SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
本作に前田なんていません。理由としては、いてもいなくてもストーリーに影響を与えないからです。全国の前田ファンの方々、申し訳ございません。
日が落ち始める夕暮れ頃。
林間学校初日を迎える旭高校の生徒一同は宿舎に隣接しているキャンプ場にて、夕食のカレー作りに取り掛かっていた。
白飯を炊く甘い匂いと鼻腔をくすぐる香辛料の香りが周囲に漂う。
「じゃあ、私たちでカレー作るから、男子は飯盒炊さんよろしくね」
「ぅーい……」
同じ班の男子3人の気の抜けた返事を聞いた
手慣れた包丁捌きで次々と、具材の野菜や鶏肉を一口サイズに切り分けていく。
「わっ!
「家事やってるだけのことはあるね~」
「これくらい楽勝よ」
周囲の女子2人にどうってことないといった口ぶりで短く答える。
普段、五つ子たちの食事を全て担当している
「(遂に始まったわね……林間学校)」
調理する傍ら、これからの予定に心躍らせる
午前中はほぼ施設を利用する上の諸注意や歓迎式やら退屈なものばかりだった。なので、林間学校は実質、このカレー作りから始まっていると言え、後に控える肝試しやスキーなど楽しい予定ばかりだ。
そして、何といっても林間学校の大目玉はキャンプファイヤーでのダンスだ。
キャンプファイヤーを背景にダンスを踊った男女は生涯添い遂げる縁で結ばれるという伝説があるくらいの大イベントなのである。
年頃の女の子である
「(――もしかしたら、”運命の人”に出会えるかも………!)」
運命の赤い糸で結ばれた自分に似合う相手。
そんな淡い期待にときめきながら、
「これ、もう使った?片付けておくね」
「は、はい……!中野さん、美人で気が利いて、完璧超人かよ……」
「俺の部屋も片付けてほしいぜ」
さりげない気配りで同じ班の男子から注目をかっさらう
パキッ!
「いや、もう薪割らなくていいから!」
「あはは!これ、楽しいですね!」
薪割りが楽しすぎて、つい余分な分まで割ってしまった
「待ってください。あと3秒で15分です……」
「細かすぎない……?」
手元のスマートフォンで煮込む時間を正確に測ろうとして、周囲から怪訝そうな目を向けられる
「
「お味噌……隠し味……」
「自分のだけにして!」
カレールーに絶対合わないであろう味付けをしようとして、周りから必死に止められる
この先、中々体験できることではないのは彼女たちはわかっているので、この時間を有意義に満喫している。
「
「ああ、いいと思うよ。レシピ通りにやったし」
一方、
釜戸にくべた薪で火を起こし、アルミの飯盒に米を入れて炊く……至ってシンプルな調理方法だが、アウトドアを滅多にしない者にとっては未知の手法だ。班全体の食事なので、失敗しないよう十分な確認を取っているのだ。
こういったグループ作業は友達が少ない
話せる知り合いが同じ班にいるだけでこうも気持ちが軽くなる……風太郎がいてくれて良かったと
「何で……?
ふと、
昂輝は
いつもなら、ガハハと笑い飛ばす彼も相当踊りたかったのか落ち込みの度合いが酷く、いつも周りにいる取り巻きも心配していた。
内心、ざまぁみろとほくそ笑んでいた
「何でご飯焦がしてんのよ!?」
落ち込む昂輝に悼まれない目を向けている中、近くから非難の声が上がる。
声につられた
女子の1人が坊主頭の男子に指指すると、鋭い剣幕で問い詰める。
「どーせ、ほったらかしにして遊んでたんでしょ!」
「ッ!?ち、ちげーよ!少し焦げたけど食えるだろ!」
「こっちは最高のカレー作ったのに!」
「やったことねーんだから、誰だってこうなるんだよ!」
「なっ……!?」
男子勢の言い分に絶句する女子勢。
無茶苦茶な言い訳だが、彼らも悪気あって言ったわけではない。売り言葉に買い言葉……まくし立てる女子の勢いに頭にきて、出たものである。
「
話が平行線上にしか進まないと思った女子たちは
「じゃあ、私たちだけでやってみるから、カレーの様子見てて?」
「お、おう……」
男子に向き合った
しかし、その目は全く笑っておらず、怒りが滲み出ている。
その迫力に気圧された男子たちは大人しく引き下がった。
「あれは相当、頭にきてんな」
「だね」
その様子を傍観しながら、風太郎が漏らした言葉に頷く
口調こそ柔らかいが、雰囲気から誰がどう見ても怒っているのかは一目瞭然だった。
飯盒の蓋の隙間から甘い香りと共に泡がふつふつと湧く様子を見ながら、風太郎は別の話題を隣の
「今夜の肝試し、楽しみだな」
「ああ。準備もバッチリだよ」
「よし。クラスの連中に面倒な役を押し付けたことを後悔させてやる……」
くっくっくっ……と企み顔で笑う風太郎に
なので、これを好機とし、とびっきり怖がらせてやろうと企んでいる。風太郎が乗り気だったのは、それが理由の1つである。
「上杉さん、
「「?」」
そんな話をしていると、
不可解に思った風太郎は眉を潜めて尋ねる。
「……?
