SPIDER-MAN Quintessential Quintuplets 作:まゆはちブラック
9月30日の日曜日の夜。石影家3人は自宅へ帰宅していた。
浴衣を着ているが、彼らもまた、T市の花火大会へと来場していたのだ。
「花火楽しかったねー!」
「そうね~。またみんなで行こっか?」
「うん!」
陽子の投げかけに元気よく答える琥太郎。実は琥太郎は初めて家族揃って花火大会に行ったのだ。
人混みの多さや花火の音に怖がるかと懸念していた石影と陽子だったが、嬉しそうな息子の様子を見て安心する。
石影は琥太郎の頭の上にポンと左手を置く。
「じゃあ、毎日早く寝てくれるいい子だったらまた連れてあげよう……約束できるか?」
「うん!ぼく、いい子にする!」
「よし!じゃあ、まず手洗いうがいしてくれるかな?」
「オーケー!」
石影のお願いにサムズアップで承諾した琥太郎は駆け足で洗面所に向かっていく。
琥太郎がいなくなった後、石影は陽子に言う。
「君も早く寝なさい。明日は月曜日だからね」
「あなたは?」
「私は研究の続きをするよ。また徹夜になるがね……ハハッ」
石影はそう言って軽く笑うが、陽子は逆に不安そうな顔を浮かべる。
「竜……研究熱心なのはわかるけど、少し手を休めたら?明日学校でしょ?」
「確かにそうだが、あと少し……もしかすると今夜完成するかもしれないんだ。休むなんてできない……。君の気持ちはわかるが、やらせてくれないか?」
心配する陽子の気持ちを汲みつつ、石影は訴えかけるように頼みかける。
しかし、それが逆に陽子に不安を与えてしまった。もし体調を崩して倒れたりでもしたら………想像するだけで恐ろしい。
長年暮らしてきた経験でお互いが考えていることが痛いほどわかる。夫婦として、化学者として……。
数秒考えたのち、陽子は頷く。
「……わかったわ。私も元は化学者だったから、完成させたいと思うわ。けど、無理はしないで」
「ありがとう。陽子」
妻の了承を得た石影はにっこりと微笑んで感謝を告げる。
陽子自身、不安は残っているものの、彼女の心の奥底にある”成し遂げたい”という化学者としての信念が勝り、石影を後押しした。
それから時間が経ち、深夜3時。琥太郎と陽子もすっかり眠りについていた頃、石影は1人、研究室に籠って研究をしていた。
トカゲの遺伝子を用いた欠損した体の部位を再生させる薬品──身体再生薬の製作は順調に進んでいた。
長時間続けているので流石に疲れが出てきたが、あともう少しで完成するという希望がそれらを吹っ飛ばした。
「よし!完成だ!」
家に帰りついてから6時間ほど経過した頃。石影は目の前に完成した薬品を見てにっこりと笑う。
試験管にはトカゲを彷彿させる緑色の薬液が入っており、スタンドライトの灯りを受けて、輝いているようにも見えた。
──さっそく試してみよう。長年待ち望んでいた瞬間に居ても立っても居られない石影はさっそく自分に投薬実験するため、注射器に薬品を移し替える。
普通ならまずマウスなどで試すのだが、失った自分の右腕が生えるかもしれないという欲求の前では冷静にはいられなかった。
薬品を投与する準備ができた石影はノートパソコンの動画撮影アプリを起動する。
「10月1日月曜日、午前3時34分。被検体──石影 竜。体温、健康状態異常なし。自らの身体の部位を再生するトカゲの遺伝子を人間にも可能できるように遺伝子組み換えを行った薬品を製作した。これより、投与実験を開始する……」
そう言うと、石影は肘から下が無い右腕に注射器を刺した。
針が突き刺さる痛みで顔が歪むが、注射器を押す手は緩めない。筒に入っている緑色の薬液はみるみる減っていき、石影の体内へと入っていく。
そして、全て注入し終えた瞬間──
「……ぅうう!?ぐあぁぁあああーーーーーッ!!?」
突然、右腕に激しい痛みが襲う。内側から皮膚を剝がされるような感覚に耐えきれない石影は悲鳴を上げる。
あまりもの激痛に床に倒れ、右腕を抑えながら悶える。
