SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#23 発覚

グリーン・ゴブリン襲撃事件が去った日からまた次の日の昼。

スパイダーマンこと(まなぶ)は人で溢れかえる旭高校の食堂にいた。

彼の心はいつにも増して不安が大きかった。普段なら小食なので、コンビニのおにぎり2個で軽く済ませるが、カレーライス大盛を注文するほどだ。食堂のメニューを滅多に利用しないので、自分自身珍しいと思っている。

 

その悩みの種はデイリー・ビューグルの編集長の紫紋(しもん)による大々的なネガティブキャンペーンだ。

突如としてデイリー・ビューグル本社を襲ってきたグリーン・ゴブリンから紫紋(しもん)を助けた(まなぶ)なのだが、あろうことか共犯扱いにされてしまうような記事を出されてしまった。

それによって、世間のスパイダーマンに対する評価は悪い方へと傾き、街中には手配書が貼られるようになった。

さらに悪影響はそれだけには留まらず、『蜘蛛男追放団体』という過激な団体までもが結成される始末。

(まなぶ)は世論の汚名を晴らす意味を込めてグリーン・ゴブリンを探しているが、手掛かりは何1つ見当たらなかった。

 

 

「(大いなる力には、大いなる責任が伴う……か)」

 

 

大盛のカレーが載ったトレイを手に歩きながら、(まなぶ)はふと、叔父の(つとむ)が生前に遺した言葉を思い返す。

強すぎる力は相応の責任を持ち、正しきことのために使え……それが叔父から教わったことだ。今までそれが正しく、何よりも社会奉仕へと繋がると信じていたからだ。

 

だが、あまりにも酷なバッシングを受けた(まなぶ)の心は揺らいでいた。

いくら助けても助けても、世間からは冷たい扱いをされてしまう。それゆえ、グリーン・ゴブリンから言うように、自分を律せずに好き放題力を使えばいいのか、と悪い誘惑と良心に挟まれて悩んでいた。

いくら考えようが、いくら寝ようがその悩みは消えることはなかった。

 

 

「(こんなとき、叔父さんならどうするだろう?)」

 

 

ふと、そんなことが頭に浮かぶ(まなぶ)

叔父の(つとむ)に頼めば、何かしらのアドバイスを授けてくれるのだろうが、今はいない。結局、自分自身で決めないといけないことだ。

(まなぶ)はもやもやとした気持ちのまま、親友の待つ席に向かった。

対面席に座る(まなぶ)の手前にあるトレイのものを見て、涼介は丼から箸を止めて反応を示す。

 

 

「おお、(まなぶ)!珍しいな!それ、大盛?」

 

「まあね。期末テストも近付いてきてるし、家庭教師の方も力入れないと思ってね」

 

「ゲン担ぎか……ははっ、流石優等生!無理して腹壊すなよ?」

 

 

ニヤリと冗談っぽく笑う涼介との会話に自然と笑みがこぼれる(まなぶ)

他愛のない話だが、不思議なもので、親友と話すだけで気持ちが軽くなる。

それを皮切りに雑談を交えながら、2人は各々の食事を摂っていく。

 

 

「そういや、また遅刻して生徒指導の先生に叱られたよ……」

 

 

雑談で盛り上がる最中、ふと嫌な記憶を思い出した(まなぶ)は神妙な顔で口にする。

そう、このところ(まなぶ)は遅刻や忘れ物などを頻繁にするようになっていた。

(まなぶ)は高校生、家庭教師、スパイダーマンの三足のわらじを履いている。今までは問題なかったが、日夜関係なく起こる自警活動に追われるあまり、学業面に支障をきたし始めていた。

その影響はもちろん、家庭教師の方でも及んでいる。

 

自分ができることをやっているのにも関わらず報われない……何とかしようともできない状況に(まなぶ)は更に頭を悩ませる。

気を落とす(まなぶ)に涼介は不可解そうに眉をしかめる。

 

 

「また遅刻?」

 

「うん」

 

「……調子悪いの?この前の中間テストだって上杉に抜かれたじゃん。いつも何やってんの?」

 

「………色々」

 

 

心配そうに言葉を投げかける涼介に(まなぶ)は不安な感情を押し殺した笑みを返す。

涼介の言うように、今まで”1位”だった中間試験の成績順位が”2位”へと転落してしまうほどに成績を及ぼす状況は大丈夫とは言えない。

だが、「スパイダーマンだから忙しい」なんて相談事は口が裂けても言えない。自分が解決しなければならない問題だからだ。

当の涼介は未だ不安の色が消えていないが、そう誤魔化すしかない。

 

暗い話題でせっかく上がっていた気分は一瞬にして冷めてしまった。口に運ぶ食事は味がせず、まるで通夜のようなムードになっていた。

これに見かねた涼介は「ああ~」と気まずそうに声を上げると、話題を変える。

 

 

(まなぶ)。そう言えば、明日から三者面談があるけど、何日目に入っている?」

 

「……?初日の14時だけど」

 

「お?俺と同じ日だ!時間もピッタシ!」

 

「ははっ、そうなんだ」

 

 

