SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#11 中間試験

中間試験当日の朝。T市9番地区にある一軒家。

ここは(まなぶ)の友人である最上(もがみ) (まさる)の一家が住まう一軒家である。

ベッドから起き、身支度を整えた(まさる)はリビングへ向かう。父親と母親はすでに朝食を摂り始めていた。

 

 

(まさる)。おはよう」

 

「あ、おはよう……」

 

 

低い声の挨拶をしてくる父親に(まさる)はビクッとしながらも挨拶を返す。

(まさる)の父親は目つきが悪く、いかにも厳格そうな人物で、周りはおろか、息子である(まさる)も怖いと思うほどだった。

 

 

(まさる)。何を突っ立っているの?早く食べなさい」

 

「ッ、はい……」

 

 

父親に気圧されて固まっていると、母親に席へ座るよう促される。その声音は冷たく低いもので、母親も父親同様厳格な人物だった。

我に戻った(まさる)は促されるまま席に座り、朝食を摂り始める。

 

会話もなく、通夜のように黙々と食事をする(まさる)たち。これは”食事中は口にものが入っているから不必要な会話はしてはいけない”という一家が決めたルールなのだ。

その他にも”風呂は10分以内”、”就寝は食後1時間以内”など厳しいルールが課せられている。

この閉鎖的な環境に(まさる)の心は重苦しかった。

 

 

「そういえば、今日から中間試験があるそうじゃないか」

 

「ッ!」

 

「対策の方は万全なんだろうな?」

 

 

食事中、ふと父親から中間試験について尋ねられた(まさる)は緊張が走る。

下手な言い方をすれば、怒られてしまう……この家で長年生活してきた彼にはそうなることが容易に想像できる。

(まさる)は固い表情ながらも、その問いに答える。

 

 

「……もちろんだよ、父さん。事前にバッチリ取り組んだからいけると思うよ」

 

()()……?思うとは何だ?そんな曖昧な答えで高得点を取れると思うのか!?」

 

「ッ!?そ、そんな……!違うよ!ちゃんと高得点取れるよ!!父さんに言われた通りに天海(あまかい)君に頼らなかったし……!」

 

 

地雷を踏んでしまったと(まさる)は焦りながら弁明する。怒った父親は(まさる)にとって恐怖そのものだからだ。

それを聞いて納得したのか父親は荒げていた声を潜めると、マグカップに入っているコーヒーを一口飲み、口を開く。

 

 

「当たり前だ……。天海(あまかい)君は優秀だ。だが、お前の勉強まで見てもらったりしたら、彼に迷惑だ……。テストは本来1人で取り組むものだ。足を引っ張っるようなマネは絶対にしてはいかん」

 

「……」

 

 

父親の口から淡々と出る辛辣な言葉に(まさる)は酷く、惨めな気持ちになった。

(まなぶ)とは友人だとは思っているが、相手はそうは思ってはいないかもしれない。それに自分と比べて優秀……両親も実の息子のことは全く口にせず、彼の評価ばかりしている。

 

 

(まさる)……我が家は代々会計士を務めているの。あなたにもいずれなってもらうから、みっともない結果だけは残さないでちょうだい。高いバス代もわざわざ払ってるんだから」

 

「……」

 

 

気持ちが沈んでいる(まさる)を追い込むように母親も重荷を与える言葉をぶつける。最上(もがみ)家の長男は代々会計士を務めており、(まさる)の父親も会計士だ。

当然、伝統に倣うと(まさる)も会計士となることを約束されているのだが、彼自身はあまりよく思ってはいなかった。

 

 

「行ってくるよ……」

 

 

朝食を食べ終わり、食器を片付けた(まさる)は出発を告げるが、両親は静かに頷くだけだった。

自分に振り向いてくれないと悲観した(まさる)は込み上げそうな涙を堪えると、重々しい足取りで玄関の戸から外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面変わって街中。朝の出勤や通学で人々が入り乱れる地上をリュックを背負ったスパイダーマンがウェブスイングで飛んでいた。

