オラリオに失望するのは間違っているだろうか?   作:超高校級の切望

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「最()級待遇部屋」
【ディアンケヒト・ファミリア】治療院に存在する特別室。一見するのただの部屋だが壁や扉は内部にオリハルコンが格子状に存在し、床に固定されたベッドの足から伸びた鎖には首輪がつけられている。もはや監禁部屋だが5年前、団員が回収し忘れた果物ナイフで壁を切り裂かれた。材料費の関係で修繕費は高くついた。今は不懐属性(デュランダル)を付与され室内にはステイタスダウンの魔道具(マジックアイテム)がたっぷり。
ロキにより『完治しないと出られない部屋』という看板が内側に存在する。
因みに最終手段として破壊されると腕輪の方に強力な電流が流れる首輪と腕輪が鎖で繋がった魔道具が用意されてる。逃げたら私が苦しむぞ、という無言の脅し。


鍛冶師と魔導師

「ぜあああ!!」

 

 吠えながら迫るベル。それを受け止めるのはヴァルドだ。ベルより動きが遅い。そういう風に手加減している。

 それでも技術だけでベルの上を行く。ベルが動き始めた頃には既に迎撃される位置にヴァルドの木刀が添えられている。

 

「動きが直線的すぎる。嘘を混ぜろ、先を読め」

「がぎゅ!?」

 

 ゴッ、と額に突きが放たれ転ばされるベル。額を押さえ涙目になるベルに迫る靴裏。慌てて飛び退く。

 

「やられた程度で気を緩めるな。モンスターはお前が生きてる限りお前を殺そうとするぞ」

「は、はい!」

 

 

 

 

 肩で息をするベルはポーションを飲みながら傷を癒やす。ヴァルドはポーションを一口飲んで僅かに目を細めた後、残りを飲む。

 

「師匠、僕……強くなれてますか?」

「ヘスティアが居ない以上【ステイタス】は上げられない。現状鍛えられるのは技術のみだ………お前は良く応えている」

「っ! はい! でも、神様どこに行ったんでしょう? ミアハ様は宴以来見てないって言ってたし」

「………まあ、ヘスティアにも成すべきことがあるのだろう。今日教えた分はダンジョンでものにしろ」

「はい!」

 

 

 

 

 その頃のヘスティア。

 彼女は膝を曲げ、地に額をこすりつける極東の奥義『DOGEZA』なるものをヘファイストスの部屋で行っていた。

 

「……何時までそうしてるのよ。いい加減、気が散るんだけど?」

 

 ヘファイストスの言葉にも顔を上げない。

 頼み事を聞いてくれるまで動かないつもりだろう。しかし、その頼みごとも昔馴染み相手であってもかなり無茶なものだ

 

「あのねぇ、ヘスティア。何度も言うけど【ヘファイストス・ファミリア(ウチ)】の上級鍛冶師(スミス)の武具は最高品質。()()()()()()一流なのよ」

 

 【ヘファイストス・ファミリア】は生産系【ファミリア】、鍛冶の神たるヘファイストスに付き従うは炎で熱した鉄に己の魂を、心を打ち込む鍛冶師達。それを売り、生計を立てる。

 武器の値段とはつまり鍛冶師の腕の、誇りの証明だ。

 

「子供達が血と汗を流して造り上げる武具。それを友神の誼で格安で譲るなんて出来るわけないでしょう?」

 

 それの値段を吊り下げるなどありえない。それは鍛冶師として、何より鍛冶師達(かれら)主神(おや)として絶対に行えない。

 

「お金ならヴァルドがちゃちゃっと稼げるでしょ。あの子に頼まないの?」

「あんまりあの子に頼りすぎるのは………」

「私には頼ってくるくせによく言うわね?」

「わ、悪いとは思ってるよ! でも、あの子だと眷属だから返さなくていいって言いそうだし………その点ヘファイストスなら何百年経っても返せってきちんと言ってくれるだろうから」

 

 自分のわがままには、きちんと金は返したいということか。志は立派だが先立つ物がないなら妄言だ。ヘスティアがこういったことの約束を破るような神ではないと知っていても、頷けない。

 

「俺からも頼む、ヘファイストス」

 

 と、その時扉が開き人が入ってくる。ヴァルドだ。ヘスティアが驚いている横で机に置かれたバックパック。中には大量のドロップアイテムやダンジョン鉱石。

 

