陰の矜持   作:赤穂あに

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※勇者の名前をイレブンとしています
※主人公(オリ主)の名前は出てきません


世界が救われるまで

 ある日、他国への遠征任務から帰ってくると、弟が指名手配犯になっていた時の心情を十文字以内で答えよ。

 どうしてこうなった。

 まったくもって意味がわからない。悪魔の子ってなに。あのイレブンが? ルキに眉毛書いて泣かされちゃうようなあのイレブンが? はっはっは、ご冗談を。信じられなくて無断で深夜、村に馬を走らせたら、焼き討ちにあった故郷にぶち当たって死ぬほど泣いた。デルカダールころす。

 そのままとんぼ返りをして、憎い上官の首をはねてやりたい衝動を抑え込み、どうやらほとんど徹夜らしく眠たい目をした顔面に辞表を叩きつけ、弟を追いかけるため馬を飛ばし、今に至る。

 行動の迅速さとしては百点満点だったと我ながら思うのだが、迅速すぎて身支度を整えてないのはよろしくなかった。そりゃあ逃亡中に追手の兵士と同じ格好した奴が出てくれば、問答無用でボコすよね、わかるよ。そこは俺に非がある。

 

「でもお前らが返り討ちにあうのは俺のせいじゃないからね? 頑張って強くなって」

「くそ……、イレブン! 逃げろ!」

「え、あれ、うそ……?」

「やっと気付いたのかよ〜! て、俺まだ兜被ってたな! はっはっは、悪い悪い」

 

 兜をポイと脱ぎ捨て、頭を左右に強く振る。汗がぱたぱたと飛び散って、涼しくなる。嘘、全然涼しくない。砂漠で甲冑はやばい、死んじゃう。

 

「お兄ちゃん!?」

「よぉー、イレブン! 久しぶりだな!」

 

 とりあえず影のあるとこか水のあるとこかヒャド、死ぬ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 貴様! ぐらいなんか言ってもよさそうなもんなんだが、元上官は無言でドルマをこれでもかと撃ち込んでくる。そういうところがやれ陰険だやれ小姑みたいだと言われるんですよ。

 

「仕事できるくせに人望ないの、そういうとこですからね?」

「死ね」

「ちょっと! 無駄に煽らないでよね!!」

 

 そうは言っても、俺がホメロス様にまともに切りかかって勝てるわけもないし。出来るだけ要らない魔法で消費してもらおうと思ったらこうするしかない。いやでも、シルビアさんあたり普通に勝てそうな感じするけどね? あの人、身のこなしが常人のそれじゃないし、隠しちゃいるけど剣ダコすごいし。礼節も気品もあるし名門どころのご子息説あるよ。まあ率先して発揮してくれるつもりないみたいだからアテにできねえんだけど!

 アテにできないので、打算的に動かなくてはならない。ここはダーハルーネで、デルカダールから兵士を引き連れてきたなら船で移動してきたはずだ。おそらく今はイレブンを捕まえるため、世界各国に出兵している。しかし、城の守りを手薄にはできない。連れてこれて、せいぜい百から二百が限度だろう。次から次へときりがないなどとカミュくんは言うが、資源というものは有限だ。ここがデルカダールだとしても、兵士の数には限りがある。

 

「悪魔の子は後回しだ! あの裏切り者を先に引っ捕らえろ!」

「そりゃありがてえな! 君たち、イレブンをよろしく!」

 

 渋るイレブンを突き飛ばして、飛びかかってくるかつての部下たちを叩きのめす。ぶっちゃけ俺の方が強いので、負けないからいいんだけど、こう、弱すぎても落ち込む。ホメロス隊だからってグレイグ隊より弱くていいとかいう道理はねえぞ?

 

「格上相手に個々で挑むなって何回言えばわかるんだウスノロ!!」

「は、はい!!」

「でけえ声出すんじゃねえよ! 不意打ちもできねえのかボンクラ!!」

「す、すみません!!」

「ふ、た、り、掛かりで、押し負けてんじゃねえぞおお!!」

「うげぇ!」

「も、うしわけ、ござ……」

「……弱え」

 

 うそ……、俺の部下、弱すぎ……? え、ええ〜? さすがに悲しいというか虚しいんだが? 俺の面倒みていた部下たちがこんなにも弱い……。悲しい……。ただでさえ上司もあんなんだっていうのに……いや尊敬してたけどな。もうしてねえけど。

 

「あんなにホメロス様みたくなりたくなかったら鍛錬抜かるなって言ったのに……」

「そうやって私の意識を向けようとするやり口、お前らしいな」

「げ、ホメロス様」

「しかし、剣を振ると視野が狭くなるのが欠点だ。来世で直せ」

 

 柱に縛り付けられるカミュくんを視界の端で捉えながら、俺は降参のポーズをした。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 ふと思いついたようにイレブンが言った。なんで兵士になったの。

 

「あれはそう……今から十年前のことだ……」

「あ、これ長いやつだ」

「手短に頼むぜ」

「くだらなかったらメラよ」

「ノリで決めてそうよね」

「何かきっかけのようなものがあったのですか?」

「セーニャちゃんしか優しくねえ〜」

 

 しかし、メラは嫌なのでちょっとだけ真面目に思い出す。どうだったかなあ。別に、給金いいやつって考えたら世界三大大国で出世するのが早いと思っただけなんだよなあ。デルカダールに恩義も感じてないし思い入れもないし。

 まあね? ポンコツ時代から面倒みてくれてたホメロス様にはね?? ちょーーーーーーっとだけなら感謝してたんだけどね?? 村焼かれたあの日に全部吹き飛んだわ。昔はあんな人じゃなかったんだけどなあ。なんと表現すればいいのか、前より頭悪くなった気がする。詰めが甘いというか、やり方がグレイグ様寄りというか。無駄が多い。力押しが少し目につく。

 力が足りないなら頭を磨け、たわけが。入りたての頃にボッコボコにされた時の方が、全てを兼ね備えていた気がする。村だって、もっと有効活用できたはずだ。例えば、村人は全部引っ捕らえて、今回の場合で言えば、母ちゃんやエマちゃんを餌にして、イレブンを釣るとか。焼き払った村に誰かを残しておくとか。

 殺すことにすら意味をつける人だったのが、変わってきたのはいつからだろう。もう、随分と前のことのような気がする。

 

「きっかけねえ、特にねえかな」

「あら、そんな気持ちで、兵士は続かないでしょ?」

「はっはっは、シルビアさん自身が兵士か騎士みたいなこというなあ〜」

「な、なんのことかしらぁ〜!」

「稼ぎの良い仕事が兵士だった、それだけだよ」

 

 成人の儀式の日。視界いっぱいに広がる海を見て、俺は自分が生きてる世界の広さと、狭さを思い知った。何にでもなれるんだと、ぼんやりと思った。けど、何にでもなれたけど、俺にはなりたいものがなかった。じゃあせめて、稼いで家族が楽になるようにと思って。俺が兵士を志したのは、所詮はその程度の理由しかない。

 

『私とて、この国のために死ぬ覚悟などない』

 

