SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#24 次なる標的 

その日の夜。

慌ただしかった総合病院も錯乱状態の(みこと)の治療が済み、院内は静寂な時を取り戻していた。

ベッドに横たわる(みこと)は疲れたのか、はたまた鎮静薬か何かを投与したのか落ち着きを取り戻し、ぐっすりと瞼を閉じて眠りについていた。

 

(まなぶ)はベッド横の椅子に腰かけると(みこと)の寝顔を覗く。

数時間ほど前まで錯乱していたことが嘘のようにすやすやと寝息を立てていた。

点滴に繋がれた腕を見て、(まなぶ)は痛々しい顔を浮かべる。医師によれば身体に異常はなく、錯乱を引き起こしたのは襲われた恐怖心による精神的ショックと伝えられた。

また、大事には至らないので1週間ほどで退院できるとも言われたが、(まなぶ)の心は決して晴れなかった。

 

 

「ごめんよ……」

 

 

眠りに尽く(みこと)の手を取り、消え失せるような声で謝罪する。

スパイダーマンの正体が自分だとバレ、身内を危険に晒してしまった。

寝ている(みこと)には決して届かない謝罪だが、秘密を抱えなければならない(まなぶ)が今伝えられる精一杯の言葉だった。

 

どうやって自分の正体を知ったのか。グリーン・ゴブリンの正体は誰なのか。

そのいくつもの疑問と後悔が脳裏を渦巻き、(まなぶ)の心に影を落としていった……。

 

 

 

それからというものの、(まなぶ)(みこと)の看病のために病院へ通い始めた。

勉強、家庭教師、それにスパイダーマン。どれ一つも欠けてはならないことを両立させるのは困難だったが、彼自身の責任と後悔が逃げることを許さなかった。

 

そして、事件から5日経った頃。

学校が終わった(まなぶ)は家庭教師に向かう時間の合間を縫って、今日も(みこと)のお見舞いに来た。

夕暮れに差し掛かる時間帯。薄暗くなってきた白い病室の壁はオレンジ色の光と濃い影を生み出していた。

 

 

「お花はこちらでよろしいでしょうか?」

 

「ありがとう」

 

 

一緒に来た五月(いつき)はお見舞い用に持ってきた花束を花瓶に差す。

大抵は(まなぶ)1人でお見舞いに来るのだが、時折、五月(いつき)や緑川親子といった(みこと)に縁がある人物がお見舞いに来てくれる。

(まなぶ)にとってはありがたい気持ちがある。それと同時に自分の叔母がどれほど人に好かれているかがわかる。

 

花瓶に花を差した五月(いつき)はベッドですやすやと寝息を立てる(みこと)を寝顔を見て、安堵の声を漏らす。

 

 

「叔母さま、具合良さそうですね」

 

「うん。今週中には退院できそうって………今日も来てくれて、ありがとう」

 

「いえ、このくらいのことはして当然です。叔母さまにはお世話になっていますから」

 

「叔母さんも喜ぶよ」

 

 

このくらい当然だと謙虚な姿勢を見せる五月(いつき)

彼女の魅力は目鼻整った美貌だけでなく、律儀な優しさにある。

その点で思わず胸が熱くなった(まなぶ)はにやけた顔を笑顔で誤魔化した。

 

――できるものなら早く告白して付き合いたい。強い願望を持つ(まなぶ)だが、断られてしまうかもしれない、という一抹の不安があり、中々一歩前へ出る勇気が持てなかった。

今はじっくりと関係を深めよう……そんなことを思っていると――

 

 

「――――”彼”はどうして助けてくれるんでしょう?」

 

「え?」

 

 

五月(いつき)の呟きに呆けた声が出た。

”彼”。誰を指すのか不明瞭な単語に(まなぶ)が眉を寄せていると、五月(いつき)は改めて言い直す。

 

 

「――スパイダーマン。どうして、こんなに助けてくれるんでしょう?」

 

 

五月(いつき)から投げかけてきた疑問に(まなぶ)は納得と同時に息を呑む。

彼――すなわち、スパイダーマンを指しており、(まなぶ)に尋ねたのは彼と友好な関係を持っていると思っているからだ。

 

 

「すみません……突然、こんな質問をして……もっと、彼のことが知りたくて……」

 

