SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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Ⅳ Green of Madness
#20 目覚め


T市5番地区のとある区画。

高級住宅が経ち並ぶ区画の中でもひと際敷居が高い豪邸があった。

西洋の造りを取り入れた100階建ての超高層住宅はオズコープの創始者兼社長である緑川一家が住んでおり、オズコープの強大な権力を示すように佇んでいた。

 

昼近くの明るい光が差し込む緑川邸の廊下を緑川家の一人息子――緑川 涼介は歩いていた。

林間学校が今まさに終わり、久しぶりの我が家に帰ってきていた。

約3日だけだが、見慣れた景色も少し離れるだけで目新しく見えるものだ。

 

 

「(ダンス残念だったな……)」

 

 

リュックを背負いながら歩く涼介は林間学校のキャンプファイヤーで一花(いちか)と踊れなかったことを残念がる。

本来、一花(いちか)と踊るはずだったのだが、彼女が体調を崩してしまい踊れなかったのだ。

そのときは全然問題ないと言ったものの、少し惜しいところがある。

 

一花(いちか)のことは友人だと思ってはいるが、涼介も男なので、彼女の美貌には輝かしく見えてしまうもの。それに近付くチャンスがあれば、是非近付きたい。

ちょっとした下心はあったのだが、結果は叶わず。

仕方がないとはいえ、逃がした魚は大きかった。

 

 

「……父さん?」

 

 

林間学校のことで思いにふける中、涼介はリビングに入った瞬間、血相を変える。

視線の先には、リビングの床でうつ伏せに倒れる父――難一(なんいち)の姿が。

難一(なんいち)が今日休みとは知っていたが、ソファーが近くにあるにも関わらず、床で寝そべるのは不自然だ。

違和感極まりない光景に緊張が走った涼介は背負っていたリュックを床に置くと、倒れている難一(なんいち)のもとへ駆け寄る。

 

 

「父さんっ、父さんっ!大丈夫?」

 

「うぅ……」

 

 

涼介は難一(なんいち)の肩を軽く揺らしながら呼びかける。

すると、その声に反応した難一(なんいち)は気だるげに唸って、地べたにつけていた身体をゆっくりと起こす。

 

 

「涼介か……林間学校は?」

 

「ああ、楽しかったけど……父さん。何で床に……?」

 

「わからない……」

 

「ここで寝てたの?」

 

昨夜(ゆうべ)、私は………覚えていない」

 

 

難一(なんいち)はおぼろげながらに思い出そうとするも、ヴィジョンが浮かばない。

覚えているのは研究所の身体増強薬の実験で痙攣を起こしたまでであり、それ以降、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自分がどうやって家に帰りついたまでも。

難一(なんいち)は軽い記憶喪失に陥っていた。

 

 

「社長!」

 

「お待ちください!ロビーで待つように言ったのですが……」

 

 

難一(なんいち)も涼介もお互いに困惑している最中、輪を切って入るように秘書の女性が急ぎ足でリビングへ入ってくる。

その後ろには執事の老人が困り顔でついてきた。止めようとしても勢いを抑えられず、渋々通してしまったという感じだ。

 

緊急の連絡かもしれないが、難一(なんいち)の容体は優れない。とても仕事できる状態ではない。

涼介は追い返すべく、秘書の女性のもとへ歩み寄る。

 

 

「父は体調がすぐれないので――」

 

「緑川社長。古流博士が亡くなりました」

 

「ッ、何……!?」

 

 

追い返そうとする涼介の言葉を遮り、秘書の女性は単刀直入に要件を伝えた。

秘書の女性の口から出た衝撃の出来事に難一(なんいち)は狐につままれたような顔を浮かべる。

 

 

「今朝、研究室で遺体が見つかって………殺されたようです」

 

「一体どういうことだ?」

 

「フライトスーツとグライダーも……」

 

「どうした…?」

 

「盗まれました………」

 

 

苦虫を嚙み潰したように告げる事態に難一(なんいち)は言葉を失っていた。

グライダーとフライトスーツは極秘の開発品であり、先月行った特別展示会でも展示しなかったトップシークレットのもので、オズコープの幹部クラスの人間でなければ知りえない代物だ。

それを盗んだ―――すなわち、オズコープ内の人間による犯行ということ。

 

共同研究者の死と極秘開発品の盗難。

暗雲漂う2つの事件に難一(なんいち)はオズコープに危機が迫っていることを肌に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後。喧騒溢れる昼の都会。

