SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
八丈目に全てのことを洗いざらい話した
まだかまだかと不安で待ち望む中、遂にその人物はやってきた。
「よお、待たせたな」
彼らが待ち望む人物――そう、今回の揉め事の当事者の1人である風太郎だ。八丈目が詳しい事情を聞くためにも彼を呼び寄せるよう、
風太郎はアルバイトもないので伸び伸びと勉強したかったが、断ろうにも断れ切れず、渋々とやってきたのわけである。
風太郎は
八丈目が何者なのかを
「知り合いか……?」
「八丈目博士。科学者で、今取り組んでいる研究の助手をさせてもらってるんだ」
「八丈目だ。上杉君だね?
「はあ……」
愛想があるようなないような反応を示しながら差し出された手を取って握手をする風太郎。
こんな風な反応になるのも、人と対話することが嫌いで基本避けている彼が対話のマナーをあまりわかっていないからである。
勧められたまま風太郎が席に座ったことを皮切りに、八丈目は本題に入る。
「上杉君……。
「はい……」
「成績優秀だが、人付き合いは積極的ではないと聞いている。そこで1つ気になった……。人付き合いが苦手な君が、何故あそこまで家庭教師の仕事をやっているんだ?答えにくいところは答えなくていい………話してくれないか?君の助けになりたい」
居心地が悪そうな風太郎に八丈目は真剣な眼差しで頼み込む。
八丈目は風太郎が改善すべきことを指摘する前に彼の動機を知りたかった。
何故、どうしてそこまで必死にやろうとしているのか……。それがわからなければ助言を上げようにも心に響かないだろう。
「……そんなプライベートなことを会ったばかりの人に教えられませんよ」
「わかっている。私も個人情報はベラベラと話したくない……。だが、こういう込み入った問題は第三者の手を借りなければ解決しないこともある。君の気持ちはわかるが、正直に話してくれないか?」
「……」
渋る風太郎だったが、しっかりと寄り添う気持ちで接する八丈目の言葉を聞いて考え直すと、自分が家庭教師を続けなければいけない理由を話した。
家には多額の借金があること…。妹のらいはを楽させてやりたいこと…。そのためには破格の給料が出るこの家庭教師のアルバイトが必要だということ…。
そして、頑張ってはいるが自分が頑張っているのに
「………なるほど。君は家庭の金銭問題を解決するためにどうしても家庭教師を続けたい……。そして協力してくれない教え子に手を焼いている、というわけか」
事情を全て聞いた八丈目が訊き返すと、風太郎は頷く。風太郎自身も今日のことは反省してはいるが、わだかまりがあってどうも正直になれない。
八丈目は目元に手を当ててしばし考えたのち、開かれた口から出た言葉は――
「私から君に言えるのは……”愚か”ということだ」
「ッ!?」
励ましの言葉でなく、風太郎を酷評する言葉だった。
これには風太郎だけでなく
2人が狼狽える中、八丈目は真剣な眼差しで風太郎を見据える。
「上杉君。話からするに、君は成績優秀だが、それを鼻にかけている節がある。第一に言葉遣いだ。思ったことを口にするのは構わないが、君が言った言葉の意味が100%相手に伝わるとは限らない。変に解釈されて怒らせてしまうこともある。まだ相手のことをよくわかっていないのに『太るぞ』なんてタブーだ……」
「……ッ」
八丈目に指摘された風太郎は思い返す。初対面の
その結果、印象を悪くしてしまい、今日まで中々勉強を教えさせる機会を与えてくれなかった。
「君に足りないのは”謙虚さ”だ。素直になって相手の言葉に耳を傾けること。逆も同じだ。君が正直になって話せば、きっと向こうからも心を開いてくれるはずだ」
問題点を厳しく指摘しつつも八丈目は優しく助言を授ける。相手を怒るのは誰でもできるが、叱ることはできない。彼らよりも長年生きてきた経験から成せることだ。
謙虚な心構えを風太郎がしかと受け止める中、八丈目は唐突に尋ねる。