「はい!でも、お2人だけじゃ大変だと思ったので……私も全力でサポートします!」
「凄くありがたいよ」
直後、薄気味悪い笑みを浮かべた風太郎は
「よし、本気でビビらせてやろうぜ」
「このように!!」
「――ッ!?うわぁぁぁーーーッ!!」
茂みから飛び出した風太郎を目の当たりにして、悲鳴をあげて逃げ出す男女。
その原因は頬まで引きつった笑みを浮かべるピエロの仮面と衣装に身を包んだ風太郎の脅かしにあった。
時刻はすっかり夜となり、肝試しの時間となった。
ルールとしては、2人のペアで森の中に備え付けてある証拠の紙を取ってくるというもの。
風太郎たちはその帰り際で脅かすという役割を担っている。
「くくく……」
「ははっ、楽しそうだね」
「絶好調ですね!ジャケットどうぞ!」
仮面の下で悪党のような笑みを漏らす風太郎に対し、思わず笑ってしまう
自分に怯える姿を見て、日頃の鬱憤を晴らせて満足といったところだろう。
まだ終わってないのでこのままでいたいが、夜は冷えるので、風太郎は
「私、嬉しいです!いつも死んだ眼をした上杉さんの眼に生気を感じます!」
「そうか。蘇れて、何よりだよ」
嬉しそうに目をキラキラと輝かせる
ぶっきらぼうな口調だが、楽しそうな雰囲気は隠しきれていなかった。
風太郎の楽しそうな顔を見た
「もしかしたら、来てくれないかと思っちゃったから……」
いつも笑顔を振りまく彼女の曇った表情から不安だったのは本当だということが、2人にはわかった。
落書きから顔を上げた
「後悔のない林間学校にしましょうねっ!」
ししし!と屈託のない笑顔で笑う。その笑顔は親に褒められた幼子を彷彿させる。
森は闇夜で暗くなってはいるが、風太郎と
風太郎は照れ隠すように頭をポリポリとかく。
「……まあ、そうだな。めんどくさいことには変わりないが」
「にしては、嬉しそうじゃない?」
「
風太郎は不敵に笑いながら、
高校の学校行事にしては気合が入っており、ホラー映画の撮影と言われても違和感がないくらいだ。
それに対し、
「いや、僕、ホラー映画が大好きでさ……暇なときはいつも観てるんだ。あのスリル漂わせるカメラワークと恐怖演出が堪らなくて……!特に『死霊のはらわた』なんかはディスクが擦り切れるほど観たよ!」
「そ、そうなのか……」
「何か意外ですね~……」
自身のホラー映画への愛を熱く語る。友達が少ない
大人しい
「あ、次の人来ましたよ!」
そんなやりとりをしていると、こちらに向かってくる懐中電灯の光が。
3人は声を殺し、近づいてくるまでジッと身を潜める。
「次、
「ッ、はい!」
小声の
彼女の仮装はミイラだ。とはいっても黒のアンダーウェアに包帯をグルグル巻いた簡素なもので、
だが、そのクオリティがかえって彼女の可愛さを上げていることには、彼女自身気付いていない。
ジャリッ……ジャリッ……と砂利道を歩く音が懐中電灯の灯りと共に近付いてくる。
一歩、二歩、三歩……そして、自分の前を通り過ぎようとした瞬間――
「食べちゃうぞーー!!」
これでビックリするだろう――そう思っていたが……
「あれ?