にっこりと笑う涼介につられて、(まなぶ)も同じように笑う。

旭高校では明日から3日間の平日午後13時から保護者、生徒、担任の教師を交えた三者面談がある。

それに伴って授業は午前中にしかなく、学生にとっては早期帰宅できる夢のような時間である。

内容は学年ごとに違うが、2年生の場合は現在の成績と今後の進路についての話だ。先の見えない将来のために決める大事な面談なので、こればっかりは遅刻したくない。

 

 

「叔母さん、来るの?」

 

「ん?まぁ、そうだね」

 

「いいよなーー……うちの親……父さんは来るかわかんないし……1年のときは執事が代わりに来てた」

 

 

保護者同伴することが確定している(まなぶ)の話を聞いて、涼介は自嘲気味に苦笑する。

涼介の父――難一(なんいち)は大企業オズコープの社長である。大企業の社長となれば当然それ相応の責任と義務が付きまとい、学校行事へ赴くことは滅多にできない。

そのことは涼介自身はわかってはいるが、たった1人の親に来てもらえないのは心寂しいものだ。

 

 

「……」

 

 

何とか良い言葉をかけたい(まなぶ)だが、中々思いつかない。

いくら親友と言えど、事情抜きにしても家庭環境には口出しするようなマネはできなかった。

返す言葉がない(まなぶ)はただ相槌を打つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼。

地上の人々の遥か頭上、建ち並ぶビル群の合間を縫うようにスパイダーマンは飛んでいた。

ウェブを射出してはスイング、また新たにウェブを射出してはスイング……とターザンの如くスイングし、目まぐるしく変わる街中を駆けていく。

 

この行動に至った理由は『時間に余裕があるから』だ。

今日は三者面談があるのだが、始まるまでにはまだ時間があるので、暇つぶしも兼ねてパトロールをするに至ったのだ。

暇つぶしにもなるし、犯罪を抑えることができる……これ以上ない時間の有効活用だ。

 

1時間ほどスイングしたスパイダーマンは休憩がけらにビルの壁面に片手と足を使ってくっつく。

腰の隠しポケットからスマートフォンを取り出し、時間を確認する。

 

 

「(13時か……あわよくばゴブリンの行方を掴めればいいって思ってたけど、特に犯罪もないし……)」

 

 

思ったように成果が得られず、やや不満げになるスパイダーマン。

パトロールを兼ねてグリーン・ゴブリンの行方を掴もうと捜査していたのだが、どこにも見当たらなかった。

今までグリーン・ゴブリンと遭遇した場所、関連がありそうな施設を全て見回ったのだが、解決の糸口を掴めるものは何一つ見つけ出せなかった。

スマートフォンをポケットに戻したスパイダーマンは息を大きく吸うと――

 

 

「グリーン・ゴブリンさーーん!グリーン・ゴブリンさーーん!出てきてくださーい!お届け物がありまーーーす!」

 

 

と、やけくそ気味に大声で呼びかける。

だが、当然ながらそう簡単にグリーン・ゴブリンが出てくることはなく、聞こえてくるのは地上の喧騒音だけだった。呼んでホイホイと出てくるなら、ここまで苦労はしない。

 

「出てくるわけないよな」と嘲笑したのち、スパイダーマンが退却しようとしたその時だった。

空からスパイダーマンに目掛けて、3本ものコウモリを模した手裏剣が飛んできた。

 

 

≈「――ッ!」≈

 

 

その奇襲をスパイダーセンスでいち早く察知したスパイダーマンは素早く壁面から飛び退くと、ウェブを使って向かい側のビルの壁面にくっつく。

標的を失ったコウモリ型の手裏剣は深々とコンクリートの壁面に突き刺さる。

誰の仕業だ、と思いつつもスパイダーマンが想像つく人物を浮かべていると、気配を感じる方を見上げて納得する。

 

 

呼ばれたから、出てきてやったぞ……

 

 

グライダーの上から低いしわがれた声を発する人物――グリーン・ゴブリンだ。

コウモリ型の手裏剣で攻撃してきたのもこの男の仕業で、スパイダーマンが想像していた通りの人物である。

どうしてここにいるのかなど、色々疑問はあるが、願ってもない機会。スパイダーマンは警戒しつつも話しかける。

 

 

「思ってもなかったよ、呼んだら出てくるなんて。探す手間が省けるよ」

 

俺の申し入れに対する答えは出たか?仲間になるのか、ならないのか?

 

 

スパイダーマンの軽口を無視しつつ、グリーン・ゴブリンは勧誘の返答を訊く。背後に回す手にカボチャを彷彿させる球を握りながら。

 

 

「馬鹿言うな。『ノー』に決まってるだろ」

 

 

それに対し、スパイダーマンははっきり断る。

確かに自分のやっていることは偽善的で利口な行動とは言えないかもしれない。

だが、悪事を正当化し、人殺しと協力するなんてどう考えても間違っているからだ。

 

 

答えが違う!