「もう1つ……上杉君、君は今日の件について反省してるかね?」
「……ッ、ええ、はい」
「理由は?」
「それはもちろん、クビになるか――「そこだよ」――ッ!?」
当然のように答える風太郎だが、その返答がくることを読んでいた八丈目は一言遮り、ビシッと風太郎を指差す。
どういう意味だと風太郎が言葉を詰まらせていると、八丈目は答える。
「君にもう1つ足りないもの……それは”高潔さ”だ。アルバイトの継続にかかっているのはわかるが、それを言われた相手の心を考えたことはないのかね?」
「それは……」
「その相手が金持ちだからといって、苦労をしていないと決めつけるのは早すぎる……彼女も君と同じ1人の人間だ。いくら君の家が裕福でないにしても、心まで貧しくあってはいけない。高潔な精神を保たなければ……」
「……」
言い淀む風太郎の心に打ち込むように八丈目は訴えかける。
自分の周りがいかに不遇な環境だったとしても、自分よりも恵まれた身分に対してひがんだりするのは間違っているということだ。真の人の心を持った人間として向き合うべきというのが、八丈目の意見だった。
顔を俯かせる風太郎に八丈目は続けて言う。
「私も高校と大学で教鞭をとったことがあるから、言うことを聞かない生徒に腹を立てるのはわかる。痛いほどにな………。だが、この先の人生を生きるには周りの意見を聞き、誰かのために自分のプライドを捨てなければいけないときが必ずある。今までは誰の教えも受けてこなかったもしれないが、その後も上手くいくとは限らない。誰かの声にしっかりと耳を傾け、しっかりと手を伸ばす……ただ勉強を教えるだけじゃ『教師』と呼べない。周りに認められて、初めて『教師』と呼べる。………君は
「……ッ!」
八丈目に向けられた疑問に風太郎はハッと思い出した。
深い記憶の海に沈んでいた記憶……。それは幼き頃、京都で会った1人の小さな少女との約束。
声こそ覚えてはいないが、彼女と誓った約束は覚えている――――『お互いの家族のために頑張ろう』と。
風太郎が勉強を熱心に取り組むきっかけ。『誰かのために頑張る』………それは今の自分と真逆な、純粋で高潔で、謙虚な願いだった。
だが、時を経ていくうちにずれていき、”誰かのため”ではなく、”自分のため”と本来の目的からすり替わっていた。妹のためというものも結局は自分を正当化させるための壁にしか過ぎなかったのだ。
成績ばかりに目をとられ、大事な原点を見失っていた。それを自覚した風太郎は心を改める。
「
「は、はい……」
神妙な顔を浮かべる風太郎の横では
彼の言う通り、自信をもって引き留めていれば結果は違っていただろう。
ぐうの音も出ない
その後、八丈目が会計をした後、3人は喫茶店を出た。
外は薄っすらと暗くなっており、街灯もポツポツと点き始めていた。
「博士。お忙しいのにすみません……」
「いやぁ、気にするな。私自身も色々と勉強になって良かったよ。とにかく、結果は考慮せず、彼女たちには真実を伝えるべきだ。いいね?」
「は、はい」
八丈目にそう言われた
一方、風太郎は昔出会った少女のことで頭がいっぱいであり、うわの空だった。八丈目はきっと悩み考えているのだろうと察すると、考えていることには触れず、ペコリと軽く頭を下げて帰っていった。
八丈目との対話で悩みが消えた2人は明日にやるべきことに備え、それぞれの家路についた。
翌日。
いつも通り中野家のマンションに入ったが、
「ごめん」
「早く言うべきだった……」
件の
これも信用を得るため、協力を得るためだが、どんな反応が返ってくるかわからず、2人は申し訳なさで縮こまっていた。
それを受けた姉妹の反応は……
「なーんだ。そういうことだったんだー」
「だから焦ってた………勿体ぶらず言ってくれたら良かったのに」
「そういうことならもっと勉強頑張ります!お2人を絶対に辞めさせたりしません!」
すんなりと受け入れ、協力的な姿勢を見せた。
出会ってから一ヶ月しかないが、一緒に同じものを取り組むうちにある種の友情のようなものが彼女らに芽生えてきたのだ。