視線の先に立っていたのは、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする
二人とも相手が妹なので脅かしは特に驚いておらず、発せられた大声に対して驚いていた。
「
対する
その会話が気になり、
「なんだ……ネタがバレてる二人か。脅かして損したぜ」
「あ、ごめ……わ、わぁ!びっくり予想外だー」
「お気遣いどうも」
「本当だよー」
「嘘つけ」
拍子抜けする風太郎を見かねて
そんなやりとりをする中、
「……本物?」
「……??」
と、懐疑心たっぷりの表情で尋ねる。
当然、そんなことを知るよしもない風太郎はただ首を傾げるだけだった。
「え?もしかして、マナブ君?」
「そうだよ。結構時間かかったけどね……」
「へ~凄いね!お姉さんわからなかったー!なるほど……」
「?」
別人しか見えないレベルのメイクにうんうんと妙に納得した笑みを浮かべる
実はいうと、
涼介に言われ、一度は違うとは思ったものの、改めて思い直すと、スパイダーマンの声が
おぞましいゾンビにしか見えないメイクの腕……すなわち、スパイダーマンとしての”なりきり度”を証明しているのではないかと推理したのである。
眉をひそめる
「お前ら、ちゃんとルート通りに行けよ?看板が出てるからわかると思うが、この先は崖で危ない。間違ったら、あの世行きだ」
「うん。気を付ける」
「わかってるってー……じゃっ!」
風太郎の注意喚起に
「驚いてくれなくて悔しいです……」
「しょうがないさ、知り合いだったんだし。次は僕がやるよ」
少ししょんぼりする
ホラー映画好きの知識を活かして、最高に脅かしてやろうと意気込みを見せた。
そして、数分後。次なるターゲットが歩いてくる。
「うううう……。やはり参加するんじゃありませんでした……」
「ちょっと離れなさい」
不安げな声を出す妹を
くっつくのは構わないのだが、あまりにも密着し過ぎて歩き辛かった。人が通る道が敷かれてはいるが、凹凸が激しい砂利道であることには変わりない。石や木の根にひっかかりでもして転んだら最悪だ。
「クラスメイトが言ってたのですが、この森は”出る”らしいのです……。森に入ったきり行方知らずになった人が何人もいるのだとか……」
「デマに決まってるじゃない。伝説もそうだけど、信憑性が無さすぎるわ」
森に関する噂に震える
行方不明事件が多発しているのなら、とっくにこの森は閉鎖されているだろうし、そもそも肝試しすらやらないだろう。明らかなデマだ。
この肝試しは自由参加なので宿舎で待っててもいいことになっている。ご覧の通り、心霊系の類が苦手な
なのに、何故参加することにしたのか不思議でならなかった。
――怖いなら参加しなきゃいいじゃない、と言いたいが、言ってもどうにかなるわけでもないので、
「こんなチープなおもちゃで誰が驚くのよ……」
肝試しもさぞ楽しいだろうと期待してたのだが、小道具のクオリティから肝試し全体の完成度を推測するには充分だった。
心底がっかりしながら、プルプルと震える小動物のようにくっつく妹と共に、順路を示す看板に従って進んでいく。
順調に進み、行ってきた証拠の紙を回収した。
未だ怯える
各々、正反対の気持ちを抱えながら、ルートも終盤に近付いてきた頃だった。
道の先に置いてある
それは黒のポリ袋だった。ホームセンターなどで売っているごく普通のポリ袋だ。
森の落ち葉などに回収するので、それ自体には違和感がないが、問題は形状にあった。
横たわっているポリ袋は大きく、やけに横長に伸びていた。スマートフォンの光から反射する黒のポリ袋は人のシルエットが浮き出ていた。
「う、うう、動くんじゃ……!」
「な、何言ってるの……!きっとただの置物よ……!動くと見せかけて動かないやつだわ!」
ギュッと抱き着いて怯える
とは言うものの、
「
「ここ一本道よ!?ゴールに行くにはここしかないから!」
幼子のように駄々をこねる
けん制するようにスマートフォンの光をポリ袋に浴びせながら、進んでいく。
秋の風になびく木々、草木から鳴く秋の虫の声、砂利を踏みしめる音……緊張しているからか、鮮明に聞こえた。
静寂に包まれた穏やかな森の景色もまるで先程とは違う、暗黒に包まれた恐怖の世界に見えた。
10m、5m、2m……固唾を呑んでゆっくりとポリ袋との差を埋めていく。
そして、あっという間に0m……すぐ近くになるまで近づいた。二人は何が来るか警戒しながら、隣を通る。
光の反射によってポリ袋が動いているような錯覚を覚えたが、ポリ袋は動かず、二人は難なく通り過ぎた。
何もなかったことに安堵した
「ふぅ……怖かったですぅ……」
「ほら、言ったでしょ?あんなの、ただの置物だって――」
ガサッ!
