【悲報】青獅子の学級俺氏、詰む 作:一般通過アガルタ民
※2022/07/28 少しだけ加筆修正
アーサー・ルードヴィヒ・ブレーダッド
ファーガス神聖王国第二王子で、ディミトリの実弟らしい。
そう、おれのことだ。
嘘だ!!と思ってました。いや今も思ってるけど。
しかし、鏡に映るのは見慣れない金髪碧眼、どうみてもディミトリと血の繋がりがありますよといった顔立ちの少年が映っていた。
鏡の中の少年は百面相をしている(させてるのはおれだけど)
とりあえず自室に帰って、暫くは安静にと言われたおれとディミ……兄上は、おれの部屋に案内してくれるようであった。
首根っこを掴まれた状態で。
ブレーダッドの紋章は怪力なのは確からしく、ほとんど歩いていないのに、兄上は体重なんてなんのその、片手でおれを持ち上げて歩いている。
「アーサー、ちゃんと歩け」
「いいじゃん別に。あとなんでおれこんなに拘束されてんの」
「お前が急に飛び出そうとするからだ…」
ただ医務室の窓からフライアウェイしようとしただけなのに…。
『医者として、あたくしがここで診療することも可能よ…しかし記憶喪失では、学校生活に支障をきたすでしょう。あたくしからレア様に進言してもいいのだけれど』
『いえ、この調子の弟を独りでフェルディアに帰しては不安が残ります。ここで、私が面倒を見ます』
『そうね、そちらの方が安心だわ。彼にとっても、あなたにとっても』
『(当人が目の前にいるんですけど)』
という会話があり、おれはこのまま士官学校生活続行らしい。
よかった…青獅子固定なのは予想外だが、せっかく風花雪月の世界に来たのに序盤で退場になる所だった。
「(そういえば、なにか大切なことを忘れているような)」
なんだっけ?
「お前の部屋はここだ」
頭を傾げているうちに、兄上の足が止まった。たどり着いたのは、画面上で何度も走り回ったあの宿舎だ。
「俺も一旦部屋に帰るが、また迎えに来るから、それまで部屋を出るなよ」
「へいへい」
「…フリじゃないからな」
「へーい」
ベッドに机、所属を表す青い絨毯。なんてことの無い部屋だが、ゲームで見たまんまの寮の部屋だがテンションは上がる。テーマパークに来たみたいだぜ。
「さてと、何か金目のものは…(※自分の部屋)」
冗談もさておき、何かてがかりは無いだろうか。具体的には、手紙など。日記があればなお良しだ。
「ない」
数式や、メモの走り書きも何も無い。
まだ寮に入ったばかりならしょうがないか。
過ごした時間が浅くとも、角を合わせて整理整頓された本棚に教科書たちは、部屋の主の性格を窺わせる。
どうやらアーサー・ルーなんたら・ブレーダッドはおれと正反対で几帳面な性格だったようだ。
ちなみに紋章は持っていない。名前だけが豪華な男である。
「部屋の中にシャンデリアがある…」
電気ではなく、魔法で動いているのだろうか。シャンデリアの上には何か装置のようなものが見える。
「よっと」
シャンデリアの構造を見ようと椅子の上に立ち上がった。
「あッ!? 届かない! おれ、思ったより身長低いな!?いっで!!!」
椅子から落ちた。 下が絨毯で助かった。セーフセーフ
「…お前、何してるんだ?」
兄上には見られた、アウト。
再び連れて行かれたのは、これまたゲームで以下略の、青獅子の教室だった。
しかし、ゲームでは知りえないこともある。
兄上は目立つということだ。
一緒に歩いていると、多くの生徒の目線がこちらに向けられているのを感じる。陰キャには辛い仕打ちである。
教室の中には、おれが一方的に見知った顔があった。
「あっ、ディミトリ殿下!それに、アーサー殿下も!」
灰色の髪の少年――アッシュの声を皮切りに、みんなが集まってきた。
「御二方とも!良かった。無事だったのですね」
「いやぁ、良かったぜ。2人に何かあってはファーガスの騎士の名折れってな」
「チッ…弟の方はともかく、猪は問題ないだろう」
「ディミトリは盗賊の囮でひとりで行っちゃうし、アーサーは怪我をしちゃうし肝が冷えたわ〜」
「うん。あたしもびっくりした…!殿下、痛い所があったら言ってくださいね!」
「……ご無事で何よりです」
アッシュ、イングリット、シルヴァン、フェリクス、メルセデス、アネット、ドゥドゥー……青獅子ダヨ!全員集合である。
「ああ。皆、無事で何よりだ。それと、ひとつ伝えておきたいことがある」
「?殿下、どこかお怪我でも」
「いや、俺は大丈夫だ。実は、アーサーが―――」
「記憶喪失!?」
みんなの驚かれた目線が注がれて焼け死にそう。
「それは、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。問題ない」
メルセデスの問いにキメ顔で返した。
「記憶といっても、一部分……自分に関することを忘れてしまっただけではあるんだ。
しかし、みんなには悪いが、アーサーが何か困っていれば手助けしてやって欲しい」
「みんなの名前は覚えてるけど、一応もう一度。アーサー・る……ブレーダッドです。しくよろ」
「今、自分の中間名忘れていなかったか?」
「気のせい気のせい」
みんながあっ……という顔になった。んな長い名前すぐ覚えられるわけないだろ!
