機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
「
P004第3デッキ
特例の
『…………最低の内容、だ。実戦の訓練になっていない。エマージェンシースロットルで突入なんて……
────フルスロットル、プラス、オールバーニアで発揮される緊急スロットルは、耐Gドージングによって通常では持てない非常に高い耐G力を得ている
この加速を十数秒も続けたら、パイロットは確実に失神、場合によっては絶命する。勿論、緊急スロットル時に射撃等の戦闘行動を行う事は不可能だ。
先のトライでクラウザーが行った様な、緊急スロットルを駆使しての接近突入や連射などは、Gの発生しないシミュレーションだからこそ可能な行為だった。
『──だけど、スッキリした』
そう言いながら、クラウザーはヘルメットのバイザーを上げて顔を見せた。
「そうだな。今まであんな事をした奴は居なかっただろう。お前のお陰でシミュレーションのシナリオは、色々と修正が必要になるな。以後、チートできん様にな。
それで、スッキリしたとは──お前が勝ったから、という事か?」
バトラーは無機的に言った。
『そう、言いたいが────
これ以上は無いと、スッキリと思えたからだ。最高の回避運動をしても、まるで通用しない相手が実在すると、ハッキリと理解できた。
このシナリオが今後遭遇する可能性の一つだと言うのは……深刻に受け止めるしかない』
ディスプレイのクラウザーの頭が揺れる。
「
バトラーが、よく通る声で命令した。
『
画面のクラウザーが
「おいおい、俺は? 入ってないのかよ、ったく」
キャスパーの小さなぼやきが聞こえた。
・・・・・・・・
・・・・
動く物が何も無い無音の真空間を、二つの静寂光が走っていた。
真っ直ぐな2条の軌跡が時折ゆるやかにカーブすると、彼等は意思を持っていると明白に感じられた。そして突然に
どこまでも広がる漆黒の背景の中で、真昼の明るさに照らされた様にくっきりと浮かぶ
『
「
『
応答を聴き終えると、アインは交信セレクターを
「
『
──
アインは笑った。
──さて…………
……
アインは再び、笑った。
・・・・・・・・
・・・・
「プロシューター、初めて撃墜をもらったな。何故、墜とされた?」
クラウザーの消えた画面の隣、プロシューターに視線を移して、バトラーは報告を促した。
『俺も、
それから少佐、シミュレーションの手直し項目に、シナリオスタートタイミングと敵の初期出現位置のランダム化を加えて欲しい。
必ず、同じ場所に敵が現れ、必ず、タイトリング後2.8秒でスタートするのはマズい……
実際……チートしたのは
プロシューターの声は苦々しげだ。
「なるほど、そうしよう。で、お前が任務放棄したのも、チートを駆使したのも、勝ちに
バトラーの声は、驚きと苦笑の半々といった感じだ。
『…………認めるしか無い。今でこそ、クラウザーの挑発にまんまと乗っかっちまったと理解してるが……トライに入る時は、頭が熱くなっちまってた。絶対にぶっ飛ばしてやろうと、
プロシューターは少し口を止めると、小さく舌打ちをした。
『──任務放棄してまでクラウザーを仕留める事を優先した時は…………
ラマンが本気なのは分かってた。あいつがクラウザーのど真ん中を撃ち抜いてシナリオ終了。それを疑わなかった……
それが、レフトアームが飛んだだけって
実際、マジで、あり得ない事が起こってるって、感じだった……』
プロシューターは、自らの言葉に聞き入るかのように語っている。
「…………ラマン。初めて外したな? 何故、外れた?」
バトラーは、プロシューターの不穏な疑念が皆にも伝播していくのを感じた。その答えを明らかにしようとするように、ラマンに尋ねた。
『………………わからねえ。
あたしも、殺ったと思ったんだ。プロスの言う通りっつうか、ど真ん中ぶち抜いたって疑ってなかった。
なんでハズレてんだか、こっちが訊きてえ。
なんかの間違いかと思って、二発目はマジで気合い入れたんだ。それがさ、腕さえ飛ばせずに擦り傷って何だよ!