「あなた!?どうしたの!?」
その悲鳴に眠りから覚めた陽子が駆け付けると、傍に跪く。
夫が冷や汗をかきながら悶え苦しむ姿に血相を変えた陽子は必死な声で呼びかける。
「竜!竜!しっかりして!」
「うぅぅ……ぐあぁぁあああーーーーーーッ!!」
陽子が呼びかける中、苦しむ石影の右腕は肘から腕が生えた。生え変わったばかりのトカゲの尻尾のように不定形だが、紛れもない人間の腕だった。
それを目の当たりにした陽子は開いた口が塞がらなかった。
「あ、あなた……」
「うぅん……?おぉ………!」
激痛が収まって落ち着いた石影は固まっている陽子の視線に目を向けると、歓喜の表情を浮かべる。
視線の先には無かったはずの右腕が生えていた。真っ白で濡れている右腕には段々と血色がついていき、手にはしっかりと爪も生えていた。
開いて、閉じて──握れる確かな感触を実感すると、右腕を机のスタンドライトに重ねるように上げる。
──私に右腕が……!感動する石影は瞳を潤わせながら、スタンドライトに照らされる右腕をまじまじと眺める。
その目はまるで美しい芸術品を眺めるようだった。
右腕があることを実感した石影は笑みがこぼれる。
「はっ、ははっ!成功だ……!遂に完成したんだッ!!これで大勢の人が救える!!!」
「あなた、おめでとう!」
完成を祝い合いながら抱き合う2人。長年の悲願が達成された瞬間に心震わせないものはいないだろう。
「どうしたの……?」
石影と陽子が喜び合っていると、琥太郎が眠たげに目を擦りながらやってきた。おそらく2人の声で起きてしまったのだろう。
立ち上げった石影は琥太郎のもとに行くと、両脇に手を通して高い高いをする。
「よお、相棒!」
「あ!?パパ、手がある!」
「そうだ!パパは遂にやったんだ!」
驚く琥太郎に石影は喜びながら息子にも報告をする。それを聞いた琥太郎も嬉しそうに微笑む。
愛する者をしっかりと抱き締めることができる………この抑えきれない喜びに石影一家は幸せに包まれた。
そして、時間が経ち、朝7時半頃。
「や。おっはー」
思わぬ人物──
「おはよう………あれ?いつも通ってるのってこっちだっけ?」
「ううん。ここのコーヒー店が美味しいって学校の友達から聞いたから、寄り道しただけ。ねぇ、せっかくだし一緒に行こうよ」
「いいよ」
「ありがとう!さっすがマナブ君!」
雰囲気的には偶然出会ったとは思えないが、断る理由もないので
あまり同年代の異性と一緒に歩いたことがない
「あー……女優の仕事の方はどう?」
「うん、順調かな。オーディションにも合格の報せがさっき着たし」
「本当!?凄いじゃない!」
「ありがと♪まあ、アカデミーを取るまでの道のりとしてはまだまだだけどねー」
彼女の夢はアカデミー賞 主演女優賞を最高記録4回受賞したキャサリン・ヘプバーンを超えるような大物女優になることである。
壮大かつ過酷な道のりだが、
そんなことを話していると、
「そうだ。連絡先交換しない?」
「いいけど……いきなりどうしたの?」
「いざ、連絡しないといけない状況になったときに大変でしょ?家庭教師的にもしておいた方がいいと思うけど」
予定や緊急の連絡をするときに連絡先を知らないのは非常に困る。そのことは昨日の花火大会で充分味わった。
結局、ほぼスパイダーマンの力で解決したが、毎回は上手くいかないだろう。
「わかった。じゃあ、教えてもらっていいかな?」
「うん。私のは……」
承諾した
「ありがとね。じゃあ、試しにメッセージ送ってみるね」
「オーケー………ッ!!?」
すると、数秒もしないうちに
そこには、『今朝撮れたてのだよ~』と書かれた文章と共にすやすやと眠る
どういうつもりなんだと慌てる
「どう?マナブ君。無防備な
「ッ、ど、どうって……」
「ほら。可愛いとか、素敵だーとかさ。そういう感想が欲しいんだけどな~~」
「………か、可愛いです」
半ば強制的に言わせた
「また欲しかったら、この
「~~ッ!」
