オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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強くなりたい理由

「ふわぁ………眠い、かも…」

 

 まだ早朝と呼ぶにすら早い時間帯。アイズは眠そうに欠伸をする。ファミリアの皆に見付からぬ時間を選んだが、やはり眠い。

 皆に、見つかるわけには行かない。アイズが扱う技術は【ロキ・ファミリア】の財産だ。ヴァルドは気にせず振りまいていたけど、あれは暗黒期というのも相まってだし………。

 あの子もヴァルドを師に持つとは言え、アイズに戦い方を教えたのはヴァルドだけではない。バレたら、多分すっごく怒られる。ヴァルドの名を出したら? リヴェリアがすごくすっごく怒るだろう。

 想像し、少し震えながら階段を見る。

 あの子はまだだろうか?

 時間より早めに来たとはいえ、あの子の目もやる気に満ちていた。きっと遅刻はしないだろう。そう思いながら、今度は町並みを見下ろす。

 

「ア、アイズさん…………」

「あ、おは………よ、う………」

 

 アイズは聞こえてきた声に振り返り、固まる。

 申し訳無さそうなベルの横で、彼と手を繫ぎながら現れたのは良く知る顔。

 

「アイズさん………」

「レフィー………ヤ?」

 

 レフィーヤ・ウィリディス。【ロキ・ファミリア】所属のLv.3、第二級冒険者の魔導師で、リヴェリアの直弟子。そう、【ロキ・ファミリア】でリヴェリアの直弟子。

 

「!!??!?」

 

 見つかった!? バレた!?

 まずい、何がまずい? 怒られる。それもリヴェリアに!

 こうなったらレフィーヤの頭を叩いて記憶を!?

 などと混乱するアイズの中の小さなアイズ。もちろん本物アイズも絶賛混乱中。

 

「ほ、本当にいた。貴方、他派閥のくせにアイズさんに鍛えてもらおうとしたんですか!?」

「ご、ごめんなさい!」

 

 あ、手繋いでる。

 片腕を掴まれたままなので逃げられず片手で顔をかばい震える年下の少年にレフィーヤがハッと慌てる。

 

「そ、そこまで怯えなくても! その、私も言い過ぎました! もう怒ってませんから」

「で、でも………美人の怒りは中々収まらないってお義父さんが………」

「びっ!? ななな、何を言ってるんですか貴方はぁ!!」

「やっぱり怒ってる!」

「……………………」

 

 仲、良い?

 うん、仲良い。でも黙ってくれるとは限らないし、やはり頭を叩いて記憶を…………。

 

「あの、アイズさんがこの人の修行をつけようと思ったのって、姉弟子として、なんですか?」

「え、あ……う、えっと……………謝罪?」

「謝罪?」

 

 アイズはミノタウロスを結果的にけしかけてしまったこと、酒場で仲間が彼を嘲笑い傷付けてしまったこと、7階層で失礼な態度を取ってしまったことの諸々の謝罪がしたくて、彼が必要としていることを教えてあげたいと思った、という()()を話す。実際は彼の成長の秘密を盗んで師を取り戻そうとしているという、人には言えぬ本音があるのだが。

 

「酒場…………? っ! ぁ………あの、ごめんなさい!」

「え?」

 

 アイズの説明の一部に首を傾げたレフィーヤが、しかし何かを思い出し慌ててベルに頭を下げる。

 

「私もあの時、あの場所で、笑ってたんです。リヴェリア様に叱られても、貴方への申し訳無さよりも先に自分の行為への恥を感じてました」

「え、えっと………か、顔を上げてください! その、僕が情けない姿を晒してたのは事実なわけで」

「だからって、ミノタウロスに殺されてたかもしれない人のことを笑うなんて………!」

 

 そしてそれを真っ先に反省できなかった。彼処には死にかけ、それを嘲笑われた者が居たのに。

 アワアワと慌てるベルは助けを求めてアイズを見るがアイズもどうすればいいのか分からずオロオロしている。

 

「決めました! 私も手伝います!」

「え?」

「………え?」

「お金とかはやっぱり不誠実ですし……かと言って、アイズさんやアイズさんの師匠に教わっている貴方になにか教えられるとは思えません。でも、お手伝いぐらいならできます!」

