SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#18 五月(いつき)を探せ!

 

 

「いやー悪いね」

 

 

宿舎の寝室。多くの生徒がスキーで出払っている中、中野家の長女――一花(いちか)はぐったりとベッドで横になっていた。

彼女が体調を崩した理由は昨日、(まなぶ)と倉庫に閉じ込められた際、身体を冷やしてしまったからだ。

まだ秋とはいえ、夜の倉庫は極寒……薄着であるのなら、風邪をひくのも当然のことだった。

今は五月(いつき)の看病を受けながら、安静にしていた。

 

 

「こんなときに体調を崩すなんて、ついてないなー」

 

「事故とは不注意が招いた結果です。反省して、日中は大人しくしていてください」

 

「え~~~」

 

 

絶対安静を言い渡されてぶうぶう文句を言う一花(いちか)に対し、五月(いつき)は駄目だと嘆息をつく。

一生に一度の学校行事だ。体調が悪いといっても微熱が出ている程度なので、一花(いちか)は参加したかったが、真面目な五月(いつき)が許すはずもなく、泣く泣く従うしかなかった。

 

しかし、一花(いちか)も自分の看病で妹の貴重な時間を奪うわけにはいかなかった。

時間はまだあるが、それも一瞬。限られた時間での思い出を看病だけに費やしてほしくなかった。

もっと楽しんでほしい……一花(いちか)は気だるさを感じながらも、五月(いつき)に話を振る。

 

 

「あー……五月(いつき)ちゃんは私に付き合わなくてもいいから、スキーしてきな」

 

「ですが……」

 

「大丈夫。私も回復したら合流するから……それとも、マナブ君と顔合わせ辛い?」

 

「……ッ」

 

 

一花(いちか)の問いに五月(いつき)は言葉を詰まらせる。

五月(いつき)は昨晩、倉庫に迎えに行ったが、(まなぶ)一花(いちか)を押し倒しているいかがわしい光景を目にして、つい逃げ出してしまった。

それを目撃して以降、(まなぶ)が自分の姉を異性として意識していると思い、どう顔を合わせればいいかわからず、露骨に避けていた。

 

 

「あの日、食堂で会ったときには考えもしませんでした……まだ、日も浅いです。まさか、こんなことになるなんて……」

 

「あはは……ま~あれは事故のようなものだし……」

 

 

難しい表情を浮かべる五月(いつき)一花(いちか)は苦笑する。

妹が何に悩んでいるのかは大体把握できるので答えるも、五月(いつき)の表情は柔らかくならなかった。

ここ一ヶ月以上、(まなぶ)と風太郎が家庭教師に就いてから、彼女たちの生活がガラッと変わった。

以前は同年代の男子を入れることは珍しいことだったが、今は当たり前になっている。距離感も出会った当初と比べれば、より近いものとなっている。

――そう考えれば、恋仲に。五月(いつき)は自然と連想したのである。

 

 

「そんなに悪い人に見えるかな?」

 

「ッ!そ、そういうわけでは……!」

 

 

苦笑する一花(いちか)の問いかけに五月(いつき)は慌てて否定する。

(まなぶ)は自信なさそうで、風太郎は口が悪い。けれど、彼らが悪人と言えばそうではないことは五月(いつき)もわかっていた。

「ですが」と付け加えると、五月(いつき)は動揺から冷静な面持ちに切り替え――

 

 

「……友人ならまだしも、男女の仲となれば話は別です。私は彼のことを何も知らなさすぎる……。男の人はもっと見極めて選ばないといけません……」

 

 

と、自分に言い聞かせるように語る。

五月(いつき)は自分たちと母親を捨てた父親のことが頭に過った。

母親は父親を信じ、結婚に至った。父親の持つ魅力に惹かれたのだろう。

きっと生涯を共にしてくれる、と。

 

しかし、現実は違った。

父親は真に”父親になること”を恐れ、逃げ出した。

その結果、心を痛めた母親は最後の最後まで後悔に満ちた人生を送ることになってしまった。

 

 

「それが親しい人ほど……」

 

 

――だから、警戒する。

(まなぶ)や風太郎は実の父親ほどの人間でないのかもしれない。逆に言えば、そうである保証もないということだ。

愛情を注いで信頼した人に裏切られた辛さ、悲しみは五月(いつき)自身が憧れていた母親の姿を通して理解している。

 

静かに聞き届けた一花(いちか)は生唾を呑むと、口を開く。

 

 

「…………五月(いつき)ちゃんはまだ追ってるんだね……。大丈夫、あの2人はお父さんとは違うよ」

 

 

五月(いつき)の心情を汲み取った一花(いちか)は彼女とは反対の意見を述べた。

母親の二の舞にならないために警戒しているということは理解していた。

だからこそ、彼らが自分たちを捨てた父親とは違う……断言できないが、そう信じたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、宿舎近くのスキー場は、旭高校の生徒を含めた観光客で賑わっていた。

斜面に広がる真っ白な雪原は太陽の光を受けて眩しく輝いていた。

 

 

「はぁ……」

 

 

