SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#13 電撃の支配者 エレクトロ パート②

9番地区の繫華街交差点での戦いから翌日。

エレクトロの正体を突き止めた警察は近隣住民の報告もあって、さっそく最上(もがみ)家の捜査に乗り出した。

最上(もがみ)家の前には数台のパトカーと遺体搬送車が集まっており、周囲には野次馬が捜査の邪魔をしないようバリケードテープが張り巡らされていた。

 

焼け焦げた玄関口からは炭のように黒焦げになった(まさる)の両親が慎重に運び出されていた。

運び出される遺体に居合わせていた2人の警察官は合掌する。

 

 

井ノ内(いのうち)警部。ありゃ、残酷ですね……」

 

「そうとう恨みがあったんだろう……。でなければ、顔の判別が出来なくなるまでやらん」

 

 

遺体の惨状に苦い顔を浮かべる部下の呟きに、井ノ内 譲治(じょうじ)警部は神妙な顔で答える。

(まさる)としては意図して殺したわけではないが、恨みがあったことは事実である。そのことを全部知らなくても、遺体の惨状さから(まさる)ことエレクトロが犯行に及んだ心情は伺える。

 

部下と共に手袋を嵌めて、最上(もがみ)家に入った譲治は検察の邪魔をしないよう慎重に歩いていく。

家のあちこちに検察の調査が進んでいる中、井ノ内たちはリビングに足を踏み入れる。

玄関口よりも黒焦げにはなってないがリビングも充分焼け焦げており、液晶テレビは画面が割れ、時計の針は『21時37分』を指したまま止まっていた。

ひと通り見た譲治はふぅと嘆息をつくと、部下に尋ねる。

 

 

「エレクトロ――最上(もがみ) (まさる)の家庭環境は?」

 

「は、はい!近隣住民からの話によると、容疑者と両親との関係は劣悪だったそうで、いつも怒鳴り声が響いていたそうです。それにあまり評判も良くないと………」

 

「わかった……。ご苦労様」

 

「はい!」

 

 

報告を聞いた譲治は部下に労いの言葉をかけると、既に電源が切れている冷蔵庫を開ける。

冷蔵庫の中には『お誕生日おめでとう まさる』と書かれたチョコプレートが挿し込んであるバースデーケーキが虚しく溶けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後の朝。

6番地区の住宅街にある天海(あまかい)家では、いつものように朝食を摂っていた。

(まなぶ)はバタートーストを頬張りながら、テレビで流れるニュースを観ていた。

 

 

《――次のニュースです。先日に続いて、T市の発電所が謎の人物によって襲われる事件が発生しました。被害に見舞われたのはT市7番地区の『オズコープ』が開発した発電所で、深夜2時46分頃、容疑者と思われる男性が発電所に侵入。()()()()()()()()()()()()()()()()()とのことです。容疑者は5日前に行方不明となったT市1番地区に通っていたとされる男子高校生と思われ、止めにかかった従業員に対し、手から電流のようなものを飛ばして危害を加えた模様です。従業員のうち、10名が死亡、他7人が軽重症を負っています。また、連日に発生した発電所の電気が無くなることと、遺体が全て感電しているところから、警察は5日前に起きたT市9番地区の『神保(じんぼ)交差点』での致死騒動事件を起こした『エレクトロ』と名乗る人物の同一の犯行によるものだと断定しました。現在、警察は容疑者の少年を含め、目撃者の聞きこみを行っています――――》

 

「(マックス……どこにいるんだ?もう1週間になるぞ)」

 

 

穏やかな朝とは裏腹に、テレビから流れる血生臭いニュースを観る(まなぶ)の顔は険しいものだった。

容疑者の男子高校生とは、もちろん(まさる)ことエレクトロだ。

スパイダーマンである(まなぶ)は5日前の交差点での戦いの後、行方を晦ましたエレクトロを探し回ったのだが、依然行方はわからず、目的すら摑めていなかった。

(まなぶ)は口内で細かくなった食パンをゴクリと飲み込む。

 

 

「(僕があの時捕まえていれば……!)」

 

 

(まなぶ)はエレクトロを取り逃がしたことを後悔していた。エレクトロと対峙した際、あと一歩のところまで追いつめた。

しかし、まだエレクトロになる前のマックス――(まさる)だったときの彼の姿がチラつき、思わず助けてしまった。

変な同情をした結果、エレクトロには逃げられた。しかも、逃亡の先々で死傷者も出た。殺し方からエレクトロは自分の身を守るためでなく、自分の力を試すために罪のない人々に危害を加えているのだ。

 

更に、交差点での目撃情報から現場に居合わせたスパイダーマンも警察にマークされている。

スパイダーマンはエレクトロを止めるために戦ったのだが、彼を助けた目撃証言から”共犯者”ではないかと疑いがかかっている。スパイダーマンである(まなぶ)にとっては不名誉なことだ。

それだけにならず、スパイダーマン叩きがウリの『デイリー・ビューグル』の新聞記事がその疑いに拍車をかけている。

 

――次は何があっても必ず捕まえる!

