オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
ヴァルド・クリストフがLv.8に到達し【ヘスティア・ファミリア】に所属したという話がオラリオ中に広がる。【ゼウス】と【ヘラ】、嘗ての最強しか到達しなかった領域に新たな名が刻まれた。神々も冒険者もそれはもう大騒ぎで、特に神は
他者の迷惑などなんのその、己が楽しめればいいと早速ヘスティアの元に突撃した。
「ヘスティア〜! 俺にヴァルきゅんを譲ってくれ〜!」
「どうやって勧誘したんだ!? ロキから抜けてお前ってことは、胸か!?」
「希望した者を受け入れるだけだった英雄が自分からスカウトした兎がいるって聞いたぞ!」
「いや俺は血の繋がった親子って聞いたぜ!」
「二人まとめてこの私が面倒を見よう!」
「恋人関係というのは本当か!? 妾達にこっそり教えよ!」
「大丈夫よ、言いふらすから!」
バイト先の屋台まで押しかけ好き勝手騒ぐ神々。ヘスティアが思わずうがぁ〜! と叫ぶ。
「仕事の邪魔だぁ! 買わないならあっちいけええ!!」
「ヘスティアがキレた!」
「ロリ巨乳が揺れてるぞ!」
「胸が揺れない私に対する嫌味!? ギリィ!」
収拾がつかない。なにせ騒いでいるのは神々で、下界の子らは彼等に不敬を働くなど恐れ多くてできないしその気になれば神威を放って人類の動きを止められる。神を止められるのは神だけだ。故に……
「そこまでだぁ!」
文字通り神の声が神々を止める。
「なんだ!? 何処だ!? 誰だ!?」
「はっ、あそこだ!」
誰の声か解ってるだろうに何故か解らぬふりをして、声の発生源も探すまでもないのに探すふりをする。これが神のノリという奴だ。
「ぅおれが、ガネーシャだああああ!!」
建物の上でポージングを決め象仮面の筋肉質な大男、ガネーシャの大声が響き渡る。
「ガネーシャだ!」
「ガネーシャだぞ!」
「なんで高いところにいるんだ!?」
「馬鹿だからだろう」
「馬鹿なんだろうな」
「とぅ!」
と、ガネーシャが飛び降りる。結構な高さを………。
ドン、と着地し……
「んぬぅ………………んん!!」
「足が痛かったんだな」
「あの高さだもんな」
「やっぱ馬鹿だ」
神々が呆れる中、復活したガネーシャはガバリと体を持ち上げる。
「お前達、そこまでだ! ヴァルド・クリストフの無理な引き抜きは許可できん!」
「なんだと!? ふざけるな!」
「そんな事言いつつお前が引き抜く気だな? 知ってるぞ、お前んとこのアーディたんがヴァルきゅんをお
「歳の差10歳とかお前んとこの団長ショタコンか〜!?」
「ヒヒ、何だよガネーシャ〜。なんの権利があって止めるんだ〜?」
「そうじゃそうじゃ! 妾達は通行の邪魔と騒音被害と営業妨害しかしておらん!」
「うむ! それだけでも十分捕まえられるが、これはギルドの決定だ!」
ギルドの決定と言われ水を打ったように静まる神々。ダンジョンの出入り、魔石の換金、魔石製品の売買、【ファミリア】の管理………その他諸々を受け持つギルドに逆らえる者はいない。無視して動けるだけの力を持つのは現最強候補2派閥と資金が潤沢の歓楽街の支配者ぐらいで、今この場にはいない。
「ヴァルド・クリストフは過去2回オラリオから離れた。3度目もないとは限らず、また3度目も戻ってくる保証はない。よって、彼の不快になりうることを禁ずる。これがロイマンの決定だ! そして、俺がギルドの伝達を伝えたガネーシャだ!」
『建前』はそうなのだろう。だがあのロイマンが【ロキ・ファミリア】から金を絞れる機会に何もしなかったことといい、もっと『上』とヴァルドが繋がっているのは明らか。ウラノスの神意だ、不用意にあの老神の機嫌を損ねる訳にいかず、神々は渋々引き下がる。
「は〜い皆さ〜ん、通行の邪魔にならないようゆっくり帰りましょうね〜!」
