ありふれた職業で世界最強~破壊の意思~   作:山上真

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8話

「いやしかし、こいつは見事なものだ。川には魚が棲み、畑に家畜小屋もある。石造りの住居は三階建てで、部屋数も多い。リビングに台所はもちろん、トイレもあれば風呂もある。おまけに一定期間ごとに自律型ゴーレムが清掃してくれるオマケ付き。ちょいと手直しするだけで、今からでも十分住めそうじゃねえか……。

 それに何が一番いいって、錬成師()にとって最適な環境が揃ってるとこだ。もしかしたら、オルクスも錬成師だったのかもしれねえな」

 

 銀紋様が刻まれたヒュドラを倒したところで勝手に開いた扉の奥。一通り見て回ったところでハジメは感想を告げた。

 

「同感だ。……ふむ、物のついでだ。折角だし、ここを俺たちの拠点にさせてもらうか。旅先からアクセスできるように――多少手間ではあるが――オルクスよろしくどこかに陣を敷かせてもらうとしよう。俺の腕前でも、ここにホームゲートとして予め陣を敷いておけば、繋がる陣を用意することでいつでも戻ってくることが可能になるからな。ついてはハジメ、錬成でいくつかアクセサリーを用意してくれ。それに鍵代わりとなる機能を仕込む」

 

 これだけの拠点だ。脱出と同時にオサラバではあまりに勿体ない。ハジメの言う通り――種を持ってきたり動物を持ってきたりといった――多少の手直しは必要だが、それを加味しても十分過ぎる環境なのだ。

 折角空間魔法を持っているのだから、活用しない手はない。ラピス一人だけならばわざわざ陣を用意する必要もないのだが、ここまで一緒に潜ってきてそれなりに気心も知れているのだ。多少手間でも皆が利用出来るようにするのも吝かではなかった。

 とは言え、最低限のセキュリティは必要である。それにはハジメに手伝ってもらうのが最適だった。

 

「了解だ。……全部が全部ってわけじゃねえが、転送系の呪文なり装置なりってのはRPGのお決まりだからな。……ま、ゲームじゃなく現実なのが厄介なとこだが」

 

 ハジメとしても、ここをいつでも利用できるようにするというのであれば手伝うことに否はない。どうせアクセサリーを作るだけなのだ。今のハジメにとっては手間とも言えない作業である。

 

「しかし、『生成魔法』ねえ……。まさかアーティファクトを作れる魔法だなんて、神代魔法ってのはびっくり箱だね。まあ、イオリとアマリから聞いたところじゃ、ホープスもドグマでアーティファクトを用意してたそうだから、神代魔法で同じことが出来てもおかしくはないんだろうけどさ……」

「でも、正直言って難しいね。簡単な物を作るのにも暫くは練習が必要そう」

「右に同じく。……と言うか、私の場合、苦労に見合う物が出来そうにない」

 

 ハジメとラピスの横では、女性陣が取得した生成魔法について話していた。現代魔法と同じく、神代魔法にも相性や適性はある。

 生成魔法を覚えた以上、やってやれないことはないだろうが、ユエの言う通り苦労に見合う物が出来るかは怪しいところだった。ここを攻略出来るほどの実力があるのならば、ちょっとやそっとの魔法を込めたところで無意味に等しい。役立つ物を作るとなれば必然的に相応の魔法を込めることになるだろうが、比例して難易度も上がっていくのである。

 

「それはユエが攻撃に偏り過ぎているからでしょ。回復魔法を込めておけば役に立たないことはないんだから、いい機会だと思って練習すれば?」

「む、正論。――だけど、香織のくせに生意気」

 

 香織とユエが視線をぶつけ合い火花を散らせる。

 この二人、ハジメを巡る恋のライバルでもあった。香織は地球にいた頃からであったが、ユエの場合はいわゆる『吊り橋効果』である。永らく一人ぼっちで封印されていたところを解放されたのだから無理もない。対象がハジメなのは、あくまでも彼女を封印していた立方体に魔力を注ぎ込み解放へと導いたのはハジメだからだ。……その後に現れたサソリ型の魔物への対処もあって、他の面々へも友好的な感情を抱いてはいるのだが。

 結論から言ってしまえば、心底からいがみ合っているわけではない。『喧嘩するほど仲が良い』といった様な関係だ。

 

「いやはや、この先どう転ぶのかが愉しみでもあり怖くもあるね」

 

