SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
#9 意地と意地
リザード事件が解決し、
建物の損傷個所の修理が終わった旭高校はいつも通り授業が行われていた。
ちなみにリザードは行方不明扱いとなり、警察は早々に捜査の手を引いた。
「来週から中間試験が始まります。念のために言っておきますが、今回も30点以下は”赤点”とします。各自、復習を怠らないように」
昼過ぎの4限目の授業の終わり際、ひと通り授業内容を終えた教師は黒板に書いた『中間試験』という文字を指差しながら話す。
――中間試験。それは中学、高校などの教育機関で行われる一大イベントの1つ。避けては通れない……学生の恒例行事みたいなものであり、勉強が本分の学生の学力を確かめるために行われる。
学生は皆、口揃えて面倒だと思うのが大半であるが、今後の進級や就職、進学に関わるので、より良い学力を証明するチャンスでもある。
「(始まるか……)」
中間試験の話を聞いて、固唾を呑む
普段、勉強に関して問題ない
「ここの読みは
「はい」
授業が終わり、次の授業が始まるまでの休み時間。
彼女は毎回、休み時間の合間を縫って予習や復習を行っている。
家庭教師のときも
しかし、彼の悩みの種はそこではなかった。
「
マンツーマンでの勉強をしている最中、2人の空間に割り込む声が1つ。
彼の登場に
「何ですか?」
「いやーー頑張っているなーって思って。休み時間に勉強してるなんて偉い!」
「?」
「(もうちょっとマシな言い方あるだろ……)」
いつも人を馬鹿にする風太郎が珍しく褒める姿に
これがただの嫌味であればいいが、風太郎本人は褒めていると思っているので尚更タチが悪い。
何故、風太郎が急に褒め出したのか。理由は単純で、五つ子たちに勉強意欲を上げて、何としても赤点を回避してもらうためだ。
家庭教師をやっている以上、成果が見られなかったらクビにされてしまう……。その危険性を考慮した風太郎はまず、真面目な
風太郎は覗くように
「家でも自習をしてると聞いてるぞ?無遅刻無欠席で忘れ物もしたことがない……。同じクラスだからわかる。お前は姉妹の中で一番真面目だ」
「そうでしょうか?」
「ああ!」
褒められて悪い気がしない
「ただ馬鹿なだけなんだ!」
「あ……」
と、爆弾発言を投下する。風太郎の言いたいことは「真面目だけど要領が悪い」というニュアンスなのは
実際に暴言と受け取った
「意地張ってないで、勉強会に参加してみろよ?もっと伸ばせるはずだぜ」
「も、もうその辺で……」
だが、自分の褒め言葉が煽りになっていることも露知らず。風太郎は褒め続けながら放課後に行っている勉強会へ誘う。
火に油を注ぐ発言に
「……そうですね」
「……ッ、そうか!なら勉強会に――」
「いいえ。先生にも教えてもらいます」
希望を見出した風太郎の誘いを
そう、
風太郎の教えを乞わないと断言した
そのため、
好きな女の子とほぼ2人っきりになれるので完全に悪いとは言い切れないが、1人で教えるのにも限界がある。
なので、勉強会に参加してもらった方が効率が良くて助かるのだが、彼女自身が意地を張って動かない。
風太郎の妙な煽り性能も相まって、勉強会の件は平行線上になっていた。
だが、悩みの種はこれだけでなかった。授業が終わり、放課後の廊下。
彼女もまた
何度か誘おうと試みたがことごとく無視され、家庭教師の時間になっても全く参加する意思を見せない。
声をかける度、辛辣な態度を取られるので、正直
「あっ」
ある程度距離が縮まると、こちらに気付いたのか
やっと自分のことを認めてくれたと嬉しくなった
「やあ、
いい機会だと思った
疑問に思った
勘違いと知り、恥ずかしさから段々と声のトーンを落としていく
「あの人、
「あいつ、私のストーカー」
「えーこわ……」
「……」
遠くから聞こえる女子と