いつものようにビルとビルの合間をスイングしているのだが、どこか焦っていた。

 

 

「(くそっ!寝坊した!昨日、銀行強盗に通り魔、酔っ払いを家まで連れて行ったから……!)」

 

 

スパイダーマンが寝坊した理由……それは自分が学生生活とは別に行っている自警活動にあったからだ。

昨日は夕方頃に立て籠もりの銀行強盗の退治、夜頃には通り魔に襲われる女性を助け、その後には酔い潰れる中年男性を免許証に書かれている自宅まで送り届けた。

それに加えて五つ子たちの家庭教師だ。風太郎と五月(いつき)の確執はなくなったが、あまりにもやることが多すぎて、疲労のあまり、つい寝坊してしまったのだ。

 

家から学校まで歩いて約30分。(まなぶ)の通う旭高校は8時半登校となっており、普段はそれを見積もって早く出るようにしている。

しかし、今日起きた時刻は8時15分。普通の人間なら走っても間に合わなく、間違いなく遅刻確定だ。

 

だが、スパイダーマンだったら話は別だ。

空をウェブスイングするスパイダーマンにとっては地上の交通状況は関係なく、早く行くことができる。

つまり、スパイダーマンにとっては空は、渋滞のない専用通路同然なのだ。

 

 

「?」

 

 

ウェブスイングで飛び回っている最中、スパイダーマンはふと地上のあるものに目が留まる。それはコンビニの前にいる小さな男の子に集まる風太郎と五つ子たちの姿があった。

彼女たちも寝坊したのか急いでいるが、口の動きから男の子は迷子であり、どうすればいいかわからない様子だった。

 

ただでさえ時間がないのにこのまま留まっていると、風太郎たちは確実に遅刻する。

自分も余裕がないが、見捨てられない……。スパイダーマンは方向を変え、風太郎たちのもとへ着地する。

 

 

「やあ、お困りのようだね」

 

『ッ!?』

 

「え!本物!?」

 

 

スパイダーマンは爽やかな声で話しかけるが、いきなり現れたことで驚く風太郎たち。一花(いちか)に至っては生でスパイダーマンを見れて嬉しそうにしている。

空からいきなり現れて驚くのも仕方ないかとスパイダーマンはマスクの下で苦笑すると、彼女たちに尋ねる。

 

 

「何があったの?」

 

「うん。この子、迷子みたいだけど英語で喋ってるからわからなくて……」

 

「オーケー。僕に任せて」

 

 

三玖(みく)から経緯を聞いたスパイダーマンはぐすぐすと泣く男の子の目線に合わせてしゃがむと、コホンと軽く咳払いしたのち尋ねる。

 

 

「Hey, boy. What's the matter with that face?(やあ、坊や。そんな顔してどうしたの?)」

 

「SPIDER-MAN……. I wanna meet my mommy, but I got lost……(スパイダーマン……。お母さんに会いたいけど、迷子になっちゃって……)」

 

「Do you know where your mother is?(どこにお母さんがいるのかわかる?)」

 

「Emma Stone Clinic.(エマ・ストーン診療所)」

 

「OK. Leave it to your Friendly Neighborhood!(わかった。親愛なる隣人に任せて!)」

 

 

英会話で男の子の行きたい場所がわかったスパイダーマンは彼の頭を優しく撫でると、立ち上がって風太郎たちに振り向く。

 

 

「この子、診療所にいるお母さんに会いたいみたいなんだ」

 

「すっごーい。全部わかったんだ……」

 

「ありがとう」

 

 

目の前で繰り広げられた流暢な英会話に目を丸くする一花(いちか)たち。

スパイダーマンは軽く感謝を告げると、男の子を抱きかかえる。

 

 

「じゃあ、この子は僕が届けるから君たちは学校に行って。今日は大切なテストだろ?」

 

「あっ!そうでしたー!」

 

「早く行きませんと……!」

 