 そんな二人を見て、恵里はポツリと呟いた。

 迷宮の攻略中だったこともあり、ユエもこれといった行動に出てはいなかった。精々がアピールする程度だ。

 だが、迷宮は攻略したのだ。オマケに住み心地の良さそうな住宅付きである。

 見た目と裏腹に一行の中では一番年上なのがユエだ。この状況下、何の行動も起こさないのは考えにくい。

 ハジメが香織とユエを憎からず思っているのは見ていてわかる。ならば、ユエがハジメに対し身体を堕としにかかる可能性は決して否定出来なかった。日本人的な感性で言えばブレーキがかかる行為だが、それを異世界人に期待するのは些か以上に分が悪いだろう。

 穿った見方であるのは恵里自身否定しないが、想定しておいて損はない。それが三人の間に本格的な決裂を生む可能性だって無くはないのだから。

 ユエが想定に基づく行為を起こした時、果たしてハジメと香織はどうするのか。……あくまでも傍観者としてのスタンスで、恵里は三人の行く末に思いを馳せるのであった。

 

 ♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢

 

 その日の夜。

 魚という、久しぶりのまともな料理で腹を満たしたその後で、ラピスは厳かに口を開いた。

 

「さて、無事に迷宮攻略もなり生成魔法も獲得できた。そこで、お前たちには『今後』について考えてもらわなければならない。

 色々あって忘れているかもしれんが、ハジメ、香織、そしてエリ、そもそも俺が今現在お前たちに同行していることの切欠は、お前たちの救出依頼を受けたからだ。ここの出口がどこに続いているかまではまだ分からんが、ホルアドへ向かうのは確定となる。

 ついでに言えば、支部長と父さんによる連名の依頼だから、両方にお前たちの無事を確認してもらわないことには達成にならないときた。支部長はともかくとして、父さんの状況次第ではお前たちにもホルアドに滞在してもらうことになる。……考えてもらうのは『その後』についてだ」

「あ~、そういやそうだったな。既に死亡認定をされている可能性も否めないが、メルドさんが俺たちの訓練教官という立場である以上、少なくとも一旦は他のヤツらとも合流する必要があるんだろうな。正直、アマリとか八重樫とか谷口とか、一部を除けばどうでもいいっちゃどうでもいいんだが……」

「問題はその後だよね。なんたって私たちは『神の使徒』とかいう面倒な立場だ。私たちの生存を知った教会や王国から引き続き協力を要請される可能性は否めない。――とは言え、ぶっちゃけ私たちにはそれを受ける理由がない。この隠れ家がある以上、生活基盤はどうとでもなる。地球への帰還だって、教皇の言葉を信じるよりは、自分たちで神代魔法を集めてった方がよっぽど可能性が高い」

「ただ、教会の権力の高さとかを鑑みると、それを真っ正直に言っちゃえば『反教者』だの何だのと言ってきそうなんだよね……。上手い言い訳をつけて七大迷宮を巡るにしても、何だかんだで光輝君辺りが突っかかってきそうだし……」

「あなた達から聞いた感じだと、今の世の中吸血鬼族は生き辛そうに思う。だからと言って別れる気はないけど、好き好んで教会とかには近寄りたくない」

 

 ラピスの言を受けて、それぞれが順次意見を述べていく。総じて『教会――と神の使徒(天之河とか)――めんどくせえ』である。

 

「止めだ止め! 今ここで考えたってどうにもならん! ……俺たちはともかく、ホルアドに着いた後、ラピスさんはどうすんだ?」

 

 頭を掻きむしりながら吼えた後、ハジメはラピスへと問いかけた。

 

「家族に顔を見せて、その後は七大迷宮の攻略だな。経験が経験なんで今更エヒトを奉ずる気なんざ更々ないし、そんなわけだから街中で生活するのも気が引ける。付け加えればオルクスの幻影が言っていたこともある。……最悪の場合、神殺しをなさねばならんのだろうが、そのためにはもっと力を付ける必要があるからな」

「なら、俺もそれに同行する。どうせ大半から役立たず扱いを受けていた身だからな。人脈とかも考えれば香織や恵里は厳しいかもしれんが、俺ならどうとでもなるだろ」

「ん、もちろん私も同行する」

「な……ッ!? ダメだよ、それは! みすみすユエとハジメ君をくっつけるわけにはいかないし、私も同行するからね!」

「……だ、そうだよ法師。かく言う私も同行するつもりなんだけど。幸いにして言い訳なら魔人族が付けてくれるからね。

 いいかい? 私たちはここ、七大迷宮の一つを攻略して『鉱物に魔法を付与する』=『鉱物を格上げする』神代魔法を獲得した。だったら、『生物を格上げする』神代魔法があってもおかしくはない。そして七大迷宮の一つと目されている氷雪洞窟は魔人族の領土にあり、魔人族の攻勢が強まったのは『今までにない魔物を引き連れるようになったから』だ」

