【悲報】青獅子の学級俺氏、詰む 作:一般通過アガルタ民
黒鷲の学級は、節末の課題として盗賊退治にザナドへ向かった。
本来は学校が始まって間も無い竪琴の節は、掃除といった奉仕活動が普通なのだそうだ。
そう、青獅子の学級が与えられた課題と同じようにな。
もし討伐がおれの学級であったなら、いくらこの身体が武器を振るえるとはいえ背筋が凍る思いだったろう、なんて悠長なことを言っている場合ではない。
先生が黒鷲の学級を選んだ時点で、俺の詰み決定した。
エーデルガルトが宣戦布告するのは3月である孤月の節だ。今は5月の竪琴の節だから、タイムミリットは実質残り10ヶ月。そうしたら戦争が始まり兄上が闇落ちしおれはサヨナラだ。
考えられる生存手段は3つ。
1つ目はエーデルガルトの殺害。
宣戦布告前に殺してしまえば、帝国も戦争どころじゃなくなる。そうすれば、幾らでも手段はある。
2つ目は国外逃亡。 おれがファーガスの王子だろうと、フォドラの外に逃げてしまえば追って来れないはずだ。
3つ目は先生にエーデルガルトを選ばせないこと。いわゆる教会ルートである銀雪の章ならば、生存も可能かもしれない。 先生が敵に回らない以上、立ち回り次第になるだろう。
まず俺が考えたのはエーデルガルトの殺害だった。 でも早々に辞めた。
ヒューベルトや教団、兄上の目を掻い潜っての暗殺は難易度が高すぎる。
万が一に暗殺に成功したところでバレてしまえば全部おじゃんだ。
ファーガスの王子が帝国の皇女殺害なんて知れればもはや別の戦争が勃発するだろ結局詰むのである。
それに何が悲しくて一番最初に選んだ学級のキャラの殺害を考えなきゃならんのか。世知辛すぎるわ。あれむしろそれが風花雪月の醍醐味?
それは置いて、最も堅実な生存は国外逃亡だ。 スレンやパルミラはフォドラと敵対しているから、西のブリギッドやダグザに行くべきか。 命以外の全てを失う事になるが、背に腹はかえられない。
3つ目の手段はなぁ。
結局全てを先生に依存することになる以上、不確定な要素が多すぎる。
しかも、銀雪ルートになったとしても、多くの不安要素が付きまとう。
……でも、何も失わずに済むかもしれない。
ふと視界に青がちらついた。
視線を上にあげると、頬杖をついて座る俺の傍に兄上が立っている。
意識を戻すと、節末の課題について説明をしていたはずのハンネマン先生は既に教室内に居らず、生徒の数も疎らになっていた。
「ちゃんとハンネマン先生の話を聞いていたか?」
「あー、えーと、なんだっけ」
「お前な……」
一瞬ため息をつくと兄上は呆れたように眉尻を下げた。お小言が始まりそうな雰囲気を、机に手を着いて立ち上がることで遮る。
マヌエラ先生の許可を得て、先月から座学に加えて、武芸の訓練も本格的に開始になった。皆や兄上のおかげで前に危惧していた程座学に遅れを取ることはなかったけれど、日々の忙しさにかまけて何も考えないようにしていた自覚はあった。
「今節の俺たちの課題は、近隣の村の収穫手伝いだそうだ。移動は一日もかからないが、その分集合時間は早いぞ」
兄上は結局俺を起こしに来る癖に、律儀に生活習慣を注意することを忘れなかった。
「では、後でな」
「ほーい」
教室の前で一旦兄上と別れた。
決められた日の放課後に、兄上と訓練することが恒例となってしまったのだ。
結局、俺が選んだ武器は槍だった。
今のところ、やっぱり槍が一番やり易いのだ。やりだけにな。
地味だけど有難い転生特典である。 多分、「前」のアーサーがやってただけなんだろうけど。
でも紋章持ってないからなあ。ブレーダッドの紋章はマジですごい。初めて訓練した時、兄上が訓練場を破壊したけれど、そんなもん序章だった。 しばらくして撃ち合った時なんて一発目で吹っ飛ばされたしな。
日常生活でも本人はすごく気をつけてるんだろうけど、めちゃくちゃ物を壊す。
筆は「あれ?使い捨てだっけそれ?」ってレベルでボキボキ折ってるし。
いや〜〜〜〜欲しかったな紋章。 ブレーダッドだから持てる可能性はあった訳じゃん?