犠牲になった被害者のためにも(まなぶ)は心を鬼にして、友人と対峙することを決意した。

 

自分の甥が険しい表情になっているのを見かねた(みこと)は心配そうに尋ねる。

 

 

「朝から物騒なニュースね~。(まなぶ)……危ないと思ったらすぐに逃げるのよ?一番大事なのは自分の命なんだから……」

 

「うん。わかってるよ」

 

 

何か危ないことを考えているのではないかと思ったのだろう。

長く暮らしている経験から叔母の言うことがわかっている(まなぶ)は心配を打ち消すように微笑み返す。

だが、(みこと)の不安は拭えず、依然表情は曇っていた。

 

(みこと)の心情を反映するように、快晴の空は段々曇り空へと変わっていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪」

 

 

その日の昼過ぎ。T市4番地区にある閑静な住宅街の一軒家から鼻歌と共に軽快なステップが鳴る。

童謡『七つの子』のメロディーを鼻で歌いながら台所から1人の男が、ポテトチップスや板チョコなど、山ほどのお菓子を腕いっぱいに抱えてリビングへ来ると、テーブルの上へ乱雑に置いた。

その男は今まさにお尋ね者の(まさる)ことエレクトロであり、腹を空かせた彼はこの家で食事を摂ることにしたのだ。

 

エレクトロは椅子に座ると、テレビを点け、適当にお菓子の梱包を開けると、次々に口の中へ放っていく。

バリバリと歯切れのいい音がリビング中に響く。

 

 

「美味い……!あの家にいた頃は『健康の妨げ』の一点張りでろくに食べさせてもらえなかったな……」

 

 

エレクトロはお菓子の魅力に酔いしれながら呟く。

エレクトロの両親はひと言で言うと、『毒親』で、あれは駄目これは駄目と17年間彼の生き方を束縛し続けていた。今思い返すだけで頭痛がしそうである。

 

だが、もう縛られる必要はなくなったのだ。

自分を道具扱いしてきた両親はいなくなり、孤独感を抱えたまま学校に行かなくてよくなった。

これも17歳の誕生日に落雷から授かった電気を操る力のおかげである。

右手に軽く力を込めると、バチバチと稲妻が走る。エレクトロは強大な力が自分のものであることに改めて実感すると、心が軽くなる。

 

 

「この家は”アタリ”だな。提供感謝するよ」

 

 

お菓子を頬張りながら、エレクトロは満足げな声で床に倒れる20代後半くらいの男女に感謝を示す。

しかし、床に倒れる男女は返事どころかピクリと反応すらしない。

 

それもそのはず……彼らはエレクトロによって殺されたからだ。

 

元々、この家は電技技師の夫婦が住まう家だったのだ。生後6ヶ月の赤ん坊もいる。

だが、食料を求めたエレクトロが朝支度をするこの家へ入ってきた。

当然、不審者極まりない彼に対し、旦那は追い出そうとしたが、エレクトロは指先からレーザーのような電撃で旦那の眉間を貫いて殺害。妻の方も悲鳴を上げる間もなく、同じく眉間を貫いて殺した。

 

邪魔者を消したと思ったエレクトロだったが、ベビーベッドで泣きわめく赤ん坊の声にうっとおしさを感じ、赤ん坊の柔らかい側頭部に手を当て、電流を流して感電死させた。

若い夫婦と小さな命の灯はあっという間に消されてしまったのだ。

以前のエレクトロ――(まさる)なら心を痛めるであろうが、今の力に酔いしれた彼は全く罪悪感を感じなかった。むしろ何故殺しては駄目なのか、庭の石ころの裏にいるダンゴムシを潰しても罪に問われないのに、人の命を取っては駄目だという道徳観が彼には全く理解できなかった。

邪魔だから殺した……ただそれだけである。

 

 

「水は飲めないが………電気があれば乾くこともないし、いいか。発電所のやつは中々良かった……」

 

 

そう言いながらエレクトロは恍惚とした表情を浮かべる。

エレクトロが発電所を襲った理由。それはエネルギーの補充と食事代わりのためである。

エレクトロは電気を操るとはいっても電気を生み出すことは出来ない。帯電体質なだけであり、蓄えられる電気も限りがある。

また、帯電体質なので水分を含むことは出来ないので、電気エネルギーを補充する必要があったのだ。

 

エレクトロは最初こそ自分の身体の仕組みは理解できなかった。ましてや電気人間だ、わかるわけがない。

自分を理解するために行ったこと。未知なるものの解明方法………それは実験である。

自分以外の物体に当てることで能力を開花させていったのだ。

最初は路上に転がっているゴミから自動車、コンクリートの壁、高層ビル……。果てには無機物発電所やこの家の住民までも自分の能力の実験台にしたのだ。

エレクトロにとっては最早、世間体など関係なく、気分の赴くままに人々を殺していった。

 

残虐な悪人と化したエレクトロには、最上(もがみ) (まさる)という心優しい少年の面影はどこにもなかった……。

 

 

《――先日から続く『エレクトロ』と名乗る人物による殺人事件で、容疑者の少年が通うT市の高校の理事長が本日正午、初めて記者会見を開きました》

 

「?」

 

 

自分の能力に酔いしれ、ありったけのお菓子で豪遊している中、観ていたテレビのニュース内容に耳が留まる。

自分が引き起こした事件のニュースはくさるほど聞いているが、旭高校の理事長が初めて記者会見をすると聞き、関心が向く。

テレビを観ると、白塗りの壁を背景にふくよかな体型の男性――旭高校の武田(たけだ)理事長が記者会見に臨んでいる姿があった。

エレクトロは遠目だが何度か見たことがあり、テロップがなくとも彼が自分の高校の理事長であることはすぐわかった。

 

