前前世社畜、前世鬼殺隊士、今世ウマ娘   作:サイレン

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注意:約27000文字




夢中になれるモノが いつか君をすげぇやつにするんだ

 

 

 その日見た光景を、今でも鮮明に覚えている。

 

 普段は寡黙という言葉が似合う父親が、珍しく興奮した様子で笑顔を浮かべていた。

 

「今度の日本ダービーはきっと歴史に残るレースになる。だから見に行こう!」

 

 幼かった自分は日本ダービーが何かもよく分かっていなかったが、大好きな父親とお出かけができることに喜んでいた。

 

 約束した休日。

 早朝も早朝。寝ぼけ(まなこ)をこすって向かった先には人、人、ウマ娘、人。世界にはこんなにも人が一杯いるのかとびっくり仰天した記憶がある。

 その群衆を父親に抱っこされながら掻き分けて進み、入場券が買えたとはしゃぐ父親につられて笑い、レース場の観客席の最前列にまで乗り込んでいった。

 今だから分かるが、当時の父親は運が神がかっていたのだろう。あの伝説の日本ダービーで最前列を確保するなど、並大抵の幸運では掴み取れなかったのだから。

 なぜあんなにも必死だったのかと大きくなってから聞いたら、ウマ娘である自分にどうしても生で見せたかったと語られた。父親の自分への愛がとても感じられたし、そのお陰で夢を抱けたのだから心の底から感謝した。

 

 これから観るのは日本ダービーというレースだと父親から説明を受けていた。

 レースというものはテレビで観たことがあるから知っている。自分と同じウマ娘がゴールを目指して走る競技だ。

 知識としてはあるが、特段思い入れがあるわけではなかった。ウマ娘なので走ることは好きだが、レースに対して強い憧れを抱いたことはなかった。

 

 観客席の最前列に着いてまず思ったことは「うるさい!」だった。

 雑音というレベルを遥かに超えた騒ぎ声に堪らず耳を倒して我慢していたが、正直この時点で帰りたいと思っていたことは父親には内緒にしている。

 一体何が始まるのだろうかときょろきょろし始めた頃、これまでの歓声は序の口と言わんばかりの大音声が世界に轟いた。耳が壊れたと思った。

 

 反射的に父親を見ると、父親の視線の先には赤い服を着たウマ娘がいた。周りの叫び声から、名前はマルゼンスキーだと分かった。

 彼女の退場から続々とウマ娘が姿を見せたが、そこからは少しだけ落ち着いていた。

 なぜあのウマ娘だけ声が大きかったのだろうかと疑問に思い始めた頃、またしても爆音のような大歓声が轟いた。耳が壊れたと思った。

 

 学習していたので目の前のステージに目を向けたところ、黒い服に炎のような白い羽織を着たウマ娘が登場していた。

 そのウマ娘が父親の目的だったのか、周りと一緒になって名前を叫んでいる。パーガトリーと言うらしい。

 何が何だかわけが分からなかったが、とりあえず応援するウマ娘が決まった瞬間だった。

 

 出走者のお披露目が終わって、ようやく本番のレースが始まるらしい。

 先程ステージに現れたウマ娘たちがゲートに入っていくのを見守る中で、突如として空気が変わったことを感じ取る。

 ゾワリと身体が震えた。その感覚が「戦慄」だと知らなかったが、誰が原因かはウマ娘の本能で理解できた。

 

 パーガトリーとマルゼンスキー。

 

 あの二人はなにかおかしい。

 当時の自分ではそうとしか表現出来なかったが、今言うのならこうだろう──格が違う。

 

 その直感は当たっていた。

 ゲートが開いてレースがスタートする。大歓声が鳴り響く中、その二人が先頭で走っていた。

 速かった。自分とは比べることすら烏滸がましい程に速かった。気付けば周りの雑音が耳に入らないくらい夢中になっていた。

 あっという間に向こう側に行って、あっという間に目の前に戻ってきた。

 

 ゴールまでの最後の直線。

 

 パーガトリーとマルゼンスキーが横に並んだ瞬間、世界が変わった。

 踏み込んだ足は音を置き去りにし、赤の軌跡を残して目の前を駆け抜ける。

 離れているはずなのに、明確に伝わってきた。

 

 熱が。

 炎が。

 闘志が。

 魂の叫びが。

 

 自分の中に眠っていた何かが叩き起こされる感覚。

 心が、感情が揺さぶられて、大声を出さずにはいられなかった。

 

 瞬きの間に二人はゴールしていて、集まっていた人は固唾を飲んで掲示板を見詰めている。観ていただけなのに、自分の心臓がドクンドクンと鳴っていた。

 パーガトリーは18、マルゼンスキーは1。

 レースよりも長い時間が流れたように感じた頃、一番上に番号が点灯する。

 

 ──18

 

「っっっ!!!」

 

 見た瞬間、父親と一緒に叫んでいた。何を叫んだのかは覚えていない。とにかく心のままに声を出していた。

 

 そして、憧憬を見た。

 

 パーガトリーが天を掴み取る姿。

 

 その日見た光景を、今でも鮮明に覚えている。

 あんなふうになりたい。

 あの人みたいに、このレースを走ってみたい。

 

 あの人みたいに、みんなに夢を、希望を、勇気を、感動を与えられるウマ娘になりたい。

 

 パーガトリーに憧れた。

 パーガトリーが成し遂げた偉業に心が震えた。

 

 無敗の三冠ウマ娘になりたいと思った。

 

 その日から、夢に向かって走っていくことを決めた。

 元トレーナーだった父親に指導してもらい、厳しいトレーニングにも泣き言一つ言わず取り組み、努力の甲斐あって中央トレセン学園に入学することができた。

 

 校門の前で校舎を見上げて、決意の一歩目を踏み出す。

 あの日見た憧憬の姿を、自分の手で掴み取る為に。

 

 そうして一人のウマ娘──ミホノブルボンは、トゥインクル・シリーズに名乗りを上げたのだった。

 

 

 

 

 今年の日本ダービーも、最高潮の盛り上がりを迎えていた。

 

『逃げる逃げるミホノブルボンが逃げる! 残り400! ここからはミホノブルボン未知の世界!! 現在2位のライスシャワーとの差は4バ身! 先を行くミホノブルボンを差そうと加速するが中々距離が縮まらない!! 残り200! おそらく勝てるだろう! おそらく勝てるだろう! ミホノブルボン! 2400を遂に逃げ切りゴールッ!! 6戦6勝! 去年のトウカイテイオーに続いて、またもや無敗の二冠達成であります!!』

 

 東京レース場に大歓声が響き渡る。

 ミホノブルボン。

 寒門出のウマ娘で本来の脚質はスプリンターであるにも関わらず、クラシック三冠を夢見て挑戦を続け、遂には無敗での二冠を達成した。

 まるでドラマのようなシンデレラストーリーを駆け上がるミホノブルボンの人気は絶頂を迎えており、彼女を讃える歓声が絶え間無く鳴り響いている。

 

 レースファンはミホノブルボンに夢を見ていた。

 去年のトウカイテイオーが故障で成し遂げられなかった三冠の夢を。

 皇帝シンボリルドルフ以来の無敗の三冠を。

 

「ミホノブルボンさん! 日本ダービー勝利、おめでとうございます!! 無敗での二冠達成、今のお気持ちを教えてください」

「はい。とても嬉しいです」

 

 表情一つ変えずにそう言い切るミホノブルボンに、記者は慣れた様子で矢継ぎ早に質問を続ける。

 ミホノブルボンは正確なラップタイムを刻む逃げと、喜怒哀楽を見せない無機質な表情などから「サイボーグ」と呼ばれ親しまれていた。取材に対しても同様の対応であるため、この時に至るまでに記者も世間も扱い方は心得ていたのだ。

 

 その後も順調に勝利会見は進み、終了時間が迫ってきた。

 

「では、ミホノブルボンさん。菊花賞への意気込みをお願いいたします」

 

 恐らくこれが最後の質問になるだろう。

 記者一同がそう思いながら、ミホノブルボンの言葉を一字一句聞き逃さないように準備していた。

 そんな心情など露知らず、ミホノブルボンは淡々と口を開く。

 

「はい。私は、このままの成長では菊花賞で100%負けると師匠に言われています。なので、この五ヶ月でより一層のトレーニングに励み、無敗での三冠を手にしたいと思っています」

 

 ミホノブルボンのこの発言に、記者は漏れなく固まった。

 聞き間違いか?

 それとも自分の耳がおかしくなったのか?

 全員がそう思ったので一瞬前の記憶を思い返してみたが、結論は変わらなかった。

 

 今、ミホノブルボンは、堂々とした敗北宣言をした。

 厳密に言えば宣言ではなくただの予想なのだが、このような場で走ってもいないレースの敗北を語るウマ娘は過去に存在しない。

 この状況で何を言えば良いのだろうか……?