 

 

『交渉決裂』という名目を得たグリーン・ゴブリンは掌に隠していた球体のスイッチを押すと、それを前方へ放り投げる。

球体は宙で5つのコウモリ型の手裏剣―――レイザーバットに変形すると、刃を高速回転させながらスパイダーマンに襲い掛かる。

 

 

「面白い……!」

 

 

痛みへの恐怖を紛らわせるため、スパイダーマンはそう一言呟くと、身体を捻りながら前方へ跳躍。

レイザーバットの雨をスレスレのところで避ける。

その勢いのまま、スパイダーマンはグリーン・ゴブリンの前方に立つようにグライダーの上に乗った。

不法侵入者を追い出すべく、グリーン・ゴブリンはグライダーを発進させる。

 

スパイダーマンはさっそく拳を一撃食らわせようとするが、先にグリーン・ゴブリンの拳が鼻っ面に炸裂する。

グリーン・ゴブリンはスパイダーマンがふらついた好機に胸元を殴りつけたのち、顎を蹴り上げる。

その衝撃でスパイダーマンの重心は後ろへと傾き、地上へ落ちそうになる。

 

 

ピシュッ!

 

「ハァッ!」

 

ぬおッ!?

 

 

負けじとスパイダーマンはウェブをグリーン・ゴブリンの両肩にウェブをくっつけると、頭突きを食らわせる。

顎に直撃し、グリーン・ゴブリンの口から苦しげな声が漏れる。

のけ反った隙にスパイダーマンは右、左と頬に拳を打ち込んだ後、胸元の中心目掛けて右拳を叩きこむ。

 

スパイダーマンはすかさず左足の回し蹴りを放つが、グリーン・ゴブリンに両腕で防御されたのち、脛付近に腕を回されて掴まれる。

 

 

ウゥアァァーーーッ!!!

 

「うあぁぁーーーッ!!?」

 

 

グリーン・ゴブリンは足を捕らえたままグライダーを一回転。回転の勢いを利用して、スパイダーマンを豪快に投げ飛ばす。

投げ飛ばされたスパイダーマンは近くの高層ビルの窓ガラスをガッシャ―ンと破砕音と共に突き破り、床に身体を打ち付ける。

 

 

『きゃぁああーーーッ!!?』

 

「……ッ」

 

――――ハッハッハッーーーーーーーーッ!!!

 

 

窓を突き破って不時着したスパイダーマンを見て、オフィス内の会社員たちは悲鳴を上げながら逃げ出す。

強い衝撃にマスクの下で苦悶の表情を浮べながらスパイダーマンが起き上がると、確実に仕留めようと、割れた窓からグリーン・ゴブリンがグライダーの先に刃を立てながら突進してくる。

会社員たちが逃げ出したのはグライダーに乗ったグリーン・ゴブリンが殺意満々でやって来るからだ。

 

一瞬で冷や汗が溢れたスパイダーマンはすぐさま仰向けになって避けると、通り過ぎるグライダーの先頭部にウェブを引っ付ける。

そのままグイッと引っ張ると、直線を保っていたグライダーの角度が前へ傾く。

 

 

うおッ!?

 

 

足場が傾き、バランスを崩したグリーン・ゴブリンは小石で躓いたかのように吹き飛び、機材だらけのデスクに衝突する。

衝撃とグリーン・ゴブリンの体重によってデスクはへこんでおり、置いてあったパソコンは火花が散り、筆記用具が床に散乱する。

グリーン・ゴブリンは気を失ったかのように大の字でぐったりと倒れる。

 

 

「…………気絶したのか?」

 

 

しばらく警戒して様子を伺っていたスパイダーマンは疑問の声を漏らすと、僅かに気を緩める。

10秒ほど待っているが、グリーン・ゴブリンはピクリとも動かず、大の字で寝転がったままだった。彼が気を失っていることを報せるようにグライダーのエンジンもピタリと止まった。

これらの要点から、気絶していることは目に見えてわかっている。

 

だが、スパイダーマンには疑心感があった。

――もしかしたら気絶しているフリをしている………こちらが油断した隙に騙し討ちを狙っているのではないか、と。

仮面で素顔を覆っているので表情は遠目からは確認できない。そして、シーンと静まりかえった辺りの空気がより一層緊張感を高め、疑心感を募らせていく。

 

けれど、近付かないわけにもいかない。

いくら怖いからといってこのまま悪人を野放しにしておくわけにはいかない。

意識の有無の確認を含め、スパイダーマンは一歩一歩、慎重に近付く。

10m、8m、6m……とその差を埋めていく。

 

 

≈「ッ!」≈

 

 

そして、5mを切ったそのとき、脳内でスパイダーセンスが警鐘を鳴らす。

これが発動する意味は身の危険が迫っているということ。言い換えるなら、自分に害するものが近くにあるということだ。

つまり、それは――。身の危険を悟ったスパイダーマンはすぐさまグリーン・ゴブリンから離れようとした瞬間――

 

 

プレゼントだ!

 

 

先程までピクリとも動かなかったグリーン・ゴブリンが起き上がると、パンプキンボムを投げつける。

かぼちゃを彷彿させる色をした球体状の爆弾は身体を反らすスパイダーマンを通り過ぎると、ピッピッと秒読みを刻んだ後、緑色の輝きを放ち――

 

 

ドォォォーーーンッ!!

 

 

けたたましい音と共に大爆発を起こす。

ビル中のガラスは砕け散り、部屋中は爆風と破片によって破壊し尽くされる。オフィス内はあっという間に火の海へと変貌した。

規定以上の熱を探知し、オフィス内の全てのスプリンクラーが作動する。

 

 

「……ッ」

 

 

天から降り注ぐスプリンクラーと火炎に周囲が包まれる中、スパイダーマンは瓦礫を押しのけて立ち上がる。

スパイダーセンスのおかげで直撃は避けられたものの、発生する爆風には耐えきれず、吹き飛ばされてしまった。

破片やら何やらが当たったせいか、身体中あちこち痛みがある。それでも、人の原型を保っていれたのはスパイダーパワーさまさまだろう。

 

 

ハアッーー!!

