陰の矜持   作:赤穂あに

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※勇者の名前をイレブンとしています
※主人公(オリ主)の名前は出てきません


平和になってから

 パレードが大通りを歩いていく。それを見守る人々は、上層、下層関係なく晴れやかな顔をしていて、この国もようやくまともになってきたなと人ごとのように感心する。掃き溜めのようだったスラム街は、少しずつ日の明かりのもとに顔を出すようになってきており、ここまで漕ぎ着けた幾人の努力を思うと感慨深いような錯覚を受ける。俺はその幾人に入らないので、やはり、これは勘違いなのだけど。

 今日は、この国の後継たる姫君の帰還を祝うお祭りだ。生存の知らせはとっくの昔に周知の事実ではあったのだが、かの姫君は魔王だ邪神だとそれはもう多忙で、『この国の姫君として』腰を落ち着けることができずにいた。なんなら、姫君としての教育なんてそこまで受けてないはずなので、諸々含めて仕方がないんじゃないのかなんて。鼻先を掠めた健脚を思い出していた俺の見る目のないこと。長年を連れだった養父のような御仁のお陰か、姫君はその堂々たる風貌を今、国民の目に焼き付けている。

 このパレードが終われば、姫君は城内で開かれるパーティーへと場所を移す。城下ではそのままパレードから祭りへと切り替えられて、おそらく夜通し飲めや歌えやの大騒ぎだろう。乱痴気騒ぎがなければなんでもいいが、とにかく警備の仕事を増やすのだけはやめてくれと祈る。俺は担当ではないが、責任者ではあるのだ。城に入らない口実に仕事を使ったとも言う。

 もうすぐ、パレードが終わる。来賓のお歴々が集まり披露される立食会の前の、身内のみの慎ましくもあたたかなパーティーが始められることだろう。勇者御一行やデルカダール王がお互いを労い、讃え、喜びを分かち合う時間だ。絶対に居合わせたくないと思ったので、そちらの警護は敬愛する上官に押し付けた。揉めに揉めたが平等なるじゃんけんの結果なので、どうか大人しく絡まれて欲しいと思う。

 

「俺の弟はお節介なんだよなぁ」

 

 悪気も毒気もないのでさぞやり辛いだろうなぁと、他人の不幸は蜜の味。あとで揶揄ってやることを心に固く誓い、若い女性にしつこく絡む酔っ払いのおっさんの意識をヘッドロックでもいだ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 城下での凱旋パレードを終え、主賓たちの席は城内の一画へと移った。各国の王族、貴族、重鎮たちが夜間のパーティーに参じる前にと、王が提案したささやかな祝賀会が行われている。ここには、苦楽を共にし災厄を退けた英雄たちだけが集まっている。

 この世界の救世主たち。その中心で慣れない麦酒をチビチビと喉に流すのは、少年とも呼べそうな年若い青年だ。平素であれば、真昼間から酒をあおることを許容したりはしないが、今はめでたい席である。多少の羽目外しも許されてしかるべきだろう、などと考えていた小一時間前の自分をどうすれば抹殺できるだろうか。

 

「ほめろすさーん! おさけっておいしいですね!!」

「…………よかったな」

 

 成人したばかりで大国から追われ、逃げながら魔王討伐の旅をしていた勇者が、酒に触れる機会が少なかっただろうことへの配慮がなかった。受け入れられる酒量を全く把握していないだろう彼は、頬を上気させそれはもう上機嫌に話しかけてくる。血の繋がりはないはずだが、その姿は彼の兄によく似ていた。

 自身の対応で場を盛り下げるわけにもいかないゆえ、無難に肯定だけしておく。愛想よく返事をしたわけでもなかったが、酔った勇者は機嫌がいいらしい。緩んだ口元から緩い声をこぼしながら、何をするでもないのに楽しそうだ。誰かなんとかしてくれないかと横目で周りを伺うが、揃いも揃って遠巻きに眺めてどうにかしてくれそうな気配はない。穏便に追い払おうと、言葉を選んで声をかける。

 

「食事も用意してあるから、テーブルに戻ったらどうだ? 君の仲間も呼んでいるぞ」

「ぼくはほめろすさんとしゃべりたいです!」

「……私に何か用が?」

「しゃべりたいです!」

「すまないが、私は君を含めたこの場の警護責任者だ。雑談に興じることはできない」

「ぼくもみんなもつよいのでだいじょうぶですよ!」

 

 たしかに、この場にいるのは世界で最も武勇に優れた集団なので、彼の言葉は正しい。しかし、肝心の頭がこれ。自分の部下であるなら剣を振り抜いて試してやるところだが、勇者にそれをするわけにもいかない。ため息を吐くのも憚られ、諦めるように口火を切った。

 

「喋りたいと言ったな、何をだ?」

「ぐれいぐさんとなかなおりはしましたか?」

「げほっ」

「仲違いをしたわけではないので、してないな」

「おっさん大丈夫か?」

 

 離れたところでバカが一人噎せたが無視する。

 

「けんかしてないんですか?」

「してない。結局は、私の劣等感と思い込みのようなものだったからな。私は謝罪などしたくないし、グレイグが詫びることではない」

「でも、ぐれいぐさんはほめろすさんとなかなおりしたいっていってましたよ?」

 

 酔ったフリ、というわけではないのなら、随分とお優しいことだと思う。理性の蓋が緩んだ状態で、彼が聞きたいことが私とグレイグの行き違いが改善されたかどうかとは。心が善性で満ちているとは彼のような人間のことを指すのだろう。私にはてんで無縁の状態だ。そして、どちらかと言えばそういう人種は嫌いだ。

 損得勘定ができない愚か者は、疎ましい。感情を優先させるから、効率を優先した計画に支障をきたすこともある。本人は良かれと思っての行動ゆえに、その方向性を曲げない。非常に厄介極まりなくて、保身や利益しか脳にないものの方が行動原理がシンプルで扱い易い上に好ましい。人とは元来、そうあるべきだとすら思う。利己的に生きてこその人間だ。まあ、自分はすでに半分人ではないのだが。

 しかし、その直向きさに救われることもあるのだと、私は知っている。

 

「では、グレイグに伝えておいてくれないか?」

「いいですよ! なにをですか?」

 

 そこにいるバカに聞こえるように、とてもらしくないことをしている自覚はある。不快を通り越して羞恥すら覚えるが、めでたい席ということで、気にしないことにしよう。

 

「仲直りしたいなどと、君に言っても意味はない。相変わらずお前は愚図でバカだな、と」

「それ、けんかになりませんか?」

「その程度の喧嘩なら、数え切れないほどしてきたさ。いまさらだ」

「うーん、わかりました! いっておきますね!」

「よろしく頼む」

 

 この数秒後にバカが真っ直ぐこちらに早足で向かい、目の前で停止しそわそわするという気色の悪い行動をしてきたのだが、ちょうど定期報告の時間となったので無視してさっさと城下に出た。背中に勇者がバカに言伝をする声がぶつかり、柄にもなく少しだけ笑った。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 警備の担当区は全部で五つ。最も人が多い城下、おそらく今日明日は無人だがその分警戒が緩いだろう下層、城壁の外、城内の見回り、要人の警護。非常時に備え、そもそも非常時にならないためには、適宜の情報共有は重要だ。何もなければそれでよし。責任者が席を外すこと自体が兵の息抜きになる部分もあったりする。

