序
Me…Iowa-Kurogane(黒鉄)は、その時岩川台営業所敷地内の集会所で、扶桑とチェッカーをPlayしていた。
白黒交代で、8回ほどPlayしたのだけれど…Meは全敗してしまった。
え…ちょっと強すぎない?チェッカーと言えばどっちかというとAmericanなMeの方に馴染みがあるし、分がありそうなゲームなんだけど?
ウチの扶桑って、マリオン・ティンズリーの再来なの?頭脳にチヌーク(”絶対に負けない”チェッカーコンピュータ)でも備わってるの?
とにかくそのぐらい扶桑はチェッカーが強かった。
ウォースパイトから扶桑はチェッカーが強い、と聞いて今回扶桑に挑んでみたわけなんだけど、まさかこれほどとは…。
「完敗だわ。それにしてもあなたが何かゲームをやるとすれば、もうちょっと日本風の…囲碁とか将棋とかと思ってたんだけど。」
Meがこう言うと、扶桑はこう返してきた。
「名前が扶桑(日本)なのに、チェッカーやチェスと言った西洋のゲームに縁があるのは、我ながら不思議に思っているのです。」
「ただ、私はチェッカーやチェスに限らず、ゲーム一般に対して関心はあります。」
「およそ知性というものがこの世に在って出来ることというのは…法則や規則性を読み取ること、模倣すること、そして選択することだと思うのです。」
「そして選択すること、選択の結果を受け入れる、というのは、まさにゲームそのものであるとも思います。」
「ですからゲームについて関心を持つことは、全ての人、艦娘にとって必須なのではないかとも…。」
「…要約すると?」
「ゲームは盤上に圧縮された人生そのものです。決して軽んじられてはならない、というのが私の持論なのです。」
扶桑というと物静かな艦娘というイメージがあるけど、ウチの扶桑は結構饒舌だった。それにゲームというものに高い関心を持っている、ということもMeには意外に思えた。
扶桑が「ゲームは盤上に圧縮された人生そのもの」と言ったことで、Meは一つ質問を思いついた。
「へえ、それじゃあRPGにも関心はあるわけね?」
すると扶桑は少し気まずそうに答えた。
「関心はあります…けど、実際に遊んだことは、あまりありません。」
「ゲームは盤上に圧縮された人生そのもの、という持論を持つ私が、違う世界で生きる、即ち違う世界で何らかの役割を演じる(ロールをプレイする)ゲームを遊ばないというのは引け目を感じるのですが。」
「なんで?」
「今、手軽に遊べるロールプレイングゲームと言えば冒険の中で経験値を積み重ね、キャラクターを成長させて、魔王を倒して世界を救う…というのが主流だと思うのですが。」
「お恥ずかしい話ですけれど、私、根気というものがなくて…。キャラクターを成長させるのが面倒くさいと感じてしまうのです。」
「何だかそれも意外だわ。あなたって、結構根気強く、粘り強く任務…仕事に臨むと評判なんだけど?」
「お仕事を離れたところでまで、根気強さや粘り強さを発揮する気にはなれないというのもあるのです。」
扶桑はさらに続けた。
「でも、ロールプレイングゲームに関心があるのは確かです。」
「ロールプレイングゲームについて語りたいことはいくつかあります。」
「例えば、スライムが弱いというのは誤解なのだ、と言うこととか。」
一拍置いて、さらに扶桑の話は続いた。
「経験値の扱いとか、キャラクターの能力値と言ったものについても、ちょっと考えたことがあるのです。」
何だか急に話が細かくなったような気がしたけど、Meは続けて扶桑の話を聞いた。
「大抵のロールプレイングゲームでは、キャラクターが一定の経験値を積み重ねれば、レベルが上がって成長する…という流れを取りますが。」
「これはどのくらいのことをすれば、確実に成長できるのかと言うことが事前にわかっている、という風にも見えます。」
扶桑はそう言って席を立ち、戸棚の方に近づいた。
戸棚には何故かEVA樹脂製のジョイントマットと、竹串が何本か置かれていた。
扶桑は竹串を一本取って戸棚から5から6フィート離れて、そこからジョイントマットに竹串を投げつけた。
すると竹串はジョイントマットに突き刺さった。
ウチの扶桑って、手裏剣を投げられるんだ。
「アイオワさん、これ、できますか?」
「え?いや、今急にできるかって言われても…。」
「練習すればどうでしょうか?」
「まあ、何回か練習すればできるようにはなるんだろうけど…。」
「では、何回練習すればできるようになると思いますか?」
「それはさすがにわからないわね。」
「そう、どのくらい練習すれば出来なかったことが出来るようになるのか、それは事前にはわからないのが普通です。」
「でも大抵のロールプレイングゲームでは、どのくらいの経験値を積めばレベルが上がるのか、成長するのか、事前に定まっている。」
「よくよく考えてみれば奇妙な話です。それで私は、キャラクターの成長を表現する、別の方法は無いものかと考えてみました。」
「キャラクターの能力値についてですが。」
「ロールプレイングゲームでは、キャラクターの能力値には色々なものがあります。」
「例えば、知力とか…幸運度とか。」
「でもキャラクターの知力が高かったとしても、そのキャラクターを操作しているプレイヤーは、『頭の良い』キャラクターをゲーム世界の中で演じ切ることが出来るのか…と私は思ってしまうのです。」
「また、幸運度についてですが。」
「いくらキャラクターの幸運度が高かったとしても、ゲームである以上、そしてゲームのシステムによっては思わぬ不運に見舞われることもあります。」
「そうなると、この幸運度の高さは見せかけか!と嘆くプレイヤーも居られるのではないかと思います。」
「そうするとキャラクターの知力とか幸運度といった能力は、数値で設定するのではなく、プレイヤー自身の知力や幸運度で表現するべきなのではないかとも思えるのです。」
「コンピューターで遊ばれるロールプレイングゲームではそれほどでもないのですが。」
「テーブルトークのロールプレイングゲームは、ちょっとルールが多くて複雑なような気がします。」
「ただプレイするだけでもう一つの世界が広がり、誰にも予想できない物語が展開するロールプレイングゲームは大変魅力的なゲームですけれど。」
「私のように根気のない者には、ちょっと敷居が高いゲームであるような気もします。」
「そこで…。」
「お手軽に楽しめるテーブルトーク・ロールプレイングゲームのルールを、試しに考えてみたのですが。」
興味を持ったMeは、そのまま扶桑のプレゼンを聞くことにした。