「ヴァ、ヴァルド君!? 何でここに!?」

「武器の話を聞いてから宴を行くことを決めて、数日は帰らないと宣言した。おまけにヘスティアは俺が住み着いたばかりの頃ヘファイストスについて話していたろ」

「な、なるほど…………」

「久し振りねヴァルド。ノックぐらいしたらどうなの?」

「椿が鍛冶師相手にノックなどせず入ればいいと言っていたぞ?」

「あの子は………」

 

 はぁ、と呆れたように息を吐くヘファイストス。

 

「ヴァ、ヴァルド君………でも、これはボクが…………」

「ベルはお前の眷属である前に、俺の弟子でもある。彼奴の武器と言うなら俺も払うのが道理だろう」

「そ、それはそうかもしれないけど………」

「…………俺の弟子、ね…………【剣姫】の時とは対応が違うのね?」

「あの時【ロキ・ファミリア】は既に大手だ。態々俺が出すより確実だった」

「…………それもそうね」

 

 ヘファイストスはバックパックの中身を確認しながら頷く。少なくとも当時の彼ではこれらは用意できなかったろう。

 

「ヴァ、ヴァルドくぅん…………」

「情けない声を出すなヘスティア。先程も言ったが、ベルは俺の弟子だ………」

「う、うう………解ったよお。でも、せめてお金はボクから君に………」

「必要ない」

「いやボクにも主神(おや)としてのプライドが………」

「なら、材料費はいらないからそれを抜いた、働きに見合った金額を私に払いなさい」

 

 子供に頼りきりなのがそんなに嫌なのか、食い下がるヘスティアにヘファイストスが落とし所をつける。

 

「う、うん。解った、それなら………いいかい、そこから先は依頼したボクが払う! 君は気にしないでくれ!」

「………主神の命なら従うまでだ。ではなヘファイストス、俺は椿に用がある」

「あの子なら鍛冶場にいるわ。場所、変わってるけど今は槌を振るってるから………」

「なら、問題ないな。彼奴の音なら覚えている」

 

 ヴァルドはそう言うと部屋から出ていった。

 

「それでヘスティア、ヴァルドの弟子ならその子の武器は長剣でいいの?」

「え………そ、そうだけど」

 

 そう、と一言呟いてヘファイストスは壁に作りつけられた棚に向かう。新品同然に磨き抜かれているショートハンマーから一本抜き取りバックパックの元に戻る。

 

「って、これ『カエルム・ヌービルム』じゃない………」

 

 ドロップアイテムに混じりバックパックに入れられていたのは、布に巻かれた一本の剣。ヘスティアにも見覚えがあった。

 

「それ、ヴァルド君がオラリオに来た時ベル君に上げてた奴だ。ベル君はそれでダンジョンに潜ってたよ」

「これを? まあ、上層でなら普通の冒険者にも有難い性能だけど」

 

 それでも使いこなせなければ上層最硬のキラーアントは斬れないと製作者自ら認める鈍ら。世界で唯一人しか使いこなせなかった特注品。

 

「これも使えってことね………後は、これ?」

 

 『カエルム・ヌービルム』と同じく布に包まれているドロップアイテム、あるいは鉱石。布を開くと出てきたのは漆黒の塊………。

 

「…………アルテミス?」

「何よ、いきなり」

「あ、いや………ただそれからアルテミスの…………ううん、これはアルテミスの精霊(こども)の気配?」

 

 布が特殊なのか、解いた瞬間感じる存在感。確かに悍ましい相応の力持つモンスターの一部だったろうに、精霊の加護の気配……いや、これは精霊そのものの気配が混ざっている?

 

「詳しくはどうせ教えないでしょうね、あの子。でも、確かにこれはいい素材になる」

「って、まさかヘファイストスが打ってくれるのかい!?」

「そうよ………何、不満なの?」

「そんなことあるもんか! 嬉しいに決まってるよ!」

 

 からかうように言うヘファイストスにヘスティアは満面の笑みで不満を否定する。天界の様に『神の力(アルカナム)』を使えない制限があるとはいえ、鍛冶を司る神の腕は文字通りの神業だ。

 

「でもそれは、あくまで業………技術としてよ。それ、解ってる?」

「もちろん! ヘファイストスの技術は天界でも誰にも負けないのをボクは知ってるぜ!」

「………………」

 

 自分を信頼するヘスティアに、ヘファイストスは何とも言えない顔をする。まあ、悪い気はしない。

 

 

 

 

「………………」

 

