機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
P004のブリッジは、推力80%の高加速で振動していた。
舵を取るエレンは、立座の姿勢で
普段は背を合わせるカインとアダムの座席も、90度回転して今は進行方向を向いている。そして、カインが見つめるディスプレイには4つの光点が
「敵艦隊より高熱源体分離! 熱源、レベルC! ザクです!」
カインの声が響いた。
「ええ!?」
エレンが後ろを振り仰いだ。その滑らかに捻られた姿体には、加速中の高G負荷など全くかかっていないかのようだ。見た目にそぐわぬ強靭さを持っているのだろう。
「──数は12機! 続いてレベルF分離! モビルアーマークラス! 3機!」
カインのオペレーションは続く。
「早過ぎる」
アームオンは加速のGに預けていた頭をあげ、上方スクリーンに拡大投影されているオペレーション映像を見た。その声は明らかに動揺している。このタイミングでの敵攻撃部隊の発進。それは、アームオンの企てた、アンブッシュ・カウンター・アタックを看破されたからとしか考えられないからだ。一体全体、どれ程の戦略家が率いている敵なのか。アームオンは、心底、驚愕した。
「艦長! アンブッシュ解除、コマンド、宜しいでしょうか!? 命令を!!」
シュアルは強く叫びながらアームオンを見た。MSチームに直ちに知らせなければならない。一刻も早く。数秒の余裕すらリスクだと、彼女の感覚はそう告げていた。
「アンブッシュ解除! 広域通信開放! 臨機戦闘始め! シフトは任せる!」
即答が如きのスピードで鋭く、アームオンはシュアルを見た。
目線で交わすリレーのバトンを受け取った様に、シュアルは素早くコマンド・コンソールに向かい直して、広域通信をオンにした。
「MSシフト!!
『ザザ……モーニン! お嬢! G1だ! ザ……でも怖くて一睡もできなかったぜ!? 一体さっきはどうしたんだ?』
G1=ジェット・イェット中尉の返信が最初だった。
11秒フラット! 起動は、7秒切ってるかも!! 最速記録じゃないかしら!? G1、流石だわ……
コマンドをするとき、シュアルは常にカウンターを回す。
G1返答時に見たカウンターの数字に、シュアルは驚いた。
『ザ……Gm1起動した! ザ……G1、現状把握を優先しろ! コマンダー!
Gm1=ガット・バトラー少佐の返信が続く。
広域通信は不安定だ。こちらからのコマンドはクリアーに届いているらしい。シュアルは安堵した。MSからの返信にノイズが入るのは通信パワーの違いだ。彼女にとっては問題ではない。
「コンバットシフト!
「敵艦隊! 増速!! 第一級戦闘加速! 相対速度差は秒速100メーターオーバーで均衡! 追い付いて来ます!」
カインが告げた。
「──エネミーステート! シャトル1、キャメル3、クラス4へ増速! キャナーシフト!
P004の両端から覗いていたメガ粒子砲が、その
極めて視力の良い者ならば、その瞬間に浮かび上がる、小さな敵艦影を見て取れたかもしれない。
「中尉! 推力100%! 最大戦速に増速しろ」
アームオンの声はやや重い。
舵を握るエレンが返答しようとした時、無数の雷光が艦橋のウィンドウ・スクリーン全周を支配した。船体に衝撃が走る。
敵艦よりのメガ粒子砲の返礼だ。凄まじい破壊力を秘めたビームが、P004の展開するiフィールドにぶつかり弾けて、稲光と衝撃に変わったのだ。
通常よりも遠距離での砲撃戦である。発生する衝撃はまだ小さい。
「!! ィ、イエッサー!」
エレンはかろうじて、悲鳴まじりの返答をしながらスロットルを開いた。
P004の、4ブロック16基から噴射されていたロケット炎がさらに輝きを増した。この艦は連邦艦船の中でもトップクラスの加速力を誇る高速戦闘母艦だ。最大加速のGは、訓練していない者では耐え難い。小さな
アダムも思わず小さく呻いていた。癖のようにエレンを伺うと、眉ひとつ動かしていないのであろう様子が、後ろ姿からも感じ取れた。
メガ粒子砲の発光と衝撃には
無意識に引き
まさか
今、俺達は絶体絶命だ。敵は本当にヤバい奴らだ。
月面出航からずっと追尾して来たのは驚いた。この船と艦長の指揮で振り切れないなんてな。……暗礁宙域に誘い込んでの、友軍艦隊を使った作戦も通用しなかった。そして今、まず読めないはずのアンブッシュ・カウンターも見切られて、決め打ちされている……
アダムは努めて、他人事のように考えている。本当は、必死だからだ。
仕掛けを全て見抜かれたんだから、もうすでに負けている。
……残る、出来る、最大限は…………だから最大戦速に上げるのか……
────彼はコミュニケーターだ。本来は、艦隊において僚艦艇との連携を担うのが第一任務である。P004の様な単独艦での作戦遂行にあっては、有り体に言えば暇とも言える。
こっちが全力加速すれば、敵艦隊も追尾の為の更なる加速をしなくちゃならない。それは、こっちのMS隊とのエンカウンター時間を短縮させる。
敵MS隊は、艦隊到着までに、こっちのMS隊を掃討しないといけないから、時間が短くなるのは辛い。……つまり、敵の掃討部隊に苛酷を強いて、敵艦隊に危険を強いるってことだな。
────だから、アダムは他のクルーのフォローに全力を尽くしている。エレンに絡む事が多いのは、彼女がこの船のブリッジクルーでは一番未熟だからだ。彼自身は、意地悪をしているとも、彼女をいつも気にかけているとも思っていない。
そして今は、アームオン艦長の作戦、その意図を出来るだけ理解することが最優先事項だと判断していた。
……その代わりに、こっちのMS隊との距離は加速度的に開いていく。この加速はゴツいからな。すぐにMS回収可能圏を飛び出してしまうだろう……
……だから、今一番必要なフォローは、艦長にそのタイムリミットを告げること。だから……
アダムは視線を隣に向けた。
「現加速度での、MS回収可能圏離脱は330秒後!」
カインが言った。真剣な表情でオペレーション・ディスプレイを見つめながらコンソールを操作している。アダムの視線に気づいた様子もない。
軽い電子音が鳴り、ブリッジの上方スクリーンに残時間のカウンターが表示された。
流石だ、相棒。……こいつはホント、頼りになるよ。
視線を前方に戻して、アダムは次にすべきことについて、考えていた。
・・・・・・・・
・・・・
P004、第4デッキ──
クラウザーは、ハンガーロックされたままのG4のコックピットで、静かに目を閉じて、深刻な展開を告げているやり取りに耳を傾けていた。
『コンバットシフト!
