗き込み、暗褐色のビグロを
実際、只もんじゃねえ……
プロシューターの特別な
トリガーを引く迄に、この的はセンターから居なくなるのだ。照準が合うタイミングに合わせてトリガーを引こうとしている筈なのに、その瞬間にはもうズレている。──まさか。
俺と同じような、
「いや……違う」
自分の攻撃を察知して避けている感じでは無かった。ただ、
と、不意に、超速のビグロがスローになり、そのまま動きを止めた。プロシューターはトリガーを引いた。間違いなく命中だ。しかし──
スコープに映る光景は撃ち抜かれ爆散し、閃光に呑み込まれるビグロの断末魔では無かった。
プロシューターのメガビームを切り裂き弾き四散させ、その光に照らされる無傷のビグロの姿だった。
・・・・・・・・
・・・・
「
マシンボイスがモードを告げた。
メガ粒子砲を直接稼動できる大型核融合炉を備える機動兵器=ビグロ、には、4つ目の戦闘モードがある。それは戦闘艦の様にiフィールドを展開することができる、まるで艦砲だけが飛んでいるようなモードだ。
機首に
難点は、高運動性能がほぼ皆無になることだ。iフィールドは、その有効性を発揮するためには固定照射が必要になる。動き回って照射角が激しく変化していては、意味を成せないからだ。
モードチェンジが完了すると、すぐさま、敵艦のビームが命中してきた。機体の静止前から鋭いエイミングが絡みついていた証拠だ。
「なるほどな」
切り裂かれ、雷光と化した閃光に包まれ、機体を強く揺さ振り弾く衝撃を感じながら、アースティンは呟いた。
スティックを握る両手の指がバイブレーションする。震えた様にしか見えない。しかし実際は、実に十数回を超える複雑なタッピングをしている。
各部のバーニアが繊細な噴射を行い、弾かれた機体を滑らかに安定させた。
「これなら──」
こちらのMSが次々と撃墜されたのも、納得できる。見たこともない狙撃能力だ。こんな砲撃手は……想定出来ない。
「リーダーより、全機! 俺が
言い終わらないうちに、再び敵艦のビームの直撃を受けた。今度の衝撃は先程の比ではない。思わず、
指先のバイブレーションに加えてフット・バーをスウィングさせる。センターブローによって最大化された衝撃を、大きく機体を後退させる運動に転化しながら収めていく。
的確に操縦をしているアースティン自身も当然、激しい衝撃は受けている。しかし、
────
ドージングは、圧倒的な耐衝撃力を得ることが出来るが、MSPだけに限定して施される。活動期間が短いからだ。個人差によって、数週間から1年程度以内がドージングを受けていられる期間である。その後は数年以上をかけて、ゆっくりとデトックスしていかなければならない。その間は穏便な日常生活に努める必要がある。
仮に、砲撃手がドージングを受けたとしても、敵砲火による衝撃で、狙いがままならい揺れが消えるわけではない。身体をリスクに晒す意味は薄い。ドージングはまだ新しい技術で、可能ならばしない方が良い施術の域を出てはいない。
アースティンは両手のスティックをツイストさせて、エイミングを開始した。狙いを敵艦メガ粒子砲の中心に絞っていく。デジタルの命中予想値が高速回転するように変化し、白色に
スコープに映る二頭立てが、大きく揺れたのが分かる。センターブローか、それに近い衝撃を与えたのは間違いない。
どうだ! ──うぐお!!
大きく揺らぐ敵艦の左舷メガ粒子砲が、お返しと言わんばかりのビームを放ち、あろうことかビグロのiフィールドのセンターを撃ち殴った。
この野郎!!
憤りを感じながら、アースティンは再びエイミングを開始した。
艦船である二頭立ては、砲撃による揺れを相殺するような運動性能は持ち合わせていない。MSPの操るガンナーモードのビグロの方が優位だ。ましてや、自分が
プライドに触れられた怒りに、アースティンは砲撃合戦に挑む気になっていた。
『
黄褐色のビグロからの通信が聴こえた。アングル3は、満身創痍で離脱の最後尾になっている。攻撃部隊の撤退が完了した。自分がここに居る理由はもうない。
スコープの二頭立てを一睨みして、アースティンは挙動スライダーを瞬打した。
「
マシンボイスが連呼した。
高精度射撃ポジションへ。すぐに、高機動戦闘ポジションへと機体が切り替わる。
メガ粒子砲口が形状を戻していく。機体の固定ポジションが全解放され、最大運動性能を発揮するメカニズムに切り替わっていく。フレキシブルアームが解放され、AMBAC機体制御が開始される。メインスラスターを噴射しながら、前方に向いていたノズルが後ろ向きに戻っていく。
バーニアが機体をローリングさせて、渦を描くように離脱飛行に入っていくビグロの後ろを、太いメガビームが抜けて行った。
…………まさか、俺達が負けることがある、とはなァ…… 臨機即応にして回天の指揮力、獅子奮迅のMS戦闘力、仙才鬼才の砲撃力………… 貴様等の勝ちだ!! 二頭立て!
戦闘は一期一会だ。同じ敵とまたどこかで
「それでも、だなァ! 忘れるな! 二頭立て!」
最後まで撃って来る敵艦左舷のメガ粒子砲火に、絡む様に軽やかに螺旋飛行して、暗褐色のビグロがフルスロットルの閃光を放った。
鮮やかに噴射光を
アースティン
時に、UC0079、12月27日。
scene 020 仕舞い
Fin
and... to be continued