と、小悪魔的な言葉をかける。”下着”という単語に顔を真っ赤にした
このことから、
「おはよう」
「おはようございます」
道中、そんな話をしながら校門を通って歩いていると、近くにいた石影が挨拶する。
横に
「おはよう」
「おはようございます………あれ?先生、腕が!?」
「ああ、ご覧の通りだ。例のアレが完成したんだ」
「す、凄い……!おめでとうございます!」
「ありがとう。だが、君の助言あってのことだ。本当に感謝しているよ」
石影の右腕が再生していることに気付いた
例のアレというのは身体再生薬のことだろう。
隣にいる
石影は左手首の腕時計の時間を見ると、
「では、そろそろ職員室に戻るよ。君たちも遅れず教室に向かいなさい」
「「はい」」
石影の促しに明るく返事した
2人はそのまま行こうとしたが、石影が職員用玄関の方に向かうために背を向けたときだった。
「?」
石影の首筋。先程は白衣で隠れていてわからなかったが、緑色の爬虫類の鱗のようなものがついているように見えた。
皮膚病の一種にそういった病気はあるが、石影の首筋にあるのはそういった類でなく、本物の爬虫類鱗そのものだった。
「どーしたの?」
「いや、何でもない……」
訝しむ様子が気になった
──見間違いだといいけど。
「アドレス交換!賛成です!」
「私も……」
それから時間が経ち、お昼休みの図書室。
会った当初から協力的な
「俺はいい。家庭教師以外で関わるつもりはない」
自習に取り組む風太郎は拒否の姿勢を見せる。
元々風太郎は人付き合いが面倒だと思っており、仲良くしようと近寄ってくる者さえも払いのけている。彼がいつも1人なのはそれが原因だ。
「今後の家庭教師のことを考えれば……」
「お前が知ってればいいだろ。同じ家庭教師なんだし………。無駄なことはしたくない」
ろくに仕事をさせてくれない五つ子たちと関わりたくないという気持ちはわかるが、何としても交換してほしい。
頑固な風太郎に困った
それに応じた
「じゃーん。これなーんだ?」
「!?」
スマートフォンに映る画像を見て、風太郎は目を丸くする。
画面に映っているのは、昨日行った公園のベンチですやすやと寝ている自分の寝顔だった。
あの夜、風太郎を置き去りしようと考えつく前、
何を見せているのかわからない他の3人は首を傾げている中、動揺する風太郎は小声で話しかける。
「お前、いつの間に……」
「広められたくなかったら協力してね♡」
「くっ……!」
ニヤニヤしながら囁く
小悪魔の脅しに風太郎は卑怯と憤りながらも、協力するしか道がなかった。
「……わかった、わかった。交換してやる。ただ、家庭教師と関係ない奴には教えるなよ」
「「……ッ!」」
風太郎の承諾の返事に嬉しそうに顔を見合わせる
頑なに拒んでいた風太郎の重たい腰をどうやって動かしたのかわからないが、話が進んだのは幸いだ。
風太郎を加えた、計5人はお互いの連絡先を交換した。
「これでよし……
スマートフォンに連絡先が登録されたことを確認した風太郎はまたもや悪いところが出て、他の2人を後回ししようとする。
それに対し、
「その2人なら、食堂にいましたよ。まだいるはずですし、一緒に訊きに行きましょう!」
「え!?俺もかよ!………お、おい!」
と言うと、風太郎の手を引っ張って連れて行こうとする。
嫌がりながらも渋々ついていく風太郎の後を
「良かったね」
「……ッ、うん」
ウインクする
彼女が見つめる先は、自分のスマートフォンに登録された風太郎の連絡先だった。
「うぅあぁぁーーーッ!?」
『!?』
同時刻。お昼休みに入っている職員室では、物騒な悲鳴があがっていた。
その声の正体は石影で、先程まで妻の陽子が作っていた弁当を食べていたのだが、急に体が苦しくなり、床に倒れ込んでしまった。
他の職員たちの注目が集まる中、石影は冷や汗をかきながら違和感を感じる右腕を見た。
「ッ!?(何なんだ、これは……!?)」