「いいよ。彼はすっごくカッコイイし、僕とは友達だから………君も彼を悪人だと思う?」

 

「そんな!あの人には命を救ってもらいました!悪人とはとても思えません」

 

「そうか……」

 

 

(まなぶ)の問いかけを前のめり気味に否定する五月(いつき)

以前はスパイダーマンの存在に懐疑的であった五月(いつき)だが、今はそんなこととんでもないと目を真ん丸にして否定するくらいにまで信用するようになっていた。

(まなぶ)はスパイダーマンの印象が少し良くなる程度の答えを期待して質問したのだが、予想以上の好印象と知り、嬉しさのあまり頬が自然と緩む。

 

緊張気味ながらも笑顔を浮かべていた(まなぶ)だったが、忘れそうだった本題の質問のことを思い出し、息を呑んで緊張を紛らわした後、口を開く。

 

 

「……彼は……その……君を助けてくれるっていうのは”友達”だからだよ。前に彼が言ってただろう?」

 

「それだけでしょうか?」

 

「え!?あっ、いや……うん。そうだよ?」

 

「あんな危険を冒してまで……スパイダーマンには頭が上がりません」

 

 

あたふたする(まなぶ)の返答に五月(いつき)は感服する。

五月(いつき)の思わぬ鋭い問いに焦る(まなぶ)だったが、何とか押し通し、納得してもらった。

友達である以上にスパイダーマンが五月(いつき)のことを異性として好きだからという言葉は言えない。

そう言ってしまうと、下心丸出しと思われて、せっかく上がった印象が下がってしまうからだ。

 

――このことは墓場まで持っていこう。

そう決意した(まなぶ)の顔は夕焼けと同じ、気恥ずかしさと嬉しさが入り混じった色に変わっていた。

 

そうこうしながら、夕焼けは地平線の彼方へ沈もうとしており、辺りは一層暗くなっていた。

周囲の建物からもぽちぽちと灯りが点き始め、病室にも灯りが点き始めた。

 

 

「そろそろ暗くなるし、帰ろうか。送ってくよ」

 

「はい。お願いします」

 

「よし。行こう」

 

 

(まなぶ)のスクーター送迎に了承する五月(いつき)

(まなぶ)としてはさりげなく誘ったのだが、まさかオーケーを貰えるとは思えず、心の中でガッツポーズを取った。

 

 

「じゃあ、五月(いつき)を送ってくよ」

 

「叔母さま。また来ますからね」

 

 

寝ている(みこと)に向かって2人はそう告げると、病室を後にした。

病室の扉が閉まったのと同時に、(みこと)はこっそりと目を開ける。

(みこと)は最初から起きており、若い2人の会話を邪魔したくなかったからだ。

 

 

「ふふっ……」

 

 

(みこと)は楽しげに五月(いつき)と会話する(まなぶ)の顔を思い出し、可笑しそうに微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。緑川邸の私室では涼介が1人黙々と机に向かって勉強していた。

中間考査の成績は決して悪いものではないものの、将来オズコープを背負う人間としては満足のいくものではなかった。

 

父親の難一(なんいち)は追い詰める必要はないと言っているが、涼介自身は「期待されていない」にも捉えられ、悔しさが心残りになっていた。

なので、「次回の期末考査ではより良い成績を出し、喜ばせたい」と決心し、毎日予習復習を長時間欠かさず行っている。

 

しかし、人間、長時間活動すると疲れが出てしまう。

勉強を始めてから、かれこれ2時間ぶっ続けで行っている。目に疲れを感じ、ペンを動かす手も痺れてきた。

 

 

この臆病者がッ!!

 

「――ッ!?」

 

 

――ちょっと休憩しよう。そう思った瞬間、上の階から怒鳴り声が聞こえてきた。

あまりもの声量にビクッと肩を竦める涼介だったが、すぐに疑問を感じた。

その怒鳴り声は今まで聞いたことのないものだ。自分以外いるのは父親と使用人数名のみなのだが、その誰でもない声だった。

 

そのことが気がかりになった涼介は恐る恐る私室の扉を開け、声の発生源と思われる難一(なんいち)の私室へと向かう。

 

 

「父さん……?」

 

「もうやめてくれ……!これ以上、私を苦しめるな!」

 

お前にそれができるか?ハッハッハッ……!ハーーーッハッハッハッ……!!

