SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets   作:まゆはちブラック

8 / 25
#7 狂暴なる本能 リザード パート①

9月30日の日曜日の夜。石影家3人は自宅へ帰宅していた。

浴衣を着ているが、彼らもまた、T市の花火大会へと来場していたのだ。

 

 

「花火楽しかったねー!」

 

「そうね~。またみんなで行こっか?」

 

「うん!」

 

 

陽子の投げかけに元気よく答える琥太郎。実は琥太郎は初めて家族揃って花火大会に行ったのだ。

人混みの多さや花火の音に怖がるかと懸念していた石影と陽子だったが、嬉しそうな息子の様子を見て安心する。

石影は琥太郎の頭の上にポンと左手を置く。

 

 

「じゃあ、毎日早く寝てくれるいい子だったらまた連れてあげよう……約束できるか?」

 

「うん!ぼく、いい子にする!」

 

「よし!じゃあ、まず手洗いうがいしてくれるかな?」

 

「オーケー!」

 

 

石影のお願いにサムズアップで承諾した琥太郎は駆け足で洗面所に向かっていく。

琥太郎がいなくなった後、石影は陽子に言う。

 

 

「君も早く寝なさい。明日は月曜日だからね」

 

「あなたは?」

 

「私は研究の続きをするよ。また徹夜になるがね……ハハッ」

 

 

石影はそう言って軽く笑うが、陽子は逆に不安そうな顔を浮かべる。

 

 

「竜……研究熱心なのはわかるけど、少し手を休めたら?明日学校でしょ?」

 

「確かにそうだが、あと少し……もしかすると今夜完成するかもしれないんだ。休むなんてできない……。君の気持ちはわかるが、やらせてくれないか?」

 

 

心配する陽子の気持ちを汲みつつ、石影は訴えかけるように頼みかける。

(まなぶ)が加わってから滞っていた研究が一気に進み、完成目前まで近づいていた。石影も以前よりもやる気を見せており、最近の就寝時間が朝近い時間になるくらいだ。

 

しかし、それが逆に陽子に不安を与えてしまった。もし体調を崩して倒れたりでもしたら………想像するだけで恐ろしい。

長年暮らしてきた経験でお互いが考えていることが痛いほどわかる。夫婦として、化学者として……。

数秒考えたのち、陽子は頷く。

 

 

「……わかったわ。私も元は化学者だったから、完成させたいと思うわ。けど、無理はしないで」

 

「ありがとう。陽子」

 

 

妻の了承を得た石影はにっこりと微笑んで感謝を告げる。

陽子自身、不安は残っているものの、彼女の心の奥底にある”成し遂げたい”という化学者としての信念が勝り、石影を後押しした。

 

それから時間が経ち、深夜3時。琥太郎と陽子もすっかり眠りについていた頃、石影は1人、研究室に籠って研究をしていた。

トカゲの遺伝子を用いた欠損した体の部位を再生させる薬品──身体再生薬の製作は順調に進んでいた。

長時間続けているので流石に疲れが出てきたが、あともう少しで完成するという希望がそれらを吹っ飛ばした。

 

 

「よし!完成だ!」

 

 

家に帰りついてから6時間ほど経過した頃。石影は目の前に完成した薬品を見てにっこりと笑う。

試験管にはトカゲを彷彿させる緑色の薬液が入っており、スタンドライトの灯りを受けて、輝いているようにも見えた。

 

──さっそく試してみよう。長年待ち望んでいた瞬間に居ても立っても居られない石影はさっそく自分に投薬実験するため、注射器に薬品を移し替える。

普通ならまずマウスなどで試すのだが、失った自分の右腕が生えるかもしれないという欲求の前では冷静にはいられなかった。

薬品を投与する準備ができた石影はノートパソコンの動画撮影アプリを起動する。

 

 

「10月1日月曜日、午前3時34分。被検体──石影 竜。体温、健康状態異常なし。自らの身体の部位を再生するトカゲの遺伝子を人間にも可能できるように遺伝子組み換えを行った薬品を製作した。これより、投与実験を開始する……」

 

 

そう言うと、石影は肘から下が無い右腕に注射器を刺した。

針が突き刺さる痛みで顔が歪むが、注射器を押す手は緩めない。筒に入っている緑色の薬液はみるみる減っていき、石影の体内へと入っていく。

そして、全て注入し終えた瞬間──

 

 

「……ぅうう!?ぐあぁぁあああーーーーーッ!!?」

 

 

突然、右腕に激しい痛みが襲う。内側から皮膚を剝がされるような感覚に耐えきれない石影は悲鳴を上げる。

あまりもの激痛に床に倒れ、右腕を抑えながら悶える。

 

 

「あなた!?どうしたの!?」

 

 

その悲鳴に眠りから覚めた陽子が駆け付けると、傍に跪く。

夫が冷や汗をかきながら悶え苦しむ姿に血相を変えた陽子は必死な声で呼びかける。

 

 

「竜!竜!しっかりして!」

 

「うぅぅ……ぐあぁぁあああーーーーーーッ!!」

 

 

陽子が呼びかける中、苦しむ石影の右腕は肘から腕が生えた。生え変わったばかりのトカゲの尻尾のように不定形だが、紛れもない人間の腕だった。

それを目の当たりにした陽子は開いた口が塞がらなかった。

 

 

「あ、あなた……」

 

「うぅん……?おぉ………!」

 

 

激痛が収まって落ち着いた石影は固まっている陽子の視線に目を向けると、歓喜の表情を浮かべる。

視線の先には無かったはずの右腕が生えていた。真っ白で濡れている右腕には段々と血色がついていき、手にはしっかりと爪も生えていた。

開いて、閉じて──握れる確かな感触を実感すると、右腕を机のスタンドライトに重ねるように上げる。

 

