ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~ 作:雑草弁士
運転技術では、誰にも負けない。それがダウルツに残された矜持だった。
ダウルツには姓は無い。貧乏人どころか極貧の三男だった彼は、だが必死の努力で金を貯め、一般の常識の二年遅れで学校に入った。
馬鹿にされつつも、必死の努力で学び、優等とまではいかないがそこそこ優秀な成績で初等科、中等科を卒業した。
だがそこで躓いた。
彼には夢があった。いつかあの全高八メートルの人型兵器、
だが中等科を卒業し、いざ
*
彼には
*
そこの私塾に置いてあった、最低位の
……私塾の塾頭である老いた元軍人は、彼に残酷な事実を告げる。まれに……。ごくまれに、
もしも少しでも同調できる能力があったなら、血のにじむ努力で伸ばす事は可能だ。だがこれまで時折発見される、才がまったく無い者は、どうにもならないと。
彼は必死にあちこちの私塾や学校を駆けまわった。しかしどこでも同じ事を言われた。医者にもかかった。病気ではないから、と門前払いされた。酒に溺れた。酒に溺れても、どうにもならなかった。
そして今、数年を経てダウルツは立ち直り、大型蒸気車両を用いて様々な工事現場で重宝される作業員兼
*
「ふうー」
「よう、おっちゃん。コレ飲みなよ」
「よう、あんがとよ、
若い作業用
心の傷は
「おっちゃんと組めて、ありがたいよ。こっちはまだまだ未熟者だからな。おっちゃんは、それを見越して荷物を持ち上げやすい場所に車両をセンチ単位、いやミリ単位で寄せてくれる。
あと、盛り土や砂利を運ぶ時も、しんじらんねー速度で正確に荷下ろしする。
ったく、あのバカ監督。おっちゃんだったら、俺より高い給料取ったって損にゃならんてえのに」
「いやいやいや、
くくく。普通、こんな工事現場に来るとしても、もっともっと偉くなるための勉強の合間のアルバイトだ。監督さんからすりゃ、『来ていただいてる』って立場なのによ」
「俺はエリートじゃないからな」
若い
「こないだ私塾を卒業したばっかりさ。で、なんとか貯め込んだ金も尽きた。この機体だって冒険者組合配下の、この街……デイリーフの冒険者組合支部が死蔵してた機体を、口八丁手八丁でなんとか安値で借りだして来たんだ。
俺はエリートさんじゃないどころか、極貧の小作人の四男でさ。それこそ爪に火を灯す様にして貯めた金で、三年遅れで中等科を卒業して、私塾に入ったんだ。
……今に見てろよ。金を貯めて、自分の
ダウルツは理解した。この若造は、才能がかろうじて有った場合のダウルツそのものなのだ。
「そうか。応援してるぞ。頑張れよ! ……さて、監督がそろそろ怒りそうだ。工事の続きといこう」
「おうよ!」
ダウルツは、なんとなく少しでも救われた気がした。まあ、
*
で、その若者の
ちなみにその周囲を、赤、緑、青のコートに身を包んだ、一見すると十三~十四歳ぐらいの子供にしか見えない少女たちが、油断なく固めている。
更にそれと連携して、上から下までみっちりと金属鎧で身を固めた重戦士が、護衛に就いている。
青年の傍らで様々な書類を青年に手渡している秘書っぽい無表情美少女は、しかしそれこそ、十三~十四歳ぐらいに見えた。
その眼鏡の青年は、現場監督に何か書面を見せて、しばらく見学させてほしいと言う。現場監督は、下にも置かぬ扱いでその青年を迎えた。
「なんだってんだろな、あの男は」
「あのひとは、
あの人が機体に
……まあ、あの人が俺に安く作ってくれた試作品
「ほう! それじゃ、お前さんとうとう
「あはは、ありがとう。たださあ、まだそれでもローン残ってるんだよなあ。ちょっと壊れたから、その修理代も……。もっと稼がなきゃ」
なるほど、壊れたからそれで、何時もの組合支部から借りた
……と、そのダライアス師が、こちらへやって来る。
「
「さん付けで呼ばれるような男じゃないぜ?」
「ならダウルツ。君に依頼がある。新型の、
「へ?」