 その反応にミホノブルボンは無表情のまま小首を傾げて、後ろで見守っていた世界的にも有名になったトレーナーは頭を手で押さえていた。

 

「月刊トゥインクルの乙名史です! 負けると予想しているということは、既にライバルとなるウマ娘を把握しているということでしょうか?」

 

 何とも言えない微妙な空気が流れる中で、いち早く動揺から立ち直った黒髪美人女性記者が威勢良く手を挙げる。

 ミホノブルボンは素早くそちらへと視線を走らせた。

 

「はい。その通りです」

「どなたが立ち塞がるのか、教えていただくことはできますか?」

「はい。ライスシャワーです」

 

 飛び出た名前に記者たちからは騒めきが生まれた。

 

 ライスシャワー。

 今回の日本ダービーでも2着と実力を伸ばしているが、未だに重賞での勝利がないウマ娘だ。この時点ではノーマークと言うのは過言だが、ミホノブルボンのライバルたり得ると思っていた者はごく僅かだろう。

 もはや会見時間など気にしていられなくなった記者は、ここぞとばかりに前のめりになった。

 

「なぜライスシャワーなのでしょうか?」

「はい。彼女は生粋のステイヤーだと師匠が言っていました。まだ原石とのことですが、磨かれればあのメジロマックイーンをも超える可能性があると言っていました」

「げ、現役最強のステイヤーと名高いあのメジロマックイーンをですか?」

「はい。師匠はそう言っていました」

 

 新たに放り込まれた爆弾に会見会場が騒がしくなる中、一人の記者が恐る恐る手を挙げた。

 

「あのー、先程から仰っている師匠とはどなたのことなのでしょうか? 確かミホノブルボンさんは、トレーナーのことをマスターとお呼びしていたと思うのですが……」

 

 実は誰もが思っていたが聞きそびれていた内容に、ミホノブルボンへ視線が集中する。

 この質問に対して、ミホノブルボンのウマ耳がぴくんと跳ねた。

 言っていいのか自分で判断出来なかったのだろう。これまでのように即答せずに、そのまま背後を振り返ってトレーナーを見詰めていた。

 

「……構わん」

「了解しました」

 

 ぶっきらぼうに告げられた許可を得て、ミホノブルボンは前を向く。

 

「師匠の名前はパーガトリーと申します」

「「「「「パ、パーガトリー!!?」」」」」

「はい」

 

 ここ一番の驚愕を露わにした記者に対して、あくまで淡々とした態度でミホノブルボンは繰り返した。

 

「私の憧れであり、【原点にして頂点】、【ワールドブレイカー】などの異名を持つパーガトリーが、私の師匠です」

 

 

 

 

「ミホノブルボン。私が今、何を思っているのか分かりますか?」

「いいえ。分かりません」

「ミホノブルボン。私のことは内緒にしておいてほしいと言ったこと、覚えていますか?」

「はい。覚えています」

「では、なぜ日本ダービーの勝利会見で私の名前を出したのですか?」

「はい。マスターの許可があったからです」

「そうですか。最後に、結論として誰が悪いと思いますか?」

「はい。分かりません」

 

 こやつめ、ハハハ。

 

「いーたーいーでーすーーーーー」

 

 ソファーに座っているミホノブルボンのこめかみに後ろからぐりぐりと軽く拳を当てて、私は小さく溜め息を吐いた。

 傍にあるテーブルには乱雑に開かれたレース情報誌が多数あり、内容は先日の出来事がまとめられたものばかりだ。ミホノブルボン、日本ダービー、パーガトリー、最強帰還、師弟関係、後継者などなど、水を得た魚のように各社が好き放題書いている。だから嫌だったのに。

 とりあえずぐりぐり攻撃を止めてミホノブルボンの隣に座ると、感情の薄い大きな瞳がまっすぐとこちらを見詰めてきた。

 穢れを知らない純真無垢さに負けてミホノブルボンの頭を撫でてあげると、むふーっ、と尻尾をぶんぶんと振りながら、僅かに表情を和らげて身体ごと寄せてくる。犬みたいで可愛いんだよなぁ、この子。

 

 ミホノブルボンとの出会いは割と最近だ。

 ここ数年はたまに帰国するが、基本的にはマルゼンスキーと一緒に海外レースを荒らし回っていた。

 アメリカもヨーロッパも堪能したし、次は何処に行こうかなんて話していた頃に、トレーナーから連絡があったのだ。

 おや珍しい、と思いながら話を聞いたところ、才能があるわけではないが、とある子が私に憧れて無敗の三冠を目指している。ギリギリで難しそうだから手を貸してほしい。というものだった。

 散々好き勝手やらせてもらっている身としては断る理由が無く、マルゼンスキーも「チョベリグじゃない!」と快諾してくれたので即日で帰国したのだ。

 ちなみに「チョベリグ」とは「超ベリーグッド」の意味で、私が知る限りマルゼンスキーは五年以上使い続けている最新鋭の流行語である。

 

 閑話休題。

 

 トレセン学園に戻って紹介されたのがこのミホノブルボン。

 身体付きはマルゼンスキー並みに成熟した魅惑ボディーなのだが、しばらく一緒にいて分かったことは二つ。

 

 心は幼女! 性格は犬! その名はミホノブルボン!!

 ……母性が、無いはずの母性がくすぐられるぅっ!

 

 つい過保護になってしまいそうな気持ちを抑えておよそ一ヶ月弱。トレーニングを見守ってきたが、なるほど、トレーナーの懸念もよく分かる。

 

 集中して目を凝らすと、ミホノブルボンの肌を超えた内部が透き通って視えてきた。

 筋肉、骨、内臓を見透かして、その人のあらゆる肉体情報を把握できるこの力。通称は確か透き通る世界、だったかな? いやー、便利だわホント。

 修験者みたいな修行の果てにようやく修得したけど、その甲斐はあったというものだ。

 ……まぁ、元はと言えばマルゼンスキーが全ての原因なんだけど。

 

 なんであの子は全集中の呼吸の片鱗を独力で掴めちゃうの?

 

 どうしてもパーガトリーちゃんに勝ちたかったの! じゃないのマジで。

 クラシック期最後のレースだった有記念で、全集中の呼吸を織り交ぜたマルゼンスキーの領域に力負けした時は、流石の私も冷静さを欠こうとしていた。

 だからといって、一度知ってしまったマルゼンスキーをそのまま放置も出来ない。未完成の全集中の呼吸など危険極まりないからやむを得ず伝授したところ、まぁ、……うん。推して知るべしってやつだね。究極体が超究極体になった時のあの絶望感よ。おめぇ、まだ上があんのか……!

 春のシニア三冠の天皇賞春は距離適性の差でなんとか取れたが、大阪杯と二度目の宝塚記念は負けたよそりゃ。

 

 足りない、速さが足りないっ!!

 

 海外遠征の決定打になったよね、うん。名目は凱旋門賞取りに行きますだったけど、ぶっちゃけ修行が主目的だった。標高5,000m級とかもう登りたくない。

 

 とまぁ一先ず思い出は他所に追いやって、改めてミホノブルボンの身体を観察する。

 脚質はスプリンター。短距離なら天性の才があるが、マイル以上となると出力が落ちるだろう。外付けでスタミナを増設しなければ中距離ですら勝負にならないところを、トレーナーの手腕でここまでやってきた、といったところだ。

 大分身体に負荷が掛かってるなぁ。一旦小休止を挟まないと壊れる可能性大である。

 しかし、目標は日本ダービーより更に600mも長い菊花賞。

 なんだかんだウマ娘想いなトレーナーは、ミホノブルボンの熱意を汲んでノータイムで坂路ダッシュを命じることだろう。

 だが、壊れるほどの練習はさせない。なのに、ミホノブルボンは現状壊れかけではないが、その一歩手前ぐらいには迫っている。

 

 分かり難いんだよなぁ、この子。

 表情や態度は勿論のこと、日常生活やトレーニング中ですら己の不調を他人が察せないレベルで抑え込めるのだ。この短期間でよく分かった。

 総評として、根性はある。身体もかなり頑丈。マイル以上の才能はあまり無かったが、中距離であれば日本ダービーを制するスタミナが増設し終わっている。ただし肉体としては限界に近い、と。

 うーーん、難しい。

 しかも同期に才能あるステイヤーがいるとなれば更に厳しい。

 

「パーガトリー」

「トレーナー、私とミホノブルボンに三ヶ月ください。それでも可能性は三割を切るでしょうが」

「頼めるか?」

「はい」

 

 ミホノブルボンの頭から手を離すと、露骨にしょぼんとするウマ耳とウマ尻尾が目に入った。

 …………。

 わしゃわしゃわしゃわしゃ。

 

「むふーっ」

「……パーガトリー」

「はっ!?」

 

 いけない、自然と手が動いていた。

 だって可愛いんだもん。もはや遠い記憶だが、蟲柱様の継子ちゃんを思い出す。外見も在り方もあまり似てはいないんだけど、どうしてか連想してしまう。結局お人形みたいな作り笑顔しか見ることはできなかったが、あの子はちゃんと心のままに生きることができたのだろうか。

 ……らしくなくセンチメンタルになってしまった。

 こほんっ。

 

「では、明日から頑張りましょう」

「今日からではないのか?」

「当然です。今日はやることがあります」

 

 夕焼けが眩しい時間帯。

 がちゃり、とチーム室の扉が開いた。

 

「パーガトリー様、買い出し終わりました!」

「今日はブルボンちゃんのお祝いと言ったら、にんじんがタダになったんですよ!」

「パーガトリーお姉様! 私料理が得意なので、ブルボン先輩のために頑張りますね!」

「皆さん、ありがとうございます」

 

 後輩であるチームメンバーの子たちが意気揚々と戻ってきた。

 何人かわたしに様付けしている子がいるが、数年前からそう呼ばれ始めているのでもはや何も言うまい。マルゼンスキーも私と一緒にいるとき限定で様付けされることがあるが、基本的にはそう呼ばれないんだよなぁ。不思議。

 そんなわけでミホノブルボンとトレーナーを隔離した後、キッチンを占領した私たちはエプロンを付けて準備完了。

 

「今夜はミホノブルボンの日本ダービー勝利を祝う宴です。抜かりなく用意しましょう」

「「「おーっ!」」」

 

 ふふん、私にも女子力があることを証明してやろうではないか!