「確証はなくても信憑性は与えられるな。ついでに言やあ、『魔人族が他の七大迷宮を狙っている可能性がある』っつって危機感を煽ることも出来るか。『神代魔法には神代魔法』の図式を立てとけば、俺たちが七大迷宮を巡るのも予防策になる。オマケで幾つか適当なアーティファクトを作って渡しときゃあ、最低限の義理立てにはなるし、強硬に邪魔されることもなくなんだろ」

「決まりだね。教会や王国に献上するアーティファクトは私と恵里ちゃん、ユエで用意するよ。ハジメ君が用意すると、強力すぎるから逆の意味で邪魔されそうだし。

 その代わり、ハジメ君には私たちの移動手段を用意してほしいかな。ラピスさんにはインサリアスがあるけど、私たちにはこれといった物がないからね」

 

 意見は比較的早く纏まっていった。希望的推測に基づく部分が大半だが、前向きな行動を起こす時は大概そんなものである。

 ラピスとしても同行すると言うなら否はなかった。ラピスが街中で生き難いのは『エヒトへの信仰を捨てた』からだ。元よりそんなものを持っていない者とであれば、一緒に行動するのも悪くはない。

 

「叶うなら、アマリの協力も得られれば万々歳だがな。なにせアイツには神殺し――正確には『高次元生命体』だが――の実績がある。まあ、メインはイオリでアマリは補助だったらしいが、最後までエンデの精神支配から抜け出せなかった俺に比べれば、その破壊の意思は遥かに定まっている。

 ドグマで最後に物を言うのは何よりも破壊の意思だ。俺の魔力も高まってはきたが、贔屓目に見てもこれで漸くアマリと渡り合えるかどうかと言ったところだろう。イオリには遠く及ばん」

 

 依頼達成後の展望を語るハジメたちの声を聞いて、ラピスが零した。

 

「は……? いや、ラピスさん、今のはマジか?」

 

 それを耳にしたハジメが思わず訊き返す。よく見れば、ハジメだけではなく香織とユエも目を点にしていた。

 それも無理はなかった。行動を共にする中で、ラピスの過去については触り程度にだが聞いている。むしろ、彼の魔法やインサリアスなどというロボット兵器を目にすれば訊かないわけにはいかなかった。

 なので、地球ともトータスとも異なる世界であるアル・ワース関連のことも耳にしてはいた。年上の同級生であるイオリとアマリが召喚されていたことも話題には上がった。

 だが、あくまでもそれらは概要に等しい。流石にアマリのステータスが頭抜けて高いのは知っていたが、その偉業までは聞いていなかったのだ。異世界での出来事とはいえ『神殺しを成し遂げた』と聞けば、驚くなという方が無理である。

 加え、ここまで一緒に潜って来たのだからラピスの強さについても良く知っている。その彼が賞賛するほどの実力を同級生が有していると聞けば、容易に信じられないのも無理はなかった。

 

「ああ、そういやそこら辺のことは詳しく話してなかったっけか。過去については私も聞いた話でしかないけど、それでも魔従教団に行けば疑いようはないよ。なんせ法師の筈のイオリ君が導師をすっ飛ばして教主候補に指定されているんだからね。現在の導師であるセルリックも、同じく法師であるアマリやラピスにもそういった話がないのにさ」

 

 ハジメの問いかけに答えたのは恵里だった。曲がりなりにも魔従教団から術士の任命を受けた彼女だ。ラピスが帰還した後のアル・ワースを知るその言葉には、如何ともしがたい説得力がある。

 

「ほう、今はそんなことになっているのか。イオリのヤツも大変だな」

 

 イオリが教主候補に指定されているのはラピスも知らなかったようだが、驚きつつも納得していた。

  

「どうやら本当みたいだね……。う~ん、おかしいなぁ。異世界転移に魔法に迷宮攻略にロボットにって、これだけ現実味のないこと色々やったんだから早々驚くことはないと思ってたんだけどなぁ。はは、ほんと、世の中って不思議だね……」

 

 アル・ワースを知る二人の様子を見れば、流石に信じざるを得ない。

 それでも現実味がないのは変わりなく、香織は乾いた笑いを上げるしか出来なかった。

 そしてそれは、残る二人も同じだった。

 

(アル・ワース、パねえ!?)

 

 アル・ワースの魔境ぶりが、三人の脳裏に刻まれた瞬間だった。

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