 鉄を打つ音が聞こえる。昔はどれもこれも同じに聞こえたそれは、しかし何度かその光景に立ち会う内に、少なくとも一人、違いが分かるようになった。その音に導かれるように、迷いなく歩く。

 

「ここか………」

 

 ノックせず扉を開けば、開け放たれていた窓からも抜けきれず籠もっていた熱気がムワリと襲う。部屋の隅の炉の近くには鉄を打つ眼帯をした褐色肌の女。

 鉄床(アンビル)に乗せた鉄を打つ音が響く。鉄から発せられる熱気ゆえか、極度の集中や体力の消耗ゆえか汗を流しながらもその女は猛々しい職人の顔に笑みを浮かべていた。

 やがて鉄を打つ音が止み、鋏で剣身を持ち水に浸ける。じゅううっ、と立ち上る湯気。研がれ、磨かれていく刃。柄と鍔を組み合わされ一振りの剣が完成した。

 

「……椿」

「む?」

 

 片手に持つ剣をまじまじ眺めていた彼女はヴァルドの声に気づき振り返り、右目を丸くする。

 

「おお! ヴァルドではないか、帰ってきたのか!?」

「ああ。数日前にな」

「そうかそうか。で、ここに来たと言うことは手前に打ってほしい武器があるのだな?」

「……何をしていた、とかは訊かないんだな」

「訊いたところで、手前にはなんの関係もないことであろうよ。手前は鍛冶師でお主は剣士。我等の間にある関係は、これだけで十分よ」

 

 はは、と豪快に笑う女………椿・コルブランドの言葉に違いない、とヴァルドも同意した。

 

「それより工房に籠もりきりで人肌が恋しいのだ。抱きしめさせろ!」

 

 赤い袴に、さらしを巻いただけの露出度の高いハーフドワーフ。ハーフだからか、短足短腕ばかりのドワーフの血を引く身でありながらスラリと長い手足に細いくびれと、豊満な胸。女としても極上の肢体を持った美女が両手を広げ迫ってくるのを、ヴァルドは困ったような顔を一瞬浮かべ、大人しくされるがままになる。

 

「ああそうだ、事後承諾になるが『カエルム・ヌービルム』、あれを弟子に渡した」

「ほう、【剣姫】にか? 武器など所詮は消耗品よ。永遠に使い続けられる武器などないから好きにせよ。しかしなぁ、言っては悪いが、あれを下層でも使えるのはお前ぐらいのものであろうよ」

「いや、オラリオの外で見つけた弟子だ。せいぜい上層でしか使えないが、今ヘファイストスが造る武器の材料になってるだろうよ」

「ほう!」

 

 と、その言葉に椿は弾んだ声を出す。

 

「どうせ今のお前は使わず他の誰にも使いこなせぬ剣だ。主神様の手で生まれ変われるならなんの不満があろうか。で、わざわざそれだけを言いに来たのか?」

「いや、お前も言っていたように制作依頼だ」

 

 そう言って取り出されたのは、真っ黒な肉の塊。

 骨や爪、牙などはまだ解るが肉? 革なら戦闘衣(バトルクロス)の材料と理解できるが。

 

「これで一振り、剣を造って欲しい」

「これでかあ?」

「ああ。あと念の為この特別調合された毒消しを渡しておく」

「毒あるモンスターの一部か。とは言え死体にそこまで…………ん? いや……これは()()()()()()()?」

「ああ、()()()()()()()()。モンスターにでも食わせりゃたちまち体を乗っ取るだろう。俺の雷霆で散々焼いて、残った部分だ。一番生命力が強かったんだろう。それで一振り、剣を頼む」

「手前も生きている肉を使って剣を打つのは初めてだ。というかこれで特殊武装(スペリオルズ)を造れとでも? どう考えても『神秘』持ちの領分であろう。ちょうど【フレイヤ・ファミリア】の黒妖精(ダークエルフ)の剣を造った呪詛師(ヘクサー)が──」

「知らん」

 

 鍛冶師としてのプライドはあれど、だからこそ十全に力を引き出せぬ依頼ならば他所に頼めと言おうとした椿だったが、ヴァルドが遮る。

 

「【フレイヤ・ファミリア】の【外面厨二病黒妖精(ダインスレイフ)】なら知っている。Lv.6の専用武装なら、なるほど確かに一級品だろう。だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………」

「………む」

 

 鍛冶師としてなんとも嬉しい褒め言葉………を通り越してもはや口説き文句に照れくさそうに頬をかく椿。

 