 

 

続く声は上階へと階段まで響き渡っており、涼介の耳を突き抜けていく。

どうやら、話し声のようで酷く怯えた難一(なんいち)としわがれた声の持ち主が言い争っているようだった。

会話の内容から涼介はますます不安になり、階段を歩いていた足は自然と駆け足となり、すぐさま階段をかけ上がり、難一(なんいち)の部屋の前に来た。

 

――どうしたんだ?不審に思いながら、涼介がドアノブに手をかけた瞬間――

 

 

「何だ?」

 

「──わッ!?」

 

 

ガチャッと扉が開かれ、何事だと言わんばかりの顔を浮かべた難一(なんいち)が現れた。

唐突に扉が開いたので涼介は飛び跳ねる。

 

 

「驚かさないでよ……」

 

「ああ、すまん」

 

「お客さん?誰かと話してたみたいだけど?」

 

()()?いや、私1人だが……?」

 

 

涼介の問いに難一(なんいち)は逆に疑問を返す。

予想とは違う返答に涼介は困惑しながらも部屋を見渡すが、難一(なんいち)の他には誰もおらず、あるのはリビング同様に飾られている世界各国から集めた仮面コレクションくらいしかなかった。

 

──おかしい。

明らかに誰かと言い争っていたのだが、その形跡もなく、まるで最初から何も起きてなかったように室内の喧騒は静まっていた。

争いとは真逆の現状を目にして、涼介は首を傾げる。

 

 

「勉強で疲れただろう……そうだ!授業参観のときのお詫びと言ってはなんだが、出前でも取って一緒に食べよう。久しぶりに」

 

 

そんな様子を見かねてか、難一(なんいち)からの誘いに目をぱちくりする涼介。

親子であるものの、難一(なんいち)が大企業の社長という立場があって、一緒に食事をすることは滅多にない。大抵、別々の時間に食事をすることが大半だ。

そのことは難一(なんいち)自身も埋め合わせしたいと思っている。

 

 

「え?あ、うん」

 

 

驚いた涼介だが、数十年振りに一緒に食を共にするという機会を断るはずもなく、承諾する。

あんなに忙しい父親からの珍しく申し出てきた誘いを蹴るなんてマネはできない。

謎はあるが、これ以上考えるのはやめ、食事を摂ることにした。

 

最近の出前は電話をすれば、数十分ほどで届く。

あっという間に注文したピザが届いた。Sサイズピザとサイドメニュー6品がついているセット、税込3200円。

 

2人はさっそく受け取ったピザをリビングで食べることにした。

とろとろに溶けたチーズやバジルの香りがリビング中を漂い、2人の食欲をかき立てる。

サイドメニューをつまみながら、ピザローラーで綺麗に8等分したピザを口に運んでいく。

 

 

「林間学校はどうだった?」

 

「楽しかったよ。約束してた()と踊れなくなったのは残念だったけど」

 

「それは残念だな。なに、学園祭がある。そこでもう一度チャレンジだ」

 

「ははっ、やってみるよ。でも、今は勉強。成績をより高くしないと……」

 

「あんまり無理するな。体を壊せば元も子もないからな」

 

「わかってるよ、父さん」

 

 

何気ない話で談笑する難一(なんいち)と涼介。

父と子。食卓に自然と生まれる会話は2人の気分を盛り上げていた。

簡素な食事だが、こうして一緒に食べること自体が久しぶりなので、涼介、難一(なんいち)共々、心が満たされていった。

 

 

「そういえば、彼女はできたのか?」

 

「いやだな、父さん。いないよ。俺、今までそんな空気すらないんだから」

 

 

難一(なんいち)の冗談っぽい問いかけに涼介は照れ臭く返す。

女友達はいるが、そういった関係になろうとしたことは一度だったない。誰かが恋人になってくれるのなら願ってもないことだ。

そんな会話を挟みながら、気分が乗った涼介は自分以外のことを持ち出す。

 

 

(まなぶ)にも出せないよ。アイツ、好きな()がいるのに中々踏み切ろうとしないんだ」

 

「ほう?天海(あまかい)に?」

 

 

涼介の口から飛び出た言葉に耳を留める難一(なんいち)