 まあ、ともかくそんなわけで。警備区の責任者の一人である俺には、定期報告会への参加が義務付けられている。気付けばやや日も傾き、そろそろ警備状況の共有に向かわなくてはならない時間だ。部下に一言告げて、イレブンに何か言われてそうなホメロス様を想像して口元が緩む。絶対面白いことになったはず。賭けてもいい。

 と、期待していた俺を見事に裏切ったのはたぶんイレブンだろう。どう上手くやったのかは不明だが、弟は真性のお人好しかつちょっと天然なので、冷徹の権化たるホメロス様も絆されたりするのかもしれない。ぜひその手法をご教授願いたいものだが、されたところで俺にはおそらく実行できないだろう。こっぱずかしいことを、あいつはしれっと言うのだ。

 報告会は異常なしという簡潔すぎる内容のみで、二十分で終わった。あまりにも平和で逆に怖いのだが、何も起きてない内から考えすぎてもいいことはないし、ありがたくそれを享受することにしておく。国が平和なら、目の前の御仁を突っついて退屈しのぎをすればいいのだ。

 

「中はどうです?」

「酔いどれの集いだな。弟に絡まれたぞ」

「えっ、酒飲んで……も、おかしくねえか。成人したんでした」

「つまりお前が成人してから十年だな」

「あなたも成人してから二十年でしょうが」

「三十超えるとどうでもよくなるぞ」

「知りたくねえよそんなこと」

 

 見事に藪をつついて蛇を出した俺は、三十路も超え開き直った上官に三十路間近という現実を突きつけられちょっぴり傷付くはめになった。自業自得でなんも言葉がねえわ。

 十も歳が離れた弟が成人したという事実は、とても分かりやすく時間の経過を感じさせた。俺が村を出てから十年経って、同じだけこの人の下について時が過ぎたということだ。割と一瞬だったような気がして震える。十年後はもっと早くやってきそうで悲しい。嫌だよ俺、まだ若くありたい。

 

「……お前の弟」

「はい? 粗相でもしました?」

「似てるな」

「…………あんまり言われたことないんですが、どの辺が?」

「絡み酒で笑い上戸なところだ」

「すみませんホメロス様一時間ほど担当変わってもらえます?」

「じゃんけんまで持ち出して私に押し付けたのに、健気なことだな?」

「……夜間含めて全工程交代するのでご了承頂けませんか!!」

「弟を慮る気持ちを汲んで、承諾しよう。存外いい兄ではないか」

「そりゃどぉもぉ!!!」

 

 イレブーン! 確かにお兄ちゃんはちょっとそういう面白いこと期待したけど! 若い内から恥を晒せとは思ってねえぞ! ていうかカミュくん辺り止めてくれない?! 優しさってそういうことじゃねえからね?!

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 酒は怖い。理性が飛ぶからだ。俺は取り返しのつかないほどの失態を犯したことはないが、耐性や飲み方によってはいくらでも地獄を見ることができるのが酒だと思っている。一回だけ記憶飛んだ時には生きた心地がしなかった。なぜ俺はよりにもよってホメロス様のいる席であそこまではめを外してしまったのか。いや、今はそれはいい。とにかく、酒は怖いのだ。

 

「あははははっこのおさけあまいねー!」

「イレブンさま、こちらも美味しいですよ」

「うう…………」

「おええ」

「…………あ、メダパニか」

「逃避すんなよ、なんとかしてくれお兄ちゃん」

「カミュくん、現実突きつけるのが早すぎるよ」

 

 どうやらケラケラと上機嫌に笑いながら酒を煽り、人に押し付け、飲ませ、自分もさらに飲み、とかいうとんでもない飲み方をしている人物は紛れもなく俺の弟らしい。しかもその背中を押してるのが聖女様とかいう恐ろしい現実。ここが地獄かな? ていうかお前らなに酒飲んでんだよ。警護中だろうが。

 隊長助けてくださいと縋ってきた顔を見る限り、本当に飲みたくて飲んだわけではないのだろう。そうか、俺の弟のアルコールハラスメントに負けたんだな、ごめんな。でも飲んだ事実は事実なのであとで説教である。この場に来たのがホメロス様じゃないことを神に感謝でもしてろ。

 

「飲んでない奴、こっちこい」

 

 半分くらいしかいないの泣ける。

 

「警護として役に立たねえ奴は兵舎に叩き込んでこい。不足した分は他から回してもらうから、俺はまた席を外す。現状、責任者がホメロス様じゃないことを感謝しろよ。殺しゃしねえ」

「うう……了解です」

「おにーちゃんだー!」

 

 急に悪魔の子に見えてきた弟がジョッキを両手に迫ってくる。お酒美味しいよ〜と呑気なセリフに、悪意がないのが逆に怖い。本当に誰か止めろよ。イレブンに甘いとは思ってたけどここまでなの? しつけ役は? あ、寝てる……。体は子供だもんな……そうか……。相棒は厳しさより甘さなので、許される範囲なら注意をしてくれることを期待してはいけない。

 改めて現状を把握すると、立場もろもろ含めて断れなかった部下が少しだけ不憫ではある。しかし、失態は失態だ。許すわけにはいかないし、今が大丈夫ならこの後も大丈夫なんて保証はない。

 

「ぼくのめるようになったんだよ!」

「飲まれまくってるけどな……。なあイレブン。楽しく飲むのは構わねえが、人に押し付けるのはやめろ。こいつらはお前らの警護で、酒飲んでいい立場じゃねえんだよ」

「ぼくたちつよいよ!」

「そういう話じゃない」

「……おにーちゃんおこってる?」

「怒らないといけないと思ってるよ」

 

 完全に場を盛り下げることになるが、盛り上がる代償が彼らの命の安否だというなら、天秤にかけるまでのものでもない。

 

「いいか? 例えば今、この中の兵士の誰かが酔って、千鳥足でお前にふらふら近付いていったとする」

「うん」

「そうしたら、俺はそいつを切り捨てるぞ。不審者としてだ」

「なんで?」

「剣を腰に差した人間が、怪しげな足取りでお前に歩み寄るなら当然だ。俺はお前らの警護のためにここにいる」

「そっかぁ……」

 

 悲しきかな、酔っ払いに説教してもさして響いていないようで、イレブンはせいぜい陽気に喋るのをやめた程度である。暗い顔にもなってないし、眉が下がって落ち込んでる素振りもない。酒を飲んでない俺が頭痛えよ。

 

「ふふっ」

「ほんとなのねぇ」

「よいことじゃな」

「うむ。この国の騎士として、頼もしい」

 

えっなんだよ急に、こええな。

 

「おにーちゃんかっこいいー!」

 

こいつに至っては何も反省してねえじゃねえか。抱きついてきちゃって、なに? 肉体言語の出番か? あ? 投げ飛ばすぞ?

