ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~   作:雑草弁士

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File16「空を駆ける」

緊急事態発生(エマージェンシー)緊急事態発生(エマージェンシー)。敵性陣営による鹵獲(ろかく)を確認。非常用脱出プログラム起動します』

 

『うわ!? こ、こいつ勝手に!』

 

『可変機構ロック、一時的に解除します。緊急用補助動力(スクランブルパワー)全開。変形開始(トランスフォーメーション)

 

 

 ギゴガゴゴゴゴゴッ!! ドガン!!

 

 

 (きし)む様な音がして、直後爆発音にも似た破砕音が響く。都市同盟軍(としどうめいぐん)研究所より冒険者組合兵器開発局へ出向しているダライアス・アームストロング技術中佐が精魂込めて開発した、速乾性魔導セメントがひび割れてはじけ飛んだ。いや、なんでも『魔導』ってつければいいもんじゃないと思うのだが。一応は魔導理論を応用した薬品を混ぜ込んで、急速に硬化するという代物ではある。あくまで一応。

 

 そして通称「実験部隊」――ダライアスが管理し、彼の護衛であるアレクシア・アーレルスマイヤー都市同盟軍(としどうめいぐん)大尉が指揮する機兵(きへい)中隊――の指揮小隊が見守る中、彼女らがさんざん苦労してセメント入り落とし穴の罠にかけた、帝国軍の自由都市同盟(じゆうとしどうめい)侵攻部隊(よう)する強力な幻装兵(げんそうへい)は、なんとも言い様の無い妙な形に変形する。『ローター・ブリッツ』を駆る指揮小隊指揮官のアレクシア大尉は、唖然として言った。

 

 

『……へ、変形した?』

 

 

 次の瞬間、再び爆発音じみた轟音が(とどろ)く。

 

 

 ドゴオオオォォォン!!

 

 

『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 

 敵操手(そうしゅ)の絶叫が響き渡った。

 

 

『……飛んだ』

 

『なんてこったい、逃げられちまったい』

 

 

 『グルウン・ブリッツ』のジェナ・スホーンデルヴルト中尉と『ブラウ・ブリッツ』のフーゴ・グラッツラ・ディンフィンブルム中尉が、呆然と言う。妙な形に変形した幻装兵(げんそうへい)は、まるでロケット花火の様に後から炎を噴射して、部品をばら撒きつつ放物線を描いて大空へと飛翔した。そう、『放物線』を描いて。

 

 

『あ、落ちた』

 

『あっちは帝国軍の陣の方ですが……。これで壊れてくれていると、嬉しいのですが』

 

『やれやれ、まいったねえ。駄目だと思うぜ?ジェナさんよう。幻装兵(げんそうへい)の機体耐久力なら、少なくとも修復可能なレベルじゃねえかな』

 

『……已むを得ん。とりあえず、奴がばら撒いた部品を拾って帰還する。ルージー、データ収集は完了しているか?』

 

『はい。ぎりぎりでしたが』

 

『そうか……。不幸中の幸いだな。ジェナ中尉は分析装置を回収してくれ。わたしとフーゴ中尉で部品を拾う』

 

 

 傷だらけになった『ローター・ブリッツ』と、同じく傷だらけの『ブラウ・ブリッツ』が、敵幻装兵(げんそうへい)の落として行った部品を拾うべく動き出した。残された、これまた傷だらけの『グルウン・ブリッツ』は、吹き飛んだ落とし穴の周辺に設置されていた謎の装置を回収し始める。各々の機体の背中が煤けているのは、おそらく気のせいであろう。

 

 

 

*

 

 

 

 ハウゼンシュトリヒ攻防戦が終了して一週間後、中央都市アマルーナの冒険者組合にあるダライアスの執務室に帰還してきたアレクシア大尉たちは、飛んで逃げた敵幻装兵(げんそうへい)についての報告を行っていた。ダライアスは発掘品であるノートパソコンで、先だって提出されていた報告書や、例の落とし穴の周囲に仕掛けられていた分析装置のデータを見ながら、口頭での報告を確認している。

 

 

「……ふむ、なるほどな。いや、よくやってくれた。鹵獲はできなかったが、このデータだけでも充分な価値はある」

 

「そ、そうですか!?ほっといたしました」

 

「ああ。よくやってくれた諸君。ルージー、ジェリー、ブリジットも良く頑張ったな」

 

