SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#3 前途多難

 

 

「───でね、家庭教師のアルバイトをすることになったんだ」

 

「あら、そう。良かったわね~」

 

 

家庭教師初日を終えた夜。夕食を摂りながら、(まなぶ)は叔母の(みこと)五月(いつき)たちの家庭教師をすることについて話していた。

姉妹たちが中々素直になってくれていないことは伏せているが、それ以外のことは全て話した。

楽しそうに話す(まなぶ)を見て、(みこと)の頬は緩む。

 

 

「月30万円も入るんだ!叔母さん、お金に困ってただろ?これで何もかも解決だ!」

 

「ありがとう、(まなぶ)。本当は私がしないといけないことなのに……」

 

「何言ってるの叔母さん。僕は役に立ちたいんだ。ほんの少し早い親孝行だと思ってさぁ……」

 

「わかった。そう言うのなら、これ以上は何も言いません。でも、無茶だけはしちゃ駄目。それとアルバイト料の1割はお前が貰うこと。これだけは約束して」

 

「わかったよ、(みこと)叔母さん。でも、僕のお金のことは心配しないで……」

 

 

(みこと)に言いつけられた(まなぶ)は笑顔で約束を交わす。

しっかりと責任を果たそうとする姿を見て、(みこと)には(まなぶ)がちょっとばかり背が伸びたように感じた。

 

 

「(────とは言ったものの、ちょっとだけでもお金が欲しいところ……)」

 

 

しかし、(まなぶ)は笑顔とは裏腹に少し不安だった。

心配するなとは言ったものの、本当は全くといって余裕がなかったのだ。

財布の中にある金額は『2099円』と、育ち盛りの高校生の一ヶ月分のポケットマネーとしては心許ない。2週間後の給料日まではとても待ちきれそうにない。

夕飯を食べ終え、どうしようかと迷っていると、テーブルに置いてある『デイリー・ビューグル』の新聞の一面に目が留まった。

 

 

「(『スパイダーマンの写真求む!』……?)」

 

 

一面を覆いつくすほど堂々と打たれた広告。それはスパイダーマンの写真を提供するカメラマンの求人だった。

金額は撮れた質と量で決まるが、T市一の新聞社の『デイリー・ビューグル』だ。高く買い取ってもらえるだろう。

それにスパイダーマンは(まなぶ)自身である。写真は撮り放題。自警活動をしながらお小遣いも稼げる……一石二鳥だ。

やってみようと決めた(まなぶ)はさっそく、準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっと。動くんじゃねぇ……。頭がポップコーンみたいに弾けるぞ」

 

「うぅ……!」

 

 

その夜。一台の現金輸送車が銃を武装した6人組の強盗集団の襲撃を受けた。

リーダー格の男は銃をこめかみに突き付けながらドライバーを運転席から降ろすと、道路に跪かせる。

 

 

「おい、お前ら!スパイダーマンが来る前にさっさと金積み込め!他の奴らは見張ってろ!」

 

 

リーダー格の支持を受け、5人のうち2人は輸送車の現金を積み込み始め、残りは銃を構えて周囲を警戒していた。

最近現れた謎の自警団・スパイダーマンの活躍に強盗である彼らも警戒していた。

せっせと強盗作業に勤しんでいると──

 

 

パシャ!

 

「──フォォォウッ!」

 

『!?』

 

 

近くから鳴るカメラのシャッター音と共に空からスパイダーマンが颯爽と現れる。

見張りの強盗たちは驚きつつも発砲しようとするが、スイングの勢いを利用した両足蹴りで3人纏めて蹴り飛ばす。

着地したスパイダーマンは後ろ向きで跳躍し、襲いかかろうとする2人の頭の上で逆立ちする。

 

 

「フンッ!」

 

「「ぐあッ!」」

 

 

軽く前転しながら後頭部に両膝蹴りを放つ。強盗2人はスパイダーマンが蜘蛛の姿勢で着地すると同時に倒れる。

近くの電柱にウェブでくっつけたデジタルカメラはパシャパシャと一定間隔で自動撮影する。

 

 

≈「ッ!」≈

 

 

スパイダーマンは撮れ位置が大丈夫かとデジタルカメラの方を見上げていると、頭が危険を報せるかの如くムズムズする。

蜘蛛の第六感────スパイダーセンスだ。

危険を感じる方角からは、現金輸送車の陰からリーダー格の強盗がこちらに向けて発砲しようとしていた。

 

 

ピシュッ!

 

「あっ!?」

 

 

スパイダーマンは強盗が拳銃の引き金を引く前よりも早く左手を突き出してウェブを放つ。

粘着性を持ったウェブは強盗の目にくっつく。

突然視界が真っ暗になった強盗はパニック状態になり、拳銃があらぬ方向に向く。

 

 

ドゴッ!

 

「がッ!?は………」

 

 

強盗がパニックになっている隙にスパイダーマンは前転して素早く懐に忍び込むと、腹部に拳を打ち込む。

腹部から伝わる強烈な一撃に強盗は目を見開くと、その場に倒れ込んで気絶した。

 

 

「チーズ!」

 

パシャ!パシャ!

