オラリオに失望するのは間違っているだろうか? 作:超高校級の切望
「速いわねえ………私には、何も見えなかったわ」
「5年前よりも、遥かに速くなっております。おそらく、アレン以上に」
オッタルの評価にフレイヤはそう、と目を細める。
「やっぱり素敵ね、あの子も。光に焦がれ、光を求め、自身も輝く
宝石を眺める貴婦人のように、熱に浮かされる娼婦のように、恋に溺れる少女のように、女神は美しく微笑む。
『彼』の弟子に『ちょっかい』をかけて観察した後、見覚えのない怪物が都市各所に現れ折角のいい気分を台無しにされた瞬間、黒い竜巻が自身の眷属達が向かった方向から吹き荒れ、次に雷光が都市を駆け巡り新種のモンスターの8割を殺し尽くした。
残りの2割もその場の上級冒険者や、再び雷光にはならずとも疾風の如き速度で駆け回る『彼』に討伐されていく。そして………
「無遠慮に舐め回す視線はやめろ、フレイヤ」
ザッとオッタルとフレイヤが佇んでいた建物の屋上に足音と声が響く。
オッタルもフレイヤも驚愕することなく振り返る。
「いいじゃない、女の子は何時だって気になる子を目で追ってしまうものなのよ?」
「子と言う歳でもないだろう」
「もう、貴方って何時もそうね」
と、少女のように拗ねて見せるフレイヤに現れた青年、ヴァルドは眉根を寄せる。
「お前達美の神が何時も俺の神経を逆なでするからだろう。
「ヘスティア……そう。貴方、ロキのところから抜けてあの子の
「好みではない」
バッサリと美の女神の流し目を切り捨てるヴァルド・クリストフ。きっと多くの者が驚愕するであろう光景を、オッタルはむしろ当然だというような顔をしており、それに気づいたフレイヤがジトっと睨む。
「方法は定かではないが、お前もまた一歩高みへと至ったか」
「………一歩?」
オッタルの言葉にピクリとヴァルドが肩を震わせる。明らかに不機嫌になったヴァルドにオッタルが困惑した。
オッタルとヴァルド・クリストフ。嘗て都市最強の座を巡る【ロキ】と【フレイヤ】それぞれの派閥に居ながら、二人は決して仲が悪くはなかった。寧ろ良い方だ。
オッタルは【ゼウス】や【ヘラ】に泥をかぶらされていたことを知らず彼の
【
故に、ヴァルドがここまでオッタルに敵意と失望を向けるのは初めてである。
「気づけば久方振りに酒でも飲み交わそうと思ったがやめだ。お前とは此方があっていた」
何かの
「構えろオッタル」
「女神よ、お下がりください」
オッタルもまた、身の丈ほどもある大剣を構えフレイヤを下がらせる。合図は要らない。踏み込むのは同時。
激突する剣と剣。オラリオ中に響き渡る轟音を持ってして、力負けした者が吹き飛ばされる。
「ぐぅ!?」
建物から足が浮き、それでも尚飛ばされるオッタルは漸く接近した地面を足裏で擦りながら、腕に響く衝撃に目を見開く。決して手加減はしなかった。する必要のない相手である以上に、するのは侮辱に当たると分かっているから。ならばと、殺す気で振るった。
押し負けた………
「何だその脆弱は。何だその惰弱は………」
降りてきたヴァルドから紡がれる言葉に覚えがある。向けられる感情を知っている。
「『頂点』と讃えられることに屈辱を感じていたのだろう。『最強』と謳われることに恥を覚えていたのだろう。『真の最強』に及ばぬことを、お前は知っていたのだろう」
それは怒り。それは呆れ。
上に立つ者が下の者に向けるその瞳に見覚えがあった。
「【
「打ち合えばわかる。お前、
その領域に立った者が放つ一撃に見覚えがあったオッタルは思わず嘗ての『真なる最強』の名を叫ぶ。ヴァルドは目を細め、剣を構える。
「
「っ!!」