「そうまで言われては最早断らんがなあ………これの力を引き出せぬというのは」

「問題ない。鍛冶師としてはお前を一番に置いているが、『神秘』として一番に置くのは別だ」

「ふむ? もしや【万能者(ペルセウス)】との合作を造れと?」

『いいや、私とさ』

 

 不意に聞こえた、二人だけの室内に響く第三者の声。第一級(Lv.5)であり自らもダンジョンに潜り怪物を倒してきた椿の感覚が、すぐにある方向に何かが存在していることを捉える。

 何も映らないが、何かがいる。椿に気付かれ観念したのか、空間に浮かび上がるように黒ずくめのローブを纏った謎の人物が現れる。

 

「はじめまして【単眼の巨師(キュクロプス)】。私は訳あって名を隠させてもらうが、ヴァルドとは個人間での取引をする間柄にある魔導師(メイジ)。今回はそちらのドロップアイテムで造られる剣に特殊効果を付与する依頼を受けた」

「その二つ名はよしてくれ、怪物(モンスター)のようで好かんのだ。しかしなるほど? お主と共にこのドロップアイテムを加工すればいいのだな?」

「そういうことになる。剣の制作においては役に立たずとも、そのドロップアイテムの力を引き出すということに於いては役に立てると自負しているよ」

 

 とはいえ、かなり怪しいともローブの人物自体自覚している。知人の紹介とはいえそう簡単には頷かぬだろう。そう思っていたが………

 

「よし! では始めるぞ!」

「…………は? いや………え? し、信用するのか? こう言っては何だが、私はかなり怪しい見た目をしているぞ」

「だからどうした。見た目など、腕になんの影響がある。それにヴァルドが紹介したのだ、手前が信じる理由はそれで足りる」

「だ、そうだ。期間は?」

「何を他人事のように言っておるか、お主の雷霆に耐える肉なのだろう? 手前の炉では火力が足らん。お主の雷霆(魔法)で焼け」

「………………解った」




ヴァルドの情報
白髪紫眼で【ロキ・ファミリア】にいるだけありイケメン。ランクアップの偉業が毎回半端なく、女性人気をフィンと1、2を争うほど。
現在はある女に言われ髪を伸ばしており、ポニーテール。昔ベルに引っ張られた。髪留めは自作。
纏っている黒いコートはとある黒髪エルフとダンジョン探索中異常事態(イレギュラー)で発生した漆黒の獅子の皮から作られており、高い防御能力を誇る。
長剣は獅子の牙とミスリルを使った特注品だったが知り合いに新しい長剣の制作を依頼した。
シルの飯を食べると『加護』の影響で味も食感も、何一つ感じない。栄養だけは取れる。
歓楽街での好きな種族はエルフ、獣人、人間、ドワーフ、小人の順。アマゾネスは嫌いではないが苦手な部類。
入団したてのベートをボコボコにしたこともある。
実は甘味が好き。


漆黒の獅子 推定推奨能力値Lv.6の迷宮の孤王(モンスターレックス)級 出現場所28階層
全体的な特徴は3周りは巨大なライガーファング。ただし鬣が生えており、縞模様は黒い毛並みなので存在しない。
魔法、物理どちらに対しても高い耐性を持つ毛皮を持ち、殺傷能力の高い爪や牙を振るう。
当時のヴァルドの剣では毛皮を斬れなかったので大口開けた際歯茎を切り牙を奪い突き刺した。ドロップアイテムは毛皮と牙。毛皮は革にしてレザーコート。牙は剣に混ぜ込んだ。
因みにLv.5になって約一年の頃。ランクアップはしなかった

なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート

  • 家族仲良く リヴェリア、アイズ
  • 一度実家へ アルフィア、ベル
  • 聖夜祭だろ シル、ノエル
  • 夫婦水入らず リヴェリア
  • 義母義父のみで アルフィア
  • 街娘と日常を シル
  • 最も美しい女神(ヴァルド評) アストレア
  • 聖夜と言ったら聖女 アミッド
  • ツンデレ大和撫子 輝夜
  • 一人で過ごす男達の為に オッタル
  • 一人で過ごす男達の為に アレン
  • あるいはこんな世界 ディース姉妹
  • 聖夜祭は店も大忙し 豊穣の女主人
  • 何やらおかしな実験に フェルズ
  • ダンジョンデートだ 椿
  • ドロドロ依存 フィルヴィス

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