(まなぶ)も息子と同じ多感な年頃。異性への恋愛感情へ芽生えるのも自然な流れだ。

興味が湧いた難一(なんいち)のピザに伸ばす手は止まり、そのことについて深堀する。

 

 

「涼介。その女性は誰かな?私の知っている人か?」

 

「いや、言えないよ。俺が(まなぶ)に殺されちゃうよ」

 

「親子の仲じゃないか……このピザ代をお前の貯金から削ってもいいのか?」

 

 

冗談っぽく言う難一(なんいち)に揺さぶりをかけられた涼介は「卑怯だなー」とぼやきながらも、軽く息を吸って、口を開く。

 

 

「ここだけの話………五月(いつき)さんだよ。ほら、この前、授業参観で会った……」

 

「ああ、あの()か……」

 

 

名前を聞いた難一(なんいち)は天を仰いで思い返す。

授業参観の日に出会った少女。中野医院長の娘――中野 五月(いつき)の顔を。

(まなぶ)がやけに緊張しているなとは薄々感じており、異性と話すのが苦手と思っていたが、恋愛感情を抱いていたとは……。

合点がいった難一(なんいち)は納得すると、更に訊きだす。

 

 

「彼女は気付いているのか?」

 

「いや、たぶん知らない。でも、(まなぶ)はベタ惚れだよ。本人は誤魔化してるけど、大好きオーラ全開でこっちもドキドキするくらいだ。早く付き合えばいいのに~」

 

 

難一(なんいち)にそう言った涼介はやれやれと両手を上げる。

(まなぶ)の恋愛は応援しているが、延々と進展しないのはやきもきする。

アドバイスを尋ねられるのなら、見てるこっちの身にもなれと涼介は言ってやりたい気分だった。

 

 

「ほぉ……?」

 

 

そんな涼介とは反対に難一(なんいち)は興味深そうに笑みを浮かべた。

半目で笑みを浮かべる難一(なんいち)の顔は暖炉の灯りによって影を生み、真っ白い歯が輝く、怪しげな雰囲気を醸し出していた。

 

良いことを聞いたとばかりに笑う難一(なんいち)はピザボックスの端についたチーズの残りを左人差し指で掬い、行儀悪くしゃぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きて、起きて」

 

「──ぅんあ……?」

 

 

頭に優しく撫でられる感触と叔母の声を耳にし、(まなぶ)は眠たげながらも瞼を開ける。

(まなぶ)は寝起き直後の回らない頭を働かせる。

先程まで看病しながら学校の宿題をしていたのだが、いつの間にかベッドで伏せて寝てしまったようだ。

うずめていた顔の真下には書きかけの宿題用ノートが見開かれおり、涎で文字が滲んでいた。

 

最悪だなと思いながら涎を拭く(まなぶ)を見て、(みこと)は可笑しそうに笑うと、言葉を紡ぐ。

 

 

「もうお家に帰りなさい……疲れた顔して」

 

「僕は平気。叔母さんは1人にはできないよ」

 

 

帰ることを促す(みこと)に反して、(まなぶ)は首を横に振る。

搬送時よりかは体調が良くなったとはいえ、またいつ、グリーン・ゴブリンが襲撃をかけてくるかわからない。自分が離れてしまっては、今度こそ命を奪われるかもしれない。

心配する(まなぶ)の気持ちを汲み取ってか、微笑むと、安心させるように言う。

 

 

「ここは安全だから。明日も学校があるのでしょ?しっかり休まないと」

 

「……何か欲しいものある?」

 

「もう充分。勉強にアルバイト、それに看護。スーパーマンじゃないのよ?」

 

 

冗談を交えながらも心配する(みこと)

スパイダーマンと学生の両立は難しく、疲労感が全くといって抜けない。

スーパーヒーローと一般人としての両立……まさに自分はアメコミヒーローの『スーパーマン』であり、(みこと)の例えは的を射ていると(まなぶ)は笑う。

 

 

「やっと笑ってくれた。さっき、五月(いつき)さんが来てもあんまり笑ってなかった」

 

「あれ?寝てたんじゃなかったの?」

 

 

(みこと)の話から寝たふりをしていたことに気付いた(まなぶ)は微笑む。

互いにくすくすと笑ったのち、(みこと)はジッと(まなぶ)の瞳を見つめる。

 

