SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

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#6 花火大会にいこう パート②

五つ子、友人たちと花火大会へとやってきた(まなぶ)

押し寄せる来場者たちによって彼らとはぐれてしまい、近くにいた二乃(にの)と一緒に予約している店へと向かった。

だが、そこには誰もいなかった。伝え忘れたことを確信した二乃(にの)は焦る。

 

準備が整っていない彼らとは裏腹に、花火はすでに始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発覚した事実に呆然と立ち尽くす二乃(にの)(まなぶ)

その衝撃に轟音と共に夜空に美しく咲く花火も目に入らなかった。

 

そんなとき、二乃(にの)のスマートフォンが震える。相手は四女の四葉(よつば)だった。

すかさず、二乃(にの)は電話に出る。

 

 

四葉(よつば)!妹ちゃんも一緒?もう花火始まってるけど、どこにいるの?……え?時計台に戻ってるって?迎えに行くからそこにいなさい!」

 

 

通話を切った二乃(にの)五月(いつき)にかける。

しかし、気付いていないのか中々電話に出ない。

 

 

「どうして出ないのよ………。ぼさっとしないであんたもかける!」

 

「はっ、はい!」

 

 

強い声色で発する二乃(にの)に気圧された(まなぶ)はビクッとしつつも、スマートフォンを取り出す。

五つ子たちの連絡先は知らないので、親友の涼介にかけることにした。

プルル……と発信音が3回鳴ったのち、通話相手の涼介が出た。

 

 

(まなぶ)。どこにいる?》

 

「涼介。出てくれて良かった!僕はカフェ『Jon Watts』にいる!そっちは他に誰かいない?」

 

《あー……さっきまで一花(いちか)さんといたけど、用事を思い出したってどっかに行ったなー》

 

「用事?」

 

《詳しくは聞いてない。もし妹たちに会えたら”一緒に見られなくてごめん”とは言ってたな……》

 

 

涼介から消えた一花(いちか)の伝言に眉をひそめる(まなぶ)。用事とは何なのか。

気になった(まなぶ)二乃(にの)に尋ねる。

 

 

一花(いちか)から今日、何か用事があるって聞いてる?」

 

「用事?そんなの聞いてないわよ」

 

 

(まなぶ)の問いに何のことかと反応を返す二乃(にの)

自分よりも本人の妹である彼女に心当たりがないとするのなら、詳しいことはわからない。

一花(いちか)の用事が気になるが、今はみんなの現在位置を知ることが先決。(まなぶ)は再び通話に戻る。

 

 

「涼介。今、どこにいるか教えてくれる?」

 

《焼き鳥の近くだ》

 

「わかった。そこで待ってて」

 

 

涼介にそう言い伝えると、(まなぶ)は通話を切った。

 

 

「(場所はわかったけど、どうやって探せばいいか………)」

 

 

心の中でそう思いながら、(まなぶ)は地上を見下ろす。

下は花火を見ようとする大勢の人でごった返しており、この中に入ってピンポイントに探し出すのは難しいだろう。

(まなぶ)は隣にいる二乃(にの)へ顔を向ける。彼女は他の姉妹にかけているが、中々繋がらず、表情も陰りが見えてきていた。

 

 

『お母さんとの思い出なんだ』

 

「………」

 

 

不安な面持ちの彼女を見て、(まなぶ)は花火が始まる前の三玖(みく)の言葉を思い出す。

毎年楽しみにしている花火……両親との思い出が少ない(まなぶ)にとっては羨ましくもあり、守ってあげたいものだった。

 

 

「僕に任せてくれない?」

 

「…え?」

 

 

気付いたときには口が動いていた。

不安で押しつぶされそうな彼女を前にして、見てられない心境が(まなぶ)の声帯をプッシュしたのだ。

唐突の提案に呆ける二乃(にの)(まなぶ)はたて続けに言う。

 

 

「こういうのにうってつけの助っ人がいる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ど、どうしましょう………)」

 

 

