ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
『
『うわ!? こ、こいつ勝手に!』
『可変機構ロック、一時的に解除します。
ギゴガゴゴゴゴゴッ!! ドガン!!
そして通称「実験部隊」――ダライアスが管理し、彼の護衛であるアレクシア・アーレルスマイヤー
『……へ、変形した?』
次の瞬間、再び爆発音じみた轟音が
ドゴオオオォォォン!!
『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
敵
『……飛んだ』
『なんてこったい、逃げられちまったい』
『グルウン・ブリッツ』のジェナ・スホーンデルヴルト中尉と『ブラウ・ブリッツ』のフーゴ・グラッツラ・ディンフィンブルム中尉が、呆然と言う。妙な形に変形した
『あ、落ちた』
『あっちは帝国軍の陣の方ですが……。これで壊れてくれていると、嬉しいのですが』
『やれやれ、まいったねえ。駄目だと思うぜ?ジェナさんよう。
『……已むを得ん。とりあえず、奴がばら撒いた部品を拾って帰還する。ルージー、データ収集は完了しているか?』
『はい。ぎりぎりでしたが』
『そうか……。不幸中の幸いだな。ジェナ中尉は分析装置を回収してくれ。わたしとフーゴ中尉で部品を拾う』
傷だらけになった『ローター・ブリッツ』と、同じく傷だらけの『ブラウ・ブリッツ』が、敵
*
ハウゼンシュトリヒ攻防戦が終了して一週間後、中央都市アマルーナの冒険者組合にあるダライアスの執務室に帰還してきたアレクシア大尉たちは、飛んで逃げた敵
「……ふむ、なるほどな。いや、よくやってくれた。鹵獲はできなかったが、このデータだけでも充分な価値はある」
「そ、そうですか!?ほっといたしました」
「ああ。よくやってくれた諸君。ルージー、ジェリー、ブリジットも良く頑張ったな」
「「「ありがとうございます、お
ダライアスはノートパソコンのキーを叩く。画面には、あの敵
「ふむ。これは勉強になるな……。こいつだな、この胸元、
ああ、やっぱりそうだ。敵
「「「「「「は?」」」」」」
「それは……大丈夫なのですか?」
彼の
「大丈夫なわけは無い。大方、
「「「「「「「あ」」」」」」」
「もっとも、次に修復するときはその点も考慮に入れて直してくるだろうな。帝国の技師も、阿呆ではない。
……これは、造ってみなければ感覚が掴めんな」
ダライアスのその言葉に、他の一同は今度こそ驚愕する。
「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」
「だ、ダライアス師!造ると言っても、あれは
「技術中佐、以前わたしとジェリーの『グルウン・ブリッツ』や他二機の加速装置実験機についてお教えいただいた際、たしかあの三機が今の時点での技術中佐の造れる最も高レベルな機体であると……」
「親分、あいつにゃ俺たち三機がかりでなんとか互角だったんだぜぇ!?そいつを造れるってか!?」
「我が
「ああ、いや。これをそのまま造る事は、わたしでも流石に不可能だ。造れるのは劣化コピーだな。あちらこちらに、構造こそ分かったが何のためにあるのか分からないパーツもあるし、な。ここら辺はブラックボックスとして、デッドコピーするしかないだろう」
一同は納得して静まる。しかしダライアスは、更に先の事まで考えていた。
(……やはりあの計画、海洋温度差発電所の建設と、それをエネルギー源にした工業施設群の建設計画、それを実現させねばならないな。今回の帝国の侵攻は、本気ではなかっただろう。皇帝が本気になっていたら、冒険者義勇軍に加えて若干の志願者がいたところで、同盟は詰んでいた。
本気で動いたのは貴族……ラズール公爵家と、それに追随する有象無象だけだ。庶務第三課の知り合いが教えてくれた。帝国が……いや、聖王国もだ。両国が本気で同盟を潰そうと考えない内に、国力を整えなければ)
庶務第三課とは冒険者組合の暗部組織で、諜報や破壊工作を行う目的の部署である。庶務第三課というネーミングは、単に偽装や隠蔽、
(だが国力を整え、蓄えるだけでは意味が無い。その増えた国力を使って、
『歩』の
だが……。国を……同盟を護るには、やはりそれだけでは無理、いや違うな。それだけでは効率が悪い、と言うべきか。『飛車』や『角行』級の機体も、必要だ。そのためにわたしも学び、研究し、技術と知識を鍛えねばならん)
ダライアスはノートパソコンから目を離し、立ち上がる。そして彼はララとアレクシア大尉に向かい、指示を発した。
「ララ、お前のお
「了解しました、技術中佐」
「アレクシア大尉、君の中隊の第二、第三小隊は今それぞれ、『ブロッキアーラⅡ』と『ドランゲン・スタイン』の運用試験をしていたな? それは今再編のために訓練中の、冒険者組合
「了解です、ダライアス師!」
「二人とも、頼んだぞ」
そしてその場の全員は解散し、各々の任務に散って行く。ダライアスは再び椅子に腰掛けると、ノートパソコンの画面に見入る。その頭脳は、高速回転していた。
(今まできちんとまともに調査できた
だが今回データを取れた敵の
とりあえずは、科学技術製の装備をなんとか魔導技術に置き換える事を考えねばな。それと現時点で最大の収穫は、加速装置周りの最新技術? いや