大勢の観光客が滑る中、(まなぶ)はただ1人、ポツンと佇んでいた。

昨日の倉庫の出来事はすぐに教師の耳に入り、一花(いちか)共々説明するはめになった。

当然、夜中に誰もいない倉庫にいたことで2時間も説教を食らい、よく眠れなかったこともあって、気持ちは沈んでいた。

五月(いつき)を誘おうにも2人きりになれるタイミングもなく、ナイーブな気持ちだけが残っているので、自然と嘆息が漏れた。

 

そんな(まなぶ)の様子を後ろから伺う影が3つ。昂輝とその取り巻きだ。

今回も(まなぶ)への悪巧みを図っていた。

 

 

「(俺がフラれたことを知って、一花(いちか)さんといちゃつきやがって……!)」

 

 

昂輝は(まなぶ)への嫉妬を抱いていた。

別に踊るわけでもないのにも関わらず、一花(いちか)と倉庫で2人っきりだったことに。

(まなぶ)も昂輝への嫌がらせで起きたことではないので、完全な逆恨みだった。

そんなことも露知らず、馬鹿にされたと思った昂輝は威厳を取り戻すべく、(まなぶ)へいたずらしてやろうと考えたのだ。

 

 

「へへへ……それっ!」

 

 

昂輝と取り巻きは掬った雪を掌で丸め、テニスボールサイズの雪玉を作ると、余所見をしている(まなぶ)目掛けて投げた。

どんなアスリートでも、背後に目がない限り、確実に食らってしまうだろう。

 

 

≈「――ッ!?」≈

 

 

ただ、それが()()()()()()()()だ。

スパイダーセンスを持っている(まなぶ)は背後から飛んでくる雪玉を察知すると、横へ飛んで回避する。

たて続けに雪玉が飛んでくるが、左右後ろにステップで避けていく。

昂輝たちは雪玉を投げ続けるが(まなぶ)にはかすりもせず、(まなぶ)の足元の雪にポスッポスッと埋まっていくばかりだった。

 

 

「くっそ!何であんなに動けるんだよ!」

 

 

涼しい顔で軽々と避ける(まなぶ)に苛立ちを募らせる昂輝。

人間を超えた身体能力を持つ(まなぶ)にとってはスキー場の雪で足を取られるようなことはなく、土のグラウンドで反復横跳びするような感覚だった。

 

 

「ふんっ!」

 

ポスッ

 

「「「あっ」」」

 

 

昂輝が渾身の力を込めて真っ直ぐ雪玉を投げ飛ばすと、何かに当たった音が鳴る。

ようやく当たったと思ったのも束の間、当たったものを目にして口をあんぐりと開ける。

 

 

「……」

 

 

当たったものの正体は強面の男性――生徒指導の教師だった。

ここにいるのは見回りのため、たまたま(まなぶ)と昂輝たちの間を通りかかったのだ。

生徒指導の教師が怖いのは旭高校の生徒なら誰でも知っており、(まなぶ)も昨日怒られたばかりだ。

そんなに恐れられる教師――しかも顔面に雪玉を当ててしまった。

 

生徒指導の教師は頭の雪を払って、雪玉が飛んできた方向へ顔を向ける。

青ざめている昂輝たちを目にした瞬間、犯人と断定して眉間にしわを寄せ、大声で怒鳴る。

 

 

「ごらぁぁぁーーーッ!!!」

 

「やっべ!逃げろっ!」

 

「置いていくなよ~!」

 

 

怒号に肩をビクッとすくめた昂輝はブワッと焦燥の汗を流すと、向かっている生徒指導の教師から逃げ出す。

取り巻きたちも雪に足をすくわれて転びながらも、昂輝の後を追って逃げていく。

その様子を(まなぶ)は内心、ざまぁみろとほくそ笑みながら、後にしようと振り返ると――

 

 

「どーも」

 

「――わっ!?」

 

 

いつの間にいたのか。ニット帽とスキーゴーグルを装着した女性が立っていた。

女性の方は親しげに声をかけるも、驚いた(まなぶ)はすっ転び、しりもちをつく。

過剰な反応に不思議そうに顔を覗き込む女性に対し、(まなぶ)は動揺を隠せないまま尋ねる。

 

 

「ど、どちらさまで……?」

 

三玖(みく)。ほら」

 

 

そう言って、女性がスキーゴーグルを上へずらすと、(まなぶ)がよく知る三玖(みく)の顔があった。

見知った顔だと知り、(まなぶ)は驚きで飛び上がっていた心臓を元へ戻す。

 

 

「お、驚かさないでよ~……!心臓が止まるかと思った……」

 

「ごめんね」

 

 

三玖(みく)の謝罪を受けながら、(まなぶ)は立ち上がり、尻についた雪を払う。

彼女の言葉から悪気はなかったようだ。

三玖(みく)は普段から物静かなので、たまに存在感が無くなるときがある。背後を取られることが多々あり、スパイダーセンスを持っても回避が出来なかった。

なので、(まなぶ)は不意を突かれる度、彼女の前世は忍者か暗殺者か何かではないかと常に思っている。

 

 

「さっきの凄かったね。雪玉全然当たらなかった」

 

「えッ!?ああ……!最近、筋トレにハマって……」

 

「そうなんだ……」

 

 