*
うかつに『ああ、うん』などと呟いてしまったのが運の尽き。ダウルツはデイリーフの街の工事現場から、
そこで見せられた物に、ダウルツは思わず叫び声を上げる。
「な、なんじゃこりゃあぁ!!」
「今にも路地裏でチンピラに刺されて死にそうな叫びはやめたまえ。この『車両』の運用試験には、君の運転技術が、是非とも必要なのだ」
そこにあったのは、下半分が
背中には、大きな背負子が取り付けられている。腕の先端は手ではなく、四連装
「い、いや、しかしよ。上半分、どう見ても
「操縦系は、
「……。まあ、俺に動かせるもんなら、いいけどよ」
「どういう意味かね?」
ダウルツは、ふっと微笑みを漏らし、言葉を紡ぐ。
「俺はよ。
……ぴくりとも動かなかった」
「ふーん」
「ふーん……って、オマエ……」
「そんな事はどうでもよかろう? 君にはこれを動かす事ができる。あの工事現場で見た、君の
一息ついて、ダライアス師は言い放つ。
「あの精密な技量は、どれほど高位の
そこに居るアレクシア・アーレルスマイアー
言っておくが、彼女は色々と残念なところがあるために出世できないだけで、本来ならば将軍職に匹敵する腕前を持っているからな?」
「だ、ダライアス師、貴官は
「両方だ」
崩れ落ちるアレクシア大尉を尻目に、ダライアス師は言った。
「君はもう、ついうっかりかも知れんが、書類にサインをしてしまっている。何が何でも、これに乗ってもらうぞ」
「……上等だ。乗ってやろうじゃねえか」
ダウルツの心に、火が付いた。わずかに残されていた彼の矜持、運転技術ならば誰にも負けないと言う自負をくすぐられた。
しかもエリートたる
「これで燃えなきゃ、男じゃねえよな」
*
そしてしばらく、彼は運転漬けの日々を送った。と言うか、運転漬けはいつもの事ではあったが、内容がハード過ぎたのだ。
ちょっと動かしては感想を聞かれ、小休止の間にはレポートを書かされ、試作車がハンガー入りして改装が行われている間などは『ようやく休める』と思ったのもつかの間、試作二号車でのデータ取りが待っていたり。
その分たっぷり報酬はもらえたが、使うヒマなど、ありはしなかった。
「だがようやく……。試作車の完成、か。つ、疲れたぜ……」
「ご苦労だったな、ダウルツ。これはありとあらゆる場所で、
両腕の先に装備した、四連
しかも
「そうか……。これでお役御免となると、少し寂しいものがあるな」
「何を言っている。一応の完成は見たが、更なる改良を目指し、まだまだ試験は続くぞ」
「はぁ!?」
ダライアス師の言葉に、ダウルツは阿保面を晒す。そのとき、ダライアス師の懐の
『ダライアス師! 今すぐに
「開発局長ですか。何事です? わたしは技術者であって、冒険者じゃないんですがね。わたしとの契約内容には、抵触しないんですか?」
『抵触する!』
「するんかい」
『だが、今使える
通信機の向こうからは、兵器開発局局長の悲痛な叫びが響く。少女のソレならばともかく、おっさんのソレは耳障りで仕方が無かった。
*
隊列の最後尾にいるダウルツの
『君まで付いてこなくても、良かったのだよ?』
「いいんだよ。問題の集落……サパヌ村は、俺の故郷だ。
問題の
……極貧の寒村で、働き手が六人も殺されたあげくに、畑を耕す
局長さんとやらが、旦那を無理に指名してまで
山は普通の手段じゃ越えられないが、飛べば越えられる。そしたら即、デイリーフの街だ」
『デイリーフの街は、物流の拠点。破壊されたら、いえ一寸した騒ぎになるだけでも、大損害』
中衛にいる『アーチャー・フィッシュ』の陰にぴったりと付き従う
その他の機体まで、全部合計すれば
先頭を行く、標準型にちょっと手を加えただけに見える
『そろそろサパヌ村だ。気をつけろ。口惜しいな……せめて低空に降りてこなければ、
……!!』
サパヌ村は、鮮血に
……人と
赤い
『うわっ! うわ、うわわ!! わあああぁぁぁ!!』
『馬鹿、まだ早い!!』
制止した声は、ダウルツにダライアス師を紹介した、あの若い
