機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
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第一メガ粒子砲手席のメインモニター上部に、実機シミュレーションモードの文字列が明滅し、中央にシナリオタイトルがフラッシュする。
……2……1
シートに座るプロシューターは、無言でカウントをした。
実機シミュレーションモードは、タイトルが表示されてから約2.8秒でスタートする事を経験で知っているからだ。
ふと、今までどれだけこのモードをこなして来たのだろうかという思いが浮かんだ。何千回だろうか。それとも何万回だろうか? はっきりとは覚えていない。
しかし、スタートタイミングをカウントしたのは数回しかない、という記憶はしっかりしている。
クラウザーの挑発に怒っているから、というわけではなかった。彼の言動に大きく気分は害したし、その生意気が過ぎる新参野郎を、叩きのめしてやるつもりも満々だ。だが──
────あいつ、撃ち墜してもなんかイマイチ、すっきりしねえんだよ────
自分の気持ちを言語化してくれた様なラマンのセリフ。
────
そして、クラウザーの、看過できない、この発言。
一聞では、最低の負け惜しみにしか聴こえないこの
いつもの自分なら、心は冷たく
もしもクラウザーの言い分が屁理屈でないのなら、通算88回の撃墜は、命中すれば全て撃墜になる
その畏怖に近い疑念が、プロシューターに、滅多にした事はない、シミュレーションスタートのカウントテクニックを使わせているのだ。
……0
抜撃ち前に銃の上で微動している手の様に、コンソールの上でテンションしていた指先が素早く動いた。
モニターに仮想敵艦の
まだ
トリガーにかかる指先に、必殺の気合いが込められる。プロシューターは、本気だった。
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第二メガ粒子砲手席──
ラマンは何やら悪態をぶつぶつ
悪態も止まり、口は静かに閉じられている。自分でも何でこんな事をしているのか不思議に感じている。今、まさにあのムカつく馬鹿野郎との、最後の、外せない一戦が始まろうとしているのに。
ラマンの逆鱗を触りまくった
しかし、万万が一にでも、このワントライで遅れを取ろうものなら、88回の勝ちはひっくり返り、奴の言い分が正しかった事になってしまう。そんな事は絶対に許せない。
何やってんだ、あたし……余裕かましてる場合じゃねえだろう……
そう言葉を形作る思いに、気持ちが乗らない。心は静かに、でも
突然、脳天に閃光が走った。ラマンは瞳を見開くと同時に、その閃きのままにレバーを振った。
すっ飛ぶようにポインターが流れ、追って移動するスコープに
あまりの大きな振りに、ポインターに遅れて付いてくる形になってしまった、メガビーム砲口の向きを表す
瞳を鋭く細めて、ラマンの指がトリガーに触れた。彼女もまた、本気だった。
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G2のコックピット──
モニターが映していたP004のデッキ内風景が高速で流れ出した。カタパルト射出のシーンだ。背景が宇宙空間になり、シナリオタイトルがモニターから消えた。と、同時にクラウザーは
メインモニターに開いたシューティングウィンドウには、綺麗に
通常なら
ここ……
まだロックオンにはなっていない。レティクルは揺れている。だが、クラウザーはビームライフルの
2機の
「
レッドサインが浮かび、マシンボイスが射撃結果を告げてくる。クラウザーは見てもいないし、聞いてもいない。
代わりに両手のスティックを全力で引いていた。そして、すぐに戻す。G2の機体が、最大全力加速に飛んだ。フルスロットル、プラス、オールバーニアのエマージェンシースロットルだ。
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・・・・
「上手い」
P004第3デッキ
ダンナとラムの初弾を殺しやがった……
艦の砲撃手である彼等は、戦闘に
一流の砲撃手である彼等は、被命中時の身体緊張防衛は反射動作になっている。そして、その緊張中は他の事は出来ない。つまり、彼等が撃とうとする機先を制して射撃すれば、その攻撃をキャンセルさせる事が出来るのだ。
しかしこれは、相当な腕利きでも、そうそう出来ることではない。しかも、今のは敵機2機の射撃を同時に制している。
クラウのやつ──
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──この為に、煽ったな。
ジェットより少し下がってセクショナル・コマンド・コンソールを見つめているバトラーは、心中でほくそ笑んだ。