 

 

 

 一人だけ除け者にされたと拗ねる幼女を必死に宥めた翌日から、私はミホノブルボンへ本格的な修行を開始した。

 初手必殺として同期にも心から引かれた爆音伴う宴会芸(大)を披露したところ、ミホノブルボンはエラーを起こしてフリーズした。

 尊敬と信頼が心地良い無垢な眼差しに怯えが映ったのが私の心に致命傷を与えてきたが、ミホノブルボンが本当に勝ちたいのであればその覚悟を問わなければならない。

 無敗の三冠とは、そう易々と取れる称号ではないのだから。

 

 果たして、ミホノブルボンの瞳には決意が灯っていた。

 

「オペレーション「三冠獲得」におけるラストミッション「全集中の呼吸の修得」。オーダー承りました、師匠」

 

 ラ、ラストミッションなんて言葉を、まさか現実で聴けるなんて……!?

 おっ─おお、おっ─おお、おっ─おお、アーアーアーアー♪ と、頭の中の合唱団がBGMを奏で始めて私のテンションは上がった。

 

 でも、そのオペレーションにおける本当のラストミッションは菊花賞で勝つことでは? なんて無粋な感想を抱いたりもしたが、ミホノブルボンがやる気になってくれたのであれば話は早い。

 日本ダービーまでは基本的にトレーナーに任せていたが、ここからは私のターン!

 

 透き通る世界を利用したマルゼンスキーもイチオシのマッサージでミホノブルボンの身体から疲労を抜き取った後、夏合宿期間は富士の山に籠ることにした。免許はすでに取ってあるのだ。マルゼンスキーと一緒に「だがあえて加速するぅ!!」ごっこで遊んだのは良い思い出である。良い子は絶対に真似しないように。

 

 まずは空気の薄い環境で、深くゆっくりと息を吸い、長く息を吐くことだけを命じた。

 フィクションでも何でもなく、血液中の酸素濃度を上げる方法として深呼吸が重要だと、前前世でも鬼滅ブームに併せて医学的に証明されていた。血液中の酸素濃度が上がれば細胞の活性化に繋がり、病気とも無縁になれると。事実、私は健康そのものだし、マルゼンスキーに至っては肉体としてはそれほど頑丈ではなかったのに、全集中の呼吸修得後は故障したことがない。筋肉、血管、神経に骨……はよく分からないが、とにかく丈夫になったのだろう、うん。

 

 呼吸に慣れてきたら、あとはもうひたすらに走り込むだけとなる。近道などない。

 限界まで走らせたらマッサージして回復。

 ご飯を一杯食べさせたら深呼吸しながら瞑想。たまに寝てる。

 消化が終わったらまた限界まで走らせてマッサージ。

 ペットボトルに破裂させる気概で息を吹き込む。

 一日の最後は気絶するように寝る。

 基本的にはこれの無限ループだ。私の時はこれに加えて炎の呼吸の剣技を組み合わせていたが、ミホノブルボンには必要ないだろう。

 

 地獄の修行もしばらく経って、夏の終わりも近付いた頃。

 木陰で山路を走るミホノブルボンを見守っていたところ、慣れ親しんだ気配が近付いてきた。

 

「パーガトリーちゃん、久しぶりね」

「ええ、お久しぶりです。マルゼンスキー」

 

 はぁい、とマブいチャンネーの風格を醸し出したマルゼンスキーが差し入れを持ってやってきた。この場所を知っているのはトレーナーとマルゼンスキーだけなので、訪問者も限られているから驚きはない。

 

「どんな感じかしら?」

「付け焼き刃よりはマシ、程度ですね」

「手厳しいわねぇ」

 

 身体の成長を待っていたとはいえ、私だって年単位でやっと修得したし、マルゼンスキーですら独力で半年、完全にものにする為の私の指導で三ヶ月はかかったのだ。私以上だがマルゼンスキーには遥かに劣る才能のミホノブルボンが、いくら私が付きっきりとはいえ数ヶ月で身に付く筈がない。

 ミホノブルボンの肺を見透かせば確かに強靭なものに進化はしているが、隣の怪物に比べたらまだまだ。

 

 結論として、菊花賞には間に合わないだろう。

 まぁ未完成だとしても有用だということはマルゼンスキーが証明している。この怪物が規格外というだけかもしれないが。

 

「にしても、よく来れましたね。リギルの合宿中では?」

「今日はオフよ。大変だったんだから。パーガトリーちゃんのところに遊びに行くって言ったら、みんな付いてこようとして」

「シンボリルドルフもですか?」

「むしろルドルフちゃんが一番厄介だったもの。グラスちゃんとエルちゃんは「トゥギャザーしたいですっ!」なんてすっごく可愛く言うから、心が痛んだわ」

 

 きっとグラスワンダーは顔を真っ赤にしながら言ったんだろうなぁ……。

 マルゼンスキーのツボを押さえた一世一代の決意が手に取るように分かる。ごめんよ、二人とも。

 

 現状、全集中の呼吸は周知していない。

 これは決して、私のアドバンテージが揺らぐからといった個人的な理由ではない。事情を知っているトレーナーやマルゼンスキーと相談して決めたことだ。

 

 理由は主に二つ。

 一つ目は、単純に修得には危険が伴うから。実はこれ、加減を誤れば肺を損傷する可能性があるのだ。基本的には私が付き添っていない状況での修得は推奨できない。……マルゼンスキー? 隣のこれは例外だよ?

 二つ目は、ウマ娘たちのレースに懸ける夢や希望を安易に諦めさせないためだ。

 最初、トレーナーからこの旨を聞いた時は首を傾げたが、詳細を聞いて成程と理解した。

 

 マルゼンスキーやシンボリルドルフといった、時代を代表する限られたウマ娘が至れる極地として「領域」と呼ばれる状態がある。

 この領域について知っている者は、多くはないがいないわけではない。神バことシンザンが領域に至れた際に、その時から活動している中堅以上の中央トレーナーであれば誰もが存在自体は知っている。当時、緘口令も敷かれていたわけではなかったので、担当ウマ娘に伝えてしまった者もいた。

 これが悲劇を生むことになった。

 領域の存在を知ったウマ娘が、自分では領域に至れないと悟った時、途轍もない挫折を味わうことになったのだ。中には無理して領域に踏み込もうとして、取り返しの付かない怪我を負ったウマ娘もいた。

 これを受けてトレーナーたちの間で、領域については安易に口外しないことが不文律となったらしい。

 

 トレーナー曰く、全集中の呼吸は広まったらもっと性質が悪いらしい。

 私ことパーガトリーというウマ娘は、才能でいえばいいとこ下の上。

 そんな私が残してきた数々の記録──日本史上初の無敗のクラシック三冠、日本初の凱旋門賞ウマ娘、全距離G1制覇、シニア級一年を終えて日本でのG1を10勝、その他海外レースの数多のトロフィー。……なにか? マルゼンスキーも無敗の三冠以外はほぼ一緒だから!

 

 つまり何が言いたいのかというと、全集中の呼吸さえ修得できたなら、私と同じ世界に至れる。しかも全集中の呼吸を修めるのに、特別な才能は必要ない。

 もしこの事実が広まったら、じゃあ私でも、と思うウマ娘は山ほどいるだろう。たとえそれが超ハイリスクだとしても、だ。

 起こり得る悲劇は想像に難くない。肺を損傷して走ることすら困難になる。そもそも修得できず、自分には資格が無かったと挑戦もせずに諦めるなどなど。

 

 こうした経緯があって、全集中の呼吸を一般に広めないことは私たちの間での約束事となった。

 この縛りを緩めるのは、才能溢れるウマ娘が競争バ生命を失いかねない故障を負った時としている。才能の如何、この場合の才能とは肺が如何に頑丈かだが、これについては私の一存だ。修得が難しい子に話を持ち掛けて失敗した場合、責任を負うことができないから。

 ちなみに、私とマルゼンスキー以外に全集中の呼吸を修得している子はあと二人いて、絶対に他言するなと言い含めている。

 

 じゃあなんでミホノブルボンはokなの? と聞かれると、……うん。明確な理由は特にない。ぶっちゃけるとチームメンバーへの贔屓だ。

 大前提として、うちのチームに入れるのは寒門(今では差別用語)出の子のみだ。これは表に出してはいないがトレーナーの方針なので、私が口出しすることはない。

 案の定、うちのチームに入ってくる子で、私の強さの秘訣を教えてほしいと嘆願する子は大勢いた。

 

 そんな子たちはまずトレーナーが扱く。もちろん故障などはさせないが、限界まで見極めて扱く。

 大抵の子はこの時点で合わないとチームを脱退するから、無敗の三冠を出したチームにしては小規模なのだ。今残っている子はミホノブルボン含めて普通に優秀で、重賞は取ってるし、なんならG1の冠をかぶっている子もいる。あとは私の信者かな? というくらいに私に憧れているらしい子も頑張る傾向があるかな。

 

 トレーナー式ブートキャンプを乗り越えた子で、それでも知りたいという子も当然いた。

 そんな子たちに見せるのが、初手必殺の宴会芸(大)である。

 

 全員遠い目になった。

 

 一応、そこまで乗り越えた子たちには聞いたんだよ? こうなりたいですか? って。

 こんこんこんこんこんこんこんこんと念入りにブツを叩いた後、みんな私をウマ娘ではないナニカを見る目で遠慮するんだもん。

 だからチームの子で伝授するのは、意外なことにミホノブルボンが初である。

 

「新たな無敗の三冠が生まれるかどうか、ね。ふふっ、楽しみだわ」

「どうなるかは分かりませんが」

「パーガトリーちゃんの愛弟子だもの。きっと最高に熱いレースになるわ!」

「……そうですね。私もそう願っています」

 

