機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
「ありがとう。もういいわ」
P004第一ブリッジ──
コマンダーシートに座るセカンド・コマンダー=スワン・ワンの肩に手を置くと、シュアルは交代を告げた。まだ敵とエンカウントする可能性は極めて低いが、オペレーション・サイレントマッパー・フェーズ2の作戦中である。コマンダー席を空白には出来ない。ファースト・コマンダーが任を外れる間はセカンド・コマンダーがそれを代行する。
スワンがサッとシートから立ち上がり、席を譲る。
「失礼します!」
代わって座るシュアルに敬礼をすると、やや固い動作で踵を返してブリッジを後にした。
『『お帰りなさい、シュアル。
P004
「「
席に座るなり、シュアルは言った。それから思い出したように、ただいま、をホロに告げる。
『『実戦では量子ビットの機能不全から、高度AIは
「「時間の節約よ、
コマンド・ディスプレイを滑らかに撫でて、
『『わかりました、シュアル。
「「
『『
「「…………
『『OK、ライブラリよりクラウザー・ラウザーのコンバット・シークエンス・アルゴリズムを、G-シリーズ-
「「それから、このディスプレイ、起立角が大き過ぎるわ。5度まで倒して。コンソールの上に、
『『視覚的にハンディになります』』
「「コンソールはいつもブラインドで操作しているから見えなくても平気」」
『『コントロールは問題なくとも、表示される情報を指先で読み取る事は出来ません』』
「「そうだけど──
ディスプレイの上下左右端に指先を伸ばし、肩の持ち上げ動作による操作への
『『わかりました、シュアル。その時のコンソール情報はコマンダーインカムへの発声で伝達するようにしましょう。これは特例です。あなたのこれまでの実績により、一過性伝達であるボイスアナウンスでも聞き逃しは無いと判断してのカスタマイズです。
コマンド・ディスプレイを起立角5度に。コンソール上にダブルデッカー。フリーフローティングさせます。微調整してください』』
テーブルのように倒されたディスプレイに指先を這わせながら、位置と角度を微調整する。下段、ディスプレイで隠れて見えなくなったコンソールをブラインドで触り、同様に位置をジャストに調整した。
「「これでよろしく」」
『『ホールドします。
「「いいわ、始めましょう」」
『『では、再開します』』
ホロはそう言うとシミュレーションをスタートさせた。そして、シュアルの
・・・・・・・・
・・・・
『お帰りなさい、中尉。顔、サッパリしましたね。でも、表情、悲壮感ありますよ』
毎度の、ウィルドの、
「バイザー越しによく分かるな」
G2のコックピット──
インターバルを切り上げて、実機シミュレーションを再開する為に戻ってきた。ウィルドの言う通り、気分は良い。そして、
『もちろん分かります。パイロットの状態だってマシンの一部みたいなもんです。それも含めて万全に整えるのが任務だと思ってます。メカニック・オフィサーですからね』
クラウザーはコックピットを覗き込んでいるウィルドの表情を見ようと目を凝らした。ヘルメットのバイザー越しでは、目鼻立ちは見えても表情は
『パイロットのメンテナンスはメンタルが9割です。中尉の悩みは何ですか? あ、簡潔に一言にまとめてくださいね。愚痴は
…………まったく
クラウザーは小さく溜息をついた。
「……
口を突いて出た自らの言葉に、自分で
今はウィルドをスルーして去るというわけには行かない。無視していたら延々と訊いてくるだろう。さっさと要求を満たしてやるのが最速の処理だ。そう思って答えようとした。そして、図らずもウィルドの言った通りに簡潔に重要な一点に絞ろうと、抱える
死んだ気がしない? 88回も撃墜されたのに?