 

 

強盗を一掃したスパイダーマンはデジタルカメラがついている電柱へ振り向いてダブルピース。

デジタルカメラのシャッターは切られ、スパイダーマンの勇姿を余すことなく記録した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の土曜日の朝。昨晩の写真を現像した(まなぶ)はさっそく『デイリー・ビューグル』の編集長・紫紋(しもん)に見せにいった。

紫紋(しもん)は目を凝らしながら、現像したスパイダーマンの写真1枚1枚目を通す。

──きっと高く買い取ってくれるだろう。(まなぶ)はそう期待していたが……

 

 

「ゴミだな。ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ……酷いゴミ。これ全部で6160円ってところだ」

 

 

と、予想以下の金額を辛口を添えて提示する。

写真はブレもなければ、画質もわりかし良い方だ。納得がいかない(まなぶ)は言う。

 

 

「少し安すぎません?」

 

「ティーンエイジャーの小遣いなら妥当な金額だろ?嫌なら他に行け」

 

 

冷たく返された(まなぶ)は内心ムッとしながら椅子から立ち上がって帰ろうとするが、(まなぶ)の隣に座っていた副編集長の比呂が待ったをかける。

 

 

「待ってください、編集長。この写真は素晴らしいです」

 

「フン、どうだか」

 

「たくさんのカメラマンが来ましたが、ここまで鮮明なスパイダーマンを撮れたのは彼だけです。このままライバルの『春場新聞』に売りでもしたら、大きく差をつけられます」

 

「…………座れ」

 

 

比呂の説得を受けて考えを変えた紫紋(しもん)(まなぶ)に椅子に戻るように促す。

(まなぶ)は比呂に軽く頭を下げると、椅子に座った。

紫紋(しもん)は再び軽く写真に目を通すと、(まなぶ)に向き合う。

 

 

「34000で出そう。比呂、一面をこの写真に差し替えろ」

 

 

紫紋(しもん)は改めて金額を提示すると、比呂に写真を手渡す。

先程提示された金額とは比べようにならないくらいの金額に(まなぶ)は頬が緩む。

幸せな気分に浸っていた彼だが、紫紋(しもん)の口から出た言葉に幸せも吹っ飛ぶ。

 

 

「見出しはこうだ!『スパイダーマン ヒーローか?悪人か? デイリー・ビューグル独占写真』!」

 

「悪人……?」

 

 

悪人という単語が引っかかる(まなぶ)

写真はどう見たって強盗を倒している。どこをどう見ればそう思い付くのか。

決めつける紫紋(しもん)(まなぶ)は異を放つ。

 

 

「彼は悪人じゃありません。昨夜の現金輸送車を守っ────」

 

「見出しはこの俺が決めるんだ。お前は写真を撮ればいい。それじゃ嫌か?」

 

「……ッ、いいえ」

 

「よし!」

 

 

紫紋(しもん)の傲慢な態度に腹が立ったが、(まなぶ)は渋々従うことにした。

──このまま口論しても意味がない。相手の性格、自分の立場を考えれば当然だった。

紫紋(しもん)は慣れた手つきで小切手に金額を書き込むと、(まなぶ)に手渡す。

 

 

「これを秘書に渡して金を貰え」

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言っても増やさんぞ。これからもネタになりそうな写真があったら、()()()()()持ってこい………わかったな?さぁ、出ていけ!!!」

 

 

紫紋(しもん)は編集長室の扉に指を指しながら怒鳴りつけると、(まなぶ)はビクッとしながらも促されるまま編集長室を後にした。

編集長室から出ると、(まなぶ)は近くの机で事務作業をしている秘書・細田に話しかける。

 

 

「どうも……」

 

「おはよう」

 

「あなたにこれを渡せって」

 

「ああー……写真の代金ね」

 

 

(まなぶ)から小切手を受け取った細田はこれまた手慣れた手つきでサインと印鑑を打つ。

細田はサインと印鑑をつけた小切手を返しながら、にっこりとした笑顔を送る。

 

 

「『デイリー・ビューグル』へようこそ」

 

「ありがとうございます。天海(あまかい) (まなぶ)です。失礼ですけど、よくあの編集長のもとで働けますよね?」

 

 

(まなぶ)は純粋な疑問をぶつける。見た感じ、こんな礼儀正しくて明るそうな人があのガミガミ親父の紫紋(しもん)の秘書の仕事ができると。

(まなぶ)の質問に細田はおかしそうにクスっと笑う。

 

 

「ふふっ。よく言われるけど、紫紋(しもん)さんはああ見えて社員思いの良い人なのよ?」

 

「え?あまりそうは見えなかったですけど……」

 

「君もいずれ社会に出ればわかるわ………。小切手は下の銀行で現金化してもらって。じゃあ、天海(あまかい) (まなぶ)さん。次の写真もよろしくね♪」

 

「……ッ」

 

 

