ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
「くっそ、パワーが足りねえ……」
『ミメラ』は
もう一方の、若干だが新型であるが、それでも旧式としか言いようが無い機体『センクリクテ・クラーベ』の
『黙って働けよ。旧式
「けどよお……」
そこへ、機体の無い徒歩の人員が応援の声を上げる。
「たのむぜ、おい! この岩を
「そこにゃ、大昔の倉庫があるらしいんだ!」
「そこに眠ってるかも知れないお宝が手に入れば……」
「『んな事ぁ、最初から知ってるわい!! 何度も聞いたわ!!』」
「「「やったぁ!!」」」
「『つ、疲れた……』」
一方の、
彼らの努力によって大岩が
「なあ、おい……」
「ああ……。あの扉の材質、もしかして……」
「やった! 開いたぞ!!」
「待て待て! 扉には無かったが、罠とかに注意を……」
大喜びで崖の内部にある遺跡……大昔の倉庫とやらに入って行く仲間を見遣りつつ、
そして彼らは、呆然としている仲間の姿を見て、引き攣った笑みを浮かべる。その更に向こう側には、十数台もの
……ぶっちゃけ、あまり価値は高く無かった。
*
「……と言うわけでな、ダライアス師。その発見された十六台の
「開発局長……。わたしは今、非常に忙しいのだがね」
「すまん! それは重々分かっているんだ! しかしそこを曲げて願いたい! 新人冒険者どもが冒険の戦利品として持ち込んで来たんだが……。
営業の連中は一応、
兵器開発局局長の、熊耳がピコピコと動く。動物耳がオッサンにくっついていても、あまり嬉しくはない。局長は持ってきた書類を残念そうに眺めつつ、繰り言を漏らす。
「しかし、モノが『サルファガス』では……。改良型の『ノイ・サルファガス』であったなら、まだ作業用機としてでも使えたのだが……。『ノイ・サルファガス』に改修する事も考慮してもおるのだがね」
ダライアスは、大きく溜息を
「わかった、局長。なんとか考えて置くよ。だが今現在の、急ぎの仕事が終わってからだ。
「う、うむ」
「中将閣下によれば、地盤・岩盤掘削用の大型
ダライアスの言葉には、異様な迫力が満ちている。その丸眼鏡の奥の瞳が、局長を射抜く。局長はひるんだ。
「今現在『モール』の設計に改めて手を加え、製造効率を少しでも向上させられないか、やっているところだ。その仕事が終わってから、そちらの案件に取り掛かる。
それについては、断じて動かすわけにはいかん。何が最優先なのか、は局長も理解してくれると思っているのだが、ね?」
「わわわ、わかっているともダライアス師。それが済んでからで構わないとも。ああ、何かあったら
半眼になったダライアスの視線を受けて、局長は熊耳をパタパタさせながら、引き攣り笑顔でダライアスの研究室を立ち去った。ダライアスは、局長が置いて行った書類を眺めて、再度大きく溜息を
*
そして二日後、ここはダライアスの工房である。とりあえずダライアスは、作業用大型
目的は、冒険者組合の営業部が新人冒険者グループから買い取った、
「これが『サルファガス』ですか……。初めて見ましたよ。士官学校で戦史の教科で教わった程度しか、知りませんが……」
「……すまん、ジェナたん。俺ぁ、戦史の時間は寝てたんで全然知らん」
「たん言うな。って、フーゴ中尉! 貴官どうやって士官学校卒業した!?」
「戦史はノート借りて、代わりにソイツが苦手だった実技試験でペア組んでカバーしてやった」
口々に言い合うのは、ダライアスの護衛を兼ねた実験部隊に所属する、ジェナ・スホーンデルヴルト中尉と、フーゴ・グラッツラ・ディンフィンブルム中尉だ。ちなみにこの二名は、ジェナ中尉がシェパード耳のスレンダーな美女、フーゴ中尉が狼頭の細マッチョ男性で、どちらも
そして実験部隊の指揮官であるアレクシア・アーレルスマイヤー大尉が、ガチャリと着用している重装鎧を鳴らして、肩を
「わたしも『サルファガス』は名前をちょっと聞いたくらいでしか無いな。戦史の教科は、なんとかぎりぎりで通るぐらいしか点数は取れなかったし……」
「たいちょー、お仲間ですな!」
「フーゴ中尉!」
実験部隊の面々に苦笑しつつ、ダライアスは『サルファガス』に目を遣る。そして深く、深く溜息を
その『サルファガス』だが、どうにも言い様の無い妙ちくりんな形状をした機体であった。まず本体だが、玉ねぎかもしくは何かの球根かとでも言う様な形状をしている。そして左右に細くてパワーの無さそうな腕が伸びて、単純な形状のマニピュレーターに繋がっていた。
特徴的なのは、脚が四本存在する事だ。移動性能は低そうだが、安定性は確保されているだろう。そしてもっとも重要なのは、機体の
「この『使えない』事で有名な旧式もいいところの
「「「使えない?」」」
「ああ。ぶっちゃけた話、何にも使えん。ララ……」
「はい、技術中佐」
ダライアスに書類の束を渡したのは、表情に乏しい十四歳ぐらいに見えるスレンダーな美少女だ。名をララ・エルナンドと言うこの少女は、こう見えても
書類を捲りながら、ダライアスは眉を
「不幸中の幸いは、ほぼ完全に倉庫が密閉状態であったため、劣化がまったくと言っていい程に無かった事だな。だがそれでも、
「一応は、軍用の
アレクシア大尉の言葉に、士官学校での成績が良かったジェナ中尉が何がしか言いたげな風情になる。だが言い出せないその様子に苦笑して、ダライアスが口を開いた。
