ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
全高十メートルはある、巨大な人型の機械が大地を疾走する。魔力によって駆動する人型戦闘兵器である
だがそれには、通常の
この
「くっそ、なんだっての! 無理だろコレはよ!?
チェスターは身体にかかる強烈なGに弱音を吐きつつも、
「そりゃ理屈はわかるぜ!? 自分の目で外見て操縦すりゃ、
けどよ! 頭に座席押し込んだら、いくら
チェスターの叫びと共に、アレナイトテイルの肉片が千切れ飛ぶ。彼は必死で
何故ここまで大きなGが、彼の身体にかかっているのか。それは
本来人間の動きが、もっとも少なくなるのは胴体中央部である。それ故に、人間の形を模した
しかしこの試作品の
「ちくしょう……。まだ動きの鈍い
また一体のアレナイトテイルが吹き飛ぶ。しかしその際の機動で、激しいGがチェスターを襲う。
何故彼がこの様な機体に乗って、こんな荒野の真ん中で魔獣退治をしているのかと言うと、彼がそう言う依頼を受けたからだ。もう少し詳しく言うならば、冒険者であるチェスターはバフォメット事変での奮戦ぶりを買われ、冒険者組合より新型実験機の
彼の脳裏に、開発者であるダライアス・アームストロング技師の語った言葉が蘇る。
『いや、わたしの下にはこういう実験的な機体をテストするための『実験部隊』も配されてはいるんだがね。彼らは皆、技量が高すぎるのだよ。彼らにもテストは頼むつもりだが、一般的な中堅
「いや、こいつぁ駄目じゃねえのか? ダライアス師……。俺みてえな中堅どころにゃ、ちょっと扱いきれねえよ」
最後の
*
まったく機体にはダメージを受けなかったが、精神的にはかなり疲弊したチェスターは、
移動基地では、蒸気トレーラーの運転手他を兼ねた整備員が待っていて、チェスターが頭部のキャノピーを開いて機体を降りると、一斉に機体に取りついて行く。当然ながらこの整備員たちは、冒険者組合のお抱えだ。チェスターはとりあえず、コンテナ内の片隅に設えてある椅子に深々と腰掛けると、大きく息を吐いた。
そこへ整備班長のブルドッグ顔の獣牙族中年男性が、ドリンクを差し出して来た。
「ようチェスター、ご苦労さん」
「おやっさんか、サンキュ。あくまで実験用だって話だが、この機体。でもこんな扱いづらいんじゃ、売り物にならねえぞ?」
そう言ってチェスターは、ドリンクをガブ飲みした。苦笑しつつ整備班長は、肩を竦める。
「まあ、そうだな。ダライアス師直属の『実験部隊』からも、そう言う意見は上がってきてるって話だ。ダライアス師も、これをそのまんま実用化しようとかは考えちゃいねえだろうさ。
けれどお前が実機をテストして上げられたデータに、ダライアス師は満足してるみたいだぞ? 流石に直接この機体を量産に回すつもりはなさそうだが、たとえば
「だったら最初からそう言う機体造って欲しい気もするが」
「そう言うな。物事にゃ、試行錯誤ってのが付き物なんだ」
ちなみにこの『フェルジンバーグ』が
ビーッ、ビーッ、ビーッ……。
そのとき、移動基地内に緊急事態を表すブザーが鳴った。整備班長のブルドッグ顔が
「なんだ!? 何が……」
「わからん! とりあえずお前も運転席まで来い!」
チェスターと整備班長は、移動基地を牽引している蒸気トレーラー運転席まで走った。
*
「……やれやれ。緊急依頼かよ」
その内容はと言うと、先ほど
そこで
そして目標の重犯罪者の機体が逃走する先に居たのが、チェスターたち
「やれやれだぜ……。けれど、これだけ軍が躍起になって追うからには、重犯罪者ってのは……。脱走軍人とかか? いや、同盟の機密を盗んだ
……!? 来たか!!」
チェスターの視界の端、荒野の地平線近くに土煙が見えた。彼は透明な強化ガラスの
「……機種は『スパルタクス』。カラーリングは濃緑色をベースにグレイとカーキ。間違いなく目標の機体だな。ただ、情報では第五世代型『スパルタクス』か、新型の第六世代型『スパルタクス』かは不明、か」
この『スパルタクス』とは、冒険者組合の傘下にある傭兵管轄組織、傭兵協会が正規の傭兵に提供している
限界までカスタマイズされた『スパルタクス』は、かなりの強敵である事は間違い無い。また八〇〇年代にマイナーチェンジされた後期型『スパルタクス』は、未カスタマイズの素体のままであっても旧態依然とした第五世代機兵ではなく、強力な部類である第六世代機兵と認められるだけの能力を誇っている。
「第六世代型の更にカスタマイズ機だとか言う冗談は、勘弁してくれよ……?」
チェスターは機体をその土煙に向けて走り出させる。主脚走行は頭部にある
そして敵機の姿が視界に捕捉される。チェスターは小銃型
「こちら冒険者組合所属、冒険者チェスター!
