ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
(……なるほど、これは『
ホルヘ・ソブリノはこれでも一流の端の方に指先ぐらいは引っ掛かってると自負している
……まあ、順次最新機種へと切り替えが進み、退役しつつある機種だからこそ、彼の伝手で手に入れる事ができたのであるが。
しかしそれでも未だ第一線で使用されている傑作機であり、それを高い金をかけてカスタマイズしたのだ。それと彼の技量があれば、生半可な相手には負けないはずだった。
(しかし……。こいつはキツいぜ)
ホルヘは、機体の右手に持たせたランスを振るって敵機に突き立てる。
胸部に増設された
見れば、敵機の傷は若干の痕跡を残して
『こ、こいつぁ凄えや! こいつを引き渡せば、たいした金に……』
「……『何処』の『誰』に引き渡すのか、教えて欲しいものだな」
だがまあ、想像はついている。
機械で作った骨格の周囲を、ナメクジの集まりの様な生体部品で固めた、不気味な外観の
ダライアス師本人は、『ちょっと『
あまりに斬新な実験機であるソレを、アルカディア帝国かカーライル王朝・聖王国のどちらかに流す気なのだろう、この盗人
もともと今回の依頼は、廃棄処分にするはずだった『失敗作の実験機』が盗まれたため、危険だから奪還、回収してほしいとの物だった。だから万一の場合は、破壊も許可されている。
しかしできるならば、ボーナス目当てで奪還し、かつ盗んだ犯人を捕縛もしたいところだった。
……何故って、既に大損害が出てるから。
(エルネストにレオニートの阿呆め。欲をかいて、機体を壊されやがって……)
当初ホルヘは、危険すぎるから奪回は断念、最初から目標を破壊するつもりだった。しかしチームリーダーであるホルヘの意見に異を唱えたのが、チームを組んでいたエルネストとレオニートの二人である。
彼らの機体も『ブリッツェス・スペーア』……『スペーア』に徹底的なカスタマイズを加えた高級機であった。
(それを無様にブチ壊されやがって……。是が非でも目標を奪回せにゃ、報酬から修理代で足がでちまうじゃねえか……)
エルネストとレオニートは、目標の敵機が並の
盗人
普通、そんな飛び道具は
二機の高級なカスタム機、『ブリッツェス・スペーア』は修理できないとは言わないが、完全に行動不能にされてしまったのである。下手すると、新しく払い下げてもらった『スペーア』を再度カスタマイズした方が、安く上がるかもしれない。
(とほほ、こいつら見捨ててやりてえ……。そんなわけにも行かんが)
ホルヘが助かったのは、命令無視した二人に追随せずに、油断せず行動していた、ただそれだけの差であった。そして彼は、損害を補填するためになんとかしてこのナマモノ
(だが……時間がねえ……。)
この『生体』
「おい! 最後通牒だ! その機体から降りて、逃げろ! 機体さえ返せば捕まえないからよ!」
『へっ、馬鹿な事を言うな! こっちの方が有利じゃねえかよ!』
「馬鹿野郎! こっちゃ、親切で言ってやってるんだぞ!? それは危険なんだ!手前、死ぬぞ!」
ホルヘは最後の望みにかけて、必死で説得した。実験機を破壊せずに取り戻すには、それしか方法が無かったからだ。
ホルヘの腕をもってすれば、ヒット・アンド・アウェイを繰り返す事で、まず確実に敵機を破壊できる。だがそれはしたくなかった。だってボーナスが入らなくなって、報酬から修理代で足が出るし。
それに、時間が無かった。
『ふん! 何を馬鹿な……』
相手の声が途切れた。どうやら全て無駄だった様だ。ホルヘは
「……あーあ。大損だ」
ホルヘの眼前で、実験機『生体』
そしてそのまま、ドス黒い水たまりの中へ、ドロドロに溶け崩れて完全に消滅してしまったのである。後に残ったのは、臭いにおいを放つどす黒い水たまりだけだった。
*
一週間後、ホルヘはエルネストとレオニートの乗る最新型
何故ってソレしか買えなかったから。彼らの『ブリッツェス・スペーア』は、思ったより損傷が大きく、修理するより買い替えた方が安上がりな状態だったのだ。
(……まあ、いい薬にはなったのかもな。代償は高かったが)
あれ以来従順になった二人の部下に、ほんの僅かだけ慰めを感じるホルヘであった。