魔導書授与式から半年が過ぎたある日。
それは、全国民が憧れる魔法騎士団。九つの騎士団から成る魔法帝直属の戦闘に特化した魔道士達が率いる魔法騎士団に入団出来るか否かの試験の日である。
その魔法騎士団入団式に、アキラは自身の団"金色の夜明け"団長『ウィリアム・ヴァンジャンス』と共に来ていた。
「アキラ、あまりウロウロしない様にね」
「はーい」
ウィリアムに言われたアキラは、間延びした返事をし、後ろを着いていきながら会場内を見渡す。
魔法騎士団入団試験会場内の人達は2つにわかれる。
何が2つなのか……それは試験会場には魔力が少ない者に群らがる"アンチドリ"と呼ばれる鳥がおり、その鳥に群がれる者と群がれぬ者の2つにわかれているのだ。
王族・貴族と同等の魔力量を誇るアキラには、アンチドリなど無縁のものだが。
「あれが噂のアンチドリ?」
〈アキラには、無縁のものだよね〉
「まあ…ね」
レムと言葉を交わしながら、会場内にいる試験者達を見渡すと、アキラは1人の少年を目に止めた。
そこに居たのは、魔導書塔でアキラと同じく四葉の魔導書を手にしたユノだった。ちなみにそのユノには、アンチドリが一切群がっていなかった。
「オイ、あいつだ!最果ての町で"四つ葉の魔導書"に選ばれたっていう────」
「四つ葉?!……マジかよ」
「下民のくせに……」
周りの者達は一切アンチドリに群がられていないユノの魔力量と四つ葉の魔導書に選ばれるほどの器に驚愕する者と嫉妬する者の2つに別れていた。
そんな第三者達の声などユノは一切気になどしていない様子だ。
〈あれが、アキラと同じく四つ葉に選ばれた子?〉
「うん、そうだよ。最果ての村出身なのに魔力量が半端ないんだよね……」
レムに問われたアキラは、ユノを見て答えた。
アキラは、ふと視線をユノから外すと大量のアンチドリに、群がられている少年がいた。その少年は、アスタだった。
「あれ?あれって確か……」
「アキラ」
「今、行く…」
ウィリアムに呼ばれたアキラは、アスタとユノをもう一度見るとウィリアムの元へ駆け寄っていった。
しばらく経ち、団長達が全員集合すると、魔法騎士団最強の団である"金色の夜明け団"団長ウィリアムが魔法を発動し、試験者全員に箒を与えた。
その後、入団試験が始まった。
箒による飛行試験から始まって色々な試験が行なわれた。ユノはその試験を軽々しくこなしていたが、アスタの方は散々な結果を出していた。
(魔力が少ないにしても、さすがに変だな……。コントロール出来ない人でさえ、箒で浮ける事は出来るのに…)
アスタを見てそんな事を考えながらも、着々と試験は進んで行く。
そして最後の試験内容は実戦である。
しかし、魔法騎士団員と実戦をするわけではない。対戦相手は入団試験者だ。一対一の大戦形式で戦う事になり、勝敗によっては先程までの試験結果以上に入団に関して響く事になる。
それに気付いた者達は尚、気を引き締める。
そして、その重要な実戦に最初に試合を行なうのはアスタだった。アスタの相手は、先程から魔力の無いアスタの隣で自分が良い団に入団できるための引き立て役として話し掛けて仲良くなり、自分の評価を上げていた『セッケ』という名の少年だった。
「…では…始め―――!」
ウィリアムの言葉と同時にセッケは魔法を発動する。
アスタは、そんなセッケへものすごいスピードで迫り、ボロボロの大剣を用いてセッケを魔法事切り伏せた。それを見て、唖然とする受験者たち。
(え、待って……今、魔法消した?しかも、あの魔導書って……五葉じゃ……)
アキラだけでなく、ウィリアムは勿論、ほかの団の団長達も驚いたような顔をしていた。
困惑する受験者の言葉が五月蠅かったのかアスタは試験会場の逢頼で
「魔法帝になる!」
と高々と宣言した。
そんなアスタに笑みを浮かべるユノ。しかし、先程まで唖然としていた受験者はアスタの夢を馬鹿にする。
その後、模擬戦が続いていき、ユノも強大な魔法を見せつけ完全勝利した。
全ての受験者の模擬戦が終えた為、実戦試験が終了し、受験者の合否発表が行なわれる事になった。合否発表は呼ばれた番号順に団長が挙手した場合、その団に入団できるが挙手されなければ入団できない。
合否発表までに至るまで時間がどうしても掛ってしまい、既に夕暮れの時期になっていた。
1番から順に呼ばれていくが、中々団長に挙手される者が居らず、初めて挙手されたのは紫のローブを羽織った団『紫苑の鯱団』の団長『ゲルドル・ポイゾット』によって十数番目の者だった。
それから、順々に団長達も手を挙げていく。
「―――次…164番」
とユノの番号が呼ばれユノが前へと進みでる。