武田理事長は手渡されたマイクを手に持つと、ピシッと背筋を整え、口を開く。

 

 

《……まずは、亡くなられた方々及びご遺族に心よりお詫び申し上げます》

 

 

そのひと言を告げたのち、武田理事長は深く頭を下げる。不正を犯した政治家がやるような決まり文句のようなものだ。

5秒後、頭を上げた武田理事長はマイクを口元に近づけると、衝撃的な言葉を告げる。

 

 

《また、保護者の方々につきましては、今回の事故によってご心配ご迷惑をお掛けしておりますところをお詫び申し上げます……。今回の事件を起こした我が校の生徒……少年Mは前々から『問題児』であり、周りの生徒に危害を加えるような狂暴な性格であったと、教師陣からの報告は度々耳にしていました………》

 

「……ッ、何?」

 

《彼自身はまだ子供です。ですが、置かれていた家庭環境が彼の性格に影響を与えたものだと判断しております。我々、教師陣が親身に接してあげれば、このような悲しい事件を起こすことはなかったと反省しております。不徳の致すところ、大変申し訳ございません》

 

 

そう言ってペコリと頭を下げる武田理事長の発言にエレクトロは耳を疑った。

――自分が前々から問題児で狂暴?取り巻く環境のせい?

自分のことをろくに知りもしないのにも関わらず、悲劇の被害者ぶっている武田理事長の対応に対して怒りを感じたエレクトロは電気を迸らせると、テレビや周りの家具や壁を破壊した。

 

シュー……とテレビから焼け焦げた匂いと煙が立ち込める中、鬼の如く怒りに震えるエレクトロはおもむろにタンスを開けると、ハンガーにかけてあった作業着と配線を取り出した。

作業着の上から配線を鎧のように纏うと、エレクトロは瞳を稲妻のように黄色く輝かせる。

 

 

「目にものを見せてやる………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、旭高校ではいつものように時が流れており、昼過ぎの4限目の授業が終わった頃だった。

終限のチャイムが鳴り、生徒たちは各々のしたいこと、やるべきことに取り掛かっており、廊下には雑談を交わす生徒たちが溢れ返っていた。

 

(まなぶ)の所属する1組の次の授業は理科の実験なので、1組の生徒たちは理科室へと移動し始めていた。

実験と聞くとグループで一緒に取り組み、レポートを出さないといけないので大半の生徒は陰鬱な時間である。

だが、科学大好きな(まなぶ)にとっては自分の趣味を伸び伸びと活かせるので、至福の時間であった。

実験の成績もクラスで1番であることから、いつも馬鹿にするクラスメイトもこの実験の時間だけは(まなぶ)救世主(メシア)と崇めており、彼と同じ班になることを毎回祈っている。

 

 

「や、マナブ君」

 

「ああ、一花(いちか)

 

 

(まなぶ)が理科室へ向かうクラスメイトたちの流れについていくように廊下を歩いていると、正面からやってきた一花(いちか)とバッタリ出会う。歩いてきた方向から考えるに、前の時間で実験を行っていたのは一花(いちか)のクラスだったようだ。

 

 

「昨日送った五月(いつき)ちゃんの生写真見てくれた?」

 

「あ~もうやめてくれよ。頼んでないのにあんな写真送られてきたらこっちが困る」

 

「あんな写真?あ、見たんだ!」

 

「え!?あ………違う!そうじゃなくって……ッ」

 

「はは~ん……。嫌々言いながらも本当は嬉しかったんでしょ?むっつりですな~~」

 

「~~~!」

 

 

いつもの彼女のからかいのペースに乗せられてしまった(まなぶ)は失言したと顔を赤くする。

いつもからかわれているのもあって少し苦手な部分はあるが、美人の部類なので話しかけられると自然と頬が緩んでしまう。

 

――自分も男か、と抑えようのない高揚感に(まなぶ)が少し恥じていると、一花(いちか)は制服の上着ポケットから白い布のようなものを取り出すと、それを(まなぶ)に差し出す。

その白い物体はマスクだった。鼻に当たる箇所に針金が入っており、マスク本体と同じ白色のゴムで作られた耳掛けが着いている、ドラックストアなどで手軽に買える代物だった。

 

 

「ねぇ?マスクを着けて喋ってみてよ。『僕はスパイダーマンだ』って」

 

「……?いきなり何で?」

 

「ほら、細かいこといいから……。お姉さんのお願い♪」

 

 

小悪魔的な笑みでウィンクする一花(いちか)(まなぶ)は「お姉さんといっても同学年だろ」と思いながらも、渋々マスクを口元に装着した。

口元を覆ったことで少し息苦しさを感じるが、顔全体を覆うスパイダーマンのマスクに比べればマシのほうだろう。

マスクは新品なのか薬品のような匂いがツンと鼻腔を刺激する。あまり好きではない匂いに(まなぶ)は眉をしかめながら鼻元の針金で鼻の形にフィットするように調整すると、口を開く。

 

 

「あー……僕はスパイダーマンだーー……」

 

 

納得がいかないまま言われた通りのセリフを少々やる気のない声音で発する(まなぶ)

いきなりマスクを手渡され、喋ってくれと言われても意図が読み取れない。それに彼女の新しい”からかい”なのかもしれないので、乗り気にはなれない。

これでいいだろ、と言わんばかりの視線を送ると、一花(いちか)は了承の意味を込めて頷く。

 