「た、大丈夫ですよアーサー殿下!僕たちがお手伝いします!」
「うんうん!あたし達に任せてください!」
みんなの優しさで目から水が…。
もう夕方なので、本日の授業は既に終わって自由時間のところをみんな俺達を心配して残っていてくれたらしい。
各々が散っていく中で、おれは首をかしげていた。
「どうした。まだ身体が痛むか?」
「いや、何か忘れてるような気がして」
「……それはそうだろう。記憶喪失なんだから」
「あっそういう意味じゃなくて」
兄上がさっきから俺を可哀想なものを見る目でこちらを見ている気がする。ほっとけ。
大切……記憶よりも大切というか、今後の人生を左右するというか。 なーにかやっぱり忘れているような。
……。
「そういえば、担任の先生への挨拶もまだだったな。今なら部屋にいるだろう。アーサー、俺と一緒に…」
「ぁああああ゛!!!!!!!!!!!」
「アーサー!?」
駆け出した。
「うっわ!?」
「クロード!!アーサーを止めてくれ!!」
「止めるって……。もうあんな遠くだ。第二王子様は走るのが早いな。あれを止めるのは俺には無理だよ」
クロードがいたらしい。んなの今は無視だ無視。
1番大事なことを忘れていた。そう、これはただの学級選びではない。運命の分岐点だ。
おれの苗字はブレーダッド。
そして、ディミトリの弟で、王子だ。
多分、スカウト制度は適応されない青獅子寮固定の存在だろう。
むしろ適応されることは重要じゃない。ファーガスが死ぬ時がおれの死ぬ時。 兄上が闇落ちしたら終わる。しなくても終わる。 3分の1、もしくは4分の1の確率で。
全速力で走っていると、どこぞのセテスらしき声で「修道院内を走るな」と叱られた気がするが、無視だ。
「ぜエッ……ぜえっ……」
「……大丈夫?」
「せ゛……先生」
そこには、女神がいた。
「君は、昨日の」
どうしようか。いきなり本題を言うには突拍子すぎる。
「昨日は……がひゅっ…自己紹介忘れて……ぜひゅ…」
「落ち着いてからで良い」
自己紹介で話を繋いたが、落ち着かせて呼吸を整える。
「改めて自己紹介を。アーサー・ルー…ブレーダッドです。兄共々よろしくお願いします」
あっ、中間名覚えておくの忘れた。
うん、とツッコミを入れるわけでもなく先生はうなずいた。スルーしてくれたらしい。
「そんなに急いで、自分何か用?」
「ええと、そうですね。先生はどの学級を――――」
「アーサー?」
凛として、かつ鈴を転がすような声が俺を呼んだ。
「エーデルガルト」
先生が、彼女の名前を呼ぶ。 エーデルガルト・フォン・フレスベルグ。白い髪に藤色の瞳と、眩むような紅。
「つい今さっき、ディミトリがあなたの事を探していたわよ」
黒鷲の級長にして、アドラステア帝国の次期皇帝。そして、兄上の―――
「
「ああ」
その言葉を聞いて、おれの視界はブラックアウトした。近日何回目かの気絶だった。
遠のく意識の中、兄上の焦った声を聞きながら、おれの頭の中にはたった一言が占めていた。
あっ、詰んだ。
アーサー・ルードヴィヒ・ブレーダッド
ファーガス神聖王国第二王子。 紋章はもっていない。
野営の際、女子生徒を庇って気絶してしまったせいで、運命の分岐点を強制スキップさせられた哀れな少年。
名前の由来はとあるソシャゲで有名なあの王様と、狂王と呼ばれた王様から。
先生がエガちゃんを選んだせいで人生の難易度がルナティックの模様。