その頃、五月(いつき)は不安な面持ちで屋台通りを歩いていた。

姉妹たちとはぐれ、どこにいるのかわからない知人を探し歩く。

だが、どこを見ても周りは知らない顔だらけ。おまけに現在位置もわからない。たった1人取り残された五月(いつき)は得体のしれない不安と焦りで、今にも泣きそうな気分だった。

 

 

「君が中野 五月(いつき)さん?」

 

「……ッ、はい!そうですが……………!?」

 

 

そんなとき、後ろから声をかけられ、振り向く五月(いつき)。迷子案内のスタッフかと思ったが、思わぬ人物に目を丸くする。

赤いマスクに蜘蛛の巣が張り巡らされたようなスーツ………SNSやニュースなど、報道関係を賑わせているスパイダーマンその人だった。

 

下に降りて大勢の人から探し出すのは困難。だが、スパイダーマンなら話は別だ。スパイダーマンである(まなぶ)は高所からなら簡単に探し出せると考えた。

その読みは当たり、案の定すぐに五月(いつき)が見つかったのである。

 

周囲の人も話題の人物の登場に目を丸くしていた。

五月(いつき)は目の前にいるスパイダーマンに恐る恐る尋ねる。

 

 

「あなたは……スパイダーマン?」

 

「僕のこと知ってくれてるの?そう、僕は正真正銘スパイダーマン。君のお友達の(まなぶ)君からの助けを聞いてね、探しにきたんだ」

 

天海(あまかい)君が………?」

 

「そうだ。僕は困っている人の声が蜘蛛の巣に振動するように伝わるんだ。二乃(にの)が待っている。さあ、この手を取って」

 

 

そう言ってスパイダーマンは手を差し出す。目立つ格好をしているのですぐにでも離れ、二乃(にの)のもとへと連れていきたい。

その差し出された手を五月(いつき)は──

 

 

「いえ、結構です」

 

 

と、きっぱり拒否した。

何故と頭の上に疑問符を浮かべるスパイダーマンに五月(いつき)は話す。

 

 

「失礼ですが、あなたが本当に天海(あまかい)君のお友達かどうか信用できません……。見ず知らずの私を助けようとしてくれるのはありがたいですが、身元を明かせないとなると……」

 

 

それを聞いたスパイダーマンはそうだったと頭を抱える。

五月(いつき)(まなぶ)としての自分は知っているが、”スパイダーマンである自分”とは初対面であった。

顔も身元もわからない人間に「はい、そうですか」と承諾してホイホイとついていく人はいない。むしろ、警戒心を抱くのは当然だろう。

 

 

「(どうすれば……!)」

 

 

彼女をどう納得させるか頭を悩ませるスパイダーマン。

一番手っ取り早い方法はマスクを脱いで、(まなぶ)がスパイダーマンであることを明かせばいいのだが、それは出来ない。

周りにはたくさんの人の目があり、いつ誰が写真や動画を撮っているかわからない。正体がバレれば、私生活や社会的地位に大きな悪影響を及ぼすことは容易に想像できた。

 

何か証明できるものは無いかと腰の隠しポケットにある財布を取り出す。

財布を開き、中身を確認する。

 

 

「(学生証は身元がバレるからアウト。保険証もアウト。家の鍵は論外。お金は……いや、そんなもの渡せば誘拐犯だと思われる!)」

 

 

スパイダーマンはますます頭を悩ませる。どれもこれも正体を隠しながら証明できるものではない。正体を隠しながら相手を安心させるというのは到底難しい話だ。

 

 

「そこを動くな!スパイダーマン!」

 

「!?」

 

 

五月(いつき)への証明に悪戦苦闘していると、遠く後ろから男の声が聞こえる。

スパイダーマンは振り向くと、それは男2人の警察官だった。この場にいる誰かが警察に通報したらしい。

刻々と過ぎてゆく時間に加え、警察の介入にスパイダーマンは焦りながらも五月(いつき)への説得にかかる。

 

 

「君が怪しむのはわかる。でも、お願いだ!僕についてきてくれ!約束を果たす前に捕まるわけにはいかないんだ!」

 

