機動戦士ガンダム ゴーストクロニクル series000 作:GhostWrider.Jp
「……! 高熱源体多数発生! 敵MS! 艦隊進路上! 先刻の
「なにいいいいい!!? 本当に!! 居たのか!!?」
ブリッジの空気が震える
続いて、
「コミュニケーター! 全艦隊に通達! 突破戦闘の艦隊指揮を
奥のソファーで腕と脚を組んで、難しそうな顔でスクリーンを見つめていた、艦隊指令官=ギュオス・メイ少佐は勢いよく立ち上がった。
「少佐殿!! どういう、おつもりでしょうか! それは、自分に与えられた責務であると任じております!!
首まで
「そうではない艦長。権限を持つということは、責任を負うということだ。
これより艦隊は最大戦速で敵MS網に突撃、これを突破せねばならない。
この状況の責を、貴様に負わせるのはどうかと思ったのでな」
ワーデンが小さく
「ウルドが先行する! ベルセルクは後方に付け! アルマン、カミング、ヤーベルゲンは、私と出るぞ!」
ワーデンの返事を待つ事なく、コマンダーに命令を発すると、ギュオスはもう一度ワーデンを見た。
「それに、奴らの作戦を認めた私も、艦隊突破はやってみせねばなるまい?
ベルセルクは本分を果たせ! 最大戦速をもって二頭立てを補足、これの撃破に務めろ! 艦長、指揮を執れ。つまり、ワーデン、貴様には最後に二頭立てを仕留めるという役回りを押し付けることになるかもしれないが……やってくれるな?」
口元を不敵に笑わせ、目は鋭く細めて、ギュオスは問うた。
「お、お任せを!!」
激情に捻じ曲がった難解な顔で、ワーデンは返答した。
ギュオスは小さく、しかし堂々と笑いながら、後ろ向きに床を蹴った。
綺麗なAMBACで身体を捌くと、艦の加速Gを利した移動でブリッジを後にした。
・・・・・・・・
・・・・
「旗艦より通達! ウルド艦長は敵MS網突破戦闘の艦隊指揮を執られたし!」
バチン! と、鋭い掌打音がした。
艦長=オルドーのサインだ。了解したことを告げている。
「全艦隊、 第一級戦闘加速! 戦型構築! 左上、本艦! 央下
ブリッジ上方スクリーンに映る、各艦の動きを見ながらオルドーは言った。
「は! ……続いて旗艦より通達! ゲルググ4機、発進予告! 指令官も出られるそうです!」
バチン! 再び強い掌打音が響いた。
オルドーは、気持ち、顔を右後方に向けるかのように傾けた。
「リーレーン、作戦を評価せよ」
ウルドのブリッジ──
オルドーの座るキャプテンシートには、斜め後方に補助席が設置されている。そこを指定席とする将校がいた。オルドーの腹心、ウルド副長=リーレーン・レーン中尉だ。
「作戦は最上です。いつも通り、最速、最効率での我が方の勝利は
────オルドーはこの副長を目にかけていた。普通なら、第二ブリッジで副長席に就いている筈だし、戦闘中に艦長と直に会話をする事もない。
「……殆ど、とは?」
────実戦という最高の環境で、リーレーンを育てようとしているのだ。生死の賭かった際どい戦闘である程に、その教練の成果は大きくなる。
全神経を集中すべき戦闘中に、そんなことをする艦長は居ないし、
「一つには、敵MSチームの戦闘力が解らないという事です。
しかしながら、我が攻撃部隊を凌駕するとは考えにくく、また、万が一にも、この状況下でそれを為せるならば、
ウロウス殿の勘が、それを見落とすこともあり得ないでしょう。つまり、これは
オルドーは愉快そうに聴いている。斜め後ろのリーレーンに、わずかに上がった口元を覗かせて、パン! と、指を鳴らして見せた。
「は、もう一つは……敵のプランBです。
