ダライアス・レポート ~天才と呼ばれたくない技術屋の開発奮闘記~   作:雑草弁士

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File7「次なる戦場へ」

 安っぽい。それが、そいつを見たときのカイクスの第一印象だった。

 

 

「見た目で安っぽいと思ってるだろうが……」

 

 

 開口一番そう言ったのは、冒険者組合所属の兵器開発局局長である。彼は続けた。

 

 

「実際安い。値段だけじゃなく、運用にかかる経費もな。

 これの開発者は今、軍の方にも説明しに行ってる。バフォメット事変による被害を立て直すため、軍は今少しでも機体や操手(そうしゅ)が欲しいところだからな。内心複雑ながら、安価な機体を歓迎しているらしい。

 同じ事は、ウチにも言える。あの化け物魔獣(まじゅう)のせいで、失った物は数多いなんて言葉じゃ表せない。冒険者たちに対する支援、組織そのものの再建などなど」

 

 

 バフォメット事変と言うのは、昨年の年末からこの年の初頭にかけて自由都市同盟(じゆうとしどうめい)(おそ)った一連の魔獣災害を指して呼んだ言葉だ。

 

 何があったかと言うと、魔王級とまで呼ばれる超絶絶頂に強力な巨大魔獣バフォメットが、自身が率いる強大な八万の魔獣軍団と共に自由都市同盟(じゆうとしどうめい)南部を蹂躙しつつ北上し、首都である中央都市アマルーナの目前まで迫ったのだ。

 

 幸いと言って良いのか分からないが、バフォメットそのものは多大なる犠牲を払って撃滅に成功した。しかし自由都市同盟(じゆうとしどうめい)の南半分の土地は致命的なダメージを受け、都市同盟軍(としどうめいぐん)もまた大きなと言う言葉では表現しきれない程の大打撃を受けたのだ。

 

 それはともかく、カイクスは眼の前の機体の姿に、首を(かし)げる。

 

 

「これ、今までのどの系列機でも無いですよね?」

 

「ああ。ただ、アイディアの元になった機体はあるそうだ。もっとも、そのアイディア元の機装兵(きそうへい)も、その男……ダライアス・アームストロング師の作品ではあるのだがね。

 たしか、ここに資料が……。ああ、あった。

 アイディア元の機体は、機種名が『アーミィ・アント』……。昔に聖王国から輸入された『ミーレス』系列機の基礎構造を流用し、改良を加えた機体だな。量産性が高く、運用にかかる費用がべらぼうに安い上に、操手(そうしゅ)データをカートリッジ移殖できるから緊急時の乗り換えも楽。

 パーツ強度がべらぼうに高いため、ニコイチ、サンコイチ、ヨンコイチでの復旧が容易……。

 その『アーミィ・アント』から、直接血筋は繋がっていないものの、設計思想を受け継いで更に発展させたのが、コレだそうだ」

 

 

 局長は視線をその機体に再度移す。カイクスもまた、その眼前にある二機の機体を再び見つめた。いや、二『機』と言ってよい物だろうか。

 

 カイクスは、ソレを二『台』と呼びたくて仕方がなかった。いやサイズは明らかに機装兵(きそうへい)で、頭と(おぼ)しき構造物も付いている。しかしどう見たって、デカい従機(じゅうき)だ。

 

 

「言いたい事はわかる。だが能力的には機装兵(きそうへい)だ。この従機(じゅうき)くさいデザインは、量産性を徹底的に突き詰めたが故だ」

 

「……この二『機』、上半身はそれぞれ別ですが、下半身は両機とも同じに見えますね」

 

「同じだ」

 

「……」

 

「タイプDR共通戦術歩行システム。まったく同じ下半身の骨格と、機兵(きへい)の心臓部である魔導炉(まどうろ)を組み込んだ腰。どちらの機体の下半身も、完全に共通の設計で作られている」

 

 