「言ったじゃないですか!あなたを信用できないって!あなたは誰なんですか!?スパイダーマンかどうかも、友人との知り合いかどうかもわかりません!」

 

 

説得を試みるが、眉をしかめた五月(いつき)は言い返す。焦って出た強い口調が逆に五月(いつき)の不信感を強めた。

──焦っても仕方がない。自覚したスパイダーマンは心を落ち着かせる。なら、証明できるものは他にないのかと腰の隠しポケットを探ると、スマートフォンに触れた。

 

──これしかない!そう判断したスパイダーマンは一か八かの賭けに出る。

 

 

「わかった……じゃあ、こうしよう。君に僕の携帯を預ける。もし僕のことが信用できないんなら、警察に届ければいい。僕の正体を突き止められるから」

 

「……」

 

「信じてくれ……」

 

 

スマートフォンを差し出して懇願するスパイダーマン。

条件を提示された五月(いつき)は考えながら後ろを見る。後ろには警察官が人混みを掻き分けながら、こちらへ向かっていた。

 

正直にいうと五月(いつき)はまだ彼のことを信用していなかった。会って間もない男……しかも顔を隠しているとなると尚更だ。そんな男が姉妹に会わせるからついてこいと言うのは危険で怪しすぎる。

 

 

「(でも、携帯を差し出すとなると……)」

 

 

そこで考えを改める。スパイダーマンがやっているのは個人情報を晒すような危険行為である。

──本当なのかもしれない。マスクのせいで表情こそ伺えないが、必死に頼み込む態度から真剣さが伝わってきた。

そう判断した五月(いつき)は答える。

 

 

「……わかりました。そこまで言うのなら、私も信用しましょう」

 

「本当?」

 

「ですが、嘘だった場合は本当に警察の方に渡しますが……?」

 

「もちろんさ!さあ、しっかり捕まって」

 

 

五月(いつき)から承諾を得た(まなぶ)はマスクの下で満面の笑みを浮かべると、自分に掴まるように指示する。

戸惑いながらも指示に従った五月(いつき)は正面から抱き付くような体勢になる。

 

 

ピシュ!

 

「時間がないから速めに飛ばすよ」

 

「え?あっ、あぁぁーーッ!!?」

 

 

スパイダーマンはウェブを手首から発射して高所につけて一声注意を促すと、まだ心の準備ができてない彼女を連れて空へ飛んで行く。

こちらに向かってきていた警察官の真上をスイングし、二乃(にの)の待つ喫茶店へと向かう。

アップダウンする素早いスイングによって、五月(いつき)の髪は風の抵抗を受けてなびく。

 

 

「……ッ!」

 

五月(いつき)はふと下を見下ろす。自分たちが通っている空の高さは屋台や通りを歩く人々が小さく見えるほどだった。

急に怖くなった五月(いつき)は抱き付く腕を強める。

怖がってるのを察したスパイダーマンはそっと声をかける。

 

 

「ごめんね。怖いだろ?」

 

「いいえ!これくらいなんとも……」

 

「強がらなくてもいい。怖かったら目を瞑ってみて」

 

 

スパイダーマンに五月(いつき)は目を閉じる。

光が無くなり、スゥーーと風の感触と地上の環境音、花火の轟音が鮮明に聞こえる。

だが、どこにいるかわからない暗闇を浮遊している感覚が逆に怖くなり、目を開けた。

 

 

「やっ、やっぱり無理です!」

 

「そうか……。じゃあ、前だけを向いてて」

 

「はい……」

 

 

指示を受けた五月(いつき)は出来るだけ前の方を見るように意識した。それでもやはり怖い彼女はギュッと腕の力を強める。

スパイダーマンは押し当てられる柔らかい感触にドキドキしながらも、花火舞う夜空をスイングしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

五月(いつき)を発見してから3分後。できるだけウェブスイングで1分もせずに二乃(にの)の待つ喫茶店の屋上へと着いた。

スパイダーマンは屋上に五月(いつき)を下ろすと、二乃(にの)に声をかける。

 

