SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
「あ~~林間学校がいつまでも続けばいいのに~~」
肝試しが終わり、生徒たちが宿舎のロビーを行き交いしている頃。ご満悦といった表情を浮かべる
肝試しが始まる前まで毒づいていた彼女がこんなにも機嫌が良いのは、スパイダーマン《運命の人》と巡り合うことが出来たからである。素顔はわからないが、崖から落ちる自分を助けてくれた彼の勇敢さと優しさにすっかり惚れ込んでしまったのだ。
「(どうしよう……あの時、無理やりでも断れば良かった……!)」
一方、その様子を遠くから見ていたスパイダーマンこと
断ろうにもつい動揺して言葉が出なかったことと、
「(……でも、あの
スパイダーマンの正体が明かされるのは避けなければならない。
この情報社会が発達している時代。もし、少しでも正体に近付く情報が流されれば、特定されて、私生活に影響が及ぼす可能性がある。特に、スパイダーマンアンチの編集長がいる『デイリー・ビューグル』はしつこく糾弾するだろうし、最悪、裁判沙汰になる。
それに姉妹の中で一番気の強い
スパイダーマンの正体が今まで自分がけなしていた
危ない橋は渡れない。
冷や汗をかく
ニコニコ笑っている彼女の周りからは、『ぺかー』という擬音が見えてきそうだ。
幸せそうな
「よっ、肝試しお疲れさん。ほら」
「ッ、ありがとう」
――僕が2人いればいいのに。
叶わない願いを胸に秘めていると、後ろから親友の涼介がやってくる。自宅から持ってきたのか、缶ジュースを差し入れに来てくれたようだった。
「……どうした?顔色悪いぞ?」
「ああ……肝が冷えちゃって……」
「おいおい、脅かす側が冷えてどうするんだよ?」
「機嫌いいけど……何かあったのか?」
「……さ、さあ?あ、用事をあったから行ってくるよ。帰ったら神経衰弱でもやろう」
「?……ああ」
――実は彼女がスパイダーマンである僕のことが好きなんだ……なんてことは口が裂けても言えない。
これ以上考えたくないのもあり、
外へ出た
この倉庫にはキャンプファイヤーで使う数十本の丸太がある。集まる数人もの生徒はキャンプファイヤーの係で、丸太を広場へ運んで組み立てる仕事を行っているのだ。
係ではない
重い丸太を運ぶので人手が多いことには越したことはない……。誰1人として、ストップをかけなかった。
「上杉さんたちが手伝ってくれて助かります」
「よし!俺に任せろ!」
グググ……と両腕と足腰に力を入れるが……
「はあっ……はあっ……」
丸太は少しも地面から浮かなかった。
歯を食いしばって持ち上げようと奮闘するも、丸太は少しも動かず、ただ息を切らすばかり。
一般の男子高校生でも両手で運べる重さなのだが、身体能力が平均以下の風太郎にはとても成しえない代物だった。
そんな風太郎を見かねた
すると、丸太は水面に乗せたボートのようにフワッと持ち上がった。
「あはは……上杉さん、無理しないでくださいね」
「……」
風太郎を気遣って苦笑する
その笑顔は良いところを見せるどころか逆に気遣われた風太郎には面子丸潰れであり、恥ずかしさから何も言えなかった。
「よいしょ」
2人のやりとりをよそに、
ほんの少し力を込めると、丸太は簡単に地面から離れた。スーパーパワーを持つ
しかし、軽々しく力を見せていると、周囲から忌避の目を向けられてしまう。
その孤立感は、まだこの力の意味を理解していないときに昂輝を殴り飛ばしてしまった過去に痛いほど味わっている。
それに、自分がスパイダーマンであることも突き止められる危険性があるので、
”を装って、両手で重そうに持ち歩いているように演技するようにしているのだ。
そんな一幕がありながらも、丸太は運ばれていき、広場中央に井桁型に重ねて組み立てていく。
真ん中には薪や小枝などを燃やすスペースを設けている。風で飛ばされる可能性を考慮して、当日に入れる手筈になっている。
そのラストバッターは
これを運び終えたら終わり……。最後なので、気合を入れた
不思議に思った
「わっ、重っ……おや?よく見たら、マナブ君じゃん。お久しぶり」
「お久しぶりって……君、この係だし、持っていくときに何度もすれ違っただろう?会話もしたし」
「あははー!そうだった」
この場で初めて会いましたと言わんばかりの反応をする
傍から見れば和やかな雰囲気だが、
知り合った頃から、
