機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000   作:GhostWrider.Jp

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scene 025 小さな諜報戦 part 2

 

 

 

 

「もし飛行機に乗らなかったら、後悔することになる。多分すぐにはない。でも、いずれ後悔する」

 

 闇深い夜、遠くの滑走路の灯りがぼんやりと二人の男女を照らしていた。男は深刻な面持ちで女を諭していた。

 女の目には涙が溢れている。しかし、彼女は彼の言葉の真実を受け入れる覚悟を決めていた。

 

「私たちはいつもパリを持っているわ。私たちにはそれがあるの。私たちが失ったものと引き換えに」

 

 彼女は静かに、しかし確かな声で応えた。

 

「さようなら」

 

 別れの(とき)が迫る中、女は最後の言葉を絞り出した。

 

「ここはいつも二人の場所だ」

 

 男は、彼女の痛みを共有しながらも、励ますように言葉をかけた。

 

「ストップ! セリフ変更。ずっと後悔とかしないし。一緒にいるし。で、ハッピーなやつね」

 

 風景がマーブルに歪み、一瞬で巻き戻された。

 

「もし飛行機に乗らなかったら、後悔することになる。多分すぐにはない。でも、いずれ後悔する」

 

 先程と同じシーンが展開した。女の目には、やはり涙が溢れている。しかし、今度は彼女はその涙を振り払うかのように、希望を宿した瞳を男に向けた。

 

「その後悔は、私たちが死んだ後に訪れることになるわ。私たちはいつもパリを持っているわ。私たちにはそれがあるの。私たちはこれからもパリを築いていくわ」

 

 彼女は静かに、しかし確かな声で応えた。

 

「飛行機には乗らないわ」

 

 離陸の時が迫る中、女は晴れやかに決断を告げた。

 

「ここはいつも二人の場所だ」

 

 男は喜びに顔を(ほころ)ばせながら、彼女を強く抱きしめた。

 

「うん、こうでなくっちゃね! 感動〜〜!」

 

 シーンをディレクションした声がOKを出すかのように喝采した。

 アダムはVRスコープを外すと、小さくため息をついた。

 

「なに? 文句あるわけ?」

 

 アダムは隣に聞こえないように、静かにため息したつもりだった。のだが、しっかりをそれを聞き(とが)めたらしいエレンが、VRスコープを外してアダムを見つめた。

 

「いえ、ないです、マイラード中尉。新しいバージョンのカサブランカを観れて嬉しいですね」

 

「ため息ついたわよね?」

 

「それは感動のため息です。余韻の残る名シーンでした。流石ですねマイラード中尉」

 

「え? やっぱり!? アダムも?」

 

 一転、嬉し恥ずかしそうな笑顔を(こぼ)しながら、エレンが乗り出してきた。

 

「ていうか、え、意外! わかるんだ? なんかさ、アダムってもっとさ、融通きかないって言うかさ────」

 

 ……これ以上の傍聴は必要ないだろう。あまり得るものの無い連中だったな。

 

 その場を静かに離れながら、SPY-13は回線を開いた。

 

「「SPY-13より、グレートパパ。医療科、完了、オクレ」」

 

「「SPY-13、承認。任務を続けよ」」

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

ビンゴ(Bingo) 131(One-Three-One, )問題なし(Checkmark.)

 

 カイルのインカムに通信が入った。同時にモバイルに画像が送られてくる。131番とナンバリングされたクルーの顔が写っている。カイルはその顔を鋭く検分した。

 

エコー(Echo) 131(One-Three-One, )問題なし承認(Sweep Clean.)

 

 通信を返して、モバイルの顔を左スワイプする。クリアーのサインがスタンプされて、顔が画面から消えた。

 

ビンゴ(Bingo) 072(Zero-Seven-Two, )問題なし(Checkmark.)

 

 続いて、レコードされていた通信が再生されて、モバイルに顔が表示された。P004艦内各所で任務に当たるMPは次々にクルーのチェックを送っているからだ。

 カイルが最終チェックしてOKを返すまでは、そのクルーは嫌疑審査中となるわけだが、MPはそれを待たずに次のチェックに移行している。もし、カイルからの返信がNGで、再チェックが必要となった場合には、目標をマークしに戻るのだ。

 

エコー(Echo) 072(Zero-Seven-Two, )問題なし承認(Sweep Clean.)

