ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~   作:雑草弁士

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File6「足なんてキャタピラです」

 運転技術では、誰にも負けない。それがダウルツに残された矜持だった。

 

 ダウルツには姓は無い。貧乏人どころか極貧の三男だった彼は、だが必死の努力で金を貯め、一般の常識の二年遅れで学校に入った。

 

 馬鹿にされつつも、必死の努力で学び、優等とまではいかないがそこそこ優秀な成績で初等科、中等科を卒業した。

 

 だがそこで躓いた。

 

 彼には夢があった。いつかあの全高八メートルの人型兵器、機兵(きへい)操手(そうしゅ)になると。いつか金を貯め、低級な従機(じゅうき)でもかまわない、機兵(きへい)の乗り手になるのだと。あの戦場の覇者、陸戦の花形たる人型兵器、機兵(きへい)を操る身分になってみせると。

 

 だが中等科を卒業し、いざ操手(そうしゅ)になるための手段の1つである、操手(そうしゅ)教育専門の私塾――引退した同盟軍人が教えている――の門を意気揚々(いきようよう)とくぐった彼は、そこで挫折(ざせつ)と絶望を知った。

 

 

 

*

 

 

 

 彼には機兵(きへい)の操縦士たる、操手(そうしゅ)の才が無かったのだ。

 

 

 

*

 

 

 

 そこの私塾に置いてあった、最低位の従機(じゅうき)ですらも、彼にはまったく反応を示さず、ぴくりとも動かなかった。機兵(きへい)(たぐい)は格が下がるに従い……低位になるに従い、動かしやすくなると言う物なのだ。だがしかし、最低位の従機(じゅうき)は彼に対し、何の反応も見せなかったのである。

 

 ……私塾の塾頭である老いた元軍人は、彼に残酷な事実を告げる。まれに……。ごくまれに、機兵(きへい)の心臓である魔導炉(まどうろ)と同調する才が、まったく無い者がおり、彼がそれである、と。

 

 もしも少しでも同調できる能力があったなら、血のにじむ努力で伸ばす事は可能だ。だがこれまで時折発見される、才がまったく無い者は、どうにもならないと。

 

 彼は必死にあちこちの私塾や学校を駆けまわった。しかしどこでも同じ事を言われた。医者にもかかった。病気ではないから、と門前払いされた。酒に溺れた。酒に溺れても、どうにもならなかった。

 

 そして今、数年を経てダウルツは立ち直り、大型蒸気車両を用いて様々な工事現場で重宝される作業員兼運転技術者(ドライバー)となっていた。

 

 

 

*

 

 

 

「ふうー」

 

「よう、おっちゃん。コレ飲みなよ」

 

「よう、あんがとよ、操手(そうしゅ)さんやい」

 

 

 若い作業用従機(じゅうき)操手(そうしゅ)が、ダウルツに清涼飲料水を放ってよこす。それを飲みながら、彼は旧式従機(じゅうき)『ミメラ・スプレンデンス』を見上げる。

 

 心の傷は(うず)いたが、さりとてソレを面に出すほど若くはない。

 

 

「おっちゃんと組めて、ありがたいよ。こっちはまだまだ未熟者だからな。おっちゃんは、それを見越して荷物を持ち上げやすい場所に車両をセンチ単位、いやミリ単位で寄せてくれる。

 あと、盛り土や砂利を運ぶ時も、しんじらんねー速度で正確に荷下ろしする。

 ったく、あのバカ監督。おっちゃんだったら、俺より高い給料取ったって損にゃならんてえのに」

 

「いやいやいや、操手(そうしゅ)はエリートだからな。それを押しのけて俺が高給取ったら、今度は俺が針のムシロだよ。しかしお前さん、エリートにしちゃ腰低いな。

 くくく。普通、こんな工事現場に来るとしても、もっともっと偉くなるための勉強の合間のアルバイトだ。監督さんからすりゃ、『来ていただいてる』って立場なのによ」

 

「俺はエリートじゃないからな」

 

 

