ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~   作:雑草弁士

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File4「軍師エルトシャン」

 魔石灯(ませきとう)の光が照らす部屋の中で、二人の男が声高に言い合っていた。片方は眼鏡をかけて、ノートPC(パソコン)――今の時代、存在すらも疑われる様なオーバーテクノロジーの品――に繋がれたヘッドセットを身に着けている。

 

 この男がダライアス・アームストロング……。自由都市同盟(じゆうとしどうめい)冒険者組合のお抱え機兵(きへい)技師であった。

 

 ダライアスは、眉を(しか)めて言葉を発する。

 

 

「やりたい事は理解できる。……前の機体と、その通信/指揮管制システムでは不満だったのもな。

 しかしだな、通信の確保はまだ容易な方の要求だ。しかし問題は戦域全体を俯瞰(ふかん)して戦闘指揮管制を行う手法だ」

 

「ふ……む。通信の確保は、可能なんだな?」

 

「ああ。ちょうど研究中だった、風魔法を応用した通信システムが使える。そして、得られた戦域の情報を映像盤(えいぞうばん)ではなしに、微弱な雷魔法を用いて操手(そうしゅ)の頭脳に転送する術も確立されている。

 一般どころか軍にも、冒険者組合の部隊にすらも広めてはいないんだがね」

 

「ほう? くくく、だとすると前の機体、ぶっ壊れた『フロズ・ヴィトニル』で不満だった点は、全て解決されるわけだ。なら何の問題も無いんじゃないか?」

 

 

 無精ひげを生やした赤毛の男が、にやりと笑って言う。その男は、カナドと呼ばれるはるか北の地方風の衣装を身に纏っていた。ダライアスが、頭を抱えて言う。

 

 

「馬鹿を言うな。周辺の小隊単位の情報ならともかく、中隊規模の情報を整理せずに頭に直接叩き込まれてみろ。気絶するぞ。

 そして大隊規模にでもなってみろ……。死ぬぞ。比喩じゃ無しに。鼻血と耳血と、血の涙流して口からも血を吐いて。

 動物実験で、そういう結果が出てる」

 

「……そいつは勘弁だな。頭に叩き込まずに、映像盤(えいぞうばん)に映すんじゃダメなのか?」

 

「小隊規模なら、ソレでもいいさ。だが小隊規模ならマップ表示せずに、目視とかで戦術情報を得た方が早い。

 で、中隊規模以上になるとだな。映像盤(えいぞうばん)に戦域情報流すと、操縦の邪魔になるだけじゃなしに、映像盤一枚じゃ足りなくなる。実験用の機体では、予備の映像盤(えいぞうばん)操縦槽(そうじゅうそう)に組み込んでみたが……。

 大隊以上だと、もうだめだ。

 結局は今のところ、旧来のシステムを使った方がいいって事だよ。……せめて通信システムだけは、さっき言った新型にしてやろうか? 値段的には、高くつくがな」

 

 

 赤毛の男は、芝居がかった様子で落胆を表に出すと、頷いた。

 

 

「しゃーねえ。今現在できる範囲内で、そこが限界ってこったな」

 

「ああ。もし各部隊から送られて来る戦術情報を整理して、人間の脳が許容できるレベルまで……」

 

「……?」

 

 

 急に押し黙ったダライアスに、赤毛の男は妙な顔になる。ダライアスは急にノートPC(パソコン)に向き直ると、物凄い勢いでキーを叩き始めた。

 

 

「お、おい……」

 

「ち、ハードディスクの中には無い。外部記憶媒体(ばいたい)か? ……違う。と言う事は、紙媒体(ばいたい)か! なんてこった!」

 

「ちょ……」

 

「……あった!!」

 

 

 急に部屋の端のキャビネットに飛びついて、中の古文書(こもんじょ)の類を(あさ)り出したダライアスは、素っ頓狂な声を上げる。その手には、ボロボロの古文書(こもんじょ)が握られていた。

 

 彼は赤毛の男に向かって、言葉を発する。

 

 

「あんたは操手(そうしゅ)としての技量、落ちて無いだろうな? 以前会ったときは、そこそこのもんだったが……。ああ、いやいい。素人なわけが無いからな。手伝いたまえ、発掘に行く」

 