去り際に聞こえた辛辣な言葉は心を傷つけるのに充分で、
「こっぴどくフラれたな~」
「涼介」
呆然と立ち尽くす中、フラッと横から涼介が苦笑しながら現れる。
どうやら、彼らは一部始終を見ていたようだ。
涼介は
「ありゃ酷いよな……。何にも悪いことしてないのに、勝手に決めつけられるんだから……。アルバイトでも、あんな風に毎回言われてるのか?」
「ああ……でも、これでもマシな方。最悪のときは睡眠薬を盛ったりするらしいから」
「え……」
「マジかよ……」
苦笑する
侮蔑の言葉のみならず、睡眠薬を盛るとは……。思っていた以上に苦労していると思った2人はなおも家庭教師を続けている
何ともいえない空気に包まれる中、涼介は場の空気を替えようとあっと声を出す。
「そうだ、
「あ~~……いいけど、この後、
「ゲッ!マジかよ……」
涼介は風太郎のことが大嫌いであり、この前の花火大会のときも睨み合っていた。対する風太郎は相変わらず不愛想な態度だったが。
当然
涼介はしばらく悩んだのち――
「仕方がない……アイツがいるのは癪だが、成績のためだ。我慢しよう」
と観念したかのように言うと、深いため息をつく。
嫌いな相手と同じ空間で勉強するのは涼介自身避けたいが、テストのことを考えると背に腹は代えられないので、提案に乗るしかなかった。
涼介は隣の
「マックス。お前はどうする?」
「あー……いいや。今度は自分の力だけでやってみたいんだ」
「そうか……。テスト返却日に誕生日だなんてツイてないな~」
「うん。でも、乗り切ったご褒美だと思って頑張るよ」
同情する涼介に苦笑しながら返す
気を抜いてもいい喜ばしい日なのに気を抜けないとは不運なものである。
涼介同様に同情した
「……わかった。マックス。もし、わからないところあったら教えて?」
「うん。じゃあ……」
「またな」
3人は別れ際にそう告げると、
「ちなみにどこを教えた方がいい?」
「数学だ。確率が意味不明で……」
「わかった。できるだけわかりやすく教えるつもりだから、途中で逃げるなよ?」
「………お手柔らかに」
道中、歩きながら何気ない会話を挟む2人。
やる気満々の態度を見せる
「よし、お前ら!中間試験が一週間後に控えてるが、正直言ってこのままでは乗り越えられない!国数英社理の五科目……これから一週間、徹底的に対策するぞ!」
「「え~~~」」
それから数分後、図書室。風太郎の口から威勢よく今後の試験対策が飛び出す。
当然、勉強が苦手な
風太郎と
時間的に考えて今までのペースで教える余裕はない……なので、せめて赤点は回避できるようにしようと切り出したのである。
一方、
こうなったのも涼介が「上杉の近くには寄りたくない」と申し出があったからだ。ここまで距離が開いても勉強会には支障はきたさないので
「フータロー君。リラックス、リラックス……。そんなに張り切ってちゃ逆に疲れちゃうよ?」
「そーですよ!ほら、ことわざで『過ぎたるはなよなよが如し』って言うじゃないですか。やりすぎは逆に危ないって……」
風太郎の提案に
正論のように言っているが、実際は勉強がしたくなくて逃げたいだけだ。
「ほう……試験は眼中にないってか?頼もしいな。じゃあ、試験は余裕で乗り切れるのだろうな?」
「あはは……」
「それはー……」
風太郎が冷たい眼差しで尋ねると、途端に言葉を詰まらせる
彼女たちが考えていることは普段の家庭教師の経験から風太郎にはお見通しであり、試しに追求すると御覧の通りである。
風太郎は顔を俯かせて深くため息をつくと、顔を上げ――
「はあ……だろうな。無理だってことはお前たち自身でわかってるだろ?それに『なよなよが如し』じゃなくて、『過ぎたるは
「「はーい……」」
と幼い子供を躾けるように言うと、観念した
勉強嫌いを治したいのは
そう思いながら風太郎は渋々勉強を始める2人を見ていると、ふと同席していた
顔をそちらへ向けると、
「……ッ!