 

「全然イメージなかったけど、マジで隊長してんだな」

「カミュくんほんとに俺のことただのちゃらんぽらんだと思ってるね」

「いや、もう思ってねえよ?」

「さっきまで思ってたってことじゃねえか」

「酔っ払いの言うことかなって話半分に聞いてた」

「イレブン?」

「いや、アンタの部下」

「はあ?」

「実はさぁ」

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

「みなさんものみましょ〜!」

「ひいい、勘弁してください勇者様……」

「俺たちバレたらよくて折檻、悪くて打ち首ですよぉ……」

「ホメロス様だっていつ帰ってくるかわかりませんし」

「ぼくがあやまるからへいきですよ!」

「がぼっ」

「あああ〜〜〜〜!!!!」

「王様、姫様! お助けください!」

「我々、ホメロス様に殺されます!!」

「ワシの方からホメロスには話をしておこう、気にするな」

「うわぁ、お許しが……おりてしまった……」

「俺やだよ……三日三晩終わらない事務作業に追われるの……」

「死んだ方がマシな目に遭わされる……」

「ていうかホメロス様が許してくれても隊長が絶対許してくれない……」

「がぼがぼ」

「うめえ〜〜〜〜」

「あっ! 開き直ったなバカ! 早まるな!!」

「これ以上被害者を増やすわけにはいかない! 限界まで飲むから一人ずつ生贄だ! いいな!(小声)」

「お、おまえ……!(小声)」

「わーい、いいのみっぷり!」

「ごぼごぼ」

「ああああ〜〜〜〜!!」

 

「ここでのおにーちゃんってどんなかんじなんですか?」

「隊長はな〜、いい人だよ。俺らみたいなぺーぺーの感性も持ってて、それでもホメロス様についていけるから、すごい」

「ホメロス様は頭よすぎてたまに何言ってるかわかんないんだよな」

「途中式省略する感じがすごい」

「まあ俺らは直接指示を受けることほとんどないからいいんだけどさ〜」

「隊長が間入って噛み砕いてくれないと理解できないことが未だにある」

「それな〜! でも俺、隊長みたいに十年ホメロス様の下にいても理解できない気がする」

「その辺はもう、あれだよ、執念だよ」

「しゅーねん?」

「あいつホメロス様のこと見返すためだけに軍にいるって言ってるからな〜」

「ああ、そっか、同期でしたっけ?」

「うん。初日にあいつすげえボッコボコにされてさぁ。顔とか倍になってたんだけど、辞めなかった時は変態なのかと思った」

「やっぱりおにーちゃんがよくいうくそじょーかんってほめろすさんなんですね」

「言いそう〜」

「いつかぶっ飛ばすとか言ってない?」

「いってました!」

「隊長ほんとわかりやすいよな」

「それがあの人のいいところだろ〜」

「ああ見えて真面目だしなぁ」

「な〜! 俺もう開き直ってるけど、酒盛りバレたら絶対静かに怒られるわ」

「ホメロス様は反対にそのあたり緩いよな。結果オーライタイプというか」

「酩酊してるの勇者様だけなの確認して、話乗ってたもんな〜」

「丸くなったよな。さっきもめちゃくちゃ抑えてて、つい感動しちゃったよ」

「俺らの命を自分含めて平等に軽視してるとも言えるけどな」

「そうだな……。勇者様御一行が無事なら俺ら死んでもいいだろって思ってるだろうな……」

「ホメロス様そういうとこですよほんとに」

「わはは! 隊長のモノマネやめろよ、似てるわ」

「お前らなに酒なんか飲んでんだ、不審者として叩っ斬るぞ」

「言いそう」

「俺たち今日が命日かも」

「おにーちゃんきびしいんですか?」

「いや、全然。ゆるゆるだよ。ただ、筋通ってないこと嫌いだからね、今の俺らとか見たら腹のなかでブチ切れだよ」

「ぼくがあやまりますよ」

「意味ないよ。むしろ、警護対象の勇者様に庇われたらより怒りそう」

「隊長だもんな」

「な」

「ここで飲んでなかったら隊長の奢りで再来週ぐらいに労いの飲み会あったかもなあ」

「悲しい……」

 

「飲んだ奴ら全員潰れたのに勇者様ピンピンしてる……」

「……次、誰が行く?」

「………………」

『じゃーんけーん!』

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

「イレブンがアンタのこと聞きたがってさ、酔った兵士がすごいベタ褒めしてたぜ? 慕われてんだな」

「………………いやお前ら止めろよ!! 酔ってねえ奴いたろ?!」

「すみませんすみません」

「近寄ると勇者様が問答無用で酒を飲ませてくるんです……」

「イレブン!!!!!」

「おにーちゃんものむ?」

「非番の時にな! ラリホー!!!」

「むにゃ」

 

 この日からグレイグ様が妙に構ってこようとするもんだから、その内苛立ちで俺は人を殺めてしまうかもしれない。うぜえ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 諸事情により担当区に変更があったことを端的に伝えれば、部隊の者は特に動じるわけでもなく、了解の返事をした。理由も気にならないようで、簡素に自分たちの受け持ちの変動の有無だけを確認する。自分の隊とはいえ、直接指示を出すことはほとんどない。そうでありながら理想通りの回答がくる辺り、指導が行き届いていることを実感した。誰の努力の賜物なのかは、聞くまでもない。

 先ほどの報告会で聞いていた通り、城下で目立った問題は起きていなかった。中と同じく、外でも酩酊した誰かが小さななにかを起こしている程度のもので、目くじら立てて牢に放り込むほどのことはない。羽目を外したらしい何人かが、注意喚起の名の下に気絶させられたくらいで、現在は教会で休ませているという。

 

「喧嘩やナンパくらいならラリホーかヘッドロックかけて教会押し込んでおけ、と隊長が」

「……引き続きそれで構わん、適宜教会の様子だけ見ておけ。現時点でどの程度埋まっている?」

「隊長の指示で下層地区に休憩場所としてテントをいくつか張っています。そろそろ教会の方にも支障が出そうでしたので、先ほど一部移動させました」

「? 定期報告でそのような件は聞いていないが」

「朝一番で下層地区の責任者に申請を出していたはずですが……」

「ああ……、そういうことなら問題ない。報告ご苦労、持ち場に戻れ」

「はっ。失礼します」

 

 パレードの開始前にすでに下層地区に指示を出していたのなら、パレード中に人が運び込まれてくることは予想の範疇だ。異常なしと報告してもおかしくない。それを私に伝えていないことも、城の内外で指揮命令系統を分割したことを考えれば不思議ではないだろう。あいつにとって不測の事態だったのは、自分の弟の酒乱っぷりぐらいか。

 酔ってはいたが、足取りはしっかりしていた。少し呂律は怪しいところがあったものの、前後不覚ということも意識が朦朧ということもなかった。すぐ酔うが、酔った後が長いタイプなのだろう。体良く交代できたのはありがたい。あのまま絡まれ続けたら精神がもたないし、今、あの場がどうなっているのかと考えるだけで疲れる。

 可能性として、兄の部下であるという名目であの場の兵士達にも同じ調子で話し掛けていくことが考えられる。そして、一般兵では勇者に対して強く出ることはない。彼は軍の人間ではないので上下関係の中には入らないが、この国の将軍と姫君の仲間である。ぞんざいに扱うなど到底できないだろう。そうなると。……これ以上は目を当てられない惨事になりそうだ、やめておこう。