道路で隔てられた更地となっている敷地の一角では、ビルの建築工事が行われていた。

建築途中のビルの近くには鉄骨を吊り上げるクレーンが建ち並び、その下では作業員たちが工具を手に、せっせと働いていた。

事故が起きないよう、細心の注意を払って。

 

 

「――あッ!?」

 

 

だが、いくら気を引き締めても、人が人である限り、事故は起こる。

クレーンに搭乗していた作業員の男はうっかり操作を誤ってしまい、吊り上げていた鉄骨を放してしまう。

上層まで上がった鉄骨は重力に従って、他の作業員たちがいる地上へ落ちていく。

 

 

「鉄骨が落ちてくるぞーーッ!」

 

「逃げろーーッ!」

 

 

下にいた作業員たちは上空から降り注ぐ鉄骨群を目にするなり、一目散に逃げ始める。

作業に気をとられていた者も声の慌てようにハッとなって逃げる。

潰されたら、ひとたまりもない。

 

しかし、気が付くのが早いのもいるのなら、逆に遅い者もいる。

気付くタイミングが遅く、見上げたときには圧倒的な質量を持った影がすぐそこまで近付いていた。

遅れた作業員たちがあっと口を開けていたとき――

 

 

ピシュッ!

 

 

突如、頭上に張り巡らされた巨大な蜘蛛の巣がネットのように鉄骨をキャッチした。

驚いた作業員たちが「もしや……」と思って空を見上げると、ショルダーバッグを肩から腰にかけ、優雅に空をスイングするスパイダーマンの姿があった。

 

たまたま近くを飛んでいただけなのだが、工事現場から発する只事ならない声を聞いて、駆け付けたのだ。駆け付けたときには、落ちた鉄骨と地面までの距離は10mをきっていたが、間一髪ウェブで助けられた。

 

 

「ありがとう!スパイダーマン!」

 

 

いつも通り、『人助け』を完了したスパイダーマン。

地上の作業員たちからの感謝を背後に受けながら、スパイダーマンはウェブスイングで遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T市1番地区にある総合病院。

市内の病院でもオズコープ製の最新の医療設備が整っており、医療技術も含めて最大の規模となっている。

 

その病院の近くに降り立つ影―――スパイダーマンだ。

物陰に隠れて学生服へと着替えた(まなぶ)はショルダーバッグを肩にかけ、病院へ赴く。

 

今日は風太郎のお見舞いに来ていたのだ。

林間学校の途中で風邪で倒れてしまった風太郎の容体は予想よりも悪く、この病院へ入院することとなってしまった。

風太郎は「勉強する時間を浪費してしまう」と嫌々言っていたが、当然、教師には聞き入れてもらえず、今に至るというわけだ。

 

(まなぶ)のショルダーバッグには差し入れが入っているのだが、学校で出た宿題や授業の板書を写したノートなど、差し入れとしては少々場違いなものだった。

これは他ならぬ風太郎本人のリクエストであり、「寝ていた時間分を取り戻す」という意気込みによるものだ。

実に勉強第一の風太郎らしいリクエストだろう。

 

(まなぶ)は受付窓口で手際よく受付を済ますと、看護師に指示された病室へと向かう。

エレベーターに乗り込み、風太郎の病室がある6階のボタンを押す。

階数表示器の”6”のランプに色が着くまで、一緒に乗る他の面会人と共に静かに待つ。

 

しばらくすると、”チン”と到着を知らせる音が鳴り、正面の扉が開く。

エレベーターを降りた(まなぶ)は近くの案内図を頼りに、風太郎の病室へと向かう。

似たような真っ白な景色、造りなのでこのルートであってるのかと不安になることもあったが、特に迷うこともなく、風太郎が入院する『606』号室の扉をノックした。

 

 

『どうぞ』

 

「失礼します」

 

 

入室を許可する風太郎の声が聞こえ、(まなぶ)はひと声かけてから中へ入る。

ベッドには風太郎とベッドに向かって椅子に座る五月(いつき)の姿があった。

風太郎は既に起きており、上体を起こして、五月(いつき)と共に新たに訪問した(まなぶ)を見つめていた。

 

病室はベッドを中心に、着替えを入れる棚と面会人用の椅子とソファーといった必要最低限のものしかない。”質素”という言葉がしっくりくる景観だ。

申し訳程度にテレビが置いてあるが、余計に広々としているので、ベッドに座る風太郎も退屈そうな雰囲気であった。

 

 

「あれ?五月(いつき)、来てたんだ?」

 

「……ッ、はっ、はい。私も上杉君のお見舞いに……」

 

「……そうなんだ」

 

 

五月(いつき)の存在に首を傾げる(まなぶ)

