ダンジョンで英雄を騙るのは間違っているだろうか?   作:モンジョワ〜

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閑話 彼の冒険

 

 これは三日前のお話、シャルルが関われなかった一つの冒険譚。

 

 耳が痛くなるほどに空気が張り詰める。

 祭に相応しいかのように陽の光が煌めき、飾り付けられた何枚もの旗が陽気に揺れる。

 そんな大通りに異色な存在が一つ、場違いのように紛れ込んでいた。

 

 周りから悲鳴が木霊する。

 尻尾の如き長い銀の髪を持つモンスターを見て僕は言葉を失った。

 そのモンスターの両手首には無理矢理引き千切られたであろう鎖が垂れ下がり、地面の上でとぐろを巻く。このモンスターを僕は知識だけでしっていた。

 ――シルバーバック。

 十一階層で現れる今の僕では敵わない相手。

 自分の到達階層より遙か下層の領域を根城にする怪物。

 トラウマ(ミノタウロス)には劣るとは言え、その力は今の僕とはかけ離れているであろう。

 

 そんな怪物は何故か、迷いなく僕と一緒にいる神様に襲いかかってくるのだ。

 少し観察して分かったが、狙いは一緒にいる神様だ。

 彼女を守るために立ち塞がろうとしたけれど、そんな僕には目もくれず目の前の怪物は腕を薙ぐ。

 寸での所で避けれたものの、乱暴な拳は止むことはない。

 

(ここにいると、不味い!)

 

 狙いが神様ならこいつは何処までも追ってくる。

 この混乱に陥っているメインストリートでは誰かを巻き込んでしまうから長居は出来ない。

 それに、自分の事だけを守ることに精一杯な人達では、神様を助けてくれるような人は――。

 

(いや、違うだろ!)

 

 誰かに助けて貰うんじゃない。

 誰も戦わないのなら、僕が彼女を――家族を助けないといけない。

 

 ここは場所が悪い、だから僕は場所を変えることにした。

 

「神様、こっちに!」

 

 神様の手を引いて路地裏にへと飛び込んで、相手が追ってきたかどうかを確認する。

 案の定あの化物は僕達を追いかけ始めた。

 あの化物は神様だけを狙ってる。それこそ、まるで誰かに操られているように……。

 

「神様、ダイダロス通りに逃げます! あそこなら撒けるかもしれない!」

 

 本来ならこの人工的な迷宮で追いかけっこするなんて無謀と言ってもいい。

 だけど、今の僕のステイタスなら最悪逃げる事だけなら出来る筈だから。

 この騒ぎ、きっと人が来るはずだ。

 モンスターを町中に放置するなんてギルドはやらないだろうから。

 だからタイムリミットはそこまで、逃げ延びて生き残る。

 それが倒せない僕の唯一の作戦。

 

 だけど……そんな僕の淡い期待を壊すようにそれは現れた。

 近付いてくる不穏な音、その直後足元の石畳に大きな影が走る。

 

(しまっ――)

 

 野猿を彷彿とさせるような巨大な怪物は、まるで木々を移動するかのように軽い身のこなしで建物の間を移動し、撒くために使っていた迷宮など無視して僕達の近くに現れた。

 頭上からの奇襲により、僕と神様の間に現れたそれ。

 守らなくちゃという意志で前に出るも威嚇されるだけで僕は怯む。

 ――だってその咆哮が、埋もれていた記憶を掘り出してきたから。

 記憶の中に根付く雄牛の咆哮、それが僕を恐怖で支配する。

 

(怖い、逃げ出したい、怖い)

 

 奥にいる人を守らなくちゃ、だって今彼女を守れるのは僕しかいないのだから。

 

(怖い)

 

 恐怖、義務感、臆病風と使命感……。対立する生き残る為の本能と感情が忙しいほどに暴れる。

 だけど、そんな時――誰かの言葉が蘇った。

 強くなるにはと僕は聞いた。

 そしたら彼は答えた。

 

 何かを貫き通せと――そしたら強くなれるって。

 そしてその人は言ってくれた。僕はかっこよかったって。

 無様な僕を本心から褒めてくれて、自信をくれた。

 

 ――カッコいいって言ってくれたのだ。

 

(僕は、男だろう! その言葉を嘘にだけはしちゃいけない!)

 

 別の憧れを抱いた彼を嘘つきになんかしちゃいけない。

 何より――彼女を守るという意志をブレさせちゃいけない! 動け、武器を構えろ、負けるなんて考えちゃ駄目だ。勝て、彼女を守るんだろう? 

 シャルル・ファルシュに近付くために、アイズ・ヴァレンシュタインに並ぶために! 冒険をしろ、ベル・クラネル!

 

 自分を鼓舞する。

 武器を構えた。

 相手を見やる。

 

 こわい――だけど、先程のように絶望だけは感じない。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!」

 

 持っていた二つの短刀を構え地を蹴った。

 一撃目で目を潰す。相手が侮っていたからこそ、通じた一撃は相手の目を潰した。

 もう一発を脳天に、致命傷にはならないけれどそれは怯ませるには十分だった。

 すぐに抜いてまた構える――だけど持ったナイフは刃こぼれしていた。

 

 僕の攻撃じゃ、相手を傷つけられない?

 いや――この武器じゃ足りないのだ。

 じゃあ、どうする?

 

「ベル君! これを使って!」

 

 渡されるのは黒いナイフ。

 何故か安心感を覚えるその武器、これがあればいけるそんな感覚が脳裏を過る。

 ――さぁ倒そう。初めての冒険をしよう。

 

 モンスターには弱点がある。

 それを聞いたのはいつだったか……モンスターにはモンスターたる所以があるのだ。

 それは魔石と呼ばれるもの、どんなモンスターも胸の中に持っている核。

 

(狙うなら――そこしかない!」

 

 叫び、走り……避ける。

 よく見れば単調な攻撃だ……あの時のウォーシャドウのように素早くない。

 ならば避けれる。

 その力は脅威だけど、当たらなければ意味が無い!

 隙は見えた――なら後は!

 

「ぅああああああああ!」

 

 情けないかもしれないが叫びながらの突撃槍。

 それは隙を晒した相手に突き刺さり、相手の命を奪った。

 




ベル・クラネル

Lv.1

力:E479

耐久:G246

器用:F345

敏捷:D534

魔力:I0   

【スキル】

情景一途(リアリス・フレーゼ)
・早熟する
懸想(おもい)が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。

 主人公に褒められてやる気出した結果、この時点で原作より成長したベル君の図。武器さえよければステイタス的にシルバーバック倒せてた模様。
 到達階層は八階層。

アストレア・レコード編のシャルルみたい?

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