SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
その日の夜。
慌ただしかった総合病院も錯乱状態の
ベッドに横たわる
数時間ほど前まで錯乱していたことが嘘のようにすやすやと寝息を立てていた。
点滴に繋がれた腕を見て、
また、大事には至らないので1週間ほどで退院できるとも言われたが、
「ごめんよ……」
眠りに尽く
スパイダーマンの正体が自分だとバレ、身内を危険に晒してしまった。
寝ている
どうやって自分の正体を知ったのか。グリーン・ゴブリンの正体は誰なのか。
そのいくつもの疑問と後悔が脳裏を渦巻き、
それからというものの、
勉強、家庭教師、それにスパイダーマン。どれ一つも欠けてはならないことを両立させるのは困難だったが、彼自身の責任と後悔が逃げることを許さなかった。
そして、事件から5日経った頃。
学校が終わった
夕暮れに差し掛かる時間帯。薄暗くなってきた白い病室の壁はオレンジ色の光と濃い影を生み出していた。
「お花はこちらでよろしいでしょうか?」
「ありがとう」
一緒に来た
大抵は
花瓶に花を差した
「叔母さま、具合良さそうですね」
「うん。今週中には退院できそうって………今日も来てくれて、ありがとう」
「いえ、このくらいのことはして当然です。叔母さまにはお世話になっていますから」
「叔母さんも喜ぶよ」
このくらい当然だと謙虚な姿勢を見せる
彼女の魅力は目鼻整った美貌だけでなく、律儀な優しさにある。
その点で思わず胸が熱くなった
――できるものなら早く告白して付き合いたい。強い願望を持つ
今はじっくりと関係を深めよう……そんなことを思っていると――
「――――”彼”はどうして助けてくれるんでしょう?」
「え?」
”彼”。誰を指すのか不明瞭な単語に
「――スパイダーマン。どうして、こんなに助けてくれるんでしょう?」
彼――すなわち、スパイダーマンを指しており、
「すみません……突然、こんな質問をして……もっと、彼のことが知りたくて……」
「いいよ。彼はすっごくカッコイイし、僕とは友達だから………君も彼を悪人だと思う?」
「そんな!あの人には命を救ってもらいました!悪人とはとても思えません」
「そうか……」
以前はスパイダーマンの存在に懐疑的であった
緊張気味ながらも笑顔を浮かべていた
「……彼は……その……君を助けてくれるっていうのは”友達”だからだよ。前に彼が言ってただろう?」
「それだけでしょうか?」
「え!?あっ、いや……うん。そうだよ?」
「あんな危険を冒してまで……スパイダーマンには頭が上がりません」
あたふたする
友達である以上にスパイダーマンが
そう言ってしまうと、下心丸出しと思われて、せっかく上がった印象が下がってしまうからだ。
――このことは墓場まで持っていこう。
そう決意した
そうこうしながら、夕焼けは地平線の彼方へ沈もうとしており、辺りは一層暗くなっていた。
周囲の建物からもぽちぽちと灯りが点き始め、病室にも灯りが点き始めた。
「そろそろ暗くなるし、帰ろうか。送ってくよ」
「はい。お願いします」
「よし。行こう」
「じゃあ、
「叔母さま。また来ますからね」
寝ている
病室の扉が閉まったのと同時に、
「ふふっ……」
同時刻。緑川邸の私室では涼介が1人黙々と机に向かって勉強していた。
中間考査の成績は決して悪いものではないものの、将来オズコープを背負う人間としては満足のいくものではなかった。
父親の
なので、「次回の期末考査ではより良い成績を出し、喜ばせたい」と決心し、毎日予習復習を長時間欠かさず行っている。
しかし、人間、長時間活動すると疲れが出てしまう。
勉強を始めてから、かれこれ2時間ぶっ続けで行っている。目に疲れを感じ、ペンを動かす手も痺れてきた。
「この臆病者がッ!!」
「――ッ!?」
――ちょっと休憩しよう。そう思った瞬間、上の階から怒鳴り声が聞こえてきた。
あまりもの声量にビクッと肩を竦める涼介だったが、すぐに疑問を感じた。