「うん。それじゃ、また会おう」

 

 

スパイダーマンはそう告げると、ウェブを高所に飛ばし、男の子と共に空高く飛んでいった。

風太郎は遠ざかっていくスパイダーマンの後ろ姿を見ながら首を傾げて呟く。

 

 

「……あいつ、何で今日がテストだって知ってるんだ?」

 

「そんなこと言ってる場合!?早く行くわよ!」

 

「お、おう……」

 

 

テスト情報はあまり公表されないはずなのに何故か知っている……。疑問に思う風太郎だったが、二乃(にの)にせかされ、五つ子と共に急いで学校へ向けて走っていく。

 

 

「(あの声、どっかで……?)」

 

 

道中、一花(いちか)は疑問に思っていた。スパイダーマンに会うのは初めてのはずだが、声がどこか馴染み深い気がしてならなかったのだ。

仕事先の人なのかと色々と考えるが、今は学校に着くのが先決なので、考えるのは後回しにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、朝のHRが終わり中間試験。生徒たちは筆記用具以外の荷物を全て廊下へ出し、教室で答案用紙が全員へ行き届くまで静かに待機していた。

ちなみに(まなぶ)はギリギリ間に合った。男の子は無事母親のもとへ届けられ、一件落着したが、学校の正門から入ってもHRまでには間に合わない時間だったので、屋上からこっそり入った。

 

 

「おいおい!天海(あまかい)の奴、慌て過ぎて靴のまま入ってきやがったぜ!」

 

『ハハハーーーーッ!』

 

「~~ッ」

 

 

だが、HRで昂輝に下靴のままなのを指摘された(まなぶ)は笑いものにされ、恥ずかしい思いをした。

けれど、中間試験を受ける資格は守られた。恥はかいてもテストは受けられる……上履きに履き替えた(まなぶ)は気持ちを切り替え、試験に集中することにした。

 

初日の試験は1限目『社会』、2限目『数学』、3限目『国語』の3教科。

ひしひしと緊張が漂う中、教師の『始め』の合図と共に生徒たちは裏にしていた答案用紙をひっくり返し、ペンを走らせた。

 

 

「(難しい問題ばかり……でも、フータローを守らないと……!)」

 

 

1限目『社会』。三玖(みく)は予想外の問題に頭を悩ませるも、答えを絞り出し、ペンを動かす。

これも、全ては風太郎と(まなぶ)のためである。

 

 

「(証明?しょうめいって何だっけ?)」

 

 

2限目『数学』。平行四辺形の証明問題に取り組む四葉(よつば)だったが、そもそも”証明”という言葉の意味を忘れてしまっていた。

 

 

「(う~ん。もういいかな……………でも不安だし、見直しとこうかな?)」

 

 

3限目『国語』。ひと通り終わった一花(いちか)はおやすみモードに入ろうとしたが、思い直すと、顔を上げて書き上げた解答用紙に目を通した。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2日目。1限目『理科』、2限目『英語』の2教科。

連日ではあるが、これを乗り越えれば林間学校が待っている……。生徒たちは張り切って取り組んだ。

 

 

「(遺伝情報の仕組み?わかんないからパスっと……………あ~!もう!)」

 

 

1限目『理科』。二乃(にの)は考えるのが面倒なので次の問題に進むが、先の問題のことが頭を過り、飛ばした問題をよく読み始めた。

 

 

「(あなたたちを絶対に辞めさせはしません)」

 

 

2限目『英語』。五月(いつき)はそう意気込むと、問題を解いていく。

自分たちを助けようとしてくれている(まなぶ)と風太郎の期待に応えるべく、彼女は問題の1つ1つくまなくチェックする。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、一週間後。中間試験の解答用紙の返却が行われた。採点結果に喜ぶ者もいれば、落胆する者もいる緊張の時間だ。

様々な感情が渦巻く返却時間が終わり、放課後。風太郎たちは中間試験の結果報告をするため、図書室に集まっていた。

(まなぶ)と風太郎は五つ子たちの解答用紙を見せてもらおうとしたが、表情は曇っていた。それから察するに、点数は悪いのであろう。

 