てっきりプレッシャーを与えるとばかりと不安になっていた
「ふーん……。赤点取ったらクビねぇ…………」
反対に
何かを企んでいるようだが、今はそれについてどうこうする場合ではない。全てを話し終えた
今回はテスト対策とあって、テスト範囲を中心に勉強していった。
「上杉さん!『討論』って英語で何て言うんですか?」
「おお!『debate』って言うんだが、これは確実に試験に出るぞ!”でぱと”で覚えるんだ!」
「マナブ。これ、何て読むの?」
「『Amazing』だ。素晴らしいとか、信じられないって意味で、想像を超える事柄に対して称賛するときに使われるんだ」
彼女たちのやる気に感化された風太郎と
そんなことを考えていながら勉強を始めてから3時間が経過した頃だった。
「ただいま帰りました………ッ」
玄関先からリビングへ歩く音と共に一つの声が。
いつもの調子の
「ッ、
「これから自習がありますので。
「…?いいけど何で?」
「1人で集中したいので。それに……」
風太郎はすぐさま昨日のことについて謝ろうとするが、無視した
尋ねる
「足手纏いにはなりたくありませんので」
とはっきり答える。ヘッドホンを首にかけるために俯く彼女の顔は前髪に隠れていることもあるが、暗いものだった。
風太郎が話す間もなく、
賑やかだった空間がシーンと静まり返る中、
「ねぇ、ちょっと休憩しない?もうクタクタだよ~」
ここまで根気よくやったことは今までないので、疲れてしまったのだ。
「どうする?」
「そうだな……ちょっと早いが、休憩にしよう」
「う~~ん……!休憩だー!」
普段の風太郎ならば絶対に許さないが、彼女たちの頑張りに免じて許そうと考えたのだ。相手のことを考える………これも八丈目の教えから受けた風太郎なりの思いやりである。
「マナブ君、ちょっと」
「?」
皆が休憩に入る中、
「ここの景色、悪くないでしょ?」
「そうだね……」
ベランダの手すりに手をかけながら、夜空を眺める
流石にオズコープタワーや叔父が亡くなった際に立ち寄った山と比べたら高さは劣るが、これはこれで悪くなく、街では灯りが点いており、夜空にはポツポツと星々が輝いていた。
夜景の美しさに目を奪われていた
「そういえば、何か用?」
「フータロー君と
「ッ!?」
「……ああ。実は………」
――ここは正直に話そう。
そして、全てを話し終えると、
「そうだったんだ……。フータロー君と
「まあ……」
「あの2人、
「……?似たもの同士?」
――
「フータロー君っていつも強がってて、正直になってもいいところで意地張っちゃって……
「……」
「きっと今も苦しんでる。自分の弱さを打ち明けようにも明かせない苦しみに……」
遠い目で話すと、
しかし、仲良くなれたからって彼女のことを全て知っているわけではない。昨日だって、風太郎のことを理解してやってると勝手に押し付けたように言ったが、それが神経を逆なでした……つまり、知ったかぶりだったのだ。
そのことに気付かされた
「私にやれることはやってみるけど、フータロー君……マナブ君にしかできないことがある。マナブ君、あの子をお願いね」
身内である
そうとわかれば、
「……わかった。ありがとう」
「うん、頑張って」
――信頼に応えねば。
一方、
音楽を聴いているわけではないが、耳にヘッドホンを着け、黙々とペンを動かしていた。
余計な雑音がシャットアウトされたことによって集中力が高まっていたが……
「………」
何故か虚しく、心苦しかった。自分で決めたはずなのにだ。
あまりもの心苦しさに目尻に涙を浮かばせ、ノートに涙の粒がポツポツと零れ落ちた。
涙で目が滲み、勉強に集中できなくなった。
――助けてほしい。本心ではそう願ってはいるが、素直になれない自分がいる。
感嘆だが、中々その一歩を踏み出せない歯がゆさが
コンコン……
「
「ッ!」
そんな心苦しい時、ノック音に続けて
「………何でしょうか?」
「ああ……えっと……この前はごめん。君のことをわかったようなマネして……。上杉も酷いこと言ったけど、彼、反省してるんだ……。謝るチャンスをくれないかな?」
