【悲報】青獅子の学級俺氏、詰む   作:一般通過アガルタ民

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第1話

 

「……え?」

 

気がついたら、知らない天井だった。

 

木目の天井は、普段ならば木特有の暖かみを感じられていいね!ぐらいは言えたかもしれない。しかし、生憎今は異常事態だ。

 

横たえていたベッドからガバリと起き上がる。ますます知らない部屋だ。どこだよ、ここ。

キョロキョロと当たりを見渡すと、どうやらおれは、ベッドが沢山置かれている一室の片隅に寝かされていたらしい。

 

「……ンガッ……すぅ……」

 

「……」

 

時間帯は夜のせいか、あたりは真っ暗だ。

唯一のランプの明かりに照らされながら、机に突っ伏して眠る女性を起こそうかと思ったが、勇気が出ずにやめて置く。

というか、すごい派手な髪色と服装だなこの人。

軋む木製の扉にビビりながら、起こさないように慎重に部屋の外に出る。

暗くてよく分からないが、とにかく大きな建物の一室にいるのだろう。 とりあえず、外に向かって歩き出すことにした。

 

「でかいな…」

何とか外に出ると、庭にしては大きすぎる空間に出た。

そうすると、今までいた建物の全容が見えてくる。 滅多にお目にかかれないような、西洋式の教会のような建物や塔と、あまりにも鮮やかな星空が眼前に広がっていた。

 

「本当に、どこだここ…」

 

冷や汗がどっと溢れる。少なくとも、こんな、まるでファンタジーのような洋館にいた覚えはない。

 

「(異世界転生か明晰夢?もしくは誘拐…なわけないか)」

 

力をはいらずふらつく体をなんとか整えられた庭木の隣に設置されたベンチに腰をかけた。

 

「…………よし、逃げよう」

 

夜のうちに、誰にも見つからないように逃げよう。どこに逃げるのかは分からない。盗んだバイクで走り出すしかない。

 

善は急げだと立ち上がり、3歩ほど歩いた時だった。

 

「どこに行くの」

「うわっしょい!!!!?」

 

ギ、ギと油の刺していない機械のように振り返ると、ちょうど雲の隙間から除く月明かりが、その声の主を照らした。

 

「まだ暗いから、外には行かない方がいい」

「…………!」

 

彼女の姿と、暗い緑の髪に、そして、何よりも謎の既視感に目を奪われた。

 

「あの、……どこかでお会いしたことがありましたっけ」

「 いや、無いはず」

「そうですよね、すみません。変なこと聞いて」

 

彼女に背を向けて再び歩き出す。

 

「待って」

「うわっしょい!?」

「(うわっしょい?) さっきも言ったけど、外はまだ暗い。修道院の外に行くなら、夜明けまで待った方が良い」

「そうですね…」

「? なにか急ぎの用事でもあるの」

「そういう訳でも無いんですが」

 

肩を掴まれた手で強引ではないものの、力強く引かれ顔と顔が向き合わされ、思わず仰け反る。

 

「うお!?」

「頭を怪我している」

 

目の前の彼女が自分の額を振れるようなポーズにつられて自らの額に手を当てると、布のような感触がした。包帯が巻かれているのだろうか。

 

「あ、ホントだ」

「そうか。君が…」

 

無表情のまま、納得したような顔で顎に手を当てる女の人は、そのまま無感情の声音で喋り始めた。

 

「野営中に、女子生徒を庇って怪我をした生徒がいるとは聞いていた」

「?」

「私はベレス・アイスナー。急遽、この士官学校の教師を務めることになった」

「ベレス……アイスナー……?」

 

「は?」

 

限界まで目を見開いて、「ベレス・アイスナー」と名乗った彼女を見つめた。

 

「嘘だろ…」

「嘘じゃない」

 

無表情で、無感情なのに、何故か冷たさを感じない彼女は俺が画面で何度も見てきた人だった。

 

「先生?」

「うん、よろしく」

 

 

…そうか、これは夢なのか

 

「何をしようとしているの?」

「壁に頭を打ち付けようと思って」

「なぜ」

「…夢から醒めようと思って……」

 

あれだな。無双が楽しみすぎて、ついに夢にまで出てくるようになっちゃったんだな。きっと。

早く目を覚まして体験版をやらなければ…。

 

さあ!いざ無双世界へ!

 

と思ったところで、先生に腕を羽交い締めされた。

 

「離してください先生!おれは再びフォドラに舞い戻らなければならない!」

「頭に衝撃を与えない方が良い。それに、フォドラはここだよ」

「あっ。確かに」

 

良く考えれば、先生の言う通り既にフォドラにいるのだから、わざわざ夢から覚める必要は無いだろう。

 

夢なんだから、しばらく楽しんだって何のバチも当たらないはずだ。

 

俺は一体どの学級なんだろうか。金鹿がいいなぁ。いや、先生がいる学級に行くのが1番だ。先生の担当する学級に行かなければ、 金鹿はともかく詰む。特に青獅子。

普通は先生が担任になった時点で所属する学級は決まっているが、そこは夢だ。なんとでもなるに違いない。

 

「……ぐ」

 

酷い頭痛と、力が抜ける体に耐えきれず膝を着く。

頭や体は酷い浮遊感でふらふらとするのに、ズキズキと走る痛みが際立って、意識を保つのもしんどくなってきた。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です…」

 

先生がしゃがみこんで、こちらを心配してくれている。 なんという役得。せめてもう少し夢の中にいたい。ベレス先生サイコー

 

「先生!」

「ディミトリ」

 

ディミトリ?