あきらかに、こちらを馬鹿にしている。
そして炎の
ダライアス師が、射撃命令を下す。
『総員、
『『『『『「了解!」』』』』』
全員が叫び、各々の機体が一斉に
無論ダウルツも、乗っている
単純な火力では、
さすがにこの密度の砲火を受けては、
「グギェエエエェェェアアアァァァ!!」
耳障りな絶叫が響く。
ダライアス師の
しかし
「グガガアアアォォォアォオオオ!!」
それは苦痛の叫びでは無かった。周辺の家々が吹き飛びその下から幾匹もの、幾頭もの、多数の魔獣が現れたのである。
『伏兵!!』
『ば、馬鹿な! 魔獣が……
『現実を見ろ、アレクシア大尉! 考察などは後で良い! 今は敵が策を用いている事、そしてこちらもそれに対処せねばならん事が大事だ!』
『りょ、了解、少佐!』
『……退役、違う。……予備役技術少佐、だ』
ダライアス師の指揮の元、一瞬崩れそうになった味方たちは、秩序を取り戻す。そして整然と反撃を開始した。
*
横転した一号試作車から、ダウルツは必死で這い出した。味方
ダライアス師の指揮と戦術は適切であったが、だがゲーム盤の盤面や、その下にあるちゃぶ台をひっくり返せるほどの奇跡的な力量ではない。
この場合、勝利はなんとか可能だが、ある程度の損害は覚悟せねばならなかった。そしてその犠牲者に入りかけたのが、ダウルツがかばった
眼の前には、片目を
『うおおおぉぉぉ!!』
「!?」
そして
「グアギャアアアァァァアアアァァァ!?」
『に、にげろ、おっさん!!』
なんてこった、あの若いのがやられちまう。誰か、誰かいないのか。ダウルツは慌てて周囲を見回す。
一番強そうだったアレクシアとか言う大尉……。だめだ、三匹の魔獣を相手に
ダライアス師、今こそあの
ダライアス師の護衛や秘書が乗る機体……。だめだ、ダライアス師の『アーチャー・フィッシュ』を
最後の一台、俺がかばったあの
焦るダウルツの目に、1台の
彼は
そして
ダウルツは思い願う。一度だけでいい、一度だけの奇跡を起こしてくれ。神でも悪魔でもいい。俺の願いを聞いてくれ。
*
奇跡はあっさりと起きた。ダウルツが乗った『センクリクテ・クラーベ』は、機敏な動きで転がっていた
一瞬で戦闘速度に達した機体は、稲妻のごとき一撃を、敵の斜め後ろからその首筋に振り下ろした。
*
冒険者組合のガレージに戻っても、ダウルツは首を傾げていた。
「……いったい何で、
「そりゃあ普通はそうだろう。理論上、
「だ、だが俺は……」
ダライアス師に反論しようとするダウルツだったが、ダライアス師は言った。
「適性が、極めて低かった。ただそれだけだ。今の
普通は亜人も含めて人類なら、最低で一の適性は持っている。
でもって、アレだ」
ダライアス師は、ボロボロになった一号試作車を指さす。
「アレはレバーとハンドル操作だけで操縦できるが、補助的に、あくまで補助的に、
だが、レバーやハンドルと言った操縦装置の補助と言う形に作った結果、ソレがお前を
「そ、え、あ、それじゃ……オレは……」
「あの『センクリクテ・クラーベ』の動きから見て、さっきの指針で言えば、二十七.五ぐらいまで適性が成長しているのではないか?
「はは、ははははは、あははは、ぃやったあああぁぁぁい!! ばんざあああぁぁぁい!!」
「……」
「ははは……。は、ど、どうしたんでぇダライアス師?」
不機嫌そうに、ダライアス師は言った。
「報告が、握りつぶされた」
「は?」
「
アレクシア大尉が軍の方に報告したが、そちらでも笑い飛ばされた。伏兵じみた展開になったのは、あくまで偶然だろう、影に怯えるのもいいかげんにしろ、と言う叱責まで付け加わってな。
あの
ため息を吐き、ダライアス師は
だが骨格に歪みは無く、そのまま満足に使用できる。ひたすら頑丈だった。
「……ありがとよ。お前のおかげだ」
ダウルツは、しみじみと言葉を漏らした。
*
その後もダウルツは、一号試作車と二号試作車で、
だが同時に彼は量産型