 正直なところ、勇者に対して臆するということはないが、強く出れるかと聞かれれば私も答えはノーだ。彼は部下でも仲間でも友人でもない。あえて名前をつけるなら来賓の一人であり、もてなしや警護の対象である。粗末に扱う気はないが、持て囃すのは私の仕事ではない。そういった意味も含めて、せめて昼のこの時間帯の警護は奴に任せようとしていたというのに。

 

「わざわざ面倒くさい事態になってから引き受けるとは」

 

 嫌いな奴の顔を見たくないという幼児のような理由でごねて、あまつさえ平等にじゃんけんで決めようなどとのたまうからこういう目に遭うのだ。バカが。気にくわない相手でも笑顔で挨拶ができるように、誰が教育してやったと思っている。そのお節介でせいぜい弟の世話でもしておけ。

 暫くのち、勇者のお陰で警護どころではない状況になったらしいパーティー会場から応援要請が届いたが、聞けば王がお許しになった上での事態だそうなので、当然無視した。弟の尻拭いだろう、お前がやれ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

「……というわけで、勇者様の尻拭いは兄である隊長がやれ、と……断られました……」

「あーーーーーーーーのクソ上官!! 上等だこら!! 見とけよクソが!!」

 

 兵舎に問題児どもを運び込み終わると同時に、応援を呼びに行った部下が帰ってきた。返事はノー。まあ知ってたけどな?! あなたはいつもそうですもんね!? でもたぶんホメロス様が思ってる以上に兵士の潰れ方はえぐいと思いますよ。……つまりイレブンの潰し方がえぐいということか、結論俺が弟のケツを拭く。オーケーやってやるわ。

 潰れた兵士は約半数。面倒見させるために連れてきたのは俺以外で三人、パーティー会場に残してきたのは十二人。現状は何も問題ない。現状は。

 何がやばいって、この後のやんごとなき方々向けへの夜のパーティーだ。会場の広さと顔ぶれを考えたら、何がなんでも全員全快で叩き起こしてやらねばならない。夜は魔物が活発化するし、目が全体に行き届きにくいことを考えたら、今以上に他地区から兵士は引っ張ってこれない。

 

「頭が痛え……」

「水を持ってきました!」

「医務室空いてますが移動させますか?」

「ああー、いや、ここでいい。とりあえず全員寝かせず、壁にもたれかけさせろ」

「はっ」

「あと甘いもの……チョコなんかが一番いいんだけど、どっかにあるか?」

「……さきほどのパーティー会場にありました」

「厨房に残りあればもらってきてくれ。急げ。あとあるだけのオレンジジュース」

「はっ」

「お前はバケツ、持てるだけ持ってこい」

 

 甘いものは別腹無限に収容できる胃袋を持つ女性陣がかなりいたことを考えれば、たぶん姫君の口利きで余剰を大量に用意していたはずだ。本人も山ほど食べるし。余れば夜に回せばいいだろうという考えがある、もしくは、夜の分含めて充分な量を確保してあるまと仮定すれば、酔いどれ兵士の酔い覚ましに回す分くらい存在する。あとは、(主に聖女様あたりが)人間の常識の範囲内での摂取におさめてくれていることを祈るだけ。

 祈りの捧げ方が間違っていることからは目をそらし、黙々と壁にもたれ掛けさせられていく部下を眺める。その数十四、全員イレブンに潰されたというのだから我が弟ながら恐ろしい。多量のアルコールを摂取しておきながら、ラリホーかけるまで足元ふらついてすらいなかった。こわ。勇者の奇跡ってそういうことじゃねえと思うよ、兄ちゃん。

 

「ザメハ!」

「う……ん? んん……」

「あたまが……」

「うおぇ」

「ザメハ! ザメハ! 寝るな! 起きろ!!」

 

 死に損ないのような部下を無理やり叩き起こす。酔いは起きてねえと覚めねえんだよ、いいから起きろ。運び込まれてきたチョコも食え。ついでに酔い覚ましにいいらしいオレンジジュースを胃に流せ。理由? 知らんけど昔じいちゃんが飲んだ後にはこれって言ってた。先人の知恵は信じとけ、バカにできねえから。

 どいつもこいつも、赤やら青やら土色やら、どう見てもデフォルトではない色の顔をしている。口にもの入れる前に、吐きそうな奴は吐かせた方がいいな。鎧を引っぺがしながら、一人一個バケツを差し出す。ほぼ全員ゲロったので室内の空気がひどい。窓を開けさせ、換気をして用意した水でまず喉と口の中の洗浄をする。そのあとオレンジジュースとチョコレート。

 

「うう、隊長……すみません……」

「次はねえからな。ほら、壁にもたれてろ」

「チョコがうまい……」

「余裕かよ。酒って毒に含まれっかなぁ……キアリー」

「あ、効いてます、すごく。すごい」

「キアリー、キアリー、キアリー、キアリー」

「このまま寝たい……」

「寝れる……」

「喉が痛い……」

「ザメハ! 寝るな! 夜のパーティー警護まで五時間ある、仮眠として三時間あててやるから、残りは絶対に寝るな。酔いを覚ませ。いいな? 夜は身内の会じゃねえんだ。失態も失敗も、許されないの次元が違う。ぜっっっっっっったいに万全の状態にしろ」

「あいさー……」

「おら、吐いたやつはベホイミかけてやっから。お前は賢者の聖水持ってこい。あとはゲロ処分な」

「はっ」

「…………」

「ザメハ!!!」

「はっ!」

 

 そうして五時間耐久魔法と介護のMP枯渇レース開始した。死ぬほど疲れたが、きちんと帳尻は合ったので水に流そうと思う。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 王が挨拶をし、姫がそれに続く。夜のパーティーが始まる合図だ。柱の影や扉の脇に控える兵には目をくれず、大騒ぎするわけでもなく品性を持って、おのおのが雑談に興じる。あまり食事は消費されない。そこに彼らの優先度が垣間見えて、それでもご立派なそれを用意しなくてはならないのだから、不思議なものだと思う。彼らは、食に執着する必要などない。

 大切なのは、来賓として招かれたこの場所で己の立場を確立すること。より多くの重鎮、貴族と親しくなっておくこと。自分を売り込んでおくこと。パーティーとはかくしてそういうものだ。

 

『お前たちは室内に飾られた鎧と大差ないと肝に命じておけ』

 

 動かず、黙して、この場を守っているていを立派に装うのが、会場内の警護の仕事である。張りぼてだと憤慨することなかれ、動く必要がないことがこの場の正しい姿と知れ。

 言われてみればご尤もな理論だ。ここに招かれざる誰かがやって来るためには、まず城下に侵入して、上層地区を抜け、城の中へ入り、警備の目を掻い潜らなくてはならない。兵士が全て節穴というならともかく、流石にそんな事態はそうそうない。

 しかし、そのそうそうないことを、起こりうるとして平静を保ち備える。飾りの人形のように。それが、今日の仕事だ。

 何もない、不動であるだけの警護の仕事。とても退屈でいっそ苦痛ですらあるこの時間を、ひたすらに耐える。冷めてゆく豪勢な食事を淡々と眺める。傾けられないワイングラスに苛立ちを覚える。