右腕を見て、石影は目を丸くした。右腕は人間のものから、鋭い爪が生えた爬虫類のようなものへと変化していた。
それだけでない。顔周りの皮膚も緑色の鱗のようなものが浮き出ており、身体全体が大きくなろうと内側から服が裂け始めていた。
「先生、大丈夫ですか?」
「救急車呼びましょうか?」
「あ、ああ……平気です。ちょっと具合が悪いだけ………」
心配する周りの教師に石影は誤魔化し笑いで返すと、変異し始めている顔と右腕を白衣で隠しながら職員トイレの方へ走っていった。
周りに気付かれていないかと不安に駆られつつも職員トイレへ駆け込む。幸いにも中には誰もいなかった。
石影は蛇口を捻って落ち着かせようと水を出して顔を洗う。
顔を上げて鏡を見ると、濡れた顔の鱗は先程より進行しており、顔の輪郭も変化し始めていた。
「がッ!?ああぁぁぁあああぁーーーーーッ!!」
またもや襲ってきた苦痛に悲鳴をあげる石影。その痛みは理性が吹っ飛ぶぐらいだ。
身体はガキッ!ゴキッ!と奇妙な音を立てながら靴や服を引き裂いて変化していく。
激痛のあまり見開いた瞳孔は、縦長のトカゲを彷彿とさせるものへと変わった。
「お断りよ。お・こ・と・わ・り!」
一方、食堂では
彼女が言うに、友達でもないのに連絡先を易々と教えるのはおかしいとのことだった。
「確かに……
どちらも風太郎が(
だが、そう断られると想定していた風太郎は思いついていた秘策を出す。
「これならどうだ!今なら俺のアドレスに加え、らいはのアドレスもセットでお値段据え置きお買い得だ!貰うなら今のうちだぞ~?」
「えぇ!?」
気味の悪い笑みを浮かべながら話す風太郎の提案に
”身内を売る”というプライバシーの塊もない発言に
──
「背に腹は代えられません……」
「身内を売るなんて卑怯よ!」
と、風太郎に連絡先を教えることを癪に障りながらも承諾した。
これに対して、
「
「当たり前よ。何であんたらなんかに……」
そう訊く
それを聞いた風太郎は嘆息すると、
「仕方ない……。では、お前抜きで話すとしよう。俺と
と悪人顔で挑発する。こうしたのも、仲間はずれが嫌な彼女なら絶対食いつくと考えたからだ。
「~~~ッ!あんたらのアドレスを教えなさいよ………!」
その読み通り、引っ掛かった
これでひと安心。
~♪♪♪
「!」
それを見た
「……すみません。私、頼まれ事あったんで、これで失礼しますね」
「は?」
何だったんだと不思議に思う風太郎は少し考える。頼まれ事……その単語から思い当たることが頭に浮かんだ。
「………
「上杉!?」
そうとわかった風太郎は
「
「え……!?」
唐突な質問に焦り、固まる
思い返せば、昨日の祭りで彼女を信頼させるためにスマートフォンを渡していた。その際に特徴を色々と見ているのは容易に考えられることだ。
動揺する
「どうされましたか?」
「あっ、ああ……!そうだよ!お揃いにしようって彼と話してさ………」
「そうなんですね!てっきり、彼が渡した携帯が
「は、ははっ……!」
しどろもどろになりながらも
うっかり焦ってしまったが、何とか危機を逃れたのでほっと胸をなでおろす。
しかし、彼女にはまだスパイダーマンである自分を信じてもらえていないのは少しばかりショックではあるが。
≈「ッ!?」≈
ひと安心した最中、突然
蜘蛛の第六感────スパイダーセンスだ。
これが発動する意味は身の危険が迫っていることだということは、普段のヒーロー活動から充分に理解している。
「
「何してんのよ?」
そわそわしている
その間にもスパイダーセンスはますます強くなっている。危険が迫っているというよりも、危険が
『………わぁぁーー!』
「何……?」
その矢先、後ろの遠くから慌ただしい悲鳴が聞こえてきた。1人や2人ではない……たくさんの悲鳴だ。
この只事ではない事態に他の2人や食堂にいる人たちにも悲鳴が聞こえたようで、
振り向いた
その存在は確実に食堂に迫り、閉じていた出入口の扉がグラグラと揺れる。
そして、次の瞬間──
ドッガァアーーンッ!