 

 

 

 

 

「だぶら!?」

「ベル・クラネル!?」

 

 動きを見せるよ、とベルの剣を借り振るったアイズ。そのまま蹴りの動きに繋げる動きを見せようとしてベルが蹴り飛ばされた。

 その後は鞘をつけた剣で打ち合う。当然といえば当然だがベルが一方的にやられている。

 

「痛みになれてるんだね。前にも進めるけど、闇雲じゃない………後は、避けに徹する癖をなくすのが重要かな」

「それは、確かに………」

 

 なにせ相手がヴァルドと義母(はは)だ。手加減した一撃でも気絶しかねないのに、防御なんて取れるわけがない。あの二人は手加減してても恩恵なしが相手していい存在ではないのだ。

 

「攻撃に怯えてるわけじゃない。その癖さえ直せば、反撃もしやすくなる。行くよ?」

 

 と、再び打ち合う。言われたところを素直に直すベルにアイズが微笑み、手加減を忘れてふっ飛ばした。

 

「ベル・クラネルゥゥ!? 気絶してる!! わ、私ポーション持ってきます!」

「あわ、あわわわわ!」

 

 気絶したベルを見てホームへ走っていくレフィーヤ。アイズはオロオロとベルを見る。

 

「………!」

 

 これは、5階層のリベンジのチャンス。

 膝枕をして逃げられた記憶のあるアイズはその時のリベンジをするためにベルの頭をそっと持ち上げる。

 

『逃げられたのはお前のやり方が悪かったのではないか? 男なら普通は喜ぶものだ………なに、やったことがあるのか? ………………あ、ある。ヴァルドに、良く。逃げられたこと? それはない』

 

 とリヴェリアは言っていた。逃げられたことを笑われたアイズは何時か必ず成功させると夢見ていたのだ。

 膝に頭を乗せ、髪を撫でる。ヴァルドの髪質とはまた違ったフワフワした髪の毛。撫でていると心が洗われるような気がする。

 この子はとても綺麗だから。真っ黒な私と違って、真っ白で綺麗だから、触れているだけで、その白さが伝わってくるような気がする。

 

『黒い炎? それがお前の中にあると? ふむ、面白い例えだ』

『リヴェリアは、これを抑えろって』

『炎はやがて全てを焼き尽くす。モンスターだけでなく、お前自身も………あるいはお前の周りも』

『…………()()は、消さなきゃ駄目?』

『消せと言われて消えるようなものでもない。だが、俺達でも抑えることは出来るだろう。何時か、お前の中の炎を消してくれる誰かに出会うと良いな』

 

 何時か言われた師からの言葉を思い出す。

 自分の中の、火を消してくれる誰か…………

 

『英雄が生まれぬなら俺が育てる。お前達には、もう何も期待していない』

 

 ピタリと手が止まる。

 ヴァルドが求める英雄候補。選ばれたのは彼で……選ばれなかったのが私。

 高い成長性に、真っ直ぐな心。対して自分は師が5年で2度もランクアップしていたのに、最近漸くLv.6になった。もちろん冒険者全体から見れば上澄みどころか最強候補。しかし男神(ゼウス)女神(ヘラ)の時代なら、やはり上澄みなのだろう。

 心だって純朴な彼の期待に漬け込むような………

 なんだろう。側にいると落ち着くのに、同時に胸にジクジクとした痛みが走る。

 

「ん、ぅ…………あれ?」

「あ、えっと…………おはよう?」

「おは…………っ!? な、なんで膝枕!?」

 

 膝枕されているのに気付いたベルがバッと離れる。これでは5階層の繰り返し。

 

「…………膝枕(これ)をすると、体力の回復が早くなる、から?」

「………………」

 

 精一杯考え、我ながら完璧な回答をしたアイズだが、ベルの目に浮かぶのは疑念。騙せなかった。

 

「………ごめん。本当は私が君にしたかったから」

「!? アイズさんは天然! アイズさんは天然!!」

「?」

 

 自分に言い聞かせるように頭をポカポカ叩きながら叫ぶベルを不思議そうに見るアイズ。

 