 けれど悲しきかな。それが一番望ましい事態なのだと、飲んだくれの喧騒が笑っている。

 

「平和が一番。兵士が職や仕事を失うなんて、ありがてえことだよ」

 

 呑気に寝静まった来賓の方々の部屋の前で、体をほぐしながら隊長はあくびをした。

 

「そうですねぇ」

 

 まあ、流石に明日から無職とかはお断りだが、遠征が減るのはありがたいと思うので、素直に頷いて俺もあくびをした。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 デルカダールの記念すべき日はつつがなく終了した。各国の重鎮たちも帰路につき、城下では散らかし放題になった道路を皆で楽しげに片付けている。問題らしい問題は一つも起こらず、後処理もさしたる量ではない。かと言って、暇なのかと聞かれるとそういうわけでもないのだが。

 なにせ一番仕事を押し付けやすい相手が連続稼働時間が三十時間を超え、倒れるように寝こけている。通常の徹夜程度ならあれも慣れているのでしれっと通常業務に戻るかと思ったが、魔力を使い続けた五時間が随分とこたえたらしい。人間の超えてはならない限界を超えさせる気はないので、今日は私から待機命令を出している。事務処理を冴えない頭で行われると余計に仕事が増えて邪魔くさいというのもある。

 

「そういうわけで、私も暇ではない。急を要さない用件なら後にしろ」

「……俺も手伝うか?」

「絶対手を出すな、仕事が増える。邪魔だ」

 

 目に見えてしょぼくれたグレイグは無視して、黙々と書類の山をさばいていく。目の前のバカが寝こけたバカのせめて半分でも仕事が出来ればと思うが、出来ないからこいつはグレイグなのだ。無い物ねだりをするべきではない。

 邪魔と言われたグレイグは、他に仕事がないのだろうか。一向に立ち去ろうとする気配も見せずにその場にずっと立っている。どうやら私に用はあるが、火急のものではないのだろう。しかし、どうでもいい内容でもない。

 はっきり言って、この歯切れの悪さだけで用件は理解できてしまう。何度も何度も経験した、諍いのあった後の居心地の悪さ。もっとも、そのいたたまれなさを感じているのはグレイグだけだろうが。

 酔っ払いの戯言に背中を押されるとはなんとも情けないことこの上ないが、ここまで来て二の足を踏むなど情けないを通り越してみっともない。これでこの国随一の勇猛な騎士と言うのだから笑ってしまう。いったい子供の頃とどこが成長しているというのが。図体だけかこの木偶の坊。

 本当に、どこまでいっても癪に触る奴だ。

 

「甘いものが食べたい」

「は?」

「頭を使って疲れた。甘いものが食べたい、手伝う気があるなら持ってこい」

「あ、ああ!」

 

 どうせあいつは一時間もしない内に、不細工でクリームが溶けかけたフルーツサンドを持ってくる。そんなことは知っているのだ。だからもう、全てどうでもいいことだ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 人の気配がして目を覚ました。まだ寝足りないと逃げ出そうとする脳みそをなんとか起動させて体を起こすと、侵入者であるグレイグ様が目に入る。拒絶反応でベッドに戻ろうとする肉体を叱責し、少ししゃがれた声で用件を尋ねた。

 しょうもない事案なら嫌味たっぷりで追い返してやろうと思ったのに、どうやらホメロス様がお呼びだそうだ。まだ寝かせてくれてもよくないかと思ったが、改めて窓の外をうかがえばだいぶ日が傾いている。想像より寝こけていた。やべ、後処理なんもしてねえや。

 

「ありがとうございます、グレイグ様。すぐに向かいます」

「ああ」

「………………まだ何か?」

「いや、用があるわけではないんだが……」

「そうですか、では失礼します」

「聞きたいことがある」

「何でしょう?」

「以前言っていたことだ」

「……どれでしょう?」

「その……、恥ずかしながら、俺はそこまで嫌われるようなことをした自覚がない」

 

 でしょうね。だから嫌いなんだし。

 

「俺は何をしてしまったのだろうか? 差し支えなければ教えてほしい。改めるよう努力する」

 

 大真面目に言ってんだろうなぁ、この人は。そして、善良なんだろう。俺の数々の非礼暴言その他すべてを黙殺して、謝意を見せているのだから、そうそうできることではない。俺なら一生近寄らないけどな。自分のこと反吐が出るほど嫌ってる奴になんか、かける温情も分ける親愛も湧いてはこない。

 しかし、だからこそ俺はこの人が嫌いなので、全ては悪手である。そういう情けや優しさや思いやりのようなものをチラつかされる度に、俺はこの人が憎くなる。根本から相入れないのだ。

 それに気付かないのなら、その努力を俺は永遠に否定する。

 

「それは徒労というものですよ、グレイグ様」

 

 あんたが誠実であればあるほど、俺はそれを容認しない。

 

「あなたが何をしようと、俺はあなたを許さない。永遠に嫌いです。けど、それで支障が出るわけでもないでしょう? ならいいじゃないですか。俺だって、積極的にあなたが憎たらしいと触れて回るわけではない。それとも、なんです? 誰彼からも好かれてないと落ち着きませんか? 英雄殿は」

「そういうことを言っているわけではない!」

「怒鳴らないでください。わかってますよ、今のは嫌味です」

 

 どこがどういう意味を含んでいるのか。到底理解できていないであろうグレイグ様を笑顔で放置して、俺はホメロス様の執務室へ向かった。

 

 三度のノックをして入室の許可を請えば、間を空けることなく短い了承の返事がくる。失礼しますと、形式だけの声をかけて扉を開ければ、ほんのりと甘い香りが漂ってきた。生クリームの甘ったるい香り。空になったそこそこ大きい皿には、盛り付けの時に付着したであろう不揃いなクリームが跡を残している。甘いものが好きだということはもちろん知っているが、ここまで量を取るとは珍しい。……ああ、違うか。グレイグ様か。そうか、だから俺のところに来たのか。

 いや、それは違うな。彼が俺のところを訪ねたのは、伝言のためだ。ホメロス様が呼んでいると言われたから俺はここに来た。つまり、グレイグ様を俺の部屋に送り込んだのはホメロス様ということになる。へえ、はあ、そうですか。仲のよろしいことで。

 

「余波が俺のとこまで来たんですが?」

「来ただけだろう。無視するなり付き合ってやるなり好きにしろ」

「嫌ですよ。ああいうタイプはしつこい」

「そうだな。しつこい」

 

 まさかとは思うが、イレブンのみならずホメロス様までもあの髭面英雄への態度を改めろと言うつもりだろうか。いや、言ってもおかしくないか。昔馴染みを盛大にディスってるわけだから、なんなら当然。

 ホメロス様はグレイグ様を、馬鹿だ愚図だ脳筋だととそれはもう結構熱烈に貶すのだが、それはひとえに持っている能力を認めているからでもある。ただの馬鹿に馬鹿と言ってやるだけの優しさはホメロス様にはない。心の中はともかくとして、口に出すという時点でどこかしら認める部分がある。羨ましいことだ。

 そう考えると、まあ、らしくもなく仲を取り持つというのも、理解できなくもないわけだが。

 