 最高に熱いレース、ね……。

 恐らくそれが、ミホノブルボンが限界を超えられるかどうかの分水嶺になるだろう。

 本当なら自分自身で気付いて殻を破るのが一番なのだが、ミホノブルボンには難しいはずだ。

 最後の仕上げは走らせることでも、呼吸の精度を上げることでもない。

 

 言葉を尽くすこと。

 これが、ミホノブルボンにとって最も力になる。

 

 改めて思う、変わった子だなぁ。

 

「ふふっ。全く、困った愛弟子です」

 

 とりあえず、帰り際マルゼンスキーに宴会芸(小)を披露してもらった。

 ミホノブルボンは遠い目になった。

 

 

 

 

 10月下旬の日曜日。

 京都レース場には入場規制が敷かれるほどの人が押し寄せ、レースが始まる前にも関わらず異様な熱気に満ちていた。

 クラシック三冠。最後の冠であるG1レース──菊花賞。

 最も強いウマ娘が勝つとされる名誉あるレースで、新たな伝説が生まれる瞬間を見ようと日本中が盛り上がっていた。

 

「ブルボン、調子はどうだ?」

「システム点検完了、オールグリーン。問題ありません、マスター」

「そうか。なら行ってこい」

「はい。マスター」

 

 最終確認を終わらせたトレーナーをしばらく見詰めた後、ミホノブルボンはその後ろに控えていたパーガトリーに視線をずらす。

 無言の眼差しを受けたパーガトリーは、一歩前に踏み出してミホノブルボンに近付いた。

 

「私が言ったこと、覚えていますか?」

「はい。もちろんです、師匠」

「では、私から最後に一つだけ。ミホノブルボン、貴方が夢を掴み取る姿を、私に見せてください」

 

 無機質な瞳に確かな意志が宿り、ミホノブルボンは力強く頷いた。

 

「オーダー承りました、師匠。この手に無敗の三冠の夢を、掴んできます」

 

 

 

『最も強いウマ娘が勝つと言われる菊花賞! 栄冠を手にするのは果たして誰になるのか!』

 

 レースの始まりが迫るにあたり、観客の興奮はどんどんと大きくなる。

 実況の声すらもかき消されそうな歓声の中で、ターフの上に立った18人のウマ娘は最後の調整に入っていた。

 

(遂に、ここまで来ました)

 

 透き通る青空を無意識に眺めながら、ミホノブルボンは少しだけ感慨に耽る。

 3分。たったの3分だ。

 レースが始まってその時間が経つ頃には、菊花の冠をかぶる当代最強のウマ娘が決まっている。

 その冠を、勝利を、無敗の三冠を手にする為に、ここまで駆け抜けてきた。

 

「ブルボンさん」

 

 声とともに即座に気持ちを切り替えて、ミホノブルボンは振り返った。

 そこに立っていたのは黒と青が目を引くウマ娘で、このレースにおける最強のライバル。

 

「ライス」

 

 ライスシャワー。

 世界最強に等しいウマ娘が認めた漆黒のステイヤー。普段はおどおどとした弱気な面が印象に残る彼女だが、今だけは周りを、否、ミホノブルボンを食い千切らんばかりの圧を放っていた。

 

「ライス、負けないよ。ブルボンさんに、勝つから」

 

 堂々とした宣戦布告に、ミホノブルボンは淡々と返す。

 

「いいえ。勝つのは私です」

 

 その返答に、ライスシャワーは満足気に口角を上げて離れていく。

 

 ライスシャワーはこのレースに、全てを懸けて臨んでいた。

 ミホノブルボンが余計なことを言った所為だが、ライスシャワーへの注目度はこれまでのレースの比ではない。あのパーガトリーが認めたというこの一点が、ウマ娘にとってどれだけの名誉か。知らぬ者は日本を超えて世界にすらいないと言える。

 

 嬉しかった。同期の最強に、ライバル足り得ると認められたことが。

 だからこそ、全力を尽くすことが礼儀だと、ライスシャワーはそう考えた。

 

 このレースに勝てば、ミホノブルボンに勝てば、何かが変わる気がする。

 自分が勝つことで、観てくれたみんなに新たな希望を与えたい。

 己の名前であるライスシャワーのように、祝福を齎したい。

 

 鍛錬は積んできた。

 気概はかつてない程に満ちて溢れている。

 

 ──勝つ、ブルボンさんに勝つんだ!

 

 背を向けたライスシャワーを見届けて、ミホノブルボンは瞳を閉じて深くゆっくりと呼吸する。

 全集中の呼吸の修得は、この五ヶ月で成し遂げることは出来なかった。

 だが、分かる。数ヶ月前の自分とは明らかに違うと。走り切れないと散々言われたこの菊花の舞台でも、十全に駆け抜けられると。

 

 次に目を開いたとき、ミホノブルボンは静謐なる闘志を帯びていた。

 

 そして、戦いの火蓋が切られる。

 

『3番人気は5枠10番、マチカネタンホイザ! 前走のカシオペアステークスでは、シニア級もいる中で2位と好成績を残しています』

 

 紹介されたマチカネタンホイザは普段であれば人懐っこい笑顔で観客席に手を振っていたが、今日ばかりは気合いの入りようが違うのか真剣な眼差しで前だけを見詰めていた。

 

『2番人気は4枠8番、ライスシャワー! 【ワールドブレイカー】と名高い日本が誇る最強のウマ娘、パーガトリーが認めるステイヤーです。人気は2位ですが、この菊花賞における優勝候補と言っても過言ではありません!』

 

 説明混じりの実況に、小さくない歓声が響き渡る。

 日本ダービーを終えて、ライスシャワーは一躍有名ウマ娘となった。重賞での勝利こそないものの根強いファンも増えて応援の声が強くなり、伴ってレース場の熱気が刻一刻と高まっていく。

 ライスシャワーはゲートに入る前に観客席に一礼だけして、鋭い眼光で前へ向き直った。

 最後に、大本命がゲートへと歩いていく。

 

『さぁ、お待たせいたしました。当代最強の登場です』

 

 その一言で、レース場のボルテージは一気に最高潮へ至る。

 

『7戦7勝! ここまで無敗のクラシック二冠ウマ娘!』

 

 菊花賞の前哨戦である京都新聞杯でも勝利を飾り、揺るぎない強さを示した世代最強のスターウマ娘。

 

『4枠7番、ミホノブルボン!!』

 

 地を揺るがす大歓声が京都に迸る。

 肌寒い季節を吹き飛ばすような熱気と鼓膜が破れそうな程の爆音に、応援に来ていたウマ娘たちが面食らったように目を見開いて耳をぺたんと倒した。

 レース場に足を運んだミホノブルボンのファンの思いはただ一つ。

 

 無敗の三冠を。

 トウカイテイオーが成し遂げられなかった夢を。

 皇帝シンボリルドルフ以来の偉業の達成を。

 

『彼女の師匠であるパーガトリーも成し遂げた無敗の三冠を懸けて、ここ、京都でクラシック最後の戦いに挑みます!』

 

 役者は揃った。

 ファンファーレが鳴り止み、18人のウマ娘のゲートインが完了する。

 

『クラシックロードの終着点、菊花賞!』

 

 高まる緊張を抑えて、各々がスタート体勢に入って。

 

 ガコンッ、と音がなった。

 

『今、スタートしました!』

 

 機械的なまでの理想的なスタート。

 観客の誰もが思っていた。メイクデビュー以来出遅れもなく、ミホノブルボンは常に先頭で走っていた。だからこのレースでもそうだろうと。

 

 だが、ミホノブルボンはハナを譲った。

 

『先頭はキョーエイボーガン! ハナに立ったのはキョーエイボーガンです! 凄まじい速さで先頭に躍り出ました!』

 

 波乱の始まりに各所から響めきが起こり、驚嘆にも似た歓声がレース場に響いた。

 二番手に付いたミホノブルボンはあくまで冷静にキョーエイボーガンの後ろを走り、その後ろは3バ身ほど空いて三位以降が縦に長い形で続く。

 

『先頭はキョーエイボーガン、その後ろはミホノブルボン、メイショウセントロ、マチカネタンホイザ、ライスシャワーと続き、以降は縦に伸びた展開です』

 

 観客の真前の直線を走ると大きな歓声が響くが、各ウマ娘たちに余裕はない。

 

(私が勝つには、これしかないっ!)

 

 キョーエイボーガンは分かっていた。まともにぶつかればミホノブルボンには勝てないと。

 同じ逃げ脚質同士が争った時、勝利するのは単純明快、総合力が高い方だ。距離適性も関係するが、ほとんどの場合において運や戦略に左右されない。日本が誇る化け物二人がそれを何度も証明してきた。

 総合力において、キョーエイボーガンはミホノブルボンに勝てない。特にスタミナが圧倒的に不足していた。

 それでも勝つ為には賭けるしかないのだ。己のスタミナがゴールまで切れないことを。

 

 最近では【異次元の逃亡者】と呼ばれるサイレンススズカが確立した戦術である大逃げ。

 キョーエイボーガンが打った戦術はそれとは明らかに異なる。名付けるのであれば破滅逃げだ。

 

 キョーエイボーガンがハナに立ち、ミホノブルボンが二番手になる。

 この展開をはっきりと読み、期待していたウマ娘は一人いた。

 その被害を一身に受けることになったのはマチカネタンホイザだった。

 

(ひぃいいいっ!? 怖い怖い怖いッ! なんで、ライスさん私のことっ!?)