『あははは。中尉、さっきは連続88回、ですよね? でも、中尉、天才ですからね。中尉が墜とされた気がしないって思うなら、まだ墜とされて無いんですよ』
まったく……あの時、お前が天才なんて言うから俺は大馬鹿だと思われて…………いや……あれのお陰も、あるのかな……
表層の意識でそんな事を思いながら、頭の後ろの方で別の事を考えている自分を感じる。
『シミュレーションですからね。完全じゃないです。Gも無いし。あ、でも、それは有利な要素か。あははは』
「ハッチ閉じるぞ。メンタルメンテナンスはもういいか?」
シートベルトの具合を確かめながら、離れろのハンドサインをウィルドに送った。
『了解。グッドラック中尉』
ハッチが閉じて、メインモニターが点灯する。
「
「
クラウザーの命令にマシンボイスが答えた。メインモニターの上部に
『
バトラーのアナウンスが聞こえた。
・・・・・・・・
・・・・
『『
シュアルは深く吐息した。緊張が一気に崩れていくのが分かる。
「「
シュアルは遠くを見るように
『『
しかし、シュアル、あなたはそのオートパイロットをベースに、終始において
流石です、シュアル。あなたのアイディアの素晴らしさを賞賛します』』
「「アイディアじゃないわ。教えてもらっただけよ」」
シュアルは嬉しそうに微笑んだ。
「「でも……これでいいの? 私、勝てて無いんだけど」」
『『イエス、シュアル。それで良いのです。
「「彼……
シュアル視線が遠くへ泳ぐ。
『『
これは通常では困難を極める難易度として避けるべきタスクですが、シュアル、あなたにはこれを突破する可能性がありました。そして、あなたは見事に期待に応えてくれました。あなたは
・・・・・・・・
・・・・
『攻撃が命中した時の
P004第3デッキ
同じくヘッドセットをして、クラウザーの通信を聞いていたキャスパーが、驚いた様にバトラーの方を見た。
「
眉一つ動かさずにバトラーは答えた。
・・・・・・・・
・・・・
「
────問題は────リアリティの不足よ────
セリフの途中、クラウザーの脳裏に不意に、展望室で交わしたシュアルとの会話がリフレインした。
「────リアルじゃない。シミュレーションでも
クラウザーは食い下がった。
『しかし実戦では激しいGがあるぞ? シミュレーションではそれは反映されないんだ。条件が不利だというなら
思わず、と言った感じで聴こえて来たのはキャスパーの声だ。
『こんの野郎! 黙って聞いてりゃあ! てめえ! いい加減にしやがれ! 何十回撃たれたと思ってんだ!』
間髪入れずに、ラマンの怒声も割り込んできた。
────中尉が墜とされた気がしないって思うなら、まだ墜とされて無いんですよ────
ウィルドの言葉を思い浮かべた。左手の小指でクロスを切る。
「
クラウザーは鋭く言い放った。
・・・・・・・・
・・・・
キャスパー達の
『こ、こ、この! 負け惜しみ野郎! てめえの指は! 何十本もあるのかよ!!』
『──88回の命中は全て有効打では無かったというのか?
ついに、プロシューターも入ってきた。ラマンとは対照的に冷静な声だが、強く込められた凄みを感じさせる。
……奴等が黙っていられないのは当然だ。これは俺も口をはさめん。どうする? ラウザー。それだけの
・・・・・・・・
・・・・
「実戦では
クラウザーの口調は強く、毅然としている。しかし、バイザーの奥でその表情は苦しそうに歪んでいた。自分で自分を追い詰めている事が分かっているからだ。例外的な要求をしている事も、協力者たる砲撃手達への無礼も、そして、自分の立場を非常に危うくする発言をしている事もだ。
『その通りだな。だが、実戦では、何があろうと、もう一度やらせては貰えない。
突然、予期せぬ人物の声がした。ほんの一瞬、クラウザーは驚きに顔を持ち上げた。そして、笑顔に変わっていく。
「ああ、ジェット。
クラウザーは答えた。
『そう言うことだ。ダンナ、すまねえがあと1回だけ、この馬鹿野郎の言う通りに相手してやってくれないか? ラムも。頼む』
ジェットが二人に訊ねる。
『
いいだろう。
いいな? ラマン』
『仕方ねえ。あと1回だけでいいんだな? よぉし……相手してやるぜ。
いいか! てめえ! 腹のど真ん中ぶち抜いて、一発で終わらせてやるからな!』
プロシューターとラマンが承諾を示した。
『決まりだな。
バトラーの採決が聴こえた。クラウザーはすぅと息を吐いた。
「ああ、見ていてくれ」
そう言うと、左手の小指でクロスを切った。
scene 032 One Fight, One Life
Fin
and... to be continued