──私に右腕が……!感動する石影は瞳を潤わせながら、スタンドライトに照らされる右腕をまじまじと眺める。

その目はまるで美しい芸術品を眺めるようだった。

右腕があることを実感した石影は笑みがこぼれる。

 

 

「はっ、ははっ!成功だ……!遂に完成したんだッ!!これで大勢の人が救える!!!」

 

「あなた、おめでとう!」

 

 

完成を祝い合いながら抱き合う2人。長年の悲願が達成された瞬間に心震わせないものはいないだろう。

 

 

「どうしたの……?」

 

 

石影と陽子が喜び合っていると、琥太郎が眠たげに目を擦りながらやってきた。おそらく2人の声で起きてしまったのだろう。

立ち上げった石影は琥太郎のもとに行くと、両脇に手を通して高い高いをする。

 

 

「よお、相棒!」

 

「あ!?パパ、手がある!」

 

「そうだ!パパは遂にやったんだ!」

 

 

驚く琥太郎に石影は喜びながら息子にも報告をする。それを聞いた琥太郎も嬉しそうに微笑む。

愛する者をしっかりと抱き締めることができる………この抑えきれない喜びに石影一家は幸せに包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間が経ち、朝7時半頃。

(まなぶ)はいつも通り学校への通学路を歩いていたのだが……

 

 

「や。おっはー」

 

 

思わぬ人物──一花(いちか)に遭遇した。コーヒー店の前でアイスコーヒーを手に、彼女はいかにも待っていましたよと言わんばかりに立っていた。

 

 

「おはよう………あれ?いつも通ってるのってこっちだっけ?」

 

「ううん。ここのコーヒー店が美味しいって学校の友達から聞いたから、寄り道しただけ。ねぇ、せっかくだし一緒に行こうよ」

 

「いいよ」

 

「ありがとう!さっすがマナブ君!」

 

 

(まなぶ)の承諾に一花(いちか)はにっこりと笑いながら褒める。

雰囲気的には偶然出会ったとは思えないが、断る理由もないので(まなぶ)一花(いちか)と共に登校することにした。

 

あまり同年代の異性と一緒に歩いたことがない(まなぶ)は何を話そうか迷うが、何も話さないのは気まずいので、当たり障りのない近況のことについて切り出す。

 

 

「あー……女優の仕事の方はどう?」

 

「うん、順調かな。オーディションにも合格の報せがさっき着たし」

 

「本当!?凄いじゃない!」

 

「ありがと♪まあ、アカデミーを取るまでの道のりとしてはまだまだだけどねー」

 

 

(まなぶ)の賞賛に感謝しつつもまだまだだと言い聞かせる一花(いちか)

彼女の夢はアカデミー賞 主演女優賞を最高記録4回受賞したキャサリン・ヘプバーンを超えるような大物女優になることである。

壮大かつ過酷な道のりだが、(まなぶ)には柔らかい考え方をする彼女ならきっとできると思う気がした。

 

そんなことを話していると、一花(いちか)はあっと思い出したかのような声を出す。

 

 

「そうだ。連絡先交換しない?」

 

「いいけど……いきなりどうしたの?」

 

「いざ、連絡しないといけない状況になったときに大変でしょ?家庭教師的にもしておいた方がいいと思うけど」

 

 

一花(いちか)の意見はごもっともだった。

予定や緊急の連絡をするときに連絡先を知らないのは非常に困る。そのことは昨日の花火大会で充分味わった。

結局、ほぼスパイダーマンの力で解決したが、毎回は上手くいかないだろう。

 

 

「わかった。じゃあ、教えてもらっていいかな?」

 

「うん。私のは……」

 

 

承諾した(まなぶ)一花(いちか)と連絡先を交換した。

 

 

「ありがとね。じゃあ、試しにメッセージ送ってみるね」

 

「オーケー………ッ!!?」

 

 

一花(いちか)は自信のスマートフォンに何かを入力すると、(まなぶ)のスマートフォン宛に送信する。

すると、数秒もしないうちに一花(いちか)から送られたメッセージが着た。

(まなぶ)はそのメッセージを開いた瞬間、目を丸くする。

 

そこには、『今朝撮れたてのだよ~』と書かれた文章と共にすやすやと眠る五月(いつき)の寝顔の写真が送られていた。

どういうつもりなんだと慌てる(まなぶ)一花(いちか)に顔を向けると、彼女はニヤニヤといたずら気な笑みを浮かべていた。

 

 

「どう?マナブ君。無防備な五月(いつき)ちゃんの寝顔は?」

 

「ッ、ど、どうって……」

 

「ほら。可愛いとか、素敵だーとかさ。そういう感想が欲しいんだけどな~~」

 

「………か、可愛いです」

 

 

一花(いちか)のからかいのペースに乗せられた(まなぶ)は頬を赤らめて呟く。

半ば強制的に言わせた一花(いちか)は「よろしい!」と言うと、(まなぶ)の顔を下から覗き込むように見上げ──

 

 

「また欲しかったら、この一花(いちか)お姉さんにいつでも連絡するんだぞ。今度は下着姿がいいかな~?」

 

「~~ッ!」

 

 

と、小悪魔的な言葉をかける。”下着”という単語に顔を真っ赤にした(まなぶ)を、一花(いちか)は面白そうに笑う。

このことから、(まなぶ)は彼女との上下関係がはっきりしたと自覚した。

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

 