「間違った戦術ドクトリンに乗っ取って開発された、失敗作兵器だからな、これは……。もともと、陸上艦が開発された時代にまで話は遡る……」
そうしてダライアスは、ゆっくりと語り始めた。
*
陸上艦が開発された聖華暦三二〇年代当時、戦場の花形である
この機動力の無さは
仮に
その後、聖華暦五八〇年。この年、アルカディア帝国とカーライル王朝・聖王国の間における紛争、ラマー平原の戦いが起きる。ここで聖王国は、新機軸のホバー駆動の陸上艦にて、圧倒的なまでに帝国艦隊を打ち破った。わずか1隻の損害で、帝国艦隊を壊滅させてしまったのである。
この勝利に気を良くした聖王国は、来たる第三次聖帝戦争においては艦船の機動力と火力とが勝利を決定づけると判断。そしてホバー駆動の陸上艦艇に搭載し、艦の火力を補助するための機体を大量生産したのだ。
それが、砲戦型
動きは鈍重だが、搭載した大口径
*
「……だが帝国軍は、それに付き合う気などさらさら無かった。帝国軍は、ゲーム盤をその下のちゃぶ台ごと、ひっくり返したのだよ。具体的に言うならば、第五世代
ダライアスはララが手渡したコップの水を
「第五世代
「「「「……」」」」
ゆっくりと語られるダライアスの言葉に、他の面々は声も無く聞き入る。彼は更に言葉を重ねた。
「
それだけでなく、味方艦にまとわりついている『レギオン』を狙って、味方艦を撃ってしまえばどうなる?」
「それは……」
「逆効果もいいところ、ですな」
「そんなわけで、『サルファガス』は何もできずに続々と帝国の『レギオン』にスコアを献上するだけだったのだよ。まあ、その後聖王国も『ミーレス』と言う第五世代機を戦場に投入して、なんとかなったがね。『サルファガス』は結局は役立たずのまま、戦争は終わった。これは今の
ちなみに戦後、作業用に大改修して転用した『ノイ・サルファガス』と言う物もあるんだが」
そしてダライアスは、やれやれと言う表情で
「コイツは、本来の『サルファガス』そのままだからな。このままではまったく使い物にならん。パーツとして見ても、結局は旧式
肩を竦めるダライアスは、そして溜息を
「それよりも、作業用
「技術中佐、今回の設計図の手直しでは所詮は焼け石に水です」
「わかっている、ララ。なんとかせねばならん。第一なあ……。どこの鉱山でも『モール』を欲しがっているが、大規模鉱山でも無い限りは、『モール』だとオーバースペックなんだ。中小の鉱山だと、『モール』よりも小型の機材でもあれば」
「たとえば、そこの『サルファガス』程度のサイズでしょうか? ダライアス師」
そうアレクシア大尉が言った瞬間、彼女に全員の視線が集まった。アレクシア大尉は、焦り言葉を吐き出す。
「あ、い、いや。何かわたしは悪い事でも言……」
「天才か、君は」
「そうですね、そのひらめきは。良いアイディアです」
ダライアスとララ中尉は、手放しでアレクシア大尉を褒めたたえる。そして二人は足早に近場の作業机まで駆け寄ると、そこに置いてあったダライアスのノート
「あ、あ、え、なあジェナ中尉、フーゴ中尉。わたし何かしたか?」
「いや、何かしましたって。無論良い方向で。な? ジェナたん」
「たん言うな」
後に残された三人は、一人は唖然と、一人は苦笑しつつ、一人はうんうんと頷いて、その場に立っていたのである。
*
そして半月後、ここは
ナイジェル中将が、満足げに頷く。
「ふむ、それでこの『ネオ・モール』という作業用
ナイジェル中将の手元の書類には、その『ネオ・モール』という従機の写真が添付されている。それは紛れもなく、『サルファガス』そのものであった。正確に言うならば、その改造機と言えるか。
ダライアスは
「これまでの『モール』は、二基の大型ドリルを装備して、それにより地盤や岩盤を掘削するという物でした。ですがこの『ネオ・モール』は『サルファガス』の
『サルファガス』由来の四本足は、掘り進んだ坑道内部でも安定して姿勢を保てます。小柄ですので、大規模な坑道を掘る事に特化した今までの『モール』よりも汎用性も高いかと」
「なるほど。今までの『モール』は、もともと大規模土木工事用であったからな」
「手に入った十六台の『サルファガス』は、全て『ネオ・モール』に改造して出荷済みです。また、聖王国から『サルファガス』のデザインやライセンスなどの権利を兵器開発局局長が買い叩き、極めて安価に手に入れました。今現在、それにより完全新造版の『ネオ・モール』がホーリーアイ武器工房で製造開始されています」
ちなみに中古『サルファガス』を改造した物よりも、完全新造版の『ネオ・モール』の方が、安くて高性能に仕上がっている。ナイジェル中将は、大きく頷いた。
「うむ。現状『海洋温度差発電所および完全電化工業都市群建設計画』は順調に進んでいる。そしてこの『ネオ・モール』を我々に協力的な会社や組織に優先的に渡すことで、その足場もなお一層に固まった。見事だ、ダライアス・アームストロング技術中佐」
「いえ……。優秀な協力者たちが、わたしには大勢います。わたしだけの力ではありませんよ」
「そうか。だがその者達が集まって来るのも、貴官という存在があるが故だ。今後も頼むぞ」
「はっ」
そしてダライアスとナイジェル中将は、固く握手を交わした。