『……』
敵機は無言で斬りかかって来る。チェスターは機体の左腕に持たせた大盾で、その攻撃をかろうじて受けた。その瞬間、彼の血が凍る。
……敵機は、『フェルジンバーグ』の頭を狙って攻撃して来たのだ。
(そ、そりゃそうだろ!! こっちは頭部がガラスの
チェスターは牽制にしかならない小銃型
しかし敵機『スパルタクス』はその反動を利用して機体をくるりと回転させると、空いている左手で腰にあった小剣を抜き打ちする。当然ながら狙いはチェスター機の頭部、彼の座る
小剣の切っ先が、
「うひいいいぃぃぃ!?」
いくら強化ガラスと言えど、ガラスはガラスだ。錬金金属レイヴァスキンと高硬度パッテリートの複合装甲材で護られた胴体部と、ガラスの
二度、三度と敵機はチェスターの乗る
「く、くそ! こうなりゃヤケだ!」
チェスターは一歩自機を下がらせると、操縦桿を操ってその右手に長剣を構えさせる。敵の『スパルタクス』は、右手の長剣と左手の小剣を閃かせて躍りかかって来た。
「うおりゃあああぁぁぁ!!」
そしてチェスターは必殺の気合を込めて、『フェルジンバーグ』に長剣を突き出させた。
*
「それで敵機の胴体中央、
頭部の
「いや、この機体駄目だろ!? かろうじて
「ふむ。格闘戦や白兵戦をする機体に、
「そう言う問題じゃねえーーー!!」
絶叫するチェスターに、苦笑を向けたダライアス師は頷く。
「いや、言いたい事は重々わかっているとも。ただ、今回の緊急依頼に関しては、わたしは一切関与していなかった事も理解して欲しいな。試作実験機で無理をさせた件については、組合の上の方にしっかりとネジ込んで報酬増額を確約させる。というか、既にやった」
「はぁ、はぁ……。まあ、アンタに怒っても仕方ないんだろうけどよ。何にせよ、この形式の機体はアブな過ぎる。少なくとも、俺ぁコイツが発売されても、買おうとは思わんね」
「だろうな。こちらとしても、これをそのまま製品化するつもりは更々無い。ただ少なくとも、胴体を空けてそこに各種機材を搭載する方式が有力なのは、今回の実験で確定した。そしてお前さんが
そしてダライアス師は言葉を紡ぐ。
「次の試作実験機も、お前さんにテストを依頼する事にしよう。何、次のは発売間近なタイプの追試験だ。今回みたいな事は無いから、安心しろ」
「……」
チェスターは、冒険者組合から強制依頼が行われない様に、できる限りたくさん先約依頼を受けておこう、
けれど、冒険者組合がその気になれば、先約依頼を別の冒険者に代替させる事で、チェスターに強制依頼を発する事も不可能ではない。さすがにそこまでやらんだろう、と彼は思いたかった。しかしダライアス師の笑顔に、彼は不安を抑えきれないのであった。