 

(まなぶ)……あの()が気になるんでしょ?」

 

「ッ!?いや、そんな……まさか……」

 

 

気になる……つまり、五月(いつき)のことが好きなんだろと同じことを言ってるも同然の意味。

そのことを瞬時に理解した(まなぶ)は突然の爆弾発言に顔が紅くなり、視線は泳ぎ、言葉もしどろもどろになる。

 

 

「私の目を見て。茶化すつもりはないから」

 

 

混乱する(まなぶ)(みこと)は優しく宥める。

昔から真剣な話はするときはいつも目を合わせるように言われてきており、こう言われた(まなぶ)は返せなくなる。

 

五月(いつき)が好きという感情を誰かにさらけ出すのは難しい。テストの点数が赤点を親に教えるくらい言い辛い。

しばし額に手を当てて悩んだ後、(まなぶ)は恥ずかしそうな顔をしながら首を縦に振った。

 

 

「やっぱりそうなのね」

 

 

その答えに(みこと)は期待通りと言わんばかりの笑みを浮かべる。

甥が五月(いつき)が好きだとは勘づいていたが、やはり予想通りというわけで、(まなぶ)にとっては全てお見通しというわけだった。

 

隠していた想いを聞き、喜ぶ(みこと)に対し、(まなぶ)は不安そうな顔に一変する。

 

 

「……でも、僕じゃ見合わないよ」

 

五月(いつき)さんが決めること……」

 

五月(いつき)()()()()を知らない」

 

「”知るチャンス”をあげないから。お前はいつも謎が多すぎる、そうでしょ?」

 

「……」

 

 

(みこと)の言葉にぐうの音も出ない(まなぶ)

自分がスパイダーマンであることは絶対に秘密にしなければいけない……この自分に課せたルールに従っているが、代わりに自分が”何をしている”のか、よくわからない認識を周囲に持たれている。

(まなぶ)も改善しようと努力は続けているが、一向に良くなる傾向は見受けられない。

 

もし、仮にみんなに「僕がスパイダーマンです」と正体を明かすとする。

その場合、半分の人からは好かれ、半分の人からは更に嫌われる。その嫌われる半数に好きな人がいたら……恐ろしくて考えられない。

 

(みこと)は悩む(まなぶ)の気持ちを和らげるように彼の手にそっと手を添える。

 

 

「一度、自分をさらけ出して『好き』って言ってごらんなさい。全て受け入れるかは彼女次第よ」

 

「……」

 

 

叔母からのアドバイス。彼女は(まなぶ)がスパイダーマンである故の悩みは知らないが、気持ちにしっかり寄り添う姿勢は、不安定だった(まなぶ)の心を和やかにしていく。

 

五月(いつき)にスパイダーマンの秘密を含めてさらけ出したとき、どんな反応になるか懸念があった。

プラスな感情?それともマイナスな感情?どちらかわからないが、いずれにしろ出さなければいけない結論だった。

──恐れず、前へ進め。それが経験豊富な叔母からのアドバイスの真意だ。

 

(みこと)の真意を汲み取った(まなぶ)が時間を見ようとスマートフォンを取り出す。

すると、着信履歴が数件あり、相手は全部五月(いつき)からだった。

 

 

五月(いつき)からだ」

 

「あら?チャンスじゃない」

 

「それはまた今度。お休み、叔母さん」

 

「お休みなさい」

 

 

閉館時間も近いこともあり、(まなぶ)はひとまず家へ帰ることにした。

(みこと)のからかいを躱しながら、互いに別れ際の言葉を返すと、病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院のそとへ出た(まなぶ)

外はすっかり暗くなっており、冬の寒さが一段を肌を強張らせる。

 

それはそうと(まなぶ)五月(いつき)の電話へかけ直す。

待ち時間のコール音が数秒鳴った後、通話可能状態になった。

 

 

「もしもし、五月(いつき)?僕だよ。どうしたの?」

 

《…………》

 

「……五月(いつき)?」

 

 

(まなぶ)は通話越しにいるであろう五月(いつき)に話しかける。

だが、いくら話しかけても五月(いつき)の声はなく、無音だけが帰ってくる。

「妙だな」と思った矢先──

 

 

ハッハッハッ……!