「お、おい発掘って……」

 

「必要な機材を、古代遺跡から(あさ)ってくる。いや、機材そのものが無くてもいい。

 設計書の類があれば、それを元にして今の技術で等価品を模倣(もほう)して作る事ぐらい朝飯前だ」

 

「待てって! 必要な機材!?」

 

 

 赤毛の男は、部屋から出て行こうとするダライアスを慌てて呼び止める。ダライアスは振り向いて言った。

 

 

「メモリと演算装置だ。メモリは既に魔力駆動の等価品を実現しているから、今回必要なのは機載(きさい)用の超高性能演算装置……中央処理装置(CPU)だな。

 それを手に入れて来て解析し、等価品を作る。そして情報処理プログラムを組んで、指揮管制システムに組み込むんだ」

 

「読めては来たが……。つまり、だ。各部隊から得られた戦術情報を、俺の頭ん中に叩き込む前に、情報処理して簡略化して情報量を制限するってわけだな?」

 

「そうだ。そのために必要な機材を発掘にいく。機体は、わたしが造った実験機を貸してやるから心配するな。良い意味で特徴の無いのが特徴って機体だ」

 

「やれやれ……」

 

 

 呆れた口調で言いつつも、赤毛の男……エルトシャン・グレイブは不敵に笑った。

 

 

 

*

 

 

 

 そして、エルトシャンは自嘲気味に笑った。

 

 

「やれやれ、いつもは俺が振り回す立場だってのにな」

 

『何か言ったかね?』

 

「いんや? で、どうすんだよ。あの化け物を」

 

 

 彼は自機、『ドランカード・タイガー』の片腕を、そおっと遮蔽物の陰から微妙に出した。ダライアスはその機体を、『特徴が無いのが特徴』と評したが、実は面白い機構が仕込まれていたりする。

 

 手のひらに、魔晶球(ましょうきゅう)――機兵(きへい)の眼――が組み込まれていたりするのだ。

 

 無論、普段はその機構は稼働(かどう)していない。しかし物陰から敵機の様子を見たい場合などには重宝する。

 

 そう、ちょうどこの様な場合だ。操縦槽(そうじゅうそう)映像盤(えいぞうばん)の片隅にウィンドウが開き、そこに一機の赤茶色をした機兵(きへい)らしき物が映し出される。

 

 いや、それは機兵(きへい)であっただろうか。それはこの巨大な人工的地下空洞の中を、浮遊して自在に飛び回っている。機兵(きへい)には……少なくとも現代の機兵(きへい)には、空を自由自在に飛翔する能力は無い。

 

 その姿は怪物的で、あちらこちらに銃砲の砲口が見受けられた。そして今この時までの戦いで、その銃砲が一般の機兵(きへい)魔導砲(まどうほう)とは一線を画す威力を持っている事は、エルトシャンとダライアスには痛い程に理解できている。

 

 ダライアスは溜息(ためいき)交じりに言葉を発する。

 

 

『なんとか撃墜してくれ』

 

「なんとかってな、オマエ……。こんな敵が一機の状況で、だだっ広いこんな場所じゃあ、戦略や戦術を論じる意味も無え。相手より強力な戦力をぶつけて叩き潰すのが基本なんだがな。

 あとは戦術よりも下のレベル、戦闘って分類になる」

 

『それは理解してるとも。しかし……』

 

 

 一般的な機装兵(きそうへい)の背中に巨大な機動ユニットを背負わせた、砲身と銃砲のカタマリみたいな一風変わった機装兵(きそうへい)、ダライアス機『アーチャー・フィッシュ』が遮蔽物から飛び出す。

 

 一見鈍重そうなその機体は、しかし背中の機動ユニットと、強化されているらしい関節構造により、異様なまでの機動性を見せる。

 

 そしてその手に持たれたライフルから、砲弾が次々と吐き出された。機動ユニットに接続されている機関砲からも、火線が伸びる。弾は正確に、敵機の関節を撃ち抜く。

 

 いや……撃ち抜いた様に見えた。しかし敵機の関節部は、まったくダメージを負っていない。

 