細田はそう言ってウィンクを(まなぶ)に送る。(まなぶ)は一瞬ドキッと胸が高鳴るが、すぐに想い人の五月(いつき)の顔が頭に浮かびあがる。

 

 

「(僕は何を考えてるんだ!僕の本命は五月(いつき)だろ……!?)」

 

「?」

 

 

焦った(まなぶ)は頭を抑える。

心に決めた女性がいるにも関わらず、一瞬でものろけた自分を(まなぶ)は責めた。

悩む彼の姿に細田は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、2時間後の正午。一旦家に帰ってから勉強道具一式をリュックに詰め込んだ(まなぶ)は中野家が住んでいるマンションへと足を運んでいた。

世間一般的には休日であるが、今日は家庭教師の日なのだ。シフトは週3~4日で、平日は17:30~21:30、休日は12:00~17:00(1時間休憩あり)で組まれている。

休日5時間はちょっと長いかもしれないが、勉強嫌いの彼女らのことを考えれば当然の長さかもしれない。父親のマルオも口出しは一切せず、勤務日時以外は一任している。

 

エレベーターに乗り、最上階の30階に到着。

インターホン越しで開けてもらえるように伝えると、ロックが開いた扉から彼女たちの家へ入る。

 

 

「おはようございまーす」

 

 

四葉(よつば)の元気な挨拶に(まなぶ)は迎えられる。リビングには二乃(にの)以外の姉妹全員集まっており、奥のテーブルの方には風太郎の姿もあった。

声をかけようとしたが、自作の問題集を念入りにチェックして忙しそうだったので「おはよう」と言おうとした口を噤む。

しかし、休日とあって皆私服(風太郎は生真面目なのか制服)であり、制服とはまた違った新鮮味を感じる。

 

 

「おはようございます、天海(あまかい)君。今日もよろしくお願いします」

 

「あ!やあ……。よろしく」

 

 

五月(いつき)に挨拶された(まなぶ)は彼女の服装にドキッとしながらも、笑顔で挨拶を返す。

当然彼女も私服なのだが、横縞のトップスにロングスカートと清楚感を残しつつも涼しげな恰好だった。

袖がないことで普段見ることが出来ない色気ある肩に、(まなぶ)はまた違う姿を知れて、さらに魅力的になった。

 

 

「ふーん……」

 

 

その様子を一花(いちか)は興味深々な目で見物していた。

彼女は(まなぶ)が他の妹とは違う反応をしていると勘付き、含みある笑みを浮かべた。

 

そんなやりとりも終えつつ、(まなぶ)はチェックを終えた風太郎を加えて、勉強を始める準備を整えた。

 

 

「準備万端ですっ!」

 

「前わからなかったとこ、教えてね?」

 

「まー……私は見てよっかなー」

 

 

四葉(よつば)三玖(みく)はやる気ある姿勢を見せる。一花(いちか)はやる気がなさそうな態度を見せるが、気持ちは他の姉妹と同じだ。

 

 

「私は天海(あまかい)君に教えてもらいますから。あなたを受け入れたわけではありません」

 

「はあ……言われんでもわかってる」

 

 

冷たく距離を取る五月(いつき)の言葉に風太郎は嘆息ついて返す。

酷い言い方をしたとはいえ、未だに許す気はない五月(いつき)(まなぶ)は困惑する。

グループで作業行う以上、場の空気は大事だ。ギスギスしたままだと、後々大変になる。

この問題もいつか解決しなければ、(まなぶ)はそう心の中で誓った。

 

 

「よーし!やるかーー!」

 

 

とはいえ、前日と打って変わってやる気があるのは事実だ。

和気あいあいとした空気に風太郎も気合を込めて、勉強を始めようとすると──

 

 

「あんた達。また懲りずに来たのー?」

 

二乃(にの)……」

 

 

2階の手すりから二乃(にの)が嫌味のこもった目でこちらを見下ろしていた。

呟いた風太郎もだが、(まなぶ)も彼女の存在をすっかり忘れていた。

二乃(にの)は階段に移ると、(まなぶ)へ視線を向ける。

 

 

「あんたもこんな昼間から来るって相当暇なのね。ま、上杉(そいつ)みたいに教える途中で寝ちゃわないといいけど……?」

 

「やっぱりてめぇか……」

 

 

不敵な笑みを浮かべる二乃(にの)の挑発に、風太郎はピキッと額に青筋を立てる。彼女は反省する気など更々ない。

風太郎は生まれて初めて女をぶん殴ってやりたいと思ったが、今は落ち着く。揉め事など起こせば給料どころか、クビになってしまう。それだけは避けたい。

下手に出ようと考えた風太郎は心を落ち着かせると、彼女を誘う。

 

 

「どうだ?二乃(にの)も一緒に───」

 

「死んでもお断り。似合ってない双葉アホ毛と陰キャオタクとつるみたくないし」

 

「うぐぐ……!人のコンプレックスを……!」

 

 

