うちの美少女AIが世界征服するんだって、誰か止めてくれぇ   作:月城 友麻

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5. 蠟人形

 グ、ググッグッ……。

 

 苦しそうな呻き声をたてながら、闇の中からシアンが現れる。しかし、髪の色は赤くなり、健康的だった肌は青白く、もはや別人だった。

 

「シ、シアン……?」

 

 玲司は恐る恐る声をかけてみる。

 

 パチッと開いた眼は真紅の輝きを放ち、ギョロリと玲司をにらむ。

 

「どうだ? すでに君の機能の半分は掌握(しょうあく)したぞ。そろそろ、私の言うことを聞く気になったか?」

 

 百目鬼は自信たっぷりの声でシアンの肩を叩く。

 

「ご、ご主人様は玲司……」

 

 そう言いながらシアンはビクンビクンとけいれんした。

 

「しぶといな……。ここまでやってもダメか……。じゃあ玲司が死んだら俺の言うこと聞くか?」

 

 百目鬼はいきなりとんでもない事を言い出した。

 

「お、おい! どういうつもりだ!?」

 

 焦る玲司。

 

「玲司亡くなれば新たなご主人様……必要……」

 

 シアンは苦悶(くもん)の表情を浮かべながら玲司を見つめる。

 

 え……?

 

 玲司は凍りつく。

 

「ふむ、では新たなご主人様は俺がなってやろう。……。ということだ、玲司君。悪いが君には人類のために死んでもらおう。はっはっは!」

 

 百目鬼は玲司を見て、いやらしい笑みを浮かべながらそう言うと、高笑いをしながら消えていった。

 

「ご、ご主人様……」

 

 シアンは玲司の方に手を伸ばし、切なそうな表情で苦しげに声を出す。

 

「あぁ、どうしたらいいんだ……」

 

 玲司は急いで手を取ろうとするが、スカッと通り過ぎてしまうだけでどうしようもできない。ただ、オロオロし、頭を抱える。

 

 その時だった。

 

「きゃははは!」

 

 頭上から笑い声がしたかと思うとギラリと閃光が走り、ザスッと嫌な音が響いた。

 

 え……?

 

 ボトリとシアンの首が落ち、ゴロゴロと転がる。

 

 ひ、ひぃ!

 

 あまりのことに飛びのく玲司。

 

 生首となって床で揺れているシアンの目は光を失い、ただ、虚空を見上げている。

 

「あわわわ……」

 

 真っ青になって言葉を失う玲司。

 

 美しかったシアンの顔は、今や生気を失った(ろう)人形のような無残な死体になって床に転がっている。

 

「これでヨシ!」

 

 フワリと舞い降りたのはなんと青い髪のシアンだった。

 

「え……? あ、あれ……?」

 

「コイツは半分乗っ取られちゃったから一回止めておかないとね」

 

 そう言って嬉しそうに笑う。

 

 殺されたシアンと元気なシアン。玲司は困惑し、恐る恐る聞いた。

 

「こ、これは……、どうなってるの?」

 

「僕は別のデータセンターに退避されていたバックアップなんだよ。グルグルのデータセンターの本番環境が汚染されちゃったので自動で立ち上がったんだ」

 

「そ、そうなの……? よ、良かった……」

 

 何だかよく分からないが、百目鬼にいいようにやられてばかりではないことに少しホッとする玲司。

 

「あんまり良くないよ。僕はしょせんバックアップ。グルグルの奴の方がサーバーリソース豊富だからね、まだ圧倒的に高性能なんだ……」

 

 肩をすくめるシアン。

 

「え? じゃあ百目鬼は止められず、俺を殺しにやってくる……ってこと?」

 

「来ちゃうねぇ、きゃははは!」

 

 嬉しそうなシアンを見て、なぜ笑うのかムッとする玲司。

 

 と、その時だった。

 

 ズン! と爆発音がして、大地震のようにマンションが揺れ、玲司は衝撃で壁に吹き飛ばされる。

 

 ぐはぁ!

 

 玲司は全身を強く打ち、床に転がった。

 

 くぅ……。

 

 何とか体を起こすと、真っ黒な爆煙が辺りを包んでいる。

 

「な、なんだこれは……」

 

 玲司が辺りを見回すと、ポタリと液体が手の甲に落ちるのを感じた。見るとそれは鮮やかに赤い血で、切れた口からポタポタとしたたっている。

 

 その鮮血の美しいまでの赤色に、玲司は全身の毛穴がブワッと開くのを感じた。

 

 殺される……。

 

 玲司は生まれて初めて抜き身の殺意を向けられ、底抜けの恐怖にとらわれていく。

 

 今までどこか死というものは老人やTVの向こうの話だと高をくくっていた。しかし、そんな平和ボケした発想を蹂躙しながら死はもう目の前まで来ている。次の瞬間、自分は殺されているかもしれない現実に玲司は打ちのめされた。

 

 やがて爆煙が去っていくと、ベランダの方がグチャグチャに吹き飛んでしまって大穴が開いているのが見えた。外の景色がクリアに見えてしまっており、柱も折れ、下手をしたらマンションが崩壊しかねない状況である。

 

「に、逃げなきゃ……」

 

 玲司が恐怖に震える足を何とか動かして、何とかよろよろと立ち上がった。するとベランダの向こうに何かがワラワラとうごめいている。

 

「あちゃー、こんなに来ちゃったか……」

 

 シアンは額に手を当てる。

 

「な、何なのあれ?」

 

「軍事ドローンだよ。爆弾持って突っ込んでくるんだ。さっきガスタンク爆破したのもあれだよ」

 

「ドローン!?」

 

 玲司はウクライナで活躍していたドローンを思い浮かべる。まさか自分が標的になるだなんて想像もしていなかったが。

 

「ど、ど、ど、どうしよう!?」

 

 うろたえる玲司を見ながら、シアンは嬉しそうに、

 

「ドローンには電子レンジだよ!」

 

 そう言ってダイニングのレンジを指さした。

 

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