「!?」
と、出入口の扉が殴り飛ばされ、扉が勢いよく吹っ飛んできた。
扉は真っ直ぐ食堂内を飛んでいき、その先には
「ッ!」
「きゃあっ!?」
ガッシャーンッ!
その危機に
扉は
「ガアァァァァーーーーーッ!」
雄叫びをあげる緑色のトカゲの怪物がいた。
ボロボロの紫色のズボンに、ボロボロの白衣を纏ったトカゲ────リザードだ。
その正体は、トカゲの遺伝子を使った薬品を投与したことによって変貌してしまった石影 竜その人だった。
『わぁぁーーーーーッ!!?』
「ガアッ!」
リザードの登場に恐怖した食堂にいる人たちはもう1つの出入口目指して一斉に逃げ出した。
動く人たちに反応したリザードは机や椅子やらを吹っ飛ばしながら、食堂の中へ走ってくる。
「は、早く逃げましょ!」
「
冷静さを失った
制止しようとする
そんな
「待って!今行ったら危険だ!」
「ちょっと!?離しなさいよ!!あの恐竜みたいのに食べられちゃうわ!」
「出口は人で密集してる。あんな人混みにまぎれたら、大怪我するかもしれない」
「………」
いつになく真剣な
確かにみな冷静さを失っているので、我先にと押しあったり踏んづけたりするので大変危険だ。
説得を受けた
「ここに隠れよう」
本当はスパイダーマンとなって戦いたいのだが、ここで変装するには人の目が多すぎる。
出来るだけ息を殺して身を隠していると、通りかかったリザードは逃げる人たちを追って離れていった。
3人は机の下から身を出して出入口の方を見ると、リザードは右の角を曲がって走っていった。
それを見届けた3人はほっと胸をなでおろす。
「行ったわね……」
「た、助かりました~……」
「とりあえず緊急避難場所の体育館に行こう」
そのまま避難先の体育館へ向かおうとした矢先、
「待って!あの化け物が行った先って、さっき
「「ッ!?」」
その事実に青ざめる
彼らに迫る危機……人目が少なくなったことで、
「わかった。僕が連れてくるから先行ってて!」
「え!?
食堂から人気のない廊下に出た
全部外れると走りながらYシャツを投げ捨て、靴を脱ぎ、宙に一回転してズボンを脱ぐ。
そして、しまっていた手袋を嵌め、マスクを装着すると、あっという間にスパイダーマンへとなった。
「(今、行くぞ!)」
スパイダーマンは風太郎たちがいるであろう部室棟に向かって全力疾走した。
「お昼なのに来てくれて悪いね」
「いえ、大丈夫です」
「(やっぱりか……)」
一方、そんなことがあるとは露知らず、部室棟では部室前で女子バスケットボール部の部長に呼ばれた
風太郎は彼女が以前手伝っていたバスケットボール部と繋がりがあると予感したのだが、見事的中した。
話によると、前回は一試合限定の助っ人として参加してたそうだが、また呼び出すとはおかしい。ただでさえ成績が悪いのに部活動の手伝いとなると勉強がおろそかになる可能性があるので、家庭教師として見逃せない。
他愛のない話が続く中、風太郎の不安な心境を増幅させるような言葉がバスケットボール部の部長の口から飛び出す。
「……それで中野さん。入部の件は考えてくれた?」
「(は?)」
一瞬耳を疑った。助っ人としての話のはずなのに、自分の知らないところでもう話が進んでいたことに。
ますますまずいこととなったと不安になった風太郎は
「は、はい……。よく考えたのですが……その~………」
「(何やってるんだ?早く断れ!)」
答えを渋っている
しかし、彼女は答えを絞り出せなかった。
というもの、