唐突な三玖(みく)からの問いにまたもや不意を突かれた(まなぶ)は目を泳がせながらも誤魔化した。

昂輝との雪玉のやりとりを三玖(みく)は目撃したのだ。

一花(いちか)はまだわかりやすい反応を示すが、三玖(みく)はあまり感情を表に出さないのでそれが気がかりで感づかれているのではないかとヒヤヒヤしている。

(まなぶ)はまた軽はずみに能力を使ったことを反省した。

 

 

「あれ?三玖(みく)。滑らないの?」

 

二乃(にの)

 

 

そんな話をしていると、二乃(にの)がやってくる。

このスキーは自由参加なので宿舎に残っててもいいのだが、遊びに行きたいのが大半だろう。二乃(にの)もその一人ということだ。

 

――仲間外れが嫌いだったな、と(まなぶ)が妙に納得していると、二乃(にの)と目が合う。

逆鱗に触れてしまったと思った(まなぶ)はすぐに目を逸らすが、反対に二乃(にの)は詰め寄る。

怒られると内心怯えながら、(まなぶ)は苦笑いで近付いてきた二乃(にの)に尋ねる。

 

 

「……何かな?」

 

「彼、何て言ってた?」

 

「……?彼って……?」

 

「…………あーーもうっ!」

 

 

”彼”と尋ねられるも検討がつかない(まなぶ)は首を傾げていると、ニコニコ笑っていた二乃(にの)は一変。

痺れを切らして声を荒げると、続けて声を発する。

 

 

「スパイダーマンよ!あんた知り合いなんでしょ!?」

 

「え、あ~……」

 

 

二乃(にの)の言葉に(まなぶ)は思い出す。

昨晩にスパイダーマンとして二乃(にの)を助けた結果、彼女からダンスのペアになるよう誘われたことを。

あのときは混乱したこともあってすぐに断れず、逃げるように隠れてしまった。

昨晩はずっとその件について悩んでいたが、すぐに倉庫に閉じ込められ、教師の説教で記憶の片隅から吹っ飛んでしまっていた。

 

 

「それで返事は?」

 

 

目を爛々と輝かせ、返事を待つ二乃(にの)

良い答えが返ってくることを期待しているのは明白だった。

(まなぶ)は期待とは真逆のことを伝えようとすることに罪悪感を感じつつも、自分がスパイダーマンであることを隠して伝えることにした。

 

 

「彼は……来られなくなった。困っている人のもとに行かないといけないって……」

 

「そう……残念」

 

 

(まなぶ)――スパイダーマンの返事を聞いて、二乃(にの)は残念そうな顔を浮かべる。

仮にスパイダーマンとして現れたとしても、自分はお尋ね者の身。学校関係者が見れば、大騒ぎ間違いなしで、林間学校どころじゃなくなってしまう。

二乃(にの)の期待を裏切ることになるが、これが最善なのだと(まなぶ)は内心言い聞かせた。

 

姉の異常な惚気に三玖(みく)は唖然とする。

 

 

「……意外。面食いの二乃(にの)が顔がわからない人が気になるなんて……」

 

「ふふっ、言ってなさい、三玖(みく)。私にはわかるわ……きっと、イケメンよ!あのマスクの下はアンドリューに似ているのかしら?もしかしたら、トム・ホランド似かも!」

 

「あんまり期待しない方がいいかも……」

 

 

変に妄想を膨らませて黄色い声を出す二乃(にの)(まなぶ)は固い笑顔で答える。

何せ、そのスパイダーマンの正体は、アンドリューやトムに似ても似つかない……今まさに目にしている(まなぶ)なのだから。

それを耳にした二乃(にの)は不思議そうな顔で尋ねる。

 

 

「……妙に知ったような口ぶりね。あんた、彼の顔知ってるの?」

 

「あ!いや、知らない。前に見せてくれって言ったけど断られた」

 

「そう、そうよね。愛する人の前でしか見せないのだわ。ふっふふっ……!」

 

 

失言してしまったと一瞬焦る(まなぶ)だが、適当に誤魔化すと、満足したのか、またもや妄想を膨らます二乃(にの)。頬に手を当てて照れる二乃(にの)の口からは怪しい笑みがこぼれていた。

 

 

「――のあぁぁーーーーッ!!?」

 

ポスッ!

 

「「「!?」」」

 

 

そんなやりとりをしていると、悲鳴が近付いてきたと思うや否や、近くの積雪に衝突する音が聞こえた。

驚いた3人が音の発生源に近寄ると、雪まみれの風太郎が雪の上で寝転んでいる姿があった。

風太郎が倒れている場所から斜面にスキー板の痕が続いているので、大方、コントロールできなくて突っ込んでしまったのだろう。

三玖(みく)(まなぶ)は急いで助け起こす。

 

 

「いってぇ~~……!」

 

「平気?フータロー、何やってたの?」

 

「ああ。一花(いちか)四葉(よつば)と鬼ごっこしてたが、止まり方がわからなくてな……」

 

「無理しないでよ」

 

「善処する……」

 

 

(まなぶ)に諫められた風太郎はそう言って2人の手を借りて起き上がる。

(まなぶ)は風太郎が運動音痴なのは知っている。苦手なことを無理して頑張ろうとしたら却って痛い目に遭うことは、特殊な蜘蛛に噛まれる前の自分の経験でよく身に染みている。