すると、周りがざわつき始めた。それもそうだろう。何故なら、全団長が挙手していたのだから。入団するだけでも難しく、更には好評な団に選ばれるにはそれこそ更なる難易度が存在する。
よって全団長からの挙手など前代未聞の出来事なのだ。
全団挙手、または複数の団長から挙手された場合は受験者が決める権利がある。
そして、ユノが選んだ団は
「"金色の夜明け"団でお願いします…!」
とユノの言葉に、ウィリアムは微笑んだ。
(珍しい…いくら魔力が高いからって、貴族・王族のエリート揃いの金色の夜明け団に、下民を入れるなんて)
(まあ、あれだけの魔力見せつけられたらねぇ…。実際、私も恵外界出身だし)
アキラとレムは、ウィリアムが挙手したのを見て小声で言葉を交わす。
「次ぎ……165番」
「はい!!」
今度は、アスタが返事をしながら前に出ていく。しかし、団長達から挙手はされなかった。つまり、不合格を表していた。
その現実にアスタは悔しさを感じていた。そんな時にある1人の団長が話し始めた。
「そりゃそーだわな」
何と話し掛けたのは入団試験の直前でアスタがぶつかった人物である『黒の暴牛』団長『ヤミ・スケヒロ』だった。
ヤミは座っていた席から立ち上がり、受験者達がいる場所へと降り立った。
「たとえ高い戦闘能力を持ってようが、それが得体の知れねぇ力は誰も手ぇ出さねーわ」
ヤミは煙草を噴かしながらもアスタへと歩み寄って行く。
「…なんやかんやで…結局魔法騎士に求められるのは……」
アスタに近づいていたヤミの空気が一変した。
「魔力だ」
ヤミから放たれる膨大な魔力量とプレッシャーに周りにいた受験者は震え上がる。
「ウィリアム兄様、あれいいの?」
「少し、見守ってもいいだろう」
ヤミの勝手な行動に、アキラはウィリアムへ声を掛けるがウィリアムは、微笑んでその光景を見守ろうと言った。その答えを聞いて、アキラは複雑な顔をしたが、アスタとヤミへ視線を戻す。
「お前さっき……魔法帝目指してるとか言ってたな?……つまり……騎士団長を越えるって事だよな?……今オレの目の前でもまだ……魔力のない分際で魔法帝になるとほざけるか?」
「────ここで魔法騎士団に入れなくても‥‥何度コケても、誰に何を植われようと、オレはいつか魔法帝になってみせます!!!」
そう言ったアスタを見て、ユノはアスタらしい発言に笑みを浮かべた。アキラは、そんなアスタを見て面白いなぁと思った。
質問をしたヤミはというと‥‥
「ワハハハ!!お前面白い!!『黒の暴牛(ウチ)』に来い」
「………え?」
大笑いしながら、アスタを自身の団に勧誘した。
先程までのプレッシャーが消え、突然の勧誘に呆けた声を上げてしまうアスタ。そして試験結果最下位のアスタを入団させるヤミの言葉にざわつく他の受験者達。
「ちなみにお前に拒否権は無ぇ」
選択権を与えていない横暴な発言に内心で困った声を出すアスタ。しかし、次のヤミの言葉にアスタは感動するのだった。
「そしていつか……魔法帝になってみせろ」
初めて自分が認めて貰えた言葉にアスタの心が嬉しくない筈が無く、ヤミからの言葉に先程以上に元気の良い返事を返すのだった。
その後、入団試験は予定通り終了し、入団が決まった新入団員は自身の団の団長の下へと歩むが、アスタとユノはその前に2人だけで出会い、挨拶をしてから自身の団の元へと向かうつもりだったが、その際にアスタが腹を下したのかトイレに颯爽と向かって行く。
「あの子どうしたの?」
「腹を下したみたいです……?」
ユノは、いきなり話しかけて来た声へ思わず答えてしまったが、直ぐに違和感を感じ振り返った。そこに居たのは、アキラだった。
「あんたは……」
「授与式以来だね、ユノくん?初めまして。自己紹介するよ。"金色の夜明け"団所属『アキラ・ノヴァクロノ』だよ。よろしくね♪」
そんなユノへ元気にアキラは、挨拶をする。
「迎えに来たけど、幼馴染みと話をする?」
「いや……」
「そう?なら、いいけど。そこの君、それは見過ごせないなぁ……」
アキラの言葉にユノは、アスタが入ったトイレの近くにいるセッケを見た。
アスタに敗北した自分が悪いのにも関わらず、彼は逆恨みでアスタに呪詛魔法を行使しようとしていたのだ。
しかし、セッケの呪詛魔法が籠もった青銅の蜥蜴はアキラの光魔法で無力化されていた。
「君が彼に敗北したのは、君が彼より劣っていたからじゃない。彼を見くびっていたからだよ。その上、逆恨みで呪詛魔法を行使するなら……私は、魔法帝の娘の権限で君の魔法騎士団入団を取り消すことも出来るけど、どうする?」
「ま、魔法帝の娘?!」
(!?)