即答で拒否されつつ触れてはいけないことを突かれた風太郎は作り笑いが不自然になるほど怒りが募っていた。

ギリギリと歯ぎしりするほどで、目も全く笑っていない。

険悪な空気に(まなぶ)は戸惑うものの、二乃(にの)に尋ねる。

 

 

「えーとっ……。僕たちがどうしたら勉強をやってくれる?」

 

「そうね…………3つ条件呑んだらやったげる」

 

「条件?」

 

「1つ目、荷物を片付ける。2つ目、玄関に行く。3つ目、ドアから出る」

 

「それって、”帰れ”ってことじゃない!」

 

 

指を折りながら二乃(にの)が出す理不尽な条件に思わず(まなぶ)は吠える。

その抗議の声も彼女は「何か文句ある?」と言いたげな目で返すばかりだ。

 

 

「しょうがない。時間も惜しいし、俺たちだけでもやるか」

 

「だね」

 

 

二乃(にの)が参加する意思を見せない以上、何をやっても無駄だと判断した風太郎と(まなぶ)は彼女抜きでやることにした。

さっそく、風太郎お手製の問題集を配ろうとしたとき、二乃(にの)はあっと口を開く。

 

 

「そうだ、四葉(よつば)。陸上部の知り合いが大会前に疲労骨折したらしくてさー。あんた、走るの得意でしょ?今からでも行ってあげたら?」

 

「今から!?」

 

「いくら何でも……!」

 

 

二乃(にの)の提案に四葉(よつば)(まなぶ)は驚きの声を上げる。

確かに今日は休日で時間はあるが、今は勉強が優先だ。順序が整ってない。

急な提案に四葉(よつば)は行こうか行くまいか迷っていると、二乃(にの)は──

 

 

「あーかわいそう。補欠もない部活らしくてさ、このままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきたのに………これじゃ水の泡になっちゃうわね。かわいそかわいそ………」

 

 

わざとらしく棒読みで同情を誘う二乃(にの)

──絶対やるわけないだろう。そう思っていた(まなぶ)と風太郎だが………

 

 

「上杉さんたち、すみません!困っている人をほっといてはおけません!!」

 

「え?おい──」

 

 

それを聞いて四葉(よつば)は居ても立っても居られず、自室で準備し始める。

風太郎が止める間もなく、ジャージに着替えた四葉(よつば)は玄関から出ていった。

 

 

「嘘だろ……?」

 

「………」

 

 

風太郎と(まなぶ)は呆気に取られていた。

四葉(よつば)が人がよさそうな人物ながらもしっかりと断ると思っていたが、まさかそう簡単に承諾するとは思いもしなかった。

彼らの困惑する顔を見て、したり顔を浮かべた二乃(にの)は次に一花(いちか)へ視線を向ける。

 

 

一花(いちか)も14時からバイトって言ってなかったっけ?」

 

「あー忘れてた」

 

 

二乃(にの)にそう言われた一花(いちか)はあっと思い出すと、促されるままに玄関を出た。

 

 

五月(いつき)。こんなうるさいとこより、図書館とか行った方がいいよ」

 

「それもそうですね」

 

「ああ、待って」

 

 

続けて二乃(にの)に提案され、五月(いつき)もまたこの家から出ようとするが、(まなぶ)が引き留める。

どうして止めるのかと疑問の目を向ける五月(いつき)(まなぶ)は説明する。

 

 

「図書館もいいけど、ここでやっても問題ないよ。リビングだと家族に見られるから逆に集中力が上がったなんてデータもあるし、わざわざ出るのも面倒くさいだろ?」

 

「そう言うのなら……」

 

 

(まなぶ)の意見に理解を示した五月(いつき)は椅子に座り直す。

(まなぶ)が引き留めたのは、これ以上二乃(にの)の思惑通りにならないようにするためだ。

初日からそうだったが、彼女は(まなぶ)と風太郎を排除したがっている。先程までの提案は表向きは他の姉妹たちを思っての言動だが、その真意は(まなぶ)たちから姉妹を遠ざけることによって、わざと勉強させないよう妨害しているようにしか思えなかった。

その証拠に二乃(にの)は思惑通りにいかなかったとばかりに眉をしかめていた。

 

 

「(本当は2人っきりになりたかったんだけど……)」

 

 

二乃(にの)の妨害を阻止した(まなぶ)だが、本音は五月(いつき)と2人だけで勉強したかった。

そのまま引き留めずにいれば、より親しくなれるチャンスだったが、二乃(にの)の妨害を阻止するのが最優先だと考えたわけである。

自分1人でも対応できる幅は限られており、今後のことを考えれば当然の決断だった。

 

五月(いつき)のことをひとまず諦めた二乃(にの)は階段を降りると、次のターゲットを三玖(みく)に定める。

 

 

「あ、三玖(みく)。あんたがこの前、間違えて飲んだジュース買ってきてよ」

 

 

冷蔵庫の方を指指しながら頼み込む二乃(にの)。あたかも、普通の会話に聞こえるような自然な態度で。

──せめて、上杉だけは。排除しようとする黒い思惑に三玖(みく)は──

 

