Activation Sign Approved
- LiFAS Initialization Starting -
System Stability Check…
[██------------------] 25%
ビープ音と共に、コマンド・ディスプレイにシステムメッセージがフェードインした。
『光学収束システム起動。コヒーレンス99.99%確認……
高出力レーザー発振機オンライン。初期化中……』
シュアルのインカムに、マシンボイスが流れてきた。
LiFAS起動シークエンスは、本来、コマンド・コンソールに表示されるレポートだ。一過性のボイスアナウンスでの伝達はシュアル特例のカスタムだ。
シュアルの唇がゆっくり開く。
「LiFASよりP004攻撃部隊、指揮下に入れ!
光学制圧支援を行います!」
凛々しいソプラノが対 A1 戦闘の指揮を始めた。
十指が精緻にディスプレイを走り、フォーカスした敵機をターゲット・ロックオンする。
『追尾システム校正完了。リアルタイム調整有効化……
スタビライゼーション機構作動。翼部スタビライザーオンライン。振動最小化……
核融合エンジン出力再配分開始。出力レベル安定中……』
ブリッジをぐるりと巡るウィンドウ越しに、P004の船体背部から左右に伸びた翼が上下に分離していく様子が見えた。
「Gm型全機、不可視強襲用意!
発艦後、各個に進入!
攻撃開始は一斉射撃! 私が発令します!
敵に気付かれない事が最重要事項になります! よって攻撃開始まで通信は閉鎖!
進攻時、僚機接触、細心の注意をして下さい!」
二対に分離した上翼の全面に無数の仄かな粒子が灯った。粒子は徐々に光の強さを増し、翼全体を複雑に走り始める。
そのエレクトリカルな律動は、美しく幻想的で、冷たく機械的だ。
『ライファシステム起動75%。最終チェック進行中……
アサルトフィデリティビームへの電力急増。ビームアラインメント完璧……
交戦プロトコルロード完了。全システムグリーン……』
戦闘配置により、ブリッジウィンドウの床から防護壁が競り上がって視界を閉ざす。と、内側スクリーンに外部が映り、映像による有視界が再確保された。
「G型各機、錯視戦闘用意!
陽動展開! 母艦iフィールド外、両翼に位置せよ!
敵の注意を引け! 最大回避運動で去なせ!」
上翼が光に満たされ、波紋して鋭く輝きを放つ。
『LiFAS完全稼働。戦闘準備完了』
「全機、ラジャーコール! よろしい? コマンド、オーヴァー!!」
・・・・・・・・
・・・・
『Gm型全機、不可視強襲用意!
発艦後、各個に進入!
攻撃開始は一斉射撃! 私が発令します!──』
乗機へ伸びた搭乗橋に立つ黄縞の支柱を掴み、コックピットへ進路を合わせてターンしたバトラーのヘルメットに、シュアルの指揮が聞こえていた。
ついさっき、全体の戦闘指揮を代打するセカンド・コマンダー=スワンのコマンドを挟んだせいか、妙に聞き慣れた安心感の様なものを感じる。
バトラーは少し笑った。
Specter──さて、いきなりの実戦だが……危惧は無い。P004MSチームなら必ずキメる。
パイロットチェッカー前をバトラーが通り過ぎると、認証ランプが素早く瞬いた。白頭の鷲を描いたGm1のハッチが緊急開壁して主を迎える。
綺麗に体を捌いてシートに滑り込むと、素早くベルトをロックした。
・・・・・・・・
・・・・
『──敵に気付かれない事が最重要事項になります! よって攻撃開始まで通信は閉鎖!──』
……無声侵攻か──そらそうだな。
予備電源投入によるインジケーターの発光が、Gm2のコックピットをメカニカルに彩った。キャスパーの両手の指が流れるようにスイッチを弾き、起動シークエンスが進行していく。
『──進攻時、僚機接触、細心の注意をして下さい!』
──こっちの姿が見えないのは敵だけの筈だ。知覚機能が正常な俺達に、ぶつかるような間抜けは居ないが……Gm5とGm6の二人はちっと経験が浅いかもな。初めての戦法だしな。
両足のヒールトゥ・ペダルシフトを最適にコントロールして、最速プロセスで核融合エンジンのシグナルアップをかけて行く。
管制モニターに流れる情報を文字列波形だけで把握しながら、機体に響いてくるエンジン音のフィーリングにキャスパーが頷いた時、コンソールにオールグリーンサインが点灯した。
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・・・・
『G型各機、錯視戦闘用意!
