ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~   作:雑草弁士

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File3「実験機奪還依頼」

(……なるほど、これは『()装兵(そうへい)と言うにゃ、ちょっとなあ)

 

 

 ホルヘ・ソブリノはこれでも一流の端の方に指先ぐらいは引っ掛かってると自負している操手(そうしゅ)である。またその乗機も、それ相応の強力な機体だ。

 

 都市同盟軍(としどうめいぐん)で正式採用されている機装兵(きそうへい)の一種『スペーア』を特別な伝手で払い下げてもらい、カスタマイズした機体。その名も『ブリッツェス・スペーア』である。

 

 ……まあ、順次最新機種へと切り替えが進み、退役しつつある機種だからこそ、彼の伝手で手に入れる事ができたのであるが。

 

 しかしそれでも未だ第一線で使用されている傑作機であり、それを高い金をかけてカスタマイズしたのだ。それと彼の技量があれば、生半可な相手には負けないはずだった。

 

 

(しかし……。こいつはキツいぜ)

 

 

 ホルヘは、機体の右手に持たせたランスを振るって敵機に突き立てる。操手(そうしゅ)としての機体感覚に伝わる、ぬるりとした感触。

 

 胸部に増設された噴射式推進装置(バーニア)()かし、ホルヘは機体を急速後退させる。いましがた敵機につけた傷からどす黒い液体が(ほとばし)り、地面に落ちるとジュウジュウと煙を上げて大地を腐らせる。

 

 見れば、敵機の傷は若干の痕跡を残して()えてゆく途中だった。

 

 

『こ、こいつぁ凄えや! こいつを引き渡せば、たいした金に……』

 

「……『何処』の『誰』に引き渡すのか、教えて欲しいものだな」

 

 

 だがまあ、想像はついている。自由都市同盟(じゆうとしどうめい)は冒険者組合に所属している中でも一、二を争う英才技術者、ダライアス・アームストロング師が試作した、実験機である『生体』機装兵(きそうへい)

 

 機械で作った骨格の周囲を、ナメクジの集まりの様な生体部品で固めた、不気味な外観の機兵(きへい)であった。ぶっちゃけ、気持ち悪い。

 

 ダライアス師本人は、『ちょっと『()装兵(そうへい)と言うには機械部分が少なすぎるんだがね』と言っていた。

 

 あまりに斬新な実験機であるソレを、アルカディア帝国かカーライル王朝・聖王国のどちらかに流す気なのだろう、この盗人操手(そうしゅ)は。

 

 もともと今回の依頼は、廃棄処分にするはずだった『失敗作の実験機』が盗まれたため、危険だから奪還、回収してほしいとの物だった。だから万一の場合は、破壊も許可されている。

 

 しかしできるならば、ボーナス目当てで奪還し、かつ盗んだ犯人を捕縛もしたいところだった。

 

 ……何故って、既に大損害が出てるから。

 

 

(エルネストにレオニートの阿呆め。欲をかいて、機体を壊されやがって……)

 

 

 当初ホルヘは、危険すぎるから奪回は断念、最初から目標を破壊するつもりだった。しかしチームリーダーであるホルヘの意見に異を唱えたのが、チームを組んでいたエルネストとレオニートの二人である。

 

 彼らの機体も『ブリッツェス・スペーア』……『スペーア』に徹底的なカスタマイズを加えた高級機であった。

 

 

(それを無様にブチ壊されやがって……。是が非でも目標を奪回せにゃ、報酬から修理代で足がでちまうじゃねえか……)

 

 

 エルネストとレオニートは、目標の敵機が並の機装兵(きそうへい)とは比べられない戦闘力を持っている事を知らされながら、敵操手(そうしゅ)が元々下級の機体でしかない従機(じゅうき)乗りの三流だと言う事で侮り、二機がかりで敵機を抑え込もうとした。

 

 盗人操手(そうしゅ)はそれに対し、わざと自機の組織を一部破壊して、二人の機体にその『体液』を振りかけたのだ。二人の機体は装甲板を溶かされて、そこに敵の『体内』から発射された無数の鉄球を浴びた。

 

 普通、そんな飛び道具は機装兵(きそうへい)の装甲があれば、ほぼ完全に無視できる。だがその装甲が溶かされていれば、話は別だ。

 

 二機の高級なカスタム機、『ブリッツェス・スペーア』は修理できないとは言わないが、完全に行動不能にされてしまったのである。下手すると、新しく払い下げてもらった『スペーア』を再度カスタマイズした方が、安く上がるかもしれない。

 

 

(とほほ、こいつら見捨ててやりてえ……。そんなわけにも行かんが)

 

 

 ホルヘが助かったのは、命令無視した二人に追随せずに、油断せず行動していた、ただそれだけの差であった。そして彼は、損害を補填するためになんとかしてこのナマモノ機装兵(きそうへい)を、せめて完全破壊せずに捕獲せねばならない。

 

 

(だが……時間がねえ……。)

 

 

 この『生体』機装兵(きそうへい)が失敗作とされる所以、それは戦闘出力での稼働時間に限界がある事だった。そしてその限界稼働時間を超えて戦闘した場合には、どうなるか……。

 

 

「おい! 最後通牒だ! その機体から降りて、逃げろ! 機体さえ返せば捕まえないからよ!」

 

『へっ、馬鹿な事を言うな! こっちの方が有利じゃねえかよ!』

 

「馬鹿野郎! こっちゃ、親切で言ってやってるんだぞ!? それは危険なんだ!手前、死ぬぞ!」

 

 

 ホルヘは最後の望みにかけて、必死で説得した。実験機を破壊せずに取り戻すには、それしか方法が無かったからだ。

 

 ホルヘの腕をもってすれば、ヒット・アンド・アウェイを繰り返す事で、まず確実に敵機を破壊できる。だがそれはしたくなかった。だってボーナスが入らなくなって、報酬から修理代で足が出るし。

 

 それに、時間が無かった。

 

 

『ふん! 何を馬鹿な……』

 

 

 相手の声が途切れた。どうやら全て無駄だった様だ。ホルヘは操縦槽(そうじゅうそう)の中で脱力する。

 

 

「……あーあ。大損だ」

 

 

 ホルヘの眼前で、実験機『生体』機装兵(きそうへい)は、その機体と言うか、肉体? そのあちらこちらから、どす黒い体液を迸らせて、ぐちゃぐちゃになって崩れ落ちて行った。

 

 そしてそのまま、ドス黒い水たまりの中へ、ドロドロに溶け崩れて完全に消滅してしまったのである。後に残ったのは、臭いにおいを放つどす黒い水たまりだけだった。

 

 

 

*

 

 

 

 一週間後、ホルヘはエルネストとレオニートの乗る最新型機装兵(きそうへい)二機を引き連れて、冒険商人の隊商を護衛していた。もっとも、部下二人が乗るのは最新型とは言えど、超廉価版の非常に安価な超安物の、つまりは大量生産に向いた凡百な機体である。

 

 何故ってソレしか買えなかったから。彼らの『ブリッツェス・スペーア』は、思ったより損傷が大きく、修理するより買い替えた方が安上がりな状態だったのだ。

 

 

(……まあ、いい薬にはなったのかもな。代償は高かったが)

 

 

 あれ以来従順になった二人の部下に、ほんの僅かだけ慰めを感じるホルヘであった。

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