 

 言いながら、モバイル画面を撫でる。クリアースタンプされた、楽しげに笑っている女性士官の顔がスワイプされた。

 

 ……皆、本当に楽しそうな顔をしている。こうして見ていると、今この艦のクルーが如何に開放的になっているかが良くわかるよ。

 

 任務をこなしながらカイルは思った。知らぬ間に、その厳しい表情が幾分柔らかくなっている。アームオンの着眼の良さに感心する気持ちが半分、次々に眺めるクルーの幸せそうな顔に当てられたのがもう半分だ。

 チラリとモバイル画面下方でカウントダウンしているタイマーを見た。この任務に割り当てられた6時間というタイムリミットは、その半分が過ぎようとしていた。

 モバイル上方のカウンターは残り24。あと24チェックで全てのクルーの検分が終了する。今までのところ、『shadow spotted(怪しい者を発見)』というスキャンも入らなかったし、『eyes on target.(問題あり 監視に入れ)』のコマンドを返すこともなかった。ふと、怪訝な気持ちになって、これまでのチェックを思い返した。

 

 ──うん、少しでも怪しいと感じる人物は居なかった。間違いない。

 

 一人で小さく頷きながら、しかし、それにより更に少し困惑気味な気持ちになった。

 

 もう殆ど、残っていない……たまたまならいいのだが。

 

 カイルは向かいに座るアームオンを見た。任務を始めてからモバイルの表情ばかりを見ていたからか、久しぶりに彼を見たような気がした。そして、その表情がとても険しく感じたのも、モバイルで楽しく笑う顔ばかりを眺めていたせいだろうか。 

 

「……少し、考え方を変えた方がいいかもしれないな」

 

 アームオンの横顔が独白のように口を開いた。独白のように、とは、カイルの視線に気がついたとも思えない様子だったからだ。しかし、その言葉の内容は明らかに、カイルに話しかけられているように思えた。

 

「──あと24人で、フェイスチェック、完了します」

 

 答えるともなくカイルは言った。わざわざフェイスのチェックなどと言ってしまったのは、このままヒット0となってしまった時の手詰まり感をなんとなく避けたかったのかもしれない。

 

「うん、当たりは出ないかもな」

 

 何気ないアームオンの言い草だったが、カイルはドキッとした。もしこのチェックで本当にヒット0となってしまったら、残り3時間未満で全クルーの再検分が出来るだろうか? その時は徹底的な検証が必要となる。非常に厳しい条件だ。それに、尋問等を伴う検証行為は、この後のサイレントマッパー作戦のフェーズ2にも悪影響が出るということでは無かったか。

 

「ところでだ、君はさっき何と言ったかな? カムジン」

 

 カイルの緊張を知ってか知らずか、険しかったはずのアームオンの顔は悪戯っぽい笑みを浮かべるそれに変わっていた。

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

「「(ワン)──それは、最も優れたスペックを持つということなのだ」」

 

 SPY-1は時折、受信者のいない無声通信をする。それは彼の、英雄へのオマージュだ。勇敢な人々が、己の誇りを独白する様を再現しているのだ。

 

 P004第一デッキ──

 追撃艦隊(ウルザンブルン)との激戦を経て、今ここにハンガーされているのは本来の半数、2機のGm型だけだった。

 前方、胸部に白頭の鷲を紋章している機体は、この艦のMSチームリーダー機だ。Gm1でコールされるその機体の足元で、SPY-1はレーザー計測を照射した。

 

 ────見つけたぞ。この艦のデッキは天井高が低い。外観上の数値と比較すれば、このMSデッキの天井裏か床下にもう一層の空間が存在することは明らかだ。

 私は、Gm型の頭部が天井に近いことに違和感を覚えたのだ。通常のペガサス級のデッキ内部様相と比較して、違和感は疑惑に変化した。それは正しい着眼であったことが今、証明された。

 

「「(ワン)──それは、最も優れた戦果をもたらす者なのだ」」

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

「沈めるべき敵艦に乗り込みスパイする。そんな特攻が出来る者は滅多にいない。そう教えてくれたな?」

 

 アームオンの目が意味ありげな光を(たた)えた。

 

 これは……チーフは、解を掴んだのだ。

 

 カイルは直感した。短くはない付き合いだ。アームオンの側で彼を最もよく見てきた自負もある。この話の展開は、アームオンが何かを確信した時のものだと、カイルは直感的に理解した。

 

「はい。もし……私が同種の任務を命ぜられたとしたら、期待される成果を発揮する自信はありません」

 

「私もだ。さっきまで私なりにスパイの当たりをつけようとしていたんだが、ふと思ったんだよ。こんな任務を冷徹に遂行できる人材は、果たして実際いるものかな? とね。

 随分じっくりと考えてみたつもりなんだが、具体的に思い浮かぶ者は居なかったよ」

 

 アームオンの頭脳にレパートリーされている人脈の広さを、カイルはよく知っている。改めて、それ程の高難度の任務だろうなと納得した。

 

「ジオン突撃機動軍というのは、それ程の勇者を抱えているのか。あり得るかもしれないとは思う……

 しかし、居たとして、その者を私が知らない(・・・・・・・・・・)、と言うのは……ちょっと解せなくてな──ああ、じっくりと考えた人物群には、かの軍の者も入っていてね。キシリア(彼女)なら、そんな者が居たら、必ず自分の側に置くと思うんだよ」

 

 確かに──

 

 カイルは思った。

 

「だから──考え方を変える必要がある」

 

 アームオンが何気なく人差し指を立てて揺さぶった。カイルはこの仕草もよく知っている。謎解きが、始まるのだ。

 

「いつも、正解は最もシンプルな思考の先にある。

 非常に高度なセキュリティに守られたデータに、未承認のアクセスがあった痕跡が発見された。さて、その時、犯人たるハッカーは何をしたんだと思う?」

 