「それでいいって、昔は言ってくれたんだけどなあ」

「? 何かおっしゃいましたか?」

「いいえ〜? なんもおっしゃってねえよ?」

 

 考えたところで仕方がない。ので、考えるのはやめよう。考えたところで、やはり所詮俺程度じゃ、あの頑固な元上官をどうこうするなど夢のまた夢の話にすぎない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 なんとびっくり、マルティナ姫が生きていた。うーわ、格好がエロい。露出の仕方がすごいすけべ。さすがにこの空気の中発言する勇気はねえけど。しんみりとした葬式ムードの中、空の大樹へと向けて蝶が駆けていく。美しいという感性がないわけじゃないが、目立つなぁというのが素直な感想だ。

 十六年ぶりに会った孫と、娘夫婦を弔いたい気持ちはわからなくはない。けど、今必要なのかと思ってしまうあたり、俺も大概外道である。こういう情緒のなさは完全にホメロス様から受け継いでしまった。マジであの人。ほんとに、そういうとこ。

 

「おぬしがイレブンの兄か」

 

 しかし、中身の外道以外にも、外面の取り繕い方も俺は受け継いでいる。

 

「はい、ロウ様。ユグノア王国前国王様に拝謁できるとは身に余る光栄、恐悦至極に存じます」

「えっ」

 

 膝をつき、恭しく頭を下げ、丁寧に挨拶をした俺に向けられたのは多種多様な困惑だった。とてもムカつくが、顔を見ずともわかる。声の感じが、えっお前そんな態度出来たんだ……? と言っている。ぶっ飛ばすぞ。

 

「そう固くならずともよい。ほれ、面をあげよ」

「ご配慮痛み入ります」

「お、お兄ちゃん? 頭打ったの……?」

 

 身内が一番辛辣なのつら。でも俺は優しいのでほっぺたを限界まで引っ張るだけで許してやろう。うわ、十代のお肌すべすべじゃんやべえ。こんなこと考えちまう辺りまあまあ年取った感あってやだな、心はまだまだ若いのに。

 痛い痛いと抗議するイレブンを助けたのは、マルティナ姫だった。長くしなやかな筋肉に覆われた脚が俺の手とイレブンの目の前を勢いよく通り過ぎる。これ、俺が離してなかったらイレブンの顔面も危なかったんじゃねえの。ひえっと怯えた声を出したイレブンには目もくれず、姫君とは思えない鋭い眼光で俺を睨む。

 

「イレブンから離れてちょうだい」

「はっはっは、マルティナ姫。お戯れが過ぎるのでは?」

「あら、もう少し手厳しい方がお好みかしら」

「おやめください。貴女に蛮行を働いたと知られれば、拷問折檻、打ち首だけでは済みませんので」

「ふぅん。いい度胸してるわね」

 

 そっちがやる気なら俺は買うし叩きのめすぞと慇懃無礼に返事をすれば、マルティナ姫の何かに火がついたらしい。手に持っていた松明を側にいたロウ様に押し付け、勢いよく脚を側頭部めがけて振り抜いてくる。脚グセ悪いとかいう次元じゃねえんだけど。

 

「先に手……脚? を出してきたのは、そちらですからね」

 

 腹パンで沈めれば大人しくなるかなぁと、剥き出しの腹部に拳を打ち込もうとしたところで、たまらずイレブンが叫んだので、優しい優しいお兄ちゃんは全部水に流してあげましたとさ。まあうちの姫様全然水に流してない上に根に持ってるんだけどな! もっと民草に寛容になれよ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 おい待て、あの魔女、なんと言った? グレイグ様とお揃いのペンダント? 双頭の鷲の国章が刻まれた? そんなもの、この世には二つしかない。

 

「イレブン、俺は別行動を取る。いいか、仲間を頼れ。絶対に無理はするなよ」

「おいおい。魔女をなんとかしなくちゃならねえって時に、何言ってんだよ」

「カミュくん、イレブンを頼んだからな。双子ちゃんも、よろしく頼む。氷の魔法を操る魔物だ、セーニャちゃんの竪琴が役に立つ筈だ。それに、ああいうタイプは物理的な攻撃に弱いから、マルティナ姫をフォローしながら攻めればいい。足りないならベロニカちゃんの炎魔法で充分押し切れる筈だ。ロウ様もいるし、シルビアさんだって最近回復技使えるようになっただろう? 悪いけど、確認しなくちゃならないことができた」

 

 誰の言葉も全て無視して、イレブンを置いてクレイモランを発つ。あれだけ頼りになる戦力が揃っているのだから、俺一人の有無は目的達成の必須項目ではない。そんなことは、些事だ。

 魔女は言った。あの方が封印を解いたのだと。双頭の鷲のペンダントを持っていたのだと。つまりそれはホメロス様だ。ダーハルーネの街で魔物をけしかけてきたのとは比べ物にならない。あの人は、国一つ滅ぼしかねない手札を切ってきた。しかも、おそらく、それはイレブンを狙ったものではない。ここに立ち寄ったのは必然だが、このタイミングは偶然だ。氷づけの対処に当たっていたのはデルカダールの兵士たちで、さらに魔女と相対する任務に就くことになるのなら、そんな人物は一人しかいない。

 ホメロス様が、グレイグ様を狙っている。それはもう疑いようがなかった。そしてそれに、俺は疑問を抱けない。起こりうるだろうと、とうとうそんな日がやってきてしまったのだと。湧き上がるのは諦めだ。

 

『英雄だ!』

『デルカダールを守ってくださる英雄!』

『あの方がいれば、この国は安泰だ!』

 

万歳、万歳と誉れを受けるのは、俺の元上官様ではなかった。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

「フン。来るとは思ったが馬鹿正直に切り掛かってくるとはな。私も舐められたものだ」

「この展開で馬鹿正直に切り掛かる以外の選択肢あるなら教えてもらえませんか、ねえ!」

 

 渾身の力を込めて、身の丈ほどもある両手剣を振り抜く。びりびりと手が痺れたが、この感触に対してのこの手応えのなさにはさすがに少し絶望する。腕力だけで言えば確実に俺が勝っているはずなのに、いとも容易くいなされてしまった。

 どうしたもんかね、これ。

 俺の後ろには、ホメロス様に吹き飛ばされて地を這うイレブンとその仲間たちがいる。わかるのは、どうにかしなければ全員お陀仏ということだけだ。

 愛用の武器を放り捨て、誰かが吹き飛ばされた拍子に落としたであろう片手剣を拝借する。力で押し切れないのなら、守りに入るほかない。身を守るのなら、大振りにならざるをえない両手剣はもはや邪魔だ。

 今考えるべきことは、この場をどう凌ぐかであって、ホメロス様を倒す方法ではない。というか、考えたところでそれは普通に無理。人にはね、出来ることと出来ないことがあるんですよ。出来ないことはね、考えたって出来ないの。だって出来ないから。そういう時は、出来る範囲で最も有効な手段を選ぶ。それが頭を使うということだ。

 

「ほう。よもや、私に勝てるつもりでいるのか?」

「……あなた、本当にホメロス様ですか?」

「なんだと?」

「俺があなたに勝つ勝たないは、瑣末な問題でしょうが。まさか、言わなきゃわかんねえとか、眠たいこと言いませんよね?」

 