「お前も少しはポーカーフェイスを身につけろ。顔に不服と書くな」

「上官に嫌いな奴送り込まれた俺の気持ちも考えてください」

「奇遇だな。私も十年ほど前に使えない奴を上官から送り込まれたぞ」

「…………善処しろと?」

「だから好きにしろと言っている。グレイグの肩を持つのは今回だけだ。どうしても不愉快で耐えられんなら言え、釘は刺してやる」

 

 いや、そもそも。肩持たなきゃいいでしょうがっていうのは所詮俺のわがままで、声を大にして要求することではない。ので、俺は閉口するしかない。率先して押し付けてくる気がないのがまだ救いだった。グレイグ様とて、暇ではないのだ。そして狭量でもない。暫くすれば飽きるか、諦めるか。それまでの辛抱だ。

 そう結論づけて、話題を変える。呼び出された本命の用件があるはずだ。大方、積まれた書類の手伝いだろうとあたりをつけて切り出せば、悲しきかな。予想よりも遥かに斜め上に放り出されたもんだから、グレイグ様の肩を持ったことにも納得するしかなかった。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 グレイグ様とソルティコの町に向かい、ジエーゴ様にご挨拶とお伺いを立てる。それはいい。仕事だからだ。事前に打ち解けようと努めた結果、和解断固拒否の姿勢を見せられたグレイグ様のテンションはそれはもう低かったが、知ったことではないし。

 しかし、今の状況はなんだ? 前門の英雄、後門の世界最高の騎士。詰んでる、逃げ場がない。

 なぜ俺は今こんな目に遭っているの? 門人派兵の打ち合わせにホメロス様の名代でやってきただけなのに? なんで? グレイグ様と向かい合って剣を構えているのか? 意味がわからねえよ。なんでちょっとテンションたけえんだよあの髭。剣で斬り合えば分かり合えるとか思ってんじゃねえだろうな? 燃やすぞてめえ。メラ練習しとけばよかった、くそ。

 勝負は一本で、好きにやっていいらしい。気前のいいジエーゴ様は、お屋敷に用意されているだろう武器をこれでもかと持ってきて、四方八方に突き立てていく。頼んでねえよ、やめてくれよ。頼むから、そのノリを引っ込めてほしい。俺は愛想よく振る舞いだけでもいっぱいいっぱいなんだぞ。粗相をしねえか、これでもかと気を張っているのに。

 

「よぉし、はじめ!」

「行くぞ!」

「……行くぞじゃねえんだよこの髭ダルマ!」

 

 上等だコラ! 膂力でどうにもできねえことを教えてやるわクソが!

 大剣を真っ直ぐに振り下ろしてきた単細胞の攻撃を真横に避け、懐から取り出した短剣でその柄を握る手を狙う。焦った顔は面白かったが、結局はかわされたので意味はない。

 距離を取るために横に薙ぎ払われた大剣を前に、そのまま接近戦を続けるわけには行かず、仕方なしに大きく後ろに飛び下がる。ふう、と呑気にひと息吐くので、気合いを入れてやろうと思い、眉間を狙って短剣よりさらに小型のナイフを投げつける。

 

「うお?!」

「チッ」

「殺す気か?!」

「常々死ねとは思ってるよ!」

 

 ようやく俺の本気を悟ったのか、グレイグ様の表情が引き締まった。まあこんな間抜けな死に方をするわけにもいかねえよな。俺はぜんぜん構わねえけどな。ていうか嫌がる俺を無理やりこの場に立たせているんだから、せめてもの償いとして死んでほしい。

 舐めプをやめた英雄様の攻撃は凄まじい。使う武器に相応しい威力と、そぐわない俊敏性がある。さすがステータスが完全に肉体偏重なだけある。ジエーゴ様が用意してくださった武器を使い潰してやり過ごすが、まともにやり合っても勝ち目はない。そんなことは端から重々承知だ。だから戦いたくなかったというのもある。

 正攻法ではまず勝てない。なら、攻め方を変えればいいだけだ。搦め手というものをこの脳筋に教えてやる……訂正、思い出させてやる。

 

「はあっ!」

 

 低くしゃがみこんだような体勢のところに、渾身の力が込められた一撃が振り下ろされる。間一髪、といった様子でそれを避けるが、残念ながら、マントが噛まれて動きに支障が出た。

 

「もらった!」

 

 ように見せかければ、これはチャンスと、グレイグ様はその大剣を、地面に強く押し込み、簡単に抜けないように固定した。ありがとな、あんたは本当に素直だよ。

 

「ほう……。やるな、あいつ」

「俺の勝ちだな!」

「と、思うよな?」

 

 地面に縫い付けられたマントを短剣で切り裂き、なんの役目も果たさなくなった大剣を足で強く地面に食い込ませる。これで簡単には抜けないだろうが、相手は人間としての定義に当てはまるか怪しいレベルの剛力だ。力でどうこうならないことを悟ってもらうためにも、柄を壊す。ついでにちょっとでも心に傷を負え。

 丸腰になった彼がどうするか。答えは二択だ。新たな武器を拾うか、素手で戦うか。

 条件を何もつけないのなら、公算が高いのは前者だ。彼は使い慣れた武器ではなくとも、同じ系統のものなら難なく使いこなしてみせるだろうし、何より、俺が武器を所持している。

 しかし残念、あんたが使えそうな武器は、先ほどまでのやり取りであんた自身が使えなくしている。鞭やら槍やらが使えるなら話は別だが、取りに行かないところを見るとその可能性はなさそうだ。本当にわかりやすくて助かる。

 となると、彼は素手で戦うことになる。あれだけのフィジカルを持ってるわけだから、一定以上の戦闘力はあるだろうが、恐るるに足らず。得物を失い、代わりも見つからず、消極的な選択肢として素手という結論に至った程度の力量に、劣るような鍛え方はしていない。

 

 結果として、俺は勝った。鎧を脱ぎ捨て一切の防御を犠牲にして、最終的にはグレイグ様の喉元に短剣を突き付けることに成功した。余裕は全くといっていいほどない。

 今回、勝ちはしたが次はないだろう。地力が違う。手合わせをしようとする相手を、殺しに行くつもりでなんとか屈服させた程度に過ぎない。弱い。強くなりたいというわけでもないのだが。

 

「やるじゃねぇか! グレイグ相手に一方的に決めるたぁ、見どころがある」

「恐悦至極に存じます」

「なんだよ固えなぁ。さっきの方が勢いがあった」

「みっともないところをお見せしました。いけませんね、頭に血がのぼると見境がなくなってしまいます」

「いいじゃねぇの。なんならお前も次の修練に参加するか? 俺は歓迎だぜ」

「はっはっは、お気持ちだけ頂いておきます」

 

 つれねえなぁと軽口を叩くジエーゴ様とは対照的に、グレイグ様はショックから立ち直れないようだった。帰りの道中も、行きとは比べ物にならないほどに気落ちしていて、なんなら行きの方がテンションが高かったのでは? と思えるほどだ。そんなに格下に負けたのが悔しかったのだろうか。意外と器が小さい。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 そろそろだろうなとあたりをつけて、厩舎と城を繋ぐ廊下の近くを通る。案の定、ソルティコから帰還した二人を見かけ、声をかける。