 

「……集まってもらって悪いな。さっそくだが、解答用紙を――「見せたくありません」………ッ」

 

 

訊きずらい状況だがここで引き下がっても仕方がない。風太郎が五つ子たちへ解答用紙を出してもらおうとしたとき、遮る声が1つ。

五月(いつき)だった。皆が注目する中、彼女は眉間にしわを寄せた顔を俯けて言葉を続ける。

 

 

「テストの点数なんて他人に教えるものではありません……個人情報です。断固拒否します」

 

 

強い口調で答える五月(いつき)に何とも言えない顔を浮かべる一同。

一見するとまた意地を張っているように見えるが、本心は届かなかった願いに悔しさを感じている。それによって、(まなぶ)と風太郎を失望させたくなく、点数を教えるのを拒否しているのだ。

その気持ちが痛いほど伝わった(まなぶ)はそっと五月(いつき)に話しかける。

 

 

「気持ちは……わかる。でも、見せてくれないと何も始まらない……」

 

「……」

 

 

(まなぶ)の説得を受けた五月(いつき)は潔く諦めると、重い首を縦に振った。

そして、五つ子たちは各々の解答用紙を提示した。その結果は……

 

 

一花(いちか) 国語=54点 数学=29点 理科=26点 社会=15点 英語=29点 計153点

 

二乃(にの) 国語=14点 数学=26点 理科=47点 社会=12点 英語=22点 計121点

 

三玖(みく) 国語=25点 数学=29点 理科=24点 社会=68点 英語=20点 計166点

 

四葉(よつば) 国語=20点 数学=30点 理科=22点 社会=8点 英語=18点 計98点

 

五月(いつき) 国語=28点 数学=25点 理科=21点 社会=24点 英語=56点 計154点

 

 

と、中々悲惨なもので、流石の風太郎も嘆息して肩を落としていた。その表情は、「2人体制であれだけ勉強を教えたはずなのにこんな穴ぼこだらけの点数を出すとは逆に天才」と言わんばかりだった。

 

 

「ま、まあ、成長はしてるんだし……。全員の点数合わせて100点に比べたら……」

 

「そうだな……スローペースだが確実に成長してる」

 

 

苦笑する(まなぶ)の高評価寄りの意見に冷や汗をかきながら頷く風太郎。

以前、風太郎が出したお手製の小テストでは事前に打ち合わせたかのように全員の点数の合計が100点ピッタリだった。ギャグかと思うが、全て真実だ。

それに比べたら全員赤点回避こそならなかったものの、実力が身についているのは歴然だった。

 

彼女たちの成長をしっかりと肌で感じた風太郎はフィードバックしていく。

 

 

三玖(みく)。今回の難易度で68点は大したもんだ……偏りはあるがな。()()は姉妹に教えられる箇所は自信をもって教えてやってくれ」

 

「……ッ」

 

 

今後――。家庭教師を辞める覚悟を決めた言葉に三玖(みく)は太ももに乗せていた手に力が入り、悲しげな顔を浮かべる。

 

 

四葉(よつば)。イージーミスが目立つぞ。もったいない。焦らず慎重にな」

 

「……は、はい!」

 

一花(いちか)。お前は1つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ」

 

「はーい」

 

二乃(にの)。結局最後まで言うことを聞かなかったな……。俺たちがいなくても油断すんなよ」

 

「ふん」

 

五月(いつき)。お前はバカ真面目すぎだ。そのせいで一問に時間をかけすぎて最後まで解けていない。次から気をつけろ」

 

「……」

 

 

風太郎は一人一人簡潔にフィードバックしていく。本来なら次回の反省点として意気込むところだろうが、風太郎たちが辞めるとわかっているため、皆、曇った表情をしていた。

その中で二乃(にの)は相変わらず無愛想に返すが、何か思うところがあるのかそっぽを向いて考えていた。

これで彼女たちへの最後の手向けとしては完璧と(まなぶ)と風太郎は顔を見合わせて頷く。

 