 

 ダンダンダンダンッ! と蹄鉄の音を鳴らし、恐ろしいプレッシャーで背後にピッタリと付くライスシャワーに、マチカネタンホイザは明らかに困惑した。

 ライスシャワーのことは最大限に警戒していた。マチカネタンホイザ自身も長距離を走れる自信があったが、日本ダービーの件でその隠れた実力の証明がされたのだから当たり前だ。

 ミホノブルボンとライスシャワー。菊花賞はこの二人の激突だと、前評判でもそうなっていた。

 だからこそ付け入る隙がそこにはあると、マチカネタンホイザは考えていた。

 

 だが実際には、先頭を走るのはミホノブルボンではなくキョーエイボーガンで。

 優勝候補のライスシャワーは何故かミホノブルボンではなくマチカネタンホイザをマークしている。

 

 予想外の連続でマチカネタンホイザは冷静さを失い、本来のペースを乱され加速していく。掛かってしまった。いや、意図的に掛からせられたのだ。

 

『1000mの通過タイムは59秒1。まずまずのタイムでレースは進んでいきます』

『菊花賞はまだ2000ありますからね。ゴールまでスタミナが保てばよいですが……』

 

 第1コーナーに突入する時点では順位は変わらずだったが、第2コーナーを曲がる頃には3位と4位にマチカネタンホイザとライスシャワーが上がっていた。

 前後で熾烈な展開が繰り広げられている中、ミホノブルボンだけは一人ラップタイムを守って走っている。

 先頭ではないが、大きな問題ではない。元々出力可能な最高速度を維持して走り切るのがミホノブルボンの戦術だ。

 前にいるキョーエイボーガンも徐々に脚が鈍ってきており、最終コーナーに入る頃には抜かせるだろう。

 頭の奥に残る嫌な予感にさえ目を瞑れば、順調にことは進んでいた。

 

 怒涛の勢いで始まったレースも気付けば半ばを超えて終盤戦。ここからが本番と各ウマ娘が速度を上げていく。

 

『淀の坂を越えて最終コーナーに入ります! キョーエイボーガンはもう苦しいか! 必死の形相で走っています!』

 

(捉えました)

 

 思った以上にキョーエイボーガンは粘った。坂路で抜き去れるかとも思ったが、結局はここまで来てしまった。

 下り坂で嫌でも加速する状況。ミホノブルボンはハナを奪い取ると決めた。

 

 この時、ミホノブルボンは三つのミスを犯した。

 

 ミホノブルボンは盛大に出遅れたメイクデビュー以来、先頭を譲ったことがない。つまり、公式戦で自分以外の逃げウマ娘をまともに抜いた経験がないのだ。

 知っているのは過去のレース映像。何度観たかも数えていない最強と謳われる憧れの走り。

 

 パーガトリーとマルゼンスキーが相手と並ぶ時、必ず外から回っていた。

 だからミホノブルボンにとっての正解はそれで、固定観念と化したものだった。

 

 一つ目のミスは、キョーエイボーガンの状態も考えずに迷いなく外から抜こうとしたこと。

 二つ目のミスは、キョーエイボーガンがあの怪物たちと同じ動きをすると無意識に定義したこと。

 最後の一つは、キョーエイボーガンの執念を考慮していなかったこと。

 

『さぁ並んだ! ミホノブルボンがキョーエイボーガンと並んだぞ! ここから一気に抜き去ってしまうのか!』

 

「うぁああああああああああああッッ!!」

 

 隣にミホノブルボンが並んだ瞬間、キョーエイボーガンは叫んだ。それは文字通り、最後の力を振り絞った走りだった。

 本来の想定なら、ミホノブルボンはコーナーの突入と同時に抜き去るつもりだった。だが、坂の勢いも利用してキョーエイボーガンは脅威的な粘りでミホノブルボンとコーナーを並走したのだ。

 加えて、キョーエイボーガンは走ることに全神経を注いでいた為、コーナリングが疎かになった。外から抜くことを選んだミホノブルボンは、道連れとなる形で大きく回らざるを得なくなった。

 

(ここだっ!!)

 

「っ!?」

 

 千載一遇の好機。

 後ろから立ち昇る莫大なる威圧と青の波動。

 

『ここでライスシャワーが来た! マチカネタンホイザを一瞬で抜き去り、空いた大内へと駆け抜けるっ!』

 

 マチカネタンホイザの驚愕を余所に、ここまで無理矢理加速させ続けた彼女をかわしてライスシャワーはロングスパートに入った。

 空いた空間は横幅二人分。普通のウマ娘なら突っ込めば遠心力に負け、接触を起こして降着となるだろう。

 ライスシャワーを支えるのは無限とも思えるスタミナと強靭な肉体、レースにおける闘争心とここぞと言う場面での度胸だ。瞬間最高速度こそ末脚自慢の超抜級ウマ娘たちに一歩劣るが、精神と肉体に物言わせた無理を押し通す力を秘めていた。

 ギチギチと軋む身体に一喝して、ライスシャワーは大内へと切り込んだ。

 

「ッッッ!! アァッ!」

 

 無謀とも言える賭けに勝ったライスシャワーが最終コーナーを曲がり切った時、先頭を走っていたミホノブルボンは目と鼻の先にいた。

 

『最終コーナーを回って先頭はミホノブルボン! だが2位に上がったライスシャワーとの差は2バ身もない! 菊花の直線は短いぞ! ミホノブルボンは逃げ切れるのか!!』

 

 ホームストレッチに入るウマ娘たち。白熱するレース展開に歓声が響き渡る。

 ミホノブルボンは自分がミスをしたと気付いた。削られたリードとスタミナは、この最終局面においてはあまりにも致命的。

 ダンッ! と大きな足音が聞こえる。

 ミホノブルボンを千切らんとする獰猛な気迫。

 

(差し切るっ!!)

 

 青き炎が瞳に灯り、ライスシャワーは更なる加速をしてみせた。

 

『並んだ! ライスシャワーがミホノブルボンと並んだ! その勢いは止まらないっ!! ライスシャワーかわした! ライスシャワーかわした!! ライスシャワーが遂にミホノブルボンを置いて一歩抜け出した!!』

 

 ワァッ!!? と、レース場が沸き上がる。

 その絶叫はライスシャワーを応援する声でもあり、ミホノブルボンが抜かされたことへの悲鳴でもあった。

 ミホノブルボンの目に動揺はない。

 ただ、納得だけがあった。

 

 ライスシャワーが一歩前を進んだその瞬間、

 ミホノブルボンの脳裏に師との記憶が過ったからだ。

 

 

 

「ミホノブルボン。貴方が菊花賞で勝つ為に最も大切なことは、トレーニングを積むことでも、全集中の呼吸を身に付けることでもありません。何か分かりますか?」

「……いいえ。分かりません」

 

 パーガトリーとの夏合宿最終日。

 大事な話があると走り込む前に呼ばれたミホノブルボンは、木陰でパーガトリーと向き合っていた。

 予想していた答えにパーガトリーは僅かにだが微笑んで、ミホノブルボンの胸の真ん中に優しく拳を当てる。

 

「貴方にとって最も大切なこと。それは、心を燃やすことです」

「心を、燃やす……」

 

 パーガトリーから伝わる体温は、温かいのと同時にとても熱く感じた。

 

「貴方は何事も数値でとらえて、今まで走り抜けてきました。レースにはタイムがあるのですから、それは間違いではありません。何分何秒でゴールできれば、今回の出走者には負けない。その考えは正しく、事実、貴方は勝ち続けてきた」

 

 ですが、とパーガトリーは続ける。

 

「それは相手が限界を超えてこないことが前提です。言ってしまえば、貴方の戦術は格下殺し。自分より強い相手と当たった時、絶対に勝てないのです」

 

 限界を超えるなど、口では簡単に言える。

 しかし実際に為すためには、身を削る努力が、自身の全てを費やす覚悟が必要となる。そう易々と成し遂げられるものではない。

 だが、パーガトリーは知っていた。

 ライバルという存在は、容易く限界を超えてくるということを。

 

「貴方は私の日本ダービーを観たのですよね?」

「はい」

「それならば、一つ問題です。あの時、マルゼンスキーは私とほぼ同着の2分20秒でゴールしました。では、あのレース前のマルゼンスキーの2400自己ベストは、何秒だったと思いますか?」

 

 質問に対し、ミホノブルボンは簡単に頭を回す。

 2400mを2分20秒というのは、現実を知った今であればどれだけイカれた記録か理解できていた。ミホノブルボンの日本ダービー勝ち時計が2分27秒台なのだ。世界レベルで化け物と呼ばれてもさもありなんとしか思えない。

 ミホノブルボンの当時の自己ベストはダービーとほぼ同じ。マルゼンスキーの怪物具合と、話の流れである限界を超えてそのタイムだと考慮して、結論を導き出した。

 

「2分22秒台かと予測します」

「大外れです。正解は2分26秒台です」

「は?」

 

 突き返された答えに思わず声が漏れた。

 パーガトリーが言ったことが本当なら、マルゼンスキーは本番で6秒を縮めたということだが、にわかには信じ難い。

 G1を走るウマ娘は、1000mを60秒あれば走れる。そこから単純計算で秒速が導き出せる。

 

 16.6m。これが1秒で走れる距離だ。

 

 つまりマルゼンスキーは、日本ダービーで己の限界を超えて、約100mもの距離を踏み潰したと言うのだ。

 尋常ではない真実に鳥肌が立ち、未だ夏だというのにミホノブルボンは寒気すら感じた。

 

「まぁ、マルゼンスキーは例えとしては適切ではありませんね。……私ですら偶にドン引きするので」

 

 遠い目をするパーガトリーに、いや貴方がた二人ともおかしいです、と喉まで言葉が出かかったが、ミホノブルボンは何とか飲み込んだ。

 

「話を戻しますと、ライバルとは限界を超えてくるものなのです。そして、ライスシャワーはその典型でしょう。彼女は貴方とは逆の性質、いわゆる格上殺しを得意とするウマ娘ですね」