その怒鳴り声は今まで聞いたことのないものだ。自分以外いるのは父親と使用人数名のみなのだが、その誰でもない声だった。
そのことが気がかりになった涼介は恐る恐る私室の扉を開け、声の発生源と思われる
「父さん……?」
「もうやめてくれ……!これ以上、私を苦しめるな!」
「お前にそれができるか?ハッハッハッ……!ハーーーッハッハッハッ……!!」
続く声は上階へと階段まで響き渡っており、涼介の耳を突き抜けていく。
どうやら、話し声のようで酷く怯えた
会話の内容から涼介はますます不安になり、階段を歩いていた足は自然と駆け足となり、すぐさま階段をかけ上がり、
――どうしたんだ?不審に思いながら、涼介がドアノブに手をかけた瞬間――
「何だ?」
「──わッ!?」
ガチャッと扉が開かれ、何事だと言わんばかりの顔を浮かべた
唐突に扉が開いたので涼介は飛び跳ねる。
「驚かさないでよ……」
「ああ、すまん」
「お客さん?誰かと話してたみたいだけど?」
「
涼介の問いに
予想とは違う返答に涼介は困惑しながらも部屋を見渡すが、
──おかしい。
明らかに誰かと言い争っていたのだが、その形跡もなく、まるで最初から何も起きてなかったように室内の喧騒は静まっていた。
争いとは真逆の現状を目にして、涼介は首を傾げる。
「勉強で疲れただろう……そうだ!授業参観のときのお詫びと言ってはなんだが、出前でも取って一緒に食べよう。久しぶりに」
そんな様子を見かねてか、
親子であるものの、
そのことは
「え?あ、うん」
驚いた涼介だが、数十年振りに一緒に食を共にするという機会を断るはずもなく、承諾する。
あんなに忙しい父親からの珍しく申し出てきた誘いを蹴るなんてマネはできない。
謎はあるが、これ以上考えるのはやめ、食事を摂ることにした。
最近の出前は電話をすれば、数十分ほどで届く。
あっという間に注文したピザが届いた。Sサイズピザとサイドメニュー6品がついているセット、税込3200円。
2人はさっそく受け取ったピザをリビングで食べることにした。
とろとろに溶けたチーズやバジルの香りがリビング中を漂い、2人の食欲をかき立てる。
サイドメニューをつまみながら、ピザローラーで綺麗に8等分したピザを口に運んでいく。
「林間学校はどうだった?」
「楽しかったよ。約束してた
「それは残念だな。なに、学園祭がある。そこでもう一度チャレンジだ」
「ははっ、やってみるよ。でも、今は勉強。成績をより高くしないと……」
「あんまり無理するな。体を壊せば元も子もないからな」
「わかってるよ、父さん」
何気ない話で談笑する
父と子。食卓に自然と生まれる会話は2人の気分を盛り上げていた。
簡素な食事だが、こうして一緒に食べること自体が久しぶりなので、涼介、
「そういえば、彼女はできたのか?」
「いやだな、父さん。いないよ。俺、今までそんな空気すらないんだから」
女友達はいるが、そういった関係になろうとしたことは一度だったない。誰かが恋人になってくれるのなら願ってもないことだ。
そんな会話を挟みながら、気分が乗った涼介は自分以外のことを持ち出す。
「
「ほう?
涼介の口から飛び出た言葉に耳を留める
興味が湧いた
「涼介。その女性は誰かな?私の知っている人か?」
「いや、言えないよ。俺が
「親子の仲じゃないか……このピザ代をお前の貯金から削ってもいいのか?」
冗談っぽく言う
「ここだけの話………
「ああ、あの
名前を聞いた
授業参観の日に出会った少女。中野医院長の娘――中野
合点がいった
「彼女は気付いているのか?」
「いや、たぶん知らない。でも、
アドバイスを尋ねられるのなら、見てるこっちの身にもなれと涼介は言ってやりたい気分だった。
「ほぉ……?」
そんな涼介とは反対に
半目で笑みを浮かべる
良いことを聞いたとばかりに笑う
「起きて、起きて」
「──ぅんあ……?」
頭に優しく撫でられる感触と叔母の声を耳にし、
先程まで看病しながら学校の宿題をしていたのだが、いつの間にかベッドで伏せて寝てしまったようだ。