(まなぶ)はマスクを外すと、一花(いちか)へ返す。密閉されていた口元が外にさらされ、スーッとした空気の感触が心地よい。

その開放感にしばし喜んでいると、(まなぶ)の視線に一花(いちか)が顎に手を当てて何やら考え事をしているのが見えた。

 

 

「う~ん……やっぱりなーんか違うなー………」

 

「違うって何が?」

 

「いや、前にスパイダーマンに会ったんだけど、マナブ君の声に似てるって思っててねー……もしかしたら、スパイダーマンの正体はマナブ君説じゃないかってねぇ~」

 

「ッ!?」

 

 

彼女の予想に(まなぶ)はギクッと心臓が飛び跳ねた。

一花(いちか)とはスパイダーマンとしてはあまり会ったことがなく、記憶でも2回くらいしか思い当たらない。

マスクで声が籠っているからバレないだろうとタカを括っていたが、こうも裏目に出てしまうとは……。

ここで正体を明かすわけにはいかない(まなぶ)は飛び出す動揺を抑えると、平静を装う。

 

 

「ぼ、僕が……?ははっ、顔が似てる人が世界で3人いるって話があるから、声が似てる人もたくさんいる。それに、僕は彼のように空を飛び回れないよ……あははっ」

 

「……う~ん。そうだね~~」

 

 

苦笑しながら苦し紛れの言い訳をする(まなぶ)一花(いちか)の感の鋭さに額から変な汗が滝のように流れているのが肌で実感できた。

普段あまり考え込むような性格ではない一花(いちか)だが、長女とだけあって、周りの細かい変化に気付く感性を持っている。

(まなぶ)とスパイダーマンの声が同じなのではという疑問も、五つ子の長女という環境に置かれた故に感づいたのだろう。

提示された誤魔化しの理由に一花(いちか)は少し残念そうに声を鳴らす。

 

 

「寄って集まって何してんだ?デートの約束か?」

 

「あ、涼介」

 

 

そんな話をしていると、一花(いちか)の後ろから涼介がやってきた。

涼介も一花(いちか)と同じクラスであり、理科室からの帰りから2人が話している内容が気になったようだ。

 

 

「緑川君。実はさ――」

 

 

一花(いちか)は涼介に(まなぶ)がスパイダーマンと声が似ているのでスパイダーマンの正体ではないかという推論を話した。

こうして特に話を濁したりせず、気兼ねなく話せるのも一花(いちか)が社交性があるという理由もあるが、花火大会以降、涼介とは仲が良くなったからだ。同じクラスメイトで趣味(主に(まなぶ)へのからかい)が同じだった2人はすぐ意気投合し、雑談を交わす程度の仲になった。

一花(いちか)の話を全て聞いた涼介は――

 

 

「アッハッハッハ!」

 

 

腹を抱えて笑った。

それもそうだろう。自分の親友がお尋ね者の超人・スパイダーマンだという身も蓋もない根拠に。

よっぽどツボにはまったらしく、馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに膝をパンパンと叩く始末だ。

 

ひとしきり笑った涼介は流石に笑い過ぎたと思い、笑いを抑え、乱れた息を整えると、一花(いちか)を見据える。

 

 

「ああ、すまん。いや、(まなぶ)がスパイダーマンだってのがおかしくってさ……。まあ、世界には何千何百もの人がいるから、似てる声もあるだろうよ。こいつがスパイダーマンじゃないってのは親友の俺が保証する」

 

「……そっかー………そうだよねー!」

 

 

涼介の自信満々の発言に一花(いちか)は笑顔で答える。口ぶりから、スパイダーマン=(まなぶ)説であることは今のところはきっぱりと諦めたようだ。

とりあえずは難を逃れた(まなぶ)はホッと胸を撫で下ろした。

 

予想外のトラブルに見舞われたもののひと通り解決した様子なので、(まなぶ)が立ち去ろうとしたときだった。

チカチカと天井の蛍光灯がチカチカと点滅し始めた。しかも、(まなぶ)の近くだけでなく、この学校全体の灯りそのものが異常な点滅を繰り返しているようだった。

 

 

「え、え?」

 

「停電か?」

 

 

不自然な点滅に周りの生徒や教師は不安を隠せずにいた。一花(いちか)と涼介も同じ反応を見せており、周囲をキョロキョロと見回していた。

 

皆が戸惑いを見せる中、(まなぶ)はただ1人、冷静でこの状況を見ていた。

これはただの停電ではなく、危険な存在によるものだということは何となく理解していた。スパイダーセンスは反応してはいないが、確実に。

それと同時に(まなぶ)はこれが誰の仕業であるかもわかった。

 

 

「(スパイダーマンになって、校舎を見て回ろう……)」

 

 

周りが困惑する中、人の目を盗んだ(まなぶ)はこっそりと男子トイレの方へ駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、理事長室では武田理事長と校長が密な会話をしていた。

内容はエレクトロについての記者会見のことで、くたびれた武田理事長は椅子にどっぷり座りながら、机越しに立つ校長と会話を弾ませていた。

 

 

「理事長。すみません……うちの生徒がしでかしたまでに………」

 

「いやいや、構わないよ。これで我が校の評判は致命傷だけは免れた。私たちはただ、悲しい出来事だったと嘆く『被害者』の立場でいるのが最善の道なのだよ」

 

「ははぁ、恐れ入りました!起死回生の名案、見事でした!」

 

「うむ」

 

 

校長の過大なまでの持ち上げに武田理事長は悪い気分はしなかった。

武田理事長と校長は旭高校の評判が落ちることを恐れ、エレクトロ――(まさる)を切り捨てる道を選んだのだ。

世間からの大バッシングを受ければ、来年の受験生や進学にも響く……それだけは避けたいので、悲しい被害者であることを装った会見をした。

そこには罪悪感などなく、利益のためなら多少の犠牲は仕方がない――そういった考えである。

 

 

ドガァァンッ!