だからこそ、無茶なことは他人にもさせたくない。

 

 

「上杉さん、見~~つけた………あれ?みんな揃ってる」

 

 

そうこうしていると、続いて四葉(よつば)とマスクを着けた一花(いちか)が滑り降りてくる。

五月(いつき)を除いたいつものメンバーが出揃った状況に、四葉(よつば)が首を傾げていると、雪まみれの風太郎を見た一花(いちか)は声をあげる。

 

 

「わ~……フータロー君!真っ白けだね!ガトーショコラみたい!」

 

「美味しく出来上がったよ……言い出しっぺの一花(いちか)さん!」

 

「あはは~……ごめん、ごめん」

 

 

毒吐く風太郎に一花(いちか)は申し訳なさそうに苦笑する。

風太郎は責める気で言ったわけではなく軽口でなのだが、とりあえず謝る一花(いちか)。いつも通りの光景だ。

 

 

「……寝てなくて大丈夫なの?」

 

「ゴホッゴホッ……へーきへーき。ちょっとだるいだけだからさー」

 

「あんたね~……」

 

 

心配する三玖(みく)一花(いちか)は軽い咳払いをしながら、冗談っぽく元気をアピールする。

姉の奔放ぶりに二乃(にの)は呆れて嘆息をつくが、五月(いつき)がいないことに気が付く。

 

 

「ところで五月(いつき)は?」

 

「考え事したいから、一人で滑るってさ」

 

「ふ~ん、そっか」

 

 

一花(いちか)からの返答に二乃(にの)は納得した声をあげる。

五月(いつき)の状況を知った(まなぶ)はふと、思った。

 

 

「(これって2人きりになれるんじゃ……?)」

 

 

2人きりになれる……すなわち、ダンスのペアに誘うチャンスということを示していた。

林間学校が始まってから周りの目があり、中々誘う機会が伺えなかった。しかし、今、彼女が一人だということはそのリスクを背負う必要はない。まさに千載一遇のチャンスだった。

 

 

「よーし!じゃあ、天海(あまかい)さんも入れて、鬼ごっこしましょう!次は二乃(にの)が鬼!」

 

「は!?まだやるって言ってないけど……第一、鬼ごっこなんて子供っぽいことやってられないわ。やるなら、私抜きでやりなさい」

 

「えー?小さいとき、サッカーに付き合ってくれたのにー」

 

「それは昔の話よ。もうごっこ遊びする歳じゃないでしょ?」

 

「やろーよ、やろーよ!絶対、楽しいのにー!」

 

 

参加する意思を見せない二乃(にの)にブーブーと駄々をこねる四葉(よつば)

四葉(よつば)二乃(にの)が鬼ごっこをするしないで言い合っているが、ダンスのことが優先の(まなぶ)には関係なかった。

(まなぶ)は一刻も早く五月(いつき)を探すべく、抜き足差し足で立ち去ろうとするが――

 

 

「私もパス。マナブ君が滑り方教えてほしいって」

 

「………ッ!?」

 

 

直前で挙手する一花(いちか)に捕まってしまう。

唐突の提案に後退する足が止める――否、止められてしまった。

頼んだ覚えのない頼みに(まなぶ)は驚愕のあまり、抗議の声をあげることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うまいね~!その調子!」

 

「あ、うん……」

 

 

その後、特に反対する意見もなく、(まなぶ)一花(いちか)からスキーのレクチャーを受けていた。

一花(いちか)から称賛の声があがるも、(まなぶ)の反応は薄く、五月(いつき)をダンスに誘いたい一心でいっぱいであり、一刻も早く抜け出したかった。

 

(まなぶ)の反応の薄さか、それとも心情を見透かしてか。

一花(いちか)は神妙な顔を浮かべると、(まなぶ)に尋ねる。

 

 

「確認したいんだけど……昨日のこと、誰にも言ってない?」

 

「ッ、もちろん。言えないよ、あんなこと……」

 

 

昨晩のことをはっきりと覚えている(まなぶ)はうんうんと頷く。

一花(いちか)が倉庫で話したこと――それは高校を中退するかもしれないという中々衝撃的なものだった。

 

当然、これを周囲――特に中野姉妹に話せば、余計な心配を与えてしまう。

辞めてほしくないという善意で行ったとしても、一花(いちか)にとってはマイナスで、さらに負担を与えてしまうので、この件は誰にも話さない気でいた。

 

 

「……」

 

「?」

 

 

(まなぶ)の守秘を貫く姿勢に一花(いちか)は安心するどころか、何故か表情を曇らせていた。

予想とは違う反応に(まなぶ)がどうしたのか尋ねようとしたとき――

 

 

「マナブ君。五月(いつき)ちゃんのこと、どう思う?」

 

「え?」

 

 

口を開く前に一花(いちか)が唐突に尋ねる。

先程とは全く関係ない話に(まなぶ)は呆けた顔を浮かべる。

――新手のからかいか?と疑うも、彼女のいつになく真剣な顔を見て、そうでないことがはっきりとわかる。

(まなぶ)はひと息吸って、心を落ち着かせると、異性として見ていることを隠しながら、ありのままの想いを告げる。

 

 