 

顔を上げると、滲む視界の中、金髪碧眼のイケメンがいた。

ディミトリ・アレクサンドル・ブレーダッド

青獅子寮級長にして、フォーガス神聖王国の王子、そして主人公格の1人だ。

 

こうやってみると、本当にイケメンだな。なんかほんと、イケメンとしかいえない。

でもせっかく夢なんだから、強いて言えば女の子のキャラを出して欲しかった。

 

「怪我をした弟が、医務室から居なくなってしまって…。この辺りで見かけませんでしたか」

「もしかして、彼のこと?」

「アーサー! お前、ここに居たのか」

 

アーサーとは一体誰のことだろうか。 先生の名前をアーサーにしてるのか? 性別の設定は女性なのに…。 謎のセンスだ。でもおれもはんぺんよしおってふざけた名前でやってたから何も言えないな。

 

「…どうした?」

「まだ、傷が癒えていないみたい」

「大丈夫か? 俺の手に捕まれ」

差し出された手を、じっと見つめる。

 

「……アーサー?」

 

 

そこで意識は闇に堕ちた。

勿体ない。もう少し楽しんでいたかったのだが。

 

 

 

 

▲▼

 

ふいに、目が覚めた。

 

「……あ゛ー……」

 

昨日はとても良い夢を見れた。

何故かバキバキに痛い体を伸ばす。

 

「(寝違えたのかな…)」

 

「あら、ようやく起きたのね。もうすぐ夕方よ」

「…………」

「ディミトリから聞いたわ。昨日はあたくしが寝ている間に、夜の時間抜け出したんですって?ダメよ?頭を強く打ったんだから、安静にしてなくちゃ……ってちょっと!?どうしてまた寝ようとしているのかしら?」

「いや、まだ夢から覚めてないなって思って」

「何?あたくしの美貌が夢のように美しいってこと?」

「そうですね。おれはこのまま永眠するので。それでは」

「ちょっと!本気で寝ようとしない! はぁ、ちょっと待っててちょうだい。ディミトリを呼んでくるから。彼、あなたの事をずっと心配していたのよ?」

 

そう言ってウインクをすると、マヌエラ先生は爽快に扉を開けて出ていった。

 

「……まだ夢、覚めてねえじゃん」

 

朝の光にやられた目頭を抑えた時、目にかかる髪の色が黒ではないことに気づく。

 

「おれいつの間にブリーチしたっけ?」

 

「ああ、目が覚めたのか」

 

マヌエラ先生らしき人と一緒に入ってきたのは、昨日(?)と同じく、ディミトリだった。ディミトリの出現率が高いな。この夢。

 

「全く、お前は不注意が過ぎる。軽傷だったから良かったものの…」

 

「まあ良い。昨日も元気に歩き回っていたし、回復はしたんだろう? 今日の授業は終わってしまったが、いくつか渡すものがある。さあ、教室に行こう」

 

「……」

 

「ああ、どうせ怪我で動けない、なんて言うつもりだろう。課題でも荷物持ちでも、俺が手伝ってやるから」

 

………………。

 

「…アーサー?一体どうしたんだ?」

 

「ちょっと待って。ディミトリ」

 

閉口したおれの前に、マヌエラ先生(仮)が、ディミトリ(仮)を座らせる。

 

「あたくしが誰だかわかるかしら」

 

「マヌエラ先生」

 

「彼は?」

 

「ディ…ミトリ?」

 

「じゃあ、自分の名前は言える?」

 

「…………」

 

みるみる険しい顔になるマヌエラ先生に、絶句するディミトリ。こんな顔モーションにあったんだな。

 

「あっ、あれか。もしかして、おれの名前がアーサー?」

 

閃いた!と口にするが、2人の表情は変わらない。合ってると思ったのに。俺の中のコナンくんが真実はいつもひとつ!って囁いたのに。

 

「姓は」

「ディミトリ・アレクサンドル・ブレーダッド」

「俺じゃない。お前だ」

「…………姓ド忘れする事ってない?」

「無い」

 

あっ腕を組むやつだ!これ進研ゼミでみたことある!

ディミトリ(仮)からふざけてんじゃねえよお前って雰囲気ビシバシ感じるけど、姓なんて聞かれても、タナカとかスズキとか世界観に合わないじゃん!

 

「彼との…ディミトリとの続柄は言える?」

「続柄?誰と誰の?」

「ディミトリとあなたよ」

 

風花雪月、めっちゃムズい単語サラッと会話に使ってくるよな。続柄なんて急に言われてもわかんねーよ。

 

「えーと、同じ士官学校の生徒?」

 

そうだよな?設定的に生徒だよな?この調子じゃ同じ学級かと思ったけど、そこは保留だ。

 

「お前、冗談もいい加減に…」

「いやふざけてない。おれ本気」

 

世界観に入るなら、生徒として没入するのがセオリーというものだろう。

そしてこのディミトリ、ちょっと怒ってない? 怒るの早くない?

 

「頭部への強い衝撃による、記憶障害かしらね」

「い、今どきそんなベタな…」

 

記憶喪失なんて、そんな異世界転生系ソシャゲ主人公な展開ある?

 

「マヌエラ先生、それは治るんですか」

「そんな顔しないでディミトリ。 あたくしの専門では無いから詳しいことは言えないけれど、恐らく一時的な物だとは思うの。それに、少なくとも彼はあなたのことは覚えているわ」

 

すっっごい深刻そうな顔してる…。

 

「…本当に、自分が誰なのか分からないのか」

 

すっっごい悲しそうな顔してる…

 

うなずいた。

 

「お前は俺の弟だ」

 

 

……ディミトリって、冗談言うキャラだっけ

 

 

 

 

 

 

 

 




実は、初めて登場したのはディミトリでも、ベレス先生でもなく、マヌエラ先生です
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