「「「ありがとうございます、お義父(とう)さま」」」

 

 

 ダライアスはノートパソコンのキーを叩く。画面には、あの敵幻装兵(げんそうへい)を分析し、解析した結果が表示された。あの分析装置は、実は厳密に言うならばダライアスの発明品ではない。旧人類の古代遺跡から発掘された科学技術の分析装置を、魔導技術で稼働する様に造り変えた物だ。

 

 

「ふむ。これは勉強になるな……。こいつだな、この胸元、操縦槽(そうじゅうそう)の上にある装置。これが敵幻装兵(げんそうへい)の加速装置だ。

 ああ、やっぱりそうだ。敵幻装兵(げんそうへい)が変形して飛んで逃げる際に部品をばら撒いたと聞いて、もしやと思ったのだが。アレクシア大尉たちが拾って来た部品を見て疑念は推測に変わり、今確証に変わったよ。この幻装兵(げんそうへい)、本来この機体の物ではないパーツを使って修復されている」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

「それは……大丈夫なのですか?」

 

 

 彼の(かたわ)らに控えていたララが、小首をかしげて疑問を口に上らせる。彼は苦笑して答えた。

 

 

「大丈夫なわけは無い。大方、機装兵(きそうへい)形態でのみ満足に動く様に修復したのだろうな。『兵の幻装兵(げんそうへい)シュナイダー』あたりのパーツを使ってな。だがそれではこの幻装兵(げんそうへい)のもう1つの形態である飛行形態に対応できているはずが無いのだ。だからこそ、パーツをばら撒きながら飛んだんだろう。()ちるのも、当然と言う事だな」

 

「「「「「「「あ」」」」」」」

 

「もっとも、次に修復するときはその点も考慮に入れて直してくるだろうな。帝国の技師も、阿呆ではない。

 ……これは、造ってみなければ感覚が掴めんな」

 

 

 ダライアスのその言葉に、他の一同は今度こそ驚愕する。

 

 

「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」

 

「だ、ダライアス師!造ると言っても、あれは幻装兵(げんそうへい)ですが!?」

 

「技術中佐、以前わたしとジェリーの『グルウン・ブリッツ』や他二機の加速装置実験機についてお教えいただいた際、たしかあの三機が今の時点での技術中佐の造れる最も高レベルな機体であると……」

 

「親分、あいつにゃ俺たち三機がかりでなんとか互角だったんだぜぇ!?そいつを造れるってか!?」

 

「我が(あるじ)、さすがに今の段階では工房の設備的にも不可能かと思われますが……」

 

「ああ、いや。これをそのまま造る事は、わたしでも流石に不可能だ。造れるのは劣化コピーだな。あちらこちらに、構造こそ分かったが何のためにあるのか分からないパーツもあるし、な。ここら辺はブラックボックスとして、デッドコピーするしかないだろう」

 

 

 一同は納得して静まる。しかしダライアスは、更に先の事まで考えていた。

 

 

(……やはりあの計画、海洋温度差発電所の建設と、それをエネルギー源にした工業施設群の建設計画、それを実現させねばならないな。今回の帝国の侵攻は、本気ではなかっただろう。皇帝が本気になっていたら、冒険者義勇軍に加えて若干の志願者がいたところで、同盟は詰んでいた。

 本気で動いたのは貴族……ラズール公爵家と、それに追随する有象無象だけだ。庶務第三課の知り合いが教えてくれた。帝国が……いや、聖王国もだ。両国が本気で同盟を潰そうと考えない内に、国力を整えなければ)

 

 

 庶務第三課とは冒険者組合の暗部組織で、諜報や破壊工作を行う目的の部署である。庶務第三課というネーミングは、単に偽装や隠蔽、韜晦(とうかい)のなせる(わざ)であった。なお庶務第一課と第二課は、普通の庶務である。

 

 

(だが国力を整え、蓄えるだけでは意味が無い。その増えた国力を使って、(ほこ)(たて)を揃えねばならない。

 『歩』の操手(そうしゅ)はなんとか今回のハウゼンシュトリヒの攻防で、『と金』になったレベルの物がかなり確保できた。その『と金』は機体を乗り換えさせて、『桂馬』や『銀将』『金将』クラスの機装兵(きそうへい)(あて)がってやれば更に良い。そして空いた多数の『歩』に、新たに増産した多数の『歩』を加えて再編制すれば、とりあえずの形は整う。