「「!?」」
調子を取り戻した
その物音を耳にした途端、二人の心は先程の不安と恐怖へと戻される。
固唾を呑んだ二人はゆっくりとスマートフォンの光を共に振り向くと、先程のポリ袋の中身が消え、ぺちゃんこになっていた。ポリ袋は内側から乱雑に破られている。まるで
得体の知れない恐怖に震える二人。中にいたものはどこに消えたのか……。
顔は青ざめ、鳥肌が立ち、身体中から変な汗が噴き出していた。
ガサガサッ!ガサガサッ!
「ひぃいい……!」
「何なのよぉぉ……!」
途端、周囲の茂みから何かが激しく動き回る音が聞こえる。
右の茂み、左の茂み……”それ”は交互に移動しているような音を響かせ、二人はより一層身を固まる。
文句を言う
しばらく続いていた茂みの音だが、途端にピタリと止まる。
”それ”は消え去ったのか、はたまた飽きたのか……静寂な夜の森の環境音だけが流れていた。
そのことに不信感を抱く
そして、振り返った瞬間――
「It's Morbin' time……」
おぞましいゾンビマスクで二人を見つめながら、地獄から這い出た死霊のような声を発する
普段の大人しさが嘘のように怖く、恐ろしい演技を見せていた。
「わあぁぁぁぁぁーーーーーー!!?もう嫌ですぅぅぅぅぅーーーーーーッ!!!」
「
その怪演のあまりものインパクトに遂に限界が来た
二人の怯え具合に呆然とする
「……や、やりすぎちゃったかな?」
「ですかね……。
「悪いことしちゃったな……」
同じく呆気にとられる
暗い場所が苦手だとは聞いてはいたが、ここまでとは……。ホラー大好きな自分とは真逆の趣向に
そんなやりとりをしていると、ハッと何かに気付いた風太郎が口を開く。
「不味くないか?あいつら、看板と反対の方へ行ったぞ!」
「「!?」」
風太郎の言葉に血相を変える
看板の案内とは反対……すなわち、崖がある危険な道へ行ってしまったということだ。
「僕が探してくる!何かあったら連絡するから!」
「お、おい!」
――僕の責任だ。
居ても立っても居られない
「
一方、
見知らぬ土地ながらも、勘とスマートフォンの光を頼りに舗装されていない道を歩いていく。
「こっちで合ってんのかしら?一旦、戻ろうかな……」
妹の姿が中々見当たらなく、現在位置もままならない。
そう思った
「えっ?嘘っ、もう!?昨日、充電するの忘れてたかも……」
驚いて何度も電源ボタンを押すが、バッテリー切れの表示が出るだけだった。
頼りのスマートフォンの光が無くなり、
「何なのよ……せっかくの林間学校なのに……。班の男子は言うこと聞かないし、スマホのバッテリーがゼロになるし、しまいにはこんなところで一人に……」
ザァァ……
ただ一人愚痴をこぼしていた
周囲は真っ暗な不気味な森が広がっており、生えている木々の奥に広がる暗闇はまるで地獄へと誘う怪物が大口を開けてこちらを待ち構えているように見えた。
灯りもなくたった一人……その不安が恐怖へと変わり、
ザッ!