「(もっとマシな言い方ないの……?)」
驚いた風太郎は心中で思っていたことをそのままぶつける。
またもや煽ってるような言い方に遠くから聞いていた
労わる風太郎に対して
「平気。少し頑張ろうと思っただけ……」
「「……」」
と言うと、ペンを動かして勉強を再開する。
しかし、風太郎と
「よーし!私も頑張ろーー!」
「ゆっくりやりますか……」
彼女の姿に触発された
このあまりにも良い風向きに風太郎も
「ありがとう、
「ははっ、どういたしまして。また明日」
「ああ」
それから数時間後。三姉妹と別れ、涼介と
「待ってくださーーいッ!」
後ろからこちらを呼び止める声が。2人は振り向くと、
息をきらした
「何だよ?勉強会ならとっくに終わったぞ?」
「違います。電話をあなたたちに取り次げとのことです」
「「??」」
一体誰だろうと彼女が持つスマートフォンの画面に目をやると、『お父さん』と書かれた着信画面が映っていた。
電話の主は
普段滅多に電話をかけてこない依頼主に緊張が走った2人は
「……もしもし?上杉ですが………」
《上杉君か。娘たちが世話になっているね。
「はい。僕もいます」
《良かった。中々顔を出せなくてすまないね。どうだい、家庭教師の方は順調かな?》
「ええ、順調ですよ。全員積極的なもんで、逆にこっちが困るくらいですよ~」
嘘も方便に風太郎は自信たっぷりの口調で虚偽の報告をする。相手はマルオだ……もし真実を言えば即クビにされる可能性があるので、生活費や借金を稼ぐためにも嘘をつくしかなかった。隣で聞いている
ただの近況報告かと2人はほっと安堵しているや否や、次の瞬間、マルオが放った一言で表情が固まる。
《それは良かった。ならば、近々行われる中間試験も問題ないようで何よりだ。
「「………え?」」
ピキンと緊張が走り、冷や汗が流れる風太郎と
――成果を見せてもらいたい。その言葉に2人の血の気はだんだんと引いていき、聞き間違いかと思い、訊き返してしまった。
凍り付いている2人のことなど露知らず、電話越しのマルオは再び言う。
《一週間後の中間試験………5人のうち1人でも赤点を取ったら、君たちには家庭教師を辞めてもらう》
「「――!?」」
マルオの口から放たれたノルマに言葉を失う
無謀ともいえる条件に一体何が何だかわからずに混乱する中、風太郎は異を唱える。
「そんな……!考え直してください!卒業まであと一年半あります!いくら何でも尚早では!?」
《確かに君の言うことはもっともだ………。だが、この程度の条件を達成できなければ、安心して娘たちを任せておけないよ。ここでハードルを設けさせてくれ……。それでは、健闘を祈る》
風太郎の言い分を異に返さず、言うだけのことを言ったマルオは通話を切った。
スマートフォンからビジー音がプープーだけが虚しく聞こえる中、ヘッドホンを取り外した風太郎が取った行動は――
「くそッ!」
「ッ!?待って待って!!」
やり場のない憤りを発散するため、
思いとどまった風太郎からスマートフォンを取り上げた
自分のものを叩き壊されてはたまったものじゃない
「父から何を言われましたか?」
「ああ……実は今度の中間し――「いやーーー!世間話をしてただけだ!朝食はパン派だとか、舞茸が大好きだとかの何でもない話だ!!はははーーーッ!!」」
「……?とてもそうは見えませんが……」
言われたことをそのまま正確に話そうとする
焦りきって汗をだくだくと流れる様子を怪しむ
それを受けた
「そうそう!何の変哲もない世間話!上杉の言う通りだよ!」
「そうですか……?」
笑って返す
納得の片鱗を見せない状況に困っている中、風太郎は話を逸らそうと別の話題について逆に尋ねる。
「そういう
「……ッ!も、問題ありません!」
「問題ないわけあるか。今日、学校でやった数学の小テスト悪かったろ?」
「ッ!?見たのですか!?」
痛いところを突かれた
その反応から点数が悪かったのかと確信した風太郎は嘆息する。
人のプライベートをこっそり覗いていたことに
「わからないところがあったら教えてやるぞ?」
と
「何ですか……私を信用できないのですか?」
上から目線で勉強面の不出来さに哀れんでいると受け取った
機嫌を損ねた
このまま帰してはまずいと察した風太郎と
「あなたに教えは乞わないと言ったはずです!勉強なら
「
「結構です!第一、私は最初にあなたに頼りましたが、それを拒否したのはあなたでしょう!嫌々相手されるなんて御免です!」