 己に課さなくてはならない命題は、任務の遂行である。その過程での勝敗は、所詮は通過点にしかならない。勝負に勝って試合に負けてはならない。勝負に負けても、試合に勝てば、それこそが勝利である。

 

「だからせいぜい、役に立て。あなたに散々言われたことなんですけど、随分とオツムが錆びついていらっしゃる。どこぞの武力一辺倒の将軍様のようじゃないっすか」

「…………」

「ホメロス様、本当に、どうしちまったんですか」

 

 この人は、こんな風ではなかった。厳格で、潔癖だった。理想が高い人だった。そこに追いつける人だった。立派な、騎士だった。

 

「あなたがやってることはなんだよ? イレブンを始末して、国が守れるのか? 何を守るんだよ? なあ、ホメロス様」

「相変わらずうるさい奴だ」

 

 ホメロス様を包んでいた黒ずんだ紫色の靄が消えた。同時に、顔から表情が引く。今なら、攻撃全て問答無用で防がれるということもないだろう。が、先程までの舐め腐ったような、小馬鹿にしたような態度もなりを潜めていて、むしろ、死ぬ予感が増した。

 

「剣の錆にしてやろう」

 

 脚色ではない宣言に答えるかのごとく、ホメロス様の両手にそれぞれ携えられた剣がすらりと輝く。怯むな、耐えればいい。頑丈さなら、俺の方が上だ。イレブンたちを、なんとか逃せばいい。それだけだ。振り下ろされた剣筋は、少しも綻んじゃいやしない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

『私とて、この国のために死ぬ覚悟などない』

『あっれ。そんなこと言っちゃっていいんです? 打ち首では?』

『やかましい。死体が国を守れるか』

『……かぁっこいい〜! じゃあ俺も生きて国を守りますわ!』

『お前が死んでも肉壁として使ってやるから心置きなく死ね』

『このクソ上官がよぉ!!』

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 随分とコテンパンにやられて死に体になった頃、グレイグ様が登場した。ねえ、遅えんだけど? 俺、全身で切れてないところないんじゃねえかってくらいボロッボロなんだけど? ここまでボロ切れにされて生きてるのが、もうほんと露骨に手加減されてるって感じがして非常に不服。嘘です、生きてるありがとうございます。ボコされたお礼じゃねえんで勘違いしないでくださいおなしゃす。マゾじゃねえよころすぞ。

 剣を杖にして、なんとか膝をつかないよう堪える。息を整えて、心臓を静める。ちょっと休ませてもらえさえすれば、ベホイムくらいは使えるのだ。よし、凌いだ。目的は果たした。グレイグ様ってイレブンたちから見れば敵側だけど、場の空気的には味方のはずだ。少なくとも、今はホメロス様の裏切りを優先するはず。

 余裕ができて、頭に酸素が回り始める。ホメロス様とて、グレイグ様相手ではまともにやり合って簡単にかなうまい。俺はその分、頭を回せる。考える。思考しろ、己のために。目的のために。今、目の前の状況を考えろ。

 グレイグ様は言った。ホメロス様が裏切り、闇に堕ちたのだと。王の御前で成敗すると、声高に宣言した通りにグレイグ様の剣戟は凄まじい。王を裏切ったと、国を裏切ったと彼は大層おかんむりだ。まあ、共に国を守ろうと誓い合った旧友らしいので、俺よりその感情の昂りは大きいのだろう。それは理解できる。

 では、家臣に裏切られた王の心情は、どのようなものなのだろう。なんの感慨も見せず、後方に佇み、悲壮な顔も沈痛な面持ちもせず、裏切り者と忠臣の激闘を眺めるのは。いったい。

 俺の抵抗も、少しくらいは意味があったのだろう。決着はあっという間にやってきて、ホメロス様は膝をつく。デルカダール王が前に歩み出る。グレイグ様は繰り返す、何故なのだ、ホメロスと。顔を上げたホメロス様は、我が主、とデルカダール王を見た。

 それはあたかも、変わってしまったホメロス様が、変わらずデルカダール王の忠臣であることをさすようだが、そんなはずはない。ホメロス様はもう、国のためなどに動いていない。

 デルカダール王が動く。背中を虫が這うような不快感を覚えた。王は聡明なお方だと、いつぞやに珍しく柔和な表情で語られたことを思い出す。聡明なお方は、もういないのだと目の前の光景から思い知る。

 ガィンと金属が激しくぶつかる音が響く。裏切り者を捕らえることなくその場で処刑しようという、あまりにも聡明とは対極の手段に出るデルカダール王が、なるほど、ホメロス様の主なのだろう。本当に、俺が尊敬した元上官は、もうどこにもいないのだ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 王の手のひら返しでがっつり指名手配犯となってしまった俺とホメロス様は、イシの村の跡地に身を寄せた。まさか焼き討ち犯を連れ立ってここに帰ってくることになるとは、なんたる皮肉。ホメロス様の不機嫌そうな顔がウケる。よくも人の故郷破壊しやがってと殴り掛からないだけ理性的に行動してるんだから許せよな。心が狭いぜ、まったく。

 勝手知ったるなんとやら。微動だにしないホメロス様は放っておいて、山に行って木を切り倒して、薪を作る。あーあーあー! 誰かさんが全部燃やしてなきゃこんなことしなくていいのによぉ〜! 火が起こせれば食べるものはいくらでもあるので、まあ、生きていく分に支障はない。雨が降ってもいちおう教会にはまだ屋根があるので、凌ぐことだってできる。もっとも、ホメロス様が入れる、または入りたがるかどうかは別問題なので、おそらく村にある洞穴で過ごすことになるだろう。

 

「まったく、わがままなんですから」

「お前が勝手にやっているんだろうが!」

「生活能力無いくせにぎゃあぎゃあうるせえんですよ!」

「野営くらいできるわたわけ!」

 

 なんでもそつなくこなすホメロス様が想像してるのは、たぶん若かりし頃の野営訓練のことなのだろうが、あんなもん、山育ちの俺に言わせればヌルいことこの上ない。テントにその他器具、さらには食品も乾物とはいえ携帯できるものが用意されててあれのどこが野営だ。自然とともに生きるということをなめすぎである。案の定、ドヤって準備に取り掛かろうとしたホメロス様は、村のどこかから鉄鍋をひったくってくる以上のことは出来なかった。

 

「魚も釣れないんじゃないですか」

「竿もないのにできるか!」

「あっても釣り餌が作れねえくせに……」

「ミミズくらいその辺にいるだろう」

「いませんよ。森や山に入ればいるかもしれませんが、ホメロス様が言う、村のそこら中にはいません。焼き討ちの時に、地中で熱で死んでますよ」

 

 ちなみに、これは半分本当で半分嘘だ。村が焼け落ちた際に、この辺りの生態は一瞬狂った。草も花も果実も虫も獣も、等しくいくらか死んだことだろう。しかし、あれから何ヶ月も経つ。自然は強靭だ。死んだ土地でも、周りの風土如何で何度でも蘇る。幸いにして、イシの村はそれらに非常に恵まれていた。田舎万歳。なので、探せばミミズくらい、本当は出てくるのだ。