「いやっ!?」
後ろから草木を踏む音が聞こえ、驚いた
「………最悪……」
毒づきながら、緊張で荒くなる呼吸を整える。
――何で自分が、何でこんな目に合わないといけないのか?ぶつけようのない不満が
「
そんな中、木陰から
やっと見つけられてひと安心している。
だが、今の
「きゃあぁぁぁーーーーーッ!!?」
当然、
「え!?待って!僕だ!」
「嫌ッ!来ないでッ!」
この状況はまさに美少女を追いかけるゾンビというホラー映画のような構図となっていた。
逃げ続けること数秒。暗闇の森を突き進む
希望――この先を進めば森を抜けられると思った
「――あっ」
道もない崖だった。
これこそ、風太郎が再三注意していた危険な崖だったのだ。
足から伝わる地面の感触が無くなり、ふわりと浮遊感に襲われたのち、
「くッ!」
自分がスパイダーマンであることを隠すため、能力は出来るだけ使いたくないが、命には代えられない。
右手の中指と薬指を折り曲げた独特な構えを取ると、手首から蜘蛛糸――ウェブが射出される。
真っ直ぐ放たれたウェブは
「痛ぅ~~…!え?」
草木が生える地面に仰向けに倒れた
「これって……スパイダーマン?」
「(軽率だったかもしれないけど良かった……)」
ウェブを目にした
その様子を
パキッ
足元に落ちていた枯れ枝を踏んでしまう。
枯れ枝の折れる乾いた音が周囲に響く。
「ッ!そこにいるの?」
「(しまった……!?)」
その音に勘づいた
このままだと、自分がスパイダーマンであることが発覚してしまう。それだけは避けなければならない……!
予想外のピンチに血の気がひいた
期待通りの展開にならなかった
「あれ?気のせい――」
「やあ、お嬢さん」
「――ッ!?」
驚いた
正体が自分であるという危険性を考えた
とぼけても彼女の性格上、根掘り葉掘り訊かないと満足しないので、いっそのことスパイダーマンとして姿を現すのが最善と踏んだのである。
その効果あってか、驚いていた
自分の判断は正しかったとスパイダーマンも安堵する。
「スパイダーマン……!もうっ!脅かさないでよ!」
「ははっ、ごめんごめん。脅かすつもりはなかったんだ」
「心臓が飛び出るかと思ったわ!」
ぷんすか怒る
いつものように苦言する
「(さて、どうするか……)」
地面に降りたスパイダーマンは悩む。
スパイダーマンとして登場はしたものの、その場しのぎのことしか頭になく、先のことは全く考えていなかった。
このまま適当なことを言って立ち去りたいが、ここは夜の森。
何があるのかわからない暗闇を女の子一人を置き去りにすることなんて出来ない。
打開策を考えるが、中々思いつかない。
「……ねぇ?」
「うん?」
思案する中、
スパイダーマンに見つめられた
「妹とはぐれちゃったの。一緒に探してくれないかな?」
彼女の方から言えば、適当な理由を言わずに済むし、
天からの助けと思ったスパイダーマンはその提案に乗っかることにした。
「オーケー。任せてよ」
「ありがとう」
「じゃあ、行こうか」
「待って!」
そう言ってスパイダーマンが森の中へ入ろうとしたとき、
スパイダーマンが首を傾げて振り向くと、
「……怖いから……手、握って……」
いつもの強気な態度はどこへやら……
普段の態度を知らなければ、どこにでもいる普通の女の子だった。
「……」
あまりもの豹変振りにスパイダーマンは言葉を失うも、彼女の手が震えていることに気付いた。
――仕方がない。
ここで立ち往生しても意味はないので、スパイダーマンは
強気な態度とは反して、女の子らしい小さな手に少し驚く。ほんの少し力を込めれば、折れてしまいそうだった。
「……ッ!」
手を繋いでくれたのが嬉しかったのか、
固くてごつごつとした感触に心の底から安心感が込みあがる。
それと同時に胸の鼓動が高鳴ったことを実感した。
手を繋いだスパイダーマンは行方知らずの
スパイダーマンの視力は優れており、灯りが無くとも周囲の光景はナイトレンズのように大体把握することが出来る。
とは言っても夜の森が危険なことは変わりないので、慎重に進んでいく。
「あなたってここに住んでるの?」
「いや、気晴らしに来たんだ。親愛なる隣人にも休暇が必要だからね」