 

「ッ!?」

 

 

若い女性の声でなく、しわがれた魔女のような声が聞こえてきた。

この声に(まなぶ)は聞き覚えがある。そう、宿敵グリーン・ゴブリンのものだ。

そのグリーン・ゴブリンが五月(いつき)のスマートフォンを使っているのだから、当然良からぬことが起きている。

ほんわかしていた(まなぶ)の顔は一変して、険しいものになった。

神経を張り巡らせている彼にグリーン・ゴブリンは子供をあやすように挑発する。

 

 

スゥパイダーマァァン…………遊びにおいで………

 

「彼女はどこだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

T市6番地区臨海部『ゲリンウェイ・ブリッジ』。

太平洋へと繋がる川の間にかかる道路橋は、オズコープ本社の工場地帯である2番地区へと繋がっている。

建設から60年以上建つ橋はT市の発展に大きく貢献し、観光名所として他県からも注目されている。

 

 

「(くそっ!ゴブリンの奴……!)」

 

 

その歴史が長い橋にスパイダーマンはマスクの下に流れる冷や汗を冷たい風を肌に感じながら、スイングして向かっていた。

スパイダーマンが焦燥しているのも無理はない。その橋にグリーン・ゴブリンが五月(いつき)を捕らえていると伝えたからだ。

グリーン・ゴブリンは『狂人』と呼べる人物で、敵意を向ける者だけでなく、その場にいた何も関係ない人たちを平気で殺す。そんな奴のもとに愛する五月(いつき)が捕まっているのだから、落ち着こうにも落ち着けなかった。

 

 

ドォォォーーーンッ!!!

 

「ッ!?」

 

 

向かっている最中、目的地であるゲリンウェイ・ブリッジの麓から爆発音が鳴り響く。

スパイダーマンは近くの家の屋根に降り立って、橋の方へ顔を向けると、橋の麓がメラメラと煙を立てて燃えていた。

これはグリーン・ゴブリンのグライダーから発射されたミサイルによるもので、スパイダーマンに場所を報せるのに加え、彼を挑発するためによる破壊行動だった。

 

 

「ゴブリン!何てことを……!」

 

 

グリーン・ゴブリンの仕業だとすぐに理解したスパイダーマンは怒りを露わにすると、両手首からウェブを射出。屋根に取り付けられている2つの旗左右にウェブをくっつけると、力強く引っ張りながら、後ろに下がる。

 

 

「ぬぅぅぅ……!!」

 

 

スパイダーマンが後ろに下がる度、ギリギリと旗に繋がっているポールはしなり、さながらゴムを引くパチンコのようだ。

ポールが折れる限界点まで下がると、力いっぱい引っ張った手を離した。

 

 

「───ハァァッ!!」

 

 

反動をつけたスパイダーマンはパチンコ玉のように勢いよく宙へ飛んでいく。

この方法によってスパイダーマンは飛距離を稼げ、あっという間にゲリンウェイ・ブリッジへ到着した。

 

ウェブスイングで橋の合間を潜り抜けながら、指示された橋の頂上へと移動する。

道中、やけに報道関係者らしき集団が橋に集まっているのが気になったが、五月(いつき)優先と、思考を切り替え、頂上に待つ人物に向き合う。

 

 

いらっしゃい!

 

「ゴブリン……!」

 

 

橋のタワーから見下ろす人物──グリーン・ゴブリン。

スパイダーマンの視界に映る緑色の悪魔を模した仮面とコスチュームに身を包んだその男の手には、鎖で胴体を拘束され、ぐったりとしたまま吊るされている五月(いつき)の姿があった。

今のところ外傷はなく、気を失っているだけのようだが、何の関係もない彼女を巻き込んだグリーン・ゴブリンの卑劣さにスパイダーマンは怒りで奥歯を噛み締める。

 

 

「彼女は関係ない!解放しろ!」

 

関係のないことないだろ?お前のガールフレンドだろ?お前が煮え切らないから俺が恋のキューピットとして連れてきてやっただけだ

 

「何だって!」

 

おおっと!動くな。それ以上前へ出たら、この女を落とす。この高さなら、即死は免れないかもな。ハッハッハーーッ!!