道中、そんな話をしながら校門を通って歩いていると、近くにいた石影が挨拶する。

一花(いちか)は先程までのからかいモードから一変して落ち着いた口調で挨拶を返す。

横に(まなぶ)は「流石女優だな」と思いながら、石影が差し出してきた()()()握手を交わす。

 

 

「おはよう」

 

「おはようございます………あれ?先生、腕が!?」

 

「ああ、ご覧の通りだ。例のアレが完成したんだ」

 

「す、凄い……!おめでとうございます!」

 

「ありがとう。だが、君の助言あってのことだ。本当に感謝しているよ」

 

 

石影の右腕が再生していることに気付いた(まなぶ)は笑顔で祝福の言葉を送る。

例のアレというのは身体再生薬のことだろう。

隣にいる一花(いちか)には何のことかわからないが、石影の右腕があることには気付き、目を丸くしていた。

 

石影は左手首の腕時計の時間を見ると、(まなぶ)一花(いちか)に言う。

 

 

「では、そろそろ職員室に戻るよ。君たちも遅れず教室に向かいなさい」

 

「「はい」」

 

 

石影の促しに明るく返事した(まなぶ)一花(いちか)

2人はそのまま行こうとしたが、石影が職員用玄関の方に向かうために背を向けたときだった。

(まなぶ)の視界に妙なものが映った。

 

 

「?」

 

 

石影の首筋。先程は白衣で隠れていてわからなかったが、緑色の爬虫類の鱗のようなものがついているように見えた。

皮膚病の一種にそういった病気はあるが、石影の首筋にあるのはそういった類でなく、本物の爬虫類鱗そのものだった。

 

 

「どーしたの?」

 

「いや、何でもない……」

 

 

訝しむ様子が気になった一花(いちか)(まなぶ)は笑いながら返す。

──見間違いだといいけど。(まなぶ)はそう思いながら、彼女と一緒に下駄箱の方へと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アドレス交換!賛成です!」

 

「私も……」

 

 

それから時間が経ち、お昼休みの図書室。(まなぶ)の出した提案に乗っかる四葉(よつば)三玖(みく)

(まなぶ)はさっそくこの自由時間を利用して、他の姉妹や風太郎と連絡先を交換することを提案した。

会った当初から協力的な四葉(よつば)三玖(みく)は賛成の意思を見せるが……

 

 

「俺はいい。家庭教師以外で関わるつもりはない」

 

 

自習に取り組む風太郎は拒否の姿勢を見せる。

元々風太郎は人付き合いが面倒だと思っており、仲良くしようと近寄ってくる者さえも払いのけている。彼がいつも1人なのはそれが原因だ。

 

 

「今後の家庭教師のことを考えれば……」

 

「お前が知ってればいいだろ。同じ家庭教師なんだし………。無駄なことはしたくない」

 

 

(まなぶ)は説得を呼びかけるが、風太郎は断固として意思を変える気はない。

ろくに仕事をさせてくれない五つ子たちと関わりたくないという気持ちはわかるが、何としても交換してほしい。

 

頑固な風太郎に困った(まなぶ)は「どうしよう」と言わんばかりの目で横に座る一花(いちか)に助けを求める。

それに応じた一花(いちか)は「しょうがないな」と呟きながら立ち上がって風太郎の傍に近寄ると、スマートフォンを彼だけに見えるように見せる。

 

 

「じゃーん。これなーんだ?」

 

「!?」

 

 

スマートフォンに映る画像を見て、風太郎は目を丸くする。

画面に映っているのは、昨日行った公園のベンチですやすやと寝ている自分の寝顔だった。

あの夜、風太郎を置き去りしようと考えつく前、一花(いちか)は人知れず隠し撮りしたのだ。

 

何を見せているのかわからない他の3人は首を傾げている中、動揺する風太郎は小声で話しかける。

 

 

「お前、いつの間に……」

 

「広められたくなかったら協力してね♡」

 

「くっ……!」

 

 

ニヤニヤしながら囁く一花(いちか)の顔に風太郎は青筋を立てる。断ったら、自分の寝顔を誰かに見られる……それは勘弁したい。

小悪魔の脅しに風太郎は卑怯と憤りながらも、協力するしか道がなかった。

 

 

「……わかった、わかった。交換してやる。ただ、家庭教師と関係ない奴には教えるなよ」

 

「「……ッ!」」

 

 

風太郎の承諾の返事に嬉しそうに顔を見合わせる(まなぶ)四葉(よつば)

頑なに拒んでいた風太郎の重たい腰をどうやって動かしたのかわからないが、話が進んだのは幸いだ。

風太郎を加えた、計5人はお互いの連絡先を交換した。

 

 

「これでよし……五月(いつき)二乃(にの)は今度でいいだろ」

 

 

スマートフォンに連絡先が登録されたことを確認した風太郎はまたもや悪いところが出て、他の2人を後回ししようとする。

(まなぶ)としては二乃(にの)はともかく、五月(いつき)の連絡先は欲しいところだが……。

それに対し、四葉(よつば)は──

 

 

「その2人なら、食堂にいましたよ。まだいるはずですし、一緒に訊きに行きましょう!」

 

「え!?俺もかよ!………お、おい!」

 

 

と言うと、風太郎の手を引っ張って連れて行こうとする。

(まなぶ)はともかく、何で自分が行かなければならないのかと不満な風太郎の意見を聞き入れず、四葉(よつば)は連行していく。

嫌がりながらも渋々ついていく風太郎の後を(まなぶ)はついていった。

 

 

「良かったね」

 

「……ッ、うん」

 

 