断ってしまったら見捨てることになる……。考えすぎだが、その善意が彼女の決断力を鈍らせているのだ。
「……ッ」
――居ても立っても居られない。
中々答えを出さない
「ガアァァァァーーーーーッ!」
『!?』
つんざくような雄叫びが部室棟全体に響き渡り、風太郎は足を止める。
疑問に思った3人は柵に近寄って下を見下ろすと、こちらに向かってリザードが荒々しい動きで壁をよじ登ってきていた。
「こっちにくる!」
「早く逃げましょう!」
そう言って逃げようと階段向かって走り出すバスケットボール部の部長と
だが――
「ガアァッ!」
「「!?」」
あっという間に登りきったリザードに前方の進路を塞がれる。地上階から女子バスケットボール部の部室までは70m近くの高さがあるが、リザードにとっては登りきるのは容易く、一分もかからなかった。
2m近い巨体を持つリザードの鋭い瞳に睨まれ、恐怖で動けなくなる2人。蛇に睨まれた蛙のように。
そんな彼女らに牙を向こうとした瞬間――
ジリリリリ……!
「……?」
非常ベルが棟一帯に鳴り響き、動きを止めるリザード。
押した犯人は風太郎であり、彼女らからリザードの気を引こうと近くにあった非常ベルを鳴らしたのだった。
非常ベルに気をとられたリザードは
リザードは鬱陶しいとばかりに非常ベルを叩き壊すと、近くから階段から駆け降りる音が聞こえる。
見下ろすと、今いる階から四階層下に全力疾走で駆け降りる風太郎の姿があった。
「ガアァァァァーーーーーッ!」
「わあぁッ!?」
次なる獲物を見つけたリザードは雄叫びをあげると、階段を飛び移りながら追いかける。
リザードにバレたことに気付いた風太郎は悲鳴をあげると、必死な形相を浮かべながらスピードを上げる。
その悲鳴で風太郎がいることに気付いた
決心した
「大変!上杉さんが……!私、助けに行ってきますから先に行っててください!」
「中野さん!」
バスケットボール部の部長にそう告げると、風太郎を助けに階段を降りていった。
「ガアァァァァーーーーーッ!」
「うあッ!?」
後ろから降りてきたリザードに太ももを引っかかれた風太郎はバランスを崩して前のめりに倒れる。
風太郎は立ち上がろうと必死に足を動かすが、太ももの傷の痛みで中々立ち上がれない。
床でもがいている風太郎にリザードは飛びかかり、四つん這いのような体勢で風太郎の手足を組み伏せた。
窮地に追いやられた風太郎の心情は恐怖を感じるも、不思議と冷静だった。命の危機にも関わらずだ。
人は死期を悟ると穏やかになるというアレと同じで、乱れていた呼吸も自然と正常に戻っていた。
「(悪い、親父……らいは……)」
これが自分の死期だと悟った風太郎は心の中で父親と妹へ別れを告げる。
今は亡き母親のもとへ旅経つ……そう諦めたのだ。
そんな彼の頭をリザードが遠慮なく喰らおうとしたとき――
ゴンッ!
「………?」
リザードの後頭部に消火器が殴りつけられる。
怯んだリザードは振り向くと、消火器を持った
「ガルルァ………!」
これに激昂したリザードは風太郎から離れると、
後退りながら
絶対絶命――。誰もがそう思った瞬間――
「ヌアァッ!!」
「ガアァッ!?」
ウェブスイングで颯爽と現れたスパイダーマンの両足蹴りが炸裂し、リザードを吹っ飛ばす。
昨日も会ったヒーローの登場に2人は驚いていると、スパイダーマンは安否を確認する。
「スパイダーマン!?」
「やあ。2人とも、怪我ない?」
「あ、足が……!」
「ッ、待ってて」
ピシュッ!