出来ればあまりからかわないでほしいが、彼女が悪意を持ってやっていないことは
「ねぇ、ダンスの相手決まった?」
――新手のからかいか?シンプルに
「いや、まだだけど……」
「へ~そうなんだ。
「考え中。そっちは涼介と踊るんだろ?」
「まーねー。特に意味ないんだけど、誘ってくる人が多くてさー」
間の伸びた声で答える
笑われものの自分と違って、皆から憧れの眼差しを向けられているのは羨ましくもあった。
「人気者は辛いね……ッ!?」
それがあってなのか。
嫉妬心から、ほんの少しいじわるしてやろうと
―――涙。一筋の涙が彼女の目から頬を伝って流れていたのだ。
そこまで悪気があって言ったわけではないが、傷つけたと思った
「え……!?ご、ごめんっ!そんな……傷つけるつもりはなかったんだ!癇に障ったなら謝るよ!」
「……違うの。ただ………ごめん。一旦、置いていいかな?」
「え?あ、はい」
顔を俯ける
動揺を残しつつも
「よーし、全部運んだわね」
「疲れたよー」
「「ッ!!」」
倉庫の外から女子の話し声が聞こえ、
「これって、隠れる必要ある?」
「ははっ……」
外にいる2人に聞こえないくらいの声量で苦笑する
悪事を働こうというわけでもないので、コソコソ立ち回る必要はない。
しかし、後ろめたい理由がないのにも関わらず、『見られてはマズイ』という気持ちが考えるよりも先に2人の身体を突き動かしたのだ。
――これ以上隠れても仕方がない。
ギィィーーー……ガシャン!ガチャ!
「ガシャン……」
「ガチャ……」
と、入口から金属製の扉が閉まるような音と施錠音が倉庫内に響く。
それを耳にして、嫌な予感がした
「嘘、噓噓噓……!!」
青ざめた
――閉じ込められた。
その事実だけがはっきりと伝わった。
つまり、どうしようもないということなのだ。
「あはははは……」
何も出来ない状況に2人は「こりゃ一本とられたね」と、顔を見合わせて笑うしかなかった。
「遅いな……」
その頃、宿舎のロビーではベンチに腰掛ける涼介が缶ジュース片手に
別れ際に神経衰弱をする約束をした。待とうとも部屋で待っていられず、すぐに会えるロビーで待つことにしたのだ。
だが、遅い。あまりにも遅すぎる。
キャンプファイヤーの準備にしても、長くて1時間くらいで終わる作業だ。
既に作業を終えた生徒たちは30分前には宿舎の方へ帰っていた。
「何やってんだよ……」
未だ来ない親友に涼介は少し苛立ちながらも、時計を見上げる。
もうすぐで就寝時間の22時に差し掛かろうとしていた。今帰ってきたとしても、遊ぶ時間はもうないだろう。
その現実に涼介は嘆息をつく。
「上杉さん!運動にもなって、良かったですね!これぞ、一石二鳥!」
「ああ……いい運動になったよ………」
そんな中、正面玄関の方から2人の男女の話し声が聞こえてくる。
彼らもようやく作業を終え、帰ってきたのだ。
いい汗かいたー、と元気な顔を見せる
――同じ作業をしていたあいつらなら知っているかもしれない。
そう思い立った涼介は
「
「あ、緑川さん!どうしたんですか?」
「
「
涼介に尋ねられた
記憶に詳細なデータがないことを尋ねられたので、声を唸らせることしかできなかった。わからなすぎて、頭頂部のうさ耳のようなリボンもクエスチョンマークを作っていた。
「
3人が
彼女らも
「ううん……見てない………あっ!でも、倉庫に行くのを見たかも……」
首を横に振る
はっきりとそうであるかは自信はないが、倉庫のある方向へ歩いていく姿を目撃した。
そうとわかるな否や、
「わかりました。なら、私が探してきます」
「おっと。俺もついていくよ。こんな夜道に女の子一人で行かせるわけにはいかないからな」
「緑川君、ありがとうございます!」
ペコリと律儀に頭を下げる
さっそく、
「この前、夜に目が覚めてリビングに行ったんだけどさー……台所から灯りがついていたの。深夜2時くらいだから、誰も起きてるはずがないの。で、台所に行ったら
「え、それで?」
「うん。何してるのかなーってコッソリ見たら、シュークリームを食べてたんだよ。夜中にね。それで『夜食したら太っちゃうよ?』って言ったらさ、面白いこと言ったの!」
「何て言ったの?」
「『これは水分補給と同じです。これを”食べ物”と自覚しない限り、いくら口にしても太りません』って!アハハッ!それがおかしくてさ~!」
「ははっ!無茶苦茶な理論だな~」
一方、倉庫に閉じ込められた