彼女がお見舞いに来ることは事前に聞いていなかったので、不思議に思ったのだ。

理由を話す五月(いつき)からどこか隠しているような気がしたが、変に勘ぐっても意味はないので一応、納得すると、ショルダーバッグから取り出した差し入れ(勉強関連セット)を風太郎へ差し出す。

 

 

「はい。持ってきたよ」

 

「……悪いな。家庭教師も任せてしまって……」

 

「いや、平気だよ。何とか上手くやれてる」

 

「そうか……」

 

 

ばつの悪そうな顔を浮かべる風太郎に対し、(まなぶ)は安心させるように微笑む。

風太郎が入院するということは、その間、(まなぶ)1人で家庭教師を行うことを意味する。

2人の作業を1人でやるので負担も増えるが、五つ子たち(二乃(にの)除く)が絆が深まったことで、以前よりも協力的になったので、苦しむことはなかった。

 

 

「お見舞いの品に宿題って………どこまで勉強好きなんですか!?」

 

「少しでも遅れを取り戻さないとな~~……。それに、お前たちのためにも~~~~っと、より深~~くかつ難しい内容を教えるためにな………くっくっくっ……」

 

 

差し入れの内容に思わずツッコミを入れる五月(いつき)に風太郎は気味の悪い笑みを浮かべる。

元々の人相の悪さも相まって、よりヒールさが引き立っている。

”難しくする”という単語を聞いた五月(いつき)は嫌そうな顔をしており、彼女の感情を表すように頭頂部のアホ毛もふにゃんとしなびていた。

 

(まなぶ)が一歩退いた視線で苦笑していると、五月(いつき)は勉強熱心な風太郎を見て、ふと尋ねる。

 

 

「上杉君。お尋ねしたいのですが……」

 

「何だよ?」

 

「教えてください。あなたがそこまで勉強する理由を」

 

 

唐突に尋ねられ、一瞬ポカンと口を開く風太郎。

懇切丁寧に答えるのは面倒なので、適当に返そうかと考えたが、五月(いつき)の真剣な顔に怠惰な考えは吹き飛ぶ。

短い嘆息を吐いた風太郎は勉強を努力するようになったきっかけを語り始める。

 

小学生の頃、生き方に迷っていたこと。

修学旅行で出会った、ある少女が自分を変えるきっかけになったこと。

そして――

 

 

「将棋星人が国会議事堂を占拠して、地球は壊滅。はい、終わり」

 

 

と、雑に締めくくってシーツにくるまった。

 

 

「何ですか、それ!!そこからが聞きたいのに凄い雑に終わりましたよ!?地球はどうなったんですか!?」

 

「そこなの……?」

 

 

当然、あからさまな嘘まみれの雑なオチに五月(いつき)はツッコむ。

京都の少女よりも侵略者のことが気になる五月(いつき)(まなぶ)が眉をひそめて疑問を呟く中、風太郎はそっぽを向いたまま、口を開く。

 

 

「別に話すとは言ってねー……というか、話したくない。それでも言うことを聞いたのは……日頃の感謝だ」

 

 

風太郎はボソッと呟くと、枕に顔をうずめる。

ぶっきらぼうで素直ではないものの、彼なりの優しさということは2人にはわかっており、そっぽを向いているのは面と向かって言うのが恥ずかしいからだろう。

五月(いつき)はふっと微笑むと言葉を紡ぐ。

 

 

「イマイチ伝わりませんでしたが……その子との出会いがあなたを変えたんですね?」

 

「……」

 

「私も変われるのでしょうか?もし……できるのなら……変われる手助けをしてほしいです」

 

 

五月(いつき)の問いに風太郎は顔を合わせず、沈黙を貫く。

それでも五月(いつき)は話し続け――

 

 

「あなたも……私たちに必要ですから」

 

『君が必要だもん』

 

「――ッ!?」

 

 

と、語り掛けると風太郎は過去に京都で出会った少女からかけられた言葉と重ねる。

ビクッと肩を飛び上がらせた風太郎は上体を起こし、見開いた目で五月(いつき)を見つめる。

 

 

「こっち見ないでください……」

 

 

向けられる視線に恥ずかしさを覚えた五月(いつき)は風太郎の顔を隠すように両手を前へかざす。

隣の(まなぶ)も唐突の飛び起きに言葉をなくし、目を丸くしている。

そんな状態にも構わず、風太郎は不敵な態度で五月(いつき)に言葉を投げかける。

 

 

「俺……いや、俺たちに教わってどうにかなるのか?平均29.7点」

 

