ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
ポール・ガターリッジは
彼が一念発起して勉学を志したのは、九歳の頃であった。彼は貧しくなおかつ彼を無料の労働力としか見ない家庭を捨てて家出、近隣の物流の要所であったデイリーフの街へとやって来る。そこで彼は廃品回収で日銭を稼ぎつつ、幸運にも巡り合えた師――負傷除隊したかつて軍人だったらしい老人――に基礎的な勉強を教わった。十四歳の頃に師が亡くなり、彼は爪に火を点す様な思いで貯めた金で、中等学校普通科の特別枠を受験する。
幸運なのか奇跡なのか、彼は入試を突破。他人の二年遅れで中等学校の普通科に入学し、必死で勉強とアルバイトを積み重ね、これも他人の二年遅れで普通科を卒業した。その上で公務員の募集に応募し、見事試験に合格。農業水産省に配属されて五年。二十二歳になった彼は今、
ちなみに彼が
おそらく収支は十二年と半年後にはプラスに転じるのであろう。もしかしたら、危険手当なども含めればもう少し早まるかも知れない。
(害獣ってレベルじゃないよなあ……。ま、バフォメット事変のときよりかマシだ。あのときは後方とは言え、
あんときゃ酷かった。土中から突然
そういや、あのアレクシアとか言う大尉さん、手柄立てたんだから出世とかしたかな? してなかったら、
なんとか
(あー、小型の雑魚
彼は魔石を集め終ると、『ミメラ』に戻って背後の農村へと機体を歩かせ始めた。
*
「……流石にそのカタログに印刷されておる機械を買うのは、無理じゃのう」
「どうしても無理でしょうか、
「補助が出たところで、とうてい足りぬよガターリッジ殿。村で一番余裕があるわしが買うて、皆に貸す事も考えたのじゃがのう。昨年末から今年の年初めに至るまでの、あのバフォメットとそれに操られる
「……」
村長の言葉に、ポールは唇を噛む。今彼がこの
本来ここの村では幼い子供たちは近隣にある街まで通い、そこの寺子屋で教育を受けられていた。この村は、本当であればかなり恵まれていたはずの村だったのだ。だがそんな村でも、このありさまだ。ポールは
「……この
「とは言ってものう……」
「いえ、わかります。わかってはいるんです……」
「じゃが、この機械……。Mk-ⅠからMk-Ⅵまでは、どうなったのかの」
「それは、どうなんでしょうね?」
ポールは
(駄目だ……。
顔ではほのかな苦笑を浮かべながら、ポールの心は荒れ狂っていた。
*
「農業指導員のダンナ! 今日は害獣駆除、ご苦労だったね!」
「あいつらのせいで、せっかく直した畑が荒らされてさあ……」
「うちの旦那も、大怪我してねえ。子供らを寺子屋にやりたいんだけど、そうもいかなくなっちまったよ」
ポールは悔しい思いを必死で噛み殺し、明るい笑顔で言う。
「そいつは大変だね。なんとか子供らに勉強させてやれる様に、わたしも力を尽くすよ。実は秘密にしておいて驚かそうかと思ってたんだがね、収量がやや多い上に病害虫に強い、新しい小麦の種が手に入るんだよ。秋の種蒔きまでには持ってくるさ」
「うおおぉぉ!! そいつぁ凄ぇぜ!!」
「じゃ、畑仕事頑張って、そいつを買うお金を貯めないと!」
「さ、
村人が離れ、ポールは『ミメラ』を起動した。『ミメラ』が騒音を立てつつ歩き出す。村人たちは、総出で手を振る。ポールも機体に、大きく手を振らせた。
ポールは決意を新たにする。
(あの
子供たちのために……。子供たちに、勉学の機会を与えるためにも!)
ポールはデイリーフの街に帰還したら、暇を見つけて上申書を書こう、と決意していた。彼が徹底的に考え抜いた農村支援制度が
しかし今の彼は、その様な事は夢にも思わない。彼の頭には、かつての彼と同じ境遇の子供たちを救う事しか無かったのである。