 

 

挑発を買い、前へ出るスパイダーマンをグリーン・ゴブリンは人質の五月(いつき)を盾にしてけん制する。今、彼女の生死を握っているのはグリーン・ゴブリンであり、彼に少しでも不都合な行動をすれば、五月(いつき)は殺されてしまう。

この悪党に今すぐにでも一撃お見舞いしたいスパイダーマンだったが、五月(いつき)を盾にされては手も足も出せず、歯がゆさが募っていく。

 

鋭い剣幕を立てるスパイダーマンのことなどお構いなしに話し続けたグリーン・ゴブリンだが、「ここは1つ提案」とばかりに人差し指を立てる。

 

 

だが、俺も鬼じゃない。お前がたった1つの”要求”を呑んでくれさえすれば、この女の解放を考えてやる……

 

「……ッ、それは何だ?」

 

 

交換条件。彼の性格からこちらにとって非常に不都合なものを要求してくるだろう。

しかし、今のスパイダーマンには聞くしかない。五月(いつき)を救える可能性がある希望を捨てれない。

 

半信半疑ながらも耳を傾けると、グリーン・ゴブリンは大声で要求を出した。

 

 

マスクを脱げ!そして、世間に正体を公表しろッ!!

 

「ッ!?」

 

 

声を大にして突きつけられた条件にスパイダーマンはマスクの下で目を丸くする。

マスクを取る……それはスパイダーマン=(まなぶ)の死にも繋がる最悪な選択肢だった。

今まで顔を隠していたのは自分や周囲に悪影響を及ぼすことを考慮しての対策だったが、それを晒すとなると、(まなぶ)は社会的に殺されてしまう。

 

逆に五月(いつき)が死んでしまったら、彼女の家族だけでなく、自分自身にも大きな哀しみが襲うだろう。どちらを捨てても、自分は永遠と苦痛を味わるハメになる。

──ここまで奴は考えていたのか、とスパイダーマンはグリーン・ゴブリンの狡猾さに苛立ちを募らせる。

 

 

ヒーローってのは”馬鹿”だよなぁ?いつも残酷な選択を迫られる……!自分を犠牲にして、女の命を救うか……それとも自分のメンツを守って、愛する女を神のもとへ送るか……どちらかを選べ、スパイダーマン。そして、ヒーローにどんな報いがあるかを思い知れ……!

 

「……ッ!」

 

さあ、選べッ!!

 

 

最悪の取捨選択を迫られたスパイダーマン。

彼とグリーン・ゴブリン。そして、捕らわれた五月(いつき)の運命は如何に─────!

 

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①行儀悪く指チュパする難一(なんいち)
 サム・ライミ版「スパイダーマン」(2002)にて、感謝祭で食事する場面でゴブリンの人格に乗っ取られつつあったノーマンがつまみ食いしたのをメイ叔母さんに注意されたときに怪しげな顔を浮かべながら指チュパする場面のオマージュ。

②ゲリンウェイ・ブリッジ
 コミックライターの『ゲリー・コンウェイ』から。ゲリー氏が脚本を執筆したスパイダーマン作品で有名なのはスパイダーマン=ピーターの当時の恋人であるグウェン・ステイシーの死亡である。
 本来、原作者の1人であるスタン・リー氏はグウェンをメインヒロインに据えようとしていたが、休暇中の代筆者のゲリー氏に任せた結果、予定のないグウェンの死という読者のみならず、スタン氏にも大きな衝撃を与えた。
 なお、本作で橋の名前にした理由は、グウェンの死について関連があるからである。




※アンケート『シンビオートを登場させる?』の結果
 どうも、皆さま、お久しぶりです。作者の「まゆはちブラック」です。アンケートにご協力頂いた多くの皆さま、貴重な一票を頂き、ありがとうございました。

 さて、アンケートの結果、『シンビオートを登場させる』という方針に決定しました。
やはり、スパイダーマンとは切っては切り離せない存在ですし、あのダンスを期待している読者の方々にはおられると思います。
望まれていることは出来る限りやっていきますので、これからも『SPIDER-MAN QQ(Quintessential Quintupletsの略)』をよろしくお願いします!



無堂or竹林を登場させる?(作者的にはストーリーに影響与えないので出したくない)

  • 無堂だけ登場させる
  • 竹林だけ登場させる
  • どちらも登場させる
  • どちらも登場させない
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