 

 相手が強ければ強い程、実力以上の力を発揮する稀有な才能。

 これまでは単純な地力が伴っていなかったが、夏を超えて無視し得ないレベルにまで成長を遂げているだろう。クラシック期において、八月を乗り越えて急激な進化を果たすウマ娘は多くいるのだ。

 

 総合的に判断して、ミホノブルボンの勝ち目は薄い。

 ただでさえミホノブルボンの適性距離外であって相手の得意距離だというのに、本番で限界まで超えられたら手の出しようがないから。

 

 だからこそ、殻を破らなければならない。

 

「ミホノブルボン。貴方にも、譲れない願いや、叶えたい夢があるのでしょう? 何を想ってこのトゥインクル・シリーズに挑戦したのか、それは貴方だけが知っています」

 

 胸に置いていた手を頭に運んで、パーガトリーはミホノブルボンを優しく撫でる。

 

「そういった想いを焚べて、心を燃やしなさい。貴方は苦手なのでしょうが、大丈夫です。今は燻っているだけ。貴方にだって、素晴らしい信念があるのですから」

 

 

 

 慈愛に満ちた微笑みを最後に、ミホノブルボンは現実へと帰ってくる。

 

 緩慢になった時間感覚の中で、ミホノブルボンはライスシャワーの背中を見た。

 小さく、そして大きな背中。

 どこか憧憬を想起させる、凛々しいその姿。

 

 彼女が発する輝きを見て、胸の真ん中に火を投げ入れられた気分だった。

 

 ──あぁ、そうだ。そうだった。

 

 どうして忘れていたのだろうか。

 憧憬だけが目に焼き付いて、気持ちが、心が疎かになっていたのだろうか。

 

 無敗の三冠になりたいと、夢を抱いたのは結果だ。

 パーガトリーに憧れたのは、その強さではなく在り方が理想だったからだ。

 色褪せてしまった初心は、もっと子供っぽい落書きみたいなものだった。

 

 ──みんなに夢を、希望を、勇気を、感動を与えられるウマ娘になりたい!

 

 ドクンッ! と、心臓が激しく鼓動する。

 身体の真ん中の奥底に生まれた火種は、一瞬で灼熱の炎へと昇華する。

 その炎熱は血潮を伝って四肢に流れ、全細胞が猛り、唸り、咆哮を上げた。

 

 ──何の為にここに来たのか?

 

 無敗の三冠になる為に。そうではない。

 譲れない願いや、叶えたい夢を、その先に待つ未来を掴み取る為に。それも違う。

 

 ──このレースを観た人たちに、夢を、希望を、勇気を、感動を与えたいと思ったからだ!

 

 燃やせ、燃やせ。

 雑念を、想いを、全てを焚べて、心を燃やせ。

 原初の憧れの光景は、決して師一人から生み出されたものではない。

 掛け替えの無いライバルがいたから、あれほどまでに熱く滾るものだったのだ。

 

 その二人の胸にあった願いはただ一つ。

 

 勝ちたい。

 このライバルに勝ちたい!

 勝つ。勝つ!

 

 ──私は、勝ちたいッッッ!!

 

 ビキ、ビキキッ、と太腿から音が鳴る。

 抑えていた、否、枷によって抑えられていた限界を超え、極限のその先に向かおうと脚が心に応えていた。

 

 かつてない感情のうねり、肉体の躍動。

 

 全身に熱が行き渡ったその時、碧眼の中心に炎が灯る。

 万力の力で芝を蹴る瞬間、シィイイイッ! と鋭い呼吸音を響かせ、ミホノブルボンは眦を釣り上げた。

 

「──勝つのは、私だぁああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 ダァンッ! という音を置き去りにして、ミホノブルボンは猛々しく吼えた。

 

「「「「「ッッ!!?」」」」」

 

 突如として発露された凄まじい覇気に、走っているウマ娘全員が震えた。行手阻む存在全てを燃やし尽くさんとするその炎熱は、10m以上離れた最下位を走るウマ娘にすら届いたのだから。

 最も近くでその雄叫びを耳にしたライスシャワーは、驚愕を上回る未知に対して理解が追い付いていなかった。

 

 ──えっ、今のブルボンさん……?

 

 刹那の間でそう認識したが、全く信じられなかった。

 だからライスシャワーは、一度だけ視線を横にずらした。

 

 その一瞬で、ミホノブルボンは隣を走っていた。

 

『なっ!? 並んだ!? ミホノブルボンがライスシャワーと並んだっ!! 死んでいない、ミホノブルボンはまだ死んでいないぞっ!!』

 

 驚愕を大いに孕んだ実況に、日本中が喝采を上げて揺れ動く。

 ウマ娘のレースに精通している者ほど、ミホノブルボンの走りに驚天動地の思いを抱いた。逃げウマ娘が後続に捉えられ、一度は完全に抜かされたというのに、そこから一瞬で持ち直すなど殆ど前例が見当たらない。余力を残していたのであれば分からなくもないが、ミホノブルボンにそんな様子は欠片も見受けられなかったのだから尚更だ。

 

 いつものミホノブルボンは淡々と、表情すら変えずに走り切っていた。

 

 だが今は違う。必死の形相で、闘志を剥き出しにし、このレースに全身全霊を懸けて挑んでいた。

 そこには無敗の三冠に手を掛けた絶対王者としての風格はなく、ただ一人のウマ娘が貪欲に勝利を欲するありのままの姿があった。

 

 その横顔を間近で見たライスシャワーの心境は、一言では到底言い表せない。

 

 驚愕を覚えた。

 衝撃を受けた。

 疑問が浮かんだ。

 畏怖を抱いた。

 

 ただ、何よりも大きく占めた感情は歓喜であった。

 

 ──すごい! やっぱりブルボンさんはすごい!!

 

 ライスシャワーは菊花賞に臨むにあたって、誰よりも準備してきた。

 ミホノブルボンを入念に調べ、観察し、研究した。ラップタイムは、最高速度は、何を得意として何を苦手としているのか。調査できるものは全て網羅した。

 他の出走者についても調査を怠らなかった。同じ逃げ脚質のキョーエイボーガンなら、勝利を諦めない故に大逃げを選択すると。自分とミホノブルボンが潰し合った時、漁夫の利を得られる可能性があるのはマチカネタンホイザただ一人だと。

 可能性を想定し、あらゆるパターンで自分の走りを完成させ、最後には全員を差し切ってゴールする。

 

 全てはミホノブルボンに勝つ為に。

 その一心を胸に、今日という決戦の日まで準備してきたのだ。

 

 ライスシャワーの目論みは、ミホノブルボンが転けたら全部が無駄になるものだった。

 長距離が不向きなのは分かっていた。

 もしかしたら途中で力尽きてしまう可能性があることも理解していた。

 

 それでも、ライスシャワーはミホノブルボンを信じていた。

 ミホノブルボンなら必ず、一番でゴールを走り抜けると。

 

 最後の直線で差し切れると思った。

 一歩抜きん出た時、勝ったと思った。

 このままゴールまで走り抜けると、勝利を確信した。

 

 そんな雑念を、ライスシャワーは瞬時に振り払った。

 

 ──負けない……

 

 業火の如きミホノブルボンの闘志に感化され、ライスシャワーの瞳に宿る炎も燦然と燃え上がる。

 

 ──勝つ……

 

 世界から色彩が消え去って、モノクロの中で紺碧の煌めきだけがライスシャワーから零れ出る。

 

 ──ライスが、勝つんだッ!!

 

 ダンッ! と激烈な踏み込みで、ライスシャワーはミホノブルボンと疾走する。

 この土壇場において更なる飛躍を遂げたライスシャワーは、時代を代表する数少ないウマ娘しか辿り着けない世界──領域へと踏み込んだ。

 

『残り200!! ミホノブルボンとライスシャワー!! まさにデッドヒート! 譲らない譲らないどちらも一歩も譲らない!! これはもう二人の一騎討ちだ!! 勝つのは無敗の二冠か、それとも漆黒のステイヤーか!!!』

 

 手に汗握る白熱のレース展開に、叫喚の如き大歓声が京都を震わせる。

 3000mという世界的に見ても数少ない長距離レースの最後の大一番。本来ならすでに疲れ切って速度が落ちても何もおかしくはないのに、先頭で鎬を削る二人は衰えるどころか更に加速していく。

 全てを賭して駆けるその美しき姿に、人々は心の底から見惚れて惹き付けられる。

 その光景は、在りし日の伝説を思い浮かばせた。

 今や世界最強として名高い二人のウマ娘による激闘を。

 あの伝説の日本ダービーを。

 

 ミホノブルボンとライスシャワー。

 二人にはもう、地を揺るがす大歓声はおろか、互いの呼吸音すら耳に入っていない。

 聞こえるのは、激しく打ち鳴らす心臓の鼓動。

 感じるのは、限界を超えて軋みを上げる全身の悲鳴。

 肺は酸素を求めて暴れ狂い、脚は鉛のように重くなってゆく。

 まるで自分の身体ではないかのような感覚に。

 

「「あ゛ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」」

 

 だからどうしたと、湧き上がる弱音を胆力だけで捻じ伏せた。

 

 そして、長きに渡った勝負は遂に終わりを迎える。

 

『残りは100! まだだ、まだかわせない!! ミホノブルボンかライスシャワーか!! ライスシャワーかミホノブルボンか!! 並んで、並んで、並んだままゴールを駆け抜けたッ!!』

 