「い、嫌だった?」

「うえ!? い、嫌じゃ………ないです。むしろ役得っていうか………って嘘! ウソうそ嘘です! その、嬉しいんですけどいや変な意味じゃなくてー!」

「じゃあ、してもいい?」

「してくれてもいいというかされたいというか、でも恥ずかしい情けないし、気絶してる間は不可抗力ですけど起きてる時は……!」

「解った。気絶させてからするね」

「…………はい?」

 

 

「ポーションもってきま………アイズさん!?」

 

 アイズがまた少年をふっ飛ばしていた。市壁の塀にぶつかり気絶するベル。アイズはレフィーヤに気付き気まずそうに顔を逸らす。

 

「や、やり過ぎなんじゃ……」

「あ、う………えっと、その…………膝枕するから………」

「それは羨ましいですけど無かったことにはなりませんよ?」

「………あぅ」

 

 流石に目の前でぶっ飛ばされた年下の少年相手に文句も言えないレフィーヤ。取りあえず寝ているベルの首を傾けポーションを飲ませる。

 

「………………」

「……………起こさないんですか?」

「え?」

「え? えっと……遠征までですよね、修行つけるの。なら、あまり時間がないわけですから起こしたほうがいいんじゃ」

「………………っ!」

 

 今気付いたというように目を見開くアイズはしかしジッとベルを見つめる。

 

「………無理は、良くない。うん、無理は良くないから」

「そ、そうですか?」

 

 そうかもしれないけど、ううん。

 

「そういえば、レフィーヤはどうしてこんなに早く?」

「え? あ、その………そのですね。アイズさんに、修行を付けてほしくて」

「私に? ……………うん、良いよ。その代わり、これは内緒ね?」

「はい!」

 

 

 

 

 

「もしかしてわざとやってません?」

 

 3日後。

 レフィーヤはとうとう聞いた。ベルに膝枕していたアイズはビクッと震える。

 気のせいか、アイズはやたらベルを気絶させている気がする。

 

「あ、わ……わた、私………ポーション取ってくる」

 

 流石にファミリアの備品を使うわけにもいかず、初日持ってきたのはレフィーヤの私物だったのだがそんなに持ってるわけではない。今日は持ってきてないのでアイズが自分の分を取りに帰った。

 あの反応、本当にわざと? でもアイズがそんなことをするとは思えない。まさか膝枕するためだけに?

 

「…………アイズさんの、膝枕」

 

 羨ましい、とベルの頬をつつくレフィーヤ。うーんと唸るベルは目を覚ました。

 

「あれ、アイズさんは………」

「ポーション取りに行きましたよ。明日からは自分でも持ってきてください。取りあえず簡単にできる治療をするので、脱いでください」

「え!?」

「ち・りょ・う! 何を勘違いしているんですか!?」

 

 包帯と湿布を取り出すレフィーヤ。ベルは少し恥ずかしながら脱ぎ、レフィーヤが痣になってるところに湿布を張っていく。

 

「……良く続けられますね」

「え?」

「こんなに、ボロボロにされて、辛くならないんですか?」

「…………えっと、まあ辛いですよ?」

「なら」

「でも、強くなりたいんです」

 

 と、ベルは握り締めた拳を見つめる。

 

「追いつきたい人達がいる。守れるようになりたい人達がいる。その為に、走り続けるって決めたんです」

「…………なら、同じですね」

「え?」

 

 市壁の塀を背もたれ代わりに空を見上げるレフィーヤ。空に浮かべるのは、先を歩く者達の背中。

 

「私も、追いつきたい人達が居ます。その人達を守れるぐらい、力になれるぐらい強くなりたいって思ってます。だから、同じ……解りますよ、その気持ち」

「────っ!」

 

 今更ながら、エルフというのは容姿の整った種族だと改めて再認識させられるベル。

 

「でも、先に追いつくのは私です!」

「! ぼ、僕だって負けません!」

「むっ、Lv.1が生意気な………」

「今は、Lv.1でも………何時か、絶対………誰よりも早く、ランクアップしてみせます!」

 

 現在の世界記録(レコード)は半年。所有者(ホルダー)はヴァルド・クリストフ。それを超えると宣言したベルに、レフィーヤはそうですか、と立ち上がりビシッと指差す。

 