 

「お待たせ!」

 

「……ん?ええ!?スパイダーマン!?五月(いつき)も!!」

 

 

二乃(にの)は丸くした目をスパイダーマンと五月(いつき)に交互に向けながら驚く。

それもそうだろう。空から話題の人物と自分の妹がいきなり現れたのだから。

面白いくらい驚く二乃(にの)にスパイダーマンは笑いを堪えていると、五月(いつき)は頭を下げる。

 

 

「ありがとうございます。さっきはすみません、中々信用しなくて……」

 

「いや、いいんだ。それだけ警戒心があるなら、詐欺にもひっかからない………。他の子たちも連れてくるから待ってて」

 

 

スパイダーマンは謝る五月(いつき)に軽く宥め、2人に向かってそう言い残すと、ウェブを高所に引っかけて、また空を飛んでいった。

 

 

「本当にいたんだ……」

 

 

飛び去っていくスパイダーマンを見て、二乃(にの)は呆然とする。

普段SNSをチェックしている彼女も存在は知っていたが、本当にいるのかは半信半疑だった。

しかし、実物を見てしまった以上、信じらざるを得ないだろう。

 

呆けていた二乃(にの)だったが、ハッと意識を戻すと、五月(いつき)に尋ねる。

 

 

「あ。そういや何で電話出なかったの?」

 

「え……?あ、すみません。機内モードにしてました……」

 

「あんたねぇ……」

 

 

携帯を確認し、テヘヘと笑う五月(いつき)二乃(にの)は呆れた目を向けた。

 

その後、スパイダーマンは次々と姉妹たちや友人を屋上へ連れてきた。

順番としては、四葉(よつば)とらいは、涼介。そして、三玖(みく)と風太郎なのだが……

 

 

「わぁぁぁああぁあああーーーーーーッ!!!?」

 

 

風太郎は情けない声を上げながら到着した。一緒にいたので連れてきた三玖(みく)は大人しくしていたが、高いのが苦手なのか道中、風太郎は「落ちる」やら「もうちょっと低くしろ」などしつこく注文をしてきた。

流石のスパイダーマンもあまりにもうるさすぎるので、ウェブで口を塞いでやろうかと思ったが、鼻に詰まって窒息なんてことがあったら大事なのでしなかった。

 

屋上に降ろすと、解放された風太郎は床に大の字になって寝転がる。ウェブスイングは彼には刺激が強すぎたのだ。

そんなぐったりしている風太郎に三玖(みく)は覗き込む形で心配そうに尋ねる。

 

 

「フータロー。大丈夫?」

 

「だいじょばない………。寿命が122年縮んだ………」

 

「えー?ジェットコースターみたいで楽しかったですよー。ですよね、らいはちゃん!」

 

「はい!」

 

 

血の気が引いている風太郎に反して、四葉(よつば)とらいはは楽しそうに言い合う。

現に彼女たちは遊園地でジェットコースターに乗った感じで、高所を移動する刺激を楽しんでいた。涼介は怖くて無言だったが。

その後、四葉(よつば)は眉をしかめている二乃(にの)に何かを話している中、五月(いつき)が尋ねる。

 

 

一花(いちか)は見つかりませんか?」

 

「うん。この会場一帯探し回っているけど……」

 

「そうですか……」

 

 

スパイダーマンの返答に顔を曇らせる五月(いつき)。彼女も他の姉妹同様に揃って花火を見たい気持ちなのはヒシヒシと伝わる。

何としてでも探し出してあげたいが、花火も残すことあと10分だ。いくら高所から探せても、建物の中まではわからない。

──もしかしたら遠くへ?その”用事”とやらが遠方であるのなら……。

 

 

「会場の外の方を探してくるよ」

 

「待って。もういい」

 

 

そう言って一花(いちか)を探しに行こうとすると、二乃(にの)に止められる。

彼女からの思わぬストップにスパイダーマンは止まる。

二乃(にの)は言葉を続ける。

 