 だが……。国を……同盟を護るには、やはりそれだけでは無理、いや違うな。それだけでは効率が悪い、と言うべきか。『飛車』や『角行』級の機体も、必要だ。そのためにわたしも学び、研究し、技術と知識を鍛えねばならん)

 

 

 ダライアスはノートパソコンから目を離し、立ち上がる。そして彼はララとアレクシア大尉に向かい、指示を発した。

 

 

「ララ、お前のお義父(ちち)上に……エリベルト師に連絡を取ってくれ。内密の相談があるので、極秘に会談したい、と。悪いが直接、都市同盟軍(としどうめいぐん)研究所まで出向いてくれ。万が一の盗聴が怖い」

 

「了解しました、技術中佐」

 

「アレクシア大尉、君の中隊の第二、第三小隊は今それぞれ、『ブロッキアーラⅡ』と『ドランゲン・スタイン』の運用試験をしていたな? それは今再編のために訓練中の、冒険者組合機兵(きへい)隊の訓練中隊に実機訓練がてらやらせるから、量産開始したばかりの中位機装兵(きそうへい)である、『ホルニッセ』を試験する様に通達してくれ」

 

「了解です、ダライアス師!」

 

「二人とも、頼んだぞ」

 

 

 そしてその場の全員は解散し、各々の任務に散って行く。ダライアスは再び椅子に腰掛けると、ノートパソコンの画面に見入る。その頭脳は、高速回転していた。

 

 

(今まできちんとまともに調査できた幻装兵(げんそうへい)は、『兵の幻装兵(げんそうへい)シュナイダー』かその近縁種の機体、そして『ヴェイルー・ヌ・ザアンティス』ぐらいだ。いずれもが、能力を向上させるのに下手な手段は採らず、まっとうな真正面からの手段をもって高い性能を実現している。故に参考にならないとは言わないが、それらに使われている技術、手法を我々の機装兵(きそうへい)に応用するには、我々の技術が相応に向上しなければ不可能だ。

 だが今回データを取れた敵の幻装兵(げんそうへい)は、基本性能も高いは高いが、加速装置や変形しての飛行機能、更には未だ知られていない様々な『裏技』が満載だ。その『裏技』のうちには、幾つか今の技術でも量産機で実現可能な物もある。その大半が、科学技術による物であるためか、それとも帝国貴族どもの秘匿機体であるが故か、帝国機には反映されていないのは幸いだな。

 とりあえずは、科学技術製の装備をなんとか魔導技術に置き換える事を考えねばな。それと現時点で最大の収穫は、加速装置周りの最新技術? いや幻装兵(げんそうへい)だから古代技術(ロストテクノロジー)か。それが手に入った事だ。これで更に『ローター・ブリッツ』『グルウン・ブリッツ』『ブラウ・ブリッツ』の加速装置も改良できるし、今現在難航している量産型についても進展がありそうだ)

 

 

 彼はノートパソコン上で自作の機兵(きへい)CADソフトを立ち上げ、幻装兵(げんそうへい)の劣化コピー機体の設計を始める。

 

 

「……そう言えば、兵器開発局局長が言っていたな。ホリフィールド武器工房が、フレームの設計段階から自己開発して、新型機を造る、と。その計画が、そろそろ動き出す頃か?フレーム設計はアナハイム・プロダクションの秘匿電子計算機が無ければ無理だと思うのだがな。……いや、ホリフィールドで電子計算機でも発掘したか?むむむ……。

 あそこはある意味「身内」だからな。この幻装兵(げんそうへい)複製機用のフレーム、安く設計してもらえんかな。変形するから、『ローター・ブリッツ』とかの様に他機種フレームを流用と言うわけにもいかん。代価として、何かしら技術供与する事で……。なんなら名前を出さないと言う事で、ホリフィールドの新型機開発に参画してもいい。ふむ……」

 

 

 独り言を呟きつつ、ダライアスはキーを叩く。彼の手によって、旧大戦期の失われた叡智への道標となり得る図面が、液晶ディスプレイの上に浮かび上がりつつある。彼は一心不乱に、設計に打ち込んだ。

 

 

 

*

 

 

 

 そして半年。聖華暦八三四年十月某日。あっさりと幻装兵(げんそうへい)の劣化コピー機である可変機装兵(きそうへい)は完成した。いや、ダライアスが『海洋温度差発電所および完全電化工業都市群建設計画』で猛烈に忙しくなっていたためもあり、これでも完成は遅れた方なのだが。