現状、どうしようもないので助けが来るのを待つしかないが、ただ待つのも退屈なので、こうして談笑していた。
始めは何か罠があるのかと警戒していた
「冷えるね~」
「ああ。厚着してくれれば良かった」
「同感。あと暖房も」
談笑していた2人だが、冬近くの倉庫の寒さに身を震わせる。
暖房もない倉庫は夜もあって冷え冷えとしており、扉や床、壁も全て氷のように冷たくなっていた。
しかも、
2人は口々に後悔を呟いた。
秋の夜の冷たさを前に余裕がなくなり、会話が途切れる。
いつも余裕綽々な
話のペースが乗ってきたのを崩すわけにはいかない、と思った
「……ねぇ?何かモノマネっていうか、演技してみてよ」
「え?」
「あ……女優業やってるのは知ってるけど、生で見たことないから。良かったら、見てみたいなーって……」
唐突の提案にきょとんと顔を向ける
『何か面白い話をしてよ』といきなり振られたときに似た反応だ。
予想外の反応に
すると、
「しょうがないなー。そこまで言われたら、お姉さん断れないよー。特別にやったげる」
「ありがとう」
と、いくらか余裕を取り戻したのかいつもの口調で提案に乗る。
機嫌を損ねなくて良かったと
「ちょっと、
「え?
「……抹茶ソーダ、飲む?」
「
「あまかいさんってどういう字なんですか?」
「はー、
「お腹空きました~~!」
「
声だけでなく、身振りしぐさ、顔の動きなども忠実に再現していた。
あまりの演技力に”凄い”と言わざるを得ず、気付けば拍手を送っていた。
「凄いよ!ここにいないのに、本人かと思っちゃったよ!」
「喜んでくれて、ありがとう。じゃあ、アンコールに応えて、狼狽えるマナブ君のマネでも……」
「いや、それは結構。アンコールしてないし」
それはそれで見たい気がするが、彼女の演技力から普段の自分を見るようで恥ずかしくなる。
しばらくいつもの余裕の表情を見せていた
足先から続く床を見ながら、ボソッと呟く。
「………私、学校辞めるかも」
「えっ」
その呟きを聞き逃さなかった
学校を辞める……。その不安を煽る一言は、これまで聞かせてくれた話のどれよりも衝撃的だった。
驚きの表情を向ける
「お祭りのときに受けた映画のオーディション……。あれ以来、たくさんのドラマや映画のオーディション受けても落とされてばかりでさ………上手くいってないんだ。学業と演技のレッスンの両立ってやっぱ厳しくて、事務所の同年代の子たちも留年覚悟で休んだり、融通の利く学校に転校してるみたい」
「そんな……あんなに良い演技してたじゃない。素人の僕からしても上手かったと思ったのに、辞めるって……」
「いい。ほら、私って知っての通り、学業は絶望的だからさ、高校には未練がないかなーって。演技の先生にも『役者の世界を選ぶか、学業を取るのかはあなた次第』って言われて……。でも、私、オーディションに落とされてばかりだし、どっちを選んでもキツイよね?」
アカデミー女優……その遠くも輝く夢。夢の実現のために学業の合間を縫って奮闘する彼女を笑えるはずがなかった。
笑みを浮かべていた
「自分で選んだのに……」
「……」
いつもお姉さんぶっている
だが、このままにしておくのはいけない。
こんな悩みを抱えている一人の少女を前にして、見過ごすわけにはいかなかった。
「……あー……その、あまり卑下しない方がいい。君はしっかりやれてるよ。辞める必要なんてない」
「……え?」
興味を持ってくれた好機と、
「素人の僕が言うのもなんだけど、本当にいい演技してたと思うよ?」
「……そう?」
「うん。だって、君は”アメイジング”だ。言葉通りに受け取ってよ?君は本当に素晴らしいよ……君はアメイジングだ。自分で言ってみて?」
とにかく褒める。
自信を無くしている
「……ぷっ、あははっ!!何それー!」
その効果あってか、
笑う意味はなかった。ただ、笑いが込み上げてきたから笑ったまでである。その笑いは、先程まであった悩みも吹き飛ぶ勢いだった。
励ますつもりが意図せず笑わせてしまったことに
「おかしかったかな?」
「あははっ!何でもない。ただ、うじうじしていた自分がおかしくって……!フータロー君なら、『俺の給料はどうなる?』とか、言いそうだよねー」
「ああ。彼なら、言いそうだ」
風太郎の声真似しながら話す
風太郎の普段の口ぶりから台詞を想像するのは容易い。風太郎本人は悪気があって言ってるのではなく、素直になれないところから来ているものだ。