「……」
扉越しで頼み込む
――彼は何も悪くないのに。
心の中では色々と思ってはいるが、現実では無言だ。
「この前、君のお父さんと話したことなんだけど………実は僕と上杉は……今度のテストで赤点を回避させなかったら、この仕事を辞めさせるって話をしたんだ」
「ッ!?」
「本当にごめん……嘘をついて。もっと君のことを信じればよかった」
通話が終わった後の妙に風太郎が焦っていたことに合点がいった。自分のクビがかかっている話が来るなら、誤魔化そうとするのは当然だった。
謝罪する
「
「……」
「でも、それは決して君をお金稼ぎの道具として見ているからじゃない……助けたいだけなんだ。頑張ってるけど、中々思うようにいかないのを何とかしてあげたい。綺麗ごとかもしれないけど、本当にそう思ってるんだ……。君は決して足手纏いなんかじゃないよ……。だから、
「……ッ!」
会話に慣れていない
しかし、それは先程の悲しみが籠ったものではなく、嬉しさと解放感から来るものだった。
気付いたときは
「……」
だが、勢いで出たはいいものの言葉が出ない。
謝るという気持ちはあるが、中々いい言葉が思いつかず、
「えっと……
固まる彼女を見て、
「すみません……。私こそ変な意地を張って……」
「いいよ。わからないところある?」
「……ッ!はい!」
申し訳なさが溢れた謝罪に対し、気にしていないと微笑みながら尋ねる
文句の1つや2つはあるだろうに……。彼の心の広さに感動しながらも
その後、わだかまりが解けたことで
「悪かった」
「いえ、こちらこそ……」
気まずそうに謝る2人。言葉は短いながらも、お互いの心は充分に通じ合った。いつも通りになるのも時間が解決するだろう。
自分たちを阻む亀裂がなくなったことで、
「ああ。そこは代入しないと」
「あっ!そうでしたか、すみません」
謝る彼女だが、先程までの心苦しさはなく、伸び伸びとしており、表情も嬉しそうに微笑んでいた。
そして、あっという間に1時間半。家庭教師終了の時間となった。
「
「いや、僕はいいよ。叔母さんを1人にしておけないから」
「そうか。悪いな」
玄関先で見送る風太郎に答える
理由としては叔母である
本当は泊まりたかったがそれを考慮すると断念するしかなかった。
「じゃあ、また……」
「ああ」
見送る風太郎たちに
「(
1時間半という長くも短い時間は彼女にとって、今までの勉強の中で最高の時間だった。
この出来事で胸に灯った暖かさを彼女は永遠に忘れなかった……。
◆イースター・エッグ◆
①『Amazing』
素晴らしい、驚くほどという意味。スパイダーマンでは頻繁に使われる言葉で、主役を務めるコミック名が『アメイジング・スパイダーマン』、2012~2014まであったアンドリュー・ガーフィールド主演の映画シリーズも『アメイジング・スパイダーマン』だった。
②「だから、君の部屋の前に立っている」
サム・ライミ版「スパイダーマン2」(2004)にて、MJが自分の恋を諦めようとするピーターに向かって発した台詞を変えたもの。この励ましによってピーターはMJと一緒になる勇気をもらった。
スパイダーマンを増やす?
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YES!(ヒロインなし)
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YES!(オリジナルヒロイン)
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YES!(五つ子の中からヒロイン)
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NO
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It's Morbin time