 

「お……ッ!?」

 

 

ほっとひと安心しているのも束の間、火の海を飛び越えてきたグリーン・ゴブリンの拳を腹に受けてしまう。

たて続けに左頬に一撃もらうが、側頭部目掛けて放たれた左拳は右腕で防ぐと、右頬を殴り返す。

 

怯んだグリーン・ゴブリンは飛び退くと、レイザーバットを投げつける。

5つのコウモリ型手裏剣がスパイダーマンに迫りくる。

 

 

「またそれかッ!」

 

 

刃を高速回転しながら襲ってくるレイザーバットを目にしたスパイダーマンは嫌そうに毒吐く。

如何にも痛そうなカッターをスプリンクラーと火炎が舞う悪視界の環境で避けなければならないのだ。無茶ぶり過ぎるこの状況には、普段気持ちを押し殺すスパイダーマンもつい口に出てしまった。

 

嫌々思っていてもレイザーバットは止まってくれない。

最初にやってきた2つのレイザーバットを大股開きで避け、続いてやってきた残りの3つもトリプルアクセルのように身体を捻りながら避けた。

 

 

ウゥアァーーッ!!

 

「ハアァッ!」

 

ヌアァッ!?

 

 

その隙にグリーン・ゴブリンが迫ってくるが、スパイダーマンは腹部を蹴上げる。

苦痛の声を上げながら宙を舞うグリーン・ゴブリン。

すかさず、ウェブをくっつけて手繰り寄せ――

 

 

「フンッ!!」

 

ゥウゥアァァアーーッ!!?

 

 

思いっきり回し蹴りを再び腹部へ叩きこむ。

命中したグリーン・ゴブリンは困惑の声と共に手足をバタバタしながら大きく後方へ飛び、壁に衝突する。

その衝撃によって火によって脆くなった天井や柱が崩れ、火の粉が激しく舞う。

一瞬にして大火災になったオフィスの火はスプリンクラーの消化でも抑えることができず、ますます激化していく。

 

 

「(早くしないと……!)ッ!?」

 

 

あまり時間がないことを悟ったスパイダーマンがグリーン・ゴブリンのもとへ駆け寄ろうとした瞬間、後ろから何かが顔の横を通り過ぎる。

スパイダーマンが振り向くと、その正体は先程避けたレイザーバットだった。

レイザーバットは単なる飛び道具ではなく、追尾機能を持った厄介な武器だったのだ。

 

追尾機能があるということは1つや2つだけでなく、全て持っていることを意味している。

当然、先程通り過ぎたのも……。

思わぬ敵に驚くスパイダーマンにレイザーバットは意思を持つかのように再び襲い掛かる。

 

全て叩き落とすしか手がないと踏んだスパイダーマンは拳を構える。

スパイダーマンのパワーにかかれば、この程度の金属武器を破壊するのは容易い。

スパイダーマンは前後左右からやってくるレイザーバットを次々と叩き落としていく。

 

 

チッ……!

 

「ッ!?あぁッ!!」

 

 

だが、最後の一機を叩き落とした際、回転する刃が左前腕をかすってしまう。

鋭い刃はスーツの生地を破り、スパイダーマンの素肌に真っ赤な切り傷を作った。

激痛のあまり、思わず悲鳴を上げたスパイダーマンはかすった前腕を抑える。傷は思った以上に深く、切り傷から出る血は抑える手から溢れ、床へポタポタと落ちる。

 

スパイダーマンが怯む中、起き上がったグリーン・ゴブリンは叫ぶ。

 

 

ここまでにしておこう………せいぜい、周りに気を付けることだな!

 

「ッ、待て!うあッ!?」

 

 

グリーン・ゴブリンの言葉から、去り際の捨て台詞と思ったスパイダーマンは逃がすまいと駆け寄ろうとするが、立ち塞がるがの如く、爆風が起きる。

燃焼によって建物の崩壊が始まり、猛烈な爆風を引き起こしたのだ。

 

身構えたスパイダーマンは爆風が収まったのを機に周囲を見渡すが、グリーン・ゴブリンの姿はすでにいなかった。近くにあったグライダーもいつの間に回収したのか、痕跡すら残さず消えていた。

ただあるのは、外から聞こえるパトカーと消防車のサイレンの音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、旭高校では、白い婦人帽に色調鮮やかなアジサイがプリントされた婦人服に身を包んだ老婆が1人、教室の前に用意された椅子に座っていた。

その老婆は(まなぶ)の叔母――(みこと)だ。

三者面談である今日。両親がいない(まなぶ)の親代わりである彼女がやってきたわけだ。

成績優秀の(まなぶ)なので、成績面で毎回心配する必要がない。「甥っ子さんは素晴らしいです」と心地よい言葉ばかりが返ってくるばかりだ。

 

だが、今回に限って(みこと)はそわそわしていた。

 

 

「まだかしら……?」

 

 

そう呟きながら、(みこと)は手元の時計に目をやる。時刻は13時50分にさしかかっており、面談予定時刻の14時まで10分を切ろうとしていた。

(まなぶ)とは13時30分には現地集合するよう約束していたのだが、廊下の先や窓から外を眺めても彼らしき姿は一向に見えなかった。

 

――もしや、何か事故に巻き込まれたのでは?