 

 機体を前に、フーゴ中尉が(おもむろ)に言う。

 

 

「どことなく似てはいますがねぇ……。なーんか違いやせんか、ダライアスの親分?」

 

「まあ、完全再現はできんと言ってあったろう。機能的なものは、八割方再現できてるぞ? 流石に幻装兵(げんそうへい)のお家芸である魔導障壁は再現できなかった。いや、魔導障壁発生機構はデッドコピーして搭載されているんだがな……」

 

「それで何故、魔導障壁が発生しないのでしょう?」

 

 

 問いを発したジェナ中尉に、ダライアスは苦笑しつつ答える。

 

 

「おそらくだが、幻装兵(げんそうへい)の魔導障壁発生機構には構造それ自体に、1つ1つ固有の認証コード……パスワードやシリアルIDの様な物が刻み込まれているのだろう。機体側のおそらく制御回路……。現在の機兵(きへい)で、スフィアと呼ばれているものに相当する、幻装兵(げんそうへい)の制御回路が持つ認証コードと合致しなければ、おそらく起動しないのだ。

 この複製機は、第七世代機兵(きへい)として造られているからな。制御回路にはアーク・スフィア型の魔導制御回路が使われている。幻装兵(げんそうへい)は『兵の幻装兵(げんそうへい)シュナイダー』ですら高度な小型電子計算機を、八機神予備機と思われる超高級幻装兵(げんそうへい)である『ヴェイルー・ヌ・ザアンティス』では量子電脳とルシ(LCE)の併用をしている程だ。現代のアーク・スフィアでは規格に合わん上に、認証用のコードも持っていないのだろうさ。

 これに載せた魔導障壁発生機構は、なまじ厳密に正確にデッドコピーしたからなあ……。構造に刻み込まれている認証コードも、そのままコピーされたんだろうさ」

 

「お、おいジェナたん、理解できるか?」

 

「難しいが、なんとか……。量子電脳とか、わからん単語もあるが。と言うか、たん言うな。……って、アレクシア大尉!? 中隊長!?」

「うおおおぉぉぉ!? やべぇ! たいちょーが、頭から煙噴いてやがる!?」

 

 

 しばし後、一同はとりあえず落ち着いた。復活したアレクシア大尉が声を上げる。

 

 

「死ぬかと思った……。それでダライアス師。本日はこの機体の試験を?」

 

「ああ、そう思って諸君らを呼んだのだが……。うっかりしていた。この機体は、最新型とは言え加速装置を積んでいる。制御にルシが必要なのだ」

 

「ああ、ルージー、ジェリー、ブリジットは士官学校でしたね。今日は任務扱いで呼ばなかったのでしょうか?」

 

「うむ、小さな任務でしょっちゅう呼び出していたら、いかにあの娘らが超人的な頭脳を持ってはいても、勉強に差し障りが出るからな」

 

「んじゃ、どうするんッスか? 親分」

 

 

 フーゴ中尉の問いに、ダライアスは失笑する。

 

 

「已むを得ん、わたしが乗るさ。ララ、手伝いたまえ」

 

「了解です、技術中佐」

 

「ええっ!? ララ中尉はルシ(LCE)だったのですか!?」

 

「ジェナたん、それぐらい気付けや。前にララ中尉、親分の事を『我が(あるじ)』って呼んでたぞ」

 

「たん言うな。しかし八割方再現と言う事は、変形機能も? これはまさか、飛ぶのでしょうか?」

 

 

 痛い所を突かれたダライアスは、ジェナ中尉に肩を竦めて答えた。その表情には、苦いものがある。

 

 

「変形はする。だが飛ばん」

 

「「「は?」」」

 

「いや、機能的には飛べるとは思うのだがね。しかし空中での機動の制御ができん。それと航空管制に関しても駄目駄目だ。高高度まで飛びあがったら、自分の位置を見失って迷子になること必定だな。まあ、そこまで行く前に、低高度でバランス崩して墜落するが。

 飛行関連の機動管制プログラムが、機体の制御回路に入っておらんのだよ。ハードウェア情報は例の幻装兵(げんそうへい)を罠で捕まえて分析装置にかけたときに完全解析したが、ソフトウェア情報などはあの分析装置では読み取れるわけが無い。必然的に、飛行するための機体制御が、まったくもって不可能だ。