クラウザーの瞳が見開かれた。同時に、スティックに置いて脱力していた手先が微かに反応する。一瞬遅れて、G4のコンソールに『
硬い機械音と微かな振動と共に、ハンガーのロックが解除された。コマンダーの
自由になったG4の機体が前方に飛ぶ。艦は後進加速しているため、Gは前方に向けて発生しているからだ。
クラウザーの両手が緩やかにスティックをスライドさせ、その指先が細かく動く。G4は、小さく細かく姿勢制御バーニアを発しながら、デッキをまっすぐ駆け抜けていった。
・・・・・・・・
・・・・
「リーダーより全機!
指令半ばで、言いながら、バトラー少佐はフルスロットルをかけた。
Gm1が閃光を背負って加速する。モニターの一部に映し出された後方映像に、同じく背負った眩しい閃光に影となったGm2が、ピタリと追従してくる姿が見える。
コンソールに視線を向けて、 MSチーム各機の動きを素早く確認する。
3つの光点が3方に移動していた。広がっていく三角形の中央で、2点一組の光点が6つ、均等な
完璧だ! 満点をくれてやるぞ、貴様ら!
P004MSチームに、リーダーのオーバーコールが出るまで行動開始を待っているような者は居なかった。
「──敵艦隊は急速接近、母艦は離脱だ! わかるな! こっちの武器は時間だ!!
打ち返されるが如き、MSチーム各機のラジャーコールの気合いを感じながら、バトラーはGm1に高精度射撃ポジションをロードした。
それより寸刻の前、MSチーム全体の展開の様子から、既に自身の展開ルートへの進路微調整を終え、誰よりも早く
『────
「ラジャー! G1!」
ゲイダンスか。あれは勘弁だが、そんな事を言うってことは、少佐はご機嫌だ。……当然だな、このチームはマジで素晴らしい。
……おかげで……あんまり見たくないもんも、見てるがな……
ぼやく様に思いながら、ジェットはメインモニターに分割投影されている各敵機のうち、一つだけ大きく表示させている画面の、暗褐色のビグロを睨みつけていた。
……これも
わかる。こいつはヤバい。初めてだな、この感じは。
俺と同格か? ……だから……ビンビン伝わってくるぜ!
こいつが、敵のNo1だ。
ジェットの指先が細かく動いた。分割投影されている小窓がスルスルと動き、先程まで中央にあったビグロの映像に代わり、2つの小画面が並んだ。映っているのは、両方ともザクだ。
ジェットは、2機を
開戦の初撃は、最も敵の回避運動を捉えやすく、外し難い。故に、撃墜スコアを最も獲りやすい攻撃である。
だから、MSチームに於いては、一斉射撃の余裕が取れない時は、チームのエース・スナイパーが第一射撃を行うのが通例だ。
確実に初弾撃墜できると思える的の中で、最も強い奴を撃ち落とす。敵のエースより先に。それは、戦闘でのイニシアティブを掌握し、友軍への大きなアドバンテージをもたらす。
チームのエース、ジェットの担う責は、重い。
こいつを撃ちたいがな。正直、微妙な所だ……ムラがあるが、回避運動のキレがいい……
右に映るザクをズームしながら、ジェットは小さく舌打ちした。
と、左に映るやや動きの鈍いザクに照準を移そうかと思ったその時、ビーム攻撃の閃光が右の小窓に走った。刹那、ジェットの指が
危うく
四肢を飛ばしてザクが爆散し、巨大な光が膨れ上がった。
「誰だ!?」
ジェットの口をついて出たのは、撃墜の歓呼ではなく、疑問の叫びだった。
『G1!! グッジョブ!』
G2の声だ。続いてG3の歓声も聞こえてきた。
今、撃ったのは!?──ジェットは、思わず問い掛けそうになった。
……こいつらが、そんな事をする筈がない。それに、出来る筈もない。
ジェットが、どの的を狙うのか、いつ撃つのか、を把握して、それに呼応する
あれは、メガ射手じゃない。G型のビームライフルだ。可能性は、一つしかない……
先取点を許してしまった敵部隊のビームが、激しく撃ち返されてきた。
鮮やかに回避運動をこなしながら、P004MS各機も交戦を開始している。
G4……そいつは、
そう、G4……お前か。
ジェットは、遥か後方の母艦を小画面に拡大表示させた。
P004の船体両端から伸びる、2本のメガビーム。そして、細く鋭く放たれる3本目──ビームライフルの閃光が、そこにあった。
scene 008 テイクザリード
Fin
and... to be continued