 この嘘は、少しだけ試したくなったから言っただけの、嫌がらせだ。

 

「お前、なんとも思わないのか」

「あなたが故郷をこんな姿に変えたことですか? それとも、弟を追いかけ回して殺そうとしたこと?」

「家族を殺したことは?」

「いいえ、それはあり得ません。死体も痕跡もなく殺す手間をかける時間はなかったはずですし、どちらかといえばむしろ見せしめのように殺して残しておいた方がイレブンを追い詰めるには都合がいい。当初は気付きませんでしたが、おそらく、あなたが皆殺しにしようとしたところをグレイグ様が止めたのでは?」

 

 無言は肯定なので、どうやら仮定は合っていたらしい。ありがとうグレイグ様。脳筋オブ脳筋なところは正直尊敬してなかったけど、しばらく英雄と崇め奉ることにする。マジで感謝。あんたが神。俺にしてきた暴挙は全部許すわ。イレブンにした分は一つも許さねえからそこんとこよろしく。

 

「俺はね、ホメロス様」

 

 この人にしてこなかった仕打ちも、全部、許さねえけど。

 

「グレイグ様に感謝しています。家族を救ってくれたことはもちろん、あなたに無意味なことをさせなかったことにも」

 

 この無言は、どういう意味なのだろう。

 

「命は有限、有意義に使え。すでに勇者を捕らえておきながらその家族をただ殺すなど、なんの意味もなくて、あなたらしくもない。実行されていようものなら、ますます俺は失望してました」

 

 俺としては、無駄口叩いてご高説を垂れるなんて偉くなったもんだなぐらい言ってくれないと、いよいよほんとうに涙が出そうになるのだが。悲しいことに、ホメロス様は物の見事に無言で森へとミミズを取りに向かってしまったので、そろそろ諦めるしかないのかもしれない。俺の尊敬する上官は、どうやらほんとうに死んでしまったのかもしれない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 風の噂で、ウルノーガが討たれたことを知った。と、なると、そろそろこの村を出る時が来たということになる。みんなきっと、ここに帰ってくるだろうから。その時にホメロス様がいたらどうなるかなんて想像するだけでしんどい。俺はどっちの味方をすればいいのか。そんなことは考えるだけですでに面倒くせえ。

 

「なんで、次のねぐらを探さないといけないんですよ」

「お前、一体いつまで私を見張っているつもりだ」

「あなたが死なないだろうなと思ったらやめますよ」

 

 少なくとも一時は主と仰いだ奴の訃報にはかすかにも触れずに、ホメロス様はなんとも残酷なことを言う。未だに見張ってると思われてることが普通に泣けるわ。卑下の加速が超マッハ。ホメロス様じゃなかったらわざわざ見張らねえで天に送り帰すっつーの。ぶっ飛ばしてやろうかこの人。返り討ちだからやめよう。

 とても悲しい現実ではあるが、俺はどうやらホメロス様に全く信用されてないらしい。これでも、十年、まじめに仕えてきたと思っていたのだが。まあ、振り返らずとも、誠心誠意とか、心を尽くしてとか、そういう健気さのようなものはひとかけらもなかったので、無理からぬことではある。徹頭徹尾、俺は反抗的だった。

 初日にボコされて以降、事あるごとに俺はホメロス様に楯突いた。座学では兵法書を読みながらこの通り進んだら苦労はしないとがなったし、修練ではホメロス様が参加しないことをぶつくさ文句を言いまくった。敬語も使えないのかと肉体言語で指導を受けたこともあるし、ほんと、クソガキだなぁと一周回って開き直ってる。成人しても大人になるわけじゃないとしみじみする。今も大人になったかと聞かれると微妙だ。流石に、子供ではないけれど。

 

「一度、デルカダールに顔を出そうと思います」

 

 子供ではないので、最低限のけじめはつけなければならない。

 ウルノーガが倒されたことにより、俺の指名手配は解除された。しかし、ホメロス様は変わらずそのままだ。生死問わずが生け捕りのみになったことを考えれば、捜索願いが出されているようなものなのだが、しでかしてきた内容が内容なので形として指名手配を取っている、といったところだろうか。

 しかし、実態はわからない。すでにふた月ほど、誰とも連絡を取っていない。ホメロス様を引っ掛けるにはあまりにも杜撰なので罠ということはないだろうが、少なくとも、厳罰が待っているはずだ。

騎士が、国を裏切った罪は重い。

 

「どうする」

「恩赦を請います」

 

 俺は、客観的に見てそれができる立場だろう。国を裏切り悪魔の子の味方をしたことは、結果として正しかった。イレブンは悪魔の子などではなく正しく勇者であって、ウルノーガを討ち果たしデルカダールを魔の手から救った。俺の裏切りは今や正当性を持っていて、褒美を与えてくれとねだったって余程のことでなければ筋も通る。

 

「お前、それが通ると思っているのか?」

「さあ。やってみてダメなら、また逃げますよ」

「……"公算の低い賭けに出るのは"?」

「"愚か者のすること"、でしょ。ご安心を、俺はずーっと愚か者ですよ。ホメロス様と違ってバカなんで」

「私はお前をそんな風に教育した覚えはない」

「うるせえなぁ。こちとら上官見限って自分だけのうのうと生きろなんて教育も受けてねえんですけど」

「部下を殺すのは無能のすることだ。私を無能にしたいのか?」

 

 ホメロス様は、どうやら随分とご立腹らしい。声のトーンが恐ろしく落ち着いているのがいい証拠だ。この人は、滅多なことでは声を荒げたりはしないが、基本的には嫌味っぽい。ここまでどストレートに言葉を全く選ばないあたり、相当キレている。頭がいい人は俺みたいな馬鹿と違って、怒りで頭が冴えてくるのだから心底恐ろしいと思う。まあ、これで怒りの矛先がグレイグ様ならまた違ったのだろうけど。

 ホメロス様は、グレイグ様にだけは容赦なく怒鳴りつける。嫌味ではなく、悪意百パーセントで文句を垂れる。ボロッカスにこきおろす。きっと、ホメロス様にとって対等なのがグレイグ様だけなのだろう。もっとも、今でもそう思っているのかと聞かれると、俺は返答できないわけだが。

 

「あなたは有能で優秀ですよ。人には恵まれませんでしたが」

 

 旧友はあんなので、部下はこんなので。ひどい話だと、そう思う。やってらんねえよ、マジで。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 目の前には国王、横には弟、後ろには母ちゃんと他昔馴染みがぞろぞろ。言葉の表現に違いはあれど、浴びせられている言葉は一つである。目を覚ませ、以上。ぶっ飛ばしてやりてえなという本音を押し込み、一応名目上肩書きの上ではお仕えしているやんごとなきお方や、愛する家族や世話になった故郷の知人たちへ俺はなんとか話を続ける。

 操られているわけではないこと。どうにか命だけでも見逃してもらいたいこと。必要であれば俺が監視の任務を請け負うこと。それでも何か、起きてしまった際は命を賭けて償うこと。懇々と、請えればよかったのかもしれないが、どうにか腹の虫を宥めるためには淡々と語るしかなくて。そうするとますます周りは狂ったオルゴールのように目を覚ませと繰り返す。