 死力を尽くした激走に、感情を爆発させた大喝采がレース場に轟いた。

 ミホノブルボンとライスシャワーはそのまま30m以上を駆け抜けたが、速度が落ちて本能がもう大丈夫だと囁いたその時に、力尽きたように前から倒れ伏した。その光景に少なくない悲鳴が上がったが、すぐさま駆け付けた医療班に対して震えながら手を振る仕草を見て観客は安堵する。

 息も絶え絶えの二人は闘志を纏ったまま、着順掲示板だけを見詰めていた。

 

『今、18人のウマ娘がゴールを駆け抜けました。3着は10番マチカネタンホイザ。4着は2番メイキングテシオ。5着は18番ダイイチジョイフル。1着と2着はまだ示されてっ! 失礼いたしました。写真の文字が出ました。決着は写真判定となります』

 

 写真の文字を見て観客席は騒めきに満ちて、少ないこの時間で近くの者と自らの予想を口々に語り合う。

 ミホノブルボンの勝利を信じて疑わない者。

 ライスシャワーの勝利を祈っている者。

 最後の走りにただただ感動して涙を流す者。

 

 多種多様な想いが巡る中で、当事者であるミホノブルボンとライスシャワーは荒々しい息を整えながら仰向けに転がっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、……ライス……」

「はぁ、はぁ、えっ、なに、ブルボンさん?」

 

 話しかけられたライスシャワーはちょっと驚きながらも、隣で空を見上げていたミホノブルボンへ顔を向ける。

 ミホノブルボンの口元には、晴れやかな微笑が浮かんでいた。

 

「ありがとう、ございます。ハァ……貴方の、お陰で、……私は、大切なことを思い出せました」

「えっ、……う、うん。よく分からないけど、よかったねブルボンさん」

「はい」

 

 根が善良なライスシャワーは、意味は分からなくともミホノブルボンにとって喜ばしいことがあったのが嬉しくて笑顔になる。

 とはいえ、勝敗の判決を待つ身でもあるのでそれ以降の会話は無く、結果を受け入れる準備を始めた。

 互いに震える脚に活を入れて立ち上がり、着順掲示板に視線を固める。

 

 ライスシャワーは無意識のうちに両手を前で組んで緊張と戦って。

 ミホノブルボンは瞳に強い意志を宿しながら粛々とした態度を保つ。

 

 やがて全員のゴールから一分経ち、更にそこから三十秒ほど経って、それでもまだ出ない結果にレース場は騒然となった。

 

『長い、ですね。すでに一分は経っているでしょうか?』

『そうですね。それほどに接戦でした。ですが、これはもしかすると……』

 

 何人かは遅過ぎる判決にまさかの可能性を思い、固唾を飲んで掲示板を見詰めて。

 

 光の文字が点灯した瞬間、ワァッ!!? と声が響き渡った。

 

『なっ!? こ、これは!』

『驚きました……』

 

 実況と解説の声音の意味を、観戦していた全員が理解した。

 

『同着! 同着です!! 7番ミホノブルボン、8番ライスシャワー! 二人が同着で1着!! 菊花賞を制したのはミホノブルボンとライスシャワー、二人のウマ娘です!!』

 

 実況の言葉に一瞬だけ京都レース場は静まり返り、瞬きの後には歓声が沸き起こる。

 

『そして、そしてッ!』

 

 加えてこの結果には、もう一つの偉業が含まれていた。

 

『今ここに! パーガトリー、シンボリルドルフに並ぶ、無敗の三冠ウマ娘が誕生いたしました! ミホノブルボン! 無敗の三冠達成ですッ!!』

 

 叫ぶように告げられた歴史的偉業に、しん、と刹那の静寂が訪れる。

 

「「「「「────ッッッ!!!」」」」」

 

 そして、その意味を理解できた瞬間、京都が、日本が、今日一番の大喝采に包まれたのであった。

 

 

 

「「…………」」

 

 この結末に、ミホノブルボンとライスシャワーは暫し呆然として、自然と視線が絡まった。

 

「「……ふふっ」」

 

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔とは、まさにこのことを言うのだろう。

 相手の顔を見て互いに同じことを思った二人は、小さく笑ってしまう。

 気付いたら緊張が解けて、固まっていた表情筋が蘇っていた。

 

「おめでとう、ブルボンさん!」

「ライスも、おめでとうございます」

 

 互いの健闘を讃えあって、握手を交わす。

 どちらも全身全霊を尽くした結果に不満は無く、心から相手を祝福していた。

 

 この儀式を経て、やっと二人の中で菊花賞を勝利したという実感が湧いてくる。

 現在進行形で耳が壊れるのではないかという大歓声が鼓膜を叩いているのだが、その声よりもライバルとの触れ合いの方が気持ちが整理できるとは不思議なものだ。

 その時ふと、ミホノブルボンは悪戯を思い付いた子供のように口角を上げた。

 

「ライス、一つお願いがあります」

「え? どうしたの?」

「はい。実はずっと、やりたかったことがあるのです」

 

 ライスシャワーのウマ耳に顔を寄せて、ミホノブルボンは小声でお願いを口にする。

 聞いたライスシャワーは一瞬だけ目を見開いて、恥ずかしそうに顔を赤く染めた。

 

「え、ライスもやるの?」

「はい。お願いです」

「うーーー……、ライスなんかがやってもいいのかな?」

「駄目な理由がありません。私一人でやる方が違和感があるでしょう。しかし、どうしても嫌だと言うのならば諦めます」

 

 諦めます、と言ったわりには露骨にシュンと落ち込むウマ耳を見て、ライスシャワーは覚悟を決めた。

 

「やるやるやるよ! ライスもやるから!」

「ありがとうございます」

 

 ピコン、と即座に立ち上がるウマ耳。

 ライスシャワーはどうしてか騙された気分になるが、この後を考えたらそんな思いは彼方へと吹き飛んだ。

 

 すーっ、はーっ、と大きく深呼吸して、ミホノブルボンとライスシャワーは並んで観客席へと身体を向ける。

 何かが始まることを察した観客の視線が集まる中で、二人は一度だけ視線を合わせた。

 先程とは違う意味でドキドキと緊張する空間で、二人はゆっくりと右手を上げて。

 

 グッ、と天を掴み取るパフォーマンスをした。

 

『あ、あれは!』

『パーガトリーさんの、勝利ポーズ……』

 

 世界的にも有名なその立ち姿。

 正統なる後継者と噂されるミホノブルボンと、そのライバルであるライスシャワー。

 

 二人の勇姿を目に焼き付けた観衆は、再びの大歓声をもって勝者を祝福するのであった。

 

 

 

 

 うぉおおおおおおおおおおおおおお! 勝ったぁああああああああああああああ!! うちの子が勝ったぁああああああああああああああああああ!!

 

「きゃああああああああああ!! ブルボンちゃんがやったわぁああああああああああ!!」

「ブルボンせんぱぁああああああああいっ!!」

「ブルボンちゃんが勝ちましたよパーガトリー様!!」

「えぇ、本当に見事です」

 

 内心はチームの子たちのように狂喜乱舞しているが頑張って外面を取り繕い、うちの子ことミホノブルボンの勝利を見届けた。

 同着という結果だが、そこまで持ち込めたのも奇跡みたいなものだ。我が事のように嬉しい。いや本当に嬉しい。自分が三冠達成した時より断然嬉しい。

 

「ブ、ブルボンッ、……ぐすっ、よくやったな」

「……え? トレーナー泣いてます?」

「泣いてなどいない」

「いや泣いてますよね?」

 

 一緒に観戦していたトレーナーが男泣きしてるっ!?

 気持ちは分かるが、普段は表情一つ崩さないトレーナーがこんな風になるとは……ミホノブルボン、恐ろしい子っ!

 

 ……あれ? でも待てよ?

 トレーナー、私が無敗の三冠取った時泣いてないよね? 表情一つ動かさなかったよね? よくやった、くらいしか言われた記憶無いんですけど? なんなら皐月賞のいざこざでURA幹部がしょっ引かれた時の方が感情豊かだった気がするんですけど! 何たる差別!! これは訴訟も辞さない。

 いつか何らかの方法で報いを受けさせてやると誓いを立てて、一周回って冷静になったので改めて先程のレースを振り返ってみた。

 

 ライスシャワーがヤバかった。これに尽きる。

 ミホノブルボンは最終コーナーで明らかにミスをしたが、結果だけ見るとあれはしてよかったミスだ。あの無駄なコーナリングのお陰で、ライスシャワーはあの瞬間に仕掛けてくれた。

 雑な言い方だが、ミホノブルボンの覚醒条件はライスシャワーに抜かれることだったのだろう。ゴールまで200m以上を残した状況でその条件を満たしてくれたために同着へ持ち込めたが、あれが残り50mとかだったら流石に負けていただろう。

 

 観客席でミホノブルボンの覚醒を見た時、正直私は勝ったと思った。

 そしたらライスシャワーが、刹那の間で領域に踏み込んでいた。

 

 ……ちょっと何言ってるか分からない。

 甘く見ていたつもりはないが、闘争心の塊みたいな子だ。

 

 なんて言うかこう、「絶対に勝つと決めたレースにおいては必ず勝利する」みたいな、因果逆転のスキル(ゲイ・ボルク)でも持ってるんじゃないの? と思うくらいには怒涛の展開だった。

 あの手のタイプは私やマルゼンスキーのように地力で押し潰すか、シンボリルドルフのように戦略を用いてそもそも勝負の舞台に上がらせずに嵌め潰すかの二択くらいしか確実に勝つ方法はないのに、よく同着まで持ち込めたよホント。

 

 私の勝利ポーズとして定着した格好を披露するミホノブルボンとライスシャワーを見届けて、よく聴こえるようになったウマ耳が壊れそうな大音量が響き渡る中、私たちはそそくさと移動する。控え室に戻った時に誰もいなかったら、あの可愛い幼女が拗ねちゃうからね。

 

「パーガトリー。お前は先に出迎えてやってくれ」

「それがいいですパーガトリー様!」

「ブルボンちゃんも喜んでくれます」

「行ってあげてください、パーガトリーお姉様」

 

 ターフへと続く関係者用通路の前で、トレーナーとチームの子たちにそう言われた。

 うーん、同期との触れ合いも大事だとは思うが、この空気で「いやいいよ」とかは言いにくい。

 

「分かりました。皆さんはアイシングの用意をお願いします」

「分かっている」

 

 みんなと別れた後、私は一人ミホノブルボンを出迎える為に、関係者用通路を進んで半ばあたりで壁際に立って存在感を消してみる。──絶!