 若い操手(そうしゅ)は微笑んで言った。どこか苦いものを感じさせる笑いだった。

 

 

「こないだ私塾を卒業したばっかりさ。で、なんとか貯め込んだ金も尽きた。この機体だって冒険者組合配下の、この街……デイリーフの冒険者組合支部が死蔵してた機体を、口八丁手八丁でなんとか安値で借りだして来たんだ。

 俺はエリートさんじゃないどころか、極貧の小作人の四男でさ。それこそ爪に火を灯す様にして貯めた金で、三年遅れで中等科を卒業して、私塾に入ったんだ。

 ……今に見てろよ。金を貯めて、自分の機兵(きへい)を手に入れてやる」

 

 

 ダウルツは理解した。この若造は、才能がかろうじて有った場合のダウルツそのものなのだ。

 

 

「そうか。応援してるぞ。頑張れよ! ……さて、監督がそろそろ怒りそうだ。工事の続きといこう」

 

「おうよ!」

 

 

 ダウルツは、なんとなく少しでも救われた気がした。まあ、自己欺瞞(じこぎまん)だと言うのは百も承知なのだが。

 

 

 

*

 

 

 

 で、その若者の操手(そうしゅ)がしばらく仕事を休んだかと思うと、今度はヨレヨレの白衣を着崩した、眼鏡をかけたガリガリのひょろっと背の高い、ボサボサ頭の青年を連れて来た。

 

 ちなみにその周囲を、赤、緑、青のコートに身を包んだ、一見すると十三~十四歳ぐらいの子供にしか見えない少女たちが、油断なく固めている。

 

 更にそれと連携して、上から下までみっちりと金属鎧で身を固めた重戦士が、護衛に就いている。

 

 青年の傍らで様々な書類を青年に手渡している秘書っぽい無表情美少女は、しかしそれこそ、十三~十四歳ぐらいに見えた。

 

 その眼鏡の青年は、現場監督に何か書面を見せて、しばらく見学させてほしいと言う。現場監督は、下にも置かぬ扱いでその青年を迎えた。

 

 

「なんだってんだろな、あの男は」

 

「あのひとは、自由都市同盟(じゆうとしどうめい)でも片手で数えられるほど高位の、多数機兵(きへい)関連技術を会得(えとく)した開発技術者、ダライアス・アームストロングさんですよ。

 あの人が機体に(ほどこ)してた仕掛けのおかげで、俺はこないだ運よく命拾いしました。

 ……まあ、あの人が俺に安く作ってくれた試作品従機(じゅうき)。……そのテストを兼ねた冒険に、強引に駆り出されなきゃ、その危険にも()わなかったんですけどね」

 

「ほう! それじゃ、お前さんとうとう機兵(きへい)持ちかよ! おめでとう、よかったなあ!」

 

「あはは、ありがとう。たださあ、まだそれでもローン残ってるんだよなあ。ちょっと壊れたから、その修理代も……。もっと稼がなきゃ」

 

 

 なるほど、壊れたからそれで、何時もの組合支部から借りた従機(じゅうき)、『ミメラ・スプレンデンス』に乗ってるわけだ。納得したダウルツだった。

 

 ……と、そのダライアス師が、こちらへやって来る。

 

 

貴方(あなた)がダウルツさん、ですか」

 

「さん付けで呼ばれるような男じゃないぜ?」

 

「ならダウルツ。君に依頼がある。新型の、機兵(きへい)支援用車輌の試験運転技術者(テストドライバー)だ」

 

「へ?」

 

 

 唖然(あぜん)としたダウルツだった。

 

 

 

*

 

 

 

 うかつに『ああ、うん』などと呟いてしまったのが運の尽き。ダウルツはデイリーフの街の工事現場から、自由都市同盟(じゆうとしどうめい)首都、中央都市アマルーナの冒険者組合本部まで連れてこられてしまった。

 

 そこで見せられた物に、ダウルツは思わず叫び声を上げる。

 

 

「な、なんじゃこりゃあぁ!!」

 