 クレーンが、二機の上半身を吊り上げ、取り外して行く。そして別の上半身を、空いた腰の上に載せ、接続する。

 

 あっと言う間に、安っぽいのは変わらないが、そこにあった二機は別の種類の機装兵(きそうへい)に変化していた。

 

 

「……なんか、物凄い可能性を見た気がするんですが、気のせいですか?」

 

「気のせいじゃないぞ。下半身は大量生産品、上半身は顧客のニーズに合わせたオーダーメイドと言う作り方もできる。また、上半身も規格を揃えた大量生産品にすれば、大口注文受けた時とか非常に楽だ。

 そして今ダライアス師が検討してるのが、右腕、左腕、胴体中央、頭でバラバラに色んなタイプを造って共通の下半身の上に組み付けると言う計画だな。その組み合わせで、様々なタイプの機装兵(きそうへい)を、たいした作業量なしに実現すると言うものだ。

 まあ、それの実現はまだまだ先だが。とりあえず今は、色々な上半身と共通下半身を大量に用意して、可能であれば軍に売りつけたいな」

 

「うーん、いいことづくめに聞こえますけど、何かデメリットは? かっこわるい以外にも、あるんでしょう?」

 

 

 局長は、苦笑する。

 

 

「それは無論だな。最大の欠点として、限界性能の低さが挙げられる。

 従来の『ミーレス』系列機は、カスタマイズによる限界性能が極めて高いのも売りだったが、これはそこをきっぱり諦めた。

 いや、拡張性自体は高いんだ。一見カッコ悪い箱型の筐体は、新たに内部機器を組みつけたりする改造がやり易い。ただ、素体そのものが安すぎるため、そう言った形でない強化改造、直接にスペックを上げたりするチューニングは難しいんだな」

 

「ふうむ……。ああ、肝心な事を訊くのを忘れていました。

 ……自分が呼ばれたのは、いったい?」

 

「ああ、それはだね。この機体の試験操手(テストパイロット)をして欲しいんだ」

「げ」

 

 

 思わずカイクスの口から、本音を乗せた異音が発せられた。まあ、さもあらん。

 

 

「自分は、単なる事務員ですよ!?」

 

「だが機兵(きへい)の操縦は習っている」

 

従機(じゅうき)だけです! しかも素質が低いから見限られて、訓練校を放校処分になって、仕方なしに簿記学んで、ここの事務員に!!」

 

「今はそんなのでも、操手(そうしゅ)と言うだけで必要になるほどの人手不足なのだよ。事務仕事をしているからには、理解できているだろう?」

 

「契約違反です!」

 

「君は契約書よく読んだかね? 『業務内容は組合の都合で、変更される事があります』と書いてあったはずだが。

 ダライアス師はちゃんと読んで、その条項消したぞ? おかげで予定外の緊急の仕事を受けてもらうのに、苦労した事が何度あったか……」

 

 

 カイクスは、最後の抵抗を試みる。

 

 

「辞職ってのは……」

 

「あー、それなら仕方ないが……。組合の機密を見てしまったね? まずはとりあえず拘束。そしてその後は監視も付くし、あとは……」

 

 

 カイクスは、屈した。

 

 

 

*

 

 

 

 そしてカイクスは、驚く。機体の動きは鈍いのだが、操縦し易いのだ。動きの鈍さは、最下級の従機(じゅうき)並であったが。

 

 

「局長、これって……」

 

『右に普通の機兵(きへい)には無いセレクトレバーがあるだろう?今はF、G、H、I、Jのうち、Jに入ってるはずだ』

 

「はい……」

 

『今用意してる四つの上半身には、全部その機構が組まれてる。それは機体の動きや負荷を調整することで、操縦難易度を減らすためのレバーだ』

 

 

 カイクスは、乗り込む前に渡されたマニュアルを慌てて読み進める。

 

 

「これは……。Jランクで、最低位の従機(じゅうき)に相当するのか。ただしあくまでこれは、訓練用のモードであって……。Fランクで本来の動き、並の機装兵(きそうへい)の動きになる、と。