 壁の花に徹していた私だが、しばらくして帰ってきた出走ウマ娘たちはみんな目をまん丸にしてこちらを見ていた。うん、気配を消す方法とか知らないからね。当然気付くよね。

 とりあえず微笑みながら会釈すると、100%の確率で停止直立お疲れ様です!! の三連コンボを決めてきた。もしかして私に対しては頭を90度以上下げなければならないっていう暗黙の了解があったりする? 私のこと何処ぞの頭無惨様だと勘違いしてない? それは嫌過ぎるんですけど!? 3着の子なんか鼻血出して他の子たちに手足持たれて運ばれていったけど本当に大丈夫?

 

 ドタバタとめちゃくちゃ心配になる子が通り過ぎた後、ようやく待ち人が現れた。

 

「師匠」

「うぇっ!? パッ、パパパパパーガトリー様っ!? お、おぉおおおおお疲れ様ですっ!!」

「お帰りなさい、ミホノブルボン。お疲れ様です、ライスシャワー」

 

 ライスシャワーお前もか。

 というか、おでこが膝にくっ付いてるよね? ここまでで一番の角度だよ君が。正面に立っているのに頭頂部どころか後頭部しか見えないこの不思議よ。

 

「ライスシャワー。菊花賞勝利、おめでとうございます。貴方がミホノブルボンのライバルで良かったです」

 

 本当はうちの幼女の所為で無用な注目を浴びさせてしまったことを改めて謝罪したかったのだが、この様子だと恐縮されて終わってしまうだろう。仕方ないからまたの機会にするか。

 頭を下げた状態で固まっていたライスシャワーはぴくんとウマ耳を震わせて、こちらを恐る恐る見上げてきた。……私ってそんなに怖い?

 

「あの、その、……」

「どうしましたか?」

 

 きょとんとした顔に小首を傾げる。

 この子、オンとオフの差が激し過ぎて、ミホノブルボンとは違う意味で分かりにくいんだよなぁ。普段はおどおどしてるかと思えば、ミホノブルボンと一緒にアイキャンフライごっこ──風に飛ばされて高い木に引っかかったライスシャワーの帽子を、ミホノブルボンがライスシャワーを上に投げて取ろうとしたらしい。提案者だった幼女に説教した──といった大胆なことも仕出かすからね。

 

「パーガトリー様」

「はい」

「ありがとうございました」

 

 えっ? 何のお礼? あまりにも真剣な謝意に私の首が90度曲がりそうになる。

 掘り下げてもよいのだが、生憎時間がそんなにない。

 

「私こそ。ありがとうございます、ライスシャワー」

「では、ライスは失礼いたします。ブルボンさん、また後で」

「はい」

 

 たたたっと走り、横を通り過ぎる前にまた一礼してライスシャワーは去っていった。

 

「師匠」

「ミホノブルボン、お疲れ様です」

「はい」

 

 直立不動で返事をしたミホノブルボンは、一呼吸だけ溜めて口を開いた。

 

「師匠。オペレーション「三冠獲得」、達成いたしました」

「えぇ、おめでとうございます。どうですか、感想は?」

「……よく、分かりません。嬉しいのだと、思います」

「ふふっ。きっともう少し時間が経てば、実感できますよ」

「師匠もそうだったのですか?」

「どうでしょう。私はそこまで無敗の三冠にこだわっていたわけではないので。ただ負けたくないと、勝ちたいと思っていただけですからね」

 

 無敗の三冠は私にとってはただの結果だ。出るからには勝つ、くらいしか考えていなかった。最初の動機が賞金目的という不純さだからね。私のキャラが美化され過ぎて、もうそんな裏話できないけど。墓まで持って行くよ。

 

「師匠。私はこのレースで、私の本当の夢を思い出しました」

「本当の夢、ですか?」

「はい。私は、……その、師匠のように……」

 

 ちょっと俯いて口をもにょもにょとさせるミホノブルボン。めっちゃ可愛い。顔も若干紅いので、改めて言葉にするのは恥ずかしい類の青い夢なのかな? ……私のように、という発言が気になるが。

 にしても、本当の夢、ねぇ……。

 私が知ってるこの子の夢は、無敗の三冠になりたいというものだ。トゥインクル・シリーズに挑むウマ娘なら誰もが思い描く理想であり、ミホノブルボンはその夢を掴み取ったばかりである。

 なのに、実は本当の夢は別にあったと。……え、これ以上なんてそうそう無いけど?

 もしかして凱旋門賞も取りたいのかな、と思った頃、ミホノブルボンはこちらを真っ直ぐに見詰めていた。

 

「私の夢は、師匠のように、レースを観たみんなに、夢を、希望を、勇気を、感動を与えられる、そんなウマ娘になることです!」

「…………」

 

 ……めちゃくちゃ恥ずかしいこと言うなこの幼女はっ!?

 予想外過ぎて固まっちゃったよ! 私が! いやこの子もやっぱり恥ずかしかったのかプルプル震えてるけどね!

 あ、ヤバい。ちょっと顔が熱くなってる気がする。血流すら少しは操作可能な私にこれほどの精神的ダメージを与えるとは。ミホノブルボン、やはり恐ろしい子ッ!!

 

「……全く、貴方は本当に可愛い、……いえ、困った愛弟子ですね」

 

 苦笑しつつ、つい撫でたくなったのでミホノブルボンの頭に手を置く。さらさらと流れる髪に合わせて手を動かすと、ミホノブルボンはされるがままに受け入れてくれた。ウマ尻尾がぶんぶん振られている。

 

「師匠。最後に一つ、いいでしょうか?」

「はい、なんですか? そろそろウイニングライブなので、これで最後ですよ?」

「……私は、師匠のように、ちゃんとできたのでしょうか?」

 

 何を、とは聞かない。聞くまでも無い。

 

 あの大歓声が答えだ。

 今日のレースを観て、走ったウマ娘たちを見て、夢を掴み取ったミホノブルボンを見て、きっと多くの人の世界が変わっただろう。

 

 伝えたい言葉は決まっていた。

 

「えぇ、立派にできましたよ」

 

 ミホノブルボンは嬉しそうに笑った。

 今まで見たことのない、無邪気な子供のような笑みだった。

 

 






ミホノブルボン
 圧倒的主人公体質。この度、史上3人目の無敗のクラシック三冠を達成した。
 パーガトリーのことはもう一人のお母さんだと思っている節がある。懐き具合は初対面からMAXで、一日触れ合って天元突破した。ちょろい。ちょろ可愛い。わんこ。
 この後、「あのパーガトリーの弟子がジャパンカップに出るらしい」という話が世界中に出回り、もはや恨みに近いレベルの感情を持った各国の優駿が日本に集まる予定。
 ミホノブルボンは遠い目になった。

ライスシャワー
 主人公にもライバルにもヒールにもダークヒーローにもなれる稀有な存在。今回はライバルとして出演。
 アニメだとマジで可哀想な扱いになってない? と思ったけど、史実でもそんな感じっぽい。ただ、あれを感情ある「人」でやったら……、うん。
 そのため、幸せになってもらおうと思ったらこうなった。やったねライスちゃん、ゲイ・ボルクの発動回数が増えるよ!
 ミホノブルボンは遠い目になった。

パーガトリー
 世界的化け物その1。
 後方師匠面しようと思ってたけど幼女に阻止された。
 ノリと勢いで行動するのに、煽り耐性が無いので割と問題児。
 凱旋門賞の時、出走者から「極東のウマ娘とか場違いなんだよ、さっさと田舎に帰れ」的なことを言われたので、「私の国では「弱い犬ほどよく吠える」と言いますが、外国でも変わらないんですね」と煽り返して一触即発。その後、いわゆる大差で勝った。
 会見でも「調整にもなりませんでした」などと煽りまくってスッキリ。「もし日本のウマ娘と勝負したいなら、11月のジャパンカップに来てください。私は出ませんが、私の唯一のライバルがもてなしますよ」と残して帰国。パーガトリーが喧嘩を売って、何故かマルゼンスキーが買うことになった。マルゼンスキーは喜んだ。

マルゼンスキー
 世界的化け物その2。
 後輩がいれば面倒見の良いお姉さんだが、パーガトリーが絡むと問題児になる。煽り耐性はあるけど無邪気に相手の心を折る。
 クラシック期の有馬記念で超進化。春シニア三冠のうち大阪杯と宝塚記念を取り、パーガトリーが旅立ってからは大暴れ。パーガトリーに続いて全距離G1制覇する。
 ジャパンカップでは強いウマ娘が集まって大喜び。大差では無かったが影も踏ませずに勝った。観客席にいたパーガトリーに「どうでしたか?」と言われ、「余裕のよっちゃんよ!」と返して周りの心を折る。悪気は無かった。
 こんな経緯で、マルゼンスキーは【極東の赤い悪魔】と呼ばれたりする。

 以上、世界的化け物二人の所業の報いをミホノブルボンが受けることになった。

 ミホノブルボンは遠い目になった。

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