――トクンッ
精一杯考え、励ましてくれる。
たどたどしいながらも気力を与えてくれる
「(いけない、いけない……。吊り橋効果に惑わされちゃ……)」
と、自分に言い聞かせ、高鳴る胸の前に手をそっと添える。
これは彼にときめいたのではなくて、閉鎖的な環境に置かれた心理によるものに違いない、と。
それに
「よっと……ッ」
グラッ……
重心がずれた丸太は重力に従って、その2mを優に超える長さをもって
「――ッ!」
血相を変えた
そして、素早く
丸太が扉にぶつかる音が倉庫内に響く。
「……」
「大丈夫?」
一瞬の出来事に
すぐに我を取り戻した
後ろへ倒れ込む自分の背中を
なので、顔の距離も自然と近いものとなっていた。
「怪我……ないみたいだね……」
返事がないことに不安を持ちつつも、ひとまず微笑む
何事もなく良かったと安堵してのものだった。
しばらくして、扉の衝撃を受けた防犯センサーが警報音を鳴らす。
ビー!ビー!ビー!
「~~~ッ!」
警報音が鳴ると同時に、顔の距離が近いことで
倉庫中に鳴る警報音は彼女の胸の高鳴りを現すかの如く、激しく響いていた。
幼さを持ちながら、どこか逞しく哀愁を感じさせる
《衝撃を感知しました。30秒以内にアンロックしてください。解除されない場合、直ちに警備員が駆け付けます》
「えっ!ちょっと、やば!は、放してっ!」
「ああっ!?ちょっと、暴れないで!転んじゃう……うわっ!?」
「きゃあっ!?」
アナウンスの内容に加え、急に恥ずかしくなった
ガチャ!
丁度、2人がすったもんだしているとき、扉の施錠が解かれる音と共に警報音が止まった。
扉が開けられると、外から
「
「あ」
目を丸くしてこちらを向く
それもそうだろう。扉の先にいる男子が女子を押し倒している………しかも、相手は友人と自分の姉だ。いかがわしいことをしようとしているにしか見えなかった。
「~~ッ!」
「あ!ちょっと、
見てはいけないものを見てしまった羞恥に頬を赤らめた
反対側から少し遅れてやってきた涼介にも顔を合わせず、一心不乱に夜道を駆けていった。
「何なんだ……?」
ことの顛末を知らない涼介はすれ違い様に去っていった
倉庫から100mほど離れた木々の陰に身を隠す
はぁはぁと切らした息を整えると、冷静に状況を整理する。
只事ではない……。友人関係の男女であるのなら、絶対にあり得ないシチュエーション。より親密な関係でなければしない行動である。
目撃情報から、
「(
――好き?
友人としてでなく、
そんなに意識しているようには思えなかったが、思い返せば、2人で登校してきたり、廊下で談笑しているときもあった。
恋愛関係であることを大っぴらにしないことが、より現実味を深ませる。
「(……嘘っ!?)」
――
その妄想に
やかんであれば蒸気が飛び出そうなくらいだ。
「(ああ、お母さん。私、どうすればいいのでしょう……!)」
ありえないと思うが、現実……。
考えれば考えるほど混乱し、頬を手に当て、今は亡き母に助けを求めるのだった。
◆イースター・エッグ◆
①裁判沙汰になる
「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(2021)では、スパイダーマンの正体がピーターと明かされたことで、私生活に多大な悪影響を及ぼした。
実際、ミステリオ殺害、スターク社のドローンを使ってのテロ行為の容疑で裁判沙汰になり、学校にもまともに通えなく、志望の大学から入校を断られた。
②「君はアメイジングだ」
「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(2021)にて、ピーター2がピーター3に対して放った台詞。ピーター3役であるアンドリュー・ガーフィールドが憧れたピーター2こと、トビー・マグワイアに認められたような夢の瞬間でもある。
シンビオートを登場させる?
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さあ、ノッていこうぜ…(YES)
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じゃあな、マヌケ(NO)
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何だよ、ゴブリンJr.…泣くのか?