ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
その日、冒険者組合の兵器開発局に出向中の、
「……だめだッ!! く、残念だが……。残念だが現時点の同盟の、いや、わたしが知る限りの帝国や聖王国系技術はおろか、カナドのリュトフ族から学んだ技術をもってしても……。今現在の同盟で、加速装置の量産は不可能だ……!!」
「技術中佐……」
「ダライアス師……」
ララとアレクシア大尉は、ダライアスを慰めようとする。しかし、その言葉は途中で詰まってしまう。彼女たちはダライアスが、この研究にどれだけ多大な時間と労力をかけて来たのか、ずっとその傍らで見ていたのだ。彼の落胆の大きさが
これまでアレクシア大尉と共に試験
「……いや、この研究が完全な形で実を結ぶ事は無かったが。だが、それでも……。まったくの無駄であったわけではない。君たちが運用している三機の加速装置実験機は、充分に切り札として使える存在だ。更に、今はまだ無理でも……。今までの実験データは残るんだ。将来的には加速装置が量産化可能になるかもしれん。
……わたしが生きている間には、無理だろうがな」
ダライアスは、しかし肩を落として執務室を兼ねた研究室の椅子に、力なく座り込む。流石にこの件は、かなり来る物があった模様だ。彼は深い溜息を吐く。
と、そこでダライアスの懐の
「はい、こちらダライア……」
『ダライアス師かね? 今、大丈夫かね?』
「局長ですか?」
通信の相手は、冒険者組合兵器開発局の局長であった。ダライアスは居住まいを正し、机上のメモ帳と鉛筆を手元に寄せる。
『ダライアス師。すまんが、急な来客だ』
「アポイントメントは無かったはずですが……」
『それが、冒険者組合の本部棟の前で座り込みをされてね……。ダライアス師に、たっての頼みがあるとの事で、どうにも動かんのだ。
「……
その時ダライアスは、局長の言葉を何かしらの
『よくわかったね。うん、巨人なんだ』
ダライアスは、ちょっとばかり頭痛がした。
*
その巨人……『南』の氏族、かつての戦士長にして現在の族長相談役バラムの子、冒険者にして戦士ヴォランと名乗った彼は、今現在ダライアスの研究施設の一部である
「う、むう……」
「ああ、動かないでくれたまえ。君の依頼を果たすために、採寸しているんだからな」
「し、しかし……。こそばゆい」
文句は言ったものの、巨人ヴォランは動きを止めた。それを眺めつつ、ダライアスは考えに沈む。
(さて、どうした物か。彼の依頼……。単に造るだけならば、そう難しくはない。だが、ただ造るだけでは芸が無さすぎるし、彼の本当に欲する物を造ったとは言えん。
そう……巨人である彼が『
そうなのである。突然冒険者組合本部に押しかけて来た巨人ヴォランの依頼は、ダライアスに自身の鎧を造ってもらう事だったのだ。その目的は、
かつて聖華暦五〇〇年以前の、自由都市同盟が生まれるより以前、アルカディア帝国とカーライル王朝・聖王国において造り出される
だが聖華暦六〇〇年代に至り、第五世代
バーニアによる機動力は
(……そして巨人たち、か。巨人たちはかつての時代、
しかし
その様な理由により、巨人たちは聖華暦八〇〇年代において、非常に肩身が狭い思いをしているのだった。巨人は基本的に戦闘民族である。だがその本領であるはずの戦闘力と言う面で、技術の進歩に置いて行かれてしまった種族なのだ。
そしてこのヴォランと言う巨人は、それに我慢がならなかった。彼は必死に貯めた登録費用一千ゴルダで冒険者組合に冒険者登録し、魔獣退治などを主な仕事にして自己鍛錬に励んだ。巨人族の中でも素質に恵まれた方であった彼は、最新型
しかし先日、隊商の護衛仕事を請け負った際に、彼は野盗が
味方
その後この巨人ヴォランは、都市同盟軍から冒険者組合へ出向中の凄腕技術士官であるダライアス・アームストロングに、鎧を造ってもらう事を思い付く。発想としては単純な物だ。彼が着用している鎧は、元々は
そして正しい手続きなど知らぬ脳筋である巨人ヴォランはあろうことか、冒険者組合本部の前で座り込みをして頼み込むと言う暴挙に出る。本人に悪意が無かった事が明白であったため、幸いにも取り次いでもらえたが、下手をしたらエラい事になるところであった。
ちなみにダライアスと面会が成った時には、彼は叩頭の礼をもって感謝の意を伝えた。頭突きをくらって道路の路面にヒビが入り、その補修作業の費用が彼に課されたのは言うまでも無い。
*
座り込み事件から一週間が経過。ダライアスたちと巨人ヴォランは、冒険者組合の演習場へやって来ていた。試作品の巨人用鎧の、テストをするためである。『アーチャー・フィッシュⅡ』に乗ったダライアスが、巨人ヴォランに声をかけた。