風太郎の訴えに応じたスパイダーマンは切られた太ももにウェブを当てて応急処置する。
歩けはするが万が一のことを考えて、
「ガアァァァァーーーーーッ!」
『ッ!』
そんなやりとりをしていると、リザードが起き上がった。
スパイダーマンは風太郎と補助する
「君たちは体育館に避難してくれ。こいつは僕が相手する」
「平気なんですか?」
「大丈夫。こういうのは専門なんだ。さあ、行って!」
「はい!」
心配する
従った
本当は彼も逃げ出したい。しかし、ここで逃げれば
そんなことを考えながら、しばし睨み合ったのち――
「ガアァァァァーーーーーッ!」
スパイダーマンとリザードは同じタイミングで飛び出す。
スパイダーマンはリザードの右手に向かってウェブを放って近くの階段の手すりに拘束すると、気をとられているうちに腹部に蹴りを打ち込む。
「ガアッ!」
リザードは若干怯むが、空いている左手で引き裂こうと振り下ろす。
スパイダーマンは素早く跳躍して天井に飛びつくと、リザードの肩に跨る。
ピシュッ!ピシュッ!
「ガアァーーッ!?」
すぐさま両手首のウェブで目元を塞ぎ、馬の手綱のように引っ張る。
肩に乗っかられただけでなく視界を塞がれたリザードは振り下ろそうとあっちこっち激しく暴れ回る。
スパイダーマンは振り下ろされないように力強く引っ張って、何とか抑えつけようとする。
だが、それに反してリザードは暴れ続け、遂には柵を破壊し、2人は地上階へと落ちていった。
スパイダーマンは受け身をして衝撃を和らげると、未だ倒れているリザードに向かってウェブを放って、全身を拘束する。
だが――
ブチィッ!!
「ガアァァッ!」
「ッ!?」
リザードは力を込めると、難なくウェブの拘束を外した。
今まで破れることがなかったウェブを自力で破ったことにスパイダーマンは驚愕する。スパイダーマンのウェブは鋼鉄製のワイヤーにも匹敵する強度だが、リザードはそれを難なく壊せるほどの力を持っているのだ。
無敵と思っていたウェブを攻略されて啞然とするスパイダーマンに訪れた僅かな隙。それを逃さないリザードは振り払った尻尾で脇腹を捉え、横に吹っ飛ばす。
「のあッ!?」
強烈な一撃にスパイダーマンは扉ごと部室の中へ吹っ飛ばされていった。
ガラガラ…と壁が崩れ落ちる中、起き上がったスパイダーマンは近くのサッカーボールが山ほど入っているボールかごを両手首のウェブでくっつけると、それを思いっきりリザードへ投げつける。
直撃したリザードは大きく怯む。サッカーボールが散乱し、床を転がり回る。
ピシュッ!ピシュッ!
「フッ!」
「ガアァッ!?」
その隙にスパイダーマンは両手首のウェブをリザードの両足にひっつけると、グイッと引っ張ってすっ転ばせる。
そして、駆け出して空高く跳躍。10mくらいの高さに到達すると、倒れているリザードの両隣の床にウェブを引っ付け、グイッと手前に引っ張り――
「ヌアッ!!」
「ガアァァァァーーーーーッ!?」
落下の勢いを利用した渾身の両足蹴りを炸裂させる。腹部に命中したリザードは目を白黒させると、苦痛の叫びをあげる。
スパイダーマンはバク転して離れると、起き上がったリザードの両手に向かってウェブを放ち、交差させた腕を肩にくっつけるような体勢で拘束する。
そのまま駆け出すと、飛びかかりの拳を打ち込もうとするが――
「がッ!?」
真っ直ぐ飛び出したリザードの尻尾の先端が胸元に命中。予想外の一撃に驚きと共にスパイダーマンは仰向けに倒れる。
その隙にリザードは両腕の拘束を解くと、スパイダーマンの頭を鷲掴みし、思いっきり床に叩きつける。
「うぐッ!」
「混血生物め……!」
「うあッ!」
憎しげに呟くながら、リザードはスパイダーマンを何度も床に叩きつける。
整備された床の中身がめくれるほどの攻撃にスパイダーマンはマスクの下で苦悶の表情を浮かべる。耳に伝わるゴッ!ゴッ!という鈍い音がより痛みを激しくさせる。
――このままだとやられてしまう。スパイダーマンは斜め上にある柵にウェブをくっつけて引っ張ると、引き抜かれた柵は勢いよくリザードに直撃した。
「ガアァッ!?」
リザードが怯んでいる隙に腕を引き離して脱出すると、尻尾を両手で掴む。
捕らえたままその場で一回転して振り回すと、手を放して投げ飛ばした。
ドォォォォンッ!