そんな最悪な予感が頭を過り、時計の針がひとつひとつ進む度に、段々と不安になっているというわけである。

 

 

「あの子、大丈夫かしら……」

 

「おばさま、こんにちは」

 

 

(みこと)が不安そうに呟いていると、聞き覚えのある少女の声が。

思考を一旦停止して振り向くと、ウェーブのかかったロングヘアーの少女――五月(いつき)が可愛らしい大きな目を向けていた。

彼女を目にした(みこと)はハッと口の前に手を当てる。

 

 

「あら!五月(いつき)さん。こんにちは~」

 

「すみません、ホットケーキご馳走していただいて……」

 

 

五月(いつき)の話の内容が一瞬わからなかったが、(みこと)はすぐに思い出す。

実は花火大会があった日、(まなぶ)が帰ってくるまでの間、家庭教師代を手渡しにきた五月(いつき)にホットケーキを馳走していたのだ。

年頃の女の子なのでそんなに食べないと思っていたが、次から次へと食べていき、最終的には1()0()()()()()した。

(みこと)五月(いつき)が幸せそうにパクパクと食べていた光景を思い出し、照れくさそうに笑う。

 

 

「ふふふっ、そんな大した料理じゃないのに……」

 

「そんなことありません!あのホットケーキはおばさまにしか作れない、最高の料理ですっ!」

 

「ふふっ、ありがとう。またいつでも食べにいらっしゃい」

 

「はいっ!」

 

 

(みこと)の誘いに五月(いつき)はニッコリと微笑む。

その明るい表情を見て、(みこと)は思った。本当に食べるのが好きなんだ、と。

外見とはかけ離れた健啖家に驚きはしたものの、邪な気がなく純粋に幸せを噛み締めた笑顔に(みこと)もつられて笑顔になる。

そんな彼女に好きなだけ食べさせてあげたいと思ってしまう……保護愛に似た感情を抱いてしまう。

 

 

「父さん!?来てくれないかと思ってたよ!」

 

「なぁに、お前のためなら何でもやる。それが親の務めだ」

 

 

彼女らが談笑している近くで、嬉しそうな声が上がる。涼介とその父親である難一(なんいち)だ。

難一(なんいち)はオズコープの社長という立場なので中々学校行事に来れず、涼介は毎回寂しい思いをしていた。

涼介は今回も無理だろうと諦めかけていたが、予想を良い意味で裏切ってくれた展開に喜ばずにはいられなかったのだ。難一(なんいち)としては、親としての責任の他に、今まで来てやれなかった償いも込めている。

 

親子らしい会話を交わしていると、難一(なんいち)(みこと)の存在に気付く。

息子の親友である保護者に挨拶を、と至って交友関係の築きから基づく考えが脳裏に浮かんだ難一(なんいち)は涼介をつれ、(みこと)へ声をかける。

 

 

天海(あまかい)さん、ご無沙汰しております」

 

「ッ!まあ、緑川さん!」

 

「ああ、そのままで。楽にしてください。私たちの付き合いじゃないですか……」

 

 

口をポカンと開けた(みこと)はすぐさま立ち上がろうとするが、ニコッと微笑む難一(なんいち)にそのまま座るように促され、その通りにする。

難一(なんいち)にとって天海(あまかい)家は家族同然であり、変に気遣われるのは他人行儀みたいで違和感でしかない。仕事は仕事、プライベートはプライベートで気持ちを切り替えするのが難一(なんいち)なりの社会人としての心構えだ。

そんな会話をしていると、難一(なんいち)は隣にいる五月(いつき)と目が合う。見慣れない顔に眉間にしわをよせる。

 

 

「おや?こちらのお嬢さんは……」

 

「ああ、父さん。中野(なかの) 五月(いつき)さんだよ。ほら、(まなぶ)が家庭教師をしてるっていう………」

 

「ああ~……この()が例の……」

 

 

見かねた涼介の説明を受けた難一(なんいち)は納得の表情を浮かべる。

以前に涼介から、(まなぶ)が五つ子の家庭教師のアルバイトに手を焼いているという話は度々耳にしていた。きっとそのことだろう、と疑問が解消した。

涼介の紹介を受けた五月(いつき)はぴしりと背筋を正し、口を開く。

 

 

「はじめまして、紹介にあずかりました中野(なかの) 五月(いつき)です」

 

「中野……もしや、中野医院長のご息女かな?」

 

「?ええ、そうですが……」

 

「そうか……!いや、実は君のお父上が勤務されている病院の医療機器は全て、我がオズコープが提供していてね…………今日、お父上はいらっしゃられるかな?」

 

「いえ、父は忙しくて……」

 

 

首を横に振って、僅かに顔を曇らせる五月(いつき)を見て、内心「しまった」と焦る難一(なんいち)

マルオが医療従事者という立場上、多忙である。そのため、中々触れ合う機会がないのは明白だった。

 

 

「そうか……すまなかった。もし、会う機会があれば、お父上によろしく伝えておいてくれ」

 