 

「あなたが頑張ってくれたのはわかったわ。けど、もう時間もないし……。後のことは私たちに任せてくれない?」

 

「でも、それじゃ──」

 

「いいの。1人いないけど、花火は見れたから……」

 

 

苦笑する二乃(にの)にスパイダーマンは何ともいえない悲しみが込み上げてくる。

────五つ子の誰とも欠かさずに見たい。それが本心だろう。

彼女は姉妹の中で一番楽しみにしていた。それが叶わなかったので、本当は悔しくて泣きたいだろう。

今までマイナスなイメージしか持っていなかったスパイダーマンは、悲しみを堪える二乃(にの)の一面を見て、印象が少し変わった気がした。

 

スパイダーマンは二乃(にの)の悲しい顔を見て、尚更探してあげたいと思った。

とはいえ、花火終了まで刻一刻と迫っている。どうすればいいか迷っていると──

 

 

「ショートメッセージかなんかでメッセージを残しておけばいいんじゃないか?」

 

「そうか!」

 

 

と、見かねた涼介の助言が飛ぶ。確かにショートメッセージやトークアプリなら、通話に出れなくても通知が出るから見る可能性は高い。簡単に思いつくことなのに、焦るあまり忘れていたスパイダーマンはマスクの下で納得の表情を浮かべる。

まさに天からの助け……二乃(にの)()()()()()()()をメールに入力し、送信した。

 

 

「送ったわ!」

 

「じゃあ、僕はこれで」

 

 

自分のお役御免と自覚したスパイダーマン。後は一花(いちか)次第だが、これ以上この姿で関わる必要がない。

スパイダーマンは屋上から飛び降りた。

驚いた一同は下を見るが、地上にはスパイダーマンの姿はなく、どこかへと消え去っていた。

 

 

《第14回秋の花火大会は終了いたしました。ご来場いただき誠にありがとうございました》

 

 

最後の花火が打ちあがると、しばらくしてからアナウンスが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花火大会の会場から離れたとあるビルの正面玄関。そこに一花(いちか)の姿はあった。

彼女の今の服装は浴衣ではなく、Tシャツにショートパンツといったラフな格好だった。

一花(いちか)は隣にいるちょび髭が似合う小太りの男に頭を下げる。

 

 

「本日はありがとうございました」

 

「いや、休みに関わらず急に来てもらって悪かったね。映画の代役オーディションの枠が空いたから……」

 

「いえ、せっかくのチャンスですのでお断りはできません」

 

 

申し訳なさそうにする男に一花(いちか)はにっこり笑って返す。

そう、この話から分かる通り、一花(いちか)は女優なのだ。隣にいる男は彼女が所属する事務所の社長で、半年前から彼女をサポートしている。

ちなみに他の姉妹は彼女が女優をやっているのは知らなかった。

用事というのは映画のオーディション──しかもかなり有名な映画とのことで、今までドラマや映画のモブ役をやっていた彼女にとっては千載一遇のチャンスだったのだ。

 

 

「今日の演技は今までの中で最高だった。私としては問題なく受かったと見ている」

 

「そうですか?」

 

「ああ。表情も柔らかだったし、台詞も自然さがあった。自信をもっていい」

 

 

自覚がない一花(いちか)に社長は高評価を告げる。

褒めるところは褒めるべき……上司として最低限の成長の伸ばし方だ。

それを聞いた一花(いちか)はほんの少し気持ちが軽くなった。

 

 

「はい。またオーディションがございましたら紹介お願いします。では、失礼します」

 

「気を付けて帰るんだよ」

 

 

去り際に一花(いちか)は社長にそう告げると、ビルから去っていく。

スマートフォンを取り出して時計を見ると、時刻は20時19分になっていた。すでに花火大会は終わっている。

 

 

「(あちゃ~…二乃(にの)たち、怒ってるだろなー……)」

 

 