陽動展開! 母艦iフィールド外、両翼に位置せよ!──』
先頭に立つ者の個別の紋章を描いたG1の胸部ハッチが閉じ終わると、コックピットを照らす種々の電光が一瞬その照度を強めてメイン電源が入った事を告げた。 ジェットは予備電源をスリープさせた。
……分かってるか? クラウ。
A1────この敵の攻撃は、避けられない。P004主砲手と同じ、特別な当て勘を持ってる敵だという情報だからな。
それでも艦のiフィールド外で左右に散って、盾も捨てての陽動展開。つまり、俺たちがどんだけ攻撃を集められるか? それが勝敗を分けるって事だ。
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・・・・
『──敵の注意を引け! 最大回避運動で去なせ!──』
カタパルトセットに移動するG2のコックピットで、クラウザーはコマンドを聴いていた。
乗機の胸には、クラウザーの紋章である踊る人形がレーザープレスされている。
A1────この敵に回避運動は無力の筈だが……最大回避運動の指示は、餌を美味そうに見せる為……ヘイトを高めろって事だ。
……絶対的奇襲である不可視強襲をキメるまで、Gm型は 敵に見つかっていない状態でなければならない。それまで敵にはP004とG型しか見えていない。
もし、敵の砲撃がP004に集中したら、その激震下でのLiFASのコントロールは困難だろう。スペクターが解除されてしまう事も考えられる。
だから、G型が的にならなければならない。
……理解してるな? ジェット。
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『全機、ラジャーコール! よろしい? コマンド、オーヴァー!!』
「ラジャー! G1! ────任せておけ」
ジェットが即応を返した。
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・・・・
『全機、ラジャーコール! よろしい? コマンド、オーヴァー!!』
「ラジャー! G2! ────任せてくれ」
そして同時に、クラウザーもラジャーコールを返していた。
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『ラジャー! G1! ────トラスト ミー オン ディス』
!──Unison Effect!
ジェットとクラウザーの応答が、シュアルのインカムでシンクロナイゼーションした。
1と2、onとwith。その微妙な違いが、まるで完璧な合唱に混じった歌詞の重奏の様だ。
共鳴同調を起こす程に、今、彼等の臨戦意識は非常に高いレベルで一致しているのだと、シュアルは思った。
二人のパイロットが理解した通り、この戦闘の要は2機のG型が如何に敵の攻撃を引きつけてくれるかにかかっていると、シュアルも判断している。
P004が強度の砲火に見舞われれば、船体の激しい揺れにより、LiFASの高度な操作は不可能だと彼女には分かっている。LiFASによる光学制圧支援が無くなれば、こちらの勝ち目は非常に危うくなる。だから、囮の働きにかかっているのだ。
MSの回避運動が役に立たない超常の狙撃力を持った敵に、それしか対ビーム防衛力を持たないMSが正面から相対するならば、母艦が展開するiフィールドの傘に入ると言うのは、本来、絶対の命綱だ。
そこを出て、敵の標的になれと自分は命じている。彼等のライフラインは、初めて使用されるGhostによる敵の錯視、つまり標的への誤認効果に頼む事になる。そしてこれもまた、P004が攻撃を受ければ無くなるかもしれないLiFASの光学制圧支援なのだ。なんと言う心許無さだろうかとシュアルは思う。
彼等はそれら全てを把握した上で、拒否に変えて、請け負ったを言ったのだ。と、シュアルは理解した。
……頼みます。
厳しく唇を閉じて、 シュアルは小さく呟いた。
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・・・・
『キャナーシフト、ノーマル! 機関稼働確認後、戦闘ドーム、展開! パワーレベル55からiフィールド照射! LiFAS使用による、パワーサプライの配分低下、留意してください! コンバットエリアはフォワード! ミノフスキー散布はレベルCです!』
「……悪くないな、すんなり入ってくる」
プロシューターは頷いた。
初聞である第二戦闘指揮のファイアコントロールへの傾聴を続けながら、第一メガ粒子砲のミノフスキー障害調律機構をレベルCに上げる。と、機関出力がドーム稼働レベルへ到達した事を告げる電子音が割り込んで来た。
両脚を置くトレイサーに踏み込み圧をかけてコントロールをアンロックすると、2次元操作に滑らせる。
戦闘ドーム中央が開壁を始め、連動して、格納されているメガ粒子砲がスライドアウトしながら砲塔を回転させて、前方にその砲口を向けて行く。
『コンバットシフト、砲撃指揮は第1メガ粒子砲手! 各個の判断で最速砲撃を行え!』
A1か……
事実となったA1への対応を考えだしたこの時、プロシューターは想定A1のシミュレーションに感謝した。
P004MSPの対A1戦闘理解の為に、散々に付き合ったあの経験が今、A1をなんという実感度で思い描かせてくれる事だろう。
自分と同じ能力を持つA1のドム視点が、見える。それに狙われるP004MSがどう動いてどうなるかも、分かる。
そして、対峙するP004の砲火が、この敵に対してどうあるべきかも全て、把握出来る。
──[MC1] ゼンショウゼンレイ ゼンゲキ
プロシューターは電文を打った。
・・・・・・・・
・・・・
『ミサイルセット! アンチビーム仕様、1番から8番! ブロックサイト仕様、9番から16番! 通常対艦仕様、17番から24番! 全管、臨機発射に備えてください! ローディングルートは必ずクリアーをキープしてください! 対空砲は臨機射撃待機! ──』
ミサイル三種全菅装填。……要するに、何が起こるかわかんねえって事だ。
いつも通り、彼女らしいリキャップでコマンドを把握しながら、ラマンはコンソールのパワーレベル表示をチェックした。セットした55にゲージが到達し、iフィールド展開のサインが点灯する。
フォワード照射のレンジを微調整しているとアラートが鳴り、コンソールに電文が表示された。
──[MC1] ゼンショウゼンレイ ゼンゲキ
……A1は超常の狙撃力なんだろ? わかってるよ、要するに──
全速連射! 全弾センターブロー! 絶対にやらせんな! つうか、やっちまえ! って事な。
『全砲、応答、願います! セカンドコマンド、オーバー!』
「ラジャー! MC2!」
────ぶっとばしてやるぜ!!