「はい」

 

 

地雷を踏んでしまったと思った難一(なんいち)はバツの悪い顔を浮かべながらも謝罪代わりの言葉を贈る。

誰にでも触れてほしくないことはあるもので、自分が悪くなくとも謝るのが彼のルールだ。

 

五月(いつき)難一(なんいち)が初対面の会話をしていると、辺りを軽く見渡した涼介が(みこと)に尋ねる。

 

 

「……(まなぶ)のやつ、まだ来ていないんですか?」

 

「ええ、そうなの。連絡ひとつも寄こさないのよ?電話も出ないし……」

 

「それは心配ですね……何かに、巻き込まれたのでは?」

 

「そうじゃないといいけど……」

 

 

話の途中、首を傾げながら発する難一(なんいち)の予想に(みこと)は心配そうにしながらも逆であることを祈る。

(まなぶ)の家からこの旭高校までは徒歩30分ほどの距離があるものの、交差点が多くない地帯だ。信号に引っ掛かることや交通トラブルなどは滅多に無く、歩き慣れている(まなぶ)なら、まず道に迷うことなどない。

 

しかし、現に彼は遅れている。しかも、連絡ひとつも寄こさないのだ。あまりにも不自然な状況だ。

何があったのか……考えるものの、それらしい情報は無く、ただただ不安な気持ちだけが募っていくばかりだった。

刻々と14時の時刻に迫る時計。もう5分を切っており、教室にいる(みこと)の前の面談者は終わろうとする空気が漂っていた。

(まなぶ)が来る気配がないことに、皆が不安を抱えていたそのとき――

 

 

「お待たせ!」

 

 

と、廊下の奥から申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

皆が声のした方を振り向くと、廊下を駆け足でやってくる(まなぶ)の姿があった。

 

 

「ああ、(まなぶ)!」

 

(まなぶ)ー」

 

「いやー……ごめん。途中で携帯を忘れたのに気付いて取り返ったらこんな時間に」

 

「そうなのね~……ともあれ、無事で良かったわ」

 

 

(みこと)と涼介から安堵から出る声が上がる中、(まなぶ)は弁明する。

もちろん嘘なのだが、電話に出なかった理由と合致し、(みこと)をはじめ、皆は納得する。

皆がほっとひと安心していると、ふと視線を向けた(まなぶ)の違和感に気付いた五月(いつき)は顔を青ざめる。

 

 

「あ、天海(あまかい)君……!血が……!」

 

「……え?あっ!」

 

「……?」

 

 

五月(いつき)に指差す先を見て、(まなぶ)はぎょっとする。

五月(いつき)が指摘した箇所……左前腕から血が滲み出ており、上に着ている白シャツに真っ赤な円を作っていた。この傷は先の戦闘でレイザーバットによって負傷したよるものだ。

それを見た難一(なんいち)は明るい表情から一変して、訝しげな目を送る。

 

 

「あら、大変。事故に巻き込まれたの?」

 

「あ、ああ……!そうなんだ!急いでて、車道に飛び出して、バイクメッセンジャーに引っ掛けられた。でも、大丈夫。大した怪我じゃないから」

 

「血が出て大丈夫な訳ないでしょ?見せてごらんなさい」

 

 

怪しまれると危機感を感じた(まなぶ)は苦し紛れの言い訳をするが、(みこと)には通用せず、腕部分を覆うシャツを捲り上げられる。

外界へと晒された左前腕は出血こそ止まっているものの、カッターで切ったような真っ赤な切り傷が出来ていた。怪我したときは深い傷だったものの、(まなぶ)自身の人間を超えた自然治癒力あってのものだ。

 

だが、それを抜きにしても大怪我によることは変わらず、(みこと)は心配そうな表情を浮かべる。

 

 

「まあ……!酷い怪我じゃないの!」

 

「大丈夫だって。唾でもつければ治るよ」

 

「ばい菌でも入ったら大変だわ。保健室で手当てしてもらわないと……!」

 

「(あの傷は……!)」

 

 

心配する(みこと)とそれを宥める(まなぶ)をよそに、左前腕の怪我を見た難一(なんいち)は似た怪我をした光景が脳裏に浮かぶ。

脳裏に浮かんだのは、自身が放ったレイザーバットを叩き落とすスパイダーマンが回転する刃の破片で腕に切り傷を負ったことだ。しかも、同じ左腕、同じ箇所。

それと同じ怪我をした(まなぶ)が遅れたことを考えると、1つの疑念が浮かぶ。

――スパイダーマンとして自分と戦ってたから、と。

あり得ないと思いつつも難一(なんいち)は腕の切り傷に視線を送りながら、重苦しそうに口を動かし、(まなぶ)に訊き返す。

 

 

「………どうやって怪我したって?」

 

「バイクメッセンジャーに……ぶつかって………」

 

 

同じ言い訳をする(まなぶ)だが、難一(なんいち)にはそれが”嘘”だとすぐにわかった。

引っ掛けられたにしては刃物で切ったような切り傷だし、何よりも上に着ているはずの()()()()()()()()()()()()()()()()

捲っていたとも考えられるが、それはないだろう。腕部分には捲った際に出来るしわが一切無いからだ。

 