 

「ホメロスはどこだ。引きずり出して、俺が話をつけてやる」

 

 ただ一人、この英雄様を除いて。

 

「奴のしたことは到底許されていいことではない。恩赦など以ての外だ。お前の命も危険に晒されるぞ」

 

 高潔だとでも言えばいいのだろうか。この、愚かなほど真っ直ぐで憎たらしいほどに忠実な男は、きっと、過ちを許せないのだろうと、そう思う。完璧主義で潔癖な上官どのと違って、ミスくらいは寛大に許せるのだろうが、今回ばかりは勝手が違うというとこか。それくらいなら、直属の部下ではない俺でも理解できる。この人は、英雄と呼ばれるこの騎士様は、そういう人間なのだ。

 この人だからこそ、ホメロス様のしたことを、許されない過ちだと、そう言えるのだろう。そんなことはわかっている。それでも、俺からすれば、お前は何様なんだと怒鳴りつけてやりたいところなのだが、それはホメロス様の役目なので、耐える他ない。俺がこの人を恨み憎むのは、俺個人の勝手な感情なのだ。

 

「俺の望みは変わりません。国王よ。どうかその寛大な御心で、御身に尽くした騎士に最後の機会を与えてくださいませ」

「お兄ちゃん……」

「俺は、操られているわけでも、目くらましにあっているわけでも、唆されているわけでもありません。俺自身の願いとして、我が行いに報いて頂けるのなら、その褒美として恩赦を請います」

「話になりませぬ。王よ、私にお許しを。この者を成敗し、ホメロスも見つけ次第討ち果たします」

「落ち着け、グレイグよ」

「しかし!」

 

 ああ、イライラする。どうしようもないのかと、これ以上なんの策もない自分が疎ましい。このままでは永遠に平行線だ。事態はなにも好転しなければ悪化もしない。ホメロス様は、許されもしなければ罰されることもない。そのなあなあを、いつまでも許してくれる方ではないというのに。あの人は、呆れるほどに潔癖なのだ。

 周りの人の声を、どこか遠くのことのように感じる。特に、イレブンと母ちゃんの心配そうな声。さらに言うなら、母ちゃんに至っては殺されそうになって、その主犯の男を息子が庇いだてしているというのだから、たまったもんじゃねえだろう。親不孝者だと、呆れてしまう。何が一番駄目かって、俺はきっとそれを後悔する日も反省する日も来ねえだろうということだ。俺は、十六年育ててくれた親よりも、十年背中を追いかけた人を優先している。

 ひどい話だと、そう思う。近頃は、この世は世知辛いなんてものじゃ済まねえなと、途方に暮れてばかりだ。

 

「ホロメスの処分を、そなたへの恩赦だけで雪ぐことはできぬ」

「俺に出来ることならば、命を捨てる以外のことでなんでもいたします。何を成せばよろしいでしょう?」

「お前は命を捨てる覚悟もなく、そのような無謀を申し出たのか」

 

 ああ、イライラする。

 

「死んだら何もできませんので」

「騎士たる者、国のためには命も捨てる。そういう覚悟もなく今日まで過ごしてきたのか」

「……それは、あんたの覚悟だろ」

「なに?」

「死ぬほど体を張るしかできねえのがあんただって話だよ。その無鉄砲を、いったい何度ホメロス様が救ってやったと思ってやがる」

 

 英雄と担ぎ上げられたその足元を、自分だけで固めたと思っているのだとしたら、俺はもう、こいつを殺すことでしか怒りを収められない。

 

「前線で働くのはあんただろうよ。ああ、そうだ。その後ろで、あんたの背中を守ってるのは? あんたの前にいる敵を牽制してるのは? 見えないところで数を減らしてるのは? 誰だと思ってやがる!? ホメロス様だ! あんたが英雄になれたのは、陰の献身があるからだろうが!! それを、あんたは、ちっとも……」

 

 覚えている。鼓膜を破くほどの歓声に背中を押され、王の御前へ足を運んだこいつの姿を。友の呼びかけに答えずに、民草の誉れに手を振ったこいつを。俺は生涯忘れない。空に取り残された手を握り、恨み言一つこぼさずに、背を向けたあの人を。俺は、忘れない。

 グレイグ様は心当たりがないのだろう。困惑気味に眉を寄せて、俺を見ている。思い返せばあの日の声が、そもそも届いていなかったのかもしれない。けど、そんなことは関係ないのだ。俺の言葉を汲み取ろうとするように、お前が、ほんの少しでもあの人を、大切にしてくれたのなら。対等だからこそのぞんざいさを、僅かにでも疑ってくれたのなら。俺は。

 

「その辺にしておけ」

 

 不意に現れたホメロス様は、平素と変わらぬ声で俺を諌めた。自身の名を呼び剣を構える旧友には目もくれず、俺の横を通り過ぎて、主君である国王に跪き礼をする。言葉はない。戸惑いに飲まれたこの場所で、たった一人勇む英雄は血気盛んに垂れたこうべを睨んでいる。今にも剣を振り下ろしそうなその様に、俺もたまらず剣を抜いた。

 

「誰に剣向けてんだてめえは!!」

「矛を収めろ」

「しかしホメロス様」

「同じことを二度言わせるな」

「……はい」

「余計なことをしたな」

 

 部下の躾がなっておらず、申し訳ない。声のトーンを変えぬまま俺の無作法を詫びたホメロス様の声は、一周回ってグレイグ様に刺さったようで、彼は無言で剣を鞘に戻した。こんなんが一人で英雄になれるわけねえだろノータリン。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 初めて持った部下は、救いようがないほどにバカだった。田舎育ちで、非常識だった。礼儀作法の一つも知らない、無知の罪を体現したような奴だった。

 しかし、自分の罪に自覚があるところだけは唯一まとも部分だと、そう思った。

 

 ある程度の役職に就いた頃、部下を持つことになった。ただし、条件として新兵の中から選ぶこと。嫌がらせだということは、すぐに理解した。頭の悪い奴は、そうやって自分がのし上がるのではなく他者を蹴落とすことにいつだって熱心だ。能力がないからだろうと思えば、いっそ憐れですらある。

 送られてきた新兵は、見事に全部役に立たなかった。デルカダール出身ですらない者もいた。そんな奴を軍部に入れるんじゃないと思いつつ、さっさと辞めてくれればいいと滅多打ちにする。一人、特に威勢だけは一人前の奴がいて、念入りに叩きのめした。使えない部下ならいない方がマシ、というのが当時の判断である。我ながら考えが若い。今なら使える場所を考えるというのに。

 翌日、誰一人居なくなっているだろうと思われた部下は、確かに数は減っていたものの、数名が残っていた。いっとう強く潰した奴がいた時は、正気を疑ったものだ。礼儀作法どころか敬語もろくに使えずに、剣も習ったことがなく、兵法書など見たことすらない。よく兵士を志したなと呆れたが、その返事が出稼ぎだというのでさらに呆れた。

命は金にならないし、金で命は買えない。

 割りのいい出稼ぎを紹介してやろうかと嗤ってやれば、そいつはここで稼ぐから今に見てろと吠えたので、上官への不敬で修練を倍にしてやった。見事にこなした時は、少しだけ感心したものだ。