「……最も可能性が高いのは、アクセスコードを知る者からの情報取得です」

 

「そう、例えばコーヒースタンドで該当の者が迂闊に口にした情報から、直接あるいは推測によってコードが盗られたという様なものが一番多い。それは、実は最高にシンプルで確実だ。超高度なセキュリティに正面からハッキングをかけるなら、その難易度の高さに比例して、ハック・トラッカーを受けて自身を危険に晒すリスクも非常に高い。

 盗み聞きなら、安全確実だ。それに、特殊なスキルも要らない。人が動く必要すらないだろう。コンマ数ミリサイズの盗聴シリコンをターゲットの立ち回るあらゆる所に定期的に()けばいいだけだ」

 

 カイルに、何かを思いつきそうで思いつかない様な、もどかしい感覚が走った。

 

「──さて、今回の問題を同じく、シンプルに思考するとどうなるか?

 そのスパイに最適な資質は、死を恐れない事と、受動的な情報取得──データにアクセスするような能動的かつリスクを伴うやり方ではない、つまり、やはり盗み聞きだな、に長けている事と、P004のクルー等から怪しまれない事、この3点だろうと思う。

 何も──鋼の精神力や鍛え上げられた肉体、戦闘能力や高度な情報処理能力、演技力や誘導力に富むコミュニケーション能力、そんなものは実は一切必要ない。

 そうシンプルに整理したら、私に見えた、そのスパイは、人間ではない──機械だ」

 

・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・

 

 ──宇宙船に最も必要なAuto Bot(オートボット)を、たった一つだけ挙げるなら何か?──

 

 ベテランのスペースシップクルーにこう問えば、その答えはいつも同じだ。

 

「間違いなくSeal Sentry(シールセントリー)だね。ああMop Mobster(モップモブスター)でもQuartermaster Qube(クォーターマスターキューブ)でもない。SS(シールセントリー)さ。絶対だよ」

 

 ────気密監視ロボット(Seal Sentry)

 

 蛇のような形状(サーペンタインボディ)と、非常に高い剛性および柔軟性を持ったこのオートボットは、宇宙船の内外の構造体の気密が弱っていないかを見張るロボットだ。

 宇宙船は常にデブリ等にその船体を痛めつけられている。宇宙空間に存在しているだけで、いつの間にかダメージは蓄積し、突然にどこが破損されるかわからない。激しい戦闘を行う宇宙戦闘艦なら尚更のことだ。

 もし、気密が破れたら、それが深刻な事態を引き起こすのは自明だ。もちろん、宇宙船にはその場合の緊急対応装備が複数存在してはいる。しかし、最も優秀な対応とは、破れる前にそれを察知して防ぐこと。つまり、予防なのだ。

 

 気密監視ロボット(Seal Sentry)は24時間体制で常に船体の内外の隅々までを検査巡回している。多種多様なセンサーを駆使して、構造体の内部、構成材一つ一つまで、疲労、老朽、破損の有無を探り出す。もし、危険なほどの是弱さの進行を発見したら、すぐに必要な多種オートボットを呼び出し、補修、交換、新調等の作業を監督する。

 SS(シールセントリー)の主たる仕事は気密のキープだが、その他の設備の修理等も行う。構造物の検査の過程では、当然、他の装備装置の様々な劣化も感知されるからだ。もし壊れそうなものを発見した場合、それが気密に関係なくともやはり必要な作業ボットを召集して修復するのだ。

 

 生物がその体内に宿したシステムにより常に外部からの侵食に対して自動修復を行うように、このSS(シールセントリー)は宇宙船にそういう有機的な機能を宿す為の、最も重要なAB(オートボット)と言って良かった。

 このロボットのおかげで、クルーは常に船体に気を回さなければならないストレスと、そのミスのリスクから解放されているのだ。

 

 その様な役割からSS(シールセントリー)はボット中で唯一、艦船の全ての場所に立ち入る権限を有している。

 今、SPY-1が、この隠されたエリアに侵入できたのも、彼がそんなSS(シールセントリー)の一台だったからだ。

 

 ……………………誰もいない。有機的老廃物、生体から放出される飛沫痕跡などがほとんど検知されない。つまり、人がほとんど出入りしていないのだ。これは、P004クルーにも隠蔽された空間であるという事だ。見つけたぞ。ここに我等から強奪された、(ヴェル・ヴェイル)があるに違いない。

 

 ──目標敵艦(P004)が輸送する機密の完全なる消滅──

 

 ……それが我々に与えられた、勅命任務だ。その為に、我等はこの艦の所在を追撃艦隊(友軍)に知らせてきた。しかし、追撃艦隊(彼等)は敗退してしまった。だがしかし、私が今から(ヴェル・ヴェイル)を破棄することが出来れば任務は達成される。

 

「「(ワン)──そう──それは、最後に勝利をもたらす者なのだ」」

 

 SPY-1は周りを警戒しながら、静かに奥に進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

scene 025 小さな諜報戦 part 2

 

Fin

 

and... to be continued

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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