 Fより上が無いってことは、この機体の限界がそこって事か」

 

 

 なるほど、これならばカイクスでも操縦が楽にできる。テスト項目には、Fランクでの操縦が必要な項目も存在しているが、それは追々だ。(おもむろ)にカイクスは一つ一つ、機体のテスト項目をこなしていった。

 

 

 

*

 

 

 

 そしてカイクスは、ぼやいた。

 

 

「反則だよなあ……」

 

『教官、何を(おっしゃ)ってらっしゃるので?』

 

「ん? お前らも、契約書はちゃんと読んでサインしろよ?」

 

『はっ! 了解であります!』

 

 

 そう答える訓練生の契約書に、いくつも文面上のトラップが仕掛けてある事を、カイクスは知っている。なにせ、この組合所属機兵(きへい)部隊訓練中隊の、各事務処理は、『もと』事務員であった経歴を買われてカイクスがやっているのだから。

 

 この訓練中隊は、あくまで訓練中隊と言う事で、少尉待遇のカイクスが中隊長をやっている。なおこの隊には、本来であれば操手(そうしゅ)としての才が低く、操手(そうしゅ)としての未来が無かった者たちばかりが集まっている。

 

 機体は全てが、カイクスがかつてテストパイロットを行ったタイプDR共通戦術歩行システムに、これも組合の工房で生産した規格品の上半身を載せたものだ。カイクス機は、隊長機と言う事で大型の通信アンテナがくっついているが。

 

 

「あー、今日の訓練はセレクターをGランクまで上げるぞー。」

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 

 元気よく応える訓練生たち。だが、返答の背後から『うぇええぇぇ~』『あー……』とか言う声が聞こえて来るのを、カイクスは聞き逃さない。

 

 聞き逃さないが、見逃してやる。気持ちは重々分かるからだ。かつて、自分も通った道だ。

 

 

(けどなあ……。Gランクでもまだ合格点じゃないんだよな。想定される実戦までに、Fランクを自在に操れる様に鍛えてやらんと)

 

 

 そしてカイクスは怒鳴った。

 

「おらぁ! B-011番! カシワギ!! セレクターがHランクになってっぞ!!」

 

『げ、す、すんません! いえ、申し訳ありません、教官!』

 

「今のは単にセレクターの操作間違いか? それとも上手く見せようとして、わざとか?」

 

『操作ミスであります!!』

 

(よーし、よしよし。馬鹿正直に『わざと』なんて言うなよな?)

 

 

 もし訓練生が、馬鹿正直に『わざと』とか言ってしまったら、カイクスはこいつを鞭打ち程度の隊内処分、最悪で軍法会議開いて処罰せねばならない。

 

 実際、以前教えた隊で、一人いたのだ。軍法会議のあげく、禁錮一年実刑をくらって除隊処分を受けたバカが。

 

 

「よし、じゃあうっかりミスの罰に、訓練終了後に腕立て百回だ。いいな?」

 

『ひ、りょ、了解!!』

 

「じゃあセレクターをGにしたら、全員グランド十週のランニング開始!」

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 

 カイクスは操縦槽(そうじゅうそう)内の操縦席で、一人悩む。

 

 

(出世したのはいいけど……。給料も増えたけど……。はぁ~。

 なんとかコイツらを最低限従軍できるまでに育て上げないと……。ガラじゃない、ガラじゃないよ訓練教官……。最近、国境線で国境侵犯らしき事件が相次いでるらしいし……。

 バフォメット事変がついこの間だった気がするんだがなあ。なんとか枯れ木も山の賑わいで、こいつらでさえも戦力化したいのは分かるけど……。こいつら生き残れるか?)

 

 

 そして彼は、大きく息を吐いた。

 

 

「は~~~……。救いと、安息と、給料使うための休みがホシイ」

 

 

 カイクスは大空を見上げるも、そこには金属製の天井があるだけだった。

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