・・・・・・・・
・・・・
『エネミーステート! ドム2! エリア48よりクラス1で接近中! A1のドムです! 最大限の警戒をしてください!!』
────ヴェル、こっちにおいでよ────
フワー……っと、その場の空気が甘く芳しく変わっていく様な感覚と共に、溢れるような笑顔の巻き毛の男の姿が思い浮かんだ。
それほど過去の思い出ではない。エレンが連邦のIDを貸与される前、まだ生来の本名で呼ばれていたときの記憶だ。
突撃機動軍のVIPを乗せてブラックヴォルトを訪れるたびに、暗く冷く恐ろしげに変わり果ててしまった故郷の威圧感の中で、彼=ナパームだけが、かつてのルウム13バンチに戻ったかのような安心感をエレンに与えてくれた。
EVFFFのエリートであるにも関わらず、彼はただの運転手でしかない非正規兵の自分に、いつもとても優しく構ってくれた。
────ねえ、ナップはどうして、私と仲良くしてくれるの? あ、私のこと好きとか!?────
ドギドキしながら、天然全開で訊ねるエレンに──
────運命だから?────
──そう言うと、ナパームは大きな声で笑った。
────僕たちは同じなんだよ。この広大すぎる宇宙で、僕たちが出逢えたのは奇跡なんだ────
遠くを見るように話すナパームの、嬉しそうな顔が忘れられない。
…………彼が、来るんだわ……
エレンは小さく瞬きして、耽りかけていた思いを振り払った。
「対空迎撃戦にベクトル合わせ、確認しました! 機関パワーレベル100、到達しました! 船体姿勢、戦闘準備完了しました!」
エレンの報告がブリッジに響いた。トランス感はもう微塵もない。しっかりテンションしている声色だ。
──経験が確認できます、マイラード中尉。
追撃艦隊との交戦の時のエレンの姿を思い浮かべて重ねながら、アダムは頷き、そして、ひょっとしてあれは彼女の初陣だったのかもしれない、と思った。
「敵機! 増速!! MS級戦闘加速! 気がついた様です!」
カインが警告を発した。
『エネミーステート! ドム2、クラス4へ増速! こちらを補足したと思われます!』
スワンのコマンドが流れる。
「総員、対ショック、対閃光防御! 超焦点打撃による未曾有級衝撃に備えろ!
無声通話に移行!!」
アームオンの指示が飛び、即時にアダムが通達、実行の処理をする。
『『BoneLink online』』
座るシートのレストから、身を寄せた壁付き固定装具のトレイから、それぞれに取り出した耐ショックマスクを咥えながらベルトロックを急ぐP004各所のクルーの聴覚に、無声通話有効化のマシンボイスが聞こえた。
────ミノフスキー粒子の戦闘濃度散布下では、その強度ミノフスキー障害により量子ビットが機能不全に陥るため、上位クオンタムAIであるAI作戦参謀官はスリープモードになってしまう。
BoneLinkは、AI作戦参謀官を介して行われる囁き通話の骨伝導無声通信だけを有効化した自動交換機能だ。なんらかの理由により開口を禁じる場合や、尋常ではない衝撃下に置かれる戦闘に用いられる。
無声通話が対ショック防御の為に使用される様な時は、一過性伝達である音声系の伝達は、意識の不覚や朦朧により通達の確実性が著しく低下する。そのために、ログがしっかり残る継続性伝達である電文も併用されるのが通例だ。
エレンは、まだ不慣れと緊張が滲む性急さで耐ショックマスクを取り出すと、苦いものでも見る様な顔をしながらそれを咥えた。
顰めた顔のまま、腰部のベルトロックの具合を確認すると、耐Gオプションの持たせ掛けを開いて頭背部を預ける。
三十度開脚姿勢を取ると、舵輪を両手でしっかりと握った。
始まる……
ウィンドウスクリーン越しに遠くを見つめて、エレンは本当に小さく、呟いた。
scene 035 デューティーメモリーズ
Fin
and... to be continued