 

 その救いようのないバカは、紛れもなくバカであったが、ただのバカではなかった。どうしようもなく愚直で、良く言うのなら一本気だった。特別要領がいいとは言えなかったが、出来ないなら出来るまでやるというその精神論は別のバカを彷彿とさせた。もう一人のバカと違ったのは、考え方を教えてやればそれを吸収する程度の脳はあったことだろう。

 一本気なバカは、初日にズタボロに負けたことを見返すためだけに、あらゆることを平均値以上に身につけていった。都合よく書いてあると馬鹿にした兵法書を頭に叩き込み、家柄が立派なだけだろと裏で唾を吐きながらも笑顔で礼ができるようになった。まだまだ足りないところばかりだが、見違えるように成長した。もちろん、本人には言ってやらないが。

 

「なんなんですか! グレイグ様のあの態度!! 叙勲が自分だけの手柄だと思ってんじゃねえだろうなあの人!!」

「お前が喚くな、やかましい」

「あなたが何にも言わねえからでしょうが!!」

 

 見返してやりたい上官の無様など、笑ってやればいいものを。

 

「実家に帰らせていただきます!! もうねえけどな!!」

「お前、そういえばどこの出身だ?」

「あなたが焼き討ちした村ですよ!! じゃあな!!!!」

 

 故郷を葬った男など、殺してしまえばいいものを。

 

「どうか、お許しくださいませ」

 

 闇に落ちた愚かな私など、見捨ててしまえばいいものを。

 

「王よ。我が罪、我が全てを以って償います。命を差し出せと仰るのならば、この首を捧げましょう。そしてどうか、その償いを以って我が部下の不徳をお見逃しくださいますよう、上訴いたします」

 

 本当にバカだな、お前は。そんなお前を疑った私は、きっと、もっとバカなのだろう。どうかしてしまったのだと思う。おそらく、ずっとずっと前から。それこそ、お前が言ったように。

 

「ほめろすさま」

 

 そんなお前を差し出して、生き永らえようものならば、私はいよいよ救いようがなくなる。だから、引っ込んでいろ。全ては私の罪であり、お前に非はないのだから。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 ワシにやり直す機会が与えられているように、お主にもその機会が与えられるべきである。王はそう言って、ホメロス様にその生涯を償いに使うように命じた。ホメロス様は一層恭しくこうべを地に寄せ、その御心に従うと誓った。その命令に、グレイグ様も母ちゃんも、何も言わなかった。王が黙殺したというのが正しいような気もするが、この世は雄弁こそが金である。もちろん、時と場合を選んでこその言葉ではあるが、今は黙すことは同意になる。俺は、その優しさに寄りかかることにした。それともあるいは、忍耐、と呼ぶべきものかもしれないが、ともかく。無言は肯定である。ホメロス様は、許されたのだ。

 しかし、俺は許されなかった。王にではない。弟を除く故郷の面々にだ。イシの村風に言うなら、ちょっとあっちの木陰に来いといった感じに連れ出されて、詰問された。そりゃあ当然だ。故郷を焼いた男を全身全霊で庇ったのだから、詰りたくもなるだろう。なので、リンチされても俺は文句など言わないし、罵詈雑言を浴びせられて当然とも思った。甘んじて、ではなく、そうなるべきものとして受けるつもりだった。

 

「なんであんな奴をかばうんだよ」

「俺たちのこと、村のこと、なんとも思ってねえのかよ」

 

 だと言うのに、誰も彼も、吐く台詞が全部同じで。ついには母ちゃんまで、あの将軍の方が大事なのかと、泣きそうな顔で言うもんだから。

 

「いったい、どうしちまったんだ」

 

 家族より、故郷より。尊敬する人を優先する俺の気持ちは許されないのかと、柄にもなく泣きたくなってしまった。理由が間抜けすぎて、絶対泣きたくなんかねえけど。それでも、俺の中の天秤など、目に見えるものでもないし、叱責は受けて当然だと思ってはいるので、俺は押し黙るしかない。本当に、沈黙などには少しの価値もない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 お母さんがお兄ちゃんを責めて、お兄ちゃんはそれに一言も返さない。他の誰かが何を言っても、眉ひとつ動かさず、お尻のあたりで右手首を左手で掴んだまま、直立不動の姿勢を崩さない。聞いてはいるのだと思う。顔は常に、右に左に、話す誰かの方へ向けられている。それでも、やっぱりお兄ちゃんはただの一言も喋らなかった。

 お母さんは言う。家族や村のことはどうでもいいのかと。そんな訳はない。だってお兄ちゃんは、村が焼かれてすぐに僕の後を追ってきたのだ。上官の顔に辞表を叩きつけてやったと──今思うと、その上官はたぶんホメロスさんなんだろう──笑っていたし、ダーハルーネの町ではなんの躊躇もなく兵士を倒していた。はっきりと、恨み言をその口から聞いたことはないけれど、たしかに、怒ってはいたはずだ。だからお兄ちゃんは、僕たちと旅を共にした。何度もデルカダールの兵と剣を交えた。僕の味方をしてくれた。お兄ちゃんが僕の敵に回ったことなんて、一度だってない。ただ、ホメロスさんが命の危機に、そっちを優先したことがあるというだけで。

 もちろん、お母さんがそれがショックなのだということは理解できる。僕だって、今こうしてみんなと会えたから平静になれるだけであって、そうじゃなかったら。そんなこと、もう二度と考えたくないほどだ。あの焼け落ちた村のことは、できることなら生涯忘れてしまいたい。けど、そんなことは無理なのだ。だって、これからみんなで復興しないといけないし、帰ったらまずあの惨状を見ないとどうしようもない。もうそれは、仕方がないことなのだ。

 僕がみんなを止めようと、口を開くとお兄ちゃんと目があった。睨まれた、と言ってもいい。何も言うなと、言葉に出されずとも理解した。あんな風にお兄ちゃんに凄まれたことは一度もないので、喉の奥から変な音が出た。すごい怖い。

 

「止めるなってか」

「カミュ……でも」

「俺はあいつの気持ち、少しだけわかるような気がするぜ」

「お兄ちゃんの?」

「……お前みたいにさ、全部大切だって言えるのは、すごいことなんだよ。まあ、イレブンにはわかんねえだろうけど」

 

 その言葉にずいぶんと含みを感じて、どういう意味だと問い詰めれば、カミュは肩をすくめて笑った。いや、全然納得できないから。誤魔化すなとせっつくと、答えたのはカミュではなくベロニカで。自分も同じだとなんともないように言ってのける。セーニャか僕か。二択を迫られたらベロニカは僕を選ぶようで、僕は絶句してしまった。それでいいのかとセーニャに振り返れば、セーニャはいつも通りに微笑んで、自分も同じようにすると、それが双賢の姉妹の役割だと胸を張って答えた。

 話題に乗っかるように、シルビアさんは言う。人によって価値観というのは違うのだと。誰が間違ってるとかではなくて、全部正しくて、でも同調を相手に求めることだけは間違っている。その通りなら、イシの村のみんなは間違っているのだろう。でもそれも、僕にはどこか違うような気がした。だからなのだろうか。お兄ちゃんがひたすら口を閉ざして聞きに徹しているのは。