ウインクする一花(いちか)にそう言われた三玖(みく)は嬉しそうに頬を緩める。

彼女が見つめる先は、自分のスマートフォンに登録された風太郎の連絡先だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅあぁぁーーーッ!?」

 

『!?』

 

 

同時刻。お昼休みに入っている職員室では、物騒な悲鳴があがっていた。

その声の正体は石影で、先程まで妻の陽子が作っていた弁当を食べていたのだが、急に体が苦しくなり、床に倒れ込んでしまった。

他の職員たちの注目が集まる中、石影は冷や汗をかきながら違和感を感じる右腕を見た。

 

 

「ッ!?(何なんだ、これは……!?)」

 

 

右腕を見て、石影は目を丸くした。右腕は人間のものから、鋭い爪が生えた爬虫類のようなものへと変化していた。

それだけでない。顔周りの皮膚も緑色の鱗のようなものが浮き出ており、身体全体が大きくなろうと内側から服が裂け始めていた。

 

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

「救急車呼びましょうか?」

 

「あ、ああ……平気です。ちょっと具合が悪いだけ………」

 

 

心配する周りの教師に石影は誤魔化し笑いで返すと、変異し始めている顔と右腕を白衣で隠しながら職員トイレの方へ走っていった。

 

周りに気付かれていないかと不安に駆られつつも職員トイレへ駆け込む。幸いにも中には誰もいなかった。

石影は蛇口を捻って落ち着かせようと水を出して顔を洗う。

顔を上げて鏡を見ると、濡れた顔の鱗は先程より進行しており、顔の輪郭も変化し始めていた。

 

 

「がッ!?ああぁぁぁあああぁーーーーーッ!!」

 

 

またもや襲ってきた苦痛に悲鳴をあげる石影。その痛みは理性が吹っ飛ぶぐらいだ。

身体はガキッ!ゴキッ!と奇妙な音を立てながら靴や服を引き裂いて変化していく。

激痛のあまり見開いた瞳孔は、縦長のトカゲを彷彿とさせるものへと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お断りよ。お・こ・と・わ・り!」

 

 

一方、食堂では二乃(にの)(まなぶ)の提案を突っぱねていた。

彼女が言うに、友達でもないのに連絡先を易々と教えるのはおかしいとのことだった。

 

 

「確かに……天海(あまかい)君は別として、私たちにはあなたに連絡先を教えるメリットがあるとは思えません」

 

 

二乃(にの)の意見に五月(いつき)は同調する。家庭教師と生徒という関係ではあるが、友達になったわけではない。

どちらも風太郎が(二乃(にの)の場合は(まなぶ)も)嫌いだからという理由もあるが。

だが、そう断られると想定していた風太郎は思いついていた秘策を出す。

 

 

「これならどうだ!今なら俺のアドレスに加え、らいはのアドレスもセットでお値段据え置きお買い得だ!貰うなら今のうちだぞ~?」

 

「えぇ!?」

 

 

気味の悪い笑みを浮かべながら話す風太郎の提案に(まなぶ)は驚きの声をあげる。

”身内を売る”というプライバシーの塊もない発言に(まなぶ)は信じられなかった。

──五月(いつき)はらいはを気に入っていた。俺があいつなら、喉から手が出るほど欲しいはず……。そう読んだ風太郎に五月(いつき)は──

 

 

「背に腹は代えられません……」

 

「身内を売るなんて卑怯よ!」

 

 

と、風太郎に連絡先を教えることを癪に障りながらも承諾した。

これに対して、二乃(にの)(まなぶ)と同じ考えのようで、抗議の声をあげた。

(まなぶ)と風太郎は五月(いつき)と連絡先を交換した。

 

 

二乃(にの)は教えてくれないの?」

 

「当たり前よ。何であんたらなんかに……」

 

 

そう訊く(まなぶ)になおも拒否する姿勢を見せる二乃(にの)。連絡先を口答することすら嫌なようだ。

それを聞いた風太郎は嘆息すると、二乃(にの)に向かって──

 

 

「仕方ない……。では、お前抜きで話すとしよう。俺と天海(あまかい)と4人で内緒の話をな……」

 

 

と悪人顔で挑発する。こうしたのも、仲間はずれが嫌な彼女なら絶対食いつくと考えたからだ。

 

 

「~~~ッ!あんたらのアドレスを教えなさいよ………!」

 

 

その読み通り、引っ掛かった二乃(にの)は悔しそうにプルプルと肩を震わせながら、スマートフォンを出すように言う。

(まなぶ)はこうして、躓きはしたものの、全員分の連絡先を手に入れた。

これでひと安心。(まなぶ)が思っていた矢先──

 

 

~♪♪♪

 

「!」

 

 

四葉(よつば)の携帯電話から着信音が鳴った。相手はバスケットボール部の部長だった。

それを見た四葉(よつば)は何の用事かとわかり、眉を上げる。

 

 

「……すみません。私、頼まれ事あったんで、これで失礼しますね」

 

「は?」

 

 

四葉(よつば)は全員にそう告げると、風太郎が尋ねる間もなく、駆け足で食堂を出ていった。

何だったんだと不思議に思う風太郎は少し考える。頼まれ事……その単語から思い当たることが頭に浮かんだ。

 

 

「………天海(あまかい)、あとは任せた」

 

「上杉!?」

 

 

そうとわかった風太郎は(まなぶ)に短く言い残すと、四葉(よつば)の後を追っていった。

四葉(よつば)に続いて風太郎もいなくなった現状に(まなぶ)がポカンとしている中、五月(いつき)は彼の持つ手にスマートフォンが気になって尋ねる。

 

 

天海(あまかい)君のスマホカバーって、スパイダーマンのものと同じなんですね」

 