姉妹たちが怒っている姿を想像した一花(いちか)は苦い顔を浮かべる。

自分の夢がかかっている大切なオーディションがあったとはいえ、彼女たちに何も話さず、約束を破ってしまったことは事実だ。長女である自分がしっかりとしないといけないのに場を混乱させてしまったであろう。

 

 

「?」

 

 

歩きながらどう謝ればいいか考えていると、1件のメールが届いているのに気付いた。差出人は二乃(にの)だ。

メールを開くと、本文には『ここに来て』という短い文章に加え、公園の場所を示した地図のURLが添付されていた。

 

 

「(行こう)」

 

 

──行って全てを話して謝ろう。それで許されるか許されないかは別として、隠していたことを伝えることが大事だ。

一花(いちか)はその地図に従って、公園へと向かうことにした。

 

道中迷うことなく進み、15分近く歩いた頃、目的地の公園へついた。

どんな顔をして待っているのだろうと気まずい気持ちで角をくぐったとき、目にしたのは──

 

 

「わーい!」

 

「ちょっと、四葉(よつば)!?振り回さないでよ!」

 

「夏の風物詩……」

 

「こういうのも悪くないですね」

 

 

和気あいあいと市販の手持ち花火を楽しむ妹たちの姿があった。

こじんまりとしながらも花火は闇夜に光り輝いている。

その光景に一花(いちか)は呆然としていると、風太郎が声をかけてくる。

 

 

「よお、遅かったじゃねぇか」

 

「フータロー君。これって……」

 

「ああ、手持ち花火で仕切り直そうって話になったんだ。一応、条件は満たしてるからな。これ、四葉(よつば)のアイデアなんだぜ?まあ、打ち上げ花火に比べる随分見劣りがするが、いいだろ?」

 

「……ッ!」

 

 

それを聞いて目を丸くする一花(いちか)

──どうして?何で?と頭の中で感情や疑問が錯綜する中、妹たちは一花(いちか)の存在に気付いた。

 

 

「あ!一花(いちか)!待ってたけど、我慢できなくて始めちゃったー」

 

 

四葉(よつば)はいつもと変わらぬ笑顔でパタパタと手を振る。

彼女たちは待っていてくれたのだ。自分を信じて……。

そのことに一花(いちか)は感銘を受ける。

 

 

「やあ!」

 

天海(あまかい)さんもきた!」

 

 

それからすぐに(まなぶ)もやってきた。スパイダーマンのコスチュームは私服の下に着たままで、マスクはズボンのポケットにしまってある。

(まなぶ)の姿を目にした五月(いつき)は預かっていたスマートフォンを差し出す。

 

 

天海(あまかい)君。これをスパイダーマンに返してくださいませんか?」

 

「…ん?ああ!返しておくよ……」

 

 

一瞬何のことか忘れていた(まなぶ)だが、彼女にスパイダーマンのスマートフォンを預けていたことを思い出した。

渡されたスマートフォンを受け取り、ズボンのポケットにしまう。

スパイダーマンと自分は別人である設定が崩れるところだったが、すぐに思い出せて功を奏した。

 

(まなぶ)は次に辺りを見回す。五つ子、風太郎、ベンチには疲れ果てたのからいはが眠っていたが、親友の涼介の姿はどこにもいなかった。

 

 

「涼介は?」

 

「門限が近いから帰った」

 

「そうか……」

 

 

三玖(みく)の返答に残念がる(まなぶ)。大企業の息子とだけあって門限は厳しく、最低でも21時までには帰るようになっている。

今日はからかわれたりはして鬱陶しいと思いはしたが、親友とも花火を楽しみたかったという気持ちはあった。

全員が揃ったところで本格的に花火をしようかという動きに入ったとき、一花(いちか)は全員に向かって頭を下げる。

 

 

「みんな、ごめん。勝手なことをして……。実は私────」

 

 

そう切り出した彼女は全ての事情と謝罪を告げた。

半年前から女優業をやっていること。急遽映画のオーディションが入ったこと。それらを黙っていたこと。そして、約束を破ってしまったこと……。

これらを隠すことなく明かした。

──責められてもいい。その決意で話した一花(いちか)に対する妹たちの反応は──

 