本人は日常生活で不便だ…とか抜かすけど命の危機の前ではそんなの些細だからねマジで。
クソ……ゲームだと多分俺は二軍どころか三軍ユニットだからなぁ。力……力さえあれば……。
悪役のセリフかよと思いながらブラブラと中庭を歩いていると、なにやら上を見上げるメルセデスとアネットを見つけた。
「う〜ん…困ったわ〜」
「よう。メルセデス」
「あら? アーサーじゃない。気分はどうかしら〜」
「こんにちは。まあまあかな」
おっとりとしたメルセデスは、まずおれの体調を気遣ってくれた。 そんなにやばそうに見えるのか?おれ……
「木の上なんか見つめてなんかあんの?」
整えられたなんの変哲も無い木だ。しかし、何か声が聞こえる。
「にゃぁ…」
「猫?」
「子猫が降りれなくなってしまったのよ〜アーサーが通り掛かってくれて良かったわ。私、人を呼んでくるから、落ちないように見ていてくれるかしら?」
「ちょっと待って」
去ろうとするメルセデスを、一瞬の思案のうちに引き止めた。
木に足をかけ、ほぼ無意識のうちに体が動きあっという間に登りきる。
「よし。大人しくして……うおっ!?暴れるなって!?」
幹から手を離し、枝の先に蹲る子猫を抱き上げるが、爪で腕を引っかかれて思わずバランスを崩した。
視界が一回転するうちに体が再び動き、受身を取るように地面に膝を着いていた。
大丈夫?怪我はない?と優しく心配するメルセデスに頷き、手を広げ解放すると、子猫は飛び出していく。
「アーサーも子猫も無事で良かったわ」
腕にかざされた手を退けられると、引っかき傷がきれいさっぱり消えている。白魔法を使ってくれたらしい。
「アーサーはとっても身軽なのね〜。良かったら、この後一緒にお茶しない?ちょうどお菓子を焼いたのよ〜」
「食べる」
メルセデスのお菓子か…支援会話で見ていてとても美味しそうだったんだよな。ごちそうしてくれると言うなら願ったり叶ったりだ。
早速ウキウキしながらおれはメルセデスと共に彼女の部屋に向かった。
真夜中。
「よっこいせっと」
何も詰め込まれていない木箱を退かすと、現れたのは地下奥深くへと続く隠し通路。
ガルグマグの地下、通称アビスへと至る道である。
ある程度場所をを把握していたおかげで
入口を簡単に見つけることが出来た。地味すぎる転生知識のつかいどころその3くらいだったな。
「外套...武器...もったな」
いざアビスへ出発!
暫く真っ暗な道を、炎で足元だけを慎重に照らしながら歩くと、明かりが灯された大きな道に出る。
下へ続く方へ道なりに続けば、地下とは思えないほどの大きな空間に出た。
柱の影に身を潜めながら進む様はさながら別ゲーである。
「ギュルオオオッ!!!!」
「!!!?!!!!?」
唐突に目の前に現れたのは、魔獣だった。
「もー。ほらコニー、ため息ついたよ。それでどうするの?」
「オーっホッホッホ!!見てなさいハピ!!!!私の新作魔法が火を吹きますわよ!!!」
「それ、火じゃなくて雷じゃん?」
バチバチと音を立てる雷魔法を避けるために、無我夢中で柱を登り、梁にしがみつく。おさるのジョージかおれは。
「グギュルォ......」
「あんまり効いてないみたいだけど」
「こ、この魔法はまだ試作段階なのですわ!!!研究を重ねれば、素晴らしい火力になる筈ですのよ!」
「はいはい。わかったから、早くコイツらやっつけちゃお」
髪がちょっとチリチリになった!!!兎も角、今は灰狼の学級のあの二人に遭遇すればややこしい事になる。慎重に逃げよう。
「ん?今何か動いたような...」
「あら、まだ魔獣を取り逃していましたの?」
「うーん、気のせいかな?」
あっっぶね!!!
なんとか居住区らしき場所にたどり着くと、真夜中にも関わらず人がそれなりにいる。地下だと時間なんて関係ないのかもしれない。
酒場でどんちゃん騒ぎを尻目に、ようやく目的地である場所にたどり着いた。
アビスの図書館だ。
ここは教団が破棄した本が沢山蔵書されている。彼らにとって不都合な資料――――歴史の闇に葬られたというべきものたちが。
でも、それらをどうする気もないんだけど。
おれの生存にとってどうでもいい事だしな。
必要なのは、その資料の中になにか使える技術や情報があるかだ。
ある意味、アビスに訪れた時点でおれの目的は達成している。むしろ、訪れたのはついでの用事だ。
本命は、地上におけるアビスへの入口のカモフラージュを(勝手に)補強することで、先生と灰狼の学級の邂逅のフラグをぶち潰すことだ。
アビスはDLCで判明した場所だから、ぶっちゃけ攻略しようがどうしようがストーリーには関係ない。
でも、『最悪』の事態を想定した時、先生にアビスを攻略されたらやばい。
ゲームシステム的にはユニットが加入するだけかもしれないけど、現実においてはそうじゃない。
級長であるユーリスはフォドラの裏社会を牛耳るギャングマフィアみたいな立ち位置の奴だし、バルダザールはレスターの格闘王だ。もう2つ名だけで絶対強い。
ハピとコンスタンツェに至っては前者のふたりに比べれば危険は少ないかと思いきや実際に目撃してみればアレだ。ちょっとチラ見しただけでも怖すぎる。 なんだあの魔物と雷魔法。危険すぎるだろ地下とはいえあんなでかい魔物と魔法を気軽にぶっぱなすなんて。
もう既にギリギリでやばいのに、灰狼の学級の面々が敵に回る不確定要素と考えたら強すぎる。無理。
特にユーリス、国外逃亡なんてしようもんなら裏社会のツテなんかを使われて一気に足がつきそうだ。うん、彼らと先生を会わしちゃいけない。
まあ、先生がアビスの存在に気付かなければそれでいいや、うん。頑張れ灰狼の学級、先生がいなくてもDLCはなんとかなる!!!