 村のみんなは、間違ってなくて、でも、お兄ちゃんも間違ってなくて。誰も悪くなくて、きっと、この話はゴールしない。

 

「彼にとって、一番大切な人がホメロスなんでしょうね。でも、家族や友人が大切じゃないわけではないから、彼は、何も言うことができない」

「そんな、」

「選べんのじゃろう。もしくは、故郷を裏切ったと思っておるのかもしれん」

 

 そんなことはないと叫ぶ前に、くだらんなと誰かが吐き捨てた。声がする方に振り返れば、そこにはホメロスさんがいた。

 

「くだらないってなにがだよ、軍師さま?」

「黙していることに意味がない、ということだ」

 

 茶化すようなカミュに軽く答えて、ホメロスさんはお兄ちゃんを取り囲む集団へと足を進める。近づいてくるホメロスさんにいち早く気付いたのは、背中を向けていないお兄ちゃんだった。

 

「げ、何してんださっさとどっか行け……ってとこか?」

「わかりやすい顔してるわね。取り囲まれても能面みたいに無反応だったのに」

「失礼、彼を借りても?」

「あら〜……ホメロスちゃん、たくましいメンタルしてるわね」

「まあ、当然の反応じゃな……」

 

 お兄ちゃんとは別の意味で、何してんだとみんながホメロスさんを睨む。しかし、ホメロスさんはちっとも怯まない。白い封筒をひらひらと振って、お兄ちゃんに淡々と質問を始める。

 

「これはお前が私に叩きつけていった辞表だ。覚えは?」

「……あります」

「国外遠征の帰り、焼き討ちを知った晩に無許可で現地に赴き、その足でとんぼ返りをして書き上げたにしては文字も文章もまともだ。評価してやる」

「ありがとうございます??」

「本人の意思を尊重し、適切に処理してやりたいところではあるが、今後私は今まで以上に雑務が増える。人手が必要なのだが、これは返した方がいいか?」

「どちらでも構いませんよ。勝手についてくんで」

「そうか。ではクビにしたい時まで取っておこう」

「ホメロス様このやろー」

「同郷の話が終わったら執務室まで来い。急ぐ必要はない」

 

 言うだけ言って、ホメロスさんはすぐどこかに行ってしまった。たぶん、執務室に向かったんだろう。なんなんだと舌打ちする人もいたけれど、誰かがお兄ちゃんに聞く。

 

「お前、デルカダール軍にずっといたんじゃないのか?」

「いたよ、十年ずっとな」

「辞めたのか?」

「……村が焼かれた次の日にな。イレブンが指名手配されてたし、さすがにそのまま軍にいる気にはなれねえよ」

 

 たった今辞表保留になったけどな。少し笑って、お兄ちゃんはようやく喋り出した。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 何しに来た、じゃないんだよなぁ。俺が、間抜けなことに、何をさせてんだって話だ。俺がしないといけないことは、意地とか懺悔とかで、だんまりすることじゃない。俺の意思でおこなってきたことを、俺の意志で貫いてきた。それを、正しく伝えることだ。恨まれようとも蔑まれようとも、間違っていようとも。

 同郷のためではなく、ホメロス様のためでもなく。俺のために。

 

「なんでホメロス様を庇うのかって、言ったな」

 

 俺は、優しいじいちゃんと優しい母ちゃんに育てられた。そうそう叱られたこともなくて、それでも、その割にはまともに育ったと思う。十も下の弟が急にできたことも原因かもしれない。突然、前触れもなく兄貴になってしまった俺は、年長者の振る舞いとしてそのまま育て親たる二人の姿を流用した。たくさん褒めたし、ある程度のわがままはきいてやって、人様に迷惑かけた時だけしこたま怒った。

 甘やかされて育ったと思う。イレブンがいなければ、自立心すら育たなかっただろう。なにせ、まともに説教されたことなど一度もない。俺には、厳しく接してくれる大人がいなかった。俺には、兄貴も、父親もいなかった。俺にとっての成人の儀式は、初めてまともに無能を叱咤されたあの時だ。俺はそこでようやく大人になった。一人の背中をただひたすら追い続けて、俺は大人になってきた。

 子供の俺なら、そうだな。きっと許しはしないだろう。憎んで、死んでしまえと全てを否定したはずだ。でもそうはならない。俺は生涯、あの人があの人である限り、その行動の真意を読み解こうとはしても、否定だけはしない。

 

「そりゃ、庇うだろ。俺にとってホメロス様は上官で、恩人で、この世で一番尊敬する人間だ」

 

故郷を焼かれても、親を殺されても、弟を殺されかけてもそれでも、俺は。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 ウルノーガが倒されて、それで世界がめでたしめでたしとなったわけではない。なにやら今度は、かつての勇者ローシュが倒したはずの邪神が復活したようで、各地では魔物が目を血走らせて活発になっている。お陰で軍部もてんてこ舞いだ。もっとも、その理由は邪神だけではない。グレイグ様が、邪神討伐に向かった勇者一行に加わることになったからだ。

 どうやら本人が強く望んだらしく、王もそれを許したらしい。客観的に見て、邪神討伐への戦力が増えるのは喜ばしいことなので特に異論もなければことさら述べるべきこともない。半分くらいはイレブンへの罪滅ぼしなんだろうけど、なんにせよ、弟の命を守ってくれるというなら兄としては万々歳だ。イレブンより必ず先に死ね。以上。

 しかし国に残る俺は、冷静に今後のことを考えなくてはならない。王はご乱心明け、英雄は不在、支柱に成り得る将軍は裏切り者。そりゃまあ荒れるよなぁ〜って感じである。そんなに悲観はしてない。別にそれでやること変わんねえし。

 各地に兵を配備するために必要な物資の準備をして、編成考えて、武力以外に修繕とかで人手がいるならその分回して、城下の警備と配分を調整して。そういうことを考えたり指示出したり、必要だったら俺も遠出したり。まあまあ忙しいが、なんとかなるレベルだ。頭はホメロス様がいるので俺はキリキリ働くだけだと、それはもう楽観視していた。だって俺じゃ邪神倒せないし。そこはもう勇者である弟にしっかりバッチリ頑張ってもらうしかない。

 そんな感じで、盛大に人ごととして切り捨てていた邪神討伐の御一行様が、なんと、俺についてこないかとお声がけをしてくれるのだから、なんとも目から鱗の話である。いやだよ。忙しいんだよ俺。あとグレイグ様いるのもいやだ。もう隠さないけど、俺、あんたのこと嫌いだからな。

 

「だいたい、戦力として充分だろ。兄ちゃん一人減ってもグレイグ様で補って余りある。いらねえよ俺は」

「でも、」

「あのなイレブン。俺がお前についていったのは、お前が謂れのない罪で追い回されて、挙句殺されてしまうのはおかしいだろうって、そう思ったからだ。お前の命を最後の最後まで守ってやろうって意味じゃない。そういう意味では俺はもうやることはやったんだよ。あとはお前の役目であって、俺の仕事じゃない」