「今にも路地裏でチンピラに刺されて死にそうな叫びはやめたまえ。この『車両』の運用試験には、君の運転技術が、是非とも必要なのだ」

 

 

 そこにあったのは、下半分が履帯(りたい)……キャタピラを装備した車両、上半分がぶかっこうな従機(じゅうき)の上半身と言った代物であった。

 

 背中には、大きな背負子が取り付けられている。腕の先端は手ではなく、四連装魔導砲(まどうほう)になっていた。

 

 

「い、いや、しかしよ。上半分、どう見ても機兵(きへい)じゃねえか。俺は……」

 

「操縦系は、機兵(きへい)の物ではない。あくまでレバーとハンドルで操縦するだけの、『モドキ』だ」

 

「……。まあ、俺に動かせるもんなら、いいけどよ」

 

「どういう意味かね?」

 

 

 ダウルツは、ふっと微笑みを漏らし、言葉を紡ぐ。

「俺はよ。機兵(きへい)の操縦の才が無えのよ。今まで、どんな低位従機(じゅうき)魔導炉(まどうろ)ですらも、俺に同調してはくれなかった。

 ……ぴくりとも動かなかった」

 

「ふーん」

 

「ふーん……って、オマエ……」

 

「そんな事はどうでもよかろう? 君にはこれを動かす事ができる。あの工事現場で見た、君の精緻(せいち)な運転技術。わたしが必要としているのはソレだ」

 

 

 一息ついて、ダライアス師は言い放つ。

 

 

「あの精密な技量は、どれほど高位の機兵(きへい)乗りとて持っているものではない。それこそ……。

 そこに居るアレクシア・アーレルスマイアー都市同盟軍(としどうめいぐん)大尉が、わたしの見た事のある操手(そうしゅ)のうちでは唯一、かろうじて比肩し得ると言ったところだ。

 言っておくが、彼女は色々と残念なところがあるために出世できないだけで、本来ならば将軍職に匹敵する腕前を持っているからな?」

 

「だ、ダライアス師、貴官は()めているのか? (けな)しているのか? はっきりさせてくれないか?」

 

「両方だ」

 

 

 崩れ落ちるアレクシア大尉を尻目に、ダライアス師は言った。

 

 

「君はもう、ついうっかりかも知れんが、書類にサインをしてしまっている。何が何でも、これに乗ってもらうぞ」

 

「……上等だ。乗ってやろうじゃねえか」

 

 

 ダウルツの心に、火が付いた。わずかに残されていた彼の矜持、運転技術ならば誰にも負けないと言う自負をくすぐられた。

 

 しかもエリートたる都市同盟軍(としどうめいぐん)大尉に比肩するとまで言われて!

 

 

「これで燃えなきゃ、男じゃねえよな」

 

 

 

*

 

 

 

 そしてしばらく、彼は運転漬けの日々を送った。と言うか、運転漬けはいつもの事ではあったが、内容がハード過ぎたのだ。

 

 ちょっと動かしては感想を聞かれ、小休止の間にはレポートを書かされ、試作車がハンガー入りして改装が行われている間などは『ようやく休める』と思ったのもつかの間、試作二号車でのデータ取りが待っていたり。

 

 その分たっぷり報酬はもらえたが、使うヒマなど、ありはしなかった。

 

 

「だがようやく……。試作車の完成、か。つ、疲れたぜ……」

 

「ご苦労だったな、ダウルツ。これはありとあらゆる場所で、機兵(きへい)を支援する事になるだろう。

 両腕の先に装備した、四連魔導砲(まどうほう)での火力支援。擱座(かくざ)した機兵(きへい)を回収し、基地まで連れ帰るための背中の背負子(しょいこ)。この背負子(しょいこ)には、戦闘前の往路(おうろ)には大量の荷を積んで行けば良い。

 しかも操手(そうしゅ)としての訓練もいらないんだ、これは。値段も馬鹿みたいに安い。まあ普通の車両よりは高いが、それでも新車で、中古従機(じゅうき)の三分の一にも満たない価格だ」

 

「そうか……。これでお役御免となると、少し寂しいものがあるな」

 