判定がぶっ壊れてんだろうって、言いてえ。そうじゃねえなら、あいつはビームを避けてんだ』
「おいおいおい」
キャスパーの驚嘆が聞こえてきた。気持ちは分かるとバトラーも思う。亜光速で飛ぶビームの弾着時間は無いに等しい。つまり撃った瞬間には着弾しているのだ。
決して論理的思考に優れているわけではないが、砲手としては超一流であるラマンのそのセリフは、撃墜が確定している照準から撃たれたビームを、クラウザーが外していると言っている。
それは、正確に被命中の瞬間と命中箇所を把握できる、超常的な能力が必要とされる技能だ。
「……お前達の持つ、超常的な
元々、バトラーはそういう事に
しかし、その後に、ラマンにも同じ力が眠っていると知り、当初、散発的に発揮されていたその力が常在化していく過程を傍観し──
ついに、先程には、それと似た能力がP004ファースト・ラダー=エレンにもあって、それを頼みに本作戦が実行されているという事実を告げられて──
知らぬ間にもう、すっかり超能力慣れし始めていた。
『実際……もしそうなら……
ラマンの二発目に合わせた俺の連撃が、大破に終わったのは偶然ではないと納得できる。あれで撃墜にならないのは奇跡的に運がいいって
マジでそんなものが──特別な
「あるぜ」
突然の声の主に、皆の真剣な視線が集まった。
「……あの追撃艦隊との決戦で
ジェットは続きを言おうとしていた口を閉じて、代わりに背を見せて走り出した。他の面々も同様だった。全員が即座に行動を開始した。スクランブルのアラームが鳴り響き、レッドランプが回転を始めたからだ。
『総員、第一戦闘配置! 繰り返します! 総員、第一戦闘配置!』
艦内放送のその声は、P004セカンド・コマンダー=スワン・ワンのものだった。
・・・・・・・・
・・・・
「こ、高熱原体接近! 熱源、レベル3F ! ドムです!」
P004第一ブリッジ──
サイレントマッパー作戦フェーズ2攻略目標、ジオン突撃機動軍最重要極秘要塞
「ふうぅ……」
ブリッジ中央、階段状のシャフトに据えられたキャプテンシートから、大きな溜息が聴こえた。
……あの追撃艦隊との決戦から、未だ、20時間も経過していない……
────ブラックヴォルト防衛部隊の情報は把握している。非常に攻性に特化した戦闘特性を持つという事も分かっていたし、どのような迎撃行動を取るかも全て想定されていた。決して、有り得ないなどと嘆く様な事態ではない。
しかし、その想定には当然、
リストウォッチをじっと見ながら、アームオンは落胆した。
「──数は2機!」
そんなアームオンの思いを他所に、カインの報告が続く。
「シナリオは? どれが発生したか」
今度は深呼吸のように吸気して、サイレントマッパー作戦統合司令官=P004艦長=ロイデ・アームオン大佐は、それを問うた。
「最大望遠です!」
カインはそう言うと、ブリッジ上方スクリーンに、迫る敵機の姿を映した。
ドットの荒い映像だが、その姿ははっきり見て取れる。ずんぐりとした体躯に首の無い頭部。そして特徴的な十字形が目を引くフェイスデザイン。ルックスからも、ジオン重モビルスーツ=ドムだと判る。
カインの操作で、機影の肩部にフォーカス・スクエアがマーキングされ、二機のドムそれぞれの両肩をクローズアップして見せた。
二機とも左肩には、翼を広げるEVFFFというデザイン文字が描かれている。右肩は少し異なっていて、林檎のモチーフは同じだが、一機は『1』とナンバリングされていて、もう一機は『2』とナンバリングされていた。
「機数は2! ブラックヴォルト防衛隊、
思った通りの報告に、アームオンは、再び溜息を漏らした。
シナリオ
……まったく、毎度毎度……
「少しは楽をさせて貰いたいんだがな」
そう言うと、アームオンは気持ちを切り替えるように息を吐いた。
「
右手後方、シュアルを見る。
「行けます!」
迷いの無い、即答が返ってきた。アームオンはキャプテンシートの受話器を取って、
『
「
これより、本艦はブラックヴォルト防衛隊との交戦にはいる! 第一、第二ブリッジは全通信、相互に開放! セカンド・コマンダーは戦闘指揮を執れ!