と、見覚えのある蒼銀の髪をした女性が神々を案内していく。
「う〜ん、ヴァルドに頼まれていたけど本当に来たねお姉ちゃん」
「仕事中はお姉ちゃんはやめろ…………それとアーディ、ヴァルドをお前の
「あ〜、私仕事思い出した!」
「お前の仕事を私が把握していないとでも?」
そして高身長の女性がその女性に近づくと逃げようとして肩を掴まれる。
「あ、あ〜………ヘスティア様! お久しぶりです!」
「う、うん。久し振りだね、この前はベル君達にご飯届けてくれてありがとね。君の名前、聞いてなかったね」
「はい、私はアーディ・ヴァルマと申します。お姉ちゃんや親友のリュー達と同じLv.5の第一級冒険者!」
「へー………あ、そっか。それって凄かったんだよね!」
「………………」
初眷属の一人がLv.8だったヘスティアは色々感覚がズレていた。
「神ヘスティア」
「あ、と………アーディ君のお姉さん!」
「シャクティ・ヴァルマと申します。この度は対応が遅れ、申し訳ありません」
「いやいや、いいんだよ。というかここまで騒ぎになるとは」
「まあ、ヴァルドはそれだけ人気で………同時に恨まれていますから」
「…………恨み? ヴァルド君は英雄じゃないのかい?」
「…………本人に言わせれば、奴は救う者ではなく守るために殺す者。数多くの
完全殲滅、と表向きになっているがそもそも彼等が何処に潜んでいたのか未だ解っていない。また、闇に漬かって居なくともあの若さでLv.8まで上り詰めた者を嫉妬する眷属もいるだろう。
「あと男寝取られた〜とか言う人達がね〜」
「え、ヴァルド君そんな趣味が!?」
「いえいえ、ヴァルドってほら………物語の英雄みたいじゃないですか? それに憧れて恋人そっちのけで冒険する人多くて」
なんとなく、解る気がする。ベルとか自分と話してる途中でもヴァルドが帰ってくると意識がすぐにそっちに向くし。まあベルはそれでも会話を再開してくれるが。
「まあだからといって、Lv.8に上り詰めたヴァルドを殺せるやつなどおりませんので、貴方を狙う可能性もあります」
「…………マジ?」
「マジだ!」
ドン、とガネーシャが叫ぶ。
ヘスティアはうへぇ、と息を吐く。
「マジかよぉ………」
「安心しろ! 俺の眷属やヴァルドの個人的知り合いの元暗殺者などが交代制で見守っている! それに、どうせ一時的なものだ!」
「なんでそう言い切れるんだい?」
「7年前、勝手な行動をした罰として無茶を出来ぬようロキに『恩恵』を封じられたヴァルドは、それでも
「…………………はぁ?」
「勿論公にはなっていないが、多くの神々が気付いている」
神の恩恵は『促進剤』。下界の
「それって、ヴァルド君の魂が関係しているのかい?」
「それはない。『記憶』はともかく『魂』も『
つまりはその『記憶』により形作られた『心』が作り出した意志力。それを少なくとも多くの神々が知っている。いや、正確には『記憶』を知らないから正しい答えにたどり着いている。
「………胃が痛いんだけど」
「安心しろ! ウラノスから無償で胃薬を届けていいと許可をもらっている!」
「わ〜い、ありがとう! って、最初からボクの胃にダメージあること前提か!」
「まあヴァルドに関われば、うん………」
「嘗てのフィン・ディムナも胃薬中毒になったと聞きます」
「そうかそうか…………う〜ん。胃が痛い!」
その頃のベル。
「兎は何処だ!? 探せ探せ〜!」
「げっへへ、親子丼もとい師弟丼で頂いてやるわ〜!」
「女神にあるまじき顔をしてるよこの
ヘスティア同様神々に追われていた。
(なんで、なんでこんなことに!? あ、でもいい匂い…………)
そして金髪の女エルフに抱き締められ物陰に隠れていた。
「…………行ったようです。もう出ても平気でしょう」
「あ、は…はい!」
「? 顔が赤いようですが、熱でもあるのですか?」
「いいいいえ!? そそそ、そんなことは!」
「しかし………」