 

「それなら買ってきた」

 

「え!?」

 

 

と床を指差す方角には、レジ袋が。

予想外のことに二乃(にの)は驚きつつもレジ袋の中身を見ると、大量の缶ジュースが所狭しと入っていた。

種類も豊富で、オレンジジュースやリンゴジュースにコーラといったメジャーなものから、抹茶ソーダという奇妙奇天烈な飲み物まであった。

 

 

「さあ、そんなことより始めよう」

 

「ああ、仕方ない……切り替えていこうか」

 

 

三玖(みく)と風太郎は思惑が外れて戸惑っている二乃(にの)を置いておいて、勉強に取り掛かる。

それを見計らって、(まなぶ)五月(いつき)も勉強を始めた。

仲間外れにするつもりが、()()()()仲間外れされた気がした二乃(にの)はむかっ腹が立ち、三玖(みく)に突っかかる。

 

 

「あんたら、いつからそんなに仲良くなったわけ?え、三玖(みく)ってばこんな目つきが悪い男が好みだったの?」

 

「また人のコンプレックスを……」

 

 

ボソッと呟く風太郎を指指しながら挑発気味に追求すると、それが気に食わない三玖(みく)も言い返す。

 

 

「面食いに言われたくない……」

 

「はぁ?面食いが悪いんですか?イケメンに越したことはないでしょ?」

 

「顔が良ければ誰でもいいんでしょ?」

 

「なーるほど、なるほど……。外見を気にしないからそんなダッサイ服で出かけられるんだ?」

 

「この魔女みたいな爪がオシャレなの?」

 

「あんたにはわかんないかな!」

 

「わかりたくもない……」

 

 

煽りに煽り返す口論はいつの間にか風太郎の外見のことから、お互いの趣味趣向のことへと移行していった。

まともや訪れる不穏な空気に傍から見ていた(まなぶ)五月(いつき)は困惑する。

一向に進まない現状に見かねた風太郎は口を開く。

 

 

「おいおい、お前ら。外見とか中身とか言い争っている場合じゃないだろ?勉強するならする、しないならしないでハッキリしろよ」

 

「そうだね……。もう邪魔しないで」

 

「……」

 

 

呆れた風太郎の制止の声に耳を傾けた三玖(みく)二乃(にの)に釘を差すと、勉強に取り掛かる。

それでも不満な二乃(にの)は壁に立てかけている時計をチラリと見る。時刻はすでに12時30分を過ぎていた。

それを見て名案を思いついた二乃(にの)は風太郎に話しかける。

 

 

「キミ。お昼は食べてきた?」

 

「ん?ああ、そういやまだだな……」

 

 

唐突な質問にひょうきんな顔で答える風太郎。

風太郎と(まなぶ)は、今度はどんな悪巧みかと疑っていると、二乃(にの)は台所を示すように手を置く。

 

 

「じゃあ、三玖(みく)の言う通り、中身で勝負しようじゃない。どちらがより家庭的か……私が勝ったら、今日は勉強なし!」

 

「一気に話が飛んだな……」

 

 

二乃(にの)の飛躍した提案にこいつ何言ってんだと言わんばかりの顔を見せる風太郎。

発端のジュースの話から、どうして料理対決することになるのかが風太郎には理解できなかった。

当然やるわけないよな、と視線を送る風太郎に対して三玖(みく)は──

 

 

「フータロー。すぐ終わらせるから待ってて」

 

「おぉいッ!どうしてそうなるッ!?」

 

 

と腕を捲り、自信たっぷりに挑戦を受ける姿勢を見せる。

思った通りと違う彼女の行動に、風太郎は今日一番の声でツッコんだ。

 

2人は台所の前に立つと、さっそく各々の調理に取り掛かる。

台所から火を点火する音、食材を切る音が聞こえる中、勉強しながら五月(いつき)は不安そうに(まなぶ)に話しかける。

 

 

「大丈夫でしょうか……?」

 

「仕方ないよ、始めちゃったことだし……。まあ、彼女たちがこれで満足するなら」

 

「ですね…………ですが、このまま黙ってはいられません」

 

 

苦笑する(まなぶ)の意見に五月(いつき)は頷くが、見守る気はなく、シャープペンシルを置いて調理中の姉たちの方へ歩き出す。

この様子から、(まなぶ)は姉たちに勉強するように喝を入れると期待していたが………

 

 

「味見は任せてくださいね!」

 

ガクッ!