「そうだな……彼女はいつも真面目でとっても優しいんだ。頑張ろうって気持ちが人一倍強い。それでいて、どこか抜けてるところがあって……支えてあげたいって思うんだ。不器用で意地っ張りなところがあるけど、そこが逆に良いって――」

 

「~~~ッ!も、もういいから!天海(あまかい)君の思ってることはわかったから!」

 

「?」

 

 

(まなぶ)は自分でも驚くぐらいスラスラと気持ちを述べるが、一花(いちか)の恥ずかしそうな声に遮られてしまう。

自分のことじゃないのに妙に恥ずかしがる様子に(まなぶ)が疑問を抱いていると、一花(いちか)はまたもや真剣な顔で言う。

 

 

「……お願い。良かったら、五月(いつき)ちゃんを探してあげて。本当は寂しいはずだから……」

 

 

(まなぶ)一花(いちか)の青い双眸に捕らえられ、固唾を呑む。

彼女は普段だらしない姿を見せることが多いが、たまに真剣な顔を覗かせることがある。今日は特にだ。

このスキー場は自分たちの学校だけでなく、色々な地域から一般客も押し寄せている。

大勢の人間がいるということは、悪いことを企む人間もいるということ。もし、五月(いつき)が絡まれでもしたら、一大事だ。

 

それに加え、カラカラだった喉を水で潤すように、ダンスを誘うチャンスが巡ってきた。

これを断るわけがない。

一花(いちか)の目力から、どこか試されているように思えた。

 

 

「わかった。探してくるよ」

 

「お願いね」

 

 

(まなぶ)は快く承諾すると、慣れたスキー捌きでゲレンデを下っていった。

遠ざかっていく後ろ姿を一花(いちか)はジッと見定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(おかしい……何で見つからないんだ?)」

 

 

一花(いちか)と別れてから1時間後。(まなぶ)は未だに五月(いつき)の行方が摑めずにいた。

リフト乗り場、休憩所、駐車場、すれ違う人々を隈なく探したが、それらしき人物も見つかっていなかった。

時間が経つごとに犯罪に巻き込まれている最悪な可能性が浮かび、次第に焦りを募らせていく。

 

 

「フータロー?汗、凄いけど……」

 

「いや、平気だ……」

 

「休んだ方がいいよ」

 

 

――もう一度、探してみるか。

そう思って、リフト乗り場の方へ向かおうとした矢先、聞き慣れた声が耳に入る。

声のした方へ向かうと、休憩所の外壁にもたれかかる風太郎と心配する三玖(みく)の姿があった。

 

――彼らなら何か知ってるかもしれない。

その望みにかけて、2人のもとへ近寄る。

 

 

「あ、マナブ」

 

「上杉。具合悪いの?」

 

「問題ない……ところで、何の用だ?」

 

「どこかで五月(いつき)見なかった?」

 

 

熱っぽい風太郎のことが気がかりであるも、(まなぶ)五月(いつき)の行方を尋ねた。

これだけ広いスキー場であるのなら、どこかで見かけることは十分あり得る。

 

 

「いや、見てないな……」

 

「私も」

 

 

しかし、(まなぶ)の期待とは裏腹に、風太郎と三玖(みく)は首を横に振った。

逆に2人は何かあったのかと尋ねるような視線を向けていた。

見なかった……その返答に(まなぶ)は残念に思いつつも、2人に話そうとしたとき――

 

 

「あ!三玖(みく)と上杉さん、見っけ!」

 

 

後ろから現れた四葉(よつば)が嬉しそうに三玖(みく)に抱き着く。

それを見て、(まなぶ)は”一応”彼らは鬼ごっこをしていたことを思い出す。風太郎と三玖(みく)も思い出したようで、その様子から乗り気でなかったことがわかる。

 

 

「こんなところで油断しちゃ駄目ですよ!あとは五月(いつき)を見つけるだけですね!」

 

 

一気に2人を見つけて、気分がいい四葉(よつば)は、いつの間に参加していることになっている五月(いつき)の確保へ魂を燃やす。

苦笑する(まなぶ)だったが、動き回っている四葉(よつば)なら何か知っているかもしれないと踏み、尋ねる。

 

 

四葉(よつば)五月(いつき)を見なかった?」

 

「……?いえ、探しましたけど、見かけもしませんでした」

 

 

きょとんと目を丸くする四葉(よつば)を見て、(まなぶ)は考え込む。

これだけ探し回り、3人もの人間が動き回っているのに誰も見かけていない。

 

現状から整理して考察すると、最悪な展開が頭を過る。

――遭難したのではないかと。

整備されているとはいえ、ここは自然に近く、未だ未開の地もある。洞窟の抜け穴に落ちたなど十分あり得る。

更に広々と真っ白な景色が広がっているので、方向感覚もままならないだろう。

 

 

「……思ったよりマズイかもしれない…………」

 

「どういうこと?話、聞かせなさいよ」

 

 

神妙な顔を浮かべる(まなぶ)の呟きが聞こえたのか、現れた二乃(にの)が尋ねてくる。その隣には一花(いちか)の姿があった。

全員がまた集まったことなので、(まなぶ)は今までの経緯を全て話した。

 

 

『……遭難?』

 

 