彼はノートパソコン上で自作の
「……そう言えば、兵器開発局局長が言っていたな。ホリフィールド武器工房が、フレームの設計段階から自己開発して、新型機を造る、と。その計画が、そろそろ動き出す頃か?フレーム設計はアナハイム・プロダクションの秘匿電子計算機が無ければ無理だと思うのだがな。……いや、ホリフィールドで電子計算機でも発掘したか?むむむ……。
あそこはある意味「身内」だからな。この
独り言を呟きつつ、ダライアスはキーを叩く。彼の手によって、旧大戦期の失われた叡智への道標となり得る図面が、液晶ディスプレイの上に浮かび上がりつつある。彼は一心不乱に、設計に打ち込んだ。
*
そして半年。聖華暦八三四年十月某日。あっさりと
機体を前に、フーゴ中尉が
「どことなく似てはいますがねぇ……。なーんか違いやせんか、ダライアスの親分?」
「まあ、完全再現はできんと言ってあったろう。機能的なものは、八割方再現できてるぞ? 流石に
「それで何故、魔導障壁が発生しないのでしょう?」
問いを発したジェナ中尉に、ダライアスは苦笑しつつ答える。
「おそらくだが、
この複製機は、第七世代
これに載せた魔導障壁発生機構は、なまじ厳密に正確にデッドコピーしたからなあ……。構造に刻み込まれている認証コードも、そのままコピーされたんだろうさ」
「お、おいジェナたん、理解できるか?」
「難しいが、なんとか……。量子電脳とか、わからん単語もあるが。と言うか、たん言うな。……って、アレクシア大尉!? 中隊長!?」
「うおおおぉぉぉ!? やべぇ! たいちょーが、頭から煙噴いてやがる!?」
しばし後、一同はとりあえず落ち着いた。復活したアレクシア大尉が声を上げる。
「死ぬかと思った……。それでダライアス師。本日はこの機体の試験を?」
「ああ、そう思って諸君らを呼んだのだが……。うっかりしていた。この機体は、最新型とは言え加速装置を積んでいる。制御にルシが必要なのだ」
「ああ、ルージー、ジェリー、ブリジットは士官学校でしたね。今日は任務扱いで呼ばなかったのでしょうか?」
「うむ、小さな任務でしょっちゅう呼び出していたら、いかにあの娘らが超人的な頭脳を持ってはいても、勉強に差し障りが出るからな」
「んじゃ、どうするんッスか? 親分」
フーゴ中尉の問いに、ダライアスは失笑する。
「已むを得ん、わたしが乗るさ。ララ、手伝いたまえ」
「了解です、技術中佐」
「ええっ!? ララ中尉は
「ジェナたん、それぐらい気付けや。前にララ中尉、親分の事を『我が
「たん言うな。しかし八割方再現と言う事は、変形機能も? これはまさか、飛ぶのでしょうか?」
痛い所を突かれたダライアスは、ジェナ中尉に肩を竦めて答えた。その表情には、苦いものがある。
「変形はする。だが飛ばん」
「「「は?」」」
「いや、機能的には飛べるとは思うのだがね。しかし空中での機動の制御ができん。それと航空管制に関しても駄目駄目だ。高高度まで飛びあがったら、自分の位置を見失って迷子になること必定だな。まあ、そこまで行く前に、低高度でバランス崩して墜落するが。
飛行関連の機動管制プログラムが、機体の制御回路に入っておらんのだよ。ハードウェア情報は例の
無論、何度も墜落して経験を積めば、低空飛行であれば
唖然とした表情を狼顔に浮かべ、フーゴ中尉が問うた。
「……じゃ、変形して何するんでぇ、親分」
「浮揚走行する」
「「「は?」」」
「七〇〇年代に天才的な技術者かつ操手であったカトル・ビーダーフェルトの設計を元に、アイオライト・プロダクション社が開発した『オリジンジータ』……『ジータ』という第六世代
地面効果……対地効果とも言うが、それを利用して揚力を得、地面すれすれをホバーを用いて高速移動する。飛行能力の代わりに、そう言った機能を『とりあえず』付けた」
エアボードとは、複数の風のルーンを組み合わせる事で浮揚し、高速で超低空を滑空できる、
「ダライアス師!! そういえばその機体の名称はなんと名付けたのでしょうか!?」
ゴウン、ゴウン、ゴウン……。
機械音を立てて動き出したその機体から、ダライアスの返答が帰って来る。その声は拡声器を通していたため、多少
『この機体の名は……』
*
聖華暦一〇四〇年、
『よう!ご機嫌で飛んでるな!』
「兄さん。ほんとにこれ、二〇〇年以上前の機体なの? 凄い飛行性能よ?」
『ああ、ほんとに大昔の機体だ。ご先祖様は天才だったらしいからな』
そのご先祖様は、自分の知識や技術は努力で磨き上げた物だと思っているため、天才だとか言われると嫌がるのだが。
「でもさ……。そのご先祖様でも、この機体を飛行させることはできなかったんだよね」
『ハードウェアは完璧だったんだがな。機動制御や航空管制のソフトウェアが、当時は基礎すらも無かったらしい。いくら天才でも、零から一を生み出すのは難しかったって事だな』
「悔しかっただろうな……。完璧な機体を造り上げたって言うのにさ」
『だろうな……』
『でもよ。子孫の俺たちがこうやって、晴れてこの機体を飛ばす事ができたんだ』
「そうよね。これを作ったご先祖様、きっと草葉の陰で喜んでくれてるわよね。……じゃ、もう少しスピードアップいくわよ!」
『おう!けどあんま無理すんなよ!』
そしてこの飛行形態の