……あいつらのプライドを踏みつけて、怒らせて本気にさせた訳だ。そうすれば、最速の初弾を撃たせる事が出来る。奴らはパイロットじゃないからな。その戦闘行動は射撃というシンプルな一点に集約される。
そして、88回の対戦経験から、プロシューターとラマンの本気の射撃速度の予測を掴み、初弾において、それがほぼ同時になると踏んでのファーストタクティクス……
iフィールドに弾かれる前提のアバウトな射撃なら、エイミング未完了でも当てられる。それは、本来なら
「まずは見事だ、
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・・・・
『うお! く! こ、この野郎ォ!!』
ラマンの怒声が聴こえている。いつもなら何か
汗が流星の様に額を流れていった。唇は
G2に射撃タイミングを合わされ、まさかの初弾殺しを受けた。それだけでも驚きと屈辱だ。だが奴はそれに
精度の高い射撃を、これ程の速度で連射する事など出来はしない。だから、これがこちらの撃墜を狙ったものでは無い事は分かっている。しかし大きく外す訳でもなく、いちいちiフィールドに当たって弾け散るのだ。この命中閃光には、反射的な身体緊張を強いられる。おかげで射撃動作はキャンセルされ、自分達は、いまだ一発も攻撃出来ていないのだ。
下方に滑り込んで! 速い! こ、この速度は──マズい!
G型にこれ程の加速力があったか?
自分達の正面には仮想敵艦の
iフィールドの向きはメガビーム砲の向きでもある。つまり、プロシューターが振れるビーム砲の射角は、敵艦をiフィールドから外さない範囲に限られる。このままでは、もう直ぐに、G2が射界を抜けてしまう。もちろん、それが奴の狙いな訳だが。
「対閃光防御!
……やられた…………野郎……
G2の光点に点滅伴走する
・・・・・・・・
・・・・
『対閃光防御!
フィルター!! そうか!
ラマンは即座に
プロスは、抑えられたのか……
プロシューターの口振りの違和感のままに、ラマンは状況を理解した。彼女も第一級の砲撃手だ。G2の一連の戦術が、前衛のプロシューターを封じ込めたと分かっている。
ラマンは後衛だ。前衛のプロシューターが敵艦の砲撃をiフィールド防御する役目である様に、後衛のラマンは接近する敵機のビームをiフィールド防御する役目だ。その照射角はG2を追ってどこまでも旋回していって構わない。
「──任せとけ! 絶対にやってやる!」
ビームの光がフィルターされ、少しセピアに色付いたG2が、こちらに向けている銃口がはっきり見える。奴は未だ激しい連射を続けている様子だ。しかしもう、こちらの射撃の自由を奪うビーム拡散光は見えない。
一瞬でラマンの意識が高く集中した。弾ける閃光が脳天を貫き、リープするように次瞬のG2の座標中心にポインターを飛ばす。
「
赤い文字列が浮かび、マシンボイスがシートに響いた。
『
・・・・・・・・
・・・・
ピーー──
小さめのアラートが鳴り、
頭が、何だか焼けた様にチリチリする。先程、熱くて強烈な閃光がクラウザーの脳天を貫いたのだ。思い出せば初めてではない。これまでも幾度もあった様に思う。しかし、これ程はっきりとした、発生した後にも記憶に残っている閃光となったのは初めてだった。
何も意識したつもりはない。だが、無意識の操縦でクラウザーは機体を捻った。そして、
自分への驚きでいっぱいになっていく気持ちを感じているが、クラウザーはそれを無視した。次の展開に、全力の思考に、集中する。
──左手を失った。サーベルを抜けない。だが、
クラウザーは、スティックの挙動スライダーをタッチした。
「
マシンボイスのコールが聴こえ、機体各部が
クラウザーはビームライフルを捨てると、そのまま右手でサーベルを抜いた。数百メートルに伸びる、
巌流島決闘に挑む武蔵の構えよろしく、長大な刀身を真っ直ぐ後ろに
敵機を映しているシューティングウィンドウが急速にそのフレームを拡大し、メインモニターを占拠する。
接近インジケーターに小数点以下の数値が追加表示され、高速で加算する様子を見せる。バーが加速度的に伸びながら、その色を赤色系に変えていく。
圧倒的な加速度の継続による接敵速度の異常さを感覚的に視覚させているのだ。数百メートルの射程を持つサーベルでも、あっという程の間にはすれ違ってしまうだろう。時間は、おそらくコンマ数秒あるか否か。
クラウザーは、その一瞬のタイミングで敵機2機を、同時に両断するつもりだ。右手で振り薙ぐサーベルの軌跡が最適になる様に、微かにロールして機体突入角を合わせる。
次……
後衛の
彼等の撃つタイミングにシンクロして躱す──それは、相手が発射を決意する時にこちらも回避を決意し、相手の射撃操作とこちらの回避操作を合わせ、着弾0秒の敵ビームが撃たれる瞬間に、その命中射線上から外れた位置に機体がズレている。という事だ。
次も、いや勝敗を背負った次の一撃こそ最も避け難いだろう。それを──
躱せるか?