「ッ!」
「ふ、2人ともそこまでで………」
ますますヒートアップしていく口論に不穏な空気を感じた
頭にきた風太郎は痛いところを突きまくってやろうと感情をそのままぶつける。
「だったら……!お前1人で赤点回避できるって言うのかよ!?」
「できます!例え、中間試験が間に合わなくても――」
「それじゃ駄目だ!今回駄目だったら、
「……えっ?」
風太郎の発した意味深な言葉に
「これも仕事なんだッ!我儘言ってないで受け入れろよ!」
「我儘を言ってるのはあなたでしょう!」
「もういい……!」
「お前だって成績を上げたいんだろ……!だったら――」
収束がつかない口喧嘩へと発展した風太郎と
怒りと不満が募りに募り、感情的になった風太郎は遂に――
「黙って俺の言うことを聞いていればいいんだよッ!!!」
「ッ!?」
と、この場で言ってはいけない禁断の言葉を口にする。
黙って言うことを聞けばいい………それは自分の意思を尊重する
目を丸くする
「ッ、いや……今のは……」
「あなたのことを少しは見直していたんですが、どうやら私の見込み違いだったようですね……。所詮、
「……金のために働いて何が悪い。何不自由なく暮らしてるからそんなこと言えるんだ……。仕事じゃなきゃ、誰がお前みたいなきかん坊の世話を焼くか」
「……ッ!無理して教えてもらわなくて結構!!私はお金儲けの道具じゃありませんからッ!!!」
「
そう言い捨てると、
焦った
「
歩道橋を降り、歩道を歩く
勉強だけでなく心までバラバラになると、中間試験は突破なんて不可能である。
信頼している
ようやく説得に応じてくれたかと
「………上杉君に言われてきたんですか?」
「え?」
今の
突拍子もない疑惑に
「上杉君に頼まれたんですか?それとも自分の身の潔白を晴らすためですか?」
「い、いや……僕はただ……君を放ってはおけないと思って………助けたいだけなんだ」
「助けたい?そんな理由で納得するとでも?あなたも自己の意思は二の次に、お金のためだけに教えているのでしょう?」
「!?そんな違う……!」
「私には誰も信用できません………とにかく、あなた方からは今後一切教えを乞いません!」
説得するどころか火に油を注ぐことになってしまった
我に返った
「(ど、どうしよう……)」
自己嫌悪に陥った
説得しようとしたが、かえって怒らせてしまった。しかも好きな女の子にだ。
風太郎だけでなく自分までも嫌われてしまった
「(上杉から謝ってもらった方が早いけど、プライド高いしな~……」
事情を全て話し、風太郎から謝れば済む話だが、彼の性格上それを受け入れる可能性はゼロに近い。今すぐ歩道橋に戻ってもきっといないだろうし、電話をかけても応じてくれないだろう。
自身の辞職にもかかった一大事な時期なのに内輪揉めが起きるとは
――どうすればいいのだろう。そう思って悩んでいた矢先――
「
「ッ、博士……」
横から親しげに話しかけてくる声が1つ。振り向くと、その男は
手には食品が入ったエコバックを持っていることから、買い物帰りであることが伺える。
八丈目の姿を見て、
「どうした?悩み事でもあるのか?」
「……はい。実は――――」
違和感に気付いた八丈目に尋ねられた
家庭教師のアルバイトをしていること…。生徒である姉妹たちの相手に手を焼いていること…。中間試験で五つ子たちが赤点を取ると自分と風太郎がクビになってしまうこと…。
そして、
八丈目は話に割り込まず、うんうんと頷いて全て聞き終えると、
「……わかった。私が相談に乗ろう」
と、任せてくれとにっこりと微笑み返す。
この時、
◆イースター・エッグ◆
①
サム・ライミ版「スパイダーマン」(2002)にて、ピーターが憧れのMJが自分に手を振ったので微笑んで振り返したが、実は後ろにいる友達に向かっていたというシーンから。
ここで、この映画のピーターがどんなに冴えない人間なのかが伺え、作者も大好きなシーンの1つである。
②朝食はパン派
「五等分の花嫁」原作者の春場ねぎ先生の朝食はパン派であることから。
③舞茸が大好き
こちらも「五等分の花嫁」原作者の春場ねぎ先生の好物から。
スパイダーマンを増やす?
-
YES!(ヒロインなし)
-
YES!(オリジナルヒロイン)
-
YES!(五つ子の中からヒロイン)
-
NO
-
It's Morbin time