 

 

と、ジュルリとよだれを垂らしながら楽しそうに言う五月(いつき)

止めるどころか応援する立場になっていることに風太郎のみならず、(まなぶ)もズッコケる。

キラキラと目を輝かせる五月(いつき)に対して、三玖(みく)二乃(にの)は──

 

 

「駄目。絶対、駄目」

 

「あんた、この前味見だけって言ったカレーを()()()()()()()()じゃない。諦めなさい」

 

「そんなぁ……」

 

 

拒否。しかも2人ともだ。

姉たちに拒否された五月(いつき)はよっぽど食べたかったのか落ち込むと、重い足取りで元の席に戻る。心なしか頭頂部のアホ毛もシュンとしなびていた。

 

 

「………ドンマイ」

 

「はい……」

 

 

理由はそこまでだが、いたたまれない気持ちになった(まなぶ)は落ち込む五月(いつき)を励ますのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、調理開始から40分後。作り終えた2人はテーブルにそれぞれの料理を風太郎の前に差し出す。

休憩することにした(まなぶ)五月(いつき)はその後ろから様子を伺っていた。

 

 

「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビ~~!」

 

 

自信満々の笑みで二乃(にの)が出したのは、ドイツ生まれのパンケーキ────ダッチベイビーだ。

卵、小麦粉、砂糖、牛乳から作られるドイツの朝食で出されるパンケーキで、ビスマルクやダッチ・パフとも呼ばれる。

一般的には搾りたてのレモンやシロップをかけて食べるのだが、昼食用と考えてナスやピーマンといった旬の野菜をたっぷり入れている。

 

 

「オ……オムライス………」

 

 

反対に恥ずかしそうに縮こまる三玖(みく)が出した料理はオムライスだ。

だが、米は焦げており、卵もぐちゃぐちゃで、オムライスと言われなければわからないくらい”お粗末なもの”だった。

そんな三玖(みく)二乃(にの)は煽るようにニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべる。

 

 

「……いただきます」

 

 

とりあえず食べることにした風太郎は合唱すると、まずは二乃(にの)お手製のダッチベイビーを食べることにした。

──見栄えはいいが、あの女のことだ。きっと中身同様、不味いに違いない………。そうタカをくくっていたが、口にした瞬間──

 

 

「!?う、美味いッ!」

 

「ふふっ……」

 

 

驚く風太郎の反応に二乃(にの)は不敵に笑う。

噛み応えのある野菜の食感と生地のバランスさ、ヘルシーでいて生ハムのジューシーな味わい……どれもが彼の味覚を刺激した。

すっかり胃袋を掴まされた風太郎は夢中になって次々と口の中に入れていき、気付いたときにはひとかけらも残さずに完食した。

 

 

「ごちそうさま。美味かったぞ」

 

「私にかかれば当然よ」

 

 

率直な風太郎の感想を聞いて、二乃(にの)は勝ち誇った笑みを浮かべる。

──悔しいが、料理の腕は認めざるを得ない。風太郎は内心そう思いながら、三玖(みく)のオムライスへ食べようと手を伸ばすが、彼女は皿を下げようとする。

 

 

「いいよ……。やっぱり自分で食べる」

 

 

疑問の目を向ける風太郎に三玖(みく)は自信なさげに答える。

料理の腕前の差を見せつけられた三玖(みく)は、きっと美味しくないと自信を失ってしまったからだ。

 

 

「せっかく作ったんだから、食べてもらいなよー」

 

 

二乃(にの)はニヤニヤと笑みを浮かべて煽る。言葉こそ優しいが、心は全くといって籠ってなかった。

ますます自信を失う三玖(みく)を見て嘆息する風太郎は彼女から皿を取り上げる。

 

 

「(見たくれは悪いが、意外と美味いのかもしれない……)」

 

 

風太郎は眼前のオムライスが美味しいと祈る。娼婦風スパゲッティーだって慌てた娼婦が作ったら美味かったと聞く。

それと同じだと言い聞かせた風太郎はスプーンですくう。変な焦げた匂いが鼻に入ってくるが、堪えた風太郎は覚悟して口に入れる。すると──

 

 

「うッ!?(ま、不味い!何なんだ、これは!?)」

 

 

見た目通り不味かった。焦げ臭い米のジャリジャリとした食感と崩れた卵のべちょべちょした味に、風太郎は吐き気を催した。

 

 

「もういいよ……残していいから」

 

 

風太郎の顔色が一瞬で悪くなったのを見て、三玖(みく)は皿を下げようとするが、その手を風太郎が止める。

どうしてと疑問に思っている三玖(みく)に、一口目を何とか飲み込んだ風太郎は呼吸を整えて言う。

 

 

「……何勝手に下げようとしてんだよ?まだこんなに残ってるんだぜ?」

 

「不味いんでしょ?同情はいいから………」

 

「”同情”?同情なんかするもんか……。これは”プライド”だ!俺の家は貧乏だからな……出されたもんは全部残さず食べるって決めてるんだ!例えそれが不味くても、俺は最後まで食う!それだけだ!!」

 

 

そう言い放って三玖(みく)から皿を取り戻すと、ガツガツと口に入れるペースを速めてかきこむ。途中、吐き気が催して手が止まるが、それを意地で払いのけると、水も飲まずに一気に平らげた。

 

 

「……ごちそうさま。不味いが、気持ちは伝わった」

 

「……うん」

 

 