いざとなったら、二頭立てはMS隊を捨てて、そのまま全力離脱で機密を逃すだろうという方策です。
……敵が本当にこのプランBを想定していた場合、それは実行されるでしょう。明らかにアンブッシュ・カウンターの目論見を我々に看破されたと、二頭立ても認めざるを得ない現状だからです。
しかしながら、我々はプランBの先……手持ちのMSを失った先に、二頭立てはどうやって任務完遂を支える戦闘力を保持するのか、判っていません。いえ、想像も出来ていないというべきです。私の懸念事項は、実際は、この一点です」
言い終えると、リーレーンはそっと中指を顔に寄せ、ブラウンに透けるバイザーを直す仕草をした。
「貴様らしい繊細さだ。臆病とは言わん。
殆ど完勝と判断する上での、
オルドーの指令が艦隊に行き渡り、各艦が呼応して増速しながらの戦型構築を開始した。
捻りのかかったGに耐える為、オルドー自身もしばし口をつぐんで身体を固めた。
「──それに、最も評価できるのは、敵の機密という『謎』に対する姿勢だ。
そう、
……しかし、それでも──」
無数の凄まじい雷光が、ウルドの船体を舐めるように包み弾けた。同時に重い衝撃が響いてくる。二頭立てからのメガ粒子砲撃が始まったからだ。直撃すれば一撃粉砕の必殺のビームが、ウルドが照射展開しているiフィールドで、斬り裂かれ偏向させられ、閃光と衝撃に散ったのだ。
数々の実戦をくぐり抜けてきた
「返礼! 全艦、砲撃開始!」
号令が飛ぶ。すぐさま、コマンダーとコミュニケーターがそれを実行する様子を伺いながら、オルドーは首だけを、また少し右に傾けた。
「それでも、今は目下に全力集中して良い。何故か? 奴らが強いからだ。確かに圧してはいる。しかし、それは我々が桁外れだからだ。これほど手強いと感じさせられる敵は、私の戦歴にも記憶がない。
リーレーン、貴様の言う、未だ未知数の敵MS隊も同格に手強いと決めて掛かるべきなのだ。よもやアースティンが引けを取るとは思わんが、舐めれば手痛いでは済まんという覚悟が要る」
艦隊の4隻の戦闘艦が砲撃を始めた。遠くで、弾ける花火のような閃光が開く。
「この早い砲撃開始は、明らかに奴らの焦燥だ。
起動して、姿を晒したMS隊への砲撃を牽制したいという、隠し様のない意図がある。それは、こちらの攻撃部隊と戦闘を交わしても
我が方の戦闘データを持つ二頭立てが、そう思えるだけの戦闘力を持つMS隊だと判断するべきなのだ──」
「敵艦、増速! 二頭立て推定推力の100%! 最大戦速です!」
バチン!! オペレーターの報告に、今までで最も大きな掌打音が応えた。
「これは? リーレーン! 二頭立てはプランBの実行に入ったのか? その見立てで良いか?」
「……判りません。いえ、断じるには早いと考えます。我が方の時間の猶予を奪う事こそが、今、二頭立てが一番にすべき事だからです。しかし、プランBへの布石であるとは断言致します」
オルドーは笑った。それは、何人かのブリッジクルーが思わず艦長を見てしまった程の、愉快そうな笑い声だった。
・・・・・・・・
・・・・
『
「
スピーカーに帰ってくる歓声と口笛に、自身も笑いを漏らしながら、攻撃部隊長=アースティン・シェード大尉はメインモニターに次々と開いていく、敵機ズームウィンドウを素早く見比べていた。
こいつら……速い……上手い……
これは相当なもんだ。手強い。うちの連中もビビるぞ、これは。……それでも──
「リーダーより全機! ゾーンで潰すぞ! 撃墜に拘るな! この後、展開してくるゲルググ隊に譲ってやれ。
初撃は、俺がやる!」
──俺達が勝つ事に変わりは、無い!