 

「いえ、そんな謝らなくても……」

 

「お店の場所を言い忘れてた私も悪い」

 

「よくわからないけど、もう過ぎたことだし……ね」

 

「私も失敗ばかり」

 

「みんな……」

 

 

と、五月(いつき)二乃(にの)四葉(よつば)三玖(みく)は非難するどころか、自分たちにも否はあると許した。

てっきり不満や怒りをぶつけられると思っていたが、予想の遥か斜め上の展開に感動した一花(いちか)は胸に熱いものを感じた。

五つ子全員が花火を手に持つと、ふと思い返した五月(いつき)は──

 

 

「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越えること……。誰かの幸せは五人で分かち合うこと……。喜びも、悲しみも、怒りも憎しみも、私たち全員で五等分ですから……」

 

 

そう口にすると、五人は一斉に花火に火を点けた。

パチパチと点火した花火は彼女らを明るく照らした……。

 

 

「……」

 

 

幸せそうに花火を楽しむ彼女たち。落ち込んでいた一花(いちか)もすっかり元気だ。

そんな彼女たちの姿に遠くのベンチから眺めていた(まなぶ)の頬は自然と緩んだ。自分の目的は結局のところ達成できなかったが、彼女たちが喜んでいるのであればそれでいいじゃないかと幸福感に包まれる。

傍から見れば小さい花火だが、その輝きは打ち上げ花火以上のスケールで満たされていた。

 

花火をしている最中、二乃(にの)はふと(まなぶ)に尋ねる。

 

 

「ねぇ、天海(あまかい)

 

「何?」

 

「彼……スパイダーマンとはどこで知り合ったの?」

 

「え?ああ~……」

 

 

そう訊かれた(まなぶ)は少し考える。

あくまでスパイダーマンとは自分は別人。正体がバレるようなことは決して避けなければならない。

上手い答えが浮かびあがった(まなぶ)は口にする。

 

 

「僕は彼の専属カメラマンみたいなものなんだ。ビューグルの写真も僕が撮ってる」

 

「へぇ~そうなの」

 

「え?みんなスパイダーマンに会ったんだー……。ねぇ、マナブ君。お姉さんにも今度紹介してよ」

 

「うん。でも、連絡先がコロコロ変わるから会えるかわからないけど……」

 

「う~ん。そっかー」

 

 

興味深そうに頷く二乃(にの)(まなぶ)から会うことは難しいと聞いた一花(いちか)は残念そうな顔を浮かべる。

彼女たちにもし連絡先を教えたら、自分であることがバレてしまう。

スパイダーマンには正体に近づく証拠を1つも残してはいけないのだ。

 

その後、花火が少なくなったので線香花火をしてお開きとなった。

 

 

「お前ら!置き去りにするなーーーッ!!」

 

 

ちなみにベンチで寝ていた風太郎を一花(いちか)の提案で置き去りにしようとした。

もちろんすぐにバレ、カンカンになった風太郎に追いかけられるのは余談だ……(体力がないのですぐに力尽きた)。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①カフェ『Jon Watts』
 MCU版「スパイダーマン」のメガホンをとった映画監督の名前から。ジョン・ワッツ監督もサム・ライミ監督同様に、アメコミ映画を撮る前は、ホラーやスリラー映画といった作品を撮っていた。

②「寿命が122年縮んだ………」
 ”122”とは原作漫画「五等分の花嫁」の総話数である。話は()とも読むので、122話を数字に置き換えると『1225』→『1225(いつつご)』→『五つ子』という面白い考察がある。

③20時19分
 2019年はアニメ「五等分の花嫁」第一期が放送された年。可愛い五つ子たちがこれまた可愛らしい声でしゃべって動くとファンからは期待が高まっていた。だが、作画崩壊が……

スパイダーマンを増やす?

  • YES!(ヒロインなし)
  • YES!(オリジナルヒロイン)
  • YES!(五つ子の中からヒロイン)
  • NO
  • It's Morbin time
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