「何を言っている。一応の完成は見たが、更なる改良を目指し、まだまだ試験は続くぞ」

 

「はぁ!?」

 

 

 ダライアス師の言葉に、ダウルツは阿保面を晒す。そのとき、ダライアス師の懐の携帯多機能通信魔導器(ENIGMA)が呼び出し音を鳴らす。ダライアス師はENIGMAを開いた。

 

 

『ダライアス師! 今すぐに機兵(きへい)で出られるかね!?』

 

「開発局長ですか。何事です? わたしは技術者であって、冒険者じゃないんですがね。わたしとの契約内容には、抵触しないんですか?」

 

『抵触する!』

 

「するんかい」

 

『だが、今使える魔装兵(まそうへい)はおらん! 射撃武器を得意とする、君でしかできない事なのだ! そこを曲げて願いたい!』

 

 

 通信機の向こうからは、兵器開発局局長の悲痛な叫びが響く。少女のソレならばともかく、おっさんのソレは耳障りで仕方が無かった。

 

 

 

*

 

 

 

 隊列の最後尾にいるダウルツの機兵(きへい)支援/回収車両一号試作車に、中衛にいるダライアス師の機装兵(きそうへい)『アーチャー・フィッシュ』から通信が入る。

 

 

『君まで付いてこなくても、良かったのだよ?』

 

「いいんだよ。問題の集落……サパヌ村は、俺の故郷だ。

 問題の翼竜(よくりゅう)に、六人も食われちまったそうじゃねえか、男衆がよ。

 ……極貧の寒村で、働き手が六人も殺されたあげくに、畑を耕す畜獣(ちくじゅう)が食われまくっちゃ、下手すりゃその集落は終わりだ。いや、たぶん間違いなく終わりだよ。

 局長さんとやらが、旦那を無理に指名してまで翼竜(よくりゅう)始末しようとしたのは、間違いじゃねえよ。サパヌ村が潰されて、食い物に困る様になったら、翼竜(よくりゅう)は飛ぶんだろ?

 山は普通の手段じゃ越えられないが、飛べば越えられる。そしたら即、デイリーフの街だ」

 

『デイリーフの街は、物流の拠点。破壊されたら、いえ一寸した騒ぎになるだけでも、大損害』

 

 

 中衛にいる『アーチャー・フィッシュ』の陰にぴったりと付き従う機装兵(きそうへい)『ドランカード・タイガー』から、無感情な声が通信で届いた。例の秘書役だ。その周囲を固める様に、赤、緑、青に塗られた従機(じゅうき)『ミメラ・スプレンデンス』が護っている。

 

 その他の機体まで、全部合計すれば機装兵(きそうへい)三機、従機(じゅうき)六台、車両一台のけっこうな大部隊だ。冒険者組合と、そこに依頼してきた国が、どれだけこの事態を重く見ているかの表れだ。

 

 都市同盟軍(としどうめいぐん)は諸般の事情あって、正規部隊は動かす事はできない。ダライアス師の護衛とか秘書になっている大尉と中尉をこの件で動かす許可が出ただけ、満足せざるを得ないだろう。

 

 先頭を行く、標準型にちょっと手を加えただけに見える機装兵(きそうへい)『ロイヤリタートTypeⅣ』から、声が届いた。

 

 

『そろそろサパヌ村だ。気をつけろ。口惜しいな……せめて低空に降りてこなければ、翼竜(よくりゅう)にはわたしの刃は届かぬ……。一応魔導砲(まどうほう)は持って来たが、射撃技量については最近初歩からやり直している途上故に。

 ……!!』

 

 

 サパヌ村は、鮮血に(まみ)れていた。わざと食い散らかしたのだろう、畜獣(ちくじゅう)の残骸がばらまかれている。いや、畜獣(ちくじゅう)だけではない。……人間の残骸も、ばらまかれていた。ダウルツは息を飲む。

 