「え……!?」

 

 

唐突な質問に焦り、固まる(まなぶ)。何でスパイダーマン(自分)のスマホカバー(赤地に蜘蛛の巣が張り巡らされているもの)を知っているのかと。

思い返せば、昨日の祭りで彼女を信頼させるためにスマートフォンを渡していた。その際に特徴を色々と見ているのは容易に考えられることだ。

動揺する(まなぶ)五月(いつき)は首を傾げながら尋ねる。

 

 

「どうされましたか?」

 

「あっ、ああ……!そうだよ!お揃いにしようって彼と話してさ………」

 

「そうなんですね!てっきり、彼が渡した携帯が天海(あまかい)君のものかとばかり……」

 

「は、ははっ……!」

 

 

しどろもどろになりながらも五月(いつき)に納得してもらった(まなぶ)は苦笑いを浮かべる。

うっかり焦ってしまったが、何とか危機を逃れたのでほっと胸をなでおろす。

しかし、彼女にはまだスパイダーマンである自分を信じてもらえていないのは少しばかりショックではあるが。

 

 

≈「ッ!?」≈

 

 

ひと安心した最中、突然(まなぶ)の頭が危険信号を発するようにムズムズし始めた。

蜘蛛の第六感────スパイダーセンスだ。

これが発動する意味は身の危険が迫っていることだということは、普段のヒーロー活動から充分に理解している。(まなぶ)は警戒しながら辺りを見回し始める。

 

 

天海(あまかい)君?」

 

「何してんのよ?」

 

 

そわそわしている(まなぶ)に疑問を持った五月(いつき)二乃(にの)が尋ねるが、彼の耳には遠くから話しかけるようにしか聞こえなかった。

その間にもスパイダーセンスはますます強くなっている。危険が迫っているというよりも、危険が()()()()()()()()()ようだった。

 

 

………わぁぁーー!

 

「何……?」

 

 

その矢先、後ろの遠くから慌ただしい悲鳴が聞こえてきた。1人や2人ではない……たくさんの悲鳴だ。

この只事ではない事態に他の2人や食堂にいる人たちにも悲鳴が聞こえたようで、二乃(にの)は怪訝そうな顔を浮かべていた。

 

振り向いた(まなぶ)は感じ取っていた。悲鳴や激しい物音と共に危険な存在が近づいていることに。

その存在は確実に食堂に迫り、閉じていた出入口の扉がグラグラと揺れる。

そして、次の瞬間──

 

 

ドッガァアーーンッ!

 

「!?」

 

 

と、出入口の扉が殴り飛ばされ、扉が勢いよく吹っ飛んできた。

扉は真っ直ぐ食堂内を飛んでいき、その先には五月(いつき)が。

 

 

「ッ!」

 

「きゃあっ!?」

 

ガッシャーンッ!

 

 

その危機に(まなぶ)は咄嗟に彼女に飛びついて押し倒した。

扉は(まなぶ)の背中すれすれを通って反対側の壁にぶつかり、跡形もないくらいぐちゃぐちゃになった。

(まなぶ)は彼女を助け起こしながら扉が飛んできた方を見ると、そこには──

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

 

雄叫びをあげる緑色のトカゲの怪物がいた。

ボロボロの紫色のズボンに、ボロボロの白衣を纏ったトカゲ────リザードだ。

その正体は、トカゲの遺伝子を使った薬品を投与したことによって変貌してしまった石影 竜その人だった。

 

 

『わぁぁーーーーーッ!!?』

 

ガアッ!

 

 

リザードの登場に恐怖した食堂にいる人たちはもう1つの出入口目指して一斉に逃げ出した。

動く人たちに反応したリザードは机や椅子やらを吹っ飛ばしながら、食堂の中へ走ってくる。

 

 

「は、早く逃げましょ!」

 

二乃(にの)!」

 

 

冷静さを失った二乃(にの)は逃げる人たちと同じ方へ逃げようとする。

制止しようとする五月(いつき)の声が聞こえるが、今の彼女の耳には届かない。

そんな二乃(にの)の腕を(まなぶ)が掴んで止める。

 

 

「待って!今行ったら危険だ!」

 

「ちょっと!?離しなさいよ!!あの恐竜みたいのに食べられちゃうわ!」

 

「出口は人で密集してる。あんな人混みにまぎれたら、大怪我するかもしれない」

 

「………」

 

 

いつになく真剣な(まなぶ)の説得に思いとどまる二乃(にの)

確かにみな冷静さを失っているので、我先にと押しあったり踏んづけたりするので大変危険だ。

説得を受けた二乃(にの)は冷静を取り戻す。

 

 

「ここに隠れよう」

 

 

(まなぶ)五月(いつき)二乃(にの)に机の下に隠れるように提案する。ちょうど3人隠れるくらいの大きさの机が2つもある。

本当はスパイダーマンとなって戦いたいのだが、ここで変装するには人の目が多すぎる。

二乃(にの)五月(いつき)は一緒の机、(まなぶ)はもう1つの机の人は急いで隠れる。

出来るだけ息を殺して身を隠していると、通りかかったリザードは逃げる人たちを追って離れていった。

 

3人は机の下から身を出して出入口の方を見ると、リザードは右の角を曲がって走っていった。

それを見届けた3人はほっと胸をなでおろす。

 

 

「行ったわね……」

 

「た、助かりました~……」

 

「とりあえず緊急避難場所の体育館に行こう」

 

 

(まなぶ)の提案に頷く二乃(にの)五月(いつき)。普段、(まなぶ)の言うことを聞かない二乃(にの)もこればっかりは従うしかなかった。

そのまま避難先の体育館へ向かおうとした矢先、二乃(にの)はあっと思い出したような声をあげる。

 