 

「「!?」」

 

 

武田理事長と校長がほくそ笑んでいると、突如理事長室の壁が吹っ飛んだ。

飛んでくる瓦礫と爆音に身を固めていると、ぽっかりと開いた壁穴からエレクトロが入ってきた。

彼を見るなり身の危険を感じた武田理事長と校長は青ざめる。

怯える彼らのことなどお構いなしにエレクトロは言葉をかける。

 

 

「お久しぶりですね、理事長先生に校長先生。まあ、俺のことなんてろくに覚えていないでしょうけど……」

 

「な、何の要件かね……?」

 

「簡単なことですよ、理事長。記者会見で言ったことを取り消して欲しい。俺が『手に負えないほどの問題児』であることをね。虚偽の報告をしたことを全ての人たちに謝るんですよ」

 

「か、簡単に言うがもうすでにやっ――」

 

 

幾分か余裕を取り戻したのか武田理事長は強気な姿勢で異を唱えるが、彼の頬を一筋の光が掠める。エレクトロが指先から放った電撃だ。

頬は僅かな痛みと共に縦一直線の切り傷が出来ると、赤い血が滲む。顔をしかめるエレクトロは「次は眉間に当ててやる」と指先を眉間の位置に合わせて脅す。

恐怖に支配された武田理事長は目が点になると、先程の威勢などかなぐり捨てて土下座をする。

 

 

「す、すまない!悪かったと思っている!私はこの学校を守る義務があって、君を悪人扱いするしかなかったんだ!!」

 

「学校を守る義務……?はっ、そうやって綺麗ごとを並べているが、お前もおふくろや親父のように世間体ばかりを気にする劣悪な人種だってことか!そんな言い訳で許されると思ったら大間違いだ!!」

 

 

そう吐き捨てたエレクトロは校長を電撃で壁に叩きつけると、ヅカヅカとした怒りのこもった足取りで武田理事長に近寄る。

そして、彼の首を片手でギリギリと締めあげる。

 

 

「がッ!?あぁぁぁ………ッ!」

 

「どうだ?苦しいか?これが俺の味わった痛み、苦しみ、悲しみだ……ッ!一思いには殺らん………じわじわとなぶり殺してやるッ!」

 

「が―――!?」

 

 

首の圧迫感に目を白黒させる武田理事長。苦しげに口をパクパクさせ、解いてもらおうと両手で必死にエレクトロの腕を叩くが、エレクトロは全く拘束を解く気はなく、むしろ手に込める力を強めた。

全く息が出来ない武田理事長は顔に血が溜まっていき、目も白目になりかけていた。そのとき――

 

 

ガンッ!

 

「ぬッ!?」

 

 

妨害するようにエレクトロの後頭部に瓦礫が投げつけられた。

気をとられたエレクトロは武田理事長を乱雑に床へ投げ捨てると、自分を邪魔した奴を見てやろうと忌々しげに振り向く。

振り向いた先にいたのは、スパイダーマンだった。彼の姿を目にした瞬間、眉をしかめたエレクトロは顔を星型の電気マスクで覆う。

 

 

「……スパイダーマン。また邪魔しに来たのか?」

 

「マックス、もう止めるんだ。これ以上、みんなを傷つけてどうなる?君は君自身を見失っている」

 

「マックスと呼ぶな……。この力さえあれば、何だって出来る!法や社会に縛られない、文字通り”自由”に生きられるんだ!あんな惨めな生活に戻る気などないッ!」

 

「お願いだマックス。出来れば、君と戦いたくない………警察に投降してくれ」

 

「うるさいッ!!!」

 

 

説得を試みるスパイダーマンだが、逆上したエレクトロの掌から電撃を放たれる。

迫りくる電撃を跳躍して避けたスパイダーマンは理事長の机の上に乗ると、エレクトロを見据える。

力に酔いしれ、暴走を続けているエレクトロには説得など全く意味をなさなかった。彼はスパイダーマン――(まなぶ)がよく知る最上(もがみ) (まさる)の面影は影も形もなかった。

 

――戦うしかない。友達と戦いたくはなかったが、これ以上犠牲者を出すわけにはいかないので、胸にしかと覚悟を決める。

 

 

「……ヒーローだとは思ってたが、所詮お前も同じか……。俺の自由を奪う奴は、全て消し去ってやるッ!!!」

 

 

忌々しげに叫んだエレクトロは電撃を地面に叩きつけると、強力な磁場の嵐を発生させる。

咄嗟にスパイダーマンは武田理事長と校長をウェブで捕らえると、そのまま壁の穴から外へと飛び出す。

吹き荒れる磁場は校舎全体に響き渡り、校舎中の窓ガラスを全て破壊した。

砕け散ったガラスの雨が校舎にいる生徒たちの悲鳴と共に外へと降り注ぐ。

 