口揃えて声を出す5人に(まなぶ)は頷くと、上着のポケットから取り出したスキー場の地図を広げる。

他の5人は囲むように地図に寄る。

 

 

「いくら広いといっても、みんな会ってないなんて不自然だ」

 

「確かに……そいつは変だな」

 

 

(まなぶ)の疑問に風太郎は同意する。

全員、先程まで別々の場所にいたのだが、誰も五月(いつき)を目撃していなかった。

コール音が鳴っているスマートフォンを耳に当てていた三玖(みく)だが、不可解な顔を浮かべると共に発信を切った。

 

 

「電話に出ない……。五月(いつき)はスキーに行くって言ってたんだよね?」

 

「え?うん……。もしかしたら、上級者コースにいるんじゃない?」

 

「そこは私も行ったけど、いなかったわ」

 

 

そう言いながら、一花(いちか)は読みにくそうに目を凝らして地図に記載している上級者コースへ指差すが、二乃(にの)は首を横に振る。

推測が外れ、またも振り出しに戻ってしまい、沈黙が訪れる。

 

 

「……ちょうど入れ違ったかも。私、見に行ってくるよ」

 

「あっ!まだ、ここ見てないかも!」

 

『えっ』

 

 

流石に居ても立ってもいられなくなったのか、一花(いちか)が沈黙を破って出向こうとするが、閃いた四葉(よつば)の声に皆、疑問の声をあげる。

 

四葉(よつば)が指差した地図の場所……。そこは、まだ整備されていない立ち入り禁止区画だった。

教師から再三注意を受けた(まなぶ)たちはそこがどんなに危険なのかわかっている。

――もし、五月(いつき)が迷い込んだのなら……。最悪な予感がし、皆、焦りの色を見せる。

緊急事態だと悟った一同の判断は早かった。

 

 

「本当にいないかコテージに見に行く」

 

「私は先生に言ってくるよ!」

 

「ちょっと待って!?もう少し探してみようよ!」

 

 

一花(いちか)はさっそく行動に移そうとする三玖(みく)四葉(よつば)を見て、慌てて止めようとする。

現状ではやるべきではない、真逆の行動に二乃(にの)は疑問を呈する。

 

 

「何でよ?場合によっては、レスキューも必要になるかもしれないのよ?」

 

「えっと……五月(いつき)ちゃんもあんまり大事にしたくないんじゃないかなーって」

 

「……大事って………呆れた」

 

 

いつものように冗談っぽく言う一花(いちか)に眉をしかめた二乃(にの)は不満げに呟くと、一花(いちか)に詰め寄り――

 

 

「―――五月(いつき)の命がかかってるかもしれないのよ!?気楽になんていられないわっ!!」

 

 

と、大声で諫める。

妹が危険にあって、今もどこかで助けを求めているかもしれない……。特に姉妹想いが強い二乃(にの)だからこそ、呑気に済まそうとするのは許せないのだ。

 

 

「……ごめんね」

 

「……ッ」

 

 

二乃(にの)の必死さが伝わった一花(いちか)は自分の立ち振る舞いを反省し、小さい声で謝る。

シュンと縮こまる一花(いちか)のフードから覗く耳を見て、(まなぶ)はどこか確信めいた表情を浮べた。

 

 

「……俺も手伝う。思い当たるところがあるかもしれない」

 

「駄目だよ、フータロー。具合悪いんでしょ?」

 

「人手は多い方がいいだろ……!こんな事態に、おちおち寝ていられるかよ」

 

 

熱っぽくフラフラとしながらも風太郎は心配する三玖(みく)の安静の促しを撥ね退け、捜索を手伝おうとする。

風太郎はらいはから風邪をもらってしまい、今朝から体調を崩していたのだ。

病に侵された身で冷えたスキー場に行けば、当然症状は悪化の一歩を辿ることとなる。

 

それでもなお、五月(いつき)を探そうとするのは家庭教師だからか。それとも義理人情か。

はっきりとわからないが、真意は後者であることと願う(まなぶ)は立ち止まっている場合ではないと、思い切って口にした。

 

 

「僕に心当たりがある」

 

 

怖気づかず、はっきりとした口調。その言葉に一同は耳を留める。

 

 

「心当たりって……」

 

「大丈夫。居場所ははっきりとわかった」

 

「信じていいのね……?」

 

 

訊き返す二乃(にの)(まなぶ)は自信たっぷりに頷くと、視線を風太郎へ移す。

 

 

「あとは僕に任せて……上杉を誰か先生のところへ連れて行って、休ませてほしい」

 

「お、おい……五月(いつき)は……!」

 

「さっき言っただろ?無理はしないでって」

 

「……わかった」

 

 

風太郎は尚も病態を押して手伝おうとするも、(まなぶ)の真剣な眼差しに負け、大人しく引き下がった。

 

 

一花(いちか)。付いてもらってもいい?」

 

「!」

 

 

ぐったりとする風太郎を三玖(みく)四葉(よつば)が肩を貸して連れていく中、(まなぶ)一花(いちか)に捜索の手伝いをするように頼んだ。

突然の依頼に意図が見えない一花(いちか)だったが、見据える(まなぶ)の双眸に押され、首を縦に振るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかして、心当たりって……ここから捜すこと……?」