 

プルルル……

 

 

悲しみと悔しさが混じり誰も声を発そうとしない中、その静寂を突き破るように携帯電話のコール音が鳴る。

音の発生源は五月(いつき)の上着ポケットからであり、着信画面を見た五月(いつき)は口を締める。

 

 

「父です」

 

 

五月(いつき)はそう言ってスマートフォンを差し出す。電話の主は五つ子たちの父親――マルオだ。

遂にお別れと覚悟を決めた風太郎は(まなぶ)をひと目見てから軽く腹に気合を込めると、スマートフォンを受け取った。

 

 

「上杉です」

 

《……ああ、五月(いつき)君と一緒にいたのか。個々に聞いていこうと思ったが、君の口から直接聞こうか?……嘘はわかるからね》

 

「つきませんよ………ただ、次からこいつらにはもっと良い家庭教師をつけてやってください」

 

「……ッ」

 

 

はっきりとした物言いで頼む風太郎。

彼女たちの家庭教師ではなくなるが、せめて卒業だけはしてほしい……。風太郎は教えるうちに彼女たちとはある種の腐れ縁のようなものが芽生えてきたのだ。

金銭関係ない純粋な願いは、静かに聞いていた二乃(にの)の心を突き動かした。

 

 

《……ということは?》

 

「……試験の結果は――」

 

 

マルオの疑問に風太郎は「期待通りではなかった」と伝えようとした瞬間、二乃(にの)がパシッとスマートフォンをひったくった。

突然の行動に風太郎のみならず、(まなぶ)も目を丸くする中、二乃(にの)は構わずマルオに尋ねる。

 

 

「パパ?二乃(にの)だけど、1つ聞いていい?何でこんな条件を出したの?」

 

《僕にも娘を預ける親としての責任がある。上杉君と天海(あまかい)君がそれに見合うか……計らせてもらっただけだよ。彼らが君たちに相応しいのか》

 

「私たちのためってことね。ありがとうパパ……でも、相応しいかなんて、数字だけじゃわからないわ」

 

《それが一番の判断基準だ》

 

「あっそ……じゃあ教えてあげる………」

 

 

マルオがそう易々と考えを変える人物ではないことをわかっている二乃(にの)は早々に切り替えると、一拍空けたのち――

 

 

()()()()()()5()()()()()()()()()()()()()()

 

『!?』

 

 

堂々と事実と真逆の結果を伝えた。

当然、突拍子のない二乃(にの)の発言に皆は驚く。

 

 

《………本当かい?》

 

「嘘じゃないわ」

 

二乃(にの)君が言うのなら間違いはないんだろうね。これからも彼らと励むといい……》

 

ピッ!

 

 

疑うマルオだったが、二乃(にの)が強く言うと、あっさりと疑うのをやめて精進を祈る言葉を送り始める。

長くなりそうなので面倒くさくなった二乃(にの)は通話を切った。

 

 

二乃(にの)……。今のは……?」

 

 

皆が唖然とする中、我に戻った風太郎は二乃(にの)に尋ねる。どこからどう見ても全員が赤点を回避したとは思えない。

疑問に思う風太郎に答えるように二乃(にの)は言う。

 

 

「私は理科、一花(いちか)は国語、四葉(よつば)は数学、三玖(みく)は社会、五月(いつき)は英語……()()()5()()()()()()。嘘はついていないわ」

 

「な、なるほど……」

 

「そんなのアリかよ……」

 

 

全員5科目で赤点を出さなければセーフ……1人1教科ごと赤点を出してはいけないとは言っていない。

逆手にとった二乃(にの)の理屈に(まなぶ)は冷や汗をかきながら納得し、風太郎は頭を抱えた。

そんな彼らに二乃(にの)は――

 

 

「結果的にパパを騙すことになった。多分、次は通用しない………。次は実現させなさい」

 