スパイダーマンは武田理事長と校長を逃がすと、エレクトロに向かって走っていく。

応戦するエレクトロの電撃を避けながら、接近を試みる。

だが――

 

 

「ははッ!どうしたスパイディ?ダンスの練習か?よりパワーアップした俺の動きについていくのに精一杯のようだな!」

 

「(――速いッ!前よりも格段に!これじゃ近付けない……!)」

 

 

次々と放たれる電撃の雨に中々前進出来ていなかった。

エレクトロの放つ電撃は以前よりも威力も速さも増しており、避けるのに精一杯で近付こうにも近付けなかった。

黄色の膨大な電撃はアスファルトの地面を抉っていく。

 

 

ピシュッ!

 

 

横転して避けたスパイダーマンは即座に自分よりも遥かに高い校舎の壁にウェブを放ってエレクトロの後ろに回る。

校舎の壁に引っ付いたスパイダーマンは壁を蹴って、飛びつこうとするが――

 

 

フッ

 

「のあッ!?」

 

 

当たる直前でエレクトロは一瞬の輝きを放つと、瞬間移動の如く姿を眩ました。

標的を失い、虚空を掠めたスパイダーマンはその勢いのまま地面に衝突。ズザザ……と地面に体を擦りながらスライディングしていく。

すぐさま起き上がって向き直すスパイダーマンを上空に浮かぶエレクトロは不敵な笑みを浮かべながら見下ろす。

 

 

「悪い悪い、俺が速すぎたようだな……。なら、こっちから近付いてあげよう」

 

「ッ!?」

 

 

そう告げた瞬間、またもやエレクトロの姿が消えた。

スパイダーマンがどこに消えたのかと辺り一面を見渡していた矢先――

 

 

「ごあッ!?」

 

 

腹部に鈍い痛みが伝わってくる。

驚きながらスパイダーマンは痛みに歪む目でそちらへ視線を送ると、エレクトロの拳が深々と打ち込められていた。

膝から崩れ落ちそうなスパイダーマンの腕をエレクトロは休むのは許さないとばかりに掴む。

 

 

「まだまだ眠るのは早いぞぉ?パーティーはこれからだ!」

 

 

背筋を凍るほどの笑みでそう言ったエレクトロは掴んだ腕を思いっきり振り上げ、スパイダーマンを真上へ投げ飛ばす。

宙で無防備となったスパイダーマンに素早く追いつくと、拳や蹴りの応酬で攻め立てる。

スパイダーマンも何とか防ごうとするも素早い動きに対応できず、一方的に攻められていった。

 

 

「……アァアアァァァーーーーーッ!!!」

 

「うぁあぁぁーーーーッ!?」

 

 

スパイダーマンの顎を蹴り上げたエレクトロは両掌でこねるように電気エネルギーを練り上げると、駄目押しとばかりに膨大な電撃を放った。

胸元に直撃したスパイダーマンは絶叫を上げる。電撃はスパイダーマンを大きく吹き飛ばし、校舎の壁を突き破って、理科室の壁へと叩きつけた。

 

 

「きゃあぁぁーーーーッ!!」

 

「ぅう……ぐぅう………ッ」

 

 

理科室にいた生徒たちから悲鳴と驚愕の声が上がる中、スパイダーマンは痛む体に鞭打って立ち上がる。

胸元に手を当てると、スーツの胸元が黒い煙と共に焼け落ち、火傷した素肌が露出していた。特徴の蜘蛛のシンボルも綺麗さっぱり無くなっていた。

頭を強く打ち付けて目まいがするものの、まだ戦えはする。

 

だが、電撃をもろに浴びたせいで体が痺れており、手足がピクピクと震えていて言うことを聞かない。

スパイダーマンの身体は頑丈で、高圧電流を浴びても耐えられるが、痺れはする。耐久力はあるが、電気そのものが効かないというわけではないのだ。

スパイダーマンはこんなことになるのだったらスーツを絶縁素材にしておくべきだった、とマスクの下で後悔した。

 

そんな一筋の後悔を抱いていると、宙に浮かぶエレクトロが突き破った壁の穴から理科室へと降り立った。

荒い息をしてフラフラとしながらも身構えるスパイダーマンをエレクトロは鼻で笑う。

 

 

「もう限界か?」

 

「……まだだッ!」

 

 

投げられた挑発にスパイダーマンは強い口調で言い返すと、両腕を交差させてウェブをエレクトロの両端にある黒机に引っ付ける。

そのまま両腕を力いっぱい真横に広げると、引っ張られた黒机は勢いよくエレクトロを挟むように衝突する。

 

 

「かッ!?」

 

 

油断して不意を突かれたエレクトロは怯む。

その隙にスパイダーマンは近くに落ちていたゴム製グローブ1組をはめた。

ゴムは絶縁素材であり、電気を通さない……つまり、電気人間のエレクトロに触れられるということだ。

 

これ幸運と思いながら走って勢いをつけると、そのままエレクトロに掴みかかる。

掴み合った2人はゴロゴロと床を転がっていき、理科室から廊下へと飛び出ていく。

スパイダーマンは上に乗っかるエレクトロの腹部を蹴り上げる。エレクトロは苦悶の表情を浮かべながら横へ倒れる。

 

スパイダーマンはエレクトロを片手で掴むと、そのまま壁の穴から外へ飛び出す。

重力に従って落ちていく途中で校賞が掲げてある高さ20mほどのポールにウェブを引っ付ける。

ポールの周りをグルリと一周して遠心力をつけると、エレクトロを投げ飛ばす。

 

 

「ごあッ!?」

 

ガッシャーーンッ!!