気合いを入れ直すように唇を結び直すと、アースティンの指が
────あまりの速さに指が震えたようにしか見えない────
とは、かつてアースティンの操縦シミュレーション映像を見た教官の漏らした言葉だ。
「
マシンボイスが連呼した。
高精度射撃ポジションへ。すぐに、アドバンスド高精度射撃ポジションへと機体が切り替わる。
ビグロのフレキシブルアームが定位置に固定され、機首メガ粒子砲口に光が集束し始める。
メインモニターに散在していた各敵の映像がスクロールし、中央に位置取った3枚のスモールウィンドウに詳細情報と
……強い奴がいる。こいつは
アースティンの指が震える。瞬時にズーミングウィンドウを入れ替えた。
……いいチームだ。腕のばらつきがとても少ない。連携戦闘では、さらに強力になるな、こいつらは。
よし、
アースティンの双眸が次々にステップする。そして止まり、焦点が絞られた。
お前だな。お前がこいつらのボスだ。
拡大表示されて映っていたのは、そう、
いい動きだからな……撃墜確信まで
敵機回避運動を予測して、アースティンはエイミングを開始した。Gm1を追うレティクルのズレがだんだん小さくなっていく。
命中確率を表示している数字が勢いよく上昇し、赤色系から青色系に変色していく。
アースティンがそう決めて、指先をトリガーに動かそうとした時、艦砲射撃とは異なる、細く鋭いビーム光がメインモニターに走った。
「待て!! うおおお!!」
アースティンの叫びとほぼ同時にアラートが鳴り、スモールウィンドウが開き、友軍機が爆散した様子を映して見せた。
当たったのか! この
『アースティン! 連撃だ!! アシストした奴がいる!』
アースティンの驚嘆の疑問に答えるかのように、ビグロ2番機の声がした。
アシストシュート! だと!? まさか! ありえん! しかし……
「確かになァ! それしか無いなァ! よく見ていたな!
アースティンの檄に、
・・・・・・・・
・・・・
「敵艦、さらに加速!」
「最大戦速か!?」
艦長=カッセル大尉は、オペレーターへの確認要求をすると、
「二頭立ては、MSを廃棄しての全力離脱へ、フェーズを移そうとしていると警戒します」
ぷはぁ〜〜という吐煙音が、それに答えた。
それで良い、という事だろうなとカッセルは判断した。
「…………奴らのMSは15機、か?」
煙の主が
すでに、
「確認できるMS級熱原体は15機です! 敵艦は最大戦速で間違いありません!」
オペレーターの返答順序は質問順序を
今度は、ぷふぅ〜〜という吐煙音が答えた。
「二頭立ての最大運用MS数は16です。一つ足りませんが、何か用意を致しましょうか?」
不服、なのかもしれないと思ったカッセルは、尋ねた。
「……気に入らんがな。今は……いい。シートを下げてくれ。最大戦速はキツいからな。……すぐに、こちらもそうすることになる……」
ソフィア・ウロウス参謀は、そういうと愛用の煙管を仕舞った。
シートを高く持ち上げているアームが動いた。特製の展望席がフロアに降り立ち、参謀席らしい姿に安置された。
「
「ヨーソロー!!」
コミュニケーターの通達に、カッセル艦長はそのままを号令した。操舵手もそのままにスロットルを開く。ソフィアが『すぐにそうなる』と発言していたからだ。神の信託を疑う者はいない様に、ソフィアの言を疑う者もスクルドには居なかった。
最大戦速の強烈なGと、二頭立てからの艦砲射撃による
「
オペレーターの報告に、ブリッジの意気が冷えた。
「シェード大尉が遅れを取るとはな……これで、ハッキリした! 総員、気合を入れ直せ! 勝ちが決まっているだなどと思うな! 九死に一生を得たが如しであった、あの、ソロモン突破戦だと思え!!」
自らにも言い聞かせるように、カッセルは号令した。
「……いい訓示だ、艦長」
ソフィアが言った。ことも無げな言い様だった。しかし、その瞬間にブリッジの空気が一気に張り詰め、凍りついた。
「……は……あ、ありがとうございます」
蒼白な顔でカッセルは答えた。自分が下した号令は、
「まさしく、あの突破劇、再び……だな」
ソフィアは、小さく、小さく、呟いた。さすがの彼女でも、これはクルーに聴かせるべきではないと自制したのだ。
手強い敵だ。MS戦での初手も取られた。しかし、それでも、戦術的にも戦力的にも状況的にも断然優勢だ。誰もがそう判断する。あのオルドーでさえも、自軍の勝利を疑っては居ないだろう。
困るんだよ、勘ってやつは。なんでそうなのか、分からないんだ。でも、そうなんだよ。
この戦いは、分に劣る……私の勘がそう言って止まない。……私の勘は……絶対、外れない……
ソフィアは、仕舞った煙管を取り出そうかと思った。最大戦速のGで、手がとても重い。少し考えて、やはり煙草を諦めた。
「ふぅ〜」
代わりに、吐息を漏らした。
scene 009 激闘の予感
Fin
and... to be continued