ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
その男は、冒険者組合本部棟の自分に与えられた一室で、考えに沈んでいた。
「……駄目だ、
そう言って男は、今の時代珍しいと言うよりは存在さえもが疑われるレベルのノート
たとえ
ちなみにそのCAD画面には、全高八メートル程の人型の機械の塊……。この世界における戦場の覇者、人型兵器『
男はセーブしたファイルを、自作した
「ふぅ……」
男の手には一通の書類……細密かつ正確、精密な、一機の
彼はその図面をひっくり返す。図面の裏側には、クリップで書類に留められた白黒の写真。その写真には、無機質な印象を与える……しかし絶世の美少女の姿が写し出されていた。
彼は、その少女の無機質さに負けず劣らずの無機質な視線を、その写真に送る。
「……必ず、打ち負かす」
男の名は、ダライアス・アームストロング。
*
その
もっとも今思えば、性能こそ尋常でなく高いものの整備性は劣悪、なおかつ頻繁に高度な技術者――ダライアス本人――による調整や修理を必要とし、結果的に
だが
「……?」
その
(なんだ……? あの動きは……)
その
そしてダライアスの『
発掘に関わった考古学者、技術者たちによれば、おそらくは古代に大量に作られて、なおかつほぼ全て破壊されてしまった一般兵用の凡百な機体なのだろうとの事である。そうとでも思わない限り、あくまで
それ故に此度のトライアルの、当て馬、噛ませ犬として選ばれたのだ。
ちなみに形状だけは、かつて八〇〇年前の旧大戦において
しかしダライアスの眼は、その
(なんだ、あの滑らかな可動ラインは。断じてあれは低位機体の構造じゃないぞ。
……いや、出力の応答がうまく噛み合っていない、だと? そのために、
……問題は、制御系か!?)
ダライアスは、『ブラック・カタナ』の整備責任者――この
彼は相手に足枷をはめて戦って、勝利を盗むような真似はしたく無かったのである。実戦の場ならばともかく、少なくともこのようなトライアルの場では。
「エリベルト技術大佐!! あの機体を発掘した際に、何か別口で発見されなかったか!?」
「な、何かね、いきなり!?」
「あれは一般兵用の凡百な機体なんかじゃあない! 明らかに、なんらかの目的を持って製作された一品物だ! だがおそらく、パーツが足りない! 発掘された物品の中に、何か鍵があるはずなんだ!」
相手方の整備責任者であるエリベルトは、唖然とする。
「な、なんじゃと? し、しかしだな……」
「頼む! エリベルト師! ……わたしは相手の手足を縛った上での、欺瞞に満ちた勝利など欲しくは無いのだ。たとえ、わたしが負ける事になったとしても、だ! それは今の負けではあっても、最終的な負けでは無い!
だが……今、嘘の勝利を受け入れてしまえば、それは最終的な敗北だ。わたしには、そこから先は無いだろう。技術者として……」
「……」
エリベルトは沈黙する。そして彼は、助手に命じて一人の少女を連れて来させた。その少女は、絶世の美少女であった。だがしかし、何処か無機質さを感じさせる。
「この娘はララ……。『ブラック・カタナ』を発掘した遺跡から発見された少女じゃ。魔術で体組成などを調べたが、旧人類とも我々新人類とも異なっておる。
おそらくは、この機体の
彼女には記憶が無い。おそらく基礎的な知識も命令も何もかもインストールする前に、大戦が終わってしまい、彼女だけが遺跡のカプセルに残されたのだろう。
哀れに思って、な。軍の検査が終わった後に、引き取ってララと名付けたのじゃよ」
「では……」
「いや、この娘に操縦させても、この幻装兵の性能は他の
貴君の考え過ぎでは、と思うがの……」
「……くっ!」
ダライアスは『ブラック・カタナ』の胴体中央に位置する操縦席、『
そして、
『……見つけたぞ』
「!!」
「ら、ララ!? どうしたんじゃ!!」
少女ララは、エリベルトの制止を振り切って、
*
そして『ブラック・カタナ』が『目を覚ま』す。
*
「おお……!!」
「う、うわぁ!?」
「なんだこのデタラメな魔力の波動は!!」
周囲に噴出した魔力の余波が、その場にいた全員の身体を総毛立たせる。その魔力の渦の中心で、『ブラック・カタナ』は腰に二本差しになっていた双刀を抜き放ち、信じ難い速度で舞うような動きで振るっていた。
双刀はありあまる魔力を本体から供給され、凄まじい威力の妖刀と化している。
その一閃は、まさしく稲妻の如し。今現在の
『……しかも、剣に素養が無く、技術も無いわたしが操っていてコレなのだからな。く、くくく』
ダライアスは自嘲の笑みを漏らす。『ブラック・カタナ』
ダライアスには、その自身が造り上げた
彼は、『ブラック・カタナ』から降りる。
「お、おいアームストロング技術少佐……」
「……わたしの完敗……ですよ。いえ、戦う以前にわたしは敗れていました。自分自身に……。自分自身の
「……」
「ああ、
そのままダライアスは、
*
そしてダライアスは目覚める。そこは冒険者組合本部棟の、自分の研究室であった。
「ふう……。夢、か」
この二年間で彼は軍を退官し、冒険者組合へと移籍していた。理由は単純、しばらく頭を冷やす必要に迫られた事と、軍にいては思うような研究ができないからである。
無論、研究資金は軍の方がたくさん使える。湯水のごとく、とまでは行かないにせよ。しかし研究の多様性と言う面では、冒険者組合の自由さには敵いはしなかった。
ちなみにダライアスほどの技官を野に下らせる事について、当然の事ながら軍は難色を示した。
だが最終的には軍も首を縦に振る。何かしら、軍と冒険者組合の間で裏取引があった様なのだが、それにはダライアス本人は関与していない。
「……」
ダライアスはノート
(ふむ……。そう言えば、わたしも普段使い用の
……造るか)
彼はいったん
(二世代前の、旧式
彼は再度CADデータをセーブしてバックアップを取ると、ノート
(古戦場……アントシニアン平原がいいか。あそこに残骸を
その時ダライアスは、ノート
「……
そして彼は意気揚々と研究室を出て行った。
*
「なあ、あの男は?」
「ああ、うちの秘蔵っ子ですよ。『子』って歳じゃありませんがね。うちの組合の誇る、天才
……あ、天才って言ったのは内緒にお願いしますよ?そう言うと、怒るんで」
「ほお? ……天才、ねえ? くっくっく。もしかして、俺の機体は奴が造る事になるのかい?」
ダライアスは、そんな会話が交わされているとは知らず、簡易型の