「へ~……歳はいくつなの?」
「君と変わらないくらいだ」
「そうなんだ!何か親近感湧くな~……で、どこに住んでるの?」
「あー……それは言えない。T市に住んでるとしか……」
「あ、ごめんなさい……。ところで、何で顔を隠してるの?」
「僕って……とっても、シャイなんだ。誰かと話すのも緊張するから、こうやって顔を隠してるわけ」
「ふ~ん。意外とお茶目なのね」
「ははっ……」
捜索の道中、
表の顔である
――これが逆であればいいのに。スパイダーマンは切に思った。
捜索に全く集中できないスパイダーマンを尻目に
綺麗な北斗七星が点々と輝いている。
その美しさに想いを馳せていると、あっと声を上げて再び尋ねる。
「スパイダーマン?いつもみたいに、ほら……糸出して、ビューンと飛ばないの?」
「したいけど、蜘蛛糸を引っかけられそうな高さのものがないし、僕もこの森の地形がわからない。僕はいいけど、君が野鳥や虫に刺されでもしたら大変だからね」
「へ~そこまで考えてくれてるなんて……。頭がいい人って憧れちゃうなー」
「………そりゃどうも」
ぽっと頬を赤らめ照れる
裏の顔と言うべき、普段の
そんな
――これは好機だ。スパイダーマンは逆に
「あー……僕からも質問いい?」
「ッ、う、うん!いいよ!」
「相談を受けてね……どうして、上杉君や
至ってシンプルな、前々から疑問だったことを尋ねる。どうして自分たちを毛嫌いするのかを。
考えてはみたが、どうも思いつかなかった。
普段の自分では訊けないことも、安心しきっているスパイダーマンであるときでしか訊けないことがあるかもしれない。それにかけたのだ。
その質問に
――思い返すだけでも嫌なのか、とスパイダーマンが思っていると、
「……私たち、
「え?」
「驚いた?でも、本当。今のパパはママの再婚相手……私たちがまだうんと小さいときにね。まあ、ママは無理が祟って死んじゃったけど………」
遠い目をする
裕福な暮らしをしている彼女らに壮絶な過去があったとは……。
それに彼女ら五つ子の父親――中野 マルオは養父だったというわけだ。娘との距離感が離れすぎていることにも説明がつくわけだ。
スパイダーマンが納得していると、
「なのに、何?パパは何もわかってないわ!ママが近寄ってきた男のせいで人生、滅茶苦茶になったことは知ってるくせに!家庭教師か何か知らないけど、得体の知れない男を招き入れて……!パパもみんなもどうかしてるわ!」
忌々しく語る
そこまで信用していないのかとショックを受けた。
だが、理由ははっきりした。風太郎や
それと同時に
母親と同じ目に遭わせたくない……それが彼女の行動原理なのだ。
とはいえ、あまりもの情報の濃密さにスパイダーマンも頭が痛くなる。
こんな暗い話が飛び出るとは予想できなかった。
反応に困っていると、
「君、パパやママはいるの?」
「いないよ。僕が4歳の頃に科学実験中の事故で……」
「そうなんだ……何か、ごめん」
「いや、平気」
申し訳なさそうに顔を俯けて謝る
スパイダーマンこと
顔がマスクで隠れていて表情こそ伺えないものの、悲しそうにしているのは伝わった。
何とかしてあげたい――母性本能だろうか。哀愁を漂わせる彼を見て、
「(あれ、これって……)」
顔が赤くなって胸の奥が締め付けられるように高鳴る感覚……。
今まで体験したことがない不思議な感情を
――運命の人。目の前にいる覆面の紳士にときめいた
「……スパイダーマン。君は明日もいるのかな?」
「え?ああ……うん」
「良かった……。私たちの学校、明日キャンプファイヤーがあるんだ。その時にやるフォークダンスに伝説があって、フィナーレの瞬間に手を繋いでいたペアは結ばれるらしいの」
「そうなんだー」
いきなり別の話題を話し出した
同じ学校に通っているスパイダーマンは『結びの伝説』のことは既に知っており、
だが、知っている素振りを見せると疑われるので、知らないフリを貫き通す。
「伝説って……ほんと大袈裟で……子供じみてるわ。正直馬鹿馬鹿しいと思ってる。でも、私もまだ子供ってことかしら。だからね、スパイダーマン……」
「(え、この流れって……)」