うずめていた顔の真下には書きかけの宿題用ノートが見開かれおり、涎で文字が滲んでいた。
最悪だなと思いながら涎を拭く
「もうお家に帰りなさい……疲れた顔して」
「僕は平気。叔母さんは1人にはできないよ」
帰ることを促す
搬送時よりかは体調が良くなったとはいえ、またいつ、グリーン・ゴブリンが襲撃をかけてくるかわからない。自分が離れてしまっては、今度こそ命を奪われるかもしれない。
心配する
「ここは安全だから。明日も学校があるのでしょ?しっかり休まないと」
「……何か欲しいものある?」
「もう充分。勉強にアルバイト、それに看護。スーパーマンじゃないのよ?」
冗談を交えながらも心配する
スパイダーマンと学生の両立は難しく、疲労感が全くといって抜けない。
スーパーヒーローと一般人としての両立……まさに自分はアメコミヒーローの『スーパーマン』であり、
「やっと笑ってくれた。さっき、
「あれ?寝てたんじゃなかったの?」
互いにくすくすと笑ったのち、
「
「ッ!?いや、そんな……まさか……」
気になる……つまり、
そのことを瞬時に理解した
「私の目を見て。茶化すつもりはないから」
混乱する
昔から真剣な話はするときはいつも目を合わせるように言われてきており、こう言われた
しばし額に手を当てて悩んだ後、
「やっぱりそうなのね」
その答えに
甥が
隠していた想いを聞き、喜ぶ
「……でも、僕じゃ見合わないよ」
「
「
「”知るチャンス”をあげないから。お前はいつも謎が多すぎる、そうでしょ?」
「……」
自分がスパイダーマンであることは絶対に秘密にしなければいけない……この自分に課せたルールに従っているが、代わりに自分が”何をしている”のか、よくわからない認識を周囲に持たれている。
もし、仮にみんなに「僕がスパイダーマンです」と正体を明かすとする。
その場合、半分の人からは好かれ、半分の人からは更に嫌われる。その嫌われる半数に好きな人がいたら……恐ろしくて考えられない。
「一度、自分をさらけ出して『好き』って言ってごらんなさい。全て受け入れるかは彼女次第よ」
「……」
叔母からのアドバイス。彼女は
プラスな感情?それともマイナスな感情?どちらかわからないが、いずれにしろ出さなければいけない結論だった。
──恐れず、前へ進め。それが経験豊富な叔母からのアドバイスの真意だ。
すると、着信履歴が数件あり、相手は全部
「
「あら?チャンスじゃない」
「それはまた今度。お休み、叔母さん」
「お休みなさい」
閉館時間も近いこともあり、
病院のそとへ出た
外はすっかり暗くなっており、冬の寒さが一段を肌を強張らせる。
それはそうと
待ち時間のコール音が数秒鳴った後、通話可能状態になった。
「もしもし、
《…………》
「……
だが、いくら話しかけても
「妙だな」と思った矢先──
《 ハッハッハッ……! 》
「ッ!?」
若い女性の声でなく、しわがれた魔女のような声が聞こえてきた。
この声に
そのグリーン・ゴブリンが
ほんわかしていた
神経を張り巡らせている彼にグリーン・ゴブリンは子供をあやすように挑発する。
《 スゥパイダーマァァン…………遊びにおいで……… 》
「彼女はどこだ……!」
T市6番地区臨海部『ゲリンウェイ・ブリッジ』。
太平洋へと繋がる川の間にかかる道路橋は、オズコープ本社の工場地帯である2番地区へと繋がっている。
建設から60年以上建つ橋はT市の発展に大きく貢献し、観光名所として他県からも注目されている。
「(くそっ!ゴブリンの奴……!)」
その歴史が長い橋にスパイダーマンはマスクの下に流れる冷や汗を冷たい風を肌に感じながら、スイングして向かっていた。
スパイダーマンが焦燥しているのも無理はない。その橋にグリーン・ゴブリンが
グリーン・ゴブリンは『狂人』と呼べる人物で、敵意を向ける者だけでなく、その場にいた何も関係ない人たちを平気で殺す。そんな奴のもとに愛する
ドォォォーーーンッ!!!