響く強者の激昂に、オッタルは理解する。
嘗て己の後にいた後進の少年は、今や己の前に立つ『真の最強』の領域に至ったのだと。
「なんたる脆弱。なんたる惰弱! お前の言葉に、返す道理を俺は持たない!」
「ならばどうする猪? 最強の座を奪われ、女神の名に再び泥を落とされて………お前は一体何をする?」
「無論、お前を倒し、その座を取り戻す! 『真の最強』の領域に、踏み入るまでだ!」
「…………それで良い」
ヴァルドはそう言って微笑む。
「吼えたなら必ず成せ猪! これは選別……いいや、お前達に合わせて言うなら『洗礼』か」
剣を掲げる。その所作一つ一つに籠もった、昼夜問わず剣を振り続け怪物を殺し続けた愚者の至った頂きが、人の身でありながら数多の武神戦神に神域と讃えられた技術を感じ取れる。
『強者』が『弱者』へ放つ一撃。目指すべき高みの証明。
「【
相対させるは己の最強の技。意地ではない。相手を強者と認めた上で、それでも勝つために放つ一撃。
「【駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】」
「【ヒルディス・ヴィーニ!】」
「【
【静寂】にも匹敵する超短文詠唱と同時に現れる漆黒の暴風。大地を殺す、暴力の具現。
「【ジュピター】」
そこに加わるは雷霆、輝かしき英雄の光。
振り下ろされるのは、やはり合図なくとも同時。オラリオに再び響く轟音、吹き荒れる衝撃。銀の女神は顔を歪め目を覆う。
決着は付いた。いいや、遺憾ながらこれは決着ですらない。彼等が打ち合ったのはたったの二撃。真に決闘であれば、会話もなくもっと早く終わっていた。
勝者は始まる前から決まっていて、これは敗者になる男が目指すべき頂きに再び顔をあげるための儀式。
「もらうぞ、『最強』の称号」
土煙から飛び出してきたヴァルドはオッタルを抱えながらフレイヤにそう告げた。傲岸不遜にも見えるその態度に言ってやりたいことはあったが、満足そうな眷属を見てやめた。
「ええ、いずれ返してもらうわ。ところで、私一人で帰らなきゃ駄目かしら? 貴方がここに居るのなら、アレン達も気絶してるのだろうし」
「…………………」
ニコニコ微笑む女神にヴァルドは眉根を寄せ、オッタルを降ろすとフレイヤを抱える。
「オッタル達も後で送る。それでいいな」
「ええ、
2つの事件は無関係であると言うのがギルドの発表。方法は不明だが、何者かがモンスターを持ち込んだ。しかし、どうやってあれだけ大量に?
と、オラリオは不安に包まれる、かと思われた。
それを塗りつぶすニュースがあった。
一つは、【フレイヤ・ファミリア】の団長【
しかしすぐにそれは絶叫に変わる。
英雄の帰還。
暗黒期を実質的に終わらせ行方不明になっていた第一級冒険者が再びオラリオに現れた。そして、そのランクアップ。
【ヘスティア・ファミリア】所属【剣聖】ヴァルド・クリストフ。Lv.8。
オッタルを下したのも、彼。
レベルも、そして実力も最強であることを示した英雄がオラリオに居ることに住民達は安堵し歓楽街の美神はグラスを叩きつけ食人花の大群と後手に回っていた冒険者を見て暗躍ごっこをしようとしていた神々は「ふひひ、さーせん」と自粛した。
「Lv.8かぁ………先をいかれた、というか。置いていかれたね」
「オラリオの外で何をしたんじゃぁ、奴は」
「考えるだけ無駄だ。何時の間にか世界を救っていても驚かんぞ私は」
「みてみてアイズ! この人アイズの師匠なんでしょ!? すっごいね!」
「うん、師匠は凄く、凄いよ………」
「オッタル! てめぇ、負けやがったのか!? 何処に行きやがった!?」