「そこまでにしてあげてはどうですか、ムッツリ妖精様ぁ」
額に手を当てられアワアワ慌て出すベルを心底心配そうに見つめるエルフ。そんな彼女に何処か小馬鹿にしたような間延びした声が聞こえる。振り返ると、極東の服を着た極東美人が居た。
「輝夜、いきなり人をムッツリ扱いとはどういうつもりだ」
「おや、お気づきでないので? そこまで殿方に身を寄せておいて」
「何? ……………っ!」
「うわあ!?」
その言葉に現状に気づいたエルフはバッ!とベルを突き飛ばした。
「こらこら駄目じゃないリオン! ごめんねボク、怪我はない?」
「トロくせえなあ、本当にあいつの弟子か?」
更に現れる赤毛のヒューマンと
「あ、貴方達は一体?」
「「「…………あ」」」
ベルの言葉に何故か赤毛の美女を除いた全員がやっちまった、とでも言うような顔をした。
「よくぞ聞いてくれたわね!」
「!?」
「何を隠そう私達は、清く! 正しく! 美しく! 正義の刃で悪を討つ! 弱きを助け強きを挫き、偶にどっちも懲らしめる! 差別も区別もしない自由平等、全ては正なる天秤が示すまま! 願うは秩序、想うは笑顔! その背に宿すは正義の剣と正義の翼! 私達が【アストレア・ファミリア】よ! はい、拍手!」
「え、えっと………」
パチパチと拍手するベルに赤毛のヒューマンはふふん、と胸を張る。
「申し訳ありませんねぇ。うちの団長、少々あれでして」
「輝夜、アリーゼへの侮辱は許さない。アリーゼは、その…………ええと」
「フォローできねえなら口を挟むんじゃねえよ」
「ええ………」
なんだろう、この人達。がベルの素直な感想だった。全員すっごく美人だ。だけど赤毛の人だけなんかこう………色々残念な気配がする。
「なぁに? そんなに見つめちゃって、見惚れたかしら? ああ、私ったら罪な女!」
「アリーゼ、話が進まない…………さて、失礼しましたクラネルさん」
「あ、えっと………僕の名前を?」
「貴方は一躍有名人ですからね。それに、ヴァルドから聞いています」
ヴァルドから、と聞いてベルが反応する。
「『ダンジョン内でまで面倒を見る必要はない、地上では気にかけてやってくれ』……たったそれだけ言うとあの英雄様は去っていきましたねえ」
この輝夜と呼ばれていた女性は、なんとなく苛立っているように見える。
「あ、そういえば自己紹介まだだったわね。私はアリーゼ・ローヴェル。Lv.5よ! よろしくね、ベル! ちなみに団長なんだから!」
「リュー・リオン……Lv.5です」
「ゴジョウノ・輝夜と申します。Lv.は5ですわ」
「ライラだ。あたしだけLv.4」
「!!」
Lv.5にLv.4。憧憬の少女と同じ階位の存在にベルの目が輝く。
「第一級冒険者に、第二級! す、すごい!」
「Lv.8の師を持つ貴方に言われても嫌味にしか聞こえませんねえ」
「あ、え………ご、ごめんなさい……………」
「輝夜、何故クラネルさんにそう強く当たる」
「極東には『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』という諺がありまして……ようするにあの男の関係者というだけで癇に障る!」
「ひっ!」
自分に直接向けられたわけではないが敵意の籠もった叫びに思わず叫ぶベル。輝夜は何事もなかったかのように笑みを取り繕う。
「さて、お時間を取り申し訳ありません。そろそろダンジョンに向かっては?」
「は、はい! そうします、失礼します!」
ベルはそう言ってダンジョンに向かって走っていった。その数時間後何故か泣きながら街を疾走する兎が出たとか出なかったとか。
誰かアシュレイ・ホライゾンみたいな能力持ってる奴が大抗争時代に自爆兵相手にドッカンボッカン大騒ぎする小説書かない?
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