 ……人と畜獣(ちくじゅう)の残骸と、わざと原型を残したのか粗末な家々……掘っ立て小屋に等しいが、それらの中央、村の井戸がある広場に、ソレは居た。井戸に長い首を突っ込んで、ごくごくと水を飲んでいる。そしてそれは首を上げた。

 

 赤い(ひとみ)が、一同を射抜く。ダライアス隊に随伴してきた従機(じゅうき)操手(そうしゅ)が、泡を食って砲火を撃ち放った。

 

 

『うわっ! うわ、うわわ!! わあああぁぁぁ!!』

 

『馬鹿、まだ早い!!』

 

 

 制止した声は、ダウルツにダライアス師を紹介した、あの若い操手(そうしゅ)だった。だがその警告も虚しい。射撃は大きく的を外した。いや違う。撃たれた相手が、さっと身を(かわ)したのだ。

 

 あきらかに、こちらを馬鹿にしている。翼竜(よくりゅう)が、飛ばずに脚力だけで射撃を(かわ)してみせたのだ。

 

 そして炎の吐息(ブレス)による返礼が来る。やみくもに撃ちまくっていた従機(じゅうき)『センクリクテ・クラーベ』の一台が、灼熱の圧力鍋になった。

 

 従機(じゅうき)の防御力は弱い。打撃に対しても、熱に対しても、だ。搭乗していた操手(そうしゅ)は、操縦槽(そうじゅうそう)の中で良く焼かれた肉の(かたまり)になり果てた。

 

 ダライアス師が、射撃命令を下す。

 

 

『総員、魔導砲(まどうほう)装備! 敵に向かい、三時方向から十二時方向に向け、掃射(そうしゃ)!』

 

『『『『『「了解!」』』』』』

 

 

 全員が叫び、各々の機体が一斉に魔導砲(まどうほう)を撃ちまくる。

 

 無論ダウルツも、乗っている機兵(きへい)支援/回収車両一号試作車の上半身両腕に搭載されている、四連魔導砲(まどうほう)二基を撃ちまくった。

 

 単純な火力では、魔導砲(まどうほう)一門だけの普通の機兵(きへい)を凌駕している計算になる。

 

 さすがにこの密度の砲火を受けては、翼竜(よくりゅう)とてたまらない。大きく羽ばたき、上空に飛翔して回避したのだ。だがそれがダライアス師の狙いだったらしい。

 

 

「グギェエエエェェェアアアァァァ!!」

 

 

 耳障りな絶叫が響く。翼竜(よくりゅう)は、両翼の皮膜を引き裂かれ、地上に()ちる。

 

 ダライアス師の機装兵(きそうへい)『アーチャー・フィッシュ』は、白兵武器をほとんど持たない代わりに、砲戦能力は極めて高い。翼を破壊されたおまけで翼竜(よくりゅう)は、片目までもを失っていた。

 

 しかし翼竜(よくりゅう)は、再度絶叫する。

 

 

「グガガアアアォォォアォオオオ!!」

 

 

 それは苦痛の叫びでは無かった。周辺の家々が吹き飛びその下から幾匹もの、幾頭もの、多数の魔獣が現れたのである。

 

 

『伏兵!!』

 

『ば、馬鹿な! 魔獣が……翼竜(よくりゅう)が部下を使い、あまつさえ戦術を……』

 

『現実を見ろ、アレクシア大尉! 考察などは後で良い! 今は敵が策を用いている事、そしてこちらもそれに対処せねばならん事が大事だ!』

 

『りょ、了解、少佐!』

 

『……退役、違う。……予備役技術少佐、だ』

 

 

 ダライアス師の指揮の元、一瞬崩れそうになった味方たちは、秩序を取り戻す。そして整然と反撃を開始した。

 

 

 

*

 

 

 

 横転した一号試作車から、ダウルツは必死で這い出した。味方従機(じゅうき)の一台をかばい、装甲された蜥蜴(トカゲ)の様な姿をした中型魔獣の体当たりをくらったのだ。

 

 ダライアス師の指揮と戦術は適切であったが、だがゲーム盤の盤面や、その下にあるちゃぶ台をひっくり返せるほどの奇跡的な力量ではない。

 