 

「……そうだよ」

 

 

隣に座る一花(いちか)に尋ねられた(まなぶ)は頷く。

2人は現在、上級者コースへと続くリフトに乗っていた。

下には真っ白なゲレンデを滑る観光客が小さく見え、地上よりも高いこともあって、少し肌寒さを感じていた。

 

 

「確かによく見えそうだけど……ッ!」

 

「……?どうした――あっ……」

 

 

急に黙り込んだ一花(いちか)に首を傾げる(まなぶ)だったが、彼女の視線の先を見て、息を呑んだ。

前のリフトに乗るカップルらしき男女が肩を寄せ合っていちゃついていたのだ。

それを見た一花(いちか)は甘い空気に気まずさを感じたのだと、納得した。

 

前方の光景に視線を合わせ辛いながらも、(まなぶ)は気持ちを切り替え、一花(いちか)に尋ねる。

 

 

「……君、一花(いちか)じゃないでしょ?」

 

「……ッ!?」

 

 

単刀直入に尋ねられた一花(いちか)は肩を飛び上がらせ、目を見開く。

何を言っているのかといった感じで、動揺していた。

しかし、あっと声をあげると、いつものように小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

 

「やだな~~マナブ君。いくら私がカメレオン女優だからって、偽物あつか――「一花(いちか)じゃないんでしょ?」――ッ!?」

 

 

一花(いちか)はあははと笑いながら誤魔化そうとするも、(まなぶ)の真剣な声に威圧され、黙りこくってしまう。

いつもなら和やかな表情を見せる(まなぶ)とは思えない……不安で、どこか諫めるような眼差しに一花(いちか)は目を逸らす。

 

そう、(まなぶ)には隣にいる一花(いちか)が本人ではないと疑っていたのだ。

今日の行動や言動から、昨日までの一花(いちか)と今の一花(いちか)は別人のように思えたのだ。

確信を持って偽物だと判断した(まなぶ)は偽一花(いちか)の口から「私は偽者です」と吐くことを待っていたが、当の本人はだんまりを決め込んで、口を割らなかった。

 

呆れからなのか……。

嘆息をついた(まなぶ)一花(いちか)を見据えると、証拠を口にする。

 

 

「……君が一花(いちか)じゃない証拠はある。まず、一つ目は僕のことを『天海(あまかい)君』と呼んだこと」

 

「……ッ!」

 

「咄嗟に出たかもしれないけど、一花(いちか)は僕のことは『マナブ君』と呼ぶ。本物の一花(いちか)はパニック状態でも僕のことをそう呼んだりしない……。間違えたのは、普段呼び慣れてないから」

 

 

(まなぶ)五月(いつき)の良さをアピールしたとき、恥ずかしがった偽一花(いちか)が咄嗟に呼び間違えたことをしっかりと覚えていた。

この段階で不審に思ったのだが、単に間違えたかもしれないという可能性があり、詮索はしなかった。

 

だが、この証拠を突きつけられた偽一花(いちか)は目を見開いており、自身が偽者だということをはっきりと証明していた。

これだけでも効果絶大だが、(まなぶ)は偽一花(いちか)が偽りのヴェールを脱ぐまで話そうと、次々と証拠を口にする。

 

 

「……次は地図を見るときに目を凝らしていたこと。彼女は視力が悪くないから特に読み辛さはないけど、君は目を凝らしていた……まるで()()()()()()()()に……」

 

「……」

 

「さっき、フードから君の耳が見えたけど、右耳にピアス痕がなかった。ピアスを着けている人なら、ピアッサーで耳たぶに小さな穴が空いてるけど、君の耳には()()()()()()。着け続けているならあり得ない光景だよ……」

 

「……ッ」

 

 

(まなぶ)に指摘された偽一花(いちか)はハッと右耳に手を当てる。

その表情はしまったといったものだった。

彼女の反応に確信した(まなぶ)は顔を逸らし、ふぅと息を吐く。白い息が湯気のように吐くのを目にすると、偽一花(いちか)へ顔を向け――

 

 

「………一花(いちか)()()()()()()()()()()()()()()。そうだろ?五月(いつき)

 

 

もういいだろと言わんばかりの口調で告げる。

(まなぶ)は偽一花(いちか)の正体は五月(いつき)ではないかと睨んでいたのだ。

 

それを口にして、しばしの沈黙の後、偽一花(いちか)は顔を俯けながら、自らフードを脱いだ。

その正体は(まなぶ)の推理通り、行方知らずとなっていた五月(いつき)本人だった。

 

 

「………ごめん。ここまで大事にしちゃって。みんなの前だと言い出し辛いだろうから……」

 

 

(まなぶ)五月(いつき)をリフトへ連れてきた理由。それは彼女自身の負担を和らげるためだった。

五月(いつき)はもちろん否があるが、話を飛躍させてしまった(まなぶ)にも否があった。余計に彼女を苦しめてしまったことへの謝罪をした。

 

その後、またも沈黙が訪れる。誰も話さないので、風に乗って吹雪く雪がより冷たく感じた。

しばらくすると、五月(いつき)はズボンの太ももをギュッと握ると、申し訳なさそうに口を開く。

 

 

「すみま……せん……でした……。私……確かめたくって……」

 