「それじゃあ私と貴方は好敵手(ライバル)です! どっちが先に追いつくか………いいえ、どっちがより強くなるか、勝負です!」

「ライバル………はい、負けませんよ、ウィリディスさん!」

「…………レフィーヤでいいですよ。私も、ベルって呼んでいいですか?」

「はい、もちろん!」

 

 と、そこでアイズがポーションを持って戻ってきた。

 

「あれ、二人共………仲良くなった?」

「「……………内緒です」」

「…………なってる」

 

 アイズの言葉にお互いを見つめ、同時にいたずらっぽく笑い指を口に添える二人を見てアイズは『私が先に知り合ったのに』のレフィーヤをジトッと睨む。

 その翌日ベルが持ってきたポーションに『ユメミール』なる薬品が混じって一悶着あったり、【ロキ・ファミリア】と同盟を組んでいる【ディオニュソス・ファミリア】の主神であるディオニュソスがフィルヴィスにレフィーヤの修行をつけさせフィルヴィスが不承不承に了承したりと色々あった。

 

 

 

「………………」

 

 そんな仲睦まじい様子を眺め不機嫌になるのは、とあるポンコツ妖精と、とある女神。

 女神は無意識に椅子の肘掛けを指でトン、トンと叩いたり髪をクルクル弄る。

 

「………ああ、私、妬いてるのね」

 

 己の無意識の行動に気づきクスリと微笑む。こういった経験は少ない。神ともあろうものが、子供のようだ。

 だが面白くないものは面白くない。と………

 

「あら?」

 

 少年の白とは別の白を見つけ、女神は静かに微笑んだ。

 

 

 

 

「お〜い! ヴァルド〜!」

「ん……」

 

 ダンジョンから地上に戻ってきたヴァルド。聞こえてきた声に振り返ると空から、というか高台の道から薄鈍色の髪をした少女が降ってきた。

 難なく受け止めるヴァルド。成人男性が成人間近の少女に高い高いでもしているかのようなポーズになる。

 

「ヴァルド、お料理教えて!」

 

 そう満面の笑みで言うのは、シル・フローヴァ。豊穣の女主人の店員にして、ヴァルドの友人。どうやらヴァルドから料理を教わりたいらしい。

 

「断る」

「やっぱりベルさんの胃袋を掴むにはベルさんの実家の味付けを知ってる……………え?」

「俺が一番美しいと思ってる女神はアストレアだ。そして、その次はデメテル」

「あ、うん……ふーん」

 

 唐突に好みの女神の話を始めたヴァルドに、シルは地面に降ろされながらジトッとした目を向ける。

 

「お前の料理はそんな【デメテル・ファミリア】達を含めた農家など第一次産業に対する冒涜だから断る」

「それは言いすぎじゃない!? べ、ベルさんだってお弁当受け取ってくれるもん!」

「ああ、あれか。あれは俺も驚いた」

「ふふん、でしょう? 私だって成長して────」

「人の料理と呼べなくもない味になるとは」

「てい!」

 

 と、シルがヴァルドの脛を蹴り、足を痛める。

 

「…………硬い」

「当然だろう。俺は恩恵持ちだぞ」

「うう…………」

 

 涙目でヴァルドを睨むシル。

 

「でもヴァルド、練習しないことには上手くなれないじゃない。失敗するとしても、成功のためにも練習しなきゃ!」

「……………まあ、一理あるが………ウィンナー切って焼いただけでミア母さんを昏倒させたお前に食材を渡すのは、やはり食材に悪い」

「ヴァルドはもう少し私に悪いと思って言葉を選ぼう!?」

 

 う〜っ! とポカポカ叩くシル。

 

「解った。じゃあお料理の勉強は諦める。帰ってきたなら、少なくとも明日まで潜らないでしょ?」

「ああ」

「デートしよ、ヴァルド!」




アイズ→ベル
一緒にいるとなんだか嬉しいけど嫉妬もあって、アニマルセラピー味を感じる純粋なベルと自分を比べてちょっと落ち込む

レフィーヤ→ベル
ライバル。頑張る姿を見て私も頑張ろうと思える………まずい


シル→ヴァルド
親友。一緒におでかけだしたりもする



とある女神の従者→ヴァルド
もう色んな感情がグッチャグチャ。取りあえずもし素の状態であったら刺す

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス
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