避けたとして、体勢は大きく崩されるだろう。そこからタイミングを逃さず斬撃を放てるか? そしてそれを──
当てられるか?
G2の射程に敵機が近づき、接近アラートが鳴り始める。と、そのままボリュームダイアルをグイと回し上げる様に、大音量へクレッシェンドした。その時──
来る!!!
閃きのままに、フットバーをスウィングさせ、左右スティックを非対称に捻る。と、G2の真芯に感じる圧力が左腰部にズレて擦れ消える様なイメージが意識された。
まだ、はっきりとは自覚できない、その、致命傷を躱せた様な感覚に思わず、意気が高揚しかけたその瞬間──再び、閃光がスパークした。
G2の機体重心に位置する核融合エンジンを一気に貫く鋭い圧力が、痛覚の様に走り抜けた。怖気を伴う感覚だ。本能的なローシング、恐怖に近い忌避感だ。それはもし今、落ち着いて言葉に出来るならば『躱しきれない』という
一瞬で吹き出た熱い汗が、一瞬で消えるかのような蒼白さを感じながら、クラウザーは突き上げてくる感覚のままに瞬速の、しかし、最高に丁寧で微妙を極める操縦をG2に刻んだ。
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メーデーアラームが鳴り響き、眩しいレッドライトにコックピットが包まれた。クラウザーは息を吐くと、スティックから手を離した。
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「……やっちまった……な」
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モニターに並んだ文字列を見つめて、プロシューターは独白した。
『バ、バカ野郎! なにやってんだ!! 撃墜されちまったじゃねえか!!!』
ラマンからの怒りの通信だ。彼女もまた撃墜されていた。二人を撃墜したのは仮想敵艦の
まあ……これをやっちゃあ、駄目だよな。
クラウザーに射界外へ逃げ切られ、後をラマンに託したプロシューターは、彼女のG2撃墜によるシナリオエンドを疑っていなかった。
だが、その後に放たれた、必殺を期したであろうラマンの一撃が、まさかの小破に、G2の
そしてプロシューターは、これまで常にそうしてきた、優良で模範的な戦闘思考を放棄した。
「ああしなかったらお前は、いや俺達は、クラウザーにやられていただろうが!!」
プロシューターは怒ってはいない。むしろ、気持ちは沈んでいる。だが、怒鳴り返さないとラマンの文句が長引くだろう。今は、それは避けたかった。
『バ! バカ!! そ、そんなこと!!』
「お前の
コンソールに表示されている、シナリオの詳細戦闘行動とその結果の記録を見ながら、プロシューターは現実を告げた。
『………………………………』
ラマンが黙りこくった。そう仕向けたのはプロシューター自身だったのだが、それでも、こんなラマンを見るのは初めてだった。
『ラストトライ、終了だ。
バトラーの通信が、聴こえた。
scene 033 覚醒
Fin
and... to be continued