さらに、(まなぶ)五月(いつき)に指摘された瞬間、焦ったような顔をしたことを難一(なんいち)は見逃さなかった。まるで()()()()()()()()()()()()と言わんばかりに。

これらの観点から結びつく結論……それは、(まなぶ)=スパイダーマンということに。

確信めいた表情を浮かべた難一(なんいち)は冷や汗をかきながらも、口を開く。

 

 

「………申し訳ないが、行かなくてはならない」

 

「え?何で?三者面談は?」

 

「急に()()()()()()があってね……先生には謝っておいてくれ。天海(あまかい)さん、それから皆。失礼するよ」

 

「え、え?父さん!?せっかく来たのに……!」

 

「仕事なんだ。すまない」

 

 

留まらせようとする涼介にそう言って押し通すと、難一(なんいち)はスタスタと教室前から去っていった。

その後ろ姿を(まなぶ)たちは困惑した表情で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパイダーマンを倒すのは難しい……だが、天海(あまかい) (まなぶ)を破滅させる手ならある………

 

 

T市5番地区にある緑川邸のリビングルーム。薄暗い部屋にメラメラと燃える暖炉のオレンジ色の輝きが部屋中を照らす。

揺らめく輝きの中で、長椅子の角に立てかけられたグリーン・ゴブリンの仮面からゴブリンの声が難一(なんいち)に囁きかける。

実際に仮面が喋っているのではなく、ゴブリンというもう1つの人格が難一(なんいち)自身の脳裏に話しかけているのだが暗示のようなもので、難一(なんいち)には仮面が話しかけているように見えた。

 

 

「うっ、ううっ……!そんなことできない!」

 

 

冷静なゴブリンとは対照的に、泣きじゃくりながら拒否を示す難一(なんいち)

難一(なんいち)にはできるはずがなかった。息子同然のように思っている息子の親友を手にかけるなど……。考えるだけで恐ろしく、震えが止まらない。

仮面から顔を背ける難一(なんいち)にゴブリンは一喝する。

 

 

裏切り者を黙って放っておくつもりか!?天海(あまかい)によく思い知らせてやれ、俺たちを敵に回したことへの”後悔”を……

 

「どうしたらいい………?」

 

 

――この苦しみから一刻も解放されたい。

このゴブリン(悪魔)には従いたくはないが、周りへの影響を考えると、屈するしかなかった。

涙で頬を濡らして振り返って尋ねる難一(なんいち)の弱みを突き、ゴブリンは好機とばかりに囁く。

 

 

大事なものを失う”苦しみ”を味わせる。死んでしまいたいほどの苦しみをアイツに与えろ!

 

「はい……」

 

そして、望み通りに殺してやれ……

 

「どうやって?」

 

賢い戦士は攻撃するのは肉体でも頭脳でもない……

 

「どうすればいいんだーーーッ!!?」

 

 

恐ろしさのあまりに跪く難一(なんいち)は泣きすがるように大声を上げる。

すると、ゴブリンは冷徹にこう答えた。

 

 

”だ、難一(なんいち)……!まず、アイツの””を攻撃する……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

(まなぶ)がいつものように家庭教師のアルバイトへいっている頃、天海(あまかい)家では1人残った(みこと)が自分の寝室にある仏壇に向かって膝をついていた。

この仏壇に祀られている人物は彼の夫である(つとむ)だ。(つとむ)が亡くなって以降、(みこと)は毎日欠かさず、こうして祈りを捧げているのだ。

 

 

チーン……

 

「……」

 

 

おりんを鳴らした後、(みこと)は瞳を閉じ、仏壇に祀られている(つとむ)の位牌に向かってお祈りをする。

おりんの音が鳴り止むまで、ただ、静かにジッと……。

 

音が遠ざかり、祈りを止めた(みこと)は仏壇の傍に飾られている(つとむ)の生前の写真を手に取る。

写真に写る(つとむ)は爽やかな笑顔を向けている。元気な夫の顔を見て、(みこと)は彼と過ごしてきた思い出が脳裏に浮かび、思わず涙腺が緩みそうになるが、ぐっと堪える。

熱くなる目頭を指でつまんだのち、微笑みながら語り掛ける。

 

 

(つとむ)(まなぶ)は私たちのためにアルバイトをしてまで頑張ってくれてるの。あの子に危険が降りかからないよう、どうか護ってあげて……」

 

 

(みこと)が祈ったこと……それは(まなぶ)の身の安全である。

アルバイトに励んでいる(まなぶ)だが、最近、どうもくたびれているようであり、気になって仕方がないのだ。

自分が代わりに働きたいが、老い先短い自分ではどこも雇ってはくれないのが現実。

当然、祈ったところで写真の(つとむ)が何か返事をくれるわけではないし、何かしてくれるわけでもない。

まだまだ未来がある(まなぶ)を危険から遠ざけてほしい……それだけを打ち明けたかった。

 

祈りを捧げた(みこと)がそう願っていたそのとき――

 

 

ドォォォーーーンッ!!