「……やってやるよ」

 

「頑張ります……」

 

 

と、やや挑戦的な励ましに冷や汗をかきながら答える風太郎と(まなぶ)

一番非協力的な二乃(にの)の思わぬ助け船に2人は感謝した。

 

 

「あれ?私、いつの間にか合格してたんですか!?」

 

「いや、ちょっと違うけど……うん」

 

「うん~?フータロー君、ひょっとして喜んでる?私たちと離れ離れにならなかったから」

 

「違う!食いぶちを潰されなくて良かったと思ってんだ!」

 

「またまたー」

 

 

安堵する四葉(よつば)一花(いちか)とのやりとりに苦労する(まなぶ)と風太郎。一花(いちか)のからかいに反論する風太郎だが、心の中では彼女たちと繋がりが途絶えなくてホッとしていた。

 

 

三玖(みく)。彼らとはもう少し長い付き合いになりそうです」

 

「うん……」

 

 

妹からかけられた言葉に安心した三玖(みく)はホッと胸を撫で下ろした。

こうして、(まなぶ)たちのクビをかけた中間試験は、二乃(にの)の機転により、幕を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数分後。(まなぶ)たちは駅前のファミリーレストランに向かって歩いていた。

いつもならテスト後の勉強……と言いたいところだが、皆疲れており、勉強第一の風太郎も勉強する気は起きなかったので、風太郎の提案により、ご褒美のパフェを食べに行くことになった。

 

 

「でも珍しいな。彼があんなこと言うなんて……」

 

「ええ。ですが、上杉君がふっ、ふふ……パフェなんて……。あははっ!」

 

 

(まなぶ)の話にパフェを食べにいくことを提案した風太郎のことを思い出した五月(いつき)は笑いを堪えきれずにいた。

風太郎は提案したはいいものの、無愛想な彼から出た可愛いスイーツの不似合さがおかしく、五月(いつき)のみならず、他の姉妹や(まなぶ)もゲラゲラと笑ってしまった。

五月(いつき)はその衝撃度が忘れられず、未だ腹を抱えて笑っていた。彼女の笑い顔に(まなぶ)は自然と頬が緩んでいた。

 

 

「よーし。お前ら五人で5科目だから一人前だけな!」

 

「うわーせこー……」

 

「しょうがないだろ。一人特盛がいるから……」

 

「そういえば、上杉さんは何点だったんですか?」

 

「うわっ!?やめろっ!見るな!」

 

「全部100点……」

 

「あーめっちゃ恥ずかしい!」

 

「その流れ気に入ってるんですか……?」

 

 

和気あいあいと会話を弾ませる風太郎と五つ子。その距離は以前よりもぐっと縮まった。

その微笑ましい光景に傍で見ていた(まなぶ)はにっこりと微笑んだ。

 

 

「あっ!天海(あまかい)さんのは?」

 

「ん?ああ、僕のは………」

 

 

思い出したかのように頭頂部のリボンをピンと立てた四葉(よつば)に尋ねられた(まなぶ)

自分だけ見せていないのは悪いと思い、リュックから解答用紙を取り出そうとしたとき――

 

 

ウウウ――――ッ!

 

 

パトカーのサイレン音が近くから鳴り響く。橋から見下ろすと、下の道路で一台のダンプカーを追跡する5台ものパトカーの姿が見えた。

 

 

「……ごめん!用事思い出しちゃって!パフェと点数はまた今度!」

 

「え、天海(あまかい)君!?」

 

 

ヒーローに休息はない……。(まなぶ)は矢継ぎ早に謝ると、五月(いつき)が止める間もなく、急いでその場から逃げるように駆けだした。

手頃な物陰に隠れると制服を脱いでスパイダーマンになり、ウェブスイングでダンプカーの後を追っていった。

 

 

「フォォォォォーーーーーッ!」

 

 