『さて、今回はあくまでデータ収集のための試験だ。君が今着用しているのは、旧式の『シメオン』から引っ剥がして来た外装をベースに、バーニアとエーテル供給用の増槽を搭載しただけの、あくまで間に合わせの物だと言う事を忘れないでくれ』
「うむ、わかった。何から始めれば良い?」
『まず単純な跳躍の実験からだ。そこの白線がひいてある場所に立って、向こうの赤い線がひいてある場所まで跳ぶつもりで、ジャンプしてくれ。理屈では、バーニアが自動で働いて、奥の黄色い線まで跳ぶはずだ』
「うむ」
のっし、のっし、と一見して
巨人と言う種族は、もともと魔力と言う物を持っていない。そのため、鎧に装備されたバーニアを稼働させるためには、液体エーテルを詰め込んだ増槽を搭載するしか無いのである。
「お、お、おおお!?」
『着地寸前に、小さくジャンプする様に足を動かすんだ!』
「わ、わかった!!」
巨人ヴォランは言われたとおりに小さく足を動かした。すると再度バーニアがジェットを噴き、落下速度を殺す。巨人ヴォランは、黄色い線がひかれた場所に、計算通りに着陸する。
「お、おおお! は、ははははは!! これはいい!」
『うむ。第一段階の実験は成功だな。続いて……あ、おい!』
「うおおおぉぉぉっ!」
巨人ヴォランはよほど嬉しかった様だ。彼は何度も何度も、跳ね飛んだりあるいは前方に高速ダッシュを繰り返す。ダライアスは慌てて制止する。
『待たんか!! 増槽には最低限の液体エーテルしか入ってない! 無茶をするな!』
「ぬお!?」
『言わんこっちゃない!!』
そして巨人ヴォランは全力での跳躍を行い、そこで増槽の液体エーテルが切れて全速力で地面に墜落した。ダライアスは、
『……ララ、アレクシア大尉、ジェナ中尉、フーゴ中尉。あの馬鹿を回収してきてくれ』
『『『『了解です……』』』』
ララの乗った『ドランカード・タイガー』、アレクシア大尉駆る『ロイヤリタートTypeⅣ』、ジェナ中尉とフーゴ中尉の『アーミィ・アント』二機が、巨人ヴォランの墜落地点へ歩き出した。彼女らは一様に、器用に
『……
巨人ヴォランが墜落したときの土煙は、今だ現場に漂っている。ダライアスは、溜息を吐いた。
*
更に一週間後、ダライアスたちは中央都市アマルーナの市門前で、巨人ヴォランを見送っていた。
「ダライアス師……。この度は、本当にお世話になった! このバーニア付き鎧、本当に素晴らしい! 支払った金額以上だ!」
「いや、まあ。そう言ってもらえるのは、わたしも嬉しい。まあ、色々研究に詰まっていたからな。ある意味で、良い気晴らしになったよ」
巨人ヴォランの鎧は、見事に完成していた。防御力そのものも、着心地と言う点からも、普通に巨人たちが鎧として使っている
しかもジャンプの着地や危険回避などの自動制御は、旧世代の
また万が一の緊急時用として、増槽に詰め込まれた液体エーテルの他に、一瞬だけ爆発的な大出力を得る事ができる『マナ・カート』と言うカートリッジ式システムを3個搭載し、
何にせよ様々な機構を組み込んだため、この鎧を着こんだ巨人ヴォランの姿は
「ダライアス師、貴方の事は忘れない! では!」
「うむ、ではな」
そして巨人ヴォランは、踵を返すと後ろを振り向かずに歩み去る。ダライアスは笑みを浮かべると、少し離れた場所で待っているララ、アレクシア大尉、ジェナ中尉、フーゴ中尉の所へと歩き出した。
*
そして八三五年一月。ダライアスは、再び研究の日々に戻っていた。加速装置の量産実用化は断念せざるを得なかったが、
帝国と聖王国は、今現在の段階では各々それぞれの方向を向いている。しかし近い将来、その矛先が
「……この失敗作の新型
それと、操縦難易度を下げるための仕組みとかがあれば、技量の低い
「技術中佐、関連資料を纏めます」
「頼む、ララ。アレクシア大尉、済まんが試作品が出来上がるまで出番が無い。従来機の追試をしてくれるか?」
「は、了解です」
と、そこへ
「はい、こちらダライア……」
『ダライアス師! 済まんが……!』
通信相手は、冒険者組合兵器開発局の局長であった。ダライアスはしばし彼と話すと、
*
そしてここは、冒険者組合の本部棟前である。ダライアスはその場の状況、というか惨状を見て、大きく溜息を吐いた。
「貴殿がダライアス師か! 貴殿がヴォランに造ったあの鎧は、素晴らしい!」
「是非にわたしにも!」
「お、オラにも造ってほしいだ!」
「あたしにも造って! おねがい!」
そこには十人近い、巨人たちが押しかけて来ていたのである。しかも彼ら彼女らは、わざわざ冒険者登録を済ませてから来ていたりする。熱意は分かる。熱意は分かるのだが……。
ダライアスは、頭を抱えた。
*
結局のところ冒険者組合は、関係の深い超一流の中小企業である『ホーリーアイ武器工房』へと、巨人用バーニア鎧の製法をライセンスした。そして押し掛けて来た巨人たちは、『ホーリーアイ武器工房』でバーニア付きの鎧を造ってもらう事になったのだ。
この一連の出来事により巨人たちは、再び