 

「待って!あの化け物が行った先って、さっき四葉(よつば)が行ってた方角じゃ……!」

 

「「ッ!?」」

 

 

その事実に青ざめる(まなぶ)五月(いつき)

四葉(よつば)が行った先には部室棟がある。それに後を追っていった風太郎もいる。

彼らに迫る危機……人目が少なくなったことで、(まなぶ)はようやくスパイダーマンとして戦うときがきた。

 

 

「わかった。僕が連れてくるから先行ってて!」

 

「え!?天海(あまかい)君!?ちょっと……!」

 

 

(まなぶ)は矢継ぎ早にそう言い残すと、五月(いつき)が止める間もなく走り去っていった。

 

食堂から人気のない廊下に出た(まなぶ)は制服のYシャツのボタンを外しながら角を曲がる。

全部外れると走りながらYシャツを投げ捨て、靴を脱ぎ、宙に一回転してズボンを脱ぐ。

そして、しまっていた手袋を嵌め、マスクを装着すると、あっという間にスパイダーマンへとなった。

 

 

「(今、行くぞ!)」

 

 

スパイダーマンは風太郎たちがいるであろう部室棟に向かって全力疾走した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お昼なのに来てくれて悪いね」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「(やっぱりか……)」

 

 

一方、そんなことがあるとは露知らず、部室棟では部室前で女子バスケットボール部の部長に呼ばれた四葉(よつば)、そのすぐ近くの物陰で様子を伺っている風太郎の姿があった。

風太郎は彼女が以前手伝っていたバスケットボール部と繋がりがあると予感したのだが、見事的中した。

話によると、前回は一試合限定の助っ人として参加してたそうだが、また呼び出すとはおかしい。ただでさえ成績が悪いのに部活動の手伝いとなると勉強がおろそかになる可能性があるので、家庭教師として見逃せない。

 

他愛のない話が続く中、風太郎の不安な心境を増幅させるような言葉がバスケットボール部の部長の口から飛び出す。

 

 

「……それで中野さん。入部の件は考えてくれた?」

 

「(は?)」

 

 

一瞬耳を疑った。助っ人としての話のはずなのに、自分の知らないところでもう話が進んでいたことに。

ますますまずいこととなったと不安になった風太郎は四葉(よつば)に目を向けた。誘われた張本人は頭を捻って答えを渋っているようだった。

 

 

「は、はい……。よく考えたのですが……その~………」

 

「(何やってるんだ?早く断れ!)」

 

 

答えを渋っている四葉(よつば)に向かって心の中で催促する風太郎。四葉(よつば)の立場で考えると、学業で苦戦しているのに運動部の手伝いなどする余裕はどこにもない。スパっと断るのが最善の答えだ。

 

しかし、彼女は答えを絞り出せなかった。

というもの、四葉(よつば)はお人よし……悪くいえば優柔不断なのだ。困っている人、頼まれたりしたら断ろうにも断れきれず引き受けてしまう性格で、部活動以外の助っ人もやってしまっている。

断ってしまったら見捨てることになる……。考えすぎだが、その善意が彼女の決断力を鈍らせているのだ。

 

 

「……ッ」

 

 

――居ても立っても居られない。

中々答えを出さない四葉(よつば)にしびれをきらした風太郎が飛び出そうとしたときだった。

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

『!?』

 

 

つんざくような雄叫びが部室棟全体に響き渡り、風太郎は足を止める。

疑問に思った3人は柵に近寄って下を見下ろすと、こちらに向かってリザードが荒々しい動きで壁をよじ登ってきていた。

 

 

「こっちにくる!」

 

「早く逃げましょう!」

 

 

そう言って逃げようと階段向かって走り出すバスケットボール部の部長と四葉(よつば)

だが――

 

 

ガアァッ!

 

「「!?」」

 

 

あっという間に登りきったリザードに前方の進路を塞がれる。地上階から女子バスケットボール部の部室までは70m近くの高さがあるが、リザードにとっては登りきるのは容易く、一分もかからなかった。

2m近い巨体を持つリザードの鋭い瞳に睨まれ、恐怖で動けなくなる2人。蛇に睨まれた蛙のように。

そんな彼女らに牙を向こうとした瞬間――

 

 

ジリリリリ……!

 

「……?」

 

 

非常ベルが棟一帯に鳴り響き、動きを止めるリザード。

押した犯人は風太郎であり、彼女らからリザードの気を引こうと近くにあった非常ベルを鳴らしたのだった。

 

非常ベルに気をとられたリザードは四葉(よつば)たちの横を通り過ぎて、音の発生源に近寄る。

リザードは鬱陶しいとばかりに非常ベルを叩き壊すと、近くから階段から駆け降りる音が聞こえる。

見下ろすと、今いる階から四階層下に全力疾走で駆け降りる風太郎の姿があった。

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

「わあぁッ!?」

 

 

次なる獲物を見つけたリザードは雄叫びをあげると、階段を飛び移りながら追いかける。

リザードにバレたことに気付いた風太郎は悲鳴をあげると、必死な形相を浮かべながらスピードを上げる。

 

その悲鳴で風太郎がいることに気付いた四葉(よつば)。どうしてここにいるのかはわからない。けど、助けないと……。体力がない風太郎ではあっという間に追いつかれてしまうのは目に見えている。

決心した四葉(よつば)は――

 

 

「大変!上杉さんが……!私、助けに行ってきますから先に行っててください!」

 

「中野さん!」

 

 