 この場合、勝利はなんとか可能だが、ある程度の損害は覚悟せねばならなかった。そしてその犠牲者に入りかけたのが、ダウルツがかばった従機(じゅうき)操手(そうしゅ)であり、犠牲者になるのがダウルツだと言うことなのだろう。

 

 眼の前には、片目を(つぶ)されて両翼の皮膜を破り取られた翼竜(よくりゅう)が、それでも良き獲物を見つけたとばかりに、にやりと(わら)った。爬虫類顔で(わら)えるだろうか、と言う問題は残るが、ダウルツにはそう感じられたのだ。

 

 

『うおおおぉぉぉ!!』

 

「!?」

 

 

 そして従機(じゅうき)『センクリクテ・クラーベ』の改造機と思しき機体、あの若い操手(そうしゅ)が乗っていた機体だが、それが槍を構えて突撃を敢行(かんこう)し、翼竜(よくりゅう)の胴体を刺し(つらぬ)く。翼竜(よくりゅう)の絶叫が上がった。

 

 

「グアギャアアアァァァアアアァァァ!?」

 

『に、にげろ、おっさん!!』

 

 

 翼竜(よくりゅう)は槍の刺さった胴体をねじった。その力だけで、非力な従機(じゅうき)の腕から槍が吹き飛んだ。

 

 従機(じゅうき)は転倒し、(ひざ)関節をねじってしまい、動けなくなる。翼竜(よくりゅう)は、再度にやりと嗤うと、炎の吐息(ブレス)を吹くために大きく息を吸い込む。

 

 なんてこった、あの若いのがやられちまう。誰か、誰かいないのか。ダウルツは慌てて周囲を見回す。

 

 一番強そうだったアレクシアとか言う大尉……。だめだ、三匹の魔獣を相手に丁々発止(ちょうちょうはっし)の戦いで手が離せない。

 

 ダライアス師、今こそあの神業(かみわざ)的射撃を……。だめだ、気付いてはいるが全体の指揮と、何より今は弾倉を入れ替えてる最中だ、間に合わない。

 

 ダライアス師の護衛や秘書が乗る機体……。だめだ、ダライアス師の『アーチャー・フィッシュ』を(まも)るので手一杯だ。

 

 最後の一台、俺がかばったあの従機(じゅうき)……。だめだ、別の魔獣に追われて、逃げ惑ってる。誰か、誰かいないのか。

 

 焦るダウルツの目に、1台の従機(じゅうき)、『センクリクテ・クラーベ』が(うつ)る。最初に翼竜(よくりゅう)吐炎(ブレス)を浴びて、操手(そうしゅ)を蒸し焼きにされた機体だ。ダウルツは、それが呼んでいる気がした。

 

 彼は疾走(しっそう)し、その操縦槽(そうじゅうそう)からこんがり焼けた遺体を引き()りだす。幸いなことに、もう機体の熱は冷めていた。

 

 そして操縦槽(そうじゅうそう)の操縦席に座り、学生時代に幾度となく勉強した通りの、機体起動手順を行う。

 

 ダウルツは思い願う。一度だけでいい、一度だけの奇跡を起こしてくれ。神でも悪魔でもいい。俺の願いを聞いてくれ。

 

 

 

*

 

 

 

 奇跡はあっさりと起きた。ダウルツが乗った『センクリクテ・クラーベ』は、機敏な動きで転がっていた戦斧(バトルアックス)を拾うと、疾走(しっそう)

 

 一瞬で戦闘速度に達した機体は、稲妻のごとき一撃を、敵の斜め後ろからその首筋に振り下ろした。

 

 

 

*

 

 

 

 冒険者組合のガレージに戻っても、ダウルツは首を傾げていた。

 

 

「……いったい何で、機兵(きへい)が。……従機(じゅうき)が動いたんだ? あの一時だけじゃない、その後もずっと、従機(じゅうき)を動かせてる? 俺が? 俺が??」

 

「そりゃあ普通はそうだろう。理論上、機兵(きへい)を起動すらできない人間は、まず存在しない。新人類の類ならばな」

 