 

「ああっ!?」

 

 

突如、背後の壁が爆発。瓦礫が混じった爆風に巻き込まれた(みこと)は尻餅をつく。

(みこと)が痛みに顔を歪ませていると、縁に火が燃え、ぽっかりと空いた壁からグライダーに跨ったグリーン・ゴブリンが愉快そうに見下ろす。

グリーン・ゴブリンを目にした(みこと)は恐怖のあまり錯乱し、悲鳴を上げる。

 

 

「あ、ああぁぁーーーーッ!!?」

 

ハッハッハッハッ……!ゆっくり祈れ!最後まで祈れェェッ!!!

 

「あ、悪魔……!神様、仏様!お護りくださいーー!!」

 

ハッハッハッハッ……!!

 

 

産まれて間もない子羊のよう、(みこと)は震えた声で祈りをささげる。

その様子をグリーン・ゴブリンは嘲笑う。恐怖に包まれた闇夜の中、グリーン・ゴブリンの笑い声が響き渡る……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後……同日の夜。

T市1番地区の総合病院の救急外来口から(まなぶ)は焦燥の表情で駆けていた。

いつも通り、五つ子の家庭教師をしていたのだが、病院から(みこと)が何者かに襲撃され、病院に搬送されたと連絡がきた。

不吉な連絡を受けた(まなぶ)はアルバイトを早めに切り上げ、大急ぎで病院に駆け付けたというわけである。動揺のあまり、病院を走ってはいけないというルールは頭からすっぽ抜けていた。

 

 

「(一体、誰が……)」

 

 

通りすがる院内の人たちの驚きの視線を浴びながら走る(まなぶ)は考える。

単純に考えると、(みこと)を脅かすような行為をしたので、犯人は彼女に恨みを持っていただろう。

 

だが、それだと疑問がある。(みこと)は人が良く、穏やかな性格をしていて、争いを好まない。

(まなぶ)が知る限りでは(みこと)に恨みを持つような人はいない。

けど、襲われた。何者かによって……。

色々と考えるが、それらしい答えが浮かばず、悩んでいる間に叔母がいる病室の前に辿り着いていた。

 

病室に入ると、数人の医療スタッフがベッドを囲んでおり、点滴や心拍計、血圧計の準備に勤しんでいた。

医療スタッフの間を潜り抜けると、ベッドで横たわる叔母の姿が視界に映る。

 

 

(みこと)叔母さん!」

 

「ああぁあ~~!あ~~~!」

 

 

ベッドで横たわる(みこと)は真っ青な顔でチューブや血圧計に繋がれており、錯乱状態に陥っていた。

(まなぶ)が呼びかけるものの、聞こえないのか答えず、ただ怯えた声で唸るだけだった。

 

 

「何があったんです!?」

 

「心配ありません。外で待っていてください」

 

「何が!?何があった!?」

 

「外へお願いします」

 

 

叔母の変わり果てた姿にすっかり冷静さを失った(まなぶ)は声が裏返るほどに周囲に尋ねるが、医療スタッフに宥められながら廊下の方へ追いやられる。

 

 

「あの目!あの()()()()()()()()……!」

 

「ッ!」

 

 

動揺しながらも締め出される寸前、恐怖で目を見開く(みこと)の呟きが耳に入る。

恐ろしい黄色い目……思い当たる節が(まなぶ)にはあった。

病室から締め出された(まなぶ)は壁に背をつけると、少し冷静になった頭で考える。

 

(みこと)が言う恐ろしい黄色い目とは、グリーン・ゴブリンのことであることは明白だった。

自分が知る、無関係の(みこと)を襲うほどの凶悪な犯罪者は彼しか思い当たらなかった。

 

 

せいぜい、周りに気を付けることだな!

 

 

グリーン・ゴブリンの動機を考えていると、彼の捨て台詞が脳裏に浮かぶ。

言葉自体は何の変哲もない恨みごとだが、曲解すると、自分のみならず、周囲の人間に向けた言葉とも捉えられる。

そこから考えていくと、最悪な結論が脳裏に浮かぶ。

 

 

「正体がバレた……!」

 

 

目を丸くし、ボソッと呟く(まなぶ)

そう、最悪な結論とは、『天海(あまかい) (まなぶ)がスパイダーマン』という秘密をグリーン・ゴブリンに知られたということだ。

正体が知ったとなると、身内である(みこと)を狙うのは当然のことだった。殺さなかったのも、今後も行うという挑発のつもりだろう。

 

スパイダーマンの正体がバレると周囲に危険が及ぶかもしれないと考え、”秘密”というマスクを被り続けてきた。

だが、恐れていた事態が遂に発生してしまった。それもスーパーヴィランに。

冷や汗をかいた(まなぶ)は動揺のあまり、しばらく言葉を失った……。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①グリーン・ゴブリンを呼ぶスパイダーマン
 アニメ「スペクタキュラ―・スパイダーマン」(2008)にて、グリーン・ゴブリンを探すスパイダーマンが呼びかけるシーンのオマージュ。

②燃え盛る火の海での戦い
 サム・ライミ版「スパイダーマン」(2002)で、グリーン・ゴブリンとスパイダーマンが二度目に戦った際のシチュエーションと同じ。
 また、この戦いでスパイダーマンが前腕を負傷したことによって、グリーン・ゴブリン=ノーマン・オズボーンに正体がバレてしまうのも同じ。


シンビオートを登場させる?

  • さあ、ノッていこうぜ…(YES)
  • じゃあな、マヌケ(NO)
  • 何だよ、ゴブリンJr.…泣くのか?
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