 

「ホメロス様。ただいま戻りました」

「ご苦労。ジエーゴ殿は何か言っていたか?」

「基本は事前の話のまま進めてくれとのことです。有志の参加もいくらか許可をいただきましたので、希望者を募ろうと思います」

「わかった。王に帰還の報告とともにお知らせしたのち、進めろ」

「はい。では失礼します」

 

 会合と呼ぶには大げさなすり合わせの内容を端的に伝えられ、任せることに問題はないと判断して引き続き業務を一任する。簡素な会釈を残して去って行った部下の背中を見送りながら、黙りこくったまま不機嫌そうに佇む男にほくそ笑む。

 

「ホメロス。お前、はめたな?」

「なんだグレイグ。せっかく取り持ってやる機会を作ってやったというのに、してやられたのか?」

「俺を揶揄っただけだろう!」

「とんでもない」

 

 あいつとの関係性をなんとか修復できないかと相談してきたので、話しかける機会を与えた。口下手なグレイグではなんの改善も見られないだろうと見越して、私の代理を務めさせた。肉体言語の方が双方得意だろうと判断して、ジエーゴ殿にも事前に協力を呼びかけた。あとは、グレイグがあいつをその自慢の腕っ節で圧倒すればよかったのだ。

 

「負けたのはお前のせいだろう? 私は知らん」

 

 もっとも、あの負けず嫌いが、死ぬほど嫌いなグレイグ相手に簡単に負けるなどと露ほども思っていなかったが。

 

「あいつは謙遜がすぎる! なにがホメロスの足元にも及ばないだ! 下手したらお前より腕が立つぞ!」

「本心で言ってるかどうかはともかく、手の内を晒すようなバカに育ててはいない。それでお前が油断したなら、完全にお前の負けだな」

「ぐっ」

「ともかく、手は貸してやるのはこれっきりだ。いいな」

「……わかった。すまなかったな」

「構わん。お前の不服そうな顔はなかなか痛快だったぞ?」

 

 私としては取れ高は十二分だ。悔しげな顔は胸が晴れるし、以降はグレイグがくどく絡んでいくことも減るだろう。手をかけずして一挙両得。これ以上の結果はない。

 なんとも期待通りの成果を持ってくる人間に成長したもので、柄にもなく噛み締めてしまう。あれからもう十年も経つのだから、それなりに進歩があって然るべきではあるのだが、私にも少しは情緒というものがあったらしい。ここで少し惜しんでしまうのは所詮エゴに過ぎないのだ、やはり王の進言に従うべきだろう。

 

「俺としては、話がまとまる前にだな……」

「事前に修復できたところで、お前の書類の提出の遅さではどの道罵倒だな」

「お前の分身か?」

「たわけが。私の分身ならもう少し上手くやる」

 

 意味のない打ち合いなどには付き合わなければ、表立って嫌悪感を出すこともしない。裏から外堀を徹底的に埋めたのち、必ず地の底まで叩き落とす。私ならな。

 言葉には出さなかったが、長年の付き合いがある。上手くやることの意味を、なんとなくだが察したのだろう。微かに身震いしたグレイグはそそくさと王へ帰還の挨拶をしに逃げ出した。今行くと見事に鉢合わせなのだが、あれは気付いてないな。馬鹿か。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 王との話は済み、御前を離れる。言われたことがちっとも飲み込めない。なんで俺? どうしてだ? 大した功績も俺にはない。一体全体、どうしてそんな話が上がるのか。

 答えは待ってくれるらしいが、こういう場合の待つというのは、色よい返事をしてくれることを待つという意味だ。基本的に、俺の意思を尊重するための時間ではない。いや、まあ、そりゃあ、当然なんだろうけど。断る奴なんていやしないだろう。取り立ててくださると、王直々から仰せなのだ。

 ふらつく足を叱責して、なんとか真っ直ぐ歩く。衝撃に脳みその処理がついていかない。夢か、真か。突きつけるのは、正面から歩いてきたグレイグ様だった。

 

「王から話は聞いたのか?」

「グレイグさま」

「お前の武勇は、俺も見せてもらったからな。ホメロスが二つ返事で頷いたのも理解できる」

「ホメロス、様が」

「ああ。部隊の再編成の話が上がった時に、王がお前のことを挙げていたのだが、必ずその期待に添えると太鼓判だ」

 

 ホメロス様が、そんなことを言ったのか。俺が軍の一部を率いるに足る人間だと、そう言ったのか。

 目眩がする。嬉しいような気がするのだ。目の奥が熱くて、涙が溢れそうなほどに、それはたまらないことのように思える。思えるのに。

 

「そう、ですか。それは、有難いことです」

 

 全てを覆すほどに、なんだか、虚しくて。認められているということなのに、どうしてこんなにも遣る瀬無いのか、自分でも全くわからない。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 話を保留にしてもらい、もう三日は経つ。早く返事をしなくてはならないのは分かっているが、たった一言が喉の奥に引っかかってどうしたって音になりそうにないのだ。誰もなにも急かしてこないのも、ますます俺を焦らせた。

 気もそぞろなまま職務に取り組んでいると、ミスは起きないものの、四方八方から心配された。目に見えて様子がおかしいかや当然なのだが、確定事項でもない身の上話を吹聴するわけにもいかない。なんでもないとのらりくらりと過ごしていたら、ある日、弟が飛んできた。口角が引きつったのが自分でも分かった。

 イレブンはそれはもうしつこかった。どうしたのなんで元気がないのと四六時中付きまとって、でも仕事に支障が出ないラインを弁えていて、どうにも追い払えない瀬戸際を熟知していた。こういう時の身内は面倒くさい。いや、俺のこと心配してくれてんのは分かるんだよ。けどね、そっとしておいてほしい時もあんの。今がその時なの。

 

「そんな感じでカミュくん、あの子追い払ってくんない?」

「心配かけてる自覚あるなら諦めろよ」

「イレブンが居たところでなんにも解決しないから邪魔なんだよな」

「アンタそういうとこシンプルに辛辣だよな」

「合理的と言って」

 

 駄目元で弟の相棒であるカミュくんにヘルプを出すが、俺の味方をしてくれるつもりは毛頭ないようで、にべもなく断られた。なんならダメ出し付き。悲しいね。

 

「合理的ならさ、出世の話受けたらいいんじゃねえの?」

「はっはっは。口が軽い奴がいるなぁ、髭ダルマか?」

「問いただしたのはイレブンだぜ」

「兄ちゃん想いで涙が出るけど、よりにもよってって感じだなぁ」

 

 世間話のような軽さでカミュくんの口から出てきた話題は、捉えようによってはデルカダールの軍事機密になりえる内容だった。口を滑らした犯人は、めでたい事だし、身内だからと話してしまったのだろうが、これではいよいよ逃げられそうにない。最悪。ほんとに、メラを習得してあの髭を焼き払ってやるしかない。

 さりげなく話をすり替えようとする俺に、目敏い彼はちっとも乗ってくれるつもりがないようで、何が駄目なんだとど直球に尋ねてくる。もう少しだけでも婉曲してくれれば俺も遠回しに逃げるのに。とても盗賊業をやっていたとは思えない真摯さで、カミュくんは聞いてくる。それの何が駄目なのか、なんて。