妙な甘い雰囲気を出し始めた
そして、その予想通り――
「私と踊ってくれませんか?」
背景に浮かぶ月は彼女の美しさを醸し出していた。
しかし、スパイダーマンにははっきりとわかったことがある。
本心は
「そのマスクの下に隠れてる顔を見せてくれなくても構わないわ……待ってるから………」
「……ッ」
頬を赤らめながら付け加えるように言って、微笑む
この状況にスパイダーマンは困ったことになったと頭を悩ませる。
「わぁぁぁ~~」
「「ッ!」」
そんなとき、スパイダーマンが答えを渋っていると、近くの木々からゾンビのような声が聞こえてくる。
怖くなった
スパイダーマンは
すると、そこにいたのは――
「
2人が探していた人物……
迷子になった幼子のように泣きながらとぼとぼと歩いている。大方、帰ろうにも怖くて、周辺をウロウロしていたに違いない。
本物のゾンビでなくて良かったと安心した
「
「ふぇぇ……?」
「あんた紛らわしいのよ!」
「良かった……心細かったです~~」
姉の姿を見た
身内がいて安心したからか、先程まで流れていた涙も止まっていた。
妹と再会できて余裕が出来た
「もう帰るわよ」
「よく一人で平気でしたね」
「違うわ。私は………あれ?」
そう言って
キョロキョロと辺りを見渡す
「どうしました?」
「何でもない。さ、帰りましょ」
「ま、待ってください!」
夢中になってわからなかったが、いつの間にか分かれ道近くへと戻ってきていた。
灯りが無くても後は大丈夫だろう。
首を傾げる
置いていかないでと駆け寄る
傍から見ればただの蜘蛛糸の残骸だが、
「待ってるから……」
誰にも聞こえない声でそう呟くと、蜘蛛糸を大事そうにギュッと握りしめて、
「(どうしよう……)」
その一部始終を木の上から見ていたスパイダーマンを頭を抱える。
――断れば良かった。
置かれた状況に悩みながらも、スパイダーマンは闇夜に隠れて、宿舎の方へ戻っていった……。
◆イースター・エッグ◆
①ゾンビの仮装をする
MARVEL COMICから発刊されている「マーベル・ゾンビーズ」では、スパイダーマンは他のスーパーヒーロー共々、ゾンビ化している。
また、アニメ「ホワット・イフ…?《シーズン1》」(2021)では、スパイダーマンはゾンビハンターとして活躍している。
②死霊のはらわた
1981年に公開されたホラー映画で、スプラッタホラーの金字塔と呼ばれている。
カルト的人気を誇っており、数多くの続編やリブート作が製作されている。
ちなみに、監督は初期スパイダーマンシリーズ(2002~2007)に携わることになる、サム・ライミである。
③「It's Morbin' time……」
みんな大好き史上最高のダークヒーロー映画「モービウス」(2022)に関連する海外のネットミーム。由来はモービウス本編……ではなく、海外版のスーパー戦隊「パワーレンジャーシリーズ」から。モービウス本編ではこのような台詞は一度も言っていない。
パワーレンジャーが変身する際の掛け声『It's Morfin' time』をもじったダジャレ。”モービウス”と”モーフィン”をかけている。
モービウスのあまりもの完成度に感動したネットユーザーは『It's Morbin timeと言いながら、インフィニティ・ストーンで指パッチンするモービウス』などのコラ映像をネットの世界に放出し、大きな話題となった。
これを見たSONY側は「モービウス」が人気があると勘違いし、アメリカの1000の映画館で再上映され、平均7人の来場者数を記録したほど皆に愛された。
※アンケート 『スパイダーマンを増やす?』の結果
どうも、作者の「まゆはちブラック」です。アンケートにご協力頂いた方、貴重な一票を頂きありがとうございました。
アンケートの結果、『スパイダーマンは増やさない』という方針に決定しました。
やはり、スパイダーマンは1人で悩み、解決しなければならないという王道のスタンスを望む声が多いですね~。
今後も、
シンビオートを登場させる?
-
さあ、ノッていこうぜ…(YES)
-
じゃあな、マヌケ(NO)
-
何だよ、ゴブリンJr.…泣くのか?