率直ながらも感謝を告げる風太郎に三玖(みく)はにっこりと笑う。

オブラートには包んではないが、彼らしい真っ直ぐな感想に自信がなかった三玖(みく)は心が温かくなるのを感じた。

 

 

「は?何それ!つまんない!」

 

 

何かいい感じの空気になっているのを気に食わない二乃(にの)はそう吐き捨てると、ズカズカとした足取りで自室へと向かっていった。

素直じゃない二乃(にの)に風太郎は嘆息すると、食器を洗いにいった。

 

 

「見直したー………」

 

「えぇ、そうですね……」

 

 

風太郎のカッコ良さに見直した(まなぶ)の呟きに五月(いつき)は頷き返す。

この日。五月(いつき)は未だ彼のことを嫌ってはいるが、少しは許してもいいかもしれないと考え直した。

 

ちなみに風太郎が腹を壊して、2時間もトイレに籠っていたのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ」

 

「ああ……」

 

 

そして時が経ち17時。家庭教師の業務が終わった(まなぶ)と風太郎はマンションを出ていた。風太郎は未だ腹の痛みが来るのか、腹を抑えていた。

風太郎がトイレに籠ってしまったというトラブルがありはしたものの、(まなぶ)のサポートがあって、ある程度は進めた。もし彼がいなかったら、風太郎は無駄な時間を費やすことになっていただろう。

隣で歩きながら(まなぶ)は純粋な疑問を風太郎に投げかける。

 

 

「ねぇ、上杉」

 

「ん?」

 

「何でこの仕事を引き受けたの?あんなことされても……」

 

「……」

 

 

(まなぶ)は気になっていた。風太郎は普段あまり誰かと接するようなことはせず、友達と思わしき人もおらず、常に一人でいる男だ。

そんな彼がどうして酷い仕打ちをされても辞めずにいるのかが頭に引っ掛かっていた。

彼の純粋な問いに風太郎は少し考えたのち、口を開く。

 

 

天海(あまかい)。さっき、俺ん家が貧乏だって言ったよな?」

 

「ああ」

 

「俺の家……実はさ、借金まみれなんだよ。親父が必死に働いて返済してるけど、それでも氷山の一角……全然減らないんだ。俺もアルバイトを掛け持ちして働いてるけど………。けど、この仕事なら月に約30万円も貰える。それさえあれば、いつも我慢させている妹にも楽させてあげられる」

 

 

風太郎の境遇を聞いて、(まなぶ)は彼もまた自分と同じ動機であると思った。

風太郎は妹と父親、(まなぶ)は叔母のためと自分の家族のために働いている………。だから、昨日クビにされると思ったときにあんなに焦っていたのかがわかる。

ただの嫌味な奴かと思っていたが、自分と似た境遇を持っていると知り、親近感を覚えた。

(まなぶ)は彼の本質をよく知るべきと考えていると、今度は風太郎が訊く。

 

 

「なあ、お前はこの仕事を受けた理由は?」

 

「僕も君と同じ叔母……家族のためだよ。最近働いていた叔父が亡くなってね、収入源が無くなったんだ。……元々、うちはそんなにお金があるわけじゃないから、遺産だけでどれだけ暮らせるかわかんない………」

 

「それでこのバイトをしに来たってわけだな」

 

「うん。似た者同士だ」

 

 

(まなぶ)の境遇を聞いた風太郎もまた親近感を覚えた。

最初は頭はいいが大人しすぎる奴だと思っていたが、蓋を開けてみれば自分と同じ家庭状況に苦しんでいる男だった。

似た者同士と言われても普段なら冷たく突っぱねるが、(まなぶ)からそう言われても嫌な気分はしなかった。

(まなぶ)という人間と出会い、他人に関心を示さない風太郎の心に興味という炎がほんの少し灯った。

 

 

「あ、財布忘れた。悪い、戻るわ」

 

 

五つ子たちの住むマンションから1kmくらい離れた頃、風太郎はポケットに財布をマンションに忘れたことに気付いた。

全財産が入っているので急いで戻ろうとするが、(まなぶ)が止める。

 

 

「いいよ。代わりに取ってくる。どんな形?」

 

「富士山の絵がついたがま口財布だ。多分、リビングにあると思う」

 

「わかった。すぐに取ってくるよ」

 

「悪いなー」

 

 

特徴を聞いた(まなぶ)は軽く走って歩いてきた道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マンションに戻り、三玖(みく)に中へ入れてもらった(まなぶ)はリビングに向かい、風太郎の財布を探し始める。

 

 

「あったあった」

 

 

風太郎がどこにいたのか思い返しながら探すと、1分もしないうちに見つけた。机の下にあることから、勉強を始める前に行った問題集のチェックしていた際に落としたんだろうと検討つけた。

目当てのものを手にしたこれ以上ここにいる必要はない。(まなぶ)は玄関に繋がる扉へ向かおうと振り向いたときだった。

 

 

「あ……!」

 

 

扉が開き、廊下から誰かが現れる。その姿を見た(まなぶ)は口をあんぐり開けて固まる。

それは胸元をバスタオルで巻いた、風呂上りの二乃(にの)だった。

 