 次の瞬間、いままで『アーチャー・フィッシュ』が居た場所へ膨大な火力の渦が押し寄せた。敵機が発射した、噴射推進弾(ミサイル)や砲弾の嵐だ。『アーチャー・フィッシュ』は見た目からは信じ難い機動性で、全て躱していたが。

 

 ダライアスは機体を遮蔽物の陰へ戻して来た。

 

 

『……これだ。相手が機兵(きへい)だったら、これで関節が貫けて、行動不能にできるんだがな。

 どうやら関節のフレーム自体が、装甲と同じ『エネルギー伝導素材』らしい。未だに生きている機体があるとは思っていなかったが。

 しかも火力が違い過ぎる。射撃戦主体の『アーチャー・フィッシュ』とほとんど変わらない設計思想で、しかも機装兵(きそうへい)を破壊できる威力の銃砲や噴射推進弾(ふんしゃすいしんだん)……ミサイルを大量に搭載している。

 ……火力で負けてるんだ。

 幸いなのは、無人で動いているらしい事だな、おそらくだが……。動きが鈍いし、反応が単調だ』

 

「……やっぱ、機装兵(きそうへい)じゃないのかアレ。しかも無人機だと?」

 

『……聞かなかった事にしといてくれ。組合との契約上、話せない』

 

「契約は大事だな。一つ貸しだ」

 

 

 そしてエルトシャンはこの地下空洞の様子を書き取ったメモを左手で開く。

 

 

「ま、これしか無ぇな。……おい、奴の注意をひきつけるからちょっと頼む」

 

『何をする気かね?』

 

「つまりだ……」

 

『フム、ならばそれは……』

 

 

 二人は機体を遮蔽物から遮蔽物へと移動させながら、計画を話し合う。その間にも、遮蔽物の周辺には着弾の爆炎が上がる。

 

 そしてエルトシャンの『ドランカード・タイガー』が遮蔽物から、中盾(ミディアム・シールド)を構えて飛び出した。彼は巧みな機動で噴射推進弾(ミサイル)を躱し、砲弾を(シールド)で防ぐ。

 

 しかし砲弾の火力で、(シールド)はあっと言う間に破壊されてしまった。そして次の砲弾を、エルトシャンは機体の左腕そのもので弾く。無論、左腕は吹き飛んだ。が、機体の本体は護られた。

 

 

「今だ! やれ!」

 

『わかった、わかった』

 

 

 続けて遮蔽から飛び出した『アーチャー・フィッシュ』が、ライフルを連射する。その弾倉は、特殊弾の物に入れ替えられていた。

 

 蛍光ピンクの訓練用ペイント弾が、正確に敵機のセンサー系を……メインカメラとサブカメラを塗りつぶして行く。

 

 同時にエルトシャン機が、残された右腕で手榴弾(ハンドグレネード)を投げた。それは敵機を巻き込んで炸裂すると、周囲に煙幕をまき散らした。

 

 この煙幕の粒子は、様々な属性の魔力を帯びている。これを敵指揮官機に用いて通信妨害を行うのが、本来の用い方だ。だが今回は、これを敵機のセンサー妨害に使ったのだ。

 

 作ったのは当然ダライアスだ。あくまでも実験装備である。実用装備にするには、まだまだ費用対効果の面から、程遠いのだ。

 

 というか、ぶっちゃけてしまうと今のままでは高価で一般兵レベルには配備ができない。こんなもんは、数を配備しないと意味が無いのだ。まあ、なんにせよ敵の眼は潰され、砲撃は止んだ。

 

 

『で、次はアレか』

 

「ああ。潰されるなよ?」

 

 

 二機の機装兵(きそうへい)は、装備を持ち替える。『アーチャー・フィッシュ』は長距離支援用の大口径砲を構え、『ドランカード・タイガー』は腰に戻しておいた長剣を抜き放った。

 

 

「これがカタナだったらな」

 

贅沢(ぜいたく)言うな』

 

 ダライアスの機体が、大口径砲を撃ち放つ。それは地下空洞の天井からぶら下がっていた、重量物運搬用クレーンと見ゆる構造物を撃ち落とした。それは狙い(あやま)たず、その真下を浮遊していた敵機にブチあたり、落下させる。

 

 破片が飛び散り、敵機の赤茶色と、クレーンらしき構造物の黄色と黒が混じり合った。いや、赤茶色はとても頑丈で砕けず、黄色と黒の破片ばかりが飛んだが。

 