 

 

真っ直ぐ投げ飛ばされたエレクトロは校舎の壁に顔を打ち付けると、駐車場へと落ちていく。

真下にあった職員の誰かの自動車へ墜落。ルーフのへこむ音とガラスの破砕音の後、クラクション音が鳴り響く。

エレクトロが倒れている近くに遅れてスパイダーマンも駐車場へ着地する。スパイダーマンはゆっくりとした足取りで恐る恐る近付く。

 

 

「マックス………もう止めよう。これ以上戦っても無意味だ……」

 

「――ガアッ!!」

 

 

スパイダーマンは再び説得に応じるが、エレクトロは起き上がり様に「そんなの知るか」と口から電撃を放つ。

迫りくる電撃をバク宙して避けたスパイダーマン。

だが、攻撃を受けていないのにも関わらず、マスクの下は悲痛な表情だった。

暴走する友達に説得を試みるも攻撃されるばかり……。エレクトロが正気に戻る確率が絶望的になったことにスパイダーマンは悲しんだ。

 

 

「ハァアァァァァ………!!!」

 

バチバチバチッ!

 

 

自動車のルーフから降りたエレクトロは力を込めると、体内の電気エネルギーを全開する。

曇り空を照らすほどの輝きを放つと、周囲の自動車に向けて電撃を迸らせる。

すると、駐車場に停まっていた数十台もの自動車が、けたたましいクラクション音と共に宙に浮かび上がった。

 

 

「嘘だろ……?」

 

「ヒィヤァァッ!!」

 

 

目の前の光景にスパイダーマンが呆気にとられる間もなく、エレクトロが両腕を振り下ろすと、自動車の大群が両側から挟み込むように襲いかかる。

血の気が引いたスパイダーマンはウェブを自動車とそのまた別の自動車に引っ付けると、押し潰されないように体を捻りながらその間を潜る。

 

 

「ヌアァッ!!」

 

「ぎッ!?」

 

 

自動車のゲートを潜ったスパイダーマンはきりもみ回転を加えた両足蹴りをエレクトロの胸元に炸裂。

エレクトロは息が止まるような声を上げると、後ろにある駐車場の柵へ吹っ飛ぶ。

着地したスパイダーマンの背後からはガシャンガシャン、と自動車同士が衝突する音が聞こえる。

 

スパイダーマンが身構えていると、エレクトロは痛みに顔を歪めながらも立ち上がる。

後頭部を打ち付けたのか片手で後頭部を擦っている。

エレクトロは己を奮い立たせるためなのか鼻で笑うと、不敵な笑みをスパイダーマンに向ける。

 

 

「流石はスパイダーマン……と、言いたいところだが、俺のパワーはまだまだこんなもんじゃないぞ?」

 

「よそう。お互い傷付けあっても何もならない……」

 

「しつこいぞ!この俺が決めたことだッ!どいつもこいつもアレは駄目、コレは駄目と言いやがって……!『男の子なら泣いちゃ駄目』やら、『勉強しろ』やら『早く寝ろ』やら……もうたくさんだッ!!国が決めたやら親が決めたからなんて……もう信じないッ!誰もいない……”俺だけの世界”を造り上げてやる!!!」

 

 

宙に浮いたエレクトロは怒りのまま叫ぶと、電撃を迸らせる。その輝きは怒りもあって、先程よりも眩しい。

スパイダーマンとしてはこれ以上戦いたくないのだが、彼を睨めつけるエレクトロの眼差しにはまだまだ戦える気力が残っていた。スパイダーマンへの憎しみがエレクトロの身体を突き動かしているのだ。

 

――これ以上長引くと、マズイ。力を漲らせていくエレクトロを見たスパイダーマンはそう危機を察した。

発電所の電力を手に入れたエレクトロの力は底知れず、減るどころか増していくばかりだ。改心することばかりを考えて戦っていれば、周りどころか自分が殺されてしまう。

 

何としても短期決着をつけねば――!スパイダーマンは何か対抗手段はないかと辺りを見渡す。

近くにプールでもあればいいが、周囲には焼け焦げた匂いと抉れたアスファルトの破片。ぐちゃぐちゃに押し潰された自動車の残骸しかなかった。

一応、旭高校にプールはあるが、今いる駐車場からプールまでには距離がある。行くぶんには問題ないが、連れていくには時間がかかることに加え、自分の弱点を知っているであろうエレクトロが正直についていくとは思えない。

 

どうしようかと焦るスパイダーマンは必死に頭を張り巡らせて考える。電気の水以外の弱点は、と……。

そんなことを考えながら、先程からずっとはめていたゴム製手袋をふと見たときだった。

一筋の光明がスパイダーマンの脳裏に走る。

 

 

「ッ!」

 

 

何かを閃いたスパイダーマンは後ろにある自動車の残骸の山を見る。

最早スクラップとなった自動車には粉々になったガラス片やしぼんだエアバック、そして自動車から外れたタイヤが虚しそうに横たわっていた。

 

 

「ッ、これだ!」

 

 

まさに天啓。対抗策が思いついたスパイダーマンは迫りくる電撃を跳躍して避けると、ウェブをタイヤに引っ付け、宙に浮かぶエレクトロへ投げつける。

 

 

「ふんッ!!」

 

 

くだらないとばかりに鼻を鳴らしたエレクトロは飛んできたタイヤに電撃を浴びせる。

タイヤは高圧電流の熱でドロドロに溶けると、地上へ落ちていく。

間髪入れず、スパイダーマンはタイヤを投げ続ける。その度に電撃を浴びてドロドロに溶けたタイヤが次々と落ちる。

意図が読めない攻撃にエレクトロは次第に苛立つを募らせていく。

 

 

「お前!何をしたいんだ―――」

 

ピシュッ!ピシュッ!