 

「なんにも駄目じゃねえよ?」

 

 駄目じゃないから、困っているのだ。それは、紛れもなく栄誉である。王のために役に立つと、他でもないホメロス様に認められた。わかってる。わかってんだよ、そんなことは。ただどうしても、納得できないだけなんだよ。俺が、納得できないんだよ。

 

「じゃあそれだけでもイレブンに言ってやれよ」

「嫌だよ。君と違ってあの子は聞き分け悪いから、これだけじゃ引き下がってくれねえよ」

「でもあいつ今頃デルカダール王とマルティナのところに直談判してるぜ?」

「…………は?」

「ホメロスとグレイグもいるかもな」

「は、」

 

 早く言えよそういうことはと怒鳴りつけそうになって、はたと気付く。カミュくんはバカじゃないので、話の流れでうっかり口を滑らしたりなんてことはしない。となると、今それを口にしたのは狙ってのことであって、タイミングとして好都合ということになる。

 はっきり言って、それに乗るのは非常に癪だ。王も、勇者の進言といえどただのワガママとしてのそれをはいわかりましたと受け入れることはないだろう。そう、無視したっていいのだ。俺が、弟のその不始末を、王と姫君と将軍二人にさらけたまま無視できるのなら、それでいい。知らなかったことにすればいい。俺に非はない。兄を思って暴走した弟のことを、俺は知らぬまま突き進んだって非難は受けまい。

 

「いや、正直に言うんだけどさ、俺も止めたんだぜ? ただ、その、アンタの弟ブラコンだろ?」

「あー、ハイハイ! 行きますよ! 行きゃいいんだろあのお人好しめ!!」

「わりぃな」

 

 死ぬほど重たい足を動かして、玉座の間に向かう。ああ、やだなぁ。流れで謹んでお受けいたしますとか、言っちゃうことになるんじゃねえの、これ。やだなぁ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

 扉の向こうで交わされる言葉が、耳をつく。俺が嫌がっているのでやめてほしいと頼むイレブンに、嫌なら自分の口で言うのが筋だと突っぱねるホメロス様。後者の言葉がごもっともすぎて、ますます足が進まない。

 早く行った方が気が楽だと思うぜ。カミュくんの忠告はもっともなことなのだが、そう簡単に言わないでほしい。こちとら、今後の全てがかかっていると言っても過言ではないのだから。ここまで来てあれなのだが、なんならイレブンにそのままごり押してもらいたいくらいである。勇者の奇跡とやらでその辺、なんとかならねえかな。ならねえよな。

 

「だいたい、何が不満なのだ。あいつは常々、私のことを見返したいと触れ回っているのだぞ。同じ立場まで上がってくるなら、これとない好機だろうが」

 

 血も涙もない正論に、俺のメンタルゲージ的なものが途轍もない速さですり減っていく。その通り、その通りだ。俺はホメロス様と同等の地位を得る。俺をボコボコにしていつか見返してやると誓った相手と、名実共に対等になる。指揮命令系統の横に並ぶ。俺は、あの人の、横に立つのだ。

 ただ、そこは、後ろでもなければ、隣でもないというだけ。それだけ。

 それだけのことが、どうして俺はこんなに嫌なのだろうか。認められたいという悲願を差し出しているのは、他でもないホメロス様だというのに。なぜ。

 

「ホメロスさんはお兄ちゃんが部下じゃなくなってもいいんですか?」

「一向に構わんが」

「泣きそう」

「しっかりしろよ」

 

 ボキッと何かが折れた。見えないところでへし折れた。流石に悲しい。十年の重みが全くない。いや、俺が一方的に噛み付いてただけだから、当然っちゃ当然なんだけど。

 背中を撫でてくれるカミュくんの手が恐ろしいほど優しくて、割と真面目に鼻がぐずる。つら。上官にカケラも惜しまれてないのがとんでもなくつらい。俺の十年が軽すぎて泣ける。

 

「あいつは私の下でなくても、十二分に王とこの国の役に立つ。そう判断した」

「本人の意思がないじゃないですか」

「……強制はしていないつもりだが、あなたは兄の口からそう聞いたのか?」

「……お兄ちゃんからは聞いてないですけど」

「では私も、その頼みを通すわけにはいかない」

「けど」

「くどい」

 

 王の役に立つ、国の役に立つ。そんなもん、俺にだってその自覚はある。忠誠心のカケラもないが、それでも十年、デルカダールの兵士として望まれる以上の成果はいつだって出してきた。だけどもそれらは全て、俺のためだ。王のためでも国のためでもない。

 俺は俺のために、生きてきた。努力してきた。耐えてきた。尽くしてきた。

 

「私は、いつまでもあの男を私の下で燻らせておくつもりはない」

 

 涙が出た。馬鹿みたいに、目の前が滲んで仕方がない。考えるまでもないことなのに、俺はやっぱり馬鹿だから、言葉にされねえとわかんねえよ。

 

「王と国のため、私がそれに足ると判断した人間を王自らが名を挙げてくださった。あとは、あれが頷くだけだ。決断は他の誰にもできん」

 

 そうだよなぁ。あのホメロス様が、全然足りねえボンクラを、取り立ててくださるわけねえんだよなぁ。気付けよ、俺。いや、気付けねえよ。無理だろ。あの人、そういうこと全然言ってくれねえもん。とっくに部下を率いるだけの能力は持っているじゃねえんだよ。あんたが下の教育下手くそ過ぎるだけだろうが。笑かすなよな、また涙が出るわ。

 

 ✳︎✳︎✳︎

 

「お前、断るなど正気か? 二度とこんな機会はないぞ。わかってるのか?」

「わかってますよ。いいんです。俺、別に出世したいわけじゃねえし」

「知能が足りてないな。私を見返すんじゃなかったのか」

「うるせえな! 俺が断った途端に部隊の奴らが泣いて喜んだ現状で察しろよ!」

「お前……。そこまで嫌われてるのか」

「ちげぇよ! 俺が居なくなったら間に入るやついなくなるでしょうが! それを憂いてたんだよ! 泣いたのは有り難かったから!」

「ふん。二度と取り立ててやらんからな」

「出世したくなったら自力でどうにかするんでご心配なくぅ〜」

「安心しろ、二度目はない」

「はあ〜? 見とけよ、二度目も三度目ももぎ取ってやるんで」

「なら最初から断るな!」

「すげえなぁ……口喧嘩しながら書類が見る見るうちに減ってくぞ……?」

「よかった……。このレベルを俺らに急に求められなくて……、ほんとに……!」

「うっ……隊長!」

「一生ついていきます……!」

 

 もういいよ。充分だ。過ぎるほどに報われている。あとはもう返すだけで、返す相手はこの世にたった一人だ。

 




前話を書いて、きっとギャイギャイ口論しながら仕事してるんだろうな〜と思いその部分を読みたくて書きました。正直言って、これでほぼ終わったみたいなところあるんですけど、最初の目的「ホメロスを救う」ことが完結してなかったと気づいたので三部作になりました。
残りもたぶん数日のうちにあげますが、pixivに全文あるので待てない人はそちらをどうぞ。
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