「どうにかします!……見てください!普段からお守りをつけて、学業成就を祈願してますから!」

 

 

売り言葉に買い言葉と言わんばかりに五月(いつき)はポケットから取り出した小さなお守りを取り出す。

お守りと言っても赤い棒状でできている。

かなり使い古されたようで汚れや傷が見られ、表面で金色で書かれている『学業成就御守』の文字も所々擦れていた。

 

 

「神頼みかよ……ッ!」

 

 

受動的な解決策に風太郎は苦笑していたが、五月(いつき)が持つお守りを見て、京都の少女との記憶を思い出す。

――そういえば、あの子も買っていたな。アホみたいにたくさん、五つも……と。

漠然とした記憶の一部からその光景を鮮明に思い出した風太郎はハッとなると、五月(いつき)に尋ねる。

 

 

「それ……どこで買ったんだ?」

 

「これですか?確か……5年前ぐらいに京都で………」

 

 

五月(いつき)の口から出たお守りの入手経路に目を丸くする。

5年前の京都といえば、ちょうど風太郎も家族旅行で訪れている。

 

そして、京都の少女は恐らく”五つ子”。そこに五月(いつき)たち五つ子もいたとするのなら、京都の少女の正体は中野家の五つ子の誰かかもしれないという疑惑が浮かぶのは当然のことだった。

 

 

「それって――」

 

「あ!五月(いつき)!」

 

 

風太郎が疑問を投げかけようとしたとき、病室の扉の方から聞こえる声に遮られる。

3人が振り向くと、病室の扉を開けてひょっこりと顔を覗かせる四葉(よつば)がいた。その近くには他の姉妹たちの姿も見えていた。

 

 

「なんだー……ここにいたんだ。あっ、天海(あまかい)さん。こんにちは」

 

「やあ。君たちも上杉の?」

 

「はい!あと、インフルエンザの予防接種も兼ねて。毎年受けてるんですよ。けど、五月(いつき)二乃(にの)が『注射が怖い』って逃げ出しちゃって……」

 

 

四葉(よつば)の話を聞いた(まなぶ)はチラリと五月(いつき)へ視線を向ける。

五月(いつき)は嫌々と首を横に振っていた。冗談ではなく、本気で嫌がっていた。

 

五月(いつき)の注射が苦手という点に(まなぶ)はますます惹かれると同時に、二乃(にの)も苦手だという事実に驚いた。

普段、強気なので特に怖がらないイメージを持っていたので当然だった。二乃(にの)にも可愛いところがあるもんだと(まなぶ)は思った。

 

 

「五人揃ったから今度こそ行くよ」

 

「ま、待ってください!心の準備が……!」

 

 

三玖(みく)の号令を皮切りに移動し始める。

五月(いつき)は適当な言い訳をして逃げようとするも二乃(にの)にあっさりと捕まってしまう。

 

 

五月(いつき)!私は覚悟決めたわ!あんたも道連れよ!」

 

「注射は嫌です~~!」

 

 

嫌々と泣き言を言うも五月(いつき)二乃(にの)に首根っこを掴まれ、ズルズルと廊下へ引きずられる。

注射を拒む声に(まなぶ)は少し不憫に思いながらも、五月(いつき)が連行されていくさまを苦笑しながら見送った。

 

一方、それをよそに風太郎は考え込んでいた。

京都の少女が五つ子の誰かという疑惑を……。偶然にしては共通点が多い事実にそう思わざるを得なかった。

 

 

「(京都……5年前…………偶然だよな?)」

 

 

しばし考えるも、その真実を埋める決定的なピースが浮かばない。

そのピースが浮かばない限り、確信を持つのは軽率。風太郎は偶然と言い聞かせながらも、このことを頭の片隅に置くことにした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、オズコープ本社・会議室では、株主、役員を招いての会議が行われていた。

縦長に真っ直ぐ伸びる黒塗りのテーブルの左右には幹部が座っており、その先端には難一(なんいち)が座っていた。

さながら、騎士を集めて鎮座する王のようだった。

 

内容はオズコープの今後の指針についてだ。

経営難に陥るオズコープは委員会に資金援助を頼んだが、肝心のトップは見限り、ライバル社の(ねぎ)コーポレーションへ資金援助しようとしていた。

 

だが、何者かの手によって殺されたことによってその話は立ち消えた。

オズコープにとっては願ってもないチャンスで既存製品の向上を取り組んだ結果、あっという間に回復し、最近まで市場で抜かれていた葱《ねぎ》コーポレーションを引き離した。

 

 