バスケットボール部の部長にそう告げると、風太郎を助けに階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四葉(よつば)の予見通り、風太郎はあっという間にリザードに追いつかれていた。

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

「うあッ!?」

 

 

後ろから降りてきたリザードに太ももを引っかかれた風太郎はバランスを崩して前のめりに倒れる。

風太郎は立ち上がろうと必死に足を動かすが、太ももの傷の痛みで中々立ち上がれない。

床でもがいている風太郎にリザードは飛びかかり、四つん這いのような体勢で風太郎の手足を組み伏せた。

 

窮地に追いやられた風太郎の心情は恐怖を感じるも、不思議と冷静だった。命の危機にも関わらずだ。

人は死期を悟ると穏やかになるというアレと同じで、乱れていた呼吸も自然と正常に戻っていた。

 

 

「(悪い、親父……らいは……)」

 

 

これが自分の死期だと悟った風太郎は心の中で父親と妹へ別れを告げる。

今は亡き母親のもとへ旅経つ……そう諦めたのだ。

そんな彼の頭をリザードが遠慮なく喰らおうとしたとき――

 

 

ゴンッ!

 

「………?」

 

 

リザードの後頭部に消火器が殴りつけられる。

怯んだリザードは振り向くと、消火器を持った四葉(よつば)がそこに立っていた。

 

 

ガルルァ………!

 

 

これに激昂したリザードは風太郎から離れると、四葉(よつば)を睨めつきながら一歩一歩近づいていく。

後退りながら四葉(よつば)は消火液を放とうとするが、使い方がわからずホースを振り回すだけだった。

絶対絶命――。誰もがそう思った瞬間――

 

 

「ヌアァッ!!」

 

ガアァッ!?

 

 

ウェブスイングで颯爽と現れたスパイダーマンの両足蹴りが炸裂し、リザードを吹っ飛ばす。

昨日も会ったヒーローの登場に2人は驚いていると、スパイダーマンは安否を確認する。

 

 

「スパイダーマン!?」

 

「やあ。2人とも、怪我ない?」

 

「あ、足が……!」

 

「ッ、待ってて」

 

ピシュッ!

 

 

風太郎の訴えに応じたスパイダーマンは切られた太ももにウェブを当てて応急処置する。

歩けはするが万が一のことを考えて、四葉(よつば)に肩を貸して補助してもらうことにした。

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

『ッ!』

 

 

そんなやりとりをしていると、リザードが起き上がった。

スパイダーマンは風太郎と補助する四葉(よつば)に言う。

 

 

「君たちは体育館に避難してくれ。こいつは僕が相手する」

 

「平気なんですか?」

 

「大丈夫。こういうのは専門なんだ。さあ、行って!」

 

「はい!」

 

 

心配する四葉(よつば)にスパイダーマンは余裕をある口調で返すと、逃げるよう促した。

従った四葉(よつば)が風太郎を連れて離れていく中、スパイダーマンは深く腰を下ろして片手をついた体勢でリザードと睨み合う。

本当は彼も逃げ出したい。しかし、ここで逃げれば四葉(よつば)や他の人たちに危害が及ぶ。それだけは何としてでも避けたい。

そんなことを考えながら、しばし睨み合ったのち――

 

 

ガアァァァァーーーーーッ!

 

 

スパイダーマンとリザードは同じタイミングで飛び出す。

スパイダーマンはリザードの右手に向かってウェブを放って近くの階段の手すりに拘束すると、気をとられているうちに腹部に蹴りを打ち込む。

 

 

ガアッ!

 

 

リザードは若干怯むが、空いている左手で引き裂こうと振り下ろす。

スパイダーマンは素早く跳躍して天井に飛びつくと、リザードの肩に跨る。

 

 

ピシュッ!ピシュッ!

 

ガアァーーッ!?

 

 

すぐさま両手首のウェブで目元を塞ぎ、馬の手綱のように引っ張る。

肩に乗っかられただけでなく視界を塞がれたリザードは振り下ろそうとあっちこっち激しく暴れ回る。

スパイダーマンは振り下ろされないように力強く引っ張って、何とか抑えつけようとする。

 

だが、それに反してリザードは暴れ続け、遂には柵を破壊し、2人は地上階へと落ちていった。

スパイダーマンは受け身をして衝撃を和らげると、未だ倒れているリザードに向かってウェブを放って、全身を拘束する。

だが――

 

 

ブチィッ!!

 

ガアァァッ!

 

「ッ!?」

 

 

リザードは力を込めると、難なくウェブの拘束を外した。

今まで破れることがなかったウェブを自力で破ったことにスパイダーマンは驚愕する。スパイダーマンのウェブは鋼鉄製のワイヤーにも匹敵する強度だが、リザードはそれを難なく壊せるほどの力を持っているのだ。

無敵と思っていたウェブを攻略されて啞然とするスパイダーマンに訪れた僅かな隙。それを逃さないリザードは振り払った尻尾で脇腹を捉え、横に吹っ飛ばす。

 

 

「のあッ!?」

 

 

強烈な一撃にスパイダーマンは扉ごと部室の中へ吹っ飛ばされていった。

ガラガラ…と壁が崩れ落ちる中、起き上がったスパイダーマンは近くのサッカーボールが山ほど入っているボールかごを両手首のウェブでくっつけると、それを思いっきりリザードへ投げつける。

直撃したリザードは大きく怯む。サッカーボールが散乱し、床を転がり回る。

 

 

ピシュッ!ピシュッ!

 

「フッ!」

 

ガアァッ!?