「オ、オッタル様ならダンジョンに向かいました」
「ヴァルド………」
「帰ってきたようだな、お前の英雄は」
「…………お戯れを。あいつにとって私は、ただそこにいただけの娘です。救うべき多くの一つに過ぎません。特別でも、特例でもない。仲間ですらない。英雄のすべき行動だからやっただけ。役目だから手を差し伸べただけ。どうせ5年も経てば、私のことなど忘れているでしょう」
そして都市を騒がせる最強は人気のない路地裏を歩いていた。有名人になりすぎたため、認識阻害のメガネをかけている。
「フェルズ、ここらで良いだろう」
「ああ、もう人は居ないようだ」
ヴァルドの言葉に闇の奥から現れたローブの人物。フェルズと呼ばれた者はヴァルドに金の斧を差し出してくる。
「本来はハシャーナに届けさせる予定だったのだが、君がいるなら君に任せたほうがいいだろう」
「だとしても急だな」
「30階層で異変が起きた。単独で向かい、リド達と合流してほしい」
「5年ぶりか………俺が救助した
「無事、隠れ里まで送り届けた」
「そうか………」
ヴァルドはそう言うと金の斧の形をした魔剣を受け取る。椿の作品だろう、手に馴染む。属性も自分と近い。
「それと、これも」
そう言って渡したのは黒い球体。しかしヴァルドが魔力を流すと一瞬でローブへと早変わりした。それを羽織り、ヴァルドは顔を隠す。認識阻害の眼鏡にローブで顔を隠したヴァルドはフェルズに背を向ける。
「彼奴等、鍛錬をサボってはいなかったか?」
「ああ、毎日嬉しそうに報告してくるよ」
「そうか。では5年ぶりに揉んでやるとしよう」
そういうと、ヴァルドはダンジョンに向かって歩き出した。
オラリオ各所の反応
「Lv.8ぃぃぃ!? くっそお、何でヘスティアのとこにとられんねん! やっぱり『
「ロキ! ただでさえ化け物みたいだった師匠がLv.8になってるんすよ!? 勝てるわけ無いっすー!」
「あのガキ! あのガキが、Lv.8だと!? ふざけるな! そんなの、足りない! Lv.6を呼んでも……足りないではないか!
「それでなぁ! ヴァルドの奴め、『俺が納得できる剣を用意できるのはお前以外にありえない』と………」
「ああ、うん。もう6回目よ、その話……」
「いや全く鍛冶師冥利に尽きる!」
「はあ、これが爆発しろってやつなのかしら………」
「すごいわね、ヴァルド。Lv.8だなんて」
「Lv.4であの化け物女と斬り合えたんだ。今はどれだけのものかねえ」
「そりゃもう
「あのお方なら本当に斬ってもおかしくありませんからねぇ」
「流石にそれは………いや、たしかに」
「ぬふふふ! 流石だなぁ、ヴァルドきゅん!」
「みみ、見える! 雷火の怒りを買って太陽が斬られる未来が!」
「うん、今回ばかりは有り得そうだわ」
「あのイカレ野郎がLv.8だぁ!? おいおいおいおい、大丈夫かよこれ………まあ、殺したがってる奴は多いけどよぉ」
「殺す殺す殺す! あの英雄を、あの人を奪った光を!」
「あの人の魂を取り戻すために!」
「泥に染め地に沈め穢しぬいて殺してやるううう!」
「いいのか、彼に会わなくて」
「何度も言いますが、彼奴にとって私は」
「この前、訪ねてきたそうだ。お前が私と回っている時に。彼もお前を忘れてなんかいないよ」
「っ………」
「ヘスティアああああ! よりによって、あの糞女神のもとに、あの忌々しい英雄があああ!? Lv.8!?
なんか思ったより筆が進んでヒロインも増えたので聖夜祭デート再アンケート
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