本当は皆と一緒にパフェを食べたかったが、犯罪が起きている以上見逃せない。それがヒーローである自分の”責任”だからだ。

スパイダーマンは己を奮い立たせるように雄叫びを上げながら今日も空を飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、緑川邸。100階立ての屋敷に住む涼介はとぼとぼとした足取りでリビングに繋がる扉を開けた。

リビングは如何にも西洋の富豪が住んでいそうな造りで、石造りの暖炉や高級そうな絵画、そして奇妙な仮面が壁の所々に飾られてあった。

これは涼介の父――難一(なんいち)の趣味であり、世界各国のあらゆる部族や宗教の仮面を買い集めているのだ。

 

 

「ただいまー……」

 

「おかえり涼介」

 

 

涼介が声をかけると、リビングの奥から難一(なんいち)が出迎えてくれる。

涼介は奥にあるテーブルを見ると、ノートパソコンが置いてあるのが見えた。わざわざ作業の手を一旦止めて来てくれたのは一目瞭然だ。

 

 

「涼介。中間試験はどうだった?」

 

「ああ……これだよ。最悪だ」

 

 

優しく尋ねてくる難一(なんいち)に涼介は嘆息つきながら、リュックから返却された解答用紙を渡す。

難一(なんいち)は解答用紙一枚一枚目を通すが、不思議そうに首を傾げる。

 

 

「国語81点、数学72点、理科68点、社会85点、英語80点………悪い点数じゃない。何がそんなに不満なんだ?」

 

「全然駄目だ。オズコープの社長の息子がこんな平凡な点数じゃ………父さんのメンツ丸つぶれだよ」

 

 

難一(なんいち)の疑問に対して、弱音を吐く涼介。

普通の家庭なら特に悪い点数ではないのだが、大企業の家庭の場合だったら別だ。社長の息子……ましてや世界的な大企業のオズコープだ。常に優秀な数字を求められる。

涼介はそれがプレッシャーとなっており、毎回返ってくる自分の無力さに落ち込んでいるのだ。

 

当然、父親である難一(なんいち)は息子の苦しみはわかっている。彼も似たような経験を積んできたからだ。

優しい眼差しで向き合った難一(なんいち)は涼介の肩にポンと手を乗せる。

 

 

「涼介……。そんなに自分を卑下するな。お前はオズコープの御曹司である前に1人の人間だ。周りの評価など気にするな………」

 

「俺は落ちこぼれだよ……」

 

「落ちこぼれじゃない。人には向き、不向きというものがある。苦手なものは苦手なんだ………。お前が望むなら、このオズコープも継がなくてもいい。私はお前に自由に生きてほしい」

 

「ッ、父さん」

 

 

励まされて涙ぐんだ涼介は難一(なんいち)に抱き着く。こんな自分を愛してくれている父親に感極まらないはずはなかった。

難一(なんいち)は涼介を受け止めると、慰めるように彼の背中を優しくポンポンと叩いた。

 

そんな彼らから離れたテーブルのノートパソコンには、書き途中の1枚の報告書が映っていた。

その報告書に書かれているタイトルは『身体増強薬 《ゴブリン・フォーミュラ》』という薬品の名前だった。

 

そこに添付されている緑色の薬品の画像は太陽の反射で眩しく輝いていた……。

 

 

 




◆イースター・エッグ
①エマ・ストーン診療所
 マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマンシリーズ」で主人公ピーター・パーカーの恋人のグウェン・ステイシー役を演じた女優『エマ・ストーン』から。2010年には「アメイジング・スパイダーマン」(2012)にて共演していたアンドリュー・ガーフィールド(ピーター役)と交際関係を築いていたが、お互いの仕事もあり、2015年には破局した。
 だが、恋人でなくなってもアンドリューとエマは良い友人関係を継続している模様で、ちょくちょくSNSでやりとりしている。


スパイダーマンを増やす?

  • YES!(ヒロインなし)
  • YES!(オリジナルヒロイン)
  • YES!(五つ子の中からヒロイン)
  • NO
  • It's Morbin time
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