 

 

その隙にスパイダーマンは両手首のウェブをリザードの両足にひっつけると、グイッと引っ張ってすっ転ばせる。

そして、駆け出して空高く跳躍。10mくらいの高さに到達すると、倒れているリザードの両隣の床にウェブを引っ付け、グイッと手前に引っ張り――

 

 

「ヌアッ!!」

 

ガアァァァァーーーーーッ!?

 

 

落下の勢いを利用した渾身の両足蹴りを炸裂させる。腹部に命中したリザードは目を白黒させると、苦痛の叫びをあげる。

スパイダーマンはバク転して離れると、起き上がったリザードの両手に向かってウェブを放ち、交差させた腕を肩にくっつけるような体勢で拘束する。

そのまま駆け出すと、飛びかかりの拳を打ち込もうとするが――

 

 

「がッ!?」

 

 

真っ直ぐ飛び出したリザードの尻尾の先端が胸元に命中。予想外の一撃に驚きと共にスパイダーマンは仰向けに倒れる。

その隙にリザードは両腕の拘束を解くと、スパイダーマンの頭を鷲掴みし、思いっきり床に叩きつける。

 

 

「うぐッ!」

 

混血生物め……!

 

「うあッ!」

 

 

憎しげに呟くながら、リザードはスパイダーマンを何度も床に叩きつける。

整備された床の中身がめくれるほどの攻撃にスパイダーマンはマスクの下で苦悶の表情を浮かべる。耳に伝わるゴッ!ゴッ!という鈍い音がより痛みを激しくさせる。

――このままだとやられてしまう。スパイダーマンは斜め上にある柵にウェブをくっつけて引っ張ると、引き抜かれた柵は勢いよくリザードに直撃した。

 

 

ガアァッ!?

 

 

リザードが怯んでいる隙に腕を引き離して脱出すると、尻尾を両手で掴む。

捕らえたままその場で一回転して振り回すと、手を放して投げ飛ばした。

 

 

ドォォォォンッ!

 

 

棟の出入口は投げ飛ばされたリザードによって壁ごと破壊され、校舎と繋がっている渡り廊下へと出た。

スパイダーマンも後を追い、渡り廊下に出る。

 

 

「フンッ!」

 

ガアァッ!?

 

 

スパイダーマンはリザードの頬を殴りつける。

リザードはフラッと怯むが、負けじと拳で殴り返す。

両者は一歩も退かない接近戦を展開する。

 

 

ガアァーーッ!!

 

チッ!

 

「くッ!」

 

 

リザードの真っ直ぐ突き出された鋭い爪が襲うが、スパイダーマンは頬を掠めるもかわす。

マスクの掠った個所は裂かれ、中から見える肌の切り傷からは血がジワリと滲む。

 

伝わる痛みにスパイダーマンは眉を潜めながらも、リザードの顎にアッパーを放って怯ませる。

すかさず、バク転で距離を取ったスパイダーマンは天井を這いまわってリザードの後ろに回り込むと、先程吹き飛んだ部室棟の出入口の扉をウェブで引っ付け――

 

 

「ハアァッ!!!」

 

ゴンッ!

 

ガアァ………ッ!!

 

 

勢いよく投げ飛ばした。

勢いがついた扉は鈍い音を立ててリザードの後頭部に命中し、前へ吹っ飛んで倒れた。今の一撃がリザードには相当効いたようで起き上がる気配がなかった。

――今がチャンス。スパイダーマンはリザードに近寄ろうとした瞬間――

 

 

ウーーウーーー………!

 

「ッ!」

 

 

パトカーのサイレン音が耳に入り、足を止める。

渡り廊下の窓から外を見ると、校門の前にはパトカーや救急車が停まっていた。生徒か教師の誰かが呼んだのだろう。

警察から追われる身ではあるが、とりあえずこの騒動の犯人であるリザードを突き出そうと考え、リザードの方を向くが、寝ているはずの彼はどこにもいなかった。

 

 

「逃がしたか……」

 

 

マスクを外し、素顔を露わにした(まなぶ)は嘆息をつく。マスクを脱いだ彼の顔は戦闘によって傷だらけだった。

頑丈な体が幸いして大事に至らないが、あざや引っかかれた頬の傷は誰が見ても充分痛々しい。

 

犯人を取り逃したのはもったいないと残念がりながらも諦めた(まなぶ)は怪しまれないように制服に着替え、皆が避難しているであろう体育館の方へと歩いていった。

 

 

 




◆イースター・エッグ◆
①スタンドライトに照らす手
 マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)にて、コナーズがトカゲのDNAから作った薬品で生え変わった右腕に感動するシーンのオマージュ。
コナーズはスタンドライトの電球に触れて痛覚があることに喜んでいた。

②琥太郎を高い高いする石影
 アニメ「スペクタキュラー・スパイダーマン」(2008)でコナーズが息子ビリーを両腕で高い高いするシーンのオマージュ。このシーンでいかにコナーズ家の家庭環境がいいのかが伺える。
ちなみに石影が言った「よお、相棒!」も同シーンでコナーズがビリーに向かって発したセリフ。

③学校での戦闘
 マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)では、リザードとスパイダーマンはピーター/スパイダーマンが通う学校で戦いを繰り広げた。シリアスかつコミカルな戦闘シーンは必見!

④消火器でリザードを殴る四葉(よつば)
 マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)にて、リザードに苦戦するスパイダーマンを助けようとグウェンがトロフィーでリザードを殴るシーンのオマージュ。

スパイダーマンを増やす?

  • YES!(ヒロインなし)
  • YES!(オリジナルヒロイン)
  • YES!(五つ子の中からヒロイン)
  • NO
  • It's Morbin time
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。