 無論、何度も墜落して経験を積めば、低空飛行であれば操手(そうしゅ)の経験で機動制御できるかも知れんが……。先に操手(そうしゅ)が死ぬか再起不能になるだろうな。ルシ(LCE)の補助があってもだ」

 

 

 唖然とした表情を狼顔に浮かべ、フーゴ中尉が問うた。

 

 

「……じゃ、変形して何するんでぇ、親分」

 

「浮揚走行する」

 

「「「は?」」」

 

「七〇〇年代に天才的な技術者かつ操手であったカトル・ビーダーフェルトの設計を元に、アイオライト・プロダクション社が開発した『オリジンジータ』……『ジータ』という第六世代機装兵(きそうへい)は知っているだろう?あれの系列機は、エアボードに似た浮揚形態に変形し、高速かつ高効率で長距離移動を行う機能がある。それと似たような物だ。

 地面効果……対地効果とも言うが、それを利用して揚力を得、地面すれすれをホバーを用いて高速移動する。飛行能力の代わりに、そう言った機能を『とりあえず』付けた」

 

 

 エアボードとは、複数の風のルーンを組み合わせる事で浮揚し、高速で超低空を滑空できる、機兵(きへい)の移動用補助装備だ。なお、このシステムを応用して帝国で製作されたのが、機装兵(きそうへい)用の機動補助兵装である『グライデンパック』だ。また『グライデンパック』に発想の影響を受けたのではないかと推測されているのが、聖王国の魔装兵(まそうへい)『ベアトリス』に搭載されている高機動ユニット『イムベル』である。

 

 閑話休題(まあそれはともかくとして)、ダライアスとララは機体へと乗り込む。と、アレクシア大尉が今まで忘れていた事に気付き、大声で問いかける。

 

 

「ダライアス師!! そういえばその機体の名称はなんと名付けたのでしょうか!?」

 

 

 ゴウン、ゴウン、ゴウン……。

 

 

 機械音を立てて動き出したその機体から、ダライアスの返答が帰って来る。その声は拡声器を通していたため、多少(ひず)んでいたが、はっきりと聞き取れた。

 

 

『この機体の名は……』

 

 

 

*

 

 

 

 聖華暦一〇四〇年、自由都市同盟(じゆうとしどうめい)の大空を、かつてダライアスが建造したあの可変機装兵(きそうへい)が飛翔していた。今現在この機体は、ルシ(LCE)の代わりにこの時代最新鋭の制御システムを搭載して動いている。ここで操手(そうしゅ)である少女に、地上にいるサポート用の、移動基地を兼ねた機装兵(きそうへい)運搬車両から通信が入った。多機能通信魔導器(ENIGMA)の発展タイプである魔導無線機から、少年を脱したばかりと思われる青年の声が聞こえる。

 

 

『よう!ご機嫌で飛んでるな!』

 

「兄さん。ほんとにこれ、二〇〇年以上前の機体なの? 凄い飛行性能よ?」

 

『ああ、ほんとに大昔の機体だ。ご先祖様は天才だったらしいからな』

 

 

 そのご先祖様は、自分の知識や技術は努力で磨き上げた物だと思っているため、天才だとか言われると嫌がるのだが。

 

 

「でもさ……。そのご先祖様でも、この機体を飛行させることはできなかったんだよね」

 

『ハードウェアは完璧だったんだがな。機動制御や航空管制のソフトウェアが、当時は基礎すらも無かったらしい。いくら天才でも、零から一を生み出すのは難しかったって事だな』

 

「悔しかっただろうな……。完璧な機体を造り上げたって言うのにさ」

 

『だろうな……』

 

 

 操縦槽(そうじゅうそう)に、しんみりとした空気が満ちる。いや、ご先祖様は単に習作と技術習得のため、当時敵機として出て来た幻装兵(げんそうへい)を劣化コピーして造ってみた、ただそれだけなのだが。

 

 

『でもよ。子孫の俺たちがこうやって、晴れてこの機体を飛ばす事ができたんだ』

 

「そうよね。これを作ったご先祖様、きっと草葉の陰で喜んでくれてるわよね。……じゃ、もう少しスピードアップいくわよ!」

 

『おう!けどあんま無理すんなよ!』

 

 

 そしてこの飛行形態の機装兵(きそうへい)、『ヒンメルズ・フォイア』は天空を一気に駆け上って行った。

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