 

「――ヌアァッ!!」

 

「うぁあッ!?」

 

 

エレクトロが遂にしびれを切らして吠えた瞬間だった。

集中力が切れたエレクトロの足元にスパイダーマンの両手首から発射されたウェブが引っ付く。

スパイダーマンは両手にゴム製手首をはめているので、交差点のときのように感電することはない……。

スパイダーマンは思いっきり腕を振り下ろし、エレクトロをアスファルトの地面へ叩きつける。

 

常人なら参るであろうが、超人のエレクトロにとっては大したダメージではない。

エレクトロはすぐさま起き上がろうとするが……

 

 

「……ぐッ!?う、動けないィィ!!」

 

 

ヌチョッとした感触の物体が背面に纏わりつき、身動きが取れなかった。

その物体の正体はエレクトロが先程まで溶かしていたタイヤの海だ。高圧電流の熱で溶かされたタイヤはとりもちのように柔らかく、そしてすぐに冷え固まり、エレクトロの動きを封じていた。

タイヤは絶縁素材なので電気を通さない……これこそがスパイダーマンの狙いだった。

 

 

「くッ!うぅう……!」

 

バチ…バチ……!

 

 

絶縁素材の海に囚われたエレクトロは脱出しようと電撃を迸らせようとするが、中々思うように電気が出ない。

その隙にスパイダーマンは大量のタイヤを雨のようにエレクトロに浴びせた。

エレクトロの迸る電撃の熱がタイヤを溶かし、一塊の絶縁素材の山へとなっていった。

 

スパイダーマンは絶縁素材の山に埋まっているエレクトロに駆け寄る。

幸いにも顔だけは埋もれておらず、窒息は免れたが……

 

 

「うぅあぁぁーーーッ!!くそッ!溶けろ!溶けろよォォーーーーーーッ!!!」

 

「……」

 

 

未だ諦めきれないエレクトロは叫んでいた。電撃を迸らせて溶かそうとするが、電気を通さない素材なので無駄だった。

変わり果てた友人のあがく姿にスパイダーマンは何も言えず、ただ罪悪感と悲しみで胸が締め付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、駆け付けた警察と消防隊によってエレクトロは逮捕された。

エレクトロを護送しようとも絶縁素材の山でガッチリ固められているので、そのまま運ぶ手筈となった。

 

 

「スパイダーマンッ!覚えていろ!俺の自由を奪ったことを後悔させてやる!!必ず戻ってきてやるーーッ!!!」

 

 

護送車に運ばれる最中、エレクトロは校内全体に響き渡る声で呪詛を唱える。

周囲の人間が怯え、呆れる中、その様子を屋上から(まなぶ)はマスクを脱いで見ていた。

 

相手は友人であり、出来れば警察に引き渡したくはなかった。

しかし、ヒーローとしての責任がそれを許せなかった。エレクトロは既に何十人もの人間を()()()殺害しており、このまま放置しておくと罪のない人まで巻き込まれてしまう。

それだけは避けたかったので、彼は天海(あまかい) (まなぶ)としての『友情』よりも、スパイダーマンとしての『責任』を優先した。

 

その結果、”マックス”という1人の友人を失うことになった。

友人だった人間に恨みを持たれた(まなぶ)の心は決して清々しいものではなく、暗く深い闇に覆われていた。

 

 

「許してくれ、マックス……」

 

 

たった一言。誰にも聞こえない謝罪をすると、(まなぶ)は涙を堪える顔をマスクで隠し、人知れずどこかへと飛んでいった……。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
神保(じんぼ)交差点
 「映画 五等分の花嫁」(2022)にてメガホンを取った、神保(じんぼ) 昌登(まさと)監督から。

②交差させた両腕からウェブを放ち、机をぶつける
 サム・ライミ版「スパイダーマン2」(2004)で、スパイダーマンがドクター・オクトパスと銀行で戦った際、路上へ吹き飛ばした攻撃と同じ。

③自動車を浮かせるエレクトロ
 PS4にて発売されたゲーム「Marvel's Spider-Man」(2018)にて、エレクトロが電撃でコンテナを操り、スパイダーマンを攻撃するシーンのオマージュ。

④ドロドロに溶けたタイヤに囚われるエレクトロ
 アニメ「スペクタキュラー・スパイダーマン」(2008)の第16話で、スパイダーマンは似たような方法でエレクトロを倒した。

スパイダーマンを増やす?

  • YES!(ヒロインなし)
  • YES!(オリジナルヒロイン)
  • YES!(五つ子の中からヒロイン)
  • NO
  • It's Morbin time
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