棟の出入口は投げ飛ばされたリザードによって壁ごと破壊され、校舎と繋がっている渡り廊下へと出た。
スパイダーマンも後を追い、渡り廊下に出る。
「フンッ!」
「ガアァッ!?」
スパイダーマンはリザードの頬を殴りつける。
リザードはフラッと怯むが、負けじと拳で殴り返す。
両者は一歩も退かない接近戦を展開する。
「ガアァーーッ!!」
チッ!
「くッ!」
リザードの真っ直ぐ突き出された鋭い爪が襲うが、スパイダーマンは頬を掠めるもかわす。
マスクの掠った個所は裂かれ、中から見える肌の切り傷からは血がジワリと滲む。
伝わる痛みにスパイダーマンは眉を潜めながらも、リザードの顎にアッパーを放って怯ませる。
すかさず、バク転で距離を取ったスパイダーマンは天井を這いまわってリザードの後ろに回り込むと、先程吹き飛んだ部室棟の出入口の扉をウェブで引っ付け――
「ハアァッ!!!」
ゴンッ!
「ガアァ………ッ!!」
勢いよく投げ飛ばした。
勢いがついた扉は鈍い音を立ててリザードの後頭部に命中し、前へ吹っ飛んで倒れた。今の一撃がリザードには相当効いたようで起き上がる気配がなかった。
――今がチャンス。スパイダーマンはリザードに近寄ろうとした瞬間――
ウーーウーーー………!
「ッ!」
パトカーのサイレン音が耳に入り、足を止める。
渡り廊下の窓から外を見ると、校門の前にはパトカーや救急車が停まっていた。生徒か教師の誰かが呼んだのだろう。
警察から追われる身ではあるが、とりあえずこの騒動の犯人であるリザードを突き出そうと考え、リザードの方を向くが、寝ているはずの彼はどこにもいなかった。
「逃がしたか……」
マスクを外し、素顔を露わにした
頑丈な体が幸いして大事に至らないが、あざや引っかかれた頬の傷は誰が見ても充分痛々しい。
犯人を取り逃したのはもったいないと残念がりながらも諦めた
◆イースター・エッグ◆
①スタンドライトに照らす手
マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)にて、コナーズがトカゲのDNAから作った薬品で生え変わった右腕に感動するシーンのオマージュ。
コナーズはスタンドライトの電球に触れて痛覚があることに喜んでいた。
②琥太郎を高い高いする石影
アニメ「スペクタキュラー・スパイダーマン」(2008)でコナーズが息子ビリーを両腕で高い高いするシーンのオマージュ。このシーンでいかにコナーズ家の家庭環境がいいのかが伺える。
ちなみに石影が言った「よお、相棒!」も同シーンでコナーズがビリーに向かって発したセリフ。
③学校での戦闘
マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)では、リザードとスパイダーマンはピーター/スパイダーマンが通う学校で戦いを繰り広げた。シリアスかつコミカルな戦闘シーンは必見!
④消火器でリザードを殴る
マーク・ウェブ版「アメイジング・スパイダーマン」(2012)にて、リザードに苦戦するスパイダーマンを助けようとグウェンがトロフィーでリザードを殴るシーンのオマージュ。
スパイダーマンを増やす?
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YES!(ヒロインなし)
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YES!(オリジナルヒロイン)
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YES!(五つ子の中からヒロイン)
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NO
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It's Morbin time