 

三玖(みく)。お風呂空いたけ…ど………」

 

「………」

 

 

濡れた髪をバスタオルで拭いていた二乃(にの)だったが、鉢合わせた(まなぶ)と目が合い、髪を拭く手を止める。

しばらくの静寂ののち……

 

 

「きゃーーーーッ!!不法侵入!!誰か来てッ!!!」

 

「あわわ……!」

 

 

二乃(にの)はその場でかがんで思いっきり悲鳴を上げた。

助けを求める悲鳴に(まなぶ)はあたふたと慌てふためく。年頃の半裸の女子高生とまだ知り合って間もない男子高生。誰かに見られでもしたら、十中八九変態扱いされるだろう。

もし、五月(いつき)にこのことを知られでもしたら、彼女から一生嫌われる。

 

 

二乃(にの)?どうしたのー?』

 

『何かありましたー?』

 

「(マズイ!)」

 

 

彼女の悲鳴を聞いて、リビングに向かう他の姉妹の声が聞こえる。

その声には四葉(よつば)の他に、憧れの五月(いつき)の声があった。

五月(いつき)の存在にさらにパニックになる(まなぶ)だったが、このままだといけないと思い、二乃(にの)が目を離している隙を狙って素早く跳躍した。

 

そして、リビングに四葉(よつば)五月(いつき)がやってくる。

かがみこんでいる二乃(にの)を見た五月(いつき)は尋ねる。

 

 

「どうしました?」

 

「き、聞いてよ!天海(あまかい)が勝手に入ってきて……私のお風呂上りを待ってたのよ!」

 

天海(あまかい)君が……?」

 

 

動揺する二乃(にの)の訴えに五月(いつき)は半信半疑といった顔で辺りを見渡すが、(まなぶ)の姿はどこにもなかった。

四葉(よつば)はカーテンの裏や台所の陰など、隠れられそうな場所を探すが、やはりいなかった。

 

 

二乃(にの)ー?どこにもいないよ?」

 

「そんな!?嘘よ!この目で見たんだから!!」

 

「いくら嫌ってるからといって、これは………」

 

「ち、違うわよ!嘘なんかついてない!絶対隠れてるんだわ」

 

 

ジト目で疑う五月(いつき)二乃(にの)は身の潔白を証明しようと辺りをくまなく探し始める。

人が隠れられそうな場所を隅から隅まで探すが、(まなぶ)の姿は影も形もなかった。

おかしいと頭が混乱し始める二乃(にの)の肩を四葉(よつば)はポンと叩く。

 

 

「きっと疲れてるんだよ……」

 

「そうかも……。きっと、あいつらがいたせいで幻覚を見たんだわ………」

 

 

四葉(よつば)の労わる声に二乃(にの)はそうなんだと言い聞かせて納得した。

ともあれ解決した一同は元の場所へと戻っていく。

 

 

「やっといなくなったか……」

 

 

天井では一部始終を見ていた(まなぶ)が仰向けの姿勢で引っ付いていた。

他の姉妹が来る寸前、(まなぶ)は慌てながらも天井に向かって跳躍し、そのまま引っ付いていたのだ。

(まなぶ)は全員がいなくなったのを見計らうと、できるだけ物音を立てず、静かに着地する。

 

 

「(あんなとこ見られたら、裁判染みた尋問を受けたに違いない。けど、三玖(みく)は何で言ってくれなかったんだ?天井に張り付くことなんてしなくて済んだのに………)」

 

 

忍び足で廊下を歩き、靴を履いて玄関を出た(まなぶ)は何故三玖(みく)が他の姉妹に話してくれなかったのか疑問に思っていた。

実は三玖(みく)(まなぶ)を中に入れた後、すぐに入浴していたのだ。誰か他の姉妹に見られても平気だろうと考えたのである。

 

 

「(まあ、今はこの力に感謝するか……)」

 

 

何があったのかはともかく、素直にスパイダーマンの能力に感謝することにした。

この力が無ければ、変態の烙印を押されていただろう。

(まなぶ)は小さな喜びを噛み締め、やってきたエレベーターで下へと降りて行った。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①2099円
 MARVEL COMICから発刊されている「スパイダーマン2099」(1992)から。
 タイトル通り2099年の未来世界が舞台で、アルケマックスという大企業の遺伝子組み換えのプロジェクトに関わっていた科学者、ミゲル・オハラがスパイダーマンとして活躍する。

②裁判染みた尋問
 「五等分の花嫁」作中における大事件・五つ子裁判から。原作では財布を取りにいった風太郎がのぞきの疑いをかけられ、一応は解決するのだが、今作では(まなぶ)が財布を取りに行き、天井に引っ付いて身を潜めたので裁判自体起きなかった。

スパイダーマンを増やす?

  • YES!(ヒロインなし)
  • YES!(オリジナルヒロイン)
  • YES!(五つ子の中からヒロイン)
  • NO
  • It's Morbin time
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