総員、第一戦闘配置!」
アダムが素早く、第二ブリッジとの双方向同時伝達回線を繋ぐ。アームオンが受話器を置くと同時に、スクランブルのアラームが鳴った。
『総員、第一戦闘配置! 繰り返します! 総員、第一戦闘配置!』
P004セカンド・コマンダー=スワン・ワンの艦内一斉放送が聴こえた。
・・・・・・・・
・・・・
『MSシフト!
……発声はクリアー。スピードコントロールもよし。
シュアルの口角が、小さく上がった。
P004への配属命令を受けた時、彼女はセカンド・コマンダーにスワン・ワンを指名した。その
コマンド・ディスプレイが起立角を倒して行き、アジャストしたコンソール上に二段配置される。
ディスプレイに無数の微細な光粒子の様なものが走り出し、起動サインを
戦闘情報の出力装置が、戦闘兵器への入力装置にその意味を切り替えていく。
『
インカムにマシンボイスのインフォメーションが聴こえた。
『──MS兵装の換装、有り得ます! メカニックは
全機、応答! 願います! ファーストコマンド、オーバー!』
指示の選択、順序も適切だわ。──合格よ。
「ラジャー!
シュアルは凛々しい声を弾ませて、スワンへの応答を返した。
・・・・・・・・
・・・・
「ラジャー! Gm1!」
厳しい面持ちでバトラーは了解を返した。回転するレッドランプが、リズミカルに赤い陰影を顔に落とす。
──
パイロットスーツのファスナーを上げながら、彼が唯一気を緩めてしまう相棒、キャスパーを思い浮かべた。そしてそれが、生意気なジェットの
…………今度は何人……
生き残れるだろうか? 無意識にそう考えてしまった。
バトラーは合掌した。彼のルーティーンだ。心中の憂慮が薄れ、代わりに気迫が満ちてくる。
通常、バトラーはあまりルーティーンに頼らない。戦闘中のコックピットで、スティックから両手を離して合唱するのは難しい。彼なりにもっと実用的な形を模索したが、結局これ以外に効果のあるものが見つからなかったからだ。しかし、今なら、出来る。
いつもの冷静な自分に戻ると、クラウザーを最初に見た時の事を思い出した。
あの時、P004に収容された破壊され尽くしたそれ──Gm型117機の、その残骸としか思えない有様を見た時、パイロットの生存の可能性などは全く考えもしなかった。
手足を殆ど失い、頭部も無くし、爆発しなかったのが奇跡と思えるような貫通痕を複数刻まれたその
パイロットスーツを抱くメカニックが『生存』を示すハンドサインに手を回した時には思わず『嘘だろう!?』と叫んでしまっていた。
……あれは、そういう事だったんだろう。
それは、クラウザーの
相対していた敵は、撃墜していて然るべき状況にも関わらず、核融合炉の誘爆どころか、虫の息で回避抵抗し続ける奴を仕留めようと、しつこく攻撃を加えたに違いない。それが、あそこまでボロボロになった訳だったのだ。全てが納得できる。
……奴は
ヘルメットを被り終え、巡る思いをそこで打ち切ると、バトラーはエアロックに飛び込んだ。
scene 034 Alpha One Came True
Fin
and... to be continued