「……?確かめるって、何を?」

 

「それは……」

 

「お願い……言ってよ。周りには僕たちの知り合いはいないからさ」

 

 

今回の変装をした理由を話すことを渋る五月(いつき)に、(まなぶ)はチラリと後ろを見ながら促す。

今のところ、同じ学校のクラスメイトらしき姿は見当たらなかった。変装してまで行ったことは只事ではないので、(まなぶ)としては、有耶無耶にせず、洗いざらい話してほしかった。

 

それを受けた五月(いつき)は一瞬躊躇するも、口元を引き締め、真実を明かすことにした。

 

 

「………昨日、倉庫へ迎えに行ったときに見ちゃったんです………天海(あまかい)君が一花(いちか)を押し倒しているのを……。それで、私……思っちゃったんです。天海(あまかい)君が一花(いちか)のことを……一人の女性として好きなのかと」

 

「………え?僕が一花(いちか)を……?」

 

「すみません……!プライベートなことに首を突っ込むことが間違いなのはわかっています!ですが……まだ日も浅くて、あなたのことをよく理解できていないのに恋仲になるなんて、危険だと思って……!一花(いちか)に相応しい、信頼たる男性なのかを判断するために……今回のようなことを……!」

 

 

目尻に涙を浮かべて謝罪を述べる五月(いつき)

実の父親のこともあり、(まなぶ)がどこまで信頼できる人間か測ったが、流石にやりすぎたと反省している。

いくら姉のためとはいえ、周りの人間をひっかきまわして行うほどのことではない。信頼を確かめるどころか、嘘を通し続けて自分の信頼を失うことかもしれない事態に陥った。

 

散々困らせたことに五月(いつき)はどんな罵詈雑言でも受け止める覚悟をしていたが……

 

 

「ははっ、何で謝るの?」

 

「………え」

 

 

(まなぶ)は怒りとは真逆に笑っていた。どうしてそう思ったのか、逆に訊きたいと言わんばかりだ。

予想していたものとは全く違う反応に五月(いつき)が呆気にとられる中、(まなぶ)は言葉を続ける。

 

 

「確かに一花(いちか)は魅力的だよ?友達としても、一人の女の子としても……。でも、僕は友達だと思ってる。恋愛感情なんてないよ」

 

「で、では……あの倉庫のことは……!」

 

「あれは事故だよ。彼女を丸太から助けたときにバランスを崩しちゃって………一花(いちか)から何か聞いてない?」

 

 

ないないと否定する(まなぶ)から逆に尋ねられ、五月(いつき)は宿舎での一花(いちか)との会話を思い返す。

おぼろげながら、そんなことを話していたことを思い出した。

(まなぶ)一花(いちか)のことが好き”という疑惑に目が眩み、近くの答えに目を背けていた。『灯台下暗し』というものである。

つまり、全て五月(いつき)の過大妄想による”勘違い”だったのだ。

 

 

「す、すみません……!私の……思い過ごしでした……」

 

「あっ……!ああ………いいんだよ。もうしないでね」

 

「はい……」

 

 

それに気付いた五月(いつき)は頬を赤く染め、恥ずかしそうに顔を俯ける。頭頂部のアホ毛もシュンと枯れ草のようにしなびていた。

今にも泣きだしそうな雰囲気の彼女に(まなぶ)は若干慌てながらも、笑って許した。

反省して泣いている人に追い打ちをかけるほど、(まなぶ)は鬼ではなかった。

 

リフトの中間地点を通り過ぎた頃、(まなぶ)は今置かれている状況を見て、ふと思った。

――ダンスを誘えるチャンスじゃないか、と。

リフトで2人っきりなので、聞き耳を立てられる心配はない。周囲にも知り合いらしき人物は見当たらない。

絶好の機会とはまさにこのことだと(まなぶ)は思った。

 

負い目に付け込むような行いかもしれないが、周りを話せる機会は今しかない。

(まなぶ)は緊張と戦いながらも勇気を振り絞って、カラカラに乾燥した唇を動かす。

 

 

「……あ、あのさ。こんなこと話すべきじゃないかもしれないけど……良かったら………僕と今夜のダンス踊ってくれない?」

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①トム・ホランド
 MCU版スパイダーマンを演じた俳優。本名は『トーマス・スタンリー・ホランド』。
スペルは違うが、スパイダーマンの生みの親の1人であるスタン・リーの名前が入っているのは運命としか言いようがなく、スタン・リーも歴代スパイダーマン俳優の中で彼が一番スパイダーマン/ピーター・パーカーに合っていると太鼓判を押している。
 トムは「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(2016)でスパイダーマン役として初登場を飾り、続く数多くのMCU作品に出演、活躍した。
 ファンの間では、トビー・マグワイアは『最高のピーター・パーカー』、アンドリュー・ガーフィールドは『最高のスパイダーマン』、トム・ホランドは『最高の高校生』と言われ、この3人は「スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム」(2021)にて共演し、全世界のスパイダーマンファンを熱狂させた。

シンビオートを登場させる?

  • さあ、ノッていこうぜ…(YES)
  • じゃあな、マヌケ(NO)
  • 何だよ、ゴブリンJr.…泣くのか?
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