「まあ知らないだろうね、新人は……。でも、噂ぐらい聞いたことあるでしょ?魔法帝の娘は、金髪にオッドアイ。この容姿が、私が魔法帝の娘っていう証拠だよ」
アキラの言葉に顔をみるみるうちに青ざめるセッケ。アキラが魔導書をもう一度開いた瞬間に、セッケは大慌てで去って行った。
「行っちゃった。別に、魔法帝の娘だからって魔法帝と同じ権限持ってるわけじゃないんだけど……ハッタリ通じてよかった」
アキラがそう言いながら、魔導書をしまうとユノはアキラを見て口を開いた。
「魔法帝の娘なのか?」
「ん?まあ…ね。でも、血は繋がってないけど」
「え?」
アキラの、"血は繋がってない"という言葉を聞き、ユノは首を傾げ思考をめぐらせるが、それはアキラがユノの手を握ったことによって中断された。
「じゃあ、行こうか。結構待たせてるし」
そう言うと、アキラはユノの手を引っ張ってウィリアムが待つ場所へと向かった。
「ウィリアム兄様〜新人のユノくん連れて来たよ〜!」
アキラは、ウィリアムを見つけるや否や団長ではなくいつもの呼び方で呼んだ。それを聞いて、ウィリアムは一瞬遠い目をしたが、仮面を被っているため誰にも悟られることは無いだろう。
「アキラ…公共の場では私のことは団長と呼ぶようにとあれ程言ったはずだよ?」
「ぁー、ごめんなさい。でも、どうせ本拠地じゃいつもの呼び方だから、バレるのも時間の問題だよ?」
アキラの発言に"そう言う問題でもないんだけどね"とウィリアムは思ったが口に出さずユノへと顔を向けた。スノの他にも1人、茶髪の少女が居た。
「はじめまして、ミモザ、ユノ。私は金色の夜明け団団長の、ウィリアム・ヴァンジャンスだ。隣に居るのは、『アキラ・ノヴァクロノ』。君と同期ではあるけど少し早く入団していたから、君より団のことは詳しい。分からないことがあれば、なんでも聞くといいよ」
「はい、ありがとうございます。ユノさんも、よろしくお願い致しますわ」
「よろしくお願いします」
ミモザが笑ってユノに声をかけると、ユノも頭を下げて答える。
2人の挨拶を見て、ウィリアムは微笑むとアキラへと顔を向けた。
「それでは、アジトに向かおうか。アキラ、お願いできるかな?」
「はーい」
アキラは、ウィリアムに応えると魔導書を開いた。
―――光創成魔法・金翼の大鷹―――
アキラは、人が数人乗れるような金色の大鷹を創成した。金色の大鷹の嘴を優しく撫でると、大鷹は乗りやすいように身を屈める。それに、アキラ、ミモザ、ユノ、ウィリアムの順で乗る。
「よろしくね」
ポンポンと、首元を撫でると大鷹はひと鳴きして、翼を広げ舞い上がった。
そして、ものの数分で金色の夜明け団の本拠地に着いた。
「ここが、金色の夜明け本拠地だよ。アキラ、お疲れ様」
2人が本拠地を見ているのを見て、アキラとウィリアムは同時に口を開いた。
「「ようこそ、金色の夜明け団へ。私達は、君達を歓迎するよ」」
そう言うと、ユノとミモザは息を呑んで頭を下げた。