 舞い散る破片と土煙の中を、エルトシャンは自機を走らせた。そして全身全霊の魔力を機体の魔導炉(まどうろ)に叩き込む。

 

 緊急出力レベルのパワーを強引に絞り出した魔導炉(まどうろ)転換炉(てんかんろ)を駆動し、そこから送り出された黒血油(こっけつゆ)が機体全身の魔力収縮筋(まりょくしゅうしゅくきん)を稼働させる。

 

 機装兵(きそうへい)『ドランカード・タイガー』は渾身(こんしん)の力を込めて長剣の切っ先を、動きが取れないでいる敵機の背中に突き入れた。

 

 

「くっ!! 堅ぇっ!!」

 

 

 だが何とか長剣は、『エネルギー伝導装甲』を突き破った。幸いだったのは、背部機動ユニット部分が、構造上装甲板をどうしても薄くせざるを得ない箇所であった事か。

 

 いかに分子間にエネルギーを通す事で疑似的に分子間引力を強化し、その強度を劇的に増す『エネルギー伝導材』であっても、やはりその厚さによる限界はあったようだ。

 

 エルトシャン機の長剣の切っ先は、敵機の主動力機関を見事に破壊してのけた。

 

 

「ふぃーっ……。これで」

 

『あ、補助動力起動を感知。逃げたまえ』

 

「なにーーーっ!?」

 

『大丈夫、背部機動ユニットも死んでいるし、補助動力でいつまでも動けるものでもない。逃げ回っていれば、すぐに停まる』

 

「先に言えよ! これも一つ貸しにしておくからな!」

 

 

 その後、彼らは敵機が停止するまでの間、逃げに逃げたのである。

 

 

 

*

 

 

 

 赤茶色の敵機をパーツに解体して、『ドランカード・タイガー』と『アーチャー・フィッシュ』の二機に分けて積んだ後、彼らは敵機が出撃してきたカムフラージュされた施設を調べていた。

 

 施設の中は暗く、調査は難航する。

 

 

「と言うわけで、予想以上の収穫があったわけだが」

 

「そらそうだろうよ。約束だから口にはしねえが、旧人類の兵器じゃないかなーなんてもんを拾って帰るんだからな」

 

「口に出してるぞ」

 

 

 ダライアスは唇の端を吊り上げ、不器用に笑う。

 

 

「パイロット無しで出撃して来た第四期型が、ほぼ無傷で手に入るとはな。第五期型じゃなくて、良かったよ。

 しかしコレで、人格型人工知能(AI)を載せられるだけの演算システムの見本が手に入った」

 

「……ほんとに隠す気あるのか? 契約あるんだろう?」

 

「おいといてくれ。これだけの情報処理システムの理論が解析できれば、あんたの機体に載せる指揮管制システムの完成は目前だ」

 

 

 そしてダライアスは、呟く様に言う。

 

 

「そうだな名前はシステム・ハンニバルといった所か」

 

「あん?なんだよ、そりゃあ」

 

「旧暦時代の英雄だよ。ハンニバル・バルカ。奇才に()けた軍神の名前だ。

 相応しいだろ」

 

「へっ、悪くねぇ。気に入った」

 

「……っと、動力装置は……コレか」

 

 

 ダライアスがスイッチを入れると同時に、周囲が(あか)りに照らされる。天井その物が煌々と光っているのだ。次の瞬間、床下から三本の透明なシリンダー……巨大な試験管の様な物がせり上がって来た。

 

 ダライアスは、それを見た瞬間凍り付く。エルトシャンは怪訝に思ったが、とりあえず口笛を吹いておいた。

 

 三本のシリンダーには、美しい、しかし年端もいかない、どことなく無機質さを感じさせる少女が一人ずつ、計三人封じ込められていた。ダライアスは、凍り付いたように動かない。

 

 ダライアスのその顔色は蒼褪めて、表情は驚愕? 恐怖? によって引き攣っていた。

 

 

「おいおい……。どうしたもんかね、こいつぁ……」

 

 

 エルトシャンは笑みを浮かべつつ、口からは愚痴を吐く。どうやらとんでもない厄介事に巻き込まれた様だった。

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