「貴様……、それでも兄か?」

「話はそれだけか? 悪いけど、仕事に戻らなきゃならねえんだ」

「おい!」

「グレイグさんちょっと黙って!!」

 

 うわ、びっくりした。俺よりグレイグ様のほうが驚いてるけど。というか全員びっくりしてるな。そんなに驚くなよ、イレブンだって人間だし、成人したとはいえ思春期だし、その上身の上もとんでもないんだから、そりゃ怒鳴ることくらいあるよ。

 可愛い弟を、ストレスたまってんのかなぁそりゃたまらない方がおかしいかと、不憫な目で見ていると、人の兄に向かってなんなのかと大層ご立腹である。お兄ちゃん想いでお兄ちゃんは嬉しいぞ。いい子に育ったもんだ。もっと言ってやれ。

 

「お兄ちゃんも!!」

「はいはい、なんだ」

「グレイグさんへの態度はどうかと思う! グレイグさんのが偉いんでしょ!」

「知ったこっちゃねえな。公の場では基本的に弁えてるし、私事で用はないし敬いたくない。嫌いなんだよ、その人」

「な、」

「そういうわけなのでグレイグ様。弟のこと、しっかり命をかけて絶対に必ず須らくお守りいただきますようお願い申し上げます」

 

 別にお前の命はどっちでもいいぞという念を込めて、そりゃもう綺麗に笑ってやれば、グレイグ様は息を飲んで押し黙った。

 用がなくなった俺はさっさと持ち場に戻って必要物資のリストとにらめっこを始めたので、俺が去った後にグレイグ様が「笑い方にホメロスの気配を感じた……」などとのたまってぶるっていたことなど当然知らない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 数ヶ月後、勇者の星が消えた。イレブンは無事に帰ってきて、仲間も全員五体満足で、ついでに残念なことだがグレイグ様もピンピンしていた。舌打ちはしてない。

 弟の左手の痣は綺麗さっぱりなくなっていた。聞いたところによると、必要な人に譲ったらしい。譲渡できることには驚いたが、本人は納得の上のことらしいので特に俺から言うべきことはない。お前が無事なら、そんなことは些細なことだ。

 邪神が討たれたことによって、魔物は沈静化。近隣の厳戒態勢が解かれ、多くの兵が国に帰ってきた。こちらは全て五体満足とはいかなかったが、それは兵士として生きる者の定めみたいなものなので、同情も憐れみもしない。俺にできるのは、正しい評価と手続きにより、彼らやその家族が今後も生きていけるように金なり家屋なりを用意してやることのみである。

 ともあれ、世界は全体的に見てようやく平和になりました。めでたしめでたし。

 

「終わりましたねぇ」

「何も終わっとらん。後始末が一番面倒で時間がかかると何度言えばお前は覚えるんだ、大団円みたいな空気を出してサボるな手を動かせ」

「あなたほんとそういうとこですよ。俺はサボってませんちょっと書類仕事が遅いだけです」

「どこがちょっとだ、謙遜するな。だいぶ遅い」

「失礼します。本日帰還した全七部隊の傷病問診結果と装備の欠損状態の確認リスト、明日からの警備持ち回りの予定表と不足人員の申請書をお持ちしました」

「おかわり呼んでませーん」

「そいつの前に置け」

「よろしくお願いいたします」

「山が二個減って三個増えた……??」

 

 謎のイリュージョンが俺の机の上で延々と繰り広げられて一向に終わらない。世界のどこが平和になったって? 俺いまが一番修羅場だけど?? 俺の修羅場を生贄に安寧を貪ってる奴がいるのマジ?? あ、俺の弟ですか、許します。ただしグレイグ様、てめえはダメだ。この国の将軍様だろうが仕事しろ。

 いやまあ無理なのわかってるけど。流石に無理なのわかってるけど。国どころか世界を救った勇者御一行の一員なのだから、普通にあっちこっちから引っ張りだこで到底無理。俺もそこまで空気読まないことは言わない。ただ、覚えとけよとは思う。

 光を浴びる誰かがいる時、影でその身を削る人は確実に存在するのだ。背を向けたままでは、光は永遠に当たらない。振り返らないと、そのまま闇に呑まれてしまう。そういうことを、どこか頭の片隅にでも覚えておけと祈っている。

 

「くそ〜、あの髭面将軍早く帰ってこいよな……書類顔面に叩きつけてやる……」

「時間の無駄だ、やめろ。最悪仕事が増えるぞ」

「はっはっは。笑えばいいですか?」

「そんなに余裕があるなら次の山もお前がやれ」

「ねえですよ!! くそが!!」

 

 山の一番上に積まれていた書類を机に叩きつける。警備持ち回りの予定表だ。詳細の前に、大まかな変更点がまとめられている。多くの場所が、警備の必要性が低くなったとみなされて最低限の人数に切り替えられている。俺の故郷は、あの土地の精霊様の加護なのか、ほとんど魔物の姿さえ見えなくなったので完全に撤退することになったようだ。家屋や橋、水車などはひと月ほど前に修繕が完了している。

 それは、イシの村の復興が完全に果たされたことを知らせる書類でもあった。そんな場合ではないのだが、実に感慨深い。ホメロス様は、結局、村の人たちに謝罪をしなかった。俺もして欲しいとは思わなかったし、するように進言もしなかった。ただ、後ろ指をさされようとも、罵声を浴びせられようとも、それが償いにならずとも、やるべきことをやった。

 俺が、追いかけるべき人がそこにいた。それが俺にとっての誇りであり、喜びだった。

 

「半笑いしてないで手を動かせ!」

「んな気持ち悪いツラしてねえよ! やりますよ!!」

 

 この人のようになりたいかと聞かれると、俺は首を傾げるだろう。この冷血無慈悲な軍師様のようになりたいか? むしろ絶対なりたくない。俺はホメロス様のようにはなりたくないし、なれない。俺がその場所に立つには武も智も足りず、特出したものもない。努力で埋められないものは確実にあって、俺はそこまで自惚れることができないし、この国のためには生きてやれない。俺は真の意味でデルカダールの兵士にはなれないから。俺はホメロス様には永劫追いつけない。

 ホメロス様にとって、光は王とグレイグ様なのだろう。今ではもう、その影に完全に埋もれたって構わないほどに、開き直っている。そのくせ振り返ってもらえるのだから羨ましいご身分だ。俺は業突く張りなので、埋もれたっていいとはちっとも思えないし、なんならギャフンと言わせたいし、可愛らしい言い方をするなら認めてもらいたい。

 

「私の部下だろうが、シャキッとしろ」

「だらけてねえだろうが!」

 

 俺はこの人のために死ねないけど、俺のためには死ねるけど、この人のために生きたいから、いつか必ずさすが私の部下と言わせてやろうとそう思う。十年前から、それだけが俺の夢だ。

 

 




Switchでの11S発売前に書いたものです。ホメロスをなんとかして救ってほしかったのですが、救える唯一のグレイグは絶対に救えるような器用な男ではなかったのでちくしょう〜!って気持ちで書いたのをよく覚えています。
全部で3部になってるので続きはそのうち上げます。
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