「―――本日をもって、我がオズコープは(ねぎ)コーポレーションを追い抜き、日本の科学製品筆頭供給となりました。これをひと言で言い換えれば……コストはダウンし、収益はアップ。株価もこれまでの最高値だ」

 

「素晴らしいぞ、緑川。素晴らしい」

 

「ありがとうございます……」

 

 

眼鏡をかけた白髪の株主に褒められた難一(なんいち)は胸を張って礼を告げる。

ピンチだった会社をここまで立て直したのだ。自分の会社を守るためなら何だって努力する……それが緑川 難一(なんいち)の掲げる社会奉仕精神だ。

 

―――これからもずっと続けていく。自分が生きている限りは……。

先の見えぬ未来へ希望を持って意気込んでいた矢先――

 

 

「―――そこで我が社を売ることにした」

 

「………え?」

 

 

株主の口から出た言葉に難一(なんいち)は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべる。

――会社を売る?一瞬、言っている意味がわからなかった。

そんな彼に株主は配られていたプリント資料を閉じると、難一(なんいち)を見据えて話を続ける。

 

 

「現時点では良いかもしれないが、私には首の皮一枚繋がっているように見える……また経営難に陥る危険性がある。そこで海外のライバル企業である『スターク社』に売却することにした。提示額も充分すぎる金額だ」

 

「初耳ですな……」

 

「権力争いは経営に支障をきたすため、避けたいんだ」

 

「君が社長の椅子に居続けば売却は成立しない。役員会は君を”解任”することに決定した」

 

 

とぼけた口調で返す難一(なんいち)に株主と隣に座るスキンヘッドの役員は続けて言う。

解任――それが意味することは”クビ”ということだ。

社長である自分が解任されるという通告に難一(なんいち)は狼狽える。

 

 

「そんなことできないはずだ……ははっ、私がこの会社を作ったんだ…………」

 

 

フラフラと立ち上がりながら、冗談だろと笑いかける難一(なんいち)

コツコツとキャリアを積み、一から作り上げたこのオズコープを立ち去るなんて笑い話にもならない。

 

だが、誰も難一(なんいち)の笑みに対して笑いかける者はいない。

冗談ではなく、事実だからだ。

夢、幻……?ショックを受ける難一(なんいち)の悲しみは次第に怒りへと変わり――

 

 

「どれだけこの身を捧げたと思うッ!!!」

 

 

と、悪鬼の如く顔をしかめ、怒りをぶつける。

その怒り顔は普段強面なのでより威圧感があり、怒りや悲しみだけでなく、内に秘めた傲慢さも現れていた。

 

自分の会社だから自分が守る……それが難一(なんいち)の持つ『権力』という名の傲慢だ。

難一(なんいち)がここで退けば、今まで築き上げてきたものが一気になくなってしまう。貯金は存分にあるが、涼介の将来のためにも会社を辞めるわけにはいかなかった。

 

難一(なんいち)はスキンヘッドの役員に目で助けを求めるが、彼は首を横に振る。

 

 

「緑川……全員一致の決定だ。フェスティバルが終わったら、売却を発表するよ。すまない……」

 

「君は”クビ”だ……」

 

「……ッ、クビ………」

 

 

申し訳なさそうに告げる役員に続けて、株主からハッキリと通告を受けた難一(なんいち)

あまりもの悲惨な現実に椅子にどかっと項垂れる。

役員たちも申し訳なさそうに思いながらも、頭が真っ白となって固まる難一(なんいち)から目を逸らした。

 

晴れて解任された難一(なんいち)。これからはオズコープの社長ではなく、ただの一般人。

たった数時間で今まで積み上げてきたものを全て奪われてしまった。あまりにも残酷すぎる。

 

だが、その表情は悲しみとは真逆に嬉しそうで、目を細め、怪しく笑みを浮かべていたことは誰も知らなかった……。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①スターク社
 MARVELのヒーロー『アイアンマン』こと、トニー・スタークが運営する会社。
アメコミ原作ではオズコープとは因縁があり、オズコープ社長のノーマン・オズボーンがスーパーヒーローを管理する組織『S.H.I.E.L.D.』を再編した組織『H.A.M.M.E.R.』の長官になった際、アイアンマンスーツをトニーから没収した。
 その後は『アイアンパトリオット』として、ならず者集団『ダークアベンジャーズ』を引き連れ、アメリカ全土を支配するため、暗躍した。


シンビオートを登場させる?

  • さあ、ノッていこうぜ…(YES)
  • じゃあな、マヌケ(NO)
  • 何だよ、ゴブリンJr.…泣くのか?
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