「ッ!?」
向かっている最中、目的地であるゲリンウェイ・ブリッジの麓から爆発音が鳴り響く。
スパイダーマンは近くの家の屋根に降り立って、橋の方へ顔を向けると、橋の麓がメラメラと煙を立てて燃えていた。
これはグリーン・ゴブリンのグライダーから発射されたミサイルによるもので、スパイダーマンに場所を報せるのに加え、彼を挑発するためによる破壊行動だった。
「ゴブリン!何てことを……!」
グリーン・ゴブリンの仕業だとすぐに理解したスパイダーマンは怒りを露わにすると、両手首からウェブを射出。屋根に取り付けられている2つの旗左右にウェブをくっつけると、力強く引っ張りながら、後ろに下がる。
「ぬぅぅぅ……!!」
スパイダーマンが後ろに下がる度、ギリギリと旗に繋がっているポールはしなり、さながらゴムを引くパチンコのようだ。
ポールが折れる限界点まで下がると、力いっぱい引っ張った手を離した。
「───ハァァッ!!」
反動をつけたスパイダーマンはパチンコ玉のように勢いよく宙へ飛んでいく。
この方法によってスパイダーマンは飛距離を稼げ、あっという間にゲリンウェイ・ブリッジへ到着した。
ウェブスイングで橋の合間を潜り抜けながら、指示された橋の頂上へと移動する。
道中、やけに報道関係者らしき集団が橋に集まっているのが気になったが、
「いらっしゃい!」
「ゴブリン……!」
橋のタワーから見下ろす人物──グリーン・ゴブリン。
スパイダーマンの視界に映る緑色の悪魔を模した仮面とコスチュームに身を包んだその男の手には、鎖で胴体を拘束され、ぐったりとしたまま吊るされている
今のところ外傷はなく、気を失っているだけのようだが、何の関係もない彼女を巻き込んだグリーン・ゴブリンの卑劣さにスパイダーマンは怒りで奥歯を噛み締める。
「彼女は関係ない!解放しろ!」
「関係のないことないだろ?お前のガールフレンドだろ?お前が煮え切らないから俺が恋のキューピットとして連れてきてやっただけだ」
「何だって!」
「おおっと!動くな。それ以上前へ出たら、この女を落とす。この高さなら、即死は免れないかもな。ハッハッハーーッ!!」
挑発を買い、前へ出るスパイダーマンをグリーン・ゴブリンは人質の
この悪党に今すぐにでも一撃お見舞いしたいスパイダーマンだったが、
鋭い剣幕を立てるスパイダーマンのことなどお構いなしに話し続けたグリーン・ゴブリンだが、「ここは1つ提案」とばかりに人差し指を立てる。
「だが、俺も鬼じゃない。お前がたった1つの”要求”を呑んでくれさえすれば、この女の解放を考えてやる……」
「……ッ、それは何だ?」
交換条件。彼の性格からこちらにとって非常に不都合なものを要求してくるだろう。
しかし、今のスパイダーマンには聞くしかない。
半信半疑ながらも耳を傾けると、グリーン・ゴブリンは大声で要求を出した。
「マスクを脱げ!そして、世間に正体を公表しろッ!!」
「ッ!?」
声を大にして突きつけられた条件にスパイダーマンはマスクの下で目を丸くする。
マスクを取る……それはスパイダーマン=
今まで顔を隠していたのは自分や周囲に悪影響を及ぼすことを考慮しての対策だったが、それを晒すとなると、
逆に
──ここまで奴は考えていたのか、とスパイダーマンはグリーン・ゴブリンの狡猾さに苛立ちを募らせる。
「ヒーローってのは”馬鹿”だよなぁ?いつも残酷な選択を迫られる……!自分を犠牲にして、女の命を救うか……それとも自分のメンツを守って、愛する女を神のもとへ送るか……どちらかを選べ、スパイダーマン。そして、ヒーローにどんな報いがあるかを思い知れ……!」
「……ッ!」
「さあ、選べッ!!」
最悪の取捨選択を迫られたスパイダーマン。
彼とグリーン・ゴブリン。そして、捕らわれた
◆イースター・エッグ◆
①行儀悪く指チュパする
サム・ライミ版「スパイダーマン」(2002)にて、感謝祭で食事する場面でゴブリンの人格に乗っ取られつつあったノーマンがつまみ食いしたのをメイ叔母さんに注意されたときに怪しげな顔を浮かべながら指チュパする場面のオマージュ。
②ゲリンウェイ・ブリッジ
コミックライターの『ゲリー・コンウェイ』から。ゲリー氏が脚本を執筆したスパイダーマン作品で有名なのはスパイダーマン=ピーターの当時の恋人であるグウェン・ステイシーの死亡である。
本来、原作者の1人であるスタン・リー氏はグウェンをメインヒロインに据えようとしていたが、休暇中の代筆者のゲリー氏に任せた結果、予定のないグウェンの死という読者のみならず、スタン氏にも大きな衝撃を与えた。
なお、本作で橋の名前にした理由は、グウェンの死について関連があるからである。
※アンケート『シンビオートを登場させる?』の結果
どうも、皆さま、お久しぶりです。作者の「まゆはちブラック」です。アンケートにご協力頂いた多くの皆さま、貴重な一票を頂き、ありがとうございました。
さて、アンケートの結果、『シンビオートを登場させる』という方針に決定しました。
やはり、スパイダーマンとは切っては切り離せない存在ですし、あのダンスを期待している読者の方々にはおられると思います。
望まれていることは出来る限りやっていきますので、これからも『SPIDER-MAN QQ(Quintessential Quintupletsの略)』をよろしくお願いします!
無堂or竹林を登場させる?(作者的にはストーリーに影響与えないので出したくない)
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無堂だけ登場させる
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竹林だけ登場させる
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どちらも登場させる
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どちらも登場させない