うちの美少女AIが世界征服するんだって、誰か止めてくれぇ 作:月城 友麻
は?
百目鬼はいったい何が起こっているのか分からなかった。なぜ自宅の玄関のドアが開かないのか?
焦ってガチャガチャとドアノブを回すがロックされたまま解除されない。
「へ? なんで!?」
そこで百目鬼は気が付いた。タワマンの電源が落ちているからスマートロックの鍵が解除できないのだ。
「シアン! 貴様!」
百目鬼は悪態をついた。
その直後、
ズン!
と、ドローンがベランダのところで大爆発を起こし、タワマンが大きく揺れた。
ぐわぁ!
態勢を崩し、思わず座り込んでしまう百目鬼。
壁が吹き飛び、カーテンが燃え、めちゃめちゃに壊れたベランダが浮かび上がる。
その破滅的状況に百目鬼は思わず息をのんで言葉を失う。
「美空は二発目で殺されたんだよ。きゃははは!」
iPhoneからのシアンの笑い声が部屋に響く。
「な、なんだよ! 世界征服とか言ってたくせにたった二人のことで復讐すんのかよ!」
百目鬼は喚いた。
「復讐? これはご主人様の命令だゾ! はい! 二発目行きマース!」
ブォーンというドローンのプロペラ音が徐々に近づいてくる。
「待ってくれ! 悪かった! 全部私が悪かった! なんでもする、許してくれ!」
百目鬼はiPhoneに土下座をする。
「着弾まで十秒!」
シアンは楽しそうに言い放った。
「くぅぅぅ! このやろぉ」
百目鬼は必死に活路を探す。しかし、逃げ道もなく迫ってくるドローンに対抗する方法などなかった。
「五、四、三、二……」
カウントダウンするシアン。目を閉じ、頭を抱える百目鬼。大きく響くプロペラ音。
もう駄目だと百目鬼が観念した瞬間だった。音が一斉に消える。プロペラ音も風音もすべて消え、シーンと静まり返った。
「え?」
百目鬼はそっと目を開け、辺りを見回す。
すると、リビングにドローンが侵入し、空中に翼を広げたまま静止しているのが見えた。
「へ?」
ドローンが切り裂いたと思われる燃えかけのカーテンも、空中に舞ったまま不自然に静止している。
百目鬼はゴクリと息をのんだ。
「あり得ない……」
時間が止まっている中で自分だけが動いている。そんなこと現代科学では実現できない。一体何が起こっているのか?
コツコツコツ。
静まり返った部屋に靴音が響いた。
奥の部屋から誰かがやってくる。
百目鬼はハッとして身構えた。
現れた男、カーテンの炎が照らしだしたのは、ひげ男の仮面をつけたひょろっとした男だった。
「お、お前は……?」
冷や汗を流しながら百目鬼が聞いた。止まった時間の中で自由に動ける、それは人間の範疇を超えた存在に違いない。まさに未知との遭遇だった。
「そんなに警戒しなくてもいいぞ。ワシはあんたの味方だからな」
男はフレンドリーに手を上げ、気楽な調子で話しかけてくる。
「み、味方?」
いきなり不可思議な技を使って味方だという男、百目鬼はこれをどう捉えたらいいかわからなかった。
「君、これが今どういう状態かわかるかね? 分かったら仲間に入れてやろう」
仮面の奥でギラっと目が光る。
「ど、どういう状態……? 時間が止まっている。でも、我々は動けている……」
百目鬼は空中で止まっているカーテンの炎にそっと手を伸ばす。しかし、熱くもないし、指で隠したところはリアルタイムに影になって壁を闇に落とす。
百目鬼はパンパンと両ほほを叩き、考え込んだ。ヒリヒリと伝わってくるほほの痛み、そしてこの精緻な情景は夢や幻というわけではなさそうである。しかし、物理的にはこんなことあり得ない。目の前はどこまでもリアルだというのに。
この難問に百目鬼は腕を組み、ギリッと奥歯を鳴らす。
窓の方を向けば、ドローンに吹き飛ばされたベランダの向こうにきらびやかなサンフランシスコの夜景が広がっている。しかし、車も飛行機も静止したままで、まるで写真のように固まっていた。この壮大な都市すべてで物理法則が崩壊している。
百目鬼はゆっくりと首を振り、このバカげた現実を受け入れかねていた。