「だ、だが俺は……」

 

 

 ダライアス師に反論しようとするダウルツだったが、ダライアス師は言った。

 

 

「適性が、極めて低かった。ただそれだけだ。今の従機(じゅうき)は最低ラインで十の適性が必要なところが、お前は六しか無かった。そう言う事だ。試験運転技術者(テストドライバー)に任じた際に身体検査したろう? アレで、そう言う結果が出てた。

 普通は亜人も含めて人類なら、最低で一の適性は持っている。機兵(きへい)に乗れないから、その適性を磨く方法が無いだけでな。極々まれに、本当にまれに適性が本当に無い者もいるんだが……。そう言うのは代わりに何かしら、特別な才能を持ってるのが、基本パターンだ。しかしお前はそうじゃなかった。

 でもって、アレだ」

 

 

 ダライアス師は、ボロボロになった一号試作車を指さす。

 

 

「アレはレバーとハンドル操作だけで操縦できるが、補助的に、あくまで補助的に、従機(じゅうき)の操縦機器も埋め込んである。あくまで操手(そうしゅ)の能力を持つ者が運用する際の、補助としてな。

 だが、レバーやハンドルと言った操縦装置の補助と言う形に作った結果、ソレがお前を操手(そうしゅ)として成長させる働きをした様だ。あくまで偶然の産物だがな」

 

「そ、え、あ、それじゃ……オレは……」

 

「あの『センクリクテ・クラーベ』の動きから見て、さっきの指針で言えば、二十七.五ぐらいまで適性が成長しているのではないか? 機装兵(きそうへい)にはちょっと厳しいが、低位から中位の従機(じゅうき)ならば余裕、楽勝だな」

 

 

 (こら)え切れない喜びが、ダウルツの腹の中からあふれ出す。彼は爆笑した。

 

 

「はは、ははははは、あははは、ぃやったあああぁぁぁい!! ばんざあああぁぁぁい!!」

 

「……」

 

「ははは……。は、ど、どうしたんでぇダライアス師?」

 

 

 不機嫌そうに、ダライアス師は言った。

 

 

「報告が、握りつぶされた」

 

「は?」

 

翼竜(よくりゅう)にアレだけの知能があり、戦術を駆使したなどと、大笑いだ、とな。そして実際に大笑いされた。本気にされなかったよ。一人、操手(そうしゅ)が死んでいると言うのにな。

 アレクシア大尉が軍の方に報告したが、そちらでも笑い飛ばされた。伏兵じみた展開になったのは、あくまで偶然だろう、影に怯えるのもいいかげんにしろ、と言う叱責まで付け加わってな。

 あの翼竜(よくりゅう)、おそらくは表面的ではない部分で……。頭脳的部分で、変種だったのだろうさ。そしてソレさえも捨て駒とした威力偵察……。考え過ぎだと、良いのだがな」

 

 

 ため息を吐き、ダライアス師は(きびす)を返して立ち去って行った。それを見送った後、ダウルツは相棒のところへ歩み寄る。一号試作車は、魔獣に追突されてひっくり返ったのを従機(じゅうき)で無理矢理起こしたので、傷だらけだった。

 

 だが骨格に歪みは無く、そのまま満足に使用できる。ひたすら頑丈だった。

 

 

「……ありがとよ。お前のおかげだ」

 

 

 ダウルツは、しみじみと言葉を漏らした。

 

 

 

*

 

 

 

 その後もダウルツは、一号試作車と二号試作車で、試験運転技術者(テストドライバー)を続けた。その報酬で、中古の低位従機(じゅうき)を購入、(えつ)に入ったりもした。

 

 だが同時に彼は量産型機兵(きへい)支援/回収車両の一番最初のモデルが発表されると即座に購入、基本的に仕事は全てそれで行ったと言う。冒険者たちは腕が立ち、仕事が堅実で操縦が繊細